第3章 頭頸部癌の放射線治療

乃木坂RT2013
第3章 頭頸部癌の放射線治療
国際医療福祉大学病院
放射線治療・核医学センター
北原 規
1.頭頸部腫瘍
頭頸部腫瘍の特徴
1)機能と形態の保持を考慮した治療法の選択が大事
放射線治療の特徴を生かせる分野
2)頭頸部は直視が可能で,指の届く領域
治療効果を明瞭に観察しながら治療できる
3)頭頸部には脳脊髄,眼球,唾液腺などの重要臓器
これらに対する放射線量を考慮する必要
4)発生部位により,進展様式が異なる
幅広い知識をが必要
5)発生要因に喫煙や飲酒などが関与
頭頸部領域,気道,上部消化管に二次癌の発生
2.頭頸部腫瘍
頭頸部腫瘍放射線治療
‡ 微視的病巣(Subclinical disease)
45-50Gy/5週で90%制御
‡ 原発巣や転移巣
60-70Gy
‡ 周囲正常組織耐容量
脊髄45Gy,唾液腺30Gy前後
2.頭頸部腫瘍
各論
‡ 舌癌
‡ 口腔癌
‡ 上咽頭癌
‡ 中咽頭癌
‡ 下咽頭癌
‡ 副鼻腔癌
‡ 喉頭癌
‡ 甲状腺癌
2.頭頸部腫瘍
舌癌 (Tongue ca)
義歯やう歯の機械的刺激が誘因.白板症は前癌病変
治療方法:早期(T1-2)は組織内照射,電子線腔内照射
T3でも外照射+組織内照射
N+や浸潤傾向が強いものは切除,頸部リンパ節は切除
放射線治療法:組織内照射単独---Cs-137針,Ir-192で60-70Gy
高線量率Ir-192は60Gy/10回/5日
治療成績:局所制御 T1--85-90%,T2--75-85% T3-4--50%以下
合併症:口腔の衛生状態,義歯の機械的刺激,飲酒喫煙などにより,
骨露出,骨壊死,舌潰瘍など
※最近は手術が増加
舌癌の治療方針
早期(T1, T2)
大きいT2, T3
局所進行T4
→手術か組織内照射(成績同等)
断端陽性の時は術後照射
→舌部切→術後RT
→舌部切→術後RT
→術前RT→部切
片側だけで小さい舌癌:外部RT
舌癌のリンパ節転移
Cancer 29:1448, 1972 配布資料tonsilのものだった
耳鼻・咽喉・口腔系の治療
(悪性腫瘍)
•
•
早期例:手術、または放射線治療
進行例:手術 放射線治療、化学療法併用放射線治療
• 早期舌癌(組織内照射)
• セシウム針を直接刺入:RI隔離
病棟での管理が必要
• 早期喉頭癌
• 外部照射を約7週間行うこ
とで、発声機能を失うこと
なく治療できる
舌癌に対する組織内照射治療
137Cs
針を使用
192Ir
線源を使用
2.頭頸部腫瘍
舌癌のポイント
1.義歯やう歯の機械的刺激,白板症は前駆病変
2.早期(T1-2)は組織内照射,電子線腔内照射
3.N+や浸潤傾向が強いものは切除,頸部LNは切除
4.組織内照射単独---Cs-137針,Ir-192で60-70Gy
5.局所制御 T1:85-90%,T2:75-85%
T3-4:50%以下
6.口腔の衛生状態,義歯の機械的刺激,飲酒喫煙
ĺ後期合併症:骨露出,骨壊死,舌潰瘍
7.最近は手術が増加している
口腔癌
米国J
Am
Dent
Assoc
92:571,1976
口腔がんの電子線治療
口腔内悪性黒色腫
口腔底がん(小線源治療)
頬粘膜腫瘍の小線源治療
2.頭頸部腫瘍
上咽頭癌 Nasopharyngeal ca.
EBVの関与.日本人は比較的少ない.
‡ 進展形式:
早期診断は困難.初診時にLN転移80-90%.
症状は耳,鼻,頭蓋底への進展度による
(頭蓋底はV, VI神経症状が多い)
遠隔転移は肺,骨,肝
‡ 治療法の選択:解剖学的な問題から手術適応なく,
放射線治療が主体
頸部転移巣も制御可能(頸部郭清しない)
CDDPを中心とした化学療法との同時併用
上咽頭癌
上咽頭と周囲の解剖
上咽頭癌 T4N0M0 ⅣA
期
治療前
60Gy 放射線治療後
治療後4年8ヵ月経過 再発無
2.頭頸部腫瘍
上咽頭癌 Nasopharyngeal ca.
その2:放射線治療の方法
‡ 原発巣,中咽頭,頭蓋底:40-45Gy左右対向2門
ĺブースト60-70Gyまで
下頸部と鎖骨上窩:前方一門(or 前後対向二門)
‡ 治療成績:早期(I, II期)90%,III期40-50%,
IV期30-40%
‡ 合併症:唾液分泌障害,う歯,骨壊死,甲状腺
機能低下,下垂体機能低下,脳壊死,
脊髄症,聴覚低下,頸部照射による硬結
上咽頭癌のPETCT
上咽頭癌
照射法
比較
A
B
A: 従来
C: 〃
B: IMRT
D: 〃
C
D
上咽頭がんの照射野(LG)
陽子線治療
複視で発症眼科ĺ脳外科ĺ耳鼻科ĺ眼科ĺ神経内科
上咽頭癌T4N0M0(IVA期)
治療前
60Gy 放射線治療後
上咽頭癌の治療成績
‡
‡
‡
‡
‡
‡
‡
‡
化学療法併用で進行癌の成績が向上
治療 2Y-DFS 2Y-OS
Inter Group study 70Gy
24%
47%
n=150
70Gy+CTX 69%
78%
Wee et al
70Gy
62%
77%
n=220
70Gy+CTX 76%
85%
Lee et al
>66Gy 61%
79%
n=348
>66Gy+CTX 69%
78%
頭頸部がんの化学放射線療法
切除不能頭頸がんに対する治療法は、化学放射線療法が
標準治療である。同時併用が一般的(シスプラチン)であるが、
継時併用療法や交替療法(5FU+プラチナ製剤、5FU+プラ
チナ製剤+タキサン)も症例に応じて使用される。
①上咽頭がん
②上咽頭がん以外の頭頸がん
③選択的動注療法併用の化学放射線療法
上咽頭がんの化学放射線療法
(スケジュール)
2.頭頸部腫瘍
上咽頭癌 のポイント
1.EBV:治療後の再発や予後にも関連
2.早期診断が困難で,初診時にLN転移80-90%
3.頭蓋底はV, VI神経症状が多い
4.手術適応はなく,放射線治療が主体
5.頸部転移巣も制御可能
6.化学療法との同時併用も成績向上
7.放射線治療:原発60-70Gy,その他-45Gy
8.早期(I, II期)90%,III期40-50%, IV期30-40%
9.合併症は唾液分泌障害,甲状腺や下垂体機能低下
上咽頭癌再発に対する再照射
study
n
control
5-Y-S
Fu et
12-63Gy
12%
Yan et al (1983) 162
18%
Chen et al (1989) 61
14.8%
Lee et al (1993) 706
NR
dose
al (1975)
41%
30-70Gy
local
42
14%
40-81Gy
NR
57Gy
30%
2.頭頸部腫瘍
中咽頭癌 ( Oropharyngeal ca)
‡ 治療法の選択:
早期癌(T1,T2,N0)は放射線治
進行症例は手術と術後照射が多い
‡ 放射線治療の方法:
外照射--原発に65-70Gy
(大照射野40-45Gy,限局して20-25Gy)
組織内照射---Ir-192やAu-198グレイン
‡ 治療成績:I, II期---50-60%,III, IV期---30-40%
‡ 合併症:骨壊死,唾液分泌障害,甲状腺機能低下症,
喉頭浮腫,頸硬結
2.頭頸部腫瘍
扁桃癌T2N0に対する三次元放射線治療計画例
補償フィルター使用で
三次元的に均一性の高い
線量分布が得られる
PTVの殆どが95%域に
含まれる
中咽頭:扁桃癌
T4N2c:傍咽頭間隙や椎前筋まで浸潤
2.頭頸部腫瘍
中咽頭癌のポイント
1.早期癌は放射線治療,進行例は手術と術後照射
2.外照射--原発に65-70Gy
(大照射野40-45Gy,限局して20-25Gy)
3.組織内照射のブーストも可能
4.5年生存:I, II期 50-60%,III, IV期 30-40%
5.合併症:骨壊死,唾液分泌障害,
甲状腺機能低下症,喉頭浮腫,頸硬結など
2.頭頸部腫瘍
下咽頭癌 ( Hypopharyngeal ca)
‡ 早期発見が困難で進行癌が多い
‡ 治療法の選択:
早期(T1-2N0)は根治的放射線治療進行例は手術と
術後照射が多い化学療法併用放射線治療で喉頭温存
が増加
‡ 放射線治療の方法:
ルビエールLNから鎖骨上窩まで含む照射40-45Gy
原発巣に65-70Gyまで.術後照射は50-60Gy
‡ 治療成績:T1-2---局所制御60-80%,5年生存率60%
T3-4--- 同 20-40%, 同 10-30%
‡ 合併症:唾液分泌障害,甲状腺機能低下,喉頭浮腫,
軟骨壊死,頸部硬結
下咽頭癌へのIMRT
‡ T3,化療併用,2Gy/dĺCTV1=70Gy CTV2=50Gy
下咽頭がんの化学放射線療法
下咽頭がんの照射野(LG)
1.頭頸部腫瘍
下咽頭癌のポイント
1.進行癌が多い
2.治療法の選択:早期(T1-2N0)根治的放射線治療
進行例は手術と術後照射
3.化学療法併用放射線治療で喉頭温存が増加
4.ルビエールLNから鎖骨上窩まで含む照射40-45Gy
原発巣に65-70Gy.術後照射50-60Gy
5.T1-2:局所制御60-80%,5年生存率60%
T3-4:局所制御20-40%,5年生存率10-30%
6.合併症:唾液分泌障害,甲状腺機能低下,
喉頭浮腫,軟骨壊死,頸部硬結など
喉頭がん(Laryngeal ca)
1.頭頸部がんの中で最も高い罹患率であるが、さ声等の症状が
出現し、転移も稀な為治癒率は高い。
2.60代以上の男性に好発する。喫煙、音声酷使、過度の飲酒が
原因と考えられる。
3.呼吸器や消化器系の重複がんが25%。
4.発生頻度は、声門:70%、声門上:30%
5.声門がんはT1,T2からさ声が発生し、リンパ節転移は稀な為、
治癒率は高い。
6.治療は早期の場合は放射線治療、進行がんでは喉頭摘出が
一般的であるが、近年化学放射線療法が好成績。
7.RTの局所制御率は、T1:90%、
T2:70%、T3:50%
2.頭頸部腫瘍
喉頭癌
‡ 放射線治療の照射野と線量分布
ウエッジフィルターが大事
喉頭解剖
喉頭の画像いろいろ
A: 声門上
喉頭蓋の前へ
B: 喉頭蓋から
舌根部へ
A
B
C
D
C: 声門から
声門上へ
D: T4,軟骨破壊
2.頭頸部腫瘍
喉頭癌のポイント
1.声門,声門上,声門下に分類,声門がんが一番多い
2.声門癌T1-2:リンパ節転移なし,声門上部は多い
3.早期癌(T1-2N0)は放射線治療単独で制御可能
4.放射線治療:4-6MVX線,左右対向二門,
60-70Gy, ウエッジフィルター使用
5.制御率 T1:80-90%,T2:60-70%, T3:30-40%,
声門上部T1-2 :75-80%
6.急性合併症:口内炎,咽頭炎,皮膚炎
後期合併症:軟骨壊死,喉頭浮腫など
副鼻腔がん
‡ 副鼻腔に発生するがんの総称
‡ 有名なものには上顎がん等がある。
‡ 治療法には種々のモダリティがあるが、
集学的治療が主な役割を果たす。
周辺に眼球、唾液腺、口腔粘膜、舌等が
存在する為、注意が必要である。
照射の際、ウエッジフィルター、スペーサー
等の装具、備品を使用することもある。
頸部リンパ節転移
頭頸部はリンパ流が豊富なので、あらゆる
頭頸部腫瘍からリンパ節転移が生じ得る。
特に多いのは舌癌、咽頭癌等からの転移
である。
他に肺癌、食道がん等他部位のがんからも
頸部リンパ節転移は起こり得る。
原発そのもの(悪性リンパ腫)の場合もある
ので注意を要する。
眼・眼か腫瘍
眼・視覚系の治療(悪性腫瘍)
‡ 網膜芽細胞腫
(リニアック:直線加速器)
‡ 悪性リンパ腫
(CT検査)
(線量分布図)
(MRI検査)
(症例は 2才男児:
左眼球内に腫瘍
が認められ、手
術が施行された)
• 手術や外部照射
• 外部照射で制御可能
• 臓器温存が可能
(症例は眼窩悪性リ
ンパ腫:外照射単
独で治癒となった)
2.頭頸部腫瘍
甲状腺癌 (Thyroid ca)
分化型の乳頭癌やろ胞癌の進行は遅い
未分化癌は進行が早く予後不良
腫瘍マーカ-:乳頭癌やろ胞癌(thyroglobulin)
髄様癌(Calcitonin)
病理と進展形式:
乳頭癌(70-80%):頸部リンパ節転移
ろ胞癌(20%):骨転移,肺転移など血行性転移
髄様癌:家族発生あり
未分化癌(5%)
悪性リンパ腫:橋本病と関連
2.頭頸部腫瘍
甲状腺癌:治療法の選択
2.頭頸部腫瘍
放射線治療の方法
2.頭頸部腫瘍
甲状腺癌 のポイント
1.分化型の乳頭癌,ろ胞癌の進行は遅い
未分化癌は進行が早く予後不良
2.腫瘍マーカ-:乳頭癌やろ胞癌(thyroglobulin)
髄様癌(Calcitonin)
3.乳頭癌は頸部リンパ節転移,ろ胞癌は血行性
4.試験に出やすい.髄様癌は家族発生,
悪性リンパ腫は橋本病と関連
5.手術が基本,放射線治療は術後照射
取り込みがあれば I-131内用療法
頭頸部がん放射線治療の障害
1.急性障害
放射線皮膚炎、口内炎、舌炎、食道炎
咽喉頭炎、耳下腺炎、外・中耳炎、
結膜炎、角膜炎等の各種急性炎症
2.晩期障害
放射線潰瘍、穿孔、硬化、唾液腺
機能障害、下顎骨壊死、白内障、
放射線脊髄症、2次発がん等
放射線治療とセツキシマブ同時併用による皮膚炎
Bernier et al: Annals of Oncology 22: 2191‒2200, 2011
病理学的に成因が異なる → 放射線の効果にCetuximabの変化が皮膚変化を修飾
RT alone
RT+cetuximab
下顎骨壊死(肉眼画像)
下顎骨壊死2(X‐P). jpg
下顎骨壊死(X線画像)
下顎骨壊死(皮弁・チタンプレート
による再建)
おことわり
図表は 北原 規・相羽恵介編著
:化学放射線療法プラクティカル・
ガイド」2009より引用
(一部改変)致しました。