スーパーロングライフエッジ(除雪用カッティングエッジ) 製品紹介

製品紹介
スーパーロングライフエッジ(除雪用カッティングエッジ)
Super Long Life Edge (Cutting Edge for Snow-Removal Motor Grader)
永 田 貴 則
Takanori Nagata
天 野 昌 春
Masaharu Amano
積雪寒冷地域で活躍している除雪グレーダ
(モータグレーダ)
は圧雪除去作業
(新積雪が通行車両に踏まれて硬化した
ものを除去する)
や路面整正作業
(路面上の圧雪に生じた不整凹凸を除去する)
の主力機種であり,非常に苛酷な状況
で使われている.このためブレード先端に装着されているカッティングエッジ
(除雪エッジ)
の摩耗は激しく,寿命
向上の要望が多い.このようなニーズに応えるため超長寿命エッジを開発したので,その概要について紹介する.
Snow-removal motor graders widely used in cold districts with heavy snowfall are the main machines
indispensable for removing compacted snow (fresh snow hardened by vehicles running on it) or grading the
surface of road (removing unevenness of the surface of compressed snow on road). They are used under severe
conditions. As a result, the cutting edge (snow-removal edge) mounted on blade tip wears severely, and it is
strongly demanded to increase the service life. To meet such needs, we developed a super long life edge, which
is outlined below.
Key Words: Snow Removal, Motor Grader, Cutting Edge, Wear Resistance, Long Life, Composite, Cemented
Carbide
2.耐 摩 耗 材
1.ま え が き
除雪グレーダは雪面を切削する能力に優れるので,踏み
固められた圧雪を取り除く圧雪除去作業や,圧雪になって
しまった路面の凹凸を削りならす路面整正作業など,一連
の除雪工法の中でもっとも苛酷な作業を担っている.その
ためブレード先端に装着されている除雪エッジの摩耗は
激しく,作業現場
(除雪路線)
によっては1回の出動で摩耗代
がなくなってしまうこともある.
この除雪エッジの寿命をアップさせることができれば,
・大雪時に無交換で連続稼動できる
・交換作業から開放される
・出動前のエッジ交換の判断から開放される
(判断を誤ると出動途中で寿命が尽きる)
・摩耗代残量の無駄がなくなる
(従来エッジは往復もたない残量であれば交換している)
などのメリットがあり,作業者はエッジのことを気にする
ことなく除雪作業に専念できるようになる.
筆者らは土砂や岩石に対する耐摩耗材料の開発とその応用
に取り組んでおり,その一環として除雪エッジを取り上げ,
大幅な寿命向上を達成することができた.
以下にその内容を紹介する.
除雪エッジは雪上で使用されるが雪ではなくその下にあ
るアスファルト路面やコンクリート路面を相手に摩耗する
ため,これらに対して優れた耐摩耗性を発揮する材料が
必要である.本エッジでは以下に示す考え方で設計した
「超硬コンポジット」という複合材料を採用している.
2.1 材料の組織
一般に材料の耐摩耗性はその硬さに比例して向上するが,
硬さと靭性は相反する性質であるので,靭性のある銅合金中
に高硬度の超硬粒子を分散させた複合材とした.その組織
は写真 1 のとおりで,次の特徴がある.
小径超硬粒子
銅マトリクス
写真1
2004 1 VOL. 50 NO.153
大径超硬粒子
超硬コンポジット組織
スーパーロングライフエッジ(除雪用カッティングエッジ)
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3.5
(1) 超硬ブロックに匹敵する耐摩耗性を得るため,超硬
粒子は可能な限り高密度に充填した.すなわち,大径と
小径の超硬粒子を組合せることで65%以上の充填率を確保
している.
(2) 大径の超硬粒子は 5mm 程度の大きさとした.図 1 に
示すように,摩耗痕と比較して十分大きな粒子を入れるこ
とで粒子ごと掻き取られることを防止した.
(3) マトリクス金属は銅合金を採用した.銅合金は超硬
と反応して劣化させる恐れが少ない.また,濡れ性が優れて
いるので高密度に充填された超硬粒子の隙間隅々まで行き
渡らせ,欠陥のない確実な接合ができる.
摩耗痕より
粒子が小さい
摩耗痕より
粒子が大きい
掻き取られる
掻き取られない
摩耗痕
摩耗痕
ハイシリコン鋼
21kg/cm2
20
約10km/h
3
摩耗体積(cm )
3
2.5
40
2
アスファルト路面(ウエット状態)
1.5
1
超硬コンポジット
超硬ブロック
0.5
0
0
5
10
図2 各種材料の対アスファルト摩耗試験結果
供試材は,弊社従来エッジ材の「ハイシリコン鋼」
(焼入れ焼戻し材,硬さHRC55)
,
「超硬ブロック」
,
「超硬
コンポジット」の 3 種類を用意した.
図2は摺動距離と摩耗体積のグラフで,その傾きが小さ
いほど耐摩耗性が優れている.これによると
「超硬コンポ
ジット」は「ハイシリコン鋼」をはるかにしのぎ,「超硬
ブロック」に匹敵する耐摩耗性を有することが分かる.
3.エッジの構造
アスファルト
図1 粒径と摩耗痕の関係を示す模式図
2.2 耐 摩 耗 性
「超硬コンポジット」の耐摩耗性は図2のグラフ中に示す
方法で評価した.すなわち,接地面が40×20mmのブロック
状の試験片を面圧21kg/cm2 でアスファルト路面に押し付
け約10km/hで摺動させた.この際,面圧は実車でエッジ
全幅
(4∼4.3m)
に均一に荷重が掛かるという前提でブレード
荷重8ton,また摺動速度は圧雪除去作業,路面整正作業など
の重負荷時の作業速度を想定した.なお,路面は散水して
ウェット状態とした.
スーパロングライフエッジ」の外観を写真2に示す.こ
「
こでベースエッジに取付けられている
「超硬コンポジット
バー」は図3のような構造になっている.以下にその特徴
を紹介する.
3.1 超硬コンポジットバー
除雪エッジはわだち,表面が荒れた箇所,マンホール,
橋の継ぎ目,など路面の凹凸部を通過する際に強大な衝撃
破壊力を受ける.そのため「超硬コンポジット」を保護す
るため周囲を鋼板で覆い,さらに内部に補強材を等間隔に
配置させた.(図 3)
表
溶接
超硬コンポジット
補強材
(破損防止)
超硬コンポジットバー
クシ刃タイプベースエッジ
裏
切込み
鋼板
(衝撃保護)
溶接
図3 超硬コンポジットバーの構造
2004 1 VOL. 50 NO.153
15
摺動距離(km)
写真2 スーパロングライフエッジの外観
スーパーロングライフエッジ(除雪用カッティングエッジ)
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写真3は鋼板と補強材の接合界面のミクロ組織であるが,
Fe 相が成長し強固な接合がなされている.(拡散接合)
また写真 4 は鋼板と「超硬コンポジット」の接合界面で
あるがFe-Co-Cu-W-C合金の柱状相が成長して強固な接合
がなされている.これらの接合により
「超硬コンポジット」
は延性の高い鋼と強固に一体化されているので衝撃破壊荷
重に対して十分な強度が備わっている.
4.稼 動 実 績
4.1 摩 耗 寿 命
本エッジは図4 に示す多くの現場で実車評価を行った.
これらの現場はGD705(ブレード幅4.0m)
,またはGH320
(ブレード幅 4.3m)
が稼動している幹線国道を中心に選定
した.
補強材
拡散層
Fe相
鋼板
写真3 鋼板/補強材の接合界面のミクロ組織
超硬コンポジット
Fe-Co-Cu-W-C合金相
図4 スーパーロングライフエッジが稼動した現場
その結果は図5のとおりである.横軸は弊社従来エッジ
の寿命,縦軸は本エッジの寿命である.各点は各現場での
稼動実績を表している.また,グラフ中に引いた右上がり
の線は,弊社従来エッジに対する寿命比が 10 倍に相当す
る線を表しており,多くの現場で 10 倍以上の優れた寿命
を確認することができた.
鋼板
3.2 超硬コンポジットバーの取付け
下端部にスリット状の切込みが入ったクシ刃タイプの
エッジをベースエッジとして採用し,その切込み部で溶接
して「超硬コンポジットバー」を取付けている.
(写真 2)
「
超硬コンポジットバー」
は外皮が鋼板なので溶接による
強力かつ確実な取付けが可能となった.
スーパーロングライフエッジ寿命(km)
4000
写真4 鋼板/超硬コンポジットの接合界面のミクロ組織
3500
3000
2500
2000
寿命比10倍のライン
1500
1000
500
0
0
100
200
300
400
弊社従来エッジ寿命(km)
図5 スーパーロングライフエッジ稼動実績の散布図 2004 1 VOL. 50 NO.153
スーパーロングライフエッジ(除雪用カッティングエッジ)
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4.2 耐 破 損 性
写真5は使用途中の外観である.右側は接地面の写真で,
等間隔に黒く見える部分が「超硬コンポジット」である.
左側はエッジを正面から見た様子で,超硬コンポジット
バーの破損,脱落はないことが見て取れる.これは全ての
現場で同様であった.
筆 者 紹 介
Takanori Nagata
なが た たか のり
永 田 貴 則 1997年,コマツ入社.
現在,生産本部 生産技術開発センタ所属.
超硬コンポジットバー
超硬コンポジット
Masaharu Amano
あま の まさ はる
天 野 昌 春 1989年,コマツ入社.
現在,生産本部 生産技術開発センタ所属.
写真5 使用中のスーパーロングライフエッジ
5.あ と が き
耐摩耗性の優れた「超硬コンポジット」と衝撃破壊力に
耐え得る堅牢な構造により飛躍的な摩耗寿命を達成するこ
とができた.実車評価では1シーズン以上無交換で使い続
けることができた路線もあった.
また作業性に関してヒヤリングした結果,弊社従来エッ
ジと比較して走行抵抗を小さく感じる傾向があった.これ
は「超硬コンポジット」の主成分である超硬と路面の摩擦
係数が小さいことに起因すると考えられる.
最後に本エッジの開発にあたり,ご指導,ご協力を賜り
ました,コマツオールパーツサポート㈱,各地域のディーラ,
現地の除雪関係者,ご協力頂いたユーザの皆様に心より
感謝申し上げます.
2004 1 VOL. 50 NO.153
【筆者からひと言】
一見何の変哲もない鋼板を張っているだけにしか見えないエッジ
ですが,その中身は耐摩耗性と耐衝撃性を両立させるために様々な
工夫を凝らしています.
この商品の開発をとおして幾度となく現地に馳せ参じたお陰で
大阪にいながら雪国の事情について詳しくなりました.しかし,地元
の方が本気で喋る方言のリスニング & 意味の把握は大変でした.
スーパーロングライフエッジ(除雪用カッティングエッジ)
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