初等数学ノート - Kobe

初等数学ノート
渕野 昌
主な更新日
年 月 日 初等数学ノート というのは題としてあまり適当でないかもしれません.要するに,数学
の「研究ノート」のようなものとして書くほどの内容では全然ない,初等的な(しかも多
くの場合よく知られている)内容の数学関連のノートを整理したものです.リクリエーショ
ン数学,教養の微積や線型代数などに関連したメモ(微積や線型代数を教えているうちに
気のついた問題や,このように言えば分りやすいのではないか,というような工夫,いつか
後で教科書を書くときに使えそうな別証明や記述方法,)また,大学の数学科の講義で
話せる内容などを集めたものです.読者は特に想定していません.全体的には自分のため
の忘備録という性格が強いし,内容や予備知識のレベルにもばらつきがあります.使用言
語も日本語になったり英語になったりドイツ語になったりしてばらばらです.しかし,高校
数学くらいの予備知識で読めるものも少なくないはずと思います.分野ごとの章分けになっ
ています(下の目次を参照).このテキストは常に 状態です.
して読んだ方はぜひコメントをください .
目次
解析学
三角関数の(基礎
知識
三角関数の加法定理の導出
合成関数の微分法 合成関数の微分法の意味
!
このテキストの最新版は,
としてダウンロードできます. 年 月 日 火 に,本テキストに含まれていたトポロジー
の節を,
として分離しました.トポロジーに関することを,そのうち書こうと思っている集合論的トポロジーの教科書
というかモノグラフのようなものの準備をかねて順不同に書き出しているうちに,だんだん「初等的」でなく
なってきてしまったからですが,このテキストもできるかぎり
味のある方はこちらも覗いてみてください.
に書く努力はしていますので興
初等数学ノート
三角関数の微分法を最小の三角関数の基礎知識から導出する
対数関数の計算
コンパクト性の微積での扱い
微分演算子の特徴付け
線型代数
次元ベクトル空間とその部分空間
基底と次元
線型写像の行列表現
連立方程式の解の全体の構造
確率と統計
付値の和の期待値
ポアソン分布
正規分布と の定理と大数の法則
初等数論
"
ブール代数
グラフ理論
雑
次方程式
解析学
#$#
三角関数の 基礎 知識
この節は中部大学工学部で 年春学期に開講している微分積分学 の補足授業として行
なった三角関数の導入の講義を基にしています.私が中部大学で担当しているこの講義を
含め,色々な事項の説明を「高校で習っているから」という理由で省略してしまうことが,
難しくなりつつある,というのが今日( 年現在)の日本の大学での理学基礎教育のか
なり一般的な現状のようです.
いずれにしても,手をこまねいて教えることを放棄するわけにはいかないので,
「高校
で習っている」はずのことや,
「中学校で習っている」はずのことでも大学の講義としての
品格を失なわないようなやり方で,ていねいに(再)導入する必要があると思われます.
以下は,そのような再導入の試みの つです.といっても特に特別な導入の仕方を目指
しているわけではありません.逆に,目標は,できるだけ標準的な導入に近いやり方でし
かも,ごまかしのない, な,中学校の知識だけを前提にしても理解にさしさ
わりのないような記述を試みるということです.
角度は日常生活では Æ Æ Æ など度数で表現されることが多いですが,この度数
は,ぐるっと一回りした角度を !"Æ として,これを等分して角度を表すシステムです.と
$ %
!
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ころが,この !" という数はよく考えてみると何の必然性もなさそうに思えます.数学で
は,通常この度数法の代わりに弧度法 # $ %% &' が用いられます.これは !"Æ
に相当する角度を(単位なしの) で表す(一回りの角度との比率が の角度は で
表す)ものです. は( の定義から)半径が の円の円周の長さなので,弧度法の角度
は,次のように考えることができます(
#'
の弧度法で表している角度は, 平面の原点を中心に半径が の円を描い
たとき, 軸の正の部分を原点を中心にこの円上の円弧の長さが になるように
左回りに回転させたとき,この直線ともとの 軸の正の部分とのなす角とする.
図
弧度法での角度を上のように定義すると, が と の間の数でなくても,またマイナ
スの数でも, の表している角度を考えることができることになります.ちなみにマイナ
スの数が弧度法で表す角度は,右回りの回転をマイナスの円弧の長さと考えることで,こ
の文脈で自然に解釈できます.
弧度法での円周一回りに相当する角度は で,これは の表す角度と同じものです.
より一般的には次が成立つことがわかります(
#'
を弧度法で考えるとき, と が同じ角(度)を表しているのは,ある
整数 があって ) * となるときである.
また数の足し算で弧度法での角度の足し算が自然に導入できていますが,これは次のよう
にして見ることができます( 今 が弧度法で同じ角度をあらわし, も弧
度法で同じ角度をあらわしているとする.このとき #' から, ) * ) * となる整数 がとれる. * ) * * # * ' となるから,ふたたび #' によ
り, * と * は弧度法で同じ角度をあらわす数になっている.
度数法での Æ が弧度法で のとき, ( !" ) ( ですから, Æ は弧度法では,
になることに注意します.たとえば,Æ は,
) です.
!"
!"
さて,三角関数の代表的なものは の3つです.まずこれらを $ '
上の関数(つまり $ ' を定義域とする関数)として定義してみましょう.このために,
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' に対し, +,- ) ,-+ ) となる直角三角形 +,- を考えます.ただ
し ) のときには,高さが の + と - が一致した つぶれた三角形 を考えることに
$
# Æ ' なので,条件 します.三角形の内角の和は
$
えられることと同値であることに注意してください .
' は,このような三角形が考
+
,
-
図
ここで, を,
)
+
+,
)
,
+,
)
+)
,-
と定義します.
直角三角形に関しては,三平方の定理としても知られている次のピタゴラスの定理が
成立ちます.
定理
(ピタゴラスの定理)+, ,- -+ をそれぞれ斜辺,底辺,高さとする直角三
角形で,+, ) ,- * -+ が成り立つ.
この定理は測量や作図,設計の基礎でもあるので,人類の歴史の中で大規模な測地や建設
が行われるようになった時期には少なくとも経験則としては知られていたはずですが,実
際に,古バビロニアの遺跡 から出土した刻板で, * ) の整数解を並べたものが
残っていることから,この時期にはすでにピタゴラスの定理が知られていて,その測量や
作図,設計での高度な応用がなされていたことがわかります.エジプト ! 大ピラミッドの造
営されたのは,紀元前 年と古バビロニアよりさらにずっと前の時期なので,ピタゴラ
スの定理は,もっと古い時代にもすでに知られていたのではないかと想像されますが,エ
ジプトでは,! ( ( の長さの比率の縄で直角を作ることを専門とする職人がいたというこ
とで,ピタゴラスの定理(とその逆)はこの比率に特化された形で使われていたようです.
また古代インドでは ( !" ( ! という比率が使われていた( * !" ) ) ! ),
ということです($&).
!
ここで直角三角形に関する用語を復習しておきましょう.直角三角形が図
を
の斜辺と呼ぶのでした.また
し,!高さ" と言ったときには,文脈によって辺
は
の底辺
は
のように描かれているとき,
の高さと呼びます.ただ
のことを指すことも,その長さのことを指すこともあり
ます.これに対して,斜辺や底辺の長さはそれぞれ !斜辺の長さ"# !底辺の長さ" と言って !斜辺"# !底辺" と
は言葉として区別することにします.これは単に日本語の語呂の都合で他には特に意味はありません.また,
たとえば, で,三角形
!
の辺
のことも,この辺の長さのこともあらわすことにします.
紀元前 年から紀元前 年くらいの時期に栄えた古代国家で,首都バビロンは現在のイラクの,バ
グダットの南方約 $% くらいのところにあった古代都市です.
&' #
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ピタゴラスの定理の現存している証明はこれよりずっと新しいものです.紀元前 ! 世紀
ごろに書かれたユークリッドの「原論」に載っている証明は,現存している証明の最初の
ものの つで,
「ピタゴラスの定理」という名称もここで使われています.
なお漢朝 #紀元前 年∼紀元 年' の「周髀算経」には ! ( ( の比率に特化した
(ピタゴラスの定理の逆の)証明が記載されているということです.
ピタゴラスの定理の証明は ! 以上の異なるものが知られていますが,以下の証明は,
ユークリッドによる証明とほぼ同一のものです.
ピタゴラスの定理の証明
,
+
/
.
,
,
+
+
-
-
-
図!
+, ,- -+ は,それぞれ直角三角形の斜辺,底辺,高さを一辺とする正方形の面積だ
から,方程式 +, ) ,- * -+ は,この直角三角形の斜辺を一辺する正方形の面積が,
底辺を一辺とする正方形の面積と高さを一辺とする正方形の面積を足したものと等しくな
ることを主張していることに注意する.
+,- をとり,+, ,- -+ のそれぞれを一辺とする
そこで,任意の直角三角形
正方形をこの三角形の外側に付け加え,それらを
+,, + ,-
, とす
る(図 !).
- を通る ,, と平行な直線を として, と の交点を とし,+ , との交点を
とする.また を通る ,- と平行な直線を として と の交点を . とする.この
とき
,, の面積は ,, .- の面積と等しくなる. を通り ,- に垂直な直線を "
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として と の交点を とすると,,, .- は,,- を底辺として高さが ,/ の平行
四辺形と見ることができるが,
たがって
, ,/ は +,- と合同だから, ,- ) ,/ である.し
,, .- の面積は ,- である.
以上をまとめると,
#!'
,, の面積 ) ,-
$ (
となることがわかったが,同様に議論すると,
#'
++ の面積 ) -+
$ (
もいえる.ところが
#'
+, ) +,, + の面積 ) ,, の面積 *
++ の面積
だから,#!' #' #' から,+, ) ,- * -+ が示せた.
$ (
)定理 !
次のようなピタゴラスの定理の「逆」も成立します.普通,単に「ピタゴラスの定理」
と言う場合にも,この逆の命題も含めて言っているいることが多いようです.
&' #(
定理
を * ) を満たす正の実数とするとき,+, ) ,- ) -+ ) となるような三角形は, ,-+ )
となる直角三角形である.
証明. を * ) を満たす正の実数として, +, ) ,- ) -+ ) となる
ような三角形について ,-+ )
が成り立たなかったとして矛盾を示す.
としてみる. ,-+ の場合の証明も同様である.このとき
例えば ,-+ には,三角形 +,- の 頂点 + から ,- に下した垂線の足を とすると, は , と の間の点となる(図 ).
+
,
-
図
+- に適用すると,+ ) - だから,定理 を +, に適
用して,# -' * # - ' ) となるが,これに ) * を代入すると,
- ) となるから - ) となってしまい.仮定に矛盾する.
定理 を
)定理 !
$この節はまだ書きかけです&
$& 足立恒雄,フェルマーの大定理,ちくま学芸文庫 #"'
$&
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(
三角関数の加法定理の導出
')
をベクトル を原点を中心に左回りに角度 だけ回転させて得られ
**$$'
るベクトル #' に対応させる写像とする.このとき明らかに, は線型写像となる.
#
になる.
今, )
#"'
#
#
')
だから,
& & **$$'(
となる.一方,上 の表現行列を用いると,
#'
となるから
# '
#
')
& )
& が の表現行列
を考えると, の定義から,
')
)
& & **$$'(
**$$'(
である.したがって,# ' の成分の比較から,
#'
# * ' ) 0
# * ' ) * がわかる.
この導入法は,学部の微積の講義での三角関数の再導入の教材としては #線型代数と微
積の相互関連の一例を見せるという意味でも' 好ましいものと言えるが,数学の基礎の厳密
な導入としては適切ではない.解析的な命題の証明を幾何の直観に頼っているからである.
幾何の直観を排除した導入としては,三角関数を微分方程式の解として導入する方法 #こ
の場合微分方程式の解の一意性の議論をまずやらなくてはならないという欠点あり', 三
角関数をマクロラン展開により導入する #関数列の収束についての議論をまずしておく必
要あり' などが考えられる.
このような導入をして,幾何学的解釈を排除して三角関数の加法定理の証明を行った
た場合には,上の幾何学的議論は,三角関数の加法定理の幾何学的解釈での追証として捉
えられることになる.
1本
1 人が無駄なことと捉えるかもしれない.しかし,私自身
1
上のような思考は大半の日
は高校生のときに,ここで述べたようなことが解答となっているような疑問のために数学
の学習がブロックされて先に進めなくなってしまった苦い思い出がある.
合成関数の微分法 '$(
年前期の微分積分学 で使っている教科書 #吹田信之,新保経彦 著,理工系の微分積
分学,以下 $吹田,新保& として引用する' では,第1章で Æ 論法による現代的な極限計
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算を導入しているのに,第2章以降では,コーシーの教科書にでも出ているような古色蒼
然とした議論を #直観的な説明としてではなく' #証' と称して載せている,という大変気
分の悪い書き方になっています.例えば以下の定理 や補題 は,この教科書の定理
やその系として与えられているものですが,この証明も $吹田,新保& では, 2 の
とき … という感じのものになっています.講義では,これを Æ 論法での厳密な証明に
翻訳して示しました.
厳密な証明の欠点として,証明の背後にあるアイデアが見えにくい,ということがあ
ると思いますが,逆に,きっちりと証明を追えば,必ず理解できる,ことが長所もになり
ます.前近代的な証明 #もどき' では,理解に必要となる直観が会得できれば,アイデアが
鮮明に見えてくるということは言えるかもしれませんが,この「直観の会得」は誰でもで
きることではなくなってしまうように思えます.
#$#((
#' 3 #' ) で, 3 #' ) なら, 3 # #'' ) である.
補題
#' #' が で連続で, #' が #' で連続なら, # #'' は で連続である.
証明. #'( 3 #' ) により, を任意にとるとき,Æ で,すべての 3# '
で , Æ となるものに対し #' となるようなものがとれる.3 #' ) により,この Æ に対し,Æ で,すべての 3# ' で Æ となるものに対
し, #' Æ となるものがとれる.このとき,すべての となるものに対し, # #'' である.
3# ' で Æ
#'( 仮定から,3 #' ) #' で, 3 # #'' だから,#' により,3 # #'' )
# #'' である.したがって, # #'' は で連続である.
)補題 !
次の定理は $吹田,新保& の定理 の系として与えられている.
#$#(
#' が #' の定義域に含まれる で微分可能なら, #' は で連続である.
定理
# * ' # '
が存在する .
に対し,
したがって,ある Æ で,すべての Æ となる 証明. #' が で微分可能なら, ) 3
#
* ' # '
#'
*$+$(
となるようなものが存在する.
ここで,任意の に対して,
Æ ) 3Æ #'
!
!
で * *$+$(
の定義域を表す.
%
" という記号は,'吹田,新保(
!
からの流用だが,これは,ドイツ語の##)*+,, 微分係数 から来
た記号のように思える.他の記号でも, の定義域を
の定義域は
,-. /*0 -1)02 3 このノートでは と表している とするなど,ドイツ語由来と思える記号の使い方が多いことから,'吹田,
%
新保( は,ドイツ語で書かれた古い教科書が種本になっているのではないか,と推測される.
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とすると,
#'
すべての # ' に対し, Æ なら, #' # ' となる.
*$+$(
は任意だったので,このことから, 3 #' ) # ' が導かれる.つまり #' は で連続である.
上の #' は,次のようにして確かめられる(
) とおく. ) * で
ある.
#!'
Æ つまり Æ とすると,
*$+$((
Æ の定義 #' から, Æ だから,#' から,
#'
# * ' # ' *$+$(
である,したがって ,
#'
# * ' # ' * *$+$(
) # * '
* # * '
0 #!' と #' により
Æ * )定理 !
次の補題は,$吹田,新保& の !" での定理 に対応するものである.
&#$
を区間として, ( を微分可能な関数とする.
と ) ( に対し, # ' を
補題
#"'
# ' ) # * ' #' #'
(
で定義する.つまり,
#'
# * ' ) #' * #' * # '
((
である.このとき, # ' は # を固定したとき の関数として' 連続で,すべての # '
に対し, 3
) が成り立つ.特に, 3 # ' ) である.
を固定する. ) として
証明. # ' の連続性は, #"' から明らかである. #"' の両辺を で割ると,
# ' # * ' #'
)
#'
!
なら となることを使っている.
ここでは, &
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となる,したがって,
# '
# * ' #'
) 3
#' ) 3 # * ' #'
3
) #' #' ) #'
となる.
)補題 !
(合成関数の微分法) ある区間 上の関数 ( が,微分可能な関数
と の合成 #' ) # #'' # ' として与えられているとする.このとき も微分可
能で,すべての に対し,
#$#(
定理
#' ) # #'' #'
が成り立つ.
に対し, 3
証明. 各 # * ' #'
が存在して,これが # #'' #' と等し
を固定する.このとき,#' により,
くなることを示せばよい. # * ' #'
# # * '' # #'''
) 3
# #' * #' * # '' # #'''
) 3
# #'' * # #''# #' * # '' * # #' #' * # '' # #'''
) 3
# #''# #' * # '' * # #' #' * # ''
) 3
# '
# #' #' * # ''
) # #'' #' * # #'' 3
* 3
3
# '
補題 により, 3
#'
# '
) かつ
# #' #' * # ''
# #' #' * # '' #' * # '
) 3
#' * # '
# #' #' * # ''
#' * # '
3
) 3
#' * # '
# #' #' * # ''
# '
) 3
#' * 3 #' * # '
3
)
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となるから,上式は # #'' #' と等しくなることがわかる.
)定理 !
上の定理の証明をよく見てみると,定理 " は,実は,同じ証明により,各点ごとの微
分可能性に関する次のような主張
に改良できることが分る(
(合成関数の微分法 ) ある区間 上の関数 ( が
関数 と の合成 #' ) # #'' # ' として与えられているとする.ある に
対し, #' が で微分可能で, #' が # ' で微分可能なら, は で微分可能で,
#$#((
定理
#'
# ' ) # # '' # '
が成り立つ.
逆関数の微分法は,一見したところでは,合成関数の微分法の系として,次のようにし
て得られるように思える(
#$#((
系 区間
上の微分可能な関数 について, #' が
で常に と異る値をとるものと
する. の逆関数 が存在するときには, も微分可能で,# ' #' )
#
#''
が成り立つ.
証明. を の定義域の要素とするとき,合成関数の微分法から,
#'
) #' ) #
Æ
' #' ) # #''# ' #'
だから,両辺を # #'' で割れば求める式が得られる.
$(
)系 !
しかし,この証明では #' が微分可能であることが前提として議論しているので,
この「証明」で言えているのは,もし逆関数が微分可能なら,微分係数は,#' のよう
なものにならなくてはならない,ということのみであり,その意味で完全な証明とは言え
ない.
以下で,系 の主張を更に一般化したものに,厳密な証明を与える.このために,ま
ず,以下の準備をする(
( を単調関するとする.このとき,すべての の内点 に対し,左極
限 ) 3 #' と右極限 ) 3 #' が存在して,
$#(
補題
#'
3 # ' 34 $(
が成り立つ.したがって, が で連続となるのは, ) となる丁度そのときである.
証明. 簡単のために が単調増加の場合を考える. が単調現象の場合にも同様に示せ
る.このときには # ' は #' ( の上界で, #' ( の下界だから,
) #' ( と ) 5 #' ( が存在して, # ' と
なる.このとき, )
3 #' )
3 #' となることが示せる #演習'.
)補題 "!
初等数学ノート
$#(
を区間とする.
補題
#' ( ( を 対 で連続な関数とするとき, は真に単調 で, の像 #' は区
間になる.
#' ( ( を 対 で連続な関数とするとき,区間
) #' 上の の逆関数 も
連続になる.
証明. #' ( (
) $ & ) のときには主張は自明である.そうでなければ, を となるようにとる.このとき, は 対 だから,
#!'
# ' # '
$(
または,
#'
# ' # '
$(
のどちらかが成り立つ.ここでは #!' が成り立つと仮定して議論を進める.#' が成
り立つ場合も同様にして示せる.
で となるものを任意にとる.このとき, # ' # ' となること
が示せればよい.
関数 ( $ &
$3 34 & ( $ &
$3 34 &
を,
#'
#' ) * # ' #"'
#' ) * # '
$(
$(
で定義する.このとき,すべての #'
$ & に対して,
#' #' ) # ' * # '# ' $(
だから,#' ) #' である.したがって, が 対 であることから,すべての $ &
に対し,
# '
##'' ) ##''
である.ここで,
#'
$(
$ & に対し,
#' ) ##'' ##''
とすると,すべての $(
$ & に対し, #' )
となるが, は定義から連続で,#' )
# ' # ' だから,中間値の定理により,すべての $ & に対し,#' と
なることがわかる.特に, #' ) # ' # ' つまり, # ' # ' である.
!
!
"!
吹田,新保( では対応する定理は
'
4 吹田,新保( の用語では狭義に単調.
'
吹田,新保( の用語では
'
の値域
にこの形で与えられている.
!
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は単調で連続だから,補題 により, #' はある区間の稠密な部分集合になる
たがって,再び中間値定理により, #' は区間となることがわかる.
#' ( (
) #' とすると,#' (
となり,補題 により,
から
は区間となる.区間 上の関数 )補題 !
をある区間 上で連続関数な 対 関数とする. が 能で # ' ) なら,
は ) # ' で微分可能で,
#!'
#
' # ' ) # '
)
#
し
も単調で 対
は連続である.
定理
#$#((
で微分可
# ''
である.
証明. 補題 により, は真に単調で, も真に単調で連続である.
#!'
3
#' # '
#' # # ''
) 3
# #'' # # ''
) 3
)
3
の での連続性から ) # ' ) 3 # ' だから,補題 ! により,最後の式の分
母は,
#!'
3
# #'' # # ''
# # #''' # # ''
) 3
#' # # ''
# #'' # # ''
#' # ''
) 3
) # '
である.したがって,# ' # ' ) 3
である.
# ' # '
は存在して,その値は
# '
)定理 !
#合成関数の微分法 その ' を区間として, ( を 級
とする. ( と ! ( を微分可能とするとき,合成関数 # #' ! #'' ( 0
# #' !#'' も微分可能で, に対し,
#$#(
定理
#!!'
!
# #' !#'' ) # #' !#'' #' * # #' !#''! #'
つまり,ある
Ê &# Á ¼ ¼ 5 となるようなものが存在する.
で, Á
(
'
となり,任意の
(
¼ ¼ に対し
初等数学ノート
となる .
に対し,
証明. #!'
# # * ' !# * '' # #' !#''
# #' !#'' ) 3
(
だから,この極限が存在して #!!' の右辺と等しいことが示せればよい. #!' は,
#!'
# # * ' !# * '' # #' !# * ''
# #' !# * '' # #' !#''
* 3
3
(
と等しいから,
# #' !# * '' # #' !#''
# # * ' !# * '' # #' !# * ''
#!' 7#' ) 3
#!"'
6#' ) 3
(
(
として,次の -3 が示せれば十分である.
(
6#' はすべての に対しうまく定義できて,6#' ) # #' !#'''! #'
となる.
に対し, #' を定数と見ると,定理 " から,
各
# #' !# * '' # #' !#''
) # #' ! #''! #'
6#' ) 3
となることがわかる.
),$% !
(
7#' はすべての に対しうまく定義できて,7#' ) # #' !#'''
#'
となる.
補題 と同様に,
#! '
と
に対し,
# ' ) # * ' # ' # '
(
とすれば,定理の仮定から, # ' は変数 に関し連続な関数で,すべての
#!'
に対し,
# '
)
3
(
となる.同様に,
#'
# ' ) !# * ' !#' ! #'
とすれば,各 に対し,
(
初等数学ノート
#'
# '
)
3
("
である.
#' により,
#'
# # * ' !# * '' # #' !# * ''
# # * ' !#' * ! #' * # '' # #' !#' * ! #' * # ''
) 3
7#' ) 3
ここで 2# ' ) ! #' * # ' と置くと,#! ' により,
# # * ' !#'' * # # * ' !#''2# ' * #!#' 2# ''
# #' !#'' * # #' !#''2# ' * #!#' 2# ''
3
# # * ' !#'' # #' !#''
) 3
# # # * ' ! #'' # #' ! #''' 2# '
* 3
#!#' 2# '' #!#' 2# ''
* 3
) 3
最後の式に表われる ! つの項のうち,最初の項については, -3 と同様の議論に
より, # #' ! #'' #' となることがわかる.したがって, 番目の項と ! 番目の項が になることが示せれば証明が完了する.
番目の項については,
3
# # # * ' ! #'' # #' ! #''' 2# '
) 3 # # * ' ! #'' # #' ! #''
したがって,#' により
)
3 # # * ' ! #''
#
! #' * # '
3
#' ! #''
! #'
ここで仮定により は連続だから,
)
である.! 番目の項は,
#!#' 2# '' #!#' 2# ''
#!#' 2# '' #!#' 2# ''
2# '
3
) 3
2# '
3
!
ここでの !
" は微分演算子
の
! "
と変数に代入された値 が混在した書き方になってい
る.そういう点についてもっと神経質に書くとすると,以下の定理 での記法を用いて,
とでもするべきであろう.
-
"
初等数学ノート
#! #' 2# ''
#!#' 2# ''
3 ) 3
2# '
2# '
! #' * # '
3
ここで,#' により, なら 2# '
となることと,#!' また #' により,
) # ' ! #' ) である.
),$% !
)定理 !
##$$
置換積分の定理 を連続関数として, を微分可能な関数とする.このと
定理
き
,
# #'' #' )
#' が成り立つ.
証明. "#' を #' の原始関数とする .このとき," #' ) #' だから,合成関数の
微分法により,
# #'' #' ) " # #'' #' ) #"# #'''
である.特に,"# #'' は ##4''8#4' の原始関数になっている.したがって,
# #'' #' ) "# #'' * )
#' である.
)定理 !
合成関数の微分法の意味
. 合成関数の微分法は,
「関数の合成の線型近似は線型近似の合成である」ということを意味
している.しかし,不思議なことに,このことは私の見たかぎり日本語で書かれたどの教
科書にも明示的に注意されていない.
簡単のために 変数関数 (
とする. #' は点 (
の合成を考えてみよう.#' ) # #''
で微分可能で, #' は点 #' で微分可能とする.このとき合成
関数の微分法から,#' は で微分可能となるが,点 での #' の線型近似(つ
まり接線をグラフとして持つ一次関数)を とよぶことにすると,
#' ) #' * ##' #''
である.一方 #' の での線型近似と #' の #' での線型近似は,それぞれ,
#!'
#' ) #' * # #' #''
(
初等数学ノート
#' ) # #'' * ## #'' #' # #'''
#'
(
となる.したがって,#!' と #' から,
# #'' ) # #''# #' * # #' #''' * ## #'' #' # #'''
#'
) # #'' #' * # # #'' # #'' #''
) # #'' #' * ##' # #'' #''
となる.ところが合成関数の微分法から, # #'' #' ) #' だから,これを上に代入
すると,
# #'' ) #' * ##' #'' ) #'
となって,最初に述べた「関数の合成の線型近似は線型近似の合成である」が確かに成り
立っていることがわかる.
三角関数の微分法を最小の三角関数の基礎知識から導出する
$ (/
# ' を
#"'
三角関数の基本性質( * ) #'
加法定理( # * # ' ) # * #
# '
の連続性
3
)
#'
$ (
$ (
$ (
$ (
のみから導出する.三角関数の積の公式から導くよりも力ずくだが,アイデアの飛躍は少
ない.
微分の定義から,
#'
# ' ) 3
# * ' である.これの右辺は,
#'
3
# * ' ) 3
) 3
$ (
* # '
* 3 となる.#' の最右辺の第 項は,#"' により,
!
- )!
は, をパラメタとして持つ
の を で置き換えて得られる表現であ
る.
!
微分積分学の基本定理により,連続関数に対しては,常にその原始関数が存在する.
初等数学ノート
#'
# '
3
# '# * '
# * '
) 3
# * '
) 3
* ) 3
3
* ) 3 3
) #' ) * ) 3
となる.最後の行で,二乗をとる関数の連続性, #' と の連続性が用いられてい
る.一方 #' の最右辺の第 項は,やはり #' から となることがわかるから,
全体として,
#!'
# ' ) が示せた.
定理
#'
対数関数の計算
)
で ) とするとき,
(
が成り立つ.
証明. #' を示すには,
#'
) (
が示せれば十分である.#' を示すには,#' の両辺をそれぞれ の肩に載せたもの
が等しいこと(
#"'
) (
を示せば十分である.ところがこれは,
) ) ) また,
) により成り立つ.したがって #' が示せた.
初等数学ノート
( 9: 3 5 3 ; $ ( # ' # ' <5
$ 3 9: 3 $ # ' # ' <5
$ 3 + 9: ( 3 5 3 ; $ ( # ' # ' <5 $ 3 9: 3 $ # ' # ' <5 $ 3 %$0#1
%01(
= >?@ 5 $ &
#' / #' <
5 $ & 3 5 $ &
#@' / #' <
5 $ & 3 5 $ &
#'( = @ $ & 3 # ' # ' A9 3
B? @ 3 # ' # '
#
' )
C59 $ & #@'( +
(
9: ; # 9 5 ;4' 5 3 ; $ (
# ' # '
# ' # ' *
# % ' <
5 $ 3 + 9: ( #9 @' ;4 5 3 ; $ (
# ' # '
# ' # ' *
# % ' <
5 $ 3 # ' # ' # ' # '
#' ; 5 $ (
<
5 $ 3 # ' # ' # ' # '
#@' ;4 5 $ (
<
5 $
3 = ?3 ?@ 5 3 ; $ #' / #' <
5 $ ; 5 $ #@' / #' <
5 $ ;4 5 $ # ' # '
#'( = @ 9 D33 " #' $ 3
# ' # '
A9 3 B? @ $ 3 5
# ' # ' # ' # '
) #
'
+5 = 3 5 $ 9 +93 ; #' )
# ' #' <
5 $ 5 9 D33 #
' #
'
#
' )
. C59
#@'( +
'(
初等数学ノート
コンパクト性の微積での扱い
ラグランジュの未定常数法(あるいは未定乗数法)は,
「
%&##
有界閉集合上の連続関数は最
大値と最小値をとる」という有界閉集合のコンパクト性からの帰結と組にして応用される
ことが多い.以下に,微積の講義での予備知識のみから,この定理を証明してみる.
すべての
補題
での有界点列
( %&(
は(有限の値に)収束する部分点列
を含む.
# ) ' を帰納的に次を満たすようにとる(
証明. 区間 $ ) $
& と &
#'
$ $ $ $ 0
# '
#'
#"'
%&(
) # '10
( $
& は無限集合 0
%&(
%&(
$
%&(
このような $ ) $
& と &
かる(
まず, ( # ) '
がとれることは,次のようにしてわ
は有界だから,#' を満たすような,$ がとれる.& を $
となるようにとる.$ ) $
& と & & & がとれたとき, ) * # '
とする.このとき,#' により, ( $
& または, ( $ &
の少なくとも片方は無限集合になる.もし前者が無限集合となるときには, ) ) とし,そうでないときには, ) ) とする.このとき, ( $
& は無限集合だから,この集合の要素 & で & & となるものがとれ
る.このような & を & としてとればよい.
# ' と #"' により, ( の部分列 ( は収束する .
)補題 !
任意の自然数 に対し,すべての
補題
での有界点列
E ( %&(
は収
束する部分点列を含む.
証明. ) のときには,補題の主張は,補題 と一致するからよい.主張が ) に対し成り立つとして, ) * のときにも成り立つことを示す.
E ( の有界点列とする. に対し,
E ) # ' として,
E ) # ' !
Ê で点列 Æ
を
が有界とは,ある区間
( Ê
'
にすべての
# Æ
が含まれることであ
る.
!
厳密に言うと,ここでは,
「すべてのコーシー列は収束する」という
Æ が有界とは,ある区間 '
( Ê
# '
( にすべての 6 # Æ が含まれることを言う.
!
Ê
の点列
6 Ê の性質を仮定している.
の積集合 '
(
5
#
初等数学ノート
とする.このとき,帰納法の仮定により E ( ものがとれる.一方補題 により,
で収束するものが存在する. E ( の部分列,
E ( の有界点列 ( で収束する
の部分列 ¼ ( の部分列
E¼ ( は収束する.
定理
)補題 "!
任意の自然数 に対し,
の有界閉集合 上の連続関数は常に最大
値と最小値をとる .
証明. 最大値の存在を示す.最小値の存在についても同様に示せる.まず,定理より弱い
次の命題を示す(
有界閉集合 上の連続関数 #' の値の全体 #' は有界である.
そうでなかったとして,たとえば 上の連続関数 #' の値が上に有界でないとする.
このとき #"'
で,
# ' がすべての %&(
に対し成り立つようなものがとれる. が有界だから,点列 ( も有界である.したがって,補題 により,& & & #&
' を が収束するようなものとする. ) 3 とすると, は閉集合だから, であ
る.よって #' の連続性から, #' ) 3 # ' だが,#"' から 3 # ' )
となるなくてはならず矛盾である.
-3 により, ) 5 #' ( を,
#"'
# ' #
),$% !
とすると, である. '
%&(
となるようにとる.-3 の証明でと同じように,& & & #&
' を,
が収束するようにとり, ) 3 とする. が閉集合であることから,
である. の連続性から, # ' ) 3 # ' であるが,#"' から # ' ) となることがわかる.つまり #' は で最大値をとる.
定理
定理
)
!
微分演算子の特徴付け
( # ' *$2(&
が線型で,ある実数 に対し,
Ê が有界とは,ある区間 '
( Ê に対し, '
( となることである.
は, の要素からなる点列 # Æ が収束するとき,常に % となることである.Ê
¾Æ
!
が閉集合と
での閉曲線
(端点をすべて含む曲線)は閉集合の例の一つである.
!
この定理で
の有界性は必要である.たとえば, は最大値をとらない.
5
を
Ê
全体で考えると,
Ê
は閉集合だが,
初等数学ノート
#' すべての # ' に対し,#' ) #'#' * # '#'0
#' #' ) #' となる.
証明. ) に対して主張が証明できれば十分である.そこで は,線型で, ) に
を満たすなら,すべての # ' に対し,# ' )
対する #' と #' を満たす,とする.
#' から,
#' ) #' * #'
となる .したがって, #' ) となる.よって,線型性から,すべての に対し
#' ) # ' ) #' ) である.
# ' とする.
#' #' )
)
#'
#' )
したがって,
#' ) #' * #' #' となる .両辺に を施すと, の線型性と,#' から,
# #'' ) # #'' * #' #' * $& #
'
となるが,上で見たように # #'' ) だから,
# #'' ) #' $
& ) $ & )
#'
となる.
"!
!
ここで
は恒等的に
ここでは,式
を返す関数のことである.
に対し,その式にあらわれる に式 を代入して得られる式を '(
-
であらわしている.
!
初等数学ノート
線型代数
$
以下のテキストは,神戸大学の理学系や工学系の線型代数のテキストとして使っている長
谷川 $& の補足として書かれている.記号の使い方などは,概ね $& に準ずるものとなって
いる.ただし,ここでは,自然数の全体
は を含むものとすること とし,そのこと
に対応して自然数で添字をつけるときには から始めることにする.特に,ベクトルの一
番 上 の成分は 成分と呼ぶことにし,行列の一番 上 の行は 行,一番 左 の列は
列と呼ぶことにする .
集合(集合論ではない)に関する語彙は積極的に使うことにする.特に,自然数 はそ
れより小さな自然数の集合として導入されているもの,とする.つまり ) と書くかわりに, と書け, である.この記法を用いることのメリットの一つは,
と書くかわりに
と書けることである
.
次元ベクトル空間とその部分空間
(#&
基底と次元
*$%#$
上の 次元ベクトル空間
以下では,スカラー体
とその部分空間が考察の対象となっ
ているが,ここでの議論は,ほとんどすべて,任意の体 ' 上の 次元ベクトル空間 ' について成り立つ.応用上は,とりあえずスカラー体 ' として
み加減乗除で閉じているような
#'
の部分体( と を含
の部分集合)を考えていれば十分であろう.
が 線型独立 とは,
任意の に対し,
) なら, ) )
) )と
*$%(
なること,
とする.ただし, は
のゼロベクトルである.
この定義は,
#'
) となるような は ) ) ) ) に限る,
*$%((
と表現したほうが理解しやすい日本語になるかもしれないが,線型独立性に関する数学的
議論の中では,最初の書き方の方が自然に使える(たとえば以下の証明を参照).この定
義から, が線型独立なら, はすべてゼロベクトル と異な
り,互いにも異ることがわかる(演習).
#' の否定は,
#!'
!
!
!
!
ある つまり
に対し,
) だが, ) )
) ) では
Æ 5 である.
このような添字の使い方は,多くのコンピュータ言語での行列(配列)の添字の扱いとも一致する.
集合
# に対し, と
の集合差 四則演算が定義されて,それらの演算が
は,
5
と定義される.
Ê での四則演算と同様の計算則を満たすものを体 1 という.
*$%(((
初等数学ノート
ない
である.あるいは,このことは,
すべてが ではないような,ある #'
に対し,
) となる
*$%(((
とも表現できるが,これが, が線型独立でない,ということの意味である.
に対し,
ような表現のあらわす
結合
とよぶのだった.
の元としての
の形の表現(および,この
の元)のことを, の 線型結合 # として,
'
を区別する必要があるときには,これを線型
の値とよぶことにする.
の線型結合
で, ) ) ) となるもの(このような線型
結合の値は当然ゼロベクトルとなる)のことを, の自明な線型結合とよぶこと
にすると, が線型独立であることは,
#'
の線型結合で,その値が となるものは,自明な線型結合に限る
*$%((
こと,と表現することもできる.また,この表現を使うと, が線型独立でない
のは, の自明でない線型結合で,その値が となるものが存在することであ
る,と言える.
補題 として,ある &
が線型独立でないなら, と
( ( (
$(3(
& に対して,
も線型独立でない.
証明. が線型独立でないなら,すべてが でないような で,
) となるものが存在する.( & で ( ) ( となるような ) の存在しないも
のに対して ) とすると,
) となるが,
( & はすべては ではないから,
が線形独立でないことが示せた.
)補題 !
が線型独立なら,任意の & と ( (
対して, も線型独立である
( & に
という主張は上の補題と論理的に同値であることに注意する.
より一般的には, *
#"'
任意の &
が 線型独立 とは,
と,任意の互いに異る 型独立となること
とする.この定義から,空集合
なら *
* に対し, は線型独立であることに注意する.一方 *
が線
が線型独立
である(演習).この線型独立性の定義は, #' による線型独立性の定義の
拡張になっている(
4($($*&
初等数学ノート
補題 *
が空でない有限集合のとき,たとえば,* ) として(た
$(3(
だし, は互いに異るとする), が線型独立であることと,* が線
型独立であることは同値である .
証明. * が #"' の意味で線型独立なら,この線型独立の定義から は #'
の意味で線型独立である.
* が #"' の意味で線型独立でないなら, & と ( ( ( & で,
が ##' の意味で' 線型独立でないようなものが存在する.このとき,補
題 により, も線形独立でない.
補題
)
!
注意. 教科書 $& では,
「線型独立」ではなく 一次独立 という用語が用いられていた
(講義では両方の用語を導入して主に「線型独立」という言い方を用いていた).
「線型独立」
も「一次独立」も英語では共に F (名詞形では )
である.また,$& では, 一次独立 は上の定義ではなく,それと同値な以下の #' によ
り導入されていた.
$(3(
補題 が線型独立であることは次と同値である(
任意の #'
べて (
& に対し成り立つ.
証明. ) # '
に対し,
) なら,
) がす
が線型独立であると仮定する. を,
*$%(
*$%(
が成り立つようなものとすると, # ' の右辺を移項して整理すると,
#
' ) #'
*$%(
となる.したがって, の線型独立性から,すべての (
& に対し ) つ
まり ) となることがわかる.
は # ' の成り立つような任意
の の元だったから,#' が成り立つことが示せた.
に対して,#' が成り立つと仮定してみる.このときには,
に対し, ) となるなら, #' で,
) ) とした場
逆に, が同値である,とは,二つのに現れるパラメタ(ここでの命題では # )
の真偽が一致する,ということである.もう少し具体的には,パラメタをどのように
とっても,! が成りたてば が成り立つ" と ! が成りたてば が成り立つ" の両方が言えることである.
ここで,! が成りたてば が成り立つ" はこの命題の対偶命題である ! が成り立たなければ が成り
立たない" と同値であるから, と が同値になることを示すには,! が成りたてば が成り立つ" と が成り立たなければ が成り立たない" を示せばよいことがわかる.以下の証明では,この二つを任意の # に対して示している.
!
二つの主張(命題) #
をどうとっても, と
"
初等数学ノート
& に対し,
) となることがわかる .したがって, 合を考えると,すべての (
)補題 !
とするとき, $ &Ê で, の部分空間をあらわすことにする.つまり,
は線形独立である.
$ &Ê ) #'
である.より一般的には,*
$* &Ê ) #'
( &
とする.ただし,& ) のときの
*$%((
の部分空間 $* &Ê を,
から生成される
から生成される
( *
*$%(((
は とすることにして,特殊な場合として,
$&Ê ) と考えることにする.ここに, は
のゼロベクトルである. #' と
#' は互いに抵触しないものになっていることに注意する.つまり次が成り立つ(
補題 *
が有限集合のとき,* ) と #' による $ &Ê は一致する.
とすると,#' による $* &Ê
証明. 演習.
$(3((
)補題 !
上の記法を用いると,線型独立性は次のように特徴付けることもできる(
$(3((
補題 & に対し, $ &Ê が成り立つ.
すべての (
#'
が線型独立となるのは,以下が成り立つことと同値である(
で,$
& ) だが
,
証明. が線型独立でなければ, )
*$%((
となるものが存在する.このような組 のうちの つについて,( & を ) となるような ( & のうち最大のものとすると, ) となるから, $ &Ê である.
逆に,ある ( & に対し,
$ &Ê だったとすると, で, )
となるものが存在する. ) として,( & ( * に対しては,
) とすれば,
) により $
& ) だが,
は線型独立ではない.
) となる.したがって, )補題 !
$(3((
補題 ¼ $ ¼ &Ê なら,
!
つまり,このときには,
¾
である.
!
'
5 5
¾
¼ とする.このとき,$ &Ê )
だから, により,
5
¼
5 #
#
5
¼ 5 「 5 ( で 各 に対し, を 成分とするベクトルを表わしている.したがって, ' ( 5 とは,
が少なくとも つは存在する」ということである.
となるような
初等数学ノート
$ &Ê ) $ ¼ &Ê
である.
&Ê とすると,
* $ となるものがとれる.
$ 証明. &Ê ) $ &Ê だから, ¼ * ものがとれる.したがって, )
¼
で, で, )
&Ê で,仮定により $ で,
) ¼
となる
$ ¼ &Ê
である.
$ ¼ &Ê なら も同様に示せる.
+ )補題 !
の部分空間とするとき, を
$ &Ê となること
+ が + の基底 #
' であ
る とは, は線形独立で,+ ) $ &Ê となること,とする.同様に
* + が + の基底 #
' であるとは,* が線型独立で,+ ) $* &Ê となること,と
する.
補題 と補題 により, * ) のとき, が + の基底で
あることと * が + の基底であることは同値である.
補題 ! により, が + の基底であることは,
+ の各要素が #!'
の線型結合として一意に表わせる
*$%((
ことと同値である.
$(5(
例
の 基本ベクトル #(
) ' を
( 番目
と定義する.このとき, は
補題 + を
の基底である(演習).
の部分空間として + を線型独立とする. を
をうまく選んで, $(3(
+ の基底とするとき, ( ( (
が + の基底になるようにできる.
証明. は + の基底だから,
#'
$ &Ê ) +
*$%((
初等数学ノート
となることにまず注意しておく.
がすでに + の基底となっているときには ) とすればよい.
そうでないときには, の中に $ &Ê に含まれないものがあるか
ら
,
#'
$ &Ê となるような (
のうち最小のものを ( とする.
( (
*$%(
がすでに選ばれたとき, $ &Ê ) + なら, ) )
として構成を終える.そうでなければ,$ &Ê
+
だから,#'
により(脚注 ' と同様の議論で), のうちで $ &Ê
に含まれないものがあることが示せる.そこで,
#"'
$ &Ê となるような (
のうち最小のものを ( と
*$%(
する.
この構成を続けると,ある ) ステップ目で,$ &Ê ) + と
なって, ) ) として,この帰納的構成が停止することがわかる.
ここで構成した, ( ( が求めるようなものであることを示す.
( ( (
*$%($%(
である.
& * のときには,不等式は自明に成り立つ & * として,この不等式が成り
立たないとすると,& & & で,( ( となるものがとれる. ( は #"' に
より選ばれているので,特に $ &Ê となるが,これは,
#"' または #' での ( の最小性に矛盾である.
),$% !
*$%($%(
は線型独立である.
が独立であることと,補題 #' と #"' により, は #' を満たす.したがって,再び 補題 により, は線型独立である.
),$% !
)補題 !
$(,(
系 の任意の線型独立な要素 は
の(有限個の要素からなる)基底
に拡張できる.
証明. は
適用すればよい.
補題 #'
の基底だから, と に対して 補題 を
)系 !
とするとき, ( ( ( & で,
$ &Ê ) $ &Ê かつ,
$(3(
*$%(
初等数学ノート
は線型独立
# '
*$%(
となるようなものが存在する.
証明. ( ) とする.( ( がすでに求まったとき, $ &Ê ) $ &Ê なら, ) ) * として構成を終える.そうでなければ,$ &Ê $ &Ê だから,
$ &Ê
となるような (
& が存在するか
ら,そのようなもののうち最小のものを ( とする.この構成は高々 & ステップで終了
し,そのときには,構成の定義から #' が成立している.
-3 -3 と同様の議論で,ここで構成した ( ( が求めるような
ものになっていることが示せる.
)補題 "!
次の 補題 は,$& の補題に対応するものである.$& での,この補題の証明
により示すことができるが,$& での議論の道筋では,
の部分空間が無限集合になって
いるような基底を持つ,という(実際にはありえないことが後で証明されるところの)可
能性が処理しきれていない.この問題を選択公理を用いずに処理するためには ,以下で
のような議論の筋道が必要になってくる.
0(*+(+(*$%
補題 を任意の自然数とする.ある自然数 & に対し, が
の基
底になっているなら,& ) が成り立つ.
証明. $& の の補題の証明を参照.
+
系 の部分空間として,*
を
)補題 !
成り立つ .
+
を線型独立とするとき, * が
証明. 要素を 個以上持つ + の基底 * があったとして矛盾を導く. *を
互いに異る * 個の * の要素とする. は線型独立だから,系 により, は + の(有限個の要素からなる)基底 に拡張できるが, の要素の数は * 大きいものになるから,補題 に矛盾である.
正の自然数 に対して,
し,
)系 !
には標準的な基底 , , が存在するのだった.しか
のすべての部分空間が基底を持つかどうかは,よく考えてみると,それほど自明
なことではない.選択公理を仮定すると,すべての線型空間は基底を持つことが証明でき
!
#
#
もし #
Ê (
'
はすでに
"!
Ê Ê
がすべて
#
(
'
#
Ê に含まれているとすると,
により,
だから, Ê
Ê が成り立つ.したがって, (
'
#
(
5
5
'
の基底になっていることになり,仮定に矛盾である.
一般の線型空間で基底や次元を議論するためには選択公理が必要である.さらに具体的に言うと,
「すべて
の線型空間に基底が存在する」という主張は,集合論の他の公理上,選択公理と同値になることが知られてい
る.ここでは,ある自然数
に対する,Ê の部分空間という特別な形の線型空間に議論を制限しているため,
選択公理なしで基底や次元の議論ができているのだが,そのことを明らかにするためには,実際に選択公理を
用いずに議論を展開してみせる必要がある.
!
集合
に対し,
で の要素の個数をあらわす.
$(,(
!
初等数学ノート
るため,これを仮定して議論していれば,基底の存在で悩む必要はないのだが,
の部
分空間に関しては,選択公理の仮定なしで基底の存在が保証できる(
系 +
$(,(
を
の部分空間として, + が線型独立のとき, を拡張して + の基底を作ることができる.特に,+ は基底を持つ.
証明. を + の線型独立な要素とする.このとき, を, が + の基底になるように,次のように帰納的に構成する( が, が線型独立になるように,既に選ばれたとき,$ &Ê ) +
なら, ) として構成を終える.そうでなければ,
#'
+ $ &Ê
*$%(
となるように をとる.仮定から, は線型独立だから, #' と補題 に
より, も線型独立である.系 により,この構成は ステップ内の,あ
るステップ で停止する.このときには,構成の仕方から $ &Ê ) + が成
立しており,したがって, 系 +
は+
の基底である.
)系 !
$(,(
を
の部分空間として,* と * をそれぞれ + の基底とする.この
とき * も * も + の有限部分集合で, * ) * が成り立つ.
証明. * と * がともに + の有限部分集合になることは,系 によりよい.* ) * ) ¼ で,& &
だったとして矛盾を導く.
G ) を拡張して の基底 *
系 により, G ) ¼
られる.ここで,*
が得
とすると,補題 " と 補題 により,
*G は線型独立になる.したがって,*G も の基底になるが, *G *G だから,こ
れは 補題 に矛盾である.
)系 !
をある自然数として,+ を の部分空間とする.このとき,系 により,+ の
基底 * が存在する.系 により,* は有限集合で,系 ! により,+ のすべての基
底の要素の数は * と一致する.そこで * を + の 次元 #' とよび,3#+ '
とあらわすことにする.例 により 3# ' ) である.
次の定理では
の部分空間が有限次元であることが本質的である.実際,無限次元
の線型空間に対しては,次の #' も #@' も,一般には成り立たない.
定理 ある自然数 に対し + と + を
#' +
+ #@' *
+
の部分空間とする.
なら,3#+ ' 3#+ ' が成り立つ.
が線型独立で * ) 3#+ ' なら,* は + の基底である.
証明. #'( * を + の基底とする.系 により * は + の基底 * に拡張できるが,
+ + から * は + の基底でないから,* * である.* と * は有限集合だから,
このことから 3#+ ' ) * * ) 3#+ ' がわかる.
!
初等数学ノート
#@'( *
+
が線型独立なら,系 により * は + の基底 * に拡張できるが,
* ) 3#+ ' で,3#+ ' は有限だから,* ) *
である.つまり * はすでに + の
基底となっている.
)定理 !
線型写像の行列表現
%$/
以下では は自然数とする.ただし (または )が のときは,
は のこととする.区別をする必要があるときには,
# * ' ) #' * #'0
#'
#' ) #'
(または
のゼロベクトルを Ê ゼロベクトルを Ê であらわすことにする.
写像 ( が 線型写像 である,とは,すべての #'
と
)
の
に対し,
$(%&(
$(%&(
が成り立つことである.
ここで,等式 #' の左辺の * はベクトル空間
の加法であるのに対し,この式
の右辺の * はベクトル空間
での加法であることに注意する.同様に等式 #' の左
辺の 倍 はベクトル空間
でのものであるのに対し,この式の右辺での 倍 はベ
クトル空間
での演算である.
このことを注意してもう一度線型写像の定義を見てみると,
が
から
保存しつつ
への線型写像である,ということは,
の要素を
が
の加法と定数倍を
に移すような写像になっていることである
が 対 写像のときには,
と解釈することができることがわかる.特に
法と定数倍に関する構造を保つような)
は
の(加
への埋め込みになっている,と考えることが
できる.
$((
例 #' すべての に対し,Ê を対応させる写像は,
である.
#' として, )
に, )
は,
から
#!' のとき, ) ら
への線型写像である.
!
"
ではなく !
"
への線型写像
を対応させる写像
に, )
を対応させる写像は,
か
#' として, を 行列とするとき ,
!
から
への線型写像である.
(
となっていることに注意する(誤殖ではない77).
を,
に
!
初等数学ノート
' ) (行列 とベクトル の積)となるものとして定義すると,
#
対して
から
行列 により
(
#
は,
への線型写像となる.
上の 例 #' は本質的である ( 実は,すべての線型写像
補題 が,ある として一意に表わせることを後で示す(補題 を参照).
$(
が線型写像で,&
') (
のとき,
# '
が常に成り立つ.
証明. & に関する帰納法で示せる(演習).
(
写像
が線型写像のとき,
)補題 !
の 核 # ' と 像 #' をそれぞれ以下
で定義する(
#'
',-# ' ) #!'
$# ' ) 核も像も
#'
(
#' ) Ê 0
( ) #' となる が存在する $(%&(
への(必ずしも線型写像ではない)任意の写像に対しても同様に定
(
$(
を線型写像とする.このとき以下が成り立つ(
#Ê ' ) Ê である.特に,Ê
#'
$(%&(
が線型写像のときには,これらは特別な意味を持つ対象となる (
義できるが,
補題 から
',-# ' Ê
$# ' が成り立つ.
が 対 写像となるのは, ',- # ' ) Ê となるちょうどそのときである.
#!' ',- # ' は
#' $# ' は
の部分空間である.
の部分空間である.
#' #次元定理' 3#',- # '' * 3#$# '' ) である.特に 3#$# ''
ら, 3#',-# ''
が成り立つ.
だか
証明. #'( Ê ) Ê (右辺は Ê のゼロ倍)に注意すると, #' により,
#Ê ' ) #Ê ' ) #Ê ' ) Ê
である.
が 対 写像なら,',- # ' はただ つの要素からなるから, #' により,
#'(
',-# ' ) Ê でなくてはならないことがわかる.
逆に ',-# ' ) Ê だと仮定してみる.このとき,任意の #' ) # ' とすると,#' と #' により,
に対し,
はそれぞれ, 5 'Ê(# 5
'Ê ( と表わすこともできる.ただし,ここで用いられている ! " は の逆対応(二項関係としての の逆を考えたもの)を表わしていて,必ずしも の逆写像ではない( が逆写像を持たないときにもこの記
!
集合論で通常使われる記号を用いると, と
号を使う)ことに注意する.
!!
初等数学ノート
# ' ) #' # ' ) Ê
となるから,仮定により, ) Ê したがって, ) である.よって,
である.
#!'( 任意の ',-# ' と せばよいが,これは,
#
') に対し,
Ê
# ' )
',-# ' となることを示
) Ê
により成り立つ.
#'( 任意の は対
$# ' と,
に対し,
$# ' となることを示
せばよい.
$# ' により, る.このとき,
) だから, $#
'
# ' ) #
で, ) # ' ) # ' となるものがとれ
' である.
#'( 3#',- # '' ) として, を ',- # ' の基底とする.このとき,
系 と 補題 により, の拡張 で
なっているようなものがとれる. ) として, )
) # ' とする. # ' )
の基底に
#
'
が $# ' の基底になっていることが示せれば十
分である.
まず, の線型独立性を示す.もし が線型独立でなかったとす
ると,すべては でない で,
) となるようなものが存在す
) る.補題 により,
',-# ' となる.したがって, '
) #
'
の選び方から,
となるものがある.したがって,
#
で,
だから,
)
) となるが,
( は全部は でないのだったから,これは, ( の独立性に矛盾である.
あとは, が $# ' を張ることを示せばよい.このためには任意の $# ' が の線型結合としてあらわされることを示せばよい. $# ' か
ら,
で #' ) となるものがとれる. は の基底だったから,
で)
となるものがとれるが,このとき の線型性から,
') ) #' ) #
# '
である.ここで, # ' ) ( で, # ' ) ) だから, )
である.
)補題 !
!
初等数学ノート
補題 (
とするとき ,
と!(
#'
# ' ) ! # '
なら,
と ! は等しい .
証明. を
)
$(
を線型写像とする. を
$(%&(
の任意の要素とするとき, #' ) ! #' が成り立つことを示せばよい.
となるものがとれる.このとき,
の基底
# ' ) ! # '
これは次のようにして示せる( は
仮定から,
#' ) #
') # ' )
の基底だったから, で
と ! の線型性 #補題 ' と,#' の
!# ' ) !# ' ) !#'
が成り立つ.
)補題 !
に対し, ) #
' #) ' として,. ) $ & とする.. は 行列である.
行列 . に対し,線型写像 ( を #' ) . で定義するのだっ
た(. は 行列 . と 次元ベクトル の積である).
任意の線型写像
(
補題 #'
は,
(
$(
を任意の線型写像とするとき,
となるような唯一の 行列 である.
)
である.特に,.
)
#' を任意の 行列とするとき, . ) である.特に,
なるような唯一の
から
証明. #'( ) に対し,
は,. ) と
への線型写像である.
# '
したがって,補題 により,
) . ) $ & ) ) # ' である.
)
が示せた.
. の一意性の証明には,二つの異る 行列 に対して ) が常に成り
立つこをが示せれば十分である. ) $ & ) $ & として, ) なら,) で, £ ) £ となるものが存在するが,このとき,
# £ '
となるから,
) £ ) £ ) £ )
£ )
)
# £ '
である.
#'( ) $ & として,. ) $ & とすると,. の定義から,
) に対し )
# '
) ) である.したがって, ) . となることがわ
かる.
!
!
補題
により,Ê
つの写像
の任意の基底は
# が等しいとは,
と
個のベクトルからなる.
の定義域が等しく,定義域のすべての要素 について 5 が成り立つことである(このことは写像の概念の(厳密な)定義から導ける).
!
初等数学ノート
の一意性の証明ためには, ! を異る
から
への線型写像とするとき, )
!
なら, . )
. となることが示せればよい. )
! とすると,補題 により,) で, #
£ ' ) ! # £ ' となるものがとれる.このとき,
. ) $ #
' # £ ' # '& ) $! ' ! # £ ' ! # '& ) .
である.
)補題 !
/ ! ( / 0 の合成を ! Æ であらわすことにする. ! Æ
で, * に対し,#! Æ '#' ) ! # #'' である.
(*
写像
補題 (
と ! (
を線型写像とするとき, !
(
0
$((
Æ
も線型写像で
ある.
証明. 演習.
対応 )補題 "!
は,行列の積と線型写像の合成を対応させるものになっている.
補題 を 行列, を 行列とするとき,
ら
への線型写像だが,さらに
証明. 任意の Æ
#
に対し,
)
Æ
Æ
$((
はともに
か
が成り立つ.
' ) # ' ) #' ) #' )
#
'' )
# #
' である.
)補題 !
連立方程式の解の全体の構造
#%(+(6#
前節までに導入した用語や結果を連立一次方程式の解の全体の構造に関して適用すると,
次が分る(
を 行列として,連立方程式 ) を考える,ここに は 個の
変数 を成分とするベクトルで である.このとき(
6(##%
定理 #' ) に対応する斉次方程式 ) の解の全体 1 は ',-#
る.したがって,補題 " #!' により,1 は
3#1 ' である.
#' ) が解を持つのは, $#
'
'
と一致す
の部分空間で,補題 " #' により,
となるちょうどそのときである.このとき
には, をこの連立方程式の解の一つとすれば, ) の解の全体を 1 とすると
#'
1 ) 1 * ) * ( 1 である.特に ) が解を持てば,解の一般解は, 個以下 個以上のパラメタ
を持つものとなる.
証明. #' を示せば,残りは前に述べたことから明らかである.
1 * とすれば, 1 で ) * となるものがあるが, ) だから,
) # * ' ) * ) 2 * ) ) となり も ) の解である,つまり
1 であることがわかる.
$(
初等数学ノート
!"
1 とすると, ) として ) * だが,このとき ) # ' )
) ) となるから, は ) の解で,つまり 1 となり,
1 * 逆に
がわかる.
$& 長谷川 浩司,線型代数,日本評論社 #'
)定理 !
!
初等数学ノート
確率と統計
#$#$#
付値の和の期待値
/&*(
次の演習問題とその解答を見てください(
$#
演習問題 円硬貨が 枚, 円硬貨が 枚, 円硬貨が 枚ある.これらの中か
ら無作為に
! 枚取り出すとき,それらの金額の和の期待値を求めよ。
解答! 上のような貨幣の全体から硬貨を無作為に 枚取り出すときの金額の期待値は,
* * **
) "
だから,この貨幣の全体から硬貨を無作為に ! 枚取り出したときの金額の期待値は," ! )
" である.
上の議論は本当に正しいのでしょうか? 特に脳天気に ! 倍しているところなど,本当
にこれでいいのか不安です.しかし,この計算で得られる答え自身は正しいのです.そこ
で,以下で,上の計算がなぜ正しい答を導くのかを見てみようと思います.
まず,上の論法をほぼそのまま正当化することを試みてみましょう.そのために,次の
ような一般的な定理を用意しておきます(証明は,たとえば,$小寺平治(ゼロから学ぶ統計
解析& の " を参照)(
定理 * * を確率変数とする. を実数とするとき,
#!'
3 # * * * ' ) 3 #* ' * * 3 #* '
が成り立つ.ただし,3 #
' で確率変数
の期待値 #4 ;5' をあらわす.
E
ここで,
「確率変数とは測定(あるいは観測)をすると実数値が返ってくるようなもの」の
ことだと思ってください.たとえば上の例では,
「 円硬貨 枚, 円硬貨 枚, 円硬
貨 枚から中から無作為に三枚とり出したときの一枚目の硬貨の金額」を確率変数ととら
えることができます.一方 * * * * は * の返した値の 倍, , *
の返した値の 倍を全部足して得られる値を返す確率変数のことです.
簡単のために, (
$ というとびとびの値をとる確率変数 * を考えることにして,
* が値 を返す確率が 4 とすると,* の期待値は, 4 で定義されます.
!
ここでは「無作為」とは
!0%8"
の訳語として使っています.無作為という単語は難しすぎると判断
されたためか高校の教科書には出ていないようです.ようするに「でたらめに」ということですが,どうもこ
の「でたらめ」という言葉も高校の教科書では使われていないようです.多分「でたらめ」のネガティヴな響
きを嫌った結果だのだろうと思うのですが,科学では,日常語のしがらみをたちきって思いきった言葉の使い
9 9 9
為的にでたらめをする,とい
方をする,ということがぜひとも必要なのです.日常語の「でたらめ」には,作
う意味も含まれているので,誤解をまねく可能性ももちろんあるわけですが,それにもかかわらず,このよう
なビビッドな日本語を何かのガイドラインのようなもので教科書から締め出してしまうのはやはり問題のよう
な気がします.
&(
!
初等数学ノート
上の定理で注意したいのは,* * の間の関係如何によらず #!' が成り立つと
いうことです.
さて,定理 ! を用いて上の問題を再考してみましょう. * * * をそれぞれ「
円硬貨 枚, 円硬貨 枚, 円硬貨
枚から中から無作為に三枚とり出したときの
一枚目の硬貨の金額」,
「 円硬貨 枚, 円硬貨 枚, 円硬貨
枚から中から無作
為に三枚とり出したときの二枚目の硬貨の金額」,
「 円硬貨 枚, 円硬貨 枚,
円硬貨 枚から中から無作為に三枚とり出したときの三枚目の硬貨の金額」を返す確率変
数とします.このとき,3 #* * * * * ' が求める期待値となります.定理 ! により
3 #* * * * * ' ) 3 #* ' * 3 #* ' * 3 #* ' です.ところが,各 * ( ) の期待
値 3 #* ' はそれぞれ " だから,3 #* * * * * ' ) " ! ) " となる.
さて,これで一件落着のように見えますが,ごく厳密には,上で「各 * ( ) の
期待値 3 #* ' はそれぞれ " だから」と言ったところで,まだ問題が残っています.
「 円
硬貨 枚, 円硬貨 枚, 円硬貨 枚から中から無作為に一枚とり出したときの一枚
目の硬貨の金額」を与える確率変数だったら期待値が " になることは明らかですが,三
枚とったうちの一枚の期待値がこれと同じ値になる,というのは,直観的には正しそうに
思えても,それ以上の保証がないようにも思えるからです.この点を厳密な議論でうめる
ことも,もちろんできますが,ここでは,新しくアプローチしなおして,演習問題 ! の
一般化となっている,次の命題を直接証明することを試みてみることにします(
定理 ある対象 5 5 を考える.各 5 #
が付されていると
)を無作為に取り出すとき,それらの値の和
する.5 5 から 個(ただし の期待値は,
& ' には値 である.
演習問題 ! は,上の定理で,たとえば, ) * *
) ) ! 5 5 は
円硬貨,5
5
は 円硬貨,5 5 は 円硬貨として, )
) ) ) としたときの定理による期待値(
) ) !
)
!
* * * * * * * * 個
個
個
) と一致します.
この定理の証明は次のようにして行うことができます.まず,
$ ) / ( / / ) とします.ただし / で集合 / の要素の個数をあらわします.つまり,$ は から 個の要素を集めてできる集合のすべてを集めてできる集合となっています. $ )
に注意します.このとき,5 5
5 ( & / /
$
から 個選ぶ選び方は
!
初等数学ノート
と列挙でき,これらはすべて同じ確率で選ばれるとすると,それらの一つが選ばれる確率
は
となることがわかります.5 ( & / が選ばれたときの値の和は,
とあ
らわせるので,問題となっている期待値は,
#!'
)
となることがわかります.この式の右辺をよく見ると,
それぞれ
のところは,各 を
個足しあわせたの和になっていることがわかります.つまり
)
#!' )
&(
# 'H
H# 'H
)
H
# 'H# 'H
となることがわかり,定理が証明されました.
)定理 !
上の定理からわかることの一つは,5 5 から 個順にとり出していったときのそ
れぞれの値の和の期待値も, 回とりだして戻すことを繰り返したときのそれぞれの値の
和の期待値も同じになる,ということですが,直観的には,これはなんとなく不思議な気
がします .
ポアソン分布
&$#
ある に対し,確率変数 * が,
#!!'
6 #* ) &' )
,
&H
& ) &$##(
を満たすとき,* はポアソン分布 #I
@5' 6 5#' に従う,という.ポア
ソン分布 6 5#' に従う確率変数は,
#!'
単位時間あたりの平均発生回数が の事象で,
#' それぞれの時刻での,この事象の発生(または非発生)が他の時刻での,
この事象の発生(または非発生)と独立である
ようなものについて,その事象が(ある測定での)単位時間内に起る回数を返す
!
ここで書いたような考察は,
「うるさい」と感じる人も多いのではないかと思います.確かに,数学的能力
の十分にある人は,最初に解答としてあげた説明を読めば,自動的に,その後に書いたことに対応する数学的
内容を頭の中で補間して,次に進むことができるはずです.また,それのできない人はいずれにしても数学は
分らないのだから説明しても無駄だ,という議論も成立するのかもしれません.
!
発音は !プワソン" の方が原音に近い フランスの物理学者,数学
%:
- ; <
者.音響学,剛体の弾性,熱伝導,電気伝導などに関する仕事がある.
&$##(
初等数学ノート
ものになっていると考えられる.このことを念頭に置くと,ポアソン分布の次のようなタ
イプの応用が考えられる(
例 ある国で 年の間に歴史上の大地震が ! 回起っている.大地震の起る回数がポア
!
ソン分布に従うと仮定して計算すると,この国での一年間の大地震の平均回数は,
)
! と考えられるから,この国である年に大地震が起る回数を与える確率変数を * とし
て, 年にここで大地震が起る確率は,
6 #* ' ) 6 #* ) ' ) ! ,
) ! H
となる.
上の応用例では,地震の発生の状況が時間変化しないことと,発生が #!' での #' を満た
していると仮定してよいかどうかが,ポアソン分布をこの問題に応用するのが妥当かどう
かを評価する際のポイントになるであろう.地震の研究がご専門の中部大学理学教室の工
藤健先生によると,地震の発生回数の分布がポアソン分布によく合致する地域もある,と
いうことである.
以下で,#!' の分布が,なぜ #!!' の式で与えられると考えられるかを考察する.
今,単位時間を 個の微小時間のセル #細胞' に等分することを考える(
単位時間
個のセルへの分割
は十分に大きくとってあり,一つ一つの微小時間のセル内で,ここで考えている事象が
回以上起る確率は無視できるものとする.このとき,各セル内で,この事象が発生する
確率は,4 )
と考えられる. #!' #' により,それぞれのセル内で事象が起るかどう
かは,他のセル内で事象が起るかどうかとは独立と考えられるから,事象が起った微小時
間のセルの個数 単位時間内に事象の起った回数は二項分布 (# 4' に従うと考えられ
る.したがって,このような事象がちょうど & 個のセルで起きる確率は 4 # 4'
で与えられる.この値が,#!' のような分布を持つ確率変数 * の 6 #* ) & ' の値の近似
となっていると考えられるが,この近似は を大きくするほど精度が上るので,
6 #* ) &' ) 3
4 # 4'
とすればよいことがわかる.ところが,この右辺は
命題 として,&
3
が成り立つ.
,
&H
に一致する(
とする.このとき,
)
,
&H
初等数学ノート
証明.
H
&H # &'H
)
だった.このことと,数列の積の極限は各々の数列の極限の積と一致することから,
H ) 3
&H # &'HH ) 3
&H # &'H H
)
3
3 3 &H
# & 'H 3
)
,
&H
となる.上式の最後の等号のところでは,以下のような部分計算 #' #' #!' が用いられ
ている(
#'(
H
# & 'H # '
# & * ' # &' # & '
) 3
# &' # & '
3
コ
# '
# & * '
) 3
)
コ
#'( , が,
, ) 3 # * ' と表わせることと,任意の に対し,関数 が連続であること(ここでは ) を考える)を用いる.
今, ) とおくと, なら だから,
3 ) 3 # * '
) 3 # * ' )
3 # * ' ) ,
である.
#!'( #' と同様に,関数 の連続性から,
3
である.
)
3
) ) )命題 !
初等数学ノート
!" の定理と大数の法則
* を確率変数として, #' を * の確率密度関数とする.つまり,可測集合 し,* の返す値が に入っている確率 6 #* ' は,
#!'
6 #*
' )
,'#'
に対
#'
*%(
となる.
3 #* ' で * の期待値を,7 #* ' で * の分散をあらわす.
#!"'
3 #* ' )
#'
7 #* ' )
*%(
#!'
3 #* '
#'
*%(
である.
#' を( から への)可測関数するとき, #* ' で * と共時的な確率変数で,試
行したとき * の返した値が のとき #' を返すようなものをあらわすことにする.
これは,理論的な枠組の中では, #* ' を,すべての可測な 8 に対して
#! '
6 #/
8 ' ) 6 #*
8'
*%(
となるような(確率密度関数を持つ),確率変数 / とする,ということである.このとき,
#!'
3 # #* '' )
#' #'
*%(
となる.
,'(
補題 * を確率変数とするとき,
7 #* ' ) 3 #* ' #3 #* ''
が成り立つ.
証明.
#' を * の確率密度関数とすると,
7 #* ' )
# 3 #* '' #'
)
3 #* ' * #3 #* ''
#'
)
#' 3 #* '
#' * #3 #''
#'
) 3 #* ' #3 #* ''
! )補題 !
!
初等数学ノート
定理 " #$# * を確率変数とするとき,任意の に対し,
'(
6 #* 3 #* ' ' 7 #* '9
が成り立つ.余事象に翻訳すると,
6 #* 3 #* ' ' 7 #* '9
である.
証明.
#!'
#' を * の確率密度関数とする.このとき,
7 #* ' )
# 3 #* '' #'
'#'(
)
*
! # 3 #* '' #'
! ! # 3 #* ''
#' *
! # 3 #* ''
! #' *
#' *
! ) 6 #*
3 #* ' '
! ! # 3 #* '' #'
# 3 #* '' #'
#'
となるから,この両辺を で割ると求める不等式が得られる.
)定理 !
*%(
補題 * と * を共時的な確率変数として, を定数とする.このとき
#' 3 #
* * * ' ) 3 #* ' * 3 #* ' が成り立つ.
#' * と * が独立なら,7 #
* * * ' ) #
' 7 #* ' * #
' 7 #* ' が成り立つ.
証明. ! # ' を * と * の同時確率密度関数として,
と * の周辺確率密度関数とする.
# ' )
!# ' # '
)
# '
# '
をそれぞれ *
!# '
である.このとき,
#'
3 #
*
*
* ')
#
* '! # ' Ê
)
!# ' * !# ' Ê
Ê
)
# ' * ) 3 #* ' * 3 #* '
# '
初等数学ノート
#' 仮定から ! # ' )
7 #
* * * ' )
)
Ê
# '
# '
である.したがって,#' を使うと,
#
* 3 #
* * * '' ! # ' #
* #
3 #* ' * 3 #* ''''
# ' # ' )
#
'
# ' # ' *
#
'
# ' # ' Ê Ê
*
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3#* '' # ' # ' * Ê #
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Ê 3#* '3#* ' # ' # ' Ê 3#* ' # ' # ' Ê 3#* ' # ' # ' Ê #
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#
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' 3 ##* ' ' * #
' 3 ##* ' '
*#
' #3 #* '' * #
' #3 #* ''
*
3 #* '3 #* '
*
3 #* '3 #* '
3 #* '3 #* '
3 #* '3 #* '
#
' #3 #* ''
#
' #3 #* ''
) #
' 3 ##* ' ' #
' #3 #* ''
* #
' 3##* ' ' #
' #3#* '' ) #
' 7 #* ' * #
' 7 #* '
)補題 !
定理 大数の法則 * * * を,独立な,同じ確率分布を持つ確率変数で : )
3 #* ' ) 3 #* ' ) 3 #* ' ) ; ) 7 #* ' ) 7 #* ' ) 7 #* ' ) とする.
*E )
*
とするとき,任意の に対し,
E : ' ) 3 6 #*
が成り立つ.
'(
初等数学ノート
E ' ) : である.一方,補題 ! #' により, 7 #*
E ' )
証明. 補題 ! #' により,3 #*
; である.
したがって -9@F9; の定理(定理 !")により,
6 #*E : ' ) 6 #*E 3 #*E ' ' 7 #*E '9 ) ; 9 である.
)定理 !
"
初等数学ノート
正規分布と #$
.#$#
正規分布の密度関数 #@@F F 5 ' の正規化のための積分計算(
,
) 3
) 3
#
"
) 3
"
,
"
7 #
,
,
,
)
- - "
$ ) したがって,
である.
を密度関数 3 #' ) だから,
,
を持つ確率変数とする.このとき,密度関数の対称性から
7 -#' ) 3 ## 3 #'' ' ) 3 # '
)
,
)
,
)
,
*
)
*
)
,
#部分積分の定理による'
平均値が 分散が となるような正規分布を標準正規分布とよぶが,標準正規分布は,上
の計算から, に を代入した
,
を確率分布関数として持つことがわかる.
を標準正規分布に従う確率変数とするとき,
)
3 # ' ) )
,
,
)!
)!
,
,
! ,
初等数学ノート
となる.より一般には, を正規分布に従う確率変数とするとき, 3 # ' ) !#3 # '' と
なることがわかる.ここで,確率変数 に対しその 5 を
&-#' ) 3 # ' !#3 # ''
と定義すると,これは が正規分布のときに &-# ' ) となるような の不変量となる.
初等数学ノート
初等数論
%('
"
以下の文章は,今のところ,ある程度の数学の素養を読者に仮定したものとなっているが,
後で拡張してもっと初心者向けのテキストにするつもりである(
先日,職員食堂でコンピュータ・リテラシーの講義を受けもっている先生から
#'
どんな数でも, 乗した結果の の桁と,もとの数の の桁は同じになる
(("(
というのが昔から気になっていたのだが,これは何でなのか,という質問を受けた.もち
ろん,#' の証明には, から までの数について,このことが成り立つことを計算で示
せば十分である.試しにやってみると(
!
!!
!
!!
! となるから,確かによい.しかし,この計算は何でそうなるのかということを何も説明し
ていないように思える.
そこで,この場合は, 進法の数表示だったが,一般の 進法ではどうかを考えてみ
ることにする.つまり,任意の について,
どんな数 &
#'
でも & の 進法表示の 桁目の数字と & の 進法表示の 桁
(("(
目の数字が同じになる
という主張を考えてみる.この主張が,すべての に対し成り立つわけでないことは, が素数の場合について考えてみれば分かる.このときには,フェルマーの小定理が答を与
えてくれる. で を法とする整数の同値関係を表すことにする.つまり & き,&
& である.
定理 し,& %
#フェルマーの小定理からの帰結' 4 を素数とするとき,任意の &
% である.特に,任意の & に対し & %
% & となる.
のと
に対
+%
したがって 4 が素数の場合には任意の数の 4 進数表示の 桁目は,その数の(4 乗で
はなく)4 乗の 4 進数表示の第 桁と等しくなる.
定理 を使うと,次の補題が示せる(
補題 ) 4 で 4 は素数とする.このとき,任意の &
に対し &
& となる.
&
初等数学ノート
' ) & &
証明. & ) のときは,等式は明らかである. &
とするとき, & &
)
& ) &#&
) &#& '#& * ' となるが,定理 %
により,&
は 4 の倍数となり,& か &% * の,少なくとも つは の倍数である.
したがって,& & は の倍数であることがわかる.つまり & & である.
&
%
% %
%
%
)補題 !
系 が素数の 倍のとき,任意の正の数 & の 進数表示の第 桁目の数字は, & の 進数表示の第 桁目の数字と等しくなる.
) だから, 進法表記は系 ! の適用範囲に入っていることに注意する.した
がって,補題 が #' の背後にある数学的事実を述べたものとなっている,と考えるこ
とができる.
次の補題も同様に証明できる(
補題 ) #
#!'
&
'
とするとき,任意の &
に対し,
&
(("(
となる.
証明. に関する帰納法で示す. ) のときは明らかである. ) に対し #!' が成
り立つことが示せたとして, ) に対しても,#!' が成り立つことを示す. ) とする.& ) のときは #!' が成り立つことは明らかだから, & )
とする.
&
& ) &
& ) & & ) &#&
) & &
) & #&
'#&
7
'
* '
は帰納法の仮定から の倍数で,& か & * の,少なくとも
つは の倍数である.したがって,& & は ) の倍数であることがわかる.
つまり & & である.
となるが,& )補題 !
系 が の羃乗のとき,任意の正の数 & の 進数表示の第 桁目の数字は, & の
進数表示の第 桁目の数字と等しくなる.
これらの結果から, 進数, 進数
進数, 進数," 進数といった我々が通常に用いる
数表示では,常に #' と同様の性質が成り立つことが結論される.
以上を書いた後で,補題 はさらに以下のように一般化できることを $& で知った.
補題 を平方因子を持たないような正の自然数とする.つまり, は異なる素数の(
乗の)積の形に表せるようなものとする.このとき,正の自然数 が ば.すべての整数 に対し, す.
を満たせ
が成り立つ.ただし, #' でオイラーの関数を表
初等数学ノート
#' ) だから, である.したがって,補題 " により,十進数表示について
は,数の第 桁の数字と,その数の 乗の第 桁の数字も常に等しくなることがわかる.
上の議論は,この節の初めに述べた,計算による #' の証明に比べて,#' の,よ
り本質的な説明を与えているとは言えないだろうか.
「一般論は分りにくい」というのは一
般的な偏見のような気がするが,上の議論は,一般論を行うことによって,本質がより深
く見えてくることの つの好例になっていると思う.
$& 楫 元,公開鍵暗号を解読せよH J 君もスパイになれるK J 数学通信,#' #'
L!
初等数学ノート
補題 無理数 で が有理数になるようなものが存在する.
証明.
が有理数なら, )
) とすれば,
)
)
とすればよい.そうでないなら, )
) # '
)
) # ' ) となる .
)補題 !
*
* # * '
と
) * *
3
を組み合せると,すべての有理数は,それぞれ異なる分母を持つ単位分数 #5 J
分子が の分数' の和に書けることがわかる.しかも, つの数に対し,このような表現
は無限に存在する(これは /@ #D # KK'' によるものらしい $I5
M>3 N9 3 9 ; F 53@& からの孫引き).
が与えられたとき, ) ) として,
以下の議論も /@ による(
) のときには,
) 3 (
として,
) ) とする.
)
である.
演習問題 このプロセスは,有限回のステップの後,ある & で £ ) となって停
止する.
ヒント
ら,
の選び方から,
#
また
である.
から,
5
したがって
とすると,
か
である.
このとき,
)
* *
£
となる.
!
実は
Ô
が無理数となることは知られているらしい.しかし,この証明の面白いところは,この事実を
知らなくても証明ができてしまうところであろう.
初等数学ノート
ブール代数
* と / を , として, ( * / を 55 な 5O と
する.このとき,G ( <54,#/ ' <54,#0 '0 = #= ' は 3@ となるが,次
( #
補題 の同値が成り立つ:
は 3 G は ;F 3 3@
(この同値は P@ の IO; +@ では 9 を介して証
明してあるが以下で直接証明を与える.
)
証明.
( = *
を とする. は 3 だから, = は / の
5@ である.つまり, = <54,#/ ' = # = ' (つまり <54,#* ' )
= G# = ' )だが,G# = ' は = の G <54,#/ ' への 5 O になってい
<54,#/ ' で = る: 7
#7 ' なら, =
#7 ' ) 7 だから, # = ' #7 ' となるからである.
( が 3 でないなら, な > * で > となるよう
なものがとれる. は 3 だから, > は であることに注意する.
> は G <54,#/ ' への 5 O を持たないことを示す: = <54,#/ ' を
#= ' > となるものとする.このとき, = > だが, > は ではないの
で,= > は空でない となる.したがって(* は , だから)空でない
7 = > がとれる.このとき,= ) = 7 とすると,= = で = >
となる.したがって G#= ' は > の 5 O ではない.
補題
)
!
グラフ理論
&'('
定理 #平面上' 多角形の頂点を結ぶことで得られるグラフの頂点は,辺で結ばれた 点
が異る色を割り当てられるように ! 色で塗り分けることができる.
証明. ある多角形 6 の対角線による分割から得られたグラフを " とする.必要なら対角
線を足して 6 は " で三角形に分割されているとしてよい,このとき,
" の頂点で対角線で結ばれていないようなものが少なくとも つは存在する.
6 の頂点の数 に関する帰納法で証明する. ) ! のときには主張は自明に成り立つ.
すべての & に対し主張が成り立つとして ) & に対しても主張が成り立つこと
を示す.6 を & 個の頂点を持つ多角形として, " を 6 の頂点を結んで得られた三角形分
割のグラフとする.このとき," の対角線の一つを とすると, の両側のグラフを考え
ることで," は を一辺とする つの多角形の分割のグラフ " " に分割される.帰納
法の仮定から," " はともに少なくとも二つの対角線で結ばれていないような頂点を持
つ.たとえば " でのそれらの つの頂点が の両端だとするると " は三角形でなくて
はならない.したがって,この場合にも," 頂点で の両端以外の点で対角線で結ばれ
!
初等数学ノート
ていない点が存在する. " についても同様である.したがって," も対角線で結ばれて
いない頂点が少なくとも つは存在することがわかる.
),$% !
定理を証明する. 6 の頂点の数 に関する帰納法で証明する. ) ! のときには自明
である.
今,すべての & に対して定理が成り立つとして ) & のときにも定理が成り立つ
ことを示す.6 を & 個の頂点を持つ多角形として, " を 6 の頂点を結んで得られた三角
形分割のグラフとする.補題により," の頂点で対角線で結ばれていないものが存在する
が,その一つを として " から, と につながっている二つの辺 , , を取り除いて
できるグラフ " を考える." に帰納法の仮定を適用すると " の頂点は ! 色で塗り分け
られるが,この色分けで , と , の端点で でない方のものの " の色分けでの色を として ! 色のうち 以外のものを に割り当てることで拡張した色分けは " の頂
点の ! 色塗り分けになっている.
)定理 !
雑
%$#
次方程式
複素数体
で考える.一般の代数閉体で考えても同様だが,この場合については
) となるような のうちの一つというような定義に変更する必要がある.
' として ) とする.このとき, 次方程式
#'
* * ) 6*$
は,
6*(
を解く. ) だから方程式の両辺を で割ることができて
* * ) * * ) である.ここで #' の二つの解を # とすれば,
#'
#!'
* * ) # '# # '
6*(
6*(
だから,係数の比較から
#'
#'
*# ) # )
6*(
6*(
である.したがって,
#"'
# # ' ) # * # ' # )
)
6*(
となり,このことから
#'
# )
である.したがって,
6*(
初等数学ノート
# '
) ## * # ' * # # '' ) #
')
6*(
である.# についても同様だから,
#'
が方程式 #' の つの解であることがわかる.
6*("