AREDS(Age-Related Eye Diseases Study)

11 号(11 月)2014〕
トピックス
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トピックス
AREDS
(Age-Related Eye Diseases Study)
調査試験
Age-Related Eye Diseases Study
投与してその効果を調べた.すなわち,眼底の立体カ
はじめに
ラー写真で示されるドルーゼンの存在とそのサイズ,
AREDS 調 査 試 験 は,ヒトの 加 齢 黄 斑 変 性(AMD:
面積,および色素異常(4)の存在に基づき,それぞれ
Age-Related Macular Degeneration)リスクに対する栄養補
の AMD 患者を 4 つの進行レベルに分類した(表 1).
給剤の効果を調べた最初の政府援助によるものである.
実際の調査は,1992 ∼ 1998 年の 5 年以上にわたり,
この試験は,米国国立衛生研究所のひとつである米国国
AMD の進行とともに視覚機能,視力などとほかの要
立眼病研究所(NEI)が中核施設となって実施した大規模
因についての観察が注意深く行われた 3).
多施設調査である.AREDSⅠ(多くは AREDS と記載さ
その目的は,AMD と白内障の臨床経過,発症とリ
れている)と AREDSⅡと 2 回の大規模調査がある.
スク因子の評価,AMD と視力損失の進行における高
加齢黄斑変性
(AMD:Age-Related Macular Degeneration)
用量の抗酸化剤と亜鉛の有用性を評価,白内障と視力
損失の発症と進行における高用量の抗酸化剤の有用性
加齢黄斑変性(AMD)は進行性の中心視野消失が原
試験デザインについては,前記したように大規模多
因でおこる変性疾患で,50 歳およびそれ以上の年齢で
施設調査試験で,無作為対照比較前向き試験で,被験
1)
を評価である.
おこる失明の主要原因である .2000 年の米国国勢調
者 は 55 ∼ 80 歳( 平 均 年 齢 69 歳 )の 男 女 4,757 名 で,
査によれば,AMD はアメリカ白人での失明の主要原
AMD 進行段階の 4 段階すべての被験者を対象にした 5
因である(54%の症例).米国では国民の老化に伴い
年以上の試験である.なお,67%の被験者は,総合ビ
2020 年までに 70% の増加が予測されている 2).これ
タミン剤(ルテイン非含有)を摂取.
までその病気についての効果的な治療はなく,いくつ
AMD 進行段階分類表,試験デザインおよび 1 日の
かの環境的および行動危険要因が特定化され,それら
サプリメントから摂取した栄養成分量は,それぞれ
が改善されれば病気の進行を抑えることができる.そ
表 1,図 1 および表 2 に示す.
の危険因子は喫煙,肥満,過度の日光への露出,肥満
および栄養状態である.
結 果
ほとんどの試験評価項目で対照群に比べて抗酸化剤
AREDS Ⅰ調査試験
+亜鉛投与群が最も有効であった.一方,表 1 に示した,
AREDS1 調 査 試 験 で は, さ ま ざ ま な ス テ ー ジ の
カテゴリ 3 または 4 の患者では抗酸化剤+亜鉛の併用
AMD の被験者にたいして高用量の栄養素を日常的に
投与が顕著な効果(p ” ..01)を示し,ほかの投与群では
表 1 被験者 AMD ステージ別分類表
表 2 AREDS 推奨サプリメント処方
㻌
ビタミンC
500 mg
ビタミンE
400 IU
β-カロテン
15 mg
亜鉛(酸化亜鉛として)
80 mg
銅(酸化第二銅として)
2 mg
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〔ビタミン 88 巻
図 1 試験デザイン
1
2
3
4
1
2
3
4
図 2 進行性加齢性黄斑変性症(AMD)の進行見込みの反復測定予測
処理グループのカテゴリ 3 と 4 の患者の少なくとも 1 回の眼試験からのデータ.その眼試験は悪質な
病変ではないあるいは進行性 AMD の兆候をもつ眼で,73 文字(20/32 あるいはそれ以上)以上の視力
スコアを示す眼で行われた.光凝固のみを反映する 2002 年以前のイベント.AREDS 2001.
視力低下の減少が認められるものの,AMD の進行に
た(見込み率から推定).カテゴリ 3 と 4 の患者では,
対してかなりの逆効果がみられた.5 年目で抗酸化剤
繰返し計測したデータから時間とともに進行性 AMD
+亜鉛を摂取した被験者ではプラセボ投与の患者にく
に進行することが示された(図 2)3).抗酸化剤+亜鉛
らべて進行性 AMD への進行がおおよそ 28.6% 減少し
の併用で強力な投与効果がみられた.この効果は,進
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行性の症状をもつカテゴリ 3 と 4 の患者で視力の低下
トクリット値や脂質代謝を反映する HDL,LDL コレ
(VAL)を減少させた(5 年目で視力低下を 27%減少).
ステロールおよびトリグリセリド値に影響を及ぼさな
カテゴリ 2,3 および 4 の患者が併用投与されたとき,
いことが確かめられた.亜鉛は生体内の多くの代謝経
その低下は 5 年目で 21%減少した.進行性 AMD の構
路に関連し,多くの酵素の構成成分である.こうした
成要素分析では,抗酸化剤+亜鉛を投与された患者で
亜鉛の経口摂取による血清亜鉛値の変化とそれに対す
はプラセボ投与の患者にくらべて進行性新血管形成の
る生体反応に関する研究が進めば,亜鉛の積極的な摂
リスクが有意に減少した(28%減少).より進行した
取がもたらす生体への生理学的影響が明らかになると
AMD 患者であるカテゴリ 3 と 4 の患者では,地図状
思われる.
萎縮が減少する傾向がみられた.
一方で,調査期間中,カテゴリ 1 と 2 の患者では病
考 察
気の進行および治療効果はほとんどみられなかった.
AREDS1 調査試験の結果は,サプリメントの補給は
このように,これらのカテゴリでの投与効果は正確に
カテゴリ 3 と 4 の患者に対して AMD の進行を遅らせ
評価されていない.血中栄養素の測定でそれぞれの栄
ることを明確に示し,その補給が早ければカテゴリ 2
養素は明確な血中反応を示すことから,試験の信頼性
の患者における AMD に関連した失明を減らすことが
は高いと考えられた.安全性についての統計的な有意
できる 3).施された処置の中で抗酸化剤+亜鉛の併用
差はなく,どの治験においても重大な副作用は報告さ
投与は最も優れた効果を示した.この効果はカテゴリ
れなかった.
3 と 4 の患者で最も明白で,AMD 関与の VAL および
血管新生を含む患者のすべての評価項目で実証され
高用量亜鉛長期摂取の安全性に対する検討
た.これらの知見は,抗酸化剤と亜鉛の同時投与が
硫酸亜鉛として 1 日 80 mg の亜鉛を AMD 患者に与
AMD 患 者 の 視 覚 機 能 に 対 し 有 益 な 効 果 を 示 し た
えると,視野狭窄のリスクを減少させるという結果が
Richer の 1996 年の報告 5)と一致した.
予備試験によって明らかになっている.しかしながら,
抗酸化剤+亜鉛投与群は進行性 AMD の進行に対し
亜鉛を長期間摂取した場合の血清亜鉛と脂質値への影
て顕著なリスク軽減を示す(25%)とともに,抗酸化剤
響や貧血のリスクについてほとんど報告されていな
のみの投与でも顕著なリスク軽減が期待できた
い.米国では中高年層の半数以上が眼病予防のため高
(17%).したがって,亜鉛摂取により悪影響を及ぼす
用量の亜鉛を栄養補助食品として摂取しており,長期
貧血症,HDL コレステロールの減少,胃のむかつきを
摂取による亜鉛の毒性が検討されていないことは重大
示す患者,あるいは亜鉛に対して禁忌反応を示す患者
な問題である.そこで,今回薬理量の酸化亜鉛の長期
に対して抗酸化剤のみの摂取は好ましい選択肢とな
間摂取による血清亜鉛と脂質の濃度やヘマトクリット
る.カテゴリ 3 および 4 でのプラセボ被験者は,5 年
値への影響について検討した.1992 年から 1998 年に
間でそれぞれ 27%および 43%の高い確率で AMD へ進
ARDES1 試験に登録された 55 歳から 80 歳までの早発
行した.
性から遅発性の AMD 患者 3640 人について,酸化亜鉛
本研究後にルテインの AMD および一般的な眼の健
として 80 mg の亜鉛および酸化銅として 2 mg の銅を
康への有効性が実証され 6),それらのデータの蓄積に
摂取した群と非摂取群に無作為に分け,遅発性 AMD
より AREDS II 調査研究ではルテインを加えることに
の経過を検討した.この報告は,3 つの臨床施設にて
至った.
717 人の対象者に酸化亜鉛および酸化銅を 5 年間摂取
AREDS Ⅱ調査試験の結果については,次号で紹介
させ,血清中の亜鉛,銅,脂質などの濃度およびヘマ
をさせていただく.
トクリット値への影響を検討したものである.5 年間
の追跡において,亜鉛摂取群の血清亜鉛値は 17%と中
Key Words:AREDS (Age-Related Eye Diseases Study),
程度の上昇(p<0.001)することが認められた.血清亜
AMD (Age-Related Macular Degeneration),
鉛値に関しては,摂取 1 年後で特異的な効果が発現し,
Randomized Clinical Trial, Antioxidant Vita-
この効果は 5 年後まで持続した.しかし,血清ヘマト
mins, Zinc
クリットおよび血清銅と脂質値については,亜鉛と銅
摂取群と非摂取群間では,5 年後においても有意差は
みられなかった.これらの結果から,5 年間の亜鉛 80
mg と銅 2 mg の摂取によっても造血能を反映するヘマ
1
The General Incorporated Association of International
Foods & Nutrition (AIFN) Chief Executive Officer
2
Kemin Japan KK. Representative Director
トピックス
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Kazuo Sueki1, Masafumi Hashimoto2
〔ビタミン 88 巻
3)Age-Related Eye Disease Study Research Group (2001) A ran-
一般社団法人国際栄養食品協会(AIFN;アイファン)
domized, placebo-controlled, clinical trial of high-dose supple-
専務理事
mentation with vitamins C and E, beta-carotene, and zinc for
1
2
ケミンジャパン株式会社 代表取締役
末木 一夫 1,橋本 正史 2
agerelated macular degeneration and vision loss: AREDS report
no. 8. Arch Ophthalmol 119, 1417-1436
4)Age-Related Eye Disease Study Research Group (2001) The AgeRelated Eye Disease Study system for classifying age-related
macular degeneration from stereoscopic color fundus photo-
文 献
1)AMD Alliance International (2005) http://www.amdalliance.org
2)Congdon N, O'Colmain B, Klaver CC, Klein R, Muñoz B, Friedman DS, Kempen J, Taylor HR, Mitchell P, Eye Diseases Prevalence Research Group (2004) Causes and Prevalence of Visual
Impairment Among Adults in the United States. Arch Ophthalmol
122, 477-485
graphs: the Age-Related Eye Disease Study Report Number 6. Am
J Ophthalmol 132, 668-681
5)Richer S (1996) Multicenter ophthalmic and nutritional age-related macular degeneration study--part 2: antioxidant intervention
and conclusions. J Am Optom Assoc 67, 30-49, 1996
6)Shao A (2001) The role of lutein in human health. J Am Nutracec
Assoc 4, 8-24