自然の微生物によるしたたかな 生きざま 中野伸一(京都大学生態学研究センター) 微生物って、何? バイ菌、カビ、ダニ、シラミ、ノミ、ゾウリムシ、ミドリム シ、クマムシ、、、、 でも、キノコ(担子菌類、子嚢菌類)だって微生物。 「微」か?! 微生物microorganismsという言葉は、脊椎動物 とか被子植物といった言葉のように、正確な分類学 的意義をもつものではない。(スタニエら、「The Microbial World」より) 松山市のため池 琵琶湖 従属栄養細菌(バクテリア):湖沼 や海洋には、1ml当たり、十万から 一千万細胞が生息。大きさ0.3から 1ミクロン。 バイカル湖 10 μm ピコ植物プランクトン:湖沼や海洋 の光条件の良い水深に、1ml当たり、 一万から、まれに百万細胞が生息。 大きさは、0.5から2ミクロン。 特殊な方法で見た繊毛虫(左、30ミクロン)と鞭毛虫(右、5ミクロン) Outline: 1. 微生物って、何かすごい! 2.微生物ループ(微生物の食物連鎖):ダイ ナミックな食物連鎖 3.琵琶湖深水層に発達するユニークな微生 物ループ? A B 繊毛虫のろ過摂食 鞭毛虫のろ過摂食 Filter feeding 図3-1 中野 B A C 鞭毛虫の捕獲摂食 Raptorial feeding (1) (2) 鞭毛虫の拡散摂食 Diffusion feeding Ciliophrys属 の一種 蛍光色素DTAFでラベルされた細 菌を取り込んだ鞭毛虫(上)と繊 毛虫(下)。 中野(2000), 日本生態学会誌より 一日で、水中の細菌の何%が原生生物に食われて死ぬか 原生生物 Range ハドソン湾、米 国 鞭毛虫 &繊毛虫 3 - 16 ニュージーラ ンド南島沖 鞭毛虫 &繊毛虫 0.2 - 2.3 栄養状態 Literature Vaque et al. (1992) James et al. (1996) 内海湾、 愛媛県 貧栄養 鞭毛虫 繊毛虫 1 – 15 0.05-0.65 古池、愛媛県 富栄養 鞭毛虫 &繊毛虫 5-112 Nakano et al. (1998) グロッサーバイ ネン湖、ドイツ 富栄養 鞭毛虫 1-89 Jurgens and Stolpe (1995) 中栄養 鞭毛虫 繊毛虫 0.4-24 ほとんど無 富栄養 鞭毛虫 繊毛虫 3-35 --30 琵琶湖、滋賀 県 オグレトルペ 湖、米国 Ichinotsuka et al. (2006) Nakano (1994) Sanders et al. (1989) プランクトンの体の炭素:窒素:リン比(低いほど、窒素やリンが豊富) 生物 植物 炭素:窒素 炭素:リン 文献 7.8 - 17 72 - 521 Goldman et al. (1987) tricornutum 6.8 - 12 89 - 359 Diatoms 10- 12 235 - 336 Watanabe (1990) Cyanobacteria 5.8 - 8.2 115 - 153 Watanabe (1990) Daphnia longispina 5.7-6.1 67-87 Hessen & Lyche (1991) 5.6-5.8 95-99 Watanabe (1990) Mesocyclops leuckarti 5.1-5.6 164-231 Mixed assemblage 4.8-6.5 78-121 Dunaliella tertiolecta プランクトン Phaeodactylum 動物 プランクトン Daphnia galeata Goldman et al. (1987) Hessen & Lyche (1991) Urabe (1993) プランクトンの体の炭素:窒素:リン比(低いほど、窒素やリンが豊富) 生物 細菌 鞭毛虫 繊毛虫 炭素:窒素 炭素:リン Literature Mixed assemblage 4.8 - 6.7 7.7 - 56 Bratbak (1985) Mixed assemblage 4.4 - 17 31 - 515 Tezuka (1990) Mixed assemblage 3.8 - 8.6 Paraphysomonas imperforata 5.4 - 7.4 40 - 223 Spumella sp. 2.5 - 5.3 69 - 109 Bodo designis 4.8 15 Eccleston-Parry et al. (1995) Jakoba libera 6.4 183 Eccleston-Parry et al. (1995) Laboea strobila 7.0 - 15 Strombidium capitatum 3.5 - 9.3 Strobilidium spiralis 3.5 - 4.7 Nagata (1986a) Goldman et al. (1987) Nakano (1994a) Putt and Stoecker (1989) Putt and Stoecker (1989) Putt and Stoecker (1989) 微生物って、何かすごい!(続編) 霞ケ浦のアオコ 霞ヶ浦のアオコ 琵琶湖・赤野井湾に発生した アオコ アオコの主要因となる ミクロキスティス・エルギノーサ アオコが発生すると 1. 2. 3. 4. 景観の悪化 猛烈な悪臭 水処理におけるろ過障害 人畜に有害な毒素の生産 ケニア・ビクトリア湖の ホマ町の港にて アオコを摂食するために克服しなけれ ばならないこと 1. アオコは、植物プランクトンの中でも 大型なので、口に入りにくい 2. 寒天状のスライムに包まれる 3. 毒を生産する ケニア・ヴィクトリア湖のアオコ コロディクチオン鞭毛虫(細胞の中に、食べたアオコが一 杯詰まっている) Suttle et al. (1986) J. Plankton Res. 微生物ループ(微生物の食物連鎖): ダイナミックな食物連鎖 生食連鎖 微生物ループ、微生物食物網 黒潮 急潮は、高水温で貧栄養 →植物プランクトンは減る 底入り潮 沿岸海域 底入り潮は、低水温で富栄養 →植物プランクトンが増える 窒素の栄養塩類 (µmol N l-1) 水深 (m) 水深 (m) 水温 (℃) クロロフィル濃度 (µg l-1) 水深 (m) 底入り潮 底入り潮 急潮 珪藻、渦鞭毛藻の細胞密度(1ml当たりの細胞数) 0 May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar 0 May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar 1999 1999 底入り潮無し 2000 1200 900 2000 150 底入り潮有り 2001 2001 2002 1800 1500 珪藻 600 300 2002 200 渦鞭毛藻 100 50 底入り潮中間的 細菌(×百万)、ピコ植物プランクトン(×十万) の細胞密度(1ml当たりの細胞数) 0 May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar 0 May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sept Oct Nov Dec Jan Feb Mar 1999 5 1999 底入り潮無し 2000 4 2000 4 底入り潮有り 2001 2001 2002 細菌 3 2 1 2002 5 ピコ植物 3 2 1 底入り潮中間的 底入り潮侵入時 植物、一次生産者 動物、消費者 動物プランクトン 生食連鎖が卓越 大型植物プランクトン 原生動物 ピコ植物プランクトン バクテリア 水温が高い時(急潮侵入時) 植物、一次生産者 動物、消費者 動物プランクトン 微生物ループが卓越 大型植物プランクトン 原生動物 ピコ植物プランクトン バクテリア 琵琶湖深水層に発達するユニークな 微生物ループ? 0 a 10 水温 D e pth ( m ) 20 夏は、上は暖 かくて軽い水 30 40 50 60 70 0 c 10 リン酸態リン D e pth ( m ) 20 30 40 50 60 70 Dec 12月 Jan Feb 2月 Mar Apr 4月 May Jun 6月 Jul Aug 8月 Sep Oct 10月 Nov Dec 12月 Thottathil et al. (L&O, 2013) 0 d 10 クロロフィルa 濃度 20 30 40 50 60 70 Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct 0 Dec Nov a 10 溶存有機物 濃度 Depth (m) 20 30 40 50 60 70 12月 2月 4月 6月 8月 10月 12月 Thottathil et al. (L&O, 2013) 全細菌数 (×106 cells/ml) 混合 成層 混合 Okazaki et al. (2013) FEMS Microb Ecol) 成層 夏の琵琶湖の深水層では、バナナ型の細菌が特に多 い(優占という)。 10 mm Okazaki et al. (2013)FEMS Microb Ecol そこで、バナナ細菌がどんな種なのか確認すべく、ある細菌一種(ク ロロフレクサス門のCL500-11細菌)だけが光る特殊な遺伝子プローブ を作って光らせたら、全てのバナナ細菌が光った! Okazaki et al. (2013)FEMS Microb Ecol 混合 成層 混合 CL500-11細菌の全細菌数に占める割合 Okazaki et al. (2013) FEMS Microb Ecol) 成層 0 b 10 Depth (m) 20 タンパク質 溶存有機物 30 40 50 60 70 Dec Jan Feb Mar Apr May Jun Jul Aug Sep Oct Nov 0 Dec b 10 腐植物質 溶存有機物 Depth (m) 20 30 40 50 60 70 Dec 12月 Jan Feb 2月 Mar Apr 4月 May Jun 6月 Jul Aug 8月 Sep Oct 10月 Nov Dec 12月 Thottathil et al. (L&O, 2013) Depth in m 鞭毛虫の細胞密度 (103cells ml-1) Jan 12 Feb 1月 2月 March April 3月 4月 May June 5月 6月 2012年 July 7月 August 8月 9月 Sep Oct 10月 Nov 11月 Dec 12月 Jan 13 1月 2013年 水深 キネトプラスチド鞭毛虫(102細胞/1ml) 1月 2月 3月 4月 5月 6月 2012年 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2013年 活発な光合成 表水層 タンパク様DOMの生産 植物プランクトン(滋賀県琵環研・一瀬諭 氏より) 細菌による腐植様DOMの生成 腐植様DOMの輸送・蓄積 CL500-11細菌による分解 深水層 CL500-11細菌とキネトプラスチ ド鞭毛虫 鞭毛虫による間引きと、こ れによる細菌の活性化
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