保育・教育の心理学Ⅰ .indd

はじめに
昨今、家庭、地域の教育力の低下が指摘されている。今日のように十分な家
庭養育が自主的に行われにくい時代となれば、その補完も多様なものが求めら
れ、保育士や幼稚園教諭の役割は、保育所や幼稚園の中での保育・教育だけで
なく、保護者への保育指導や地域子育て支援に向けられることも当然といえる
だろう(石井、2009)。保育士養成カリキュラムは、前記の情勢に対応する養成
のあり方として、基本的に必要となる科目の増改による強化と、実習・演習科
目による個別的な実践教育を行うこととなった。
図−1 保育士試験科目名改正と免除科目
平成 24 年
免除科目
(変更なし)
平成 23 年
合格科目
平成 25 年
免除科目
備 考
社会福祉
→
社会福祉
⇒
社会福祉
変更なし
児童福祉
→
児童福祉
⇒
児童家庭福祉
平成 25 年より
科目名の変更
発達心理学
及び
精神保健
→
発達心理学
及び
精神保健
⇒
保育の心理学
平成 25 年より
科目名の変更
小児保健
→
小児保健
⇒
免除科目なし
発達心理学及び
精神保健
+
小児保健
→
発達心理学及び
精神保健
+
小児保健
⇒
子どもの保健
平成 25 年より
科目名の変更
小児栄養
→
小児栄養
⇒
子どもの
食と栄養
平成 25 年より
科目名の変更
保育原理
→
保育原理
⇒
保育原理
変更なし
教育原理及び
養護原理
→
教育原理及び
養護原理
⇒
教育原理及び
社会的養護
平成 25 年より
科目名の変更
保育実習理論
→
保育実習理論
⇒
保育実習理論
変更なし
出典:社団法人 全国保育士養成協議会
─1─
1.本科目の概要
意義・目的
時代の実情にあう保育士養成カリキュラムの改正にともない、「教育心理学」
「発達心理学」という学問を概論的に学ぶのではなく、「乳児」「幼児」を対象と
した「保育者」「教育者」が必要とする知識・実践に役立つ内容を学ぶことを目
的に、「保育・教育の心理学Ⅰ」という科目が誕生した。
保育・教育の心理学Ⅰでは、子どもの発達の過程や学習の過程について学ぶ
ことを重視し、発達心理学と教育心理学の領域から子どもの保育および教育実
践に役立つ内容を扱う。具体的な目標は以下のとおりである。
1.保育および教育実践にかかわる心理学の知識を習得する。
2.子どもの発達・学習にかかわる心理学の基礎を習得し、子どもへの理解を
深める。
3.子どもが人との相互的かかわりを通して発達・学習していくことを具体的
に理解する。
4.生涯発達の観点から発達のプロセスや初期経験の重要性について理解し、
保育および教育との関連を考察する。
テキスト概要
櫻井茂男・岩立京子著「たのしく学べる乳幼児の心理 改訂版」
福村出版 2010
本書は、発達心理学の一領域である「乳幼児心理学」の入門書であり、生ま
れてから小学校へ入学する前までの子どもを対象とする保育士、幼稚園教諭を
目指す人に適した内容となっている。
発達については、胎児期、乳児期、幼児期という発達段階ごとに発達の様相
が詳述され、各々に応じた発達課題が説明される。具体的には、運動能力、知覚、
認知と思考、情緒と欲求、言語能力、人間関係、自我機能、向社会的行動など、
身体的発達から精神的発達まで紹介されている。
─2─
学習については、発達を規定する遺伝要因と環境要因の関係や、フロイトや
エリクソンの発達理論、ピアジェの認知発達理論、パブロフ、スキナー、バン
デューラらの代表的な学習理論が紹介されている。遊びによる教育についても
紹介されている。
初期経験の重要性については、母子相互作用やアタッチメント、養育環境と
親子関係など人間関係が子どもの発達・学習に与える影響について説明されて
いる。現代社会で影響が大きいと思われるメディアについても紹介されている。
発達のつまずきや不適応については、欲求不満行動、発達障害、登園拒否な
どが紹介されている。
学習に関連する動機づけやそれを高める方法、人格形成への関与、問題行動
や心身障害のある子どもへの指導法については参考文献やその他の文献を読む
ことを勧める。
2.リポート設題の概要と試験問題
リポート設題は、保育者および教育者にとってどれも重要なテーマをとりあ
げているため、提出しないテーマについても、テキストやさまざまな文献から
学んでおくことが望ましい。事例について考えたり、さまざまな要因の影響に
ついて考えたりすることを求めており、知識を実践に活かすための練習と思っ
て取り組んでいただきたい。
試験問題は、全て科目内容あるいはリポート設題に呼応したものである。乳
幼児期の心身の発達、知覚や認知、学習、欲求、人間関係などの特徴を頭に入
れておく必要がある。
─3─
リポート設題
[第 1 設題]次の 5 問より 1 題を選択の上、リポート提出のこと。
1.幼児期の知覚の特性について説明せよ。
2.アタッチメントについて説明し、その後の人間関係に与える影響につい
て述べよ。
3.向社会性を育てるには大人が子どもにどう関わればよいか、学習と関連
付けて述べよ。
4.発達障害傾向のある幼児の事例をあげ、その特徴と、あなたがどう関わ
ろうとするかを述べよ。
5.欲求不満行動を起こしている幼児の事例について、どこに原因があるか
考え、あなたがどう関わろうとするかを述べよ。
[第 2 設題]次の 2 問より 1 題を選択の上、リポート提出のこと。
1.ブルーナーらの現代的レディネス観が教育に与えた影響について述べよ。
2.養育環境と子どものパーソナリティ(性格)の発達の関係について、説
明せよ。
リポート作成上の注意
*基本事項について
以下の基本的な条件が守れていないリポートは、内容に関わらず不合格
になる。注意すること。
1.400 字詰め原稿用紙、横書き、本文 5 ページ(1,601 字以上 2,000 字以内)
という書式を守ること。
(用紙サイズは問わないが、原稿用紙を正しく使用すること。)
2.文献を参考にしながら自分で考え、まとめること。
(何も参考にしないリポートは単なる感想文である。文献や他者のリポー
トの丸写しは著作権の侵害になる。)
─4─
3.引用・参考文献の出典を最後に記載すること。
(教科書もホームページでも参考にしたものは記載する必要がある。ただ
しホームページの情報を参考にすることは勧めない。)
4.リポートの形式を整えること。
(字が非常に汚く解読に困難を要するもの、ページ番号がなく綴じ方がば
らばらであるもの、である体とですます体が混在し、文献の書き写しと
考えられるものなど、程度によっては不合格になる。)
*リポート設題について
•
第 1 設題の 4 と 5 は、事例についてあなたの意見を必ず書くこと。一般
論に終始しているリポートは不合格になる。
•
第 2 設題はレディネス観から教育へ、養育環境からパーソナリティへの
影響について問いかけている。文献を調べた上で両者の関連について考
察すること。それぞれまとめただけのリポートは不合格になる。
おわりに
新しい「幼稚園教育要領」や「保育所保育指針」では、“ 子どもの主体的活動 ”
の重要性を強調している。それは子どもがやらされるものは義務としてやって
も、子どもの発達のなかに組み込まれていくものとはならないからである。し
かし、主体的活動を促す保育者の役割も重要であり、子どもの発達や一人ひと
りの特性に合ったきめ細かな援助が必要である。そのような「保育」「教育」が
できる保育者・教育者を目指してほしい。
─5─
引用・参考文献
櫻井茂男・岩立京子著「たのしく学べる乳幼児の心理 改訂版」 福村出版 2010
山崎史郎編著「教育心理学ルック・アラウンド ─ わかりたいあなたのための教育
心理学」 ブレーン出版株式会社 2010
改訂・保育士養成口座編纂委員会編「改訂 4 版・保育士養成講座 第 3 巻 発
達心理学」 社会福祉法人全国社会福祉協議会 2010
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