第9章中枢神経系・ 骨軟部腫瘍の 放射線治療

乃木坂RT2013
第9章中枢神経系・
骨軟部腫瘍の
放射線治療
国際医療福祉大学病院
放射線治療・核医学センター
北原 規
1.脳腫瘍
‡ 脳腫瘍一般
‡ 放射線治療の方法と合併症
‡ 各論
脳腫瘍の病理と頻度
Glioma
astrocytoma (WHO I)
anaplastic (WHO II/III)
Glioblastoma (WHO IV)
others
Meningioma (partly malignant)
Pituitary adenoma
Neurinoma
Craniopharyngioma etc
Others
28%
0.28
0.18
0.32
0.22
26%
17%
11%
5%
13%
*米国の頻度とは大幅に異なっている
(日本脳外科学会)
脳腫瘍の病理(1)
A: WHO II
fibrillary
astrocytoma
B: WHO III
anaplastic
astrocytoma
C: WHO IV
glioblastoma
脳腫瘍の病理(2)
A: medulloblastoma
A
B
B: oligodendroglioma
C: ependymoma
C
D: benign
meningioma
D
脳腫瘍の生存率(米国S E ER)
2-Y-S (%)
Glioblastoma
6
Astrocytoma
46
Oligodendroglioma 81
Medulloblastoma
66
Ependymoma
83
1973-1991のデータ J Neurosurg
5-Y-S (%)
1
34
65
60
60
88:1-10, 1991
1.脳腫瘍
脳腫瘍放射線治療の特徴その1
1)発生原基が多岐にわたり,組織学的異型度も多様
放射線高感受性---髄芽腫,胚細胞腫 抵抗性---膠芽腫
2)周囲の正常組織は放射線耐容性が低い(脳壊死)
3)組織学的に良性でも治療の対象となりうる
臨床的悪性---脳圧亢進,神経症状
4)手術が第一選択だが,全摘は困難な場合が多い
浸潤性発育の腫瘍---周囲脳組織との境界不明瞭
腫瘍の辺縁領域では正常神経細胞と腫瘍細胞が混在
安全域を取っての拡大手術は困難
ĺ術後の放射線化学療法が重要
1.脳腫瘍
脳腫瘍放射線治療の特徴その2
5)中枢神経系外への転移は稀
ĺ局所療法が治癒に結び付く
6)悪性グリオーマ等は脳実質内で周囲に浸潤する傾向
ĺ組織型により照射野に工夫が必要
7)発症年齢により,好発部位,組織型に特徴がある
ĺ 年齢を考慮した治療法の選択が必要
8)定位放射線照射など高精度で三次元的な治療が可能
1.脳腫瘍
放射線治療の方法
照射線量:一回1.8-2Gy or 1.2-1.5Gy 2回/日
局所照射:周辺へ浸潤傾向が低い腫瘍
腫瘍部+0.5 1cmの安全域
拡大局所照射:浸潤傾向が強い腫瘍
腫瘍部+2 4cmの安全域
全脳照射---主として多発脳転移,白血病,脳リンパ腫
全脳全脊髄照射(全中枢神経系照射)---髄膜播種
定位放射線照射:非侵襲的に大線量の放射線を集中し,
組織を破壊---AVM,聴神経腫瘍,髄膜腫,下垂体腫瘍,
脳転移,機能性疾患
その他:術中照射,組織内照射,強度変調放射線治療
1.脳腫瘍
髄膜播腫を来すもの
PNET (primitive neuroectodermal tumor)
髄芽腫
胚芽腫
上衣腫
悪性リンパ腫,など
正常組織耐容線量
体積1/3
脳
TD5/5
60Gy
TD50/5
75Gy
耳
TD5/5
TD50/5
水晶体 TD5/5
TD50/5
視神経 TD5/5
TD50/5
2/3
50Gy
65Gy
30-55
40-65
3/3
40Gy
60Gy
10
18
50
65
TD5/5(5年で5%の頻度で障害発現する量
1.脳腫瘍
放射線治療の合併症
放射脳壊死:
1)一回線量が多いほど,耐容線量は低下
2)治療後,半年 2年で起こることが多い
3)ステロイド有効,切除可能であれば切除
内分泌障害:
視床下部-下垂体系に照射された時に可能性
小児では成長ホルモンが最も障害されやすい
(24Gyあたりに閾値?)
知能障害:
高齢者ほど起こりやすい---痴呆,記銘力障害
画像上では脳萎縮,線量と照射野の関係あり
1.脳腫瘍
各論
神経膠腫 と悪性星状細胞腫
星状細胞腫,脳室上衣腫,
脳幹部腫瘍,髄芽腫,胚芽腫,
悪性リンパ腫,頭蓋咽頭腫,
髄膜腫,下垂体腫瘍,転移性脳腫瘍
1.脳腫瘍
膠芽腫 (glioblastoma)
悪性星状細胞腫(anaplastic astrocytoma)
‡ 悪性神経膠腫 Malignant glioma---予後不良
glioblastoma---壊死巣あり:脳の癌!: grade IV
anaplastic astrocytoma---〃なし
: grade III
部位:大脳半球に多い,小児では脳幹部
放射線感受性:良いとは言えないが,
放射線治療で生存期間は延長する
‡ ポイント:外科的可及的切除 ĺ 照射
1.脳腫瘍
悪性神経膠腫:その他
‡ 化学療法:nitrosourea系---ACNU, MCNU
1 2か月の延命効果のみ
Interferon
‡ 予後:Glioblastoma---5-Y-S: 0-2%
手術単独4-5M, 放射線併用10-13M
Anaplastic astrocytoma---5-Y-S: 20%
‡ 予後因子(Glioblastoma)
年齢(低い),PS(高い),部位(前頭葉)
悪性膠腫の生存率
Recursive Partitioning Analysis
RPA
定義
生存中央値 2-Y-S
I AA, 50y<,知能正常
58.6(月) 76%
II AA, 50y>,PS>70,sym>3M 37.4
68
III GBM, <50y, PS90-100
17.9
35
IV GBM, >50y, PS<90, 他
11.1
15
V GBM, >50y, PS>70, 他
8.9
6
VI GBM,>50y,PS<70,知能Ļ
4
1.脳腫瘍
悪性神経膠腫:放射線治療
照射法:拡大局所照射
T2WIより安全域 3 4cm
1.8-2Gy/日,計60Gy
Glioblastomaは 65Gy
(60-90Gyで線量効果関係なし)
60Gy以上は脳浮腫,壊死の可能性増大
Non-coplanar RT
矢上断方向からの照射
ĺ対側には影響なし
GBM 最近のトピックス
手術,放射線+ temozolomideで
生存期間が有意に延長
New England J Medicine 35: 987, 2005
手術+放射線 2年生存率 10.4%
手術,放射線+ temozolomide 26.5%
New England J Med 35: 987, 2005
GBM
診断と
治療の
algorithm
悪性膠腫
予後に関連
する分子
マーカー
1.脳腫瘍
悪性神経膠腫ポイント
1.神経膠芽腫GBMと悪性星状細胞腫:予後不良
2.放射線感受性は良くないが,生存期間は延長
3.拡大局所照射:安全域3-4cm,60-65Gyまで
4.化学療法(TMZ)で数か月の延命効果
5.予後:Glioblastoma---手術単独4-5M
放射線併用10-13M
Anaplastic astrocytoma---5-Y-S: 20%
6.良い予後因子:若い年齢,良いPS,前頭葉
1.脳腫瘍
星状細胞腫
(Astrocytoma, low grade)
Pilocytic, Xanthomatous, Giant cell
astrocytoma---特に予後が良い
Gemistocytic---Grade IIIの意見あり
Ordinary astrocytoma:
20 30代青年の大脳半球に好発
放射線感受性はあり(反応は緩徐)
放射線治療:2cmの安全域,50-60Gy
予後:5-Y-S 50%, 10-Y-S 30%
Optic glioma---予後良好10-Y-S 80-90%
星状細胞腫の脳壊死例
‡ WHO II astrocytoma
‡ 64.8Gy
6か月後の白質変化
→放射線脳壊死
1.脳腫瘍
星状細胞腫のポイント
1.Pilocytic, Xanthomatous, Giant cell,
Gemistocyticなどは星状細胞腫
2.20 30代の大脳半球に好発
放射線治療:安全域2cm,50-60Gy
放射線感受性あり
予後:5-Y-S 50%, 10-Y-S 30%
1.脳腫瘍
脳室上衣腫 Ependymoma
Ependymoma, Anaplastic ependymoma
Ependymoblastoma---悪性.播腫リスク約10%
5-15歳男女,第4脳室や脳実質に多い
本邦ではテント上が多い(欧米では逆)
放射線治療:感受性は比較的高い
high gradeのものは術後照射,局所に50-60Gy
治療前より播種がある場合,全中枢神経照射
(全脳脊髄照射30Gy,脊髄播種部25Gy追加)
予後 5-Y-S : low gr: 60-80%, high gr: 10-40%
1.脳腫瘍
脳室上衣腫ポイント
1.5-15歳男女,第4脳室や脳実質に多い
2.播腫のリスク約10%
3.放射線治療の感受性は比較的高い
high gradeのもの:術後照射,局所に50-60Gy
治療前より播種があるもの:全中枢神経照射
4.予後5年生存率: low grade 60-80%
high grade 10-40%
1.脳腫瘍
脳幹部腫瘍
95%以上がglioma系統,小児に多い
生検なしでも brain stem glioma
部位:橋,延髄,中脳の順
放射線治療:安全域2cmが多い
成人60Gy,low gradeは50-55Gy
予後:5-Y-S 通常10-20%
high grade 不良,生存中央値6-8か月
1.脳腫瘍
脳幹部腫瘍ポイント
1.ほとんどglioma系統で小児に多い
2.橋,延髄,中脳の順
3.放射線治療: 成人 60Gy
low grade50-55Gy
治療進歩見られず
4.予後不良で5年生存率は 10-20%
high gradeは短く,6-8か月
1.脳腫瘍
髄芽腫 Medulloblastoma
小児の小脳虫部に好発,かっては不治の病
放射線治療の進歩で過半数が治癒する疾患
Pineoblastomaも含めて PNET と総称
放射線治療:感受性はかなり高い
手術して照射が原則
髄膜播種40%前後---全脳脊髄照射が必要
全中枢神経照射30-35Gy,後頭蓋窩20Gy
予後:5-Y-S 55-75%(局所照射30%前後)
線量を下げると,局所再発で成績が悪化
髄芽腫:IMRTによるブースト
‡ Hinson et al. : Wake Forest University
1.脳腫瘍
髄芽腫のポイント
1.小児の小脳虫部に好発
2.過半数が治癒する疾患で PNET
3.放射線治療の感受性が高い
4.髄膜播種40%前後なので,全脳脊髄照射
5.全中枢神経照射30-35Gy,
後頭蓋窩20Gy
6.5年生存率は55-75%
線量を下げると,局所再発で成績が悪化
1.脳腫瘍
胚芽腫 Germinoma
小児,男に多く20歳以下が70%,髄膜播種10%
部位:松果体近傍,鞍上部,基底核部など
Germ cell tumorの予後不良群(Choriocarcinoma, yolk sac
tumor, teratomaなど)と異なる
放射線治療:40-50Gy局所照射から全脳室系照射
pure germinoma---脳腫瘍で最も感受性高い
少量の放射線(10-15Gy)にも反応(治療的診断)
導入化学療法+局所照射24Gyで良好な成績
予後:85%以上の治癒率
1.脳腫瘍
脳原発悪性リンパ腫
臓器移植による免疫抑制剤の使用やAIDSに合併
手術または定位脳生検での診断が必要
画像:CTで均一に造影,周囲に低吸収域,
mass effect 少ない. 多発30-40%
放射線感受性:良い
髄膜播種:10%以下
放射線治療:全脳照射 40Gy+局所15-20Gy(従来)
初期効果は良いが,頭蓋内再発が多い
予後:5年生存率 10%前後と不良,高齢は不良
最新:全脳照射前の大量MTX療法で成績向上
5-Y-S 50% (J Clin Oncol 20:4643, 2002 & 18:3144, 2000)
1.脳腫瘍
脳原発悪性リンパ腫のポイント
1.免疫抑制剤の使用やAIDSに合併
2.CTで均一に造影,周囲に低吸収域
3.髄膜播種の頻度は10%以下
4.放射線感受性は良い:全脳40Gy+局所15-20Gy(従来)
5.頭蓋内再発が多く,5年生存10%前後と不良
6.全脳照射前の大量MTX療法で成績向上の報告
これによって、全脳照射のみでブースト不要へ
1.脳腫瘍
頭蓋咽頭腫 Craniopharyngioma
‡ 胎生期の頭蓋咽頭管の遺残から発生
5-15歳に好発,尿崩症を主訴が多い
‡ 部位:鞍上部に発育,周囲に浸潤,癒着
再発しやすい:全摘20-40%, 部分摘出70-100%
‡ 放射線治療:0.5-1cm安全域の限局照射
術後に 50-55Gy局所照射(多門が望ましい)
‡ 予後:10-Y-S 80-90% (放射線治療の効果あり)
治療前に固定した視野欠損や視力障害が問題
‡ Favorable: 石灰化なし,手術全摘,5歳以下,小児で水頭症
頭蓋咽頭腫の治療algorithm
Stereotactic conformal RT
chiasmと脳幹が近いのでSRSは慎重に
1.脳腫瘍
頭蓋咽頭腫のポイント
1.胎生期の頭蓋咽頭管の遺残
尿崩症合併多い
2.鞍上部,周囲に浸潤,癒着
3.局所再発しやすい
4.放射線治療は限局照射,術後に 50-55Gy
5.予後良好で10年生存 80-90%
6.治療前に固定した視野欠損や
視力障害が問題となる
1.脳腫瘍
髄膜腫 Meningioma
‡
‡
‡
‡
原発性脳腫瘍の約20%,外科的摘出が基本
部位:円蓋,蝶形骨洞,傍矢状洞部,大脳鎌
再発率:全摘率に比例する
放射線治療:1-2cmの安全域で50-60Gy
腫瘍縮小効果はあまり高くないが,
再発期間の延長あり
‡ 予後:10年無病生存率61% (Royal Marsden H)
組織学的に悪性のもの---5-Y-S 17%
1.脳腫瘍
髄膜腫のポイント
1.外科的摘出が基本
2.再発は全摘度合いに比例する
3.放射線治療は50-60Gy
4.腫瘍縮小効果は緩徐,再発期間の延長
5.10年無病生存率61% (Royal Marsden H)
組織学的に悪性のものあり
6.画像:よく染まる,dural tail sign
下垂体腫瘍
‡ 年齢
10歳以下 ĺACTH releasing adenoma
20∼40歳 ĺprolactin (PRL)
50∼90歳 ĺnonfunctioning adenoma
‡ 性
男
ĺnonfuctioning/GH
女
ĺPRL/ACTH
‡ Hormone
PRL 28%, GH 23%, ACTH 8%,
gonadotropin 6%, TSH 1%, nonfunctioning 33%
sellar and parasellar region
‡ Pituitary adenoma with extrasellar extensions
prolactinoma
下垂体腫瘍の治療
1)medical therapy: dopamine agonist
bromocriptine
2) surgery: 経蝶形骨洞
鼻腔や篩骨洞経由など
3)RT:術後に多い
3門や回転照射 50.4Gy/28回
SRSやSRTも可能
(視神経8Gy越えないように)
下垂体腺腫への3門照射
G Hacromegaly
下垂体腺腫への照射効果
Study
Grigsbyら(1989)
Hughesら(1993)
Bradaら (1993)
Tsangら (1994)
McCordら(1997)
N
121
70
160
108
199
128
98
治療
S+RT
RT
S+RT
RT
S+RT
S+RT
S+RT
FU(年)10年腫瘍制御
13
93%
13
81
13
77
60
10.5
98
8.3
91
2
95
診断と治療
algorithm
下垂体腫瘍のポイント
1)ホルモン分泌性腫瘍:手術が基本
ĺ手術で残存あるいは再発に対して
術後照射 3門/回転照射 45Gy/25回
再発
50.4Gy/28回
2)ホルモン非分泌性腫瘍
症状ない場合ĺ経過観察
症状(+)ĺ手術ĺ残存あれば照射45Gy
転移性脳腫瘍に対する
定位放射線照射(定位照射)
• 1回照射で行う場合
→定位手術的照射
Stereotactic Radiosurgery : SRS
• 分割照射で行う場合
→定位放射線治療
Stereotactic Radiotherapy : SRT
ガンマナイフの原理
放射線治療の種類 定位手術的治療 (Stereotactic Radio Surgery ; SRS) (各種頭蓋内病変) ガンマナイフ ͘͞‘ɀ線 1回で治療を完了
脳腫瘍 minimum requirement
1)初発症状と典型的画像(CT/MR) をチェック
2)治療:覚える必要なし
手術可能なら摘出
ĺ放射線治療(+化療)しかない
3)放射線治療が効く疾患だけ列挙できるよう
高感受性---髄芽腫,胚芽腫
2.骨腫瘍
1.骨腫瘍
1)原発性骨腫瘍
①骨形成腫瘍:骨肉腫
②軟骨形成腫瘍:軟骨肉腫
③骨巨細胞腫
④骨髄腫瘍:ユーイング肉腫、悪性リンパ
⑤脈管腫瘍:血管腫、血管肉腫、血管内皮
⑥その他結合織腫瘍:繊維肉腫、脂肪肉
⑦その他:脊索腫、好酸球肉芽腫 等
2)転移性骨腫瘍
腫、骨髄腫 等
腫、血管外皮腫 等
腫、MFH 等
頻度の高い腫瘍
1.骨肉腫:小児膝関節に好発。血行性転移が早期
から出現。放射線感受性は低いが術中照射や
術中体外骨照射の適応が認められる。
2.軟骨肉腫:30‐50歳の中年に好発。
3.巨細胞腫:頻度は高いが、悪性腫瘍は少ない。
4.ユーイング肉腫:10∼20才の若年に好発。
放射線感受性が高い。
5.血管腫:放射線感受性は高い。
6.脊索腫:斜台・仙骨部に好発。外科的腫瘍摘出が困難
な為RTの適応がある。
7.好酸球肉芽腫:放射線感受性が極めて高い。
原発悪性骨腫瘍の組織別頻度・好発年齢
骨肉腫
多発性骨髄腫
軟骨肉腫
ユーイング肉腫
悪性リンパ腫
MFH
繊維肉腫
脊索腫
血管肉腫
頻度(%)
44.1%
14.6
14.5
6.2
4.3
4.8
2.8
3.0
0.9
好発年齢
10∼19
50∼69
30∼59
0∼29
40∼69
30∼49
30∼59
ユーイング肉腫( Ewing sarcoma)
‡ 10∼20才の若年者に好発。全身どの部分にも生ずる。
‡ 組織学的には類円形の小形細胞でリンパ球や神経芽細胞腫細胞
に類似し、細胞質内にグリコーゲン顆粒そ持つ。
‡ 予後規定因子としては、性別・腫瘍発生部位・腫瘍径・転移の有無・
組織・LDH値等がある。骨盤・後腹膜腔に発生したものは予後不良
である。
照射効果は一般的に良好である。最近は手術・化学療法・放射線
療法の集学的治療が行われる。術後照射は局所制御を有意に向
上する。照射線量は、四肢の場合は約60Gy,脊髄・眼球を含む時
は45Gy,小腸を含む時は50Gy,腸管を多く含む時は55Gy程度で
ある。
2.緩和照射
骨転移
骨破壊と腫瘍の増殖
疼痛と可動制限65 75%
病的骨折の原因となる
照射で溶骨性病変の65 85%軽快,再化骨
局所照射,半身照射
予後は原発病変により異なる
前立腺29.3M,乳22.6M,腎11.8M,肺3.6M
がんの疫学と転移性骨腫瘍の頻度
がん患者のうち、転移性骨腫瘍の患者がどの位存在するかについての全国レベル
の正確な疫学データは無い。がん統計と剖検の骨転移率から類推は可能であるが、
実際に臨床の場を受診する骨転移患者数とは異なっている。
1.国立がんセンターのX線診断からの統計
(転移性骨腫瘍の原発巣の内訳)
①乳がん(50%)、②肺癌(19%)、③前立腺がん
(10%)、④腎癌(4%)
2.栃木県立がんセンターのX線画像診断上の骨転移症例数(原発巣ごとの骨転移率)
①腎癌:34/118(29%),②前立腺癌:32/125(26%),
③乳癌:172/844(20%),④肺癌:212/1,143(19%)
結果はデータベースにより異なるが、いずれにしても乳癌、肺癌、前立腺癌、腎癌等が
骨転移をきたしやすいことが判る。従ってこれらの疾患の患者のフォローアップの際に
は、「骨転移」の可能性を十分に念頭に置く必要がある。
転移性骨腫瘍の診断
1.臨床症状
2.生化学的所見:LDH,ALP,通常の腫瘍マーカー
(CEA,CA19‐9、SCC、PSA等)
の他、骨転移に特有のマーカー(1CTP,,P1CP等)
3.画像診断
1)単純X-P
2)骨シンチ
3)(骨条件の)CT
4)MR
4.病理学的診断(骨生検)
Showa Univ.
Showa Univ.
Showa Univ.
Showa Univ.
Showa Univ.
骨転移の痛みの原因
1. 転移した腫瘍の発育に伴う骨髄の腫脹や
骨膜の伸展による物理的刺激。
2.腫瘍浸潤により遊離した発痛物質による
骨・関節・周囲の軟部組織への化学的刺激
3.骨の増殖・破壊による周囲の神経・血管・
軟部組織等の圧迫による痛み。
4.不安・恐怖等の心因的疼痛
これらが単独又は複合して患者のQOLを損なう。
骨転移の治療
疾患の種類と進行度、骨折、不安定性、孤立性/汎発性、骨外転移の有無、
原発腫瘍の性状等を考慮して、患者の要求と受容可能性に合わせて治療方法を
組み合わせる。
1.手術療法
2.薬物療法
1)化学療法
2)ホルモン療法
3)ビスフォスフォネート
4)その他
3.神経ブロック
4.放射線療法
1)外照射
2)組織内照射
3)RI内服療法(I-131、Sr-89、等)
4)IVR(TAE,セメント充填療法等)
5.緩和療法
2.緩和照射
骨転移への照射法
1)通常の照射法:単発性で予後良好
単発,原発巣制御,放射線感受性中等
ĺ-50Gy (1/8-2.2Gy/回)
比較的低感受性 ĺGy以上 (2.4-3.6Gy/回)
2)短期照射法:多発骨転移,原発不制御で予後不良
再発までの期間が短いので,緩和治療の対象
中等度以上の放射線感受性ĺGy (3Gy x 10回)
比較的低感受性ĺGy /15回 20Gy/4回
2.緩和照射
単純XーP上の変化
‡ Osteolytic meta:乳癌坐骨転移50y.o. F
照射前
40Gy/20回
3年後
3か月後
1年後
辺縁硬化期 硬化充塞期 硬化消退期
(松林ら:画像診断12:1442-1451, 1992)
脊髄圧迫のMR像
2.緩和照射
骨転移治療に関する追加
*モルヒネと放射線治療のコスト比較
*Sr-89による内用療法
*骨転移に対する1回照射
*各照射法の差異
モルヒネと放射線治療のコスト比較
硫酸モルヒネ(MSコンチン):1錠(10mg)288.8円
ある患者が疼痛制御目的で仮にMSコンチン60mgを
毎日経口服用ĺ3か月288.3 6 30 3=155,952円
放射線治療:治療管理料27,000円+専門医加算3,300円
リニアック3Gy 10回93,000円 計123,300円
放射線治療で制御可能で,3か月以上生存
可能な患者には,放射線治療の方が
cost-effective *現在,麻薬鎮痛剤は多数あり
Sr-89 内用療法
適応:固形がん患者で骨シンチグラフィ陽性像を
呈する多発性転移の疼痛緩和
禁忌:*重篤な骨髄抑制のある患者
*妊婦または妊娠している可能性のある婦人
選択基準:組織学的に固形癌が確認,骨シンチで多
発性,骨シンチ集積部と一致する多発性の疼痛を有
する,鎮痛薬では疼痛コントロール不十分,外部照
射の適応が困難な患者,余命1か月以上を見込め
ること,十分な血液データであること
除外基準:余命が1か月以内,DIC,骨折や脊髄圧迫
など骨転移以外の要因での疼痛,重篤な腎障害の
ある患者
骨転移の新しい治療法
Bone seeking agent labeled with beta emitter
疼痛緩和を目的とする。
Possible agents in Japan
Strontium-­89
now on re-­evaluation
認可近い。
Sm-­153 EHDP now on Phase I, II study
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放射線で何故骨転移の
痛みが改善するのか?
z 基本的には照射により腫瘍のヴォリュームが
減少することにより、種々の圧迫・浸潤などの
z 症状が軽減することによる、とされているが
実は良く判っていない。
照射による骨・造血器及び骨髄障害
急性障害:(照射中もしくは照射直後におこる障害)
骨障害:骨芽細胞減少
造血器:骨髄抑制(白血球,特にリンパ球 → 血小板
→ 赤血球の順に減少する)
晩期障害:(照射後6ケ月以上たってからおこる障害)
骨障害:骨折,骨壊死,成長障害(小児の場合)等
造血器:白血病,悪性貧血
骨髄: 放射線脊髄症(対麻痺)
1.8ー2.0Gy/f(通常分割)で45Gyの照射により,
5年以内に 5%以内の症例でおこりうる.
血管腫
1.単純性血管腫
2.いちご状血管腫
3.老人性血管腫
4.糸球体様血管腫
5.海綿状血管腫
6.Kasabach-Merritt 症候群:特に放射線感
受性が高く、血小板が消費されてDICを
起こして生命予後を左右する状態になるこ
とから、放射線療法の良い適応となる。
好酸球性肉芽腫
Letterer-Siwe病、HAND-Schuller-Christian病等
と同系列に入る腫瘍である。放射線感受性が
高い為、照射効果は極めて良好である。
照射線量約10Gy程度で根治することが多い。
Langerhans細胞組織球症
以前はHistiocytosisXと呼ばれた症候群で、
全身臓器に悪性のLangerhans細胞の増殖を来たす
疾患である。病理組織学的にはCD1a,S-100が陽性。
1.Letterer-Siwe病:乳幼児の全身に急激に発症。
発熱、肝・脾腫、肺病変を呈し予後不良。
2.Hand-Schuller-Christian病:小児期に好発。
頭蓋骨膜 様欠損、眼球突出、尿崩症が3主徴。
3.好酸球肉芽腫:年長時∼成人に発症。予後良好。
骨軟部腫瘍への放射線治療の合併症
1.急性期:皮膚炎、術後創傷治癒遅延等。
皮膚線量が50Gyを超えるとびらん、潰瘍等を
来たす。
手術処置が必要となる皮膚障害は、術後照射の
5∼15%、術前照射の25∼35%とされる。
2.晩期:骨への照射が40Gyを超すと骨粗しょう症が
生ずる。皮膚・筋肉の壊死・拘縮の可能性もあり、
2次発癌・肉腫の危険性もある。特に小児では発
育障害に注意。
3.軟部組織腫瘍
‡ 軟部組織とは、骨・歯以外の軟らかい組織の中で、
網内系・グリア及び実質臓器を除いた非上皮性組織
である。良性∼悪性まで様々な腫瘍が生じ、悪性のも
のを 軟部肉腫と称する。
‡ 主な発生母地は 筋組織、繊維組織、脂肪組織、末梢
神経、 血管、リンパ管、滑膜等である。
(リンパ組織は含まない。)明確な組織診断名がつかな
い場合も多々あり、MFHと称される事が多い。
悪性軟部腫瘍の組織別頻度・
好発年齢・発生部位
組織型
MFH
脂肪肉腫
滑膜肉腫
横門筋肉腫
MPNST
平滑筋肉腫
繊維肉腫
頻度(%)
26.3
22.9
9.7
6.9
6.8
6.3
2.5
平均年齢
59
48.5
34
14
37
57・5
48、3・5
好発部位
臀部・大腿
同上
臀部・大腿・膝・下腿
臀部・大腿
臀部・大腿
後腹膜・腸間膜
病理組織学的分類
1. 肉腫
2. 繊維肉腫
3. 悪性繊維性組織球腫(MFH)
4. 脂肪肉腫
5. 平滑筋肉腫
6. 横門筋肉腫
7. 悪性間葉腫
8. 滑膜肉腫
9. 中皮腫
10.血管肉腫
11.骨格外骨肉腫
12.骨格外軟骨肉腫
軟部腫瘍と放射線治療との関係
軟部腫瘍の治療の第一選択は手術であり、
従来 放射線感受性は低いとされて来た。
しかし軟部腫瘍の放射線感受性は必ずしも
低くない。例えば脂肪肉腫や横門筋肉腫は
50Gy以上の術後照射で、又繊維肉腫や悪性
神経鞘腫でも術中照射によって術後の微視的
残存腫瘍の消失が期待出来る。
頻度の高い軟部腫瘍
1.脂肪肉腫:臀・腰部に好発
2.横門筋肉腫:小児は頭頸部∼上肢に多く
成人では臀・腰部∼下肢に多い。
小児の方が悪性度が高い。50∼60Gyを照射。
3.MHF(悪性繊維性組織球腫):多形成の
脂肪肉腫・横門筋肉腫や分類不能の肉腫の多くが
ここに組み入れられる。
4.繊維肉腫:照射効果は良くない。
5.悪性神経鞘腫:放射線感受性は低い。
(再発時再切除後の局所制御目的で60Gy以上照射。)
6.血管肉腫:血管由来。高齢者では頭皮に好発。
骨・軟部肉腫に対する重粒子線治療
‡ 放射線医学研究所にて根治切除困難な骨軟部肉腫に対して、
1994年6月∼2007年2月までに349人に対して重粒子線
(炭素イオン線)治療を行った
‡ 局所の5年制御率は、最初のphaseⅠ・Ⅱ試験で63%、次の
phaseⅡ試験で82%、全体の5年生存率は54%と良好であった。
線量と局所制御との間には相関関係が見られ推奨線量は70.4
Gy/16f/4週前後、とされた。
有害事象としてはびらんや皮膚潰瘍が認められた。
骨軟部腫瘍に対する重粒子線治療は安全で有効な治療で
あることが実証された。
4.皮膚腫瘍
皮膚悪性腫瘍の頻度と好発部位には人種差がある。
紫外線を吸収するメラニン色素の量に依存して、
白人ĸ黄色人種ĸ黒人の順に頻度が高くなる。
本邦の皮膚癌患者は過去20年間で2∼3倍に増加したが、
その原因としては高齢化、生活習慣の変化、紫外線
被ばくの増加等が考えられる。頻度としては基底細胞癌と
SCCで全体の3/4を占める。
人口10万人当たりの年間罹患者数はBCCが5人、SCCが
2.5人、悪性黒色腫が1∼1.5人である。
皮膚悪性腫瘍の組織学的分類
上皮性
扁平上皮癌(SCC),
基底細胞癌(BCC)
メルケル細胞癌(MCC)、汗腺
メラニン産生細胞
悪性黒色腫
間葉性細胞
各種肉腫(繊維・脂肪・平滑筋)
Kaposi 肉腫
悪性リンパ腫
悪性黒色腫
メラニン細胞又は母斑細胞が悪性化した腫瘍。
良性のホクロとの鑑別が困難な為、発見が遅れる。
リンパ・血行性に遠隔転移を来たし易い。
40代から増加し、70歳以上が全体の30%。
以下の4つの臨床型に分類される。
1・結節型黒色腫
2・表在拡大型黒色腫
3・悪性黒子型黒色腫
4・肢端黒子型黒色腫
口腔内悪性黒色腫
BC C/S C C/MC C の放射線治療
【適応】放射線治療は機能と形態の温存が可能であり、しかも
手術の適応外・進行期の病変に対しても治療可能。
【装置】腫瘍の厚さが3cm以内であれば
表在X線治療装置(90∼120kV)や軟X線治療装置(250∼
300kV)が使用可能。 又は電子線、通常のX線も用いられる。
表面の線量不足と深部の線量軽減目的で
ボーラスや水を含ませたガーゼ等を使用する。
【線量】正常皮膚の晩期反応を軽減する為、
広範囲照射野では10回以上の分割とする。SCC,BCCとも局所
制御には50∼65Gyが必要である。
【照射による正常皮膚反応】急性期:紅斑、乾性落屑、びらん等。
晩期:色素沈着、萎縮、毛細管拡張、脱毛 等
悪性黒色腫の治療
1)外科治療:従来は広汎切除、患肢の切断、リンパ節の
郭清が行われて来た。近年は病期に応じた切除範囲の
設定がなされる傾向にある。
2)化学療法:DAV療法(DTIC,ACNU,VCDの併用)
が術後の補助化学療法として用いられる。
遠隔転移に対しては、集学的治療の一環としてDAVや
CDV(CDDP,DTIC,VDSの併用)が行われる。
3)放射線療法:感受性は低い。
1回線量の大きな小分割照射法が行われて来たが、
近年荷電粒子線治療やホウ素中性子捕捉療法が試みら
れている。
悪性黒色腫を疑わせる臨床所見
A・Asymmetry(不規則性)
B・Borderline irregularity(境界不鮮明)
C・Color variegation(色調多彩)
D・Diameter enlargement
(拡大傾向:直径6mm以上)
E・Elevation surface (表面隆起)
悪性黒色腫の症例1
悪性黒色腫の症例2(手指・足底)
おことわり
図表は 北原 規・相羽恵介編著
:「化学放射線療法プラクティカル
・ガイド」2009より引用
(一部改変)致しました。