2・2・4 ヒメマス養殖企業化技術開発事業 工藤飛雄馬 目 的 ヒメマス養殖を推進する上で必要となる生産魚の品質向上を図るため、色上げ技術の開発および奇形魚の 排除方法の検討を行う。 材料と方法 (1)色上げ技術の開発 ①天然魚の肉色調査 十和田湖で漁獲された天然魚6尾の肉色を色彩色差計によって測定した。 ②人工色素による肉色改善効果の比較 サケマス類の色上げに用いられている人工色素のアスタキサンチンとカンタキサンチンについて、肉色 の改善効果を比較するため、当所継代群180尾を4分し、アスタキサンチン100ppm投与区(以下A区)、ア スタキサンチン50ppm+カンタキサンチン50ppm投与区(以下B区)、カンタキサンチン100ppm投与区(以 下C区)、対照区(以下D区)を設けた。試験開始時の平均体重はおよそ550gであった。1ヶ月毎に各区 からサンプル3∼5尾を取り上げ、尾叉長、体重、生殖腺重量を測定し、その後三枚におろして肉色を測 定した。肉色の測定は、検体の写真を撮影した後、氷冷しながら岩手県水産技術センターに運んで色彩色 差計によって行った。色彩色差計によって得た色調は、各区間の差異について検討するため、青木ら(19 91)に従い色差(ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb2)1/2)を求めた。また、色彩色差計を用いない肉色の測 定方法について検討するため、背肉部の写真をコンピュータに取り込み、Adobe Photoshop ElementsのR GB値を測定した。さらに、色彩色差計で肉色を測定後、サンプルを真空包装し、-50℃のストッカーで 6∼8ヶ月保存して、筋肉と表皮のカロチノイド含量を測定した。なお、カロチノイド含量の測定は(社) 岩手県薬剤師会営 岩手県医薬品衛生検査センターに委託した。 (2)奇形魚の排除方法の検討 ①奇形魚の形態調査 池中継代群における採卵日毎の奇形発生率の調査と奇形魚の外部形態および内部形態の観察を行った。 内部形態の観察はX線写真を撮影して行った。 結 果 (1)色上げ技術の開発 ①天然魚の肉色調査 平成14年6月13日に十和田湖で漁獲されたヒメマス6尾の尾叉長、体重、肥満度等を表1に示した。6 尾の平均体重は164.3g、平均肥満度は12.38であった。また、GSIは雌で1.30∼2.57%、雄で0.05∼1.25 %と低く、成熟による肉の退色はないと考えられる。これらの個体の色彩色差計による測定値を見ると、 *Lは38.52∼46.30で平均が43.47、*aは2.59∼10.11と個体差が大きく平均が5.67、*bは8.69∼14.0 0で平均が12.68であった。また、調査に用いたヒメマスの胃内容物にはワカサギが大量に見られた。 ②人工色素による肉色改善効果の比較 各区の平均体重の推移を図1に示した。サンプル数が少ないため、途中で体重が減少する例や区間に大 きな差が見られた例があったものの、試験終了時の平均体重には各区間の差は見られなかった。色彩色差 表1 十和田湖産ヒメマスの個体毎の尾叉長、体重、肥満度、GSIおよび色彩色差計による測定値 尾叉長 体 重 肥満度 性 別 生殖腺重量 GSI (g) (%) 3 (g/cm ) *L *a *b 個体番号 (cm) (g) No.1 24.6 195.7 13.10 ♀ 5.02 2.57 42.77 3.87 14.00 No.2 23.3 149.5 11.79 ♂ 0.07 0.05 38.52 10.11 13.39 No.3 24.2 186.1 13.21 ♂ 2.33 1.25 45.40 4.13 12.84 No.4 24.5 174.8 11.87 ♂ 1.28 0.73 44.98 5.26 11.10 No.5 21.8 124.5 12.02 ♀ 1.62 1.30 42.86 8.08 16.08 No.6 23.3 155.3 12.29 ♀ 2.20 1.42 46.30 2.59 8.69 平均 23.6 164.3 12.38 43.47 5.67 12.68 1000 A区 平均体重 (g) 900 800 700 B区 C区 D区 600 500 0 1 2 3 4 試験開始後月数 図1 試験期間における各試験区の平均体重の推移 46 10 *Lの推移 44 D区 38 *a *L C区 40 *aの推移 A区 6 B区 42 36 8 A区 B区 4 C区 2 D区 0 0 1 2 3 -2 4 試験開始後月数 0 1 2 試験開始後月数 16 *bの推移 A区 14 *b B区 C区 12 10 D区 0 1 2 3 4 試験開始後月数 図2 試験期間における各試験区毎の平均*L、*a、*bの推移 3 4 計によって測定した色調について、各試験区の平均値の推移を図2に示した。明るさを示す*Lと黄色み を示す*bは変動が大きく明確な傾向は得られなかった。これに対し、赤みを示す*aはD区を除き明確 な増加傾向を示した。このことから、色素を投与することによって、ヒメマスの肉色が赤みを帯びてくる ことが示された。次に、測定月毎に試験区間の色調から求めた色差を表2に示した。試験開始1ヶ月目か ら色素を投与したA、B、C区と投与していないD区の間で著しく差が目立っていると判断される程度の 色差が示された。色素を投与したA、B、C区の間では、3ヶ月目から差が見られ始め、4ヶ月目にはB 区とC区は差がないと判定されたものの、A区とB区、A区とC区の間では色調に著しく差が目立つと判 断された。このことから、ヒメマスの色上げには、アスタキサンチンの効果が高いと考えられる。 表2 測定月毎の試験区間における色差(ΔE) 測定月 試験区間 ΔE 判定 1ヶ月目 A区とB区 1.92 ― A区とC区 2.37 ― A区とD区 3.18 B区とC区 1.47 B区とD区 4.45 C区とD区 3.67 A区とB区 2.60 ― A区とC区 6.75 A区とD区 3ヶ月目 測定月 試験区間 ΔE 判定 2ヶ月目 A区とB区 2.26 ― A区とC区 1.93 ― A区とD区 5.66 B区とC区 2.72 appreciable B区とD区 3.86 appreciable appreciable C区とD区 4.79 appreciable A区とB区 3.13 appreciable much** A区とC区 3.07 appreciable 9.62 much A区とD区 8.36 much B区とC区 7.34 much B区とC区 0.54 ― B区とD区 8.51 much B区とD区 5.29 appreciable C区とD区 5.64 appreciable C区とD区 5.34 appreciable appreciable* ― 4ヶ月目 appreciable ― *appreciable:著しく差が目立っている(ΔE>3.0) **much:感覚的な差が大いにある(ΔE>6.0) 次に、筋肉と表皮のカロチノイド含量の推移を図3に示した。筋肉中のカロチノイド含量の推移は変動 が大きいものの経時的に増加した。これに対し、表皮のカロチノイド含量は試験期間を通して低水準で推 移した。北原ら(1977)により、ヒメマスのカロチノイド含量は、産卵期に入ると表皮で増加し、筋肉で 0.4 筋肉 0.3 A区 B区 0.2 C区 D区 0.1 0 0 1 2 3 試験開始後月数 図3 4 カロチノイド含量 (mg/100g) カロチノイド含量 (mg/100g) 低下することが報告されている。本研究において表皮のカロチノイド含量に増加が見られないことから、 0.4 表皮 0.3 A区 B区 0.2 C区 D区 0.1 0 0 1 2 試験開始後月数 筋肉および表皮中のカロチノイド含量の推移 3 4 12 r = 0.728* n = 67 10 y = -1.33 + 23.9x a* 8 6 4 2 0 -2 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 筋肉中のカロチノイド含量 (mg/100g) 図4 筋肉中のカロチノイド含量と*aの関係 成熟に伴う影響は表れていないと考えられる。また、試験中に用いた全個体について、色彩色差計で測定 した*aと筋肉のカロチノイド含量の関係を図4に示した。両者には相関係数0.728の有意な正の相関が 認められた(t検定、危険率5%)。 色彩色差計を用いない肉色の測定方法について検討するため、色彩色差計の*aとPhotoshopのRGB データの関係を調査した。Photoshopで解析した肉色の推移を図5に示した。R値、B値およびG値の推 移は色彩色差計の*aの推移と異なっているが、R値/G値の推移は*aとほぼ同じ傾向を示した。そこ で、*aとR値/G値の関係を調べると(図6)、両者には相関係数0.873の有意な正の相関が認められた (t検定、危険率5% )。このことから、Adobe Photoshop Elementsを用いた肉色の測定は可能であると 考えられた。 160 200 R値の推移 150 180 140 A区 B区 130 B区 C区 120 C区 110 D区 170 G値の推移 A区 G値 R値 190 D区 100 90 160 0 1 2 3 80 4 0 1 試験開始後月数 B値の推移 4 R値/G値の推移 100 A区 90 B区 C区 80 D区 2 R値/G値 B値 3 2.2 110 A区 1.8 B区 C区 1.6 D区 1.4 70 60 2 試験開始後月数 1.2 0 1 2 3 試験開始後月数 図5 4 0 1 2 試験開始後月数 Adobe Photoshop Elementsで解析した肉色の推移 3 4 2.7 r = 0.873* n = 76 R値/G値 2.4 y = 1.28 + 0.0897x 2.1 1.8 1.5 1.2 0.9 -2 0 2 4 6 8 10 12 *a 図6 色彩色差計による*aとPhotoshopによるR値/G値の関係 (2)奇形魚の排除方法の検討 採卵日毎の発眼率、浮上率、奇形率および奇形の部位別の発生率を表3に示した。発眼率(55.1∼81.0%) と浮上率(35.8∼51.7%)ともに採卵日によって大きなバラツキが見られた。また、奇形率も同様に5.5∼4 6.3%と大きくバラツキ、全体の奇形率は16.4%と高い値を示した。発眼率と奇形率には関係は見られず、 奇形魚の発生には卵質とは異なる要因が関与しているのではないかと考えられた。次に、奇形が発生してい る部位についてみると、最も多いのは背鰭後部で、全体の99%以上がこの部位の異常であった。背鰭後部に 異常が見られた個体の骨格形態を見ると(図7)、脊椎骨からでている神経棘が曲がったり、短くなってお り、このため、背鰭後部に異常が発生するものと考えられた。 表3 採卵日毎の発眼率(%)、浮上率(%)および奇形率(%)と部位別の発生率(%) 採卵日 発眼率 浮上率 奇形率 背鰭後部 8月29日 66.4 51.7 12.8 77.9 10.9 8.0 1.5 1.6 0.1 9月5日 55.1 35.8 46.3 86.7 8.7 1.9 0.0 2.7 0.0 10月10日 81.0 ― 17.1 92.6 3.8 2.0 0.4 1.0 0.2 10月18日 64.3 48.2 5.5 81.6 6.6 10.5 1.1 0.0 0.2 ― ― 16.4 99.4 0.3 0.2 0.0 0.1 0.0 全体 背鰭後部+尾柄部 尾柄部 体 側 屈 *発眼率、浮上率=発眼卵数、浮上尾数÷採卵数×100 **奇形率=奇形尾数÷(正常尾数+奇形尾数)×100 ***奇形部位別の発生率=奇形発生尾数÷奇形尾数×100 ****体側は側線や体表面に異常の認められたもの 図7 背鰭後部に異常が見られた個体の外部形態(左)と骨格形態(右) 曲 その他
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