2015/5/19 ソフトマター工学・第5回 2015年5月19日(火) レオロジー入門(2) 九州大学大学院工学研究院機械工学部門 准教授 山口 哲生 1 本日のおはなし 1.前回の復習:線形粘弾性 2.レオロジー入門(2) • 線形粘弾性の等価モデル • 温度-時間換算則 • 非線形粘弾性体の連続体力学 3.まとめ 4.レポート課題 お知らせ 来週(5月26日)は,学会参加のため休講とします! 2 1 2015/5/19 線形粘弾性(linear viscoelasticity) いま,t = 0 で試料にステップ歪み γ(t) = γ0 Θ(t) を加えたときのずり応力の 応答を次のように表す. γ(t) (t ) 0G (t ) γ0 ここで,G(t)は緩和弾性率と呼ばれる.G(t)の 典型的振る舞いは以下のように表される. G (t ) Ge G exp(t / ) Ge :平衡ずり弾性率.これが0で ない物質を粘弾性固体と呼ぶ. G :ずり弾性率 0 t G(t) G+Ge 粘弾性固体 Ge :緩和時間 粘弾性液体 0 τ t 複素弾性率(complex elastic modulus) 試料に振動的な歪みを加え,応力の応答を見ることで,複素弾性率を 得ることができる. (t ) 0 exp(it ) 歪み入力に対する応力の応答は,次のように表される. (t ) G ' ( ) iG" ( ) 0 exp(it ) G ' ( ) dt sin(t )G (t ) :貯蔵弾性率(storage modulus) 0 G" ( ) dt cos(t )G (t ) :損失弾性率(loss modulus) 0 G * ( ) G ' ( ) iG" ( ) tan G" ( ) G ' ( ) :複素弾性率(complex modulus) :損失正接(tangent delta) 2 2015/5/19 複素弾性率 G(t ) Ge G exp( t / ) ( ) 2 G ' ( ) Ge G , G" ( ) G . 2 1 ( ) 1 ( ) 2 (i) 粘弾性液体 (ii) 粘弾性固体 G”(ω) 1 tan δ(ω) log (1/τ) G’(ω) Ge G”(ω) log (1/τ) log ω Log tan δ log (1/τ) Log tan δ log G’ , log G” log G’ , log G” G’(ω) log ω log ω tan δ(ω) 1 log (1/τ) log ω 2.等価モデル 先週取り扱った粘弾性体は,バネとダッシュポットで表現するとしたら どのようになるのだろうか? ⇒ 線形粘弾性の等価モデル 例1:バネのみ(フック弾性体) G ' ( ) G, G" ( ) 0 例2:ダッシュポットのみ(ニュートン粘性体) G ' ( ) 0, G" ( ) 3 2015/5/19 7 等価モデル 先週取り扱った粘弾性体は,バネとダッシュポットで表現するとしたら どのようになるのだろうか? ⇒ 線形粘弾性の等価モデル 例3:バネとダッシュポットの直列接続(Maxwellモデル) G ' ( ) G ( ) 2 , 1 ( ) 2 G" ( ) G . 1 ( ) 2 ( / G ) 前回示した粘弾性流体はMaxwell Fluidに該当. 例4:バネとダッシュポットの並列接続(Voigtモデル) G ' ( ) Ge , G" ( ) . 4 2015/5/19 9 等価モデル それでは,粘弾性体固体のモデルはバネとダッシュポットでどのように表現 されるのか? G ' ( ) Ge G ( ) 2 , 1 ( ) 2 G" ( ) G . 1 ( ) 2 ( / G ) ※一般には,粘弾性流体,粘弾性固体のいずれの場合でも,複数の緩和時間 を持つ.その場合,粘弾性挙動は以下のように表現される. G ' ( ) Ge Gi i ( i ) 2 , 1 ( i ) 2 G ' ( ) Ge d ln H ( ) G" ( ) Gi i ( ) , 1 ( ) 2 2 i . 1 ( i ) 2 G" ( ) d ln H ( ) . 1 ( ) 2 H(τ):緩和スペクトル 5 2015/5/19 11 ゴム弾性とガラス転移 ゴムの粘弾性の起源 低周波数領域:ゴム領域 GPa エントロピー弾性によってやわらかく 振舞う. MPa 高周波数領域:ガラス領域 主鎖の運動は凍結され,局所的な伸縮や ねじれ運動のみ起こる. G’(ω) G”(ω) 1/τ ω 中間の周波数領域にみられる貯蔵弾性率G’や損失弾性率G”の急激な変化 のことをガラス転移という. 6 2015/5/19 温度-周波数換算則 温度-周波数換算則(時間-温度換算則) ある温度で粘弾性の周波数依存性を測定 異なる温度での曲線が重なるように 横方向にシフト G’(ω) G’(ω) 流動 領域 幅広い周波数領域での 粘弾性を推定することが できる! ガラス- ゴム転移 領域 シフトファクター aT 温度Tで測定した周波数依存性を 別の温度(基準温度Tr)での周波数に換算するため の係数 log aT T ガラス 1 領域 T 2 ゴム 領域 ω aT T3 T5 T6 T7 T4 ω c1, c2: 高分子によって決まる係数 (不明の場合には,c1 = 8.86, c2 = 101.6Kが用いられる) c1 (T Tr ) c2 T Tr 温度-周波数換算則の適用例 前回示した線形粘弾性のデータでは,温度-周波数換算則を適 用して広範囲の周波数領域での推定を行なっていた. x30 x10 G’ Standard (x1) G” 14 7 2015/5/19 非線形粘弾性 線形粘弾性が成り立つのは応力が十分に小さい場合のみ.高分子溶液やコロ イド分散系などのソフトマターでは,弱い力であっても平衡状態から大きく はずれ,強い非線形性を示す. ω シアシニング(shear thinning) ずり速度が増加したときに,粘度が小さくなる現象. シアシックニング(shear thickening) ずり速度が増加したときに,粘度が大きくなる現象. ビンガム塑性(Bingham plasticity) ある応力を超えるまでは流動が起こらず, それを超えると流動が始まる現象. 試料 Shear thickening σ Newton粘性 Shear thinning Bingham塑性 3.非線形粘弾性体の連続体力学 運動方程式は,以下のように書くことができる. Dv Dt ρ:密度 Dv v v v 物質微分 Dt t v:速度ベクトル σ:応力テンソル Cf. ニュートン流体の場合は ij p ij kk ij 2 ij 1 v v ij i j 歪み速度テンソル 2 x j x i ソフトマターでは,多くの場合遅い流れを考えるので,慣性項を無視する. 0 また,Poisson比がほぼ0.5であるため,非圧縮条件を課す. v 0 8 2015/5/19 非線形粘弾性体の連続体力学 構成方程式(応力と変形を関係付ける式) 非線形Maxwellモデルの場合(積分形) t ij (t ) p ij G dt ' exp( Cf. 線形Maxwellモデルの場合は t t t' G dt ' exp( ) (t ' ) t t ' B (t , t ' ) ) t ' 3 B (t , t ' ) E (t , t ' ) E (t , t ' ) :Finger テンソル 1 Eij (t , t ' ) ri (t ) :変形勾配テンソル rji (t ' ) 結局,非線形粘弾性体(Maxwell model)の運動を解くには,以下の方程式を 連立させることになる. 0 v 0 t t t ' B (t , t ' ) ij (t ) p ij G dt ' exp( ) t ' 単純な変形を除いては解析的に解けないので,数値解法を用いることになる. 3.本日のまとめと次回の予告 本日のまとめ 本日は, -線形粘弾性の等価モデル -温度-周波数換算則 -非線形粘弾性体の連続体力学 について学んだ. 次回の予告 次回は以下のような内容のお話をする予定. -界面の熱力学 18 9 2015/5/19 4.レポート課題(5月19日出題分) レポート課題 A4数枚に以下の設問に対する答えをまとめてください. (冒頭に,必ず 学籍番号 氏名 を書くこと!) η2 = 100MPa s 1.右図のようなモデルの (i)線形粘弾性(貯蔵弾性率,損失弾性率) (ii)ステップ歪みを加えた後の応力緩和挙動 G1 = 1MPa G2 = 0.1MPa について調べて下さい(グラフを示して下さい). η1 = 1MPa s 2.Weissenberg(ワイゼンベルグ)効果 (特に,メカニズム)について調べて下さい. 来週(5月26日)は 休講とします! 提出方法,提出先 次回(6月2日)のこの時間にレポートを回収します. 19 10
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