“いつもの”方法を見直し,根拠に基づくケアを! ベッドサイドケア 15の疑問とカイゼン 特集 コーディネーター:清水孝宏(那覇市立病院 看護部 呼吸ケア・栄養サポート担当看護師長/集中ケア認定看護師) 日々行っているケアにおいて「手順だから」「そう決まっているから」とルーチン化していることはありません か? 本特集では,日常ケアにおける「なぜこれらのケアを行うのか」という疑問を取り上げ,エビデンスに基 づいたケアにつながる解答をお伝えします。 ケアの疑問 1 その 心電図モニタリコールチェックは重要? 絶対に必要? 佐藤大樹 患者の異変を察知するためにはリコー 北海道循環器病院 ICU/CCU 看護主任/集中ケア認定看護師 ルは大切な機能です。しかし,人為的に 2000年北海道医療大学看護福祉学部看護学科卒業。同年慶應義塾 大学病院GICU入職。2005年北海道循環器病院ICU/CCU入職,現 在に至る。2008年集中ケア認定看護師の資格取得。 所属学会:日本集中治療医学会,日本呼吸療法医学会,クリティカル ケア看護学会 発生したノイズは患者の状況を把握す る情報とならないため削除しても構い ません。 重症患者の心電図モニタの意義 要があります。 心電図モニタは,患者の心電図波形を長時 心電図モニタで感知できる不整脈は,リコー 間・継続的に観察できる医療機器です。患者の ルとして心電図モニタに記録されます。不整脈 心電図を継続的に観察することは,異常を早期 の種類によっては速やかな対応を必要とする場 に発見し,速やかな対応によって致死的な状況 合があります。また,患者の状況が変化すると, に陥らせないことにつながります(表1) 。 脈拍数や波形に変化が現れます。 看護援助やサービスが患者にどの程度提供さ 不整脈の原因 れたかを評価する看護必要度においても,モニタ 不整脈が発生する理由は大きく3つに分類さ リング及び処置等に関する項目(A項目)とし れます。 て「心電図モニターの管理」があります(表2) 。 ■自動能亢進 現在では,重症患者だけではなく,一般病棟の 原因:交感神経緊張,カテコールアミン,ジギ 患者においても心電図を装着する機会が増加し タリス中毒,低酸素血症,虚血 ています。そのため,モニタリングしている心 刺激伝導系には自動能があり,洞結節,房室 電図がいったい何を意味しているかを理解し, 結節,ヒス束,左右脚の順にレートが遅くなり 患者の状態をアセスメントできる能力を養う必 ます。下位の興奮頻度が上位の興奮頻度を超えた 表1 心電図モニタの目的 ・致死的不整脈の早期発見 ・致死的不整脈につながる不整脈の早期発見 ・徐脈・頻脈などの不整脈の早期発見 ・心筋虚血の早期発見 ・電解質異常の早期発見 場合に,自動能亢進として不整脈が発生します。 ■撃発活動 原因:カテコールアミン,低カリウム血症,虚 血,ジギタリス中毒,高カルシウム血症 心室筋細胞は本来自動能を持ちませんが,病 態によっては脱分極が出現し,活動電位となっ て心室頻拍を誘発する場合があります。 重症集中ケア V o l u m e . 1 4 N u m b e r . 1 3 表2 重症度,医療・看護必要度に係る評価票 厚生労働省:基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱い について,平成26年3月5日(保医発0305第1号)を参考に筆者作成 A モニタリング及び処置等 特定集中治療室用 ハイケアユニット用 一般病棟用 1 心電図モニターの管理 創傷処置 創傷処置 2 輸液ポンプの管理 蘇生術の施行 呼吸ケア 3 動脈圧測定 呼吸ケア 点滴ライン同時3本以上の管理 4 シリンジポンプの管理 点滴ライン同時3本以上の管理 心電図モニターの管理 5 中心静脈圧測定 心電図モニターの管理 シリンジポンプの管理 6 人工呼吸器の装着 輸液ポンプの管理 輸血や血液製剤の管理 7 輸血や血液製剤の管理 動脈圧測定 専門的な治療・処置 8 肺動脈圧測定 シリンジポンプの管理 9 特殊な治療法等 中心静脈圧測定 10 人工呼吸器の装着 11 輸血や血液製剤の管理 12 肺動脈圧測定 13 特殊な治療法等 表3 心電図モニタを装着する必要があるケース ・循環器疾患の急性期 ・全身麻酔の手術後 ・ベッド安静が必要な患者 ・不整脈治療の患者 ・呼吸器装着患者 動経路を通って再び元の部位に侵入することで 新たな伝導性興奮を生じる現象です。刺激伝導 系でも心筋でも生じる場合があります。①興奮 伝導遅延,②一方向性伝導ブロック,③不応期 ・熱傷を含む高度外傷のある患者 の不均一性という3つの要素があると発生しや ・終末期の患者 すくなります。不整脈の約半数がこのリエント リーを機序すると言われており,代表的なもの ●早期後脱分極(Early afterdepolarization:EAD) として房室結節の二重伝導路や副伝導路などが 発生した脈の活動電位の再分極の途中で発生す あります。その他,心筋梗塞部分の周りを旋回 る後電位のことです。トルサード・ド・ポワンツ する心室頻拍もあります。 (torsade de pointes:Tdp)の成因に関与します。 ●遅延後脱分極(Delayed afterdepolarization: DAD) 心電図は,循環器疾患に対するモニタリング 細胞内に過剰なCa2+ が蓄積することが原因 だけではなく,呼吸・脳神経・感染・電解質な です。細胞内Ca2+ によって活動電位が生じる どで異常を引き起こす際にも変化が見られま ことで発生します。ジギタリス中毒,右室流出 す。さまざまな疾患によって重症化した患者 路の期外収縮および心室頻拍,心不全に伴う心 は,全身に障害が及ぶ場合があります。また, 室性期外収縮が有名です。 全身麻酔で手術を受けた患者などは,時間の経 ■リエントリー 過と共に身体状態が変化していきます。そのよ 原因:心筋虚血,心筋梗塞,交感神経緊張,カ うな重症となった患者を見るICU(集中治療 テコールアミン ある部位で生じた電気的興奮が,何らかの電 4 重症患者の心電図モニタ装着の 必要性(表3) 重症集中ケア V o l u m e . 1 4 N u m b e r . 1 室) ,CCU(循環器治療室) ,HCU(高度治療室) においては,特に心電図モニタの装着は必須と なります。 てもナースステーションで確認することができ 心電図モニタを装着することで,次に挙げる ますし,ワイヤレスタイプであれば,ベッドか ことを把握することができます。 ら移動していてもモニタリングすることができ ■生体反応 ます。 手術や検査を行った後などは,体液量・酸素 不整脈が出現した際にはアラームを鳴らし警 化・体温などさまざまなものが変化を来します。 告してくれますので,緊急時の早期発見につな また,深部静脈血栓症・肺塞栓症を引き起こす がります。不整脈が出現した際には記録用紙に 可能性が増加します。呼吸器を装着している患 波形を出力することができますので,不整脈の 者は陽圧換気となっているため,循環動態に影 診断にも役立ちます。 響を及ぼしますし,終末期患者も身体状況は急 ■デメリット 激に変化していきます。その反応は脈拍数や心 心電図を装着するためにモニタのコードが身 電図波形に変化をもたらします。 体に触れています。電極はシール式になってお ■不整脈の出現 り直接皮膚に接着するため,患者にとっては煩 発作性心房細動・心室頻拍・房室ブロックな わしく,ストレスとして感じる場合があります。 どの不整脈を持つ患者を経過観察する際に心電 そのため,患者への説明や皮膚の観察とケアを 図モニタを用いることで,病態の改善・進行を 行う必要があります。 把握することができます。また,抗不整脈薬に 心電図モニタは基本的にⅠ・Ⅱ・Ⅲ誘導から は催不整脈作用があり,副作用として不整脈を 1つを選択してモニタリングします。十二誘導 引き起こす可能性があるため,抗不整脈薬を投 では他にaVR・aVL・aVF・V1 ~V6 を記録す 与している患者は心電図モニタで観察する必要 ることができます。心電図モニタから得られる があります。 情報量は少なく,どのような心疾患なのか診断 ■心電図波形の異常 することは困難です。不整脈が出現した際には 心電図波形に異常を来すものとして,電解質 十二誘導心電図を実施し,医師に相談して適切 異常と心筋の虚血が挙げられます。カリウムと な処置を行う必要があります。 カルシウムは,血中濃度が変化すると波形が変 また,心電図モニタは頻繁にアラームが鳴り 化していきます。心筋が虚血となると,STが上 ます。これは,心電図のQRS波を感知して不整脈 昇する変化が見られます。患者の身体状況が心 を診断し,アラームを鳴らす不整脈が出現した 電図によって確認することができます。 場合,速やかにアラームを鳴らすシステムになっ 心電図モニタの メリット・デメリット(表4) ■メリット 表4 心電図モニタのメリット・デメリット メリット デメリット 心電図モニタは,十二誘導心電図などとは異 ・簡単に装着できる なり,患者に容易に装着することが可能です。 ・長時間・継続的な観察が可能 装着していれば,心電図の波形を長時間・継続 的にモニタで観察することができます。セント ラルモニタがある病棟では,患者から離れてい ・患者のストレスとなる ・十二誘導心電図より情 報量が少ない ・患者から離れていても観察が可能 ・不整脈出現時にはアラームが発 ・アーチファクトなど誤 アラームが発生する 生する ・記録紙に残すことができる 重症集中ケア V o l u m e . 1 4 N u m b e r . 1 5 ているからです。患者が体位変換した際やベッ しょう。事前に出現していた不整脈を知ること ドから車いすに移動した際,歩行している際な で,患者の観察ポイントを明確にすることがで ど安静にしていない時はノイズが発生します。 きます。 このノイズのことを「アーチファクト」と言い 次に,患者のベッドサイドやセントラルモニ ます(アーチファクトの詳細については後述し タから離れた後,リコールを見て自分の不在時 ます)。 に不整脈が出現していなかったかを確認します。 心電図モニタのリコールの意義 特に休憩時間は1時間程度患者のそばを離れま 不整脈を記録できない設定にすると,患者の す。離れる際は他のスタッフに患者の観察を依 心電図は絶え間なくモニタ画面に映し出されま 頼しますが,依頼されたスタッフがアラームを す。すると,その画面から心電図が流れて行っ 見逃す可能性もあるので,ベッドサイドに戻っ てしまい,振り返って確認することができませ た際は必ずリコールを確認しましょう。 ん。不整脈アラームが鳴って画面を見てもすぐ 最後に急変時にリコールを確認します。心室 に画面の外に流れてしまいます。そのため,ど 頻拍,心室細動,心停止など致死的不整脈が出 のような不整脈が出現していたのか確認するこ 現した際は,直ちに胸骨圧迫を行い,循環を維 とが困難になり,その結果,看護師は心電図モニ 持させる処置が必要です。その際は,BLS・ACLS タの画面から目を離すことができなくなります。 のプロトコールに準じて対応します。胸骨圧迫 リコールの設定をすることで,これらの問題 をしている際,心電図モニタはノイズが多く混 を解決することができます。不整脈が出現した 入するため,観察する意味があまりありません。 際にはアラームが鳴り,リコールボタンを押せ 胸骨圧迫している際には,医師に急変が起こっ ば,いつ・どのような不整脈が出現したかを画 た時の波形をリコールし,原因を検索すること 面に出すことができ,治療を要する不整脈や致 ができます。また,除細動器などで蘇生に成功 死的不整脈の徴候が見られた際は医師に記録用 した際も,リコールで確認することで適切な処 紙を提出することもできます。このように,心 置を選択することができます。 電図モニタのリコールはスタッフ同士で共有す 心電図アラーム るツールとなるのです。 心電図モニタのアラームが鳴ると,不整脈の 心電図モニタのリコールから 確認できること(表5) 診断が表示されます。心電図モニタは患者の波 モニタのリコールは,不整脈が出現した際に QRSを抽出し脈拍数を計測しています(表6) 。 確認するだけではありません。まず,患者を受 次に,波形の大きいT波を検出します。QRS波 け持った際には,患者にいつ・どのような不整 とT波を除去するとP波が検出されます。心電 脈が出現していたのかリコールを見て確認しま 図モニタは,QRS波の標準波形と患者のQRS波 表5 リコールを確認する場面 ・患者の始業時チェック ・不整脈出現時 ・ベッドサイドから長時間離れた時 ・急変時対応 6 重症集中ケア V o l u m e . 1 4 N u m b e r . 1 形を検出して波形を区分し,特に波形の大きい を比較し不整脈を区分しているため,QRS波が 大きく表示させるように電極の位置と誘導を選 択する必要があります。体位や電極の位置など で波形が変化した場合は,心電図モニタに波形 を再学習させる対応を行う必要があります。 表6 不整脈の種類 不整脈 波形 Asytole 心停止 VF 心室粗動 VT 心室細動 Slow VT 促進型固有心室調律 Tachy 頻脈 Brady 徐脈 Run ショートラン Bigeminy 二段脈 Trigeminy 三段脈 Pause 休止 Couplet 心室性不整脈二段 Frequent 心室性期外収縮頻発 意味や意義のない削除できるリコール の中に本物の不整脈が隠れている場合がありま 心電図モニタのアラームの多くは,ノイズが す。アラームを見過ごしてしまうと,患者の生 原因である場合が多くあります。心電図に混入 命を脅かすことにもなりかねません。そのため, したノイズのことを「アーチファクト」と言い アーチファクトが出現しやすい時間・状況など ます(表7) 。アラームが鳴ってもアーチファ を理解し,本当の不整脈を見逃さないことが大 クトが続けば,看護師は「どうせまたアーチ 切です。 ファクトだろう」と思い,アラームを “オオカ 患者の体位変換を行う,清拭を行う,X-P写 ミ少年” のように扱ってしまいがちですが,そ 真を撮影する,ベッドから移動するなど,身体 重症集中ケア V o l u m e . 1 4 N u m b e r . 1 7
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