N2/H2 ガスによる大気圧DBDを用いた 鉄鋼の表面硬化新技術の提案 Proposal of novel surface hardening technology of steels using atmospheric-pressure DBD with N2/H2 gas 津留卓斗,吉光祐樹,山本宏文,井上貴史,赤峰修一,市來龍大,金澤誠司 大分大学, Takuto TSURU, Yuki YOSHIMITSU, Hiromi YAMAMOTO, Takashi INOUE, Syuichi AKAMINE, Ryuta ICHIKI, Seiji KANAZAWA Oita University. 新たな大気圧プラズマ窒化法として誘電体バリア放電(DBD)を用いた金属材料の窒化を試みた。 材料ガスのみの窒化処理に比べ,DBD のアフターグローを用いた処理の方が金属表面の酸化を抑制し, 効率的に窒化することがわかった。 1 研究背景 表面硬化技術は,金属材料の靱性を保ったまま 機械特性の向上をおこなうことが可能であり,機 械・金属工業分野において自動車部品や金型など 幅広く利用されている。中でも,窒化処理は処理 による材料のひずみ・変形が少ない上に,耐摩耗 性,表面硬度,および耐食性といったさまざまな 機械特性を上げることができる。 すでに産業界で利用されている窒化法はガス 窒化法や低圧プラズマ窒化法が主流であるが, 我々は独自技術としてパルスアーク型(PA)プラ ズマジェットによる大気圧プラズマを用いた窒 化法の研究をおこなってきた。この PA プラズマ ジェットを用いた処理により,鉄鋼やチタンの部 分的な窒化および硬化に成功している[1,2]。 本研究では,広範囲窒化が必要な材料や穴・ス リットのある複雑形状をもつものにも対応する ために,新たな大気圧プラズマ窒化法として誘電 体バリア放電(DBD)による窒化を試みた。DBD では非常に活性で高密度なラジカルを生成する ことができるため,その活性種を処理雰囲気に満 たすことで窒化できると考えた。 Yan らは NH3 を用いた DBD により平板電極内 に配置した鉄鋼の窒化に成功している[3]。しかし, この方法は DBD の電極内に試料を置くため,試 料の形状は平らな鋼板に限られてしまう。そこで, 我々は DBD の材料ガスに NH3 ではなく N2/H2 混 合ガスを用い,放電で生成した活性種のアフター グローで処理雰囲気を満たすことで窒化が可能 であるか検証した。 2 実験概要 今回用いた DBD 電極リアクターの概略図を図 1に示す。ステンレスメッシュの外部電極に高電 圧 9.75 kV 印加し,内部電極のステンレスパイプ をアースしている。放電ギャップは 2 mm で一定 であり,材料ガスとして N2/H2 混合ガス(2 slm; H2 10 %)を用いた。内部電極であるステンレスパイ N2/H2 gas Electrode gap 2 mm 4 mm in diam. 図1:DBD リアクターの概略図. Ti Sample Heating wire Gas in Exhaust 8 mm in diam. High voltage 20 mm AC 図2:実験概略図. プはステンレス円柱と溶接しており,ガスは図1 中の矢印で示すように石英管内の放電部分のみ を通るようにし,直径 4 mm の出口から放電のア フターグローが噴出される。 図2に DBD リアクターを含む実験系の概略図 を示す。DBD リアクターの出口を挿入した石英管 内の処理雰囲気および試料は開閉式外部ヒータ ー(Asahi Rika, ARF-30K)により昇温される。 本研究の最終目的は鉄鋼の広範囲かつフレキ シブルな窒化を目指すことであるが,今回は窒化 物形成が視覚的に確認しやすい(窒化物 TiN が特 有の黄金色を呈するため)チタン TP340(JIS 2 種, 15×15×4 mm3)を供試材として用いて実験をおこ なった。処理温度は 1100ºC であり,雰囲気中の 残留酸素を追い出すために,大流量の材料ガスで 15 min パージしたのち,外部ヒーターと放電を同 時に点火してから 2 h 処理をおこなった。 3 結果 DBD を用いて処理をおこなった試料表面は部 分的に TiN と思われる黄金色に変化した。図3に 処理後の試料表面の XRD 分析結果を示す。図3 (a)は DBD を用いて処理をおこなった結果であり, 図3(b)は放電を点火せずガスのみで処理をおこ なった結果である。図3(a)および(b)より,どちら の試料表面にも窒化物である TiN および Ti2N の ピークが確認できた。しかし,材料ガスのみで処 理をおこなった場合に比べ,DBD を用いて処理を おこなった場合の方が,酸化物(TiO2)のピーク が抑えられている。つまり,DBD によって生成さ れた活性種によって,酸化を抑制しながら効率的 に窒化がおこなわれていると考えられる。 図3:試料表面の XRD 分析結果. 4 まとめ 金属材料の新たな窒化法として大気圧誘電体 バリア放電を用いた方法を提案した。材料ガスの みで処理をおこなった場合に比べ,DBD を用いて 処理をおこなった場合の方が,金属の表面酸化を 抑えながら効率的に窒化できることがわかった。 講演では,本研究の真の目的である鉄鋼の窒化 を試みた結果を報告する予定である。 5 参考文献 [1] H. Nagamatsu, R. ichiki, Y. Yasumatsu, T. Inoue, M. Yoshiba, S. Akamine, and S.Kanzawa.Surf Coat Techno 225 (2013) 26. [2] Y.Yoshimitsu, R. Ichiki, S. Kanda, M. Yoshida, S. Akamine, and S. Kanazawa Absyract 8th International Conference on Reactive Plasma, 6P-AM-S06-P14 (2014) [3] L. Yan, X. Zhu, J. Xu, Y. Gao, Y. Qin, and X. Bai. Plasma Chem. Plasma Process. 25 (2005) 467.
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