学校管理職・指導主事志向に関する要因分析(概要)

学校管理職・指導主事志向に関する要因分析(概要)
―東京都公立学校管理職・教員、指導主事の調査を通して―
MJE14702
髙瀬 智子
【要旨】
学校管理職・指導主事は、学校教育を支える上で重要な役割を果たしている。しかし、東京都では、平成 15 年頃から学校管理職・
指導主事の希望者が激減している。本研究では、その要因を探るため、東京都公立学校の学校管理職・教員、指導主事等に、これま
での経験や管理職選考、職務に関する意識等を調査した。調査では、約 3200 人から回答が得られ、学校管理職・指導主事等と教員
の研修経験や主任経験の違いが明らかになった。また、学校管理職・指導主事等に関しては、その職に就く上で役に立った研修経験
や主任経験、管理職選考受験のきっかけ、管理職のモデルの存在、職務に対する不安や魅力、学校管理職・指導主事の志向を高める
上での改善点についての意識が明らかになった。教員に関しては、管理職選考を受験しない理由、管理職選考の受験意思をもつため
に必要な改善点についての意識が明らかになった。
本研究では、実施した調査結果を基に、学校管理職・指導主事の志向を高めるための提言として、
「人材育成」と「職務環境の改善」
の観点から提言を行った。
「人材育成」としては、教員の学校管理職・指導主事の志向を高めるために、管理職が将来の管理職となる
教員の人材育成に積極的に関与していくこと等について、
「職務環境の改善」としては、職務の改善に関する実態把握や効果検証の必
要性とその方法について提言を行った。
第 1 章 研究の概要
1.2 研究の目的と方法
1.1 研究の背景
1.2.1 研究の目的
学校教育は、学力向上や体力向上、豊かな心の育成や地域と
本研究では、学校管理職・指導主事への志向の要因を分析す
の連携の充実を図ることなどが一層求められている。一方で、
るとともに、教育管理職選考や管理職の職務に関する意識を明
学ぶ意欲や規範意識の低下、不登校やいじめ等の課題があり、
らかにする。そして、学校管理職・指導主事志向を高めるため
学校教育に求められることは、複雑で多岐にわたるようになっ
の人材育成や職務に関わる改善点を提言する。
た。
1.2.2 研究の方法
学校教育は学校管理職と児童・生徒の教育を司る教員との相
教育管理職の育成や教員の職務等に関わる先行研究、東京都
互の協力と職責の遂行があって成り立つものであり、その組織
の教育管理職選考の概要や教育管理職の育成に関わる取組を整
としての教育力の向上が求められるところである。とりわけ、
理し把握するとともに、東京都の学校管理職、指導主事等、管
学校経営や教員の人材育成の職務を担う学校管理職の役割は
理職でない教員を対象とした調査を実施する。また、全国の管
一層重要になってきていると考える。
理職選考や指導主事の任用方法等について現状を把握するため
しかし、
東京都においては、
平成 15 年度頃から教育管理職1の
の資料の収集や調査を行う。
希望者が激減し、教育管理職選考の倍率も低下しており、現在
第 2 章 東京都の管理職選考の概要
においてもその状況が続いている。
これまで東京都では、平成 17 年 7 月には、
「教員任用制度あ
2.1 東京都の管理職選考の経緯
り方検討委員会」を設置し、教員の採用選考、管理職の任用等
東京都では、平成 12 年度に教育管理職任用制度の改正を行
人事制度全般の検討を行い、その後も教員の人材育成や給与制
い、従前の指導主事選考と教頭選考を教育管理職選考に一本化
度、校長・副校長等の育成等に関わる報告や指針を示す等の取
した。教育管理職選考には A 選考と B 選考を設定し、A 選考は
組を継続的に行ってきている。しかし、東京都においてこのよ
行政感覚にも優れた教育ゼネラリスト的な管理職、B 選考は学
うな取組がなされる中、現状として教育管理職の希望者が大き
校運営のスペシャリスト的な管理職の育成を目指した。
平成 12 年度の改正以降、受験要件の見直し、A 選考合格者
く増加する状況には未だ至っていない。
今日、学校教育を取り巻く様々な課題への対応や時代に即し
のジョブ・ローテーションの見直し、教職経験の見直し、C 選
た教育への転換が求められる中、学校教育を円滑に行うために
考の創設、A 選考の推薦制度の導入、B 選考の推薦制度の導入
は、教育管理職の育成を図ること、教育管理職を目指す人材を
など改正が行われた。
増加させることが重要な課題であると捉え、そのために、教育
2.2 東京都の教育管理職選考受験状況
A 選考の倍率は、平成 12 年度は 7 倍を超えていたが、その
管理職への志向及び職務に関する実態や意識を明らかにする必
後は低下し、平成 15 年度は 3 倍となった。低下傾向は続き、
要があると考えた。
平成 24・25 年度は 1.2 倍となっている。B 選考の倍率は、平
1
本研究において「教育管理職」は、
「学校管理職」と「指導主事」を示す。
1
- 7 -
成 16 年度までは 4 倍をほぼ維持していたが、平成 17 年度から
(4) 指導主事として任用される年齢
低下が進みはじめた。平成 19 年度までは 2 倍を維持していた
任用年齢が早い自治体で 35 歳、最も多いのは 40 歳で、19
が、その後は A 選考と同じように低下傾向にあり、平成 24・
の自治体が回答していた。30 歳代後半から 40 歳代前半にかけ
25 年度は、1.1 倍となっている。
て多い。
第 3 章 全国の管理職選考及び指導主事の任用や異動の状況
第 4 章 学校管理職・指導主事の確保・育成等に関する東京都
3.1 全国の管理職選考の概要
の取組
全国の管理職選考の年齢制限及び経験年数について、文部科
東京都では、学校管理職や指導主事を含め、教員の確保・育
学省資料「管理職選考試験の受験資格(各県市別状況)
(平成
成に関して検討委員会等を設置して中長期的な視点から検討を
25 年 4 月 1 日現在)
」から義務教育の教頭(副校長を含む)と
行い、
選考や処遇、
育成についての方向性や在り方を示すほか、
校長で整理した。
教育管理職の実態や意識を把握するための調査を実施している。
3.2 全国の指導主事の任用方法や異動の状況
そして、管理職や管理職候補者を含め、教員の資質・能力の
3.2.1 調査の目的
向上を図るため、人材育成に関わる方針やガイドラインを示し
全国の指導主事の任用方法に関する調査を実施することによ
ている。また、教育管理職及び教育管理職候補者に対して、職
り、受験者の確保が必要となる自治体数や、指導主事の任用資
層ごとに求められる資質・能力の向上を図るため、職層研修(対
格、任用年齢、異動等、指導主事の任用の状況を把握する。
象者悉皆)を東京都教職員研修センターが実施している。
3.2.2 調査内容
3.2.3 調査対象
第 5 章 調査分析
(1) 道府県教育委員会
46
(2) 政令指定都市教育委員会
20
5.1 調査の概要
合計 66 の自治体
5.1.1 調査の目的
3.2.4 配布及び回収
学校管理職、指導主事等、管理職でない教員の実態や意識を
平成 26 年 11 月中旬~平成 26 年 11 月末
調査し、職層による経験等の違いや職務に関する意識の違いを
3.2.5 回収数及び回収率
明らかにし、学校管理職・指導主事志向の要因及び効果的な人
表 1 指導主事の任用方法等に関わる調査の回収数及び回収率
材育成の在り方や学校管理職や指導主事の職務の改善の方策に
回収数
回収率
ついて探る。
道府県教育委員会
39
84.8%
政令指定都市教育委員会
13
65.0%
5.1.2 調査の対象
合 計
52
78.8%
(1) 都内公立学校の学校管理職として、校長・副校長
(2) 行政の職務に携わる指導主事等として、統括指導主事、統
3.2.6 調査結果
括学校経営支援主事、指導主事、学校経営支援主事
(1) 指導主事の任用方法について
(3) 管理職でない教員(平成 27 年 3 月 31 日現在において管
選考試験を実施しているのは 13 の自治体で 24.5%、異動の
理職候補者でない 46 歳以上の教員)
一環として配置しているのは 37 の自治体で 69.8%であった。
5.1.3 調査対象の抽出及び配布・回収時期
平成 25 年度学校統計資料を基に抽出を行った。
「その他」は、面接、経歴の評定等による選考であった。全国
(1) 義務教育学校
的に見ると、選考試験を実施している自治体に比べ、異動の一
環として配置している自治体が多い。
学校規模を考慮し、都内公立小・中学校それぞれの約半数
(2) 指導主事の選考試験の内容
となる、小学校 600 校、中学校 300 校を抽出した。
1 次試験・2 次試験と 2 段階の試験を行っているのは、6 つの
(2) 都立学校
自治体であった。試験の内容は、1 次試験は、学校教育、法令
都立高等学校及び中等教育学校と特別支援学校は、全学校
に関する試験、又は論文がある。2 次試験は全ての自治体で面
を配布対象とした。
(3) 指導主事等
接があり、専門論文や課題論文を課している自治体もあった。
また、集団による面接や指導・助言の実技を実施している自治
指導主事等は、全ての統括指導主事、統括学校経営支援主
体もあった。
事、指導主事、学校経営支援主事を配布対象とした。
(3) 指導主事の任用に必要な要件や経験
(4) 調査の配布及び回収
指導主事の任用に際して必要な要件や経験があるのは 30 の
平成 26 年 10 月下旬~平成 26 年 11 月末
自治体で 56.6%、特に設定していないのは 23 の自治体で
5.1.4 調査結果及び分析等における表記
43.4%であった。必要な要件や経験を設定している自治体は多
く、選考試験を実施していなくても、必要な要件や経験を設定
している傾向が明らかとなった。
2
- 8 -
5.1.5 調査の主な内容
率は大きな違いがない。また、いずれの職も「教員、学校管理
職、教員以外の学校関係者がいずれもいない」の比率も60%台
(1) 学校管理職・指導主事等・教員共通
①属性
であり、大きな違いが見られなかった。家族や親戚の教員・学
職、性別、所属の学校種、年齢、教職経験年数
校管理職・教育関係者の有無は、学校管理職・指導主事の志向
②教員になる前の環境や経験
と関連がないと言える。
前職経験、家族・親戚の教育関係者の有無、教員を目指した年
(3) 経験した研修や委員による比較
齢
③教員となった後の経験
①東京教師道場(部員)2、②東京教師道場(助言者・リーダ
研修や委員の経験、主任経験、教育研究普及団体の所属経験
ー)3、③教育研究員4、④開発委員(東京の教育21開発委員)5、
④日常や職務に関わる意識
⑤東京都教員研究生6、⑥大学院派遣7、⑦区市町村教育委員会
コミュニケーション、教育動向への関心、事務遂行能力の意識、
が実施する研究員等の研修、⑧独立行政法人教員研修センター
研修意欲、休日の職務に関わる意識等
(2) 学校管理職・指導主事等
の研修について尋ねた。
①学校管理職・指導主事の経験年数
学校管理職及び指導主事等は、教員に比べて経験している割
②教育管理職選考の受験の状況
合が高い傾向であった。多重比較の結果、学校管理職、指導主
③受験の意思決定、受験の際に管理職から勧められた点、管理職
事等が、教員に対して1%水準で平均値の差が有意であった。研
のモデルの存在
④学校管理職・指導主事等の任用に当たっての不安感
修や委員の経験は、学校管理職・指導主事志向と関連すると言
⑤学校管理職・指導主事の職に対する満足感
える。
⑥学校管理職・指導主事の職務の魅力
(4) 経験した主任による比較
⑦学校管理職・指導主事の志向を高める上で必要な改善点
各主任による違いはあるが、学校管理職の比率が高いのが、
(3) 教員
①教育管理職選考に関わる意思や経験
教務主任、生活指導主任、進路指導主任であった。多重比較で
②教育管理職選考受験の意思の有無
は、学校管理職が、指導主事と教員に対して 1%水準で平均値
③教育管理職選考を勧められた経験
の差が有意であった。主任経験は、学校管理職の志向に関連す
④教育管理職選考を受験しない理由
ると言える。
⑤教育管理職選考の受験意思をもつために必要な改善点
(5) 教育研究普及団体の所属の有無による比較
5.1.6 調査配布数及び有効回収率
教育研究普及団体の所属の有無については、学校管理職と指
(1) 有効回収率
導主事等は、
「ある」の回答がそれぞれ、59.2%、58.0%であっ
たが、教員は 33.2%と学校管理職、指導主事等よりも低い結果
表 2 有効回収率
職
職
学校種
学校種
職層
校長
副校長
副校長
校長
副校長
副校長
校長
配布数
600
600
300
300
200
回収数
回収数
316
316
371
371
207
207
223
223
87
87
有効回収率
有効回収率
52.7%
52.7%
61.8%
61.8%
69.0%
69.0%
74.3%
74.3%
43.5%
43.5%
副校長
副校長
校長
校長
副校長
副校長
統括指導主事
統括指導主事
統括学校経営支援主事
統括学校経営支援主事
指導主事
指導主事
学校経営支援主事
学校経営支援主事
275
275
57
57
100
100
221
221
22
22
80
80
80.4%
80.4%
38.6%
38.6%
80.0%
80.0%
141
141
107
107
72.8%
72.8%
330
330
1,573
1,573
703
703
222
222
581
581
351
351
67.3%
67.3%
36.9%
36.9%
49.9%
49.9%
570
570
309
309
54.2%
54.2%
171
171
98
98
57.3%
57.3%
小学校
小学校
中学校
中学校
学校管理職
学校管理職
高等学校
高等学校
中等教育学校
中等教育学校
(附属中学校を含む)
(附属中学校を含む)
特別支援学校
特別支援学校
指導主事等
指導主事等
教員
教員
小学校
小学校
中学校
中学校
高等学校
高等学校
中等教育学校
中等教育学校
(附属中学校を含む)
(附属中学校を含む)
特別支援学校
特別支援学校
※有効回収率%=(有効回答数/配布数)
※有効回収率%=(有効回答数/配布
となった。また、多重比較の結果、教育研究普及団体の所属は、
学校管理職、指導主事等が、教員に対して 1%水準で平均値の
差が有意であった。教育研究普及団体に所属することは、学校
管理職・指導主事の志向に関連すると言える。
5.2.3 学校管理職及び指導主事の実態と意識
(1) 管理職や指導主事になる上で役に立った研修や委員の経験
東京都教員研究生は、いずれの職層も85%以上が役に立って
いると回答している。大学院派遣は最も少ない副校長が78.0%、
5.2 調査結果
授業力の向上を図るため、授業研究や協議等を通して 2 年間にわたって継続的に
指導・助言を受ける。対象は東京都経験が 4 年から 10 年程度の教員。平成 18 年
度から実施。
3 指導者(指導主事・学習指導専門員)の指導の下、東京教師道場部員の授業力向上
に向けた指導・助言を行うとともに自らの資質・能力の向上を図る。対象は東京教
師道場部員修了者、教育研究員修了者、校内等で若手教員育成の実績のある教員、
教科等の指導において専門性が高い教員。平成 18 年度から実施。
4 東京都の教育の質の向上に資するため、
都内各地区の教育研究活動の中核となる教
員として養成することを目的として実施。対象は主幹教諭または主任教諭、東京
教師道場修了者程度。1年間概ね年間14回程度の月例会と宿泊研修を行う。
5 東京都の教員全体の教科等の指導力向上を図るとともに、
急激な社会の変化や学校
における教育実践から提起される様々な教育課題や要請に対応するため、各教科等
及び教育課題に関わる教育内容や方法等について研究開発を行う。対象者は、委員
長は管理職、委員は原則として東京教師道場、教育研究員等の経験者。
6 東京都教職員研修センターに派遣(1 年間)し、学校経営や学習指導等についての
高い専門性を備え、
指導的役割を担う学校教育のリーダーの育成を図ることを目的
として実施。対象は、教職経験 6 年以上の教員。
7 新教育大学大学院、大学院設置基準第 14 条適用大学院、教職大学院の派遣研修を
実施。対象者は、主幹教諭、指導教諭、主任教諭、主任養護教諭。それぞれの大学
院の設置目的等から、教科等の専門性の向上、教員の資質向上に資する指導的立場
の教員の育成、指導理論や実践力・応用力を身に付けることなどを目的として派遣
している。
2
5.2.1 調査の基本統計
5.2.2 経験や環境について
(1) 教職以外の前職経験の有無による比較
教職以外の前職経験の割合は、指導主事等が最も高く 25.8%
である。次いで教員が 22.6%であり、学校管理職は 17.4%であ
った。多重比較の結果、指導主事等と教員が学校管理職に対し
て 1%水準で平均値の差が有意であった。指導主事等と教員は、
学校管理職よりも前職経験があると言える。
(2) 家族や親戚の教育関係者の有無による比較
「教員を目指そうと考えたときに、教員、学校管理職、教員
以外の学校関係者が家族・親戚にいたか」については、学校管
理職、指導主事等、教員のいずれの職も「いた」と回答した比
3
- 9 -
その他の職層は85%を超えている。また、教育研究員は、およ
表4 管理職選考受験の意思決定について
自分から
進んで受
験した
自校の管
理職から
の勧めで
受験した
自校以外
の管理職
からの勧
めで受験
した
管理職で
はない先
輩からの
勧めで受
験した
同僚から
の勧めで
受験した
合計
度数
%
度数
%
度数
%
139
22.0%
170
19.2%
309
20.3%
431
68.2%
663
74.7%
1094
72.0%
50
7.9%
38
4.3%
88
5.8%
7
1.1%
8
0.9%
15
1.0%
5
0.8%
8
0.9%
13
.9%
632
100.0%
887
100.0%
1519
100.0%
度数
%
度数
%
度数
%
23
22.1%
42
18.9%
65
19.9%
73
70.2%
159
71.6%
232
71.2%
6
5.8%
15
6.8%
21
6.4%
1
1.0%
5
2.3%
6
1.8%
1
1.0%
1
0.5%
2
0.6%
104
100.0%
222
100.0%
326
100.0%
そ60%~80%が「役に立っている」と回答している。
今回の調査からは、東京都教員研究生、大学院派遣が役立つ
校長
という意識が比較的高い傾向が見られた。
副校長
表 3 管理職・指導主事になる上で役に立った研修・委員
(複数回答可)
職層
東京教師 東京教師 教育研究
道場
道場
員
部員
助言者・
リーダー
経験あり
1
役に立った
1
役に立った
と回答した 100.0%
割合
経験あり
7
役に立った
7
副校長
役に立った
と回答した 100.0%
割合
経験あり
1
統括指導主事 役に立った
1
統括学校経営 役に立った
支援主事
と回答した 100.0%
割合
経験あり
70
指導主事
役に立った
54
学校経営
役に立った
支援主事
と回答した 77.1%
割合
注 :下線は10人に満たない回答
校長
注 :校長 N=485
副校長 N=546
合計
開発委員 東京都教 大学院派 区市町村 独立行政
(東京の 員研究生 遣(教職 教育委員 法人教員
教育21開
大学院を 会が実施 研修セン
発委員)
含む)
する教育 ターの研
研究員等 修
の研修
4
2
446
301
255
153
98
93
18
17
130
38
170
117
50.0%
67.5%
60.0%
94.9%
94.4%
29.2%
68.8%
46
32
516
329
312
196
75
65
41
32
145
61
120
78
69.6%
63.8%
62.8%
86.7%
78.0%
42.1%
65.0%
2
2
68
53
35
28
15
14
8
8
21
10
40
30
100.0%
77.9%
80.0%
93.3%
100.0%
47.6%
75.0%
24
20
88
69
21
11
12
12
33
29
38
18
31
18
83.3%
78.4%
87.9%
47.4%
58.1%
52.4% 100.0%
統括指導主事・統括学校経営支援主事 N=89
統括指導主事
統括学校経営支援主事
指導主事
学校経営支援主事
合計
学校管理職
指導主事等
χ2 (df=4,N=1519)=12.242
χ2 (df=4,N= 326)=1.433
=0.090 P<.05
=0.066 P 0.838
② 管理職選考を勧められた年齢
校長、統括指導主事、指導主事は 36~40 歳が最も多く、副
校長は 41~45 歳が最も多かった。30 歳代半ばは、教職経験が
10 年を超え、校内でも主任等を経験し始める時期であり、管理
職・指導主事として資質・能力が認められる者に対して、管理
職選考の積極的な勧奨が有効であると考えられる。
③ 管理職選考を勧奨されたときに勧められた点
指導主事・学校経営支援主事 N=158
(2) 管理職・指導主事になる上で役に立った主任の経験
学校管理職、指導主事等ともに「資質や能力が管理職に向い
学校管理職で最も多いのは教務主任で、次いで生活指導主任
ていること」が最も多かった。また、管理職から勧められた点
である。教務主任は、1134人が経験しており、そのうちの83.0%
の中で、管理職選考の受験を決定する最大の要因として最も多
に当たる942人が役に立ったと回答していた。
いのは、学校管理職、指導主事等ともに「資質や能力が管理職
指導主事等で最も多いのは、学校管理職と同様、教務主任、
に向いていること」であった。
(4) 管理職のモデルの存在について
次いで研究主任であった。教務主任は、119人が経験しており、
学校管理職も指導主事等も 8 割程度がモデルと感じる管理職
そのうち81.5%に当たる97人が役に立ったと回答している。そ
の比率は、学校管理職とほぼ同じであった。
がいた。管理職志向を高めるためには、モデルとなる管理職の
存在が有効であると考えられる。
(5) 管理職・指導主事になる際の不安について
不安感は、校長は 63.3%、副校長は 74.3%、統括指導主事は
80.9%、指導主事は 79.0%であった。職層により異なるが、6
割~8 割が不安を感じており、指導主事等の方が比率は高かっ
た。指導主事等は、それまで経験していない行政の職務となる
ため、より不安感が強いと考えられる。
図1 学校管理職になる上で役に立った主任経験
(6) 学校管理職及び指導主事の職に対する満足度について
校長は約 9 割が肯定的な回答で、
副校長に比べ満足度が高く、
同様に、統括指導主事は約 8 割が肯定的な回答で、指導主事に
比べて満足度が高かった。副校長・指導主事は約 3 割が満足し
ていない。副校長・指導主事の満足度が低い点については、更
に詳細な実態把握が必要である。
(7) 学校管理職及び指導主事の職務の魅力について
図 2 指導主事になる上で役に立った主任経験
(3) 管理職選考受験に関する実態や意識について
校長が副校長に比べ、全般に各質問項目において魅力的であ
① 管理職選考受験の意思決定について
ると回答している比率が高かった。指導主事等も同様で統括指
学校管理職、指導主事等ともに、最も多いのは「自校の管理
導主事が指導主事に比べて魅力的であると回答している比率が
職の勧めで受験した」であり、70%程度であった。「自分から
高かった。職務の経験を重ねることが重要であると言える。
進んで受験した」は20%程度、管理職選考の受験の意思は、自
(8) 管理職志向及び指導主事志向を高めるための改善点につ
校の管理職の勧奨が大きく影響すると考えられる。性別では、
いて
学校管理職、指導主事等ともに、いずれの職層でも「自校の管
校長は、職責に見合った処遇を第 1 に挙げ、副校長は事務の
理職からの勧めで受験した」は、女性の方が男性に比べて比率
縮減を挙げている。副校長の補佐をする人員の配置も多い。指
が高く、特に、女性の副校長、指導主事は80%を超えていた。
導主事等では、統括指導主事、指導主事ともに、職責に見合っ
た処遇と事務の縮減が多かった。
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具体的な改善事項として、事務の縮減に関しては、調査や報
① 東京都教員研究生・大学院派遣の拡充を図る
告書の精選等、処遇に関しては、管理職手当の増額、休日出勤
学校管理職・指導主事等ともに、東京都教員研究生及び大学
の手当や指導主事手当の支給について挙げられていた。
院派遣が役に立ったという意識が高い。現在ある東京都教員研
究生・大学院派遣の研修の人員を増加して拡充し、学校管理職・
指導主事を希望する教員の増加を図るようにする。
② 教員に研修や委員経験の機会を積極的に与える
教員の資質・能力を見極め、積極的に東京都で実施している
研修の機会(各種委員を含む)を与える。自校だけでなく広く
都内の教員と接することで、都内の様々な地域の状況や実践に
ついて理解を深めることができるようにするとともに、視野を
図 3 管理職志向を高めるための改善点【校長】
広げ学校管理職や指導主事の志向を高めることができるように
する。東京都教育委員会はこのことについて、管理職に対して
啓発を行うようにする。
③ 事務遂行能力の向上のための研修を実施する
学校管理職・指導主事等が教員に比べて、事務に関わる能力
に関して得意である傾向が見られた。また、学校管理職・指導
主事の職務には事務に関わる職務が多い。事務に関わる職務を
効率的に遂行していくには、基本的な事務を遂行する能力を高
図 4 管理職志向を高めるための改善点【副校長】
めることが有効である。ワープロソフト、表計算ソフト、プレ
5.2.4 教員の実態と意識
ゼンテーションソフト等を必要とする基本的な業務が効率的に
管理職選考を受験しない理由で最も多いのは「児童・生徒と
行えるように、学校管理職・指導主事となる前の主任教諭、主
学習指導や生活指導を通して関わりたい」であった。次いで「児
幹教諭の職層研修に事務遂行能力の向上に関わる内容を位置付
童・生徒と関わる時間が減る」
、
「自らの教育に対する識見や力
け、その必要性の意識を高めるとともに能力の向上を図るよう
量が管理職として不十分で自信がない」
、
「精神的なストレスが
にする。また、学校において事務遂行能力向上のための OJT
多い」
、
「勤務の時間的な拘束が長くなる」であった。その他、
実施の啓発を行う。日常の職務を通じて職員相互で情報交換や
子育てや介護に関しても挙げられていた。
短時間で行える簡単な研修の場を設定するなどして、基本的な
5.2.5 日常や職務に関する調査
技能を身に付けられるようする。
20項目の調査を行い、平均値で有意に学校管理職・指導主事
提言 2 管理職候補者の不安を解消する研修や相談体制を充実
等が教員よりも高い項目を分類し、学校管理職・指導主事に求
められるものとして「説明する力」、「コミュニケーションの
させる。
力」、「基本的な事務を遂行する力」、「情報を収集する力」
学校管理職・指導主事に任用されるに当たり、不安に感じる
に整理した。
点に関する内容の研修を実施する。すでに行われている内容に
ついては、継続的に実施する。また、職務に対する不安を相談
第 6 章 政策提言と課題
できる体制や情報交換できるネットワークの構築も必要である。
6.1 政策提言
提言 3 学校での校務分掌を活用するとともに、管理職の関与
東京都内の公立学校の学校管理職・教員、指導主事等を対象
とした調査の分析結果から得られた知見を基に、東京都教育委
を強化して学校管理職・指導主事志向を高める。
員会に対し政策提言を行う。なお、東京都教育委員会では、第
① 校務分掌を活用して人材育成を実施する
4 章で示したように、これまで検討会による報告や改善推進の
学校管理職・指導主事の志向を高めるには、主任を経験する
プラン、
方針等でその方向性等を示している。
それらも踏まえ、
ことが有効であり、特に、教育課程に関わり学校教育全体の教
現状の課題を解決する具体的な改善を図ることを提言する。
育活動に関わる教務主任の経験は、学校管理職、指導主事の職
政策提言は「人材育成」
、
「職務環境の改善」の 2 点から行う。
務を行う上で効果が高いと考えられる。学校管理職・指導主事
6.1.1 人材育成に関わる提言
としての資質・能力がある教員、今後能力の伸長が期待される
人材育成については 4 点を提言する。
若手教員には、教務主任を経験するようにさせる。校内事情等
で配置が困難な場合には、教務主任の補佐役を務めさせる。特
提言 1 東京都における研修の見直しを実施し、研修を活用し
に補佐役は、例えば、
「教務副主任」として位置付け、若手教員
て学校管理職・指導主事志向を高めるとともに必要な
に経験の機会を与え、学校運営の概要を若手の段階で知ること
能力の向上を図る。
ができるようにする。また、生活指導、進路指導、研究に関わ
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る主任も校内全体を組織的に運営していくため、これらの主任
実施主体間で調査結果等のシェアを行い、調査・報告書の精選
経験も有効であり、計画的に配置して人材育成を行う。
を図る。また、各学校と同様に教育委員会においても調査・報
② 管理職は、管理職選考受験の積極的な勧奨を行う
告の実態を把握する。
教員が管理職選考の受験の意思をもつには、管理職の勧奨が
提言 2 職責や職務内容に見合った処遇のための実態把握を
有効である。管理職は、学校管理職・指導主事の職務遂行に資
質・能力が認められる、あるいは今後の伸長が期待される教員
行う。
に対して管理職選考受験の勧奨を積極的に行うようにする。
学校管理職・指導主事の処遇に関して、職責や職務内容に見
また、女性の管理職の増加を図るためにも、資質・能力が認
合っていないとする意識が高いことから、改めて学校管理職及
められる女性への勧奨を一層行う必要がある。
び指導主事の勤務を調査し、処遇改善の根拠となる勤務の実態
管理職選考受験の勧奨を行うに当たっては、当人の資質・能
を把握し、必要な処遇の改善について検討することが必要であ
力を見いだすとともに、実績等を把握し、当人のどのような点
る。特に、指導主事はその勤務実態に応じた「指導主事手当」
が適しているのかを具体的に伝え、勧奨された当人が自信をも
等を新たに創設するなどの改善を図ることで、指導主事への志
てるようにする。また、管理職の職務の魅力ややりがいについ
向・誘因を高めることを検討すべきである。
ても具体的に伝えるようにする。
提言 3 学校経営に関する業務における人員配置の効果検証を
更に、各学校において、管理職が教員に対して管理職選考の
勧奨を実際に行うためには、その趣旨や意義を十分に理解する
実施する。
ことが必要である。管理職として、学校管理職・指導主事の育
副校長の補佐をする人員配置を求める意識が高かった。その
成を意識した人材育成を行うための研修が必要であり、管理職
ため、改めて副校長の補佐をする人員を配置することを前提と
及び管理職候補者研修に位置付けるようにする。
して、学校経営に係る業務の実態を調査する。特に副校長の業
務量と副校長でなくても可能な業務について実態を把握すると
提言 4 人材情報の収集システムを構築し、能力ある教員の人
ともに、補佐をする人員の導入によって、副校長が管理職とし
材育成を一層図り、学校管理職・指導主事志向を高め
て本来の経営的な職務により従事できる環境を作ることによる、
る。
学校教育全体への効果を検証する。
東京都教育委員会及び区市町村教育委員会が連携し、研修や
また、これまで教員の配置には少人数指導の加配など、教科
委員を経験した教員や各学校・地域で活躍する教員の人材情報
指導の充実のための配置が実施されてきているが、文部科学省
を集約するシステム構築する。また、併せて教育研究普及団体
は、今後、学校経営の充実のための配置に充てることを検討す
との連携を図り、情報を得るようなシステムとする。
べきである。
6.1.2 職務環境の改善に関わる提言
提言 4 指導主事の職務内容に関する実態把握と改善の方策を
職務環境の改善として 4 点を提言する。
策定する 。
今回の調査は、職務環境に関わる内容については、個人がそ
指導主事の事務量が多く、その縮減を求める意識が高いこと
れぞれ感じている意識に基づくものである。集計結果から意識
が明らかとなった。指導主事の業務の実態を調査し、指導主事
の傾向を明らかにし、業務量、処遇、職務の効率化等に関する
でなくても可能な業務の有無を明確にする。教育施策の企画・
改善が強く求められていることが分かった。真に改善を行うた
立案に関する事務や教育課程、学習指導など学校教育に関する
めには、詳細な実態把握が必要であり、早急に改善に向け必要
専門的事項の指導に関する事務等に指導主事がより従事できる
とされる 4 点の検討を行うことを提言する。なお、提言 3 は東
環境について検討し、改善に向けた具体的な方策を策定する。
京都教育委員会に加えて、文部科学省に対しても提言する。
6.2 課題
提言 1 学校や教育委員会が回答する調査・報告書に関する
本研究では、調査を基に学校管理職・指導主事の志向に関す
実態把握を行う。
る要因等を分析したが、今回明らかにしたのは調査した内容に
とどまる。課題として 3 点挙げる。
学校管理職、指導主事等の職務の改善として、調査・報告が
多いこと、重複した調査が多いことが多数挙げられており、調
〇 今回の調査内容以外の要因の解明と検討が必要である。
査・報告書の精選が必要である。そのため、まず、各学校にお
〇 若手教員の学校管理職や指導主事に対する意識の解明も行
いて、どの時期に、どこが主体の、どのような内容の、どの程
うことで、学校管理職・指導主事の育成に必要な点を更に明
度の量の調査・報告が実施されているかの実態把握が必要であ
らかにしていくことが必要である。
る。調査校を設定し、調査のサンプルの収集、回答に要した時
〇 学校経営及び教育行政においては、行政職員とともに職務
間等のヒヤリングを実施し、調査・報告書に係る実態を把握す
を遂行していくものであることから、行政職員の実態や意識
る。必要性の低いものを削減し、調査結果が共有できるものは
を明らかにしていくことも必要である。
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