プログラム・抄録集 - 岡山県理学療法士会

第 21 回
岡山県理学療法士学会
テーマ
「飛び出せ!地域へ!!」
プログラム・抄録集
開
催
日:
平成 27 年
6月
21 日(日曜日)
会
場:瀬戸内市保健福祉センター ゆめトピア長船
主
催:
学
会
一般社団法人 岡山県理学療法士会
長:宮口
昭一/岡山県理学療法士会 東支部
支部長
準備委員長:和氣
武史/岡山県理学療法士会 東支部
副支部長
第 21 回
岡山県理学療法士学会開催にあたって
学会長
宮口
昭一
岡山県理学療法士会
東支部
支部長
学会趣旨
厚生労働省では、地域包括ケアシステムに関して下記のように述べられています。
「団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分ら
しい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供
される地域包括ケアシステムの構築を実現していきます。
今後、認知症高齢者の増加が見込まれることから、認知症高齢者の地域での生活を支えるためにも、地域包
括ケアシステムの構築が重要です。
人口が横ばいで75歳以上人口が急増する大都市部、75歳以上人口の増加は緩やかだが人口は減少する町
村部等、高齢化の進展状況には大きな地域差が生じています。
地域包括ケアシステムは、保険者である市町村や都道府県が、地域の自主性や主体性に基づき、地域の特性に
応じて作り上げていくことが必要です。
」 以上、厚生労働省 HP より
われわれ理学療法士は、地域包括ケアシステムの中でリハビリテーション専門職として、その力を十分に発
揮しなければなりません。日本理学療法士協会では「地域包括ケアシステムに関する推進リーダー制度」も始
まっており、岡山県理学療法士会でもその人材育成に取り組んでおります。
そういった中、これから先、われわれ理学療法士は施設病院だけにとどまらず、障がい(高齢)者の為に地域
に目を向け、地域に飛び出していくチャンスです。
第21回岡山県理学療法士学会においては、われわれが地域にでるにあたって、岡山県の地域包括ケア(シス
テム)の現状を知り、地域包括ケア(システム)を模索していきたいと思います。
また、指定演題(新人理学療法士向け)を企画しており、一般演題発表も例年通り行い、幅広い学会となるよ
うに考えている。
式次第
(開会式)
(閉会式)
1.開会の挨拶
学会長
宮口 昭一
2.主催者挨拶
会長
國安 勝司
3.祝 辞
岡山県知事
伊原木
瀬戸内市長
武久 顕也
衆議院議員
山下 貴司
1.閉会の挨拶
隆太
日
程
6 月 21 日(日)
09:15 受付開始
09:45
開会式(第1会場)
午前の部
10:00
指定演題Ⅰ(第 1 会場)
『新人理学療法士へのワンポイントアドバイス』
1.運動器理学療法分野
指定演者
公森 隆夫
10:30
市立備前病院
2.神経理学療法分野
指定演者
津田 陽一郎
倉敷平成病院
座長
備前さつき苑
真壁
浩一
特別講演Ⅰ(第 1 会場)
『自ら切り開く理学療法士の道』
講師
半田 一登
日本理学療法士協会
座長
山根 一人
日本理学療法士協会
岡山県理学療法士会
12:00
総会(第1会場)
12:30
休憩
会長
理事
副会長
準備委員長
和氣 武史
午後の部
13:30
14:30
一般演題Ⅰ(第 1 会場)
6題
座長
万代 正輝
岡山県理学療法士会
北支部
支部長
一般演題Ⅱ(第2会場)
5題
座長
中島 均
岡山県理学療法士会
西支部
支部長
指定演題Ⅱ(第 1 会場)
『新人理学療法士へのワンポイントアドバイス』
1.内部障害理学療法分野
指定演者
湯口 聡
心臓病センター榊原病院
2.内部障害理学療法分野
指定演者
佐藤 雅昭
座長
15:00
武田
正則
コープリハビリテーション病院
岡山県理学療法士会
特別講演Ⅱ(第1会場)
『これからの介護予防について考える』
講師
坂井 容子
岡山県 保健福祉部 長寿社会課
座長
國安 勝司
岡山県理学療法士会
会長
副会長
16:10
シンポジウム(第1会場)
「地域包括ケアを模索する~理学療法士に期待するもの~」
シンポジスト
1.坂井 容子
岡山県 福祉保健部
2.三宅 孝士
赤磐市役所
長寿社会課
熊山支所
健康福祉課
3.高塚 賢士
NPO法人岡山県介護支援専門員協会
4.的野 絹代
瀬戸内市保健福祉部
トータルサポートセンター準備室
5.栗山 努
岡山県理学療法士会
座長
17:30
宮口 昭一
岡山県理学療法士会
閉会式(第1会場)
理事
東支部
支部長
学会参加費
岡山県理学療法士会会員
岡山県外の日本理学療法士協会会員
他職種(OT、ST、看護師等)
非日本理学療法士協会会員の理学療法士の方
PT学生
1000円
2000円
2000円
3000円
無料(※受付時に学生証を提示してください)
公益法人 日本理学療法士協会の会員については、「新人教育プログラム」、「各専門分野」のポ
イント申請中となっています。学会当日には会員カードを持参するように心がけてください。
会場について
学会当日の会場は瀬戸内市保健福祉センター ゆめトピア長船となっています。駐車場は無料と
なっていますが、駐車場に限りがあるため乗り合わせや公共交通機関での来場をお願いします。
住所
瀬戸内市長船町土師 277-4
(JR 長船駅から東へ 0.4Km)
駐車場
150台
アクセス:
●電車で JR 長船駅から徒歩約 5 分
●車でブルーライン瀬戸内 IC 下車→県道 223 号
線と県道69号線経由にて約 13 分
●車で山陽自動車道山陽IC下車→県道 37 号線
と国道 2 号線、県道69号線経由にて約 26 分
会場見取り図
受付は2階にて行います。また会場は第1会場(夢いっぱいホール)と第2会場(リフレッシュ
スタジオ)にて行います。第1、2会場ともに飲食禁止のため食事の際には1階にあるゆとりの
夢広場をご利用ください。また館内禁煙となっておりますので、ご協力お願い致します。
演題発表について
シンポジウムについて
○演者は坂井容子先生を除く 4 人となります。
○シンポジストの方で学会当日に発表用データを持参する方は、受付にて試写と確認を必ず行ってください。
○発表用データは、学会終了後に学会事務局が責任をもって消去いたします。
○シンポジストの方はセッションの5分前には次演者席に着いてください。
○発表時間は1人15分、討論は20分となっています。時間厳守にてお願いします。
○発表のプレゼンテーションは Windows PC の Microsoft Power Point 2010 にて行います。
指定演題について
○指定演者の方で学会当日に発表用データを持参する方は、受付にて試写と確認を必ず行ってください。
○発表用データは、学会終了後に学会事務局が責任をもって消去いたします。
○指定演者の方はセッションの5分前には次演者席に着いてください。
○発表時間は10分、質疑応答は5分となっています。時間厳守にてお願いします。
○発表のプレゼンテーションは Windows PC の Microsoft Power Point 2010 にて行います。
一般演題について
○演者は学会当日に発表用データを持参し、受付にて試写と確認を必ず行ってください。
○学会の円滑な運営の為、発表用データはコピーさせていただき、こちらで用意した発表用パソコンにて発表
していただきます。発表用パソコンに演者が直接データを入れることはできませんのでご了承ください。
○発表用データは、学会終了後に学会事務局が責任をもって消去いたします。
○演者の方はセッションの5分前には次演者席に着いてください。
○発表時間は7分、質疑応答は3分となっています。時間厳守にてお願いします。
○発表のプレゼンテーションは Windows PC の Microsoft Power Point 2010 にて行います。
○発表の進行は座長が行いますので指示に従い、座長や質問者に対して礼節を守った姿勢を心がけてください。
○1 演題毎に、発表制限時間の終了 1 分前に合図のベルが 1 回鳴りますので、残り 1 分で内容を速やかにまと
めて発表を終了してください。また、発表制限時間の終了時に合図のベルが2回鳴ります。
座長について
座長はセッションの5分前には次座長席にお着きください。担当セッションの進行は座長に一任します。予
定時間の遵守をお願い致します。質疑の際には、質問者の所属、氏名の確認をお願い致します。
参加者について
学会は研究の発表や意見交換を本質とした学術交流を積極的に行うための空間です。来場されたすべての
方々で闊達な意見交換及び交流が出来ることを心から期待しております。なお、6月中の開催ですので cool BIZ
を推奨します。
特別講演Ⅰ
『
自ら切り開く理学療法士の道
講師
司会
会場
』
半田 一登
日本理学療法士協会
会長
山根 一人
日本理学療法士協会
岡山県理学療法士会
理事
副会長
第1会場(2F 夢いっぱいホール)
自ら切り開く理学療法士の道
(公社)日本理学療法士協会
会長 半田一登
「理学療法士及び作業療法士法」は、昭和40年に制定され、翌年には第1回の国家試験が行われました。
当時の理学療法士養成校は、東京病院附属リハビリテーション学院、九州リハビリテーション大学校、高知リ
ハビリテーション学院というように、校名にリハビリテーションという表記がありました。要するに、理学療
法士等はリハビリテーション医療の下での専門職として位置づけられたのです。この校名は諸外国ではあまり
目にしないものです。こうした環境で育てられた理学療法士は、医師の従順な専門職として育っていきました。
そのため、理学療法士は自ら考え、自ら決定し、自ら歩むという事を苦手としてきたと思います。
しかし、平成18年の診療報酬はリハビリテーション医療全体の大打撃となり、理学療法士の解雇が全国で
見られました。そのような中で、日本理学療法士協会の渉外力を上げなくてはならないという雰囲気がようや
く出てきました。ただ医師に依存して、生きていくのではなく、理学療法士の仲間を増やし、自らの意思で切
り開くべき道を決め、そして邁進しなければなりません。ただし、医師との連携調整は必須であり、ここを誤
ると立ち往生する可能性は高くなります。
高齢社会の到来は、理学療法士の職域に大きな影響があります。地域包括ケアシステムの中で、理学療法士
に期待されるのは介護予防や転倒予防等の予防に関することです。ここで着目すべきことは、平成25年の通
知「理学療法士の名称の使用等について」です。この中で、転倒予防等については、医師の指示なしに理学療
法士を名乗って業務に当たることが認められています。非常に大切な通知ですが、我々の身分法をしっかりと
読めば、この通知は当たり前のこととも言えます。一方、この通知を逆手に「開業」や「保険外診療」として
の活動を行う会員が増えています。この行為は理学療法士全体として、自ら切り開くべき道を閉塞状態にする
ものであり、本会としては容認することはありません。先日、協会ニュースの巻頭言にウロウロキョロキョロ
の勧めを書かせていただきました。組織として、あるいは個人として新たな道を探し、切り開くためには多く
のことを知らねばなりません。未知のまま突き進めば、成功するはずもありません。
一方、新たな道を作り上げるためには、技術の標準化とエビデンスは欠かせません。この両者を成すために
は、個人の力では何ともなりません。だからこそ、職能団体が必要なのです。力を併せて、理学療法士の新た
な道を切り開こうではありませんか。
特別講演Ⅱ
『
これからの介護予防について考える
講師
座長
会場
』
坂井 容子
岡山県 保健福祉部
長寿社会課
國安 勝司
岡山県理学療法士会
会長
第1会場(2F 夢いっぱいホール)
これからの介護予防について考える
岡山県保健福祉部長寿社会課 坂井容子
日本では、少子化と高齢化が進み、人口が減少する一方で、高齢者の人口が増加しています。本県において
も、平成22年の国勢調査で前回調査よりも人口が減少している一方で、高齢化率は上昇し25.1%に達し
ました。今、本県は、本格的な人口減少社会、超高齢社会の到来により、単身や夫婦のみの高齢者世帯や要介
護状態等の高齢者、認知症である者の増加と、それを支える介護労働力の低下、社会保障費の急激な増加とい
う3つの課題に直面しています。
平成22年の国勢調査をもとにした世帯数の推計によると、本県の高齢者の単独世帯数は平成32年(20
20年)にかけて急速に増加し、平成37年(2025年)に10万世帯に達した後も緩やかに増加し続ける一
方で、高齢者夫婦のみの世帯数は、平成32年(2020年)の10万3千世帯をピークにその後は減少して
いきます。一般的に、食事づくり、買物、金銭管理、ごみ出しなどの生活管理は、家族が共同して行っている
ことを踏まえると、高齢者の単独世帯が増加するということは、生活支援の必要な人が増えていくということ
でもあります。
本県の要介護認定者数10万9千人(平成25年度末)のうち97.5%が65歳以上です。さらに、65歳
以上の認定者の88.6%(9万6千人)が75歳以上のいわゆる後期高齢者であり、特に85歳以上の高齢
者が要介護認定者数全体の半数を占めています。
また、要介護認定者のうち、
「認知症の日常生活自立度」がⅡ以上と判定された人は、認定者全体の58.1%
で、これを5歳階級別人口ごとにみると、85歳から89歳で33.1%、90歳以上では56.7%になり
ます。長寿が進み、年齢の高い高齢者が増加するということは、要介護認定者数と認知症高齢者数が増えてい
くことでもあり、介護サービスの需要が増大しますが、生産年齢人口の減少で産業全体の労働力が低下する中、
介護人材の不足と財源の確保が、今後、深刻な問題となっていきます。
こうした状況において、高齢者が要介護状態等となっても、尊厳を保持し、住み慣れた地域でその有する能
力に応じて自立した日常生活を営むことができるようにしていくには、医療や介護の専門職とボランティアや
自治会などの地域住民が、役割分担しながら協働して支える地域ぐるみの支援体制を構築する必要があります。
専門職と地域住民の役割分担をうまく進めながら、高齢者が地域で担い手として活躍できるように地域をつ
くること、このことが、最も急がれる課題であり、その実現は、自立支援の視点なくしてはできないことです。
今、社会が理学療法士に求めていることは、何か、行政に携わる立場から、お伝えしたいと思います。
シンポジウム
「地域包括ケアを模索する」
~理学療法士に期待するもの~
シンポジスト
1. 坂井 容子
岡山県 保健福祉部
2. 三宅 孝士
赤磐市役所 熊山支所
長寿社会課
健康福祉課
3. 高塚 賢士
NPO 法人岡山県介護支援専門員協会
4. 的野 絹代
瀬戸内市保健福祉部
トータルサポートセンター準備室
5. 栗山 努
岡山県理学療法士会
座長
会場
理事
宮口 昭一
岡山県理学療法士会
東支部
第1会場(2F 夢いっぱいホール)
支部長
地域包括ケアシステム構築のために理学療法士に求められる役割
赤磐市役所 熊山支所
健康福祉課
三宅
孝士
地域包括ケアシステムとは、
「2025年問題」を乗り越えるための、
「全員参加」の「地域支え合い体制づくり」のことです。
地域包括ケアシステム構築のために「医療・介護連携」
「認知症施策」
「地域ケア会議」
「生活支援」
「介護予防」
の5つの分野において充実と強化が求められています。
特に「医療・介護連携」
「地域ケア会議」
「介護予防」においては理学療法士の専門職としての協力が求められ
ています。
一方、リハビリテーションの目標は、
機能障害の改善→ADLの自立・家庭復帰
→生活機能の向上・社会参加→その人らしいくらしの再構築と支援
へと時代の変化とともに変わってきていることは、皆さんご存じのとおりです。
高齢者リハビリテーションのイメージは、時間軸毎に、
① 心身機能へのアプローチ
② 活動へのアプローチ
③ 参加へのアプローチ
となりますが、今後我々理学療法士は①のみでなく、②③に対して積極的に参
画していくことが求められています。
・・・具体的には、
「介護予防」
これまでの介護予防の手法は、心身機能を改善することを目的とした機能回復訓練に偏りがちであり、介護予
防で得られた活動的な状態をバランス良く維持するための活動や社会参加を促す取り組み(多様な通いの場の
創出など)が必ずしも十分ではなかったという課題があります。
これからの介護予防は、機能回復訓練などの高齢者本人へのアプローチだけでなく、生活環境の調整や、地域
の中に生きがい・役割を持って生活できるような居場所と出番づくりなど、高齢者本人を取り巻く環境へのア
プローチも含めた、バランスのとれたアプローチが重要となってきます。
是非、一緒に地域に出て専門性を発揮してみましょう!!
第 21 回岡山県理学療法士学会
『地域包括ケア(システム)を模索する~理学療法士に期待するもの~』
介護支援専門員の立場から
NPO 法人岡山県介護支援専門員協会
事務局長・理事 高塚賢士
今日介護保険制度の改定から 2 ヶ月ほど経ってはいますが、国が目指している地域包括ケアシ
ステムが本格的に稼働しているとは言いがたい状況です。
そもそも、地域包括ケアシステムとは新しい概念のように捉えられていますが、実は 2025 年問
題を見据え、介護保険制度創設当初から検討されている地域の取り組みです。全国でも様々な事
例を通して、モデルケースが提示されていますが、本来地域ケアシステムとは、地域の数だけシ
ステムが有るということです。あたかもモデルというとマニュアルのような目指すべき目標のよ
うに思いますが、あくまでも先駆的事例と捉えることが必要です。
ですから岡山県においても一つのパターンではなく、県南・県北という2パターンでもなく、
各市町村(旧市町村エリア)の数のシステムが出来るはずで、内容についても多くの特徴的要素
をもつ地域包括ケアシステムが出来上がることでしょう。
岡山県は全国的に見ても比較的医療・介護サービスの充実している県として上位に位置づけら
れています。そのような中、国が提唱する在宅で支えるシステムをいかに啓蒙していくかが、私
達介護支援専門員の役割であり、他職種連携の目的でもあります。
そういった中で、理学療法士他リハ専門職の役割は大きいと期待します。
特に住民が安心感の中で医療サービスが気軽に受けられる状況が身近にあるというのは、何に
も代えがたいことだと思います。しかし、今のままでは国の提唱する「ときどき入院、ほぼ在宅」
の体制は、住民が不安になり医療体制から見放されると感じる可能性があります。
そのような中、リハ専門職が地域に根ざし、住まい、予防、生活支援の部分をケアマネや他の
専門職同様にサポートし、在宅生活を支援していただければ不安も解消されると思います。
貴会の今度ますますのご発展とご清祥をお祈り申し上げます。
「地域包括ケア(システム)を模索する~理学療法士に期待するもの~」
瀬戸内市保健福祉部トータルサポートセンター準備室
的野絹代
瀬戸内市は、高齢化率 31.7%で、少子高齢化と人口減少が進展し、高齢者のみの世帯は増加傾
向にあります。市民を取り巻く生活環境は、家族力や地域力の低下が危惧される中、高齢化率の
高い地域ほど、医療・介護の社会資源が乏しく、地域差が拡大している現状です。
そこで、瀬戸内市では、市民が住み慣れた地域で、安心して最期まで自分らしく暮らし続ける
ことができるまちづくりを実現するために、岡山県在宅医療連携拠点事業を受託し、平成 25 年
度に瀬戸内市在宅医療・介護・福祉・保健連携推進協議会を立ち上げました。市は、協議会の協
力を得て、市民の生活の質の向上のために、疾病予防や早期発見早期治療、重症化防止を一体的
に考え、地域課題の抽出、解決策の検討を重ねました。そして、現在、地域の医療・介護・福祉・
保健分野の関係機関が有機的な連携を図りながら、「笑顔で長生きできるまち」をスローガンに
して、目標を立てて計画的に取り組みを実施しています。
しかし、実際の在宅療養支援の現場では、本人や家族の健康状態の悪化から、経済や住まいの
問題など複雑多様化した課題が表面化し、総合的な支援が必要な相談が増加しています。それら
の課題を解決するためには、医療・介護・福祉・保健分野の多職種がそれぞれの専門的な視点か
らの課題を共有し、本人や家族の意思を尊重しながら、方向性を共通理解した上で、適切な生活
支援を行うことが重要であると考えます。
市民ひとりひとりが自分らしく、笑顔で長生きできるまちづくりが、地域包括ケアシステムで
あり、それを支えるためには、地域の特性を踏まえた健康づくりや生活状況に応じた介護予防活
動、医療や介護、福祉サービスの提供が不可欠です。さらに、この一連の過程が、地域において
切れ目なく効果的に機能するためには、多職種の支援連携体制の充実強化が重要です。理学療法
士の皆様には、私たち行政保健師や福祉職・介護職の方々とともに、市民の暮らしを感じながら、
生活の質の向上のために知恵と力を貸していただきたいと思います。
「地域包括ケア(システム)を模索する〜理学療法士に期待するもの〜」
一般社団法人 岡山県理学療法士会
地域包括ケア担当理事
栗山 努
地域包括ケアシステムに対する基本認識は、自助・互助・共助・公助の中でも、「自助」と「互助」を推進
すると言えます。共助は医療保険と介護保険の分野であり、公助は現物支給の分野であることを考え合わせる
と、自助と互助は未だ手つかずの状態に近いと言えます。
現在の理学療法は、リハビリテーションサービスの中に埋没しています。この社会的認識を変えるためには、
率先した活動以外に道は無く、総力を傾注して予防理学療法の標準化と普及活動を展開しなければなりません。
今後、あらゆる活動で、県民、そして行政ならびに業界関係者に理学療法と我々理学療法士がどのようなこ
とができるのか、しっかりと示さなければなりません。
しかし、地域包括ケアシステムを理学療法士のためにと考えるのではなく、国家的困難を解決する一つの方
法として、理学療法士の知識と技術を幅広く提供することに組織として努めていかなければなりません。
運動による治療という社会的役割を与えられている理学療法士は、運動を中心とした自助システムを科学的
に構築し、活動と参加につなげる社会的使命があります。
高齢者の運動場面を見ていると、意外と集団化していないこと、無酸素運動を好む傾向があること、効果的
とは思えない運動を含んでいること、運動量が適切でないことなどがあり、総体的に科学性が欠けており、運
動継続と成果を考えると、専門的な関わりの必要性を感じます。
また、脳血管障害のように障害を残す方々に対しては、「共助」を外すことは現実的ではありません。
しかし、自分の障害に対しても、そのすべてを保険に依存するのではなく、自助としての自己管理を含めて
考える必要があります。
現在のシステムでは、退院日まで受動的な運動を中心とした理学療法が実施され、生活構築は退院後に再ス
タートと言える状況です。医療機関と地域、理学療法士間での連携も乏しいことにより、結果的に能動的な自
己管理の方法が身についていないことが多いようです。
つまり、障害を自己マネジメントする「自助」も早期の段階から必要と言えます。
地域包括ケアシステムの「自助 → 互助 → 共助 → 公助」という流れではなく、「自助を支える共助」、
「自助を支える公助」を確立することが実効性のあるシステムとなる必要条件です。その中で理学療法士は、
予防理学療法・治療的理学療法・リハビリテーション(活動と参加促進)の理学療法をもって、地域包括ケア
システム構築のキーパーソンとして、運動機能・身体機能と生活動作・活動の評価とアプローチをはじめ、他
職種を含めたリハビリテーションマネジメントを実施しなければなりません。
指定演題Ⅰ
『
新人理学療法士へのワンポイントアドバイス
指定演題1.
演者
運動器理学療法分野
公森 隆夫
市立備前病院
指定演題2.
演者
神経理学療法分野
津田 陽一郎
倉敷平成病院
座長
真壁
浩一
備前さつき苑
会場
第1会場(2F 夢いっぱいホール)
』
明日からできる理学療法のコツ
筋肉痛って、どうする?
〜筋筋膜疼痛症候群について〜
公森 隆夫1)
1)
市立備前病院 リハビリテーション科
昨日畑で草取りしたから腰が痛くって…。地域の臨床では一般的な主訴である。疼痛原因
となる組織はさまざまであるが、今回は理学療法士が良く遭遇する筋筋膜疼痛症候群につい
て紹介する。
筋筋膜疼痛症候群(Myofascial pain syndrome)とは、Travell と Simons が報告したトリ
ガーポイント(TP)による筋性疼痛であり、最も一般的な筋筋膜機能不全の状態である。初
期では疼痛範囲は限局的であるが、慢性化すると中枢性の感作化が生じ、疼痛部位の増大や
触刺激などの軽い刺激においても疼痛を感じるようになる。最近の研究では疼痛を発生する
メカニズムや不良姿勢によって TP が形成されるかがわかってきた。
今回の演題では、TP の評価と治療、TP が患者の病態にどのように影響するかを説明する。
中枢神経系疾患患者における腹臥位の重要性と治療への応用
-コアスタビリティーの獲得のための基盤-
Key word 中枢神経系疾患 腹臥位 深層筋
社会医療法人全仁会 倉敷平成病院リハビリテーションセンター
津田陽一郎
人間は失われたがゆえに、無意識(無自覚)であったものを意識し始める。それは、運動においても同様の
ことが言える。生得的に獲得された呼吸、嚥下、自動歩行はもとより、重力下において発達的に構築されてき
た基本的動作においても我々は特殊な環境、状況に置かれない限り日常的に意識する事はない。
中枢神経系疾患患者(以下患者)は、その意識することのなかった動きが失われた瞬間から、さらに今まで
に経験しなかったような新たな感覚に襲われているといえる。例えば、自分の意思とは関係なく倒れていく身
体、今までに感じなかった四肢の純粋な重さ、そこにあっても全く感じない手足、左右差のある感覚などであ
る。このような現実は恐怖や不安などの情動的反応を強め、そして患者はその身体と情動を抱えながらも言語
化されないあまりにも漠然とした病前の身体イメージから運動を無理に起こそうとする。その結果、安定しな
がら動く、動きながら安定するという運動の時間的空間的なコントロールが困難であるが故に、非麻痺側優位、
かつ表在筋を過剰に利用しながらダイナミックに動くことよりも安定性を求める傾向が強くなる。
身体の表層を覆う多関節を連結する表在筋は、重力に抗し四肢・体幹を力強く、速く、大きく運動させる際
に働き、いわゆる四肢のコントロールを主としている。その動きを保障するために先行し活動しているのが、
身体の内部にある単関節筋、いわゆる深層筋である。表在筋は触覚、圧覚など表在刺激に対しての感受性が高
く、さらに収縮を意識することができ随意的である。反面、深層筋は収縮を意識することが難しく、この運動
の基盤となる筋の不活性化により患者は表在筋で動けるところだけ利用し、支持面の変化と関係なく、同時収
縮で安定化を図ろうとするようになる。
この深層筋の不活性化による変化は、患者の背臥位において胸郭の上外側への引き上げ、腹壁の沈み込み、
肩甲骨の拳上と頸部の短縮、浅く早い上部胸式呼吸という現象として多く観察される。
患者は受症直後から背臥位にて過ごす時間が多くなり、また、リハセンター開始となってからも、プラット
ホームにいきなり背臥位にさせられ、四肢の他動的な運動・練習から開始するというまるでルーチン化された
ような治療場面も未だ多く見受けられる。背臥位での運動が無駄な練習であるというわけではなく、その姿勢
の持つ特性を踏まえ治療展開をするべきである。本指定演題では、深層筋を活性化させる一つの手段として腹
臥位の持つ意味と、その治療に関する示唆を述べる。
指定演題Ⅱ
『
新人理学療法士へのワンポイントアドバイス
指定演題1.
演者
内部障害理学療法分野
湯口 聡
心臓病センター榊原病院
指定演題2.
演者
内部障害理学療法分野
佐藤 雅昭
コープリハビリテーション病院
座長
武田 正則
岡山県理学療法士会
会場
副会長
第1会場(2F 夢いっぱいホール)
』
理学所見からみた循環器におけるリスク管理
心臓病センター榊原病院 湯口 聡
理学療法士が行うリスク管理には理学療法中における転倒やトレーニングによる身体損傷などの安全管理に
加え、患者の全身状態が安定していることを管理するリスク管理が含まれる。全身状態の管理の1つには理学
療法士が養成校や医療現場なので比較的初期に教育を受ける血圧・脈拍などのバイタルサインの評価を始めと
した理学(身体)所見である。
全身状態の管理は急性期から回復期、慢性期、在宅での理学療法において行われるが、急性期病院ではレン
トゲンや血液検査などが頻回かつ短期間で行われており、患者の全身状態を管理する情報が捉えやすい一方で、
回復期や慢性期、在宅になるにつれ、その頻度は少なくなる傾向がある。確かに、レントゲンや血液検査を含
めた精細な検査は重要な情報となるが、必ずしも理学療法実施中のリアルタイムの状態を反映している訳では
ない。例えば、昨日の胸部レントゲンからみた肺の状態が今現在の状態と同様であるかは必ずしも一致しない。
しかし、血圧・脈拍などの理学所見はその患者の今現在の状態を反映してくれる重要な情報であり、我々理
学療法士が患者の全身状態を管理する際に極めて有益な情報を与えてくれる。また、理学療法士は患者の動作
分析や運動中の変化を評価することに加え、患者の関わりに一貫性があるため、理学所見を評価するスキルに
優れ、その変化に気づきやすい職種であると感じる。そうした背景を踏まえ、理学療法士が知っておくべき基
本的な理学所見について紹介する。
内部障害理学療法(呼吸器)における新人理学療法士へのワンポイントアドバイス
コープリハビリテーション病院 リハビリテーション科
○佐藤雅昭
私が皆さんと同じ新人だった頃は、長崎大学の千住研究室で研究生として呼吸リハの基礎を学んでいました。
1990 年の後半であり、その頃の呼吸リハに関する診療報酬は、肺理学療法、理学療法簡単としての扱いであり、
他疾患の点数よりも大幅に低い状況でした。その後、千住秀明先生や諸先輩方をはじめとする多くの研究の成
果が厚生労働省に認められ、診療報酬上では大きな変化を迎えました。約 20 年間で呼吸リハビリテーション料、
呼吸ケアチーム加算、セラピストによる喀痰吸引許可、時間内歩行試験など、多くの診療報酬を獲得していき
ました。我々が臨床現場で働ける基盤が出来上がっていく様子を間近に感じる事ができたのは、理学療法士と
して非常に良い経験となりました。
しかし、臨床現場では呼吸器疾患患者への実践に多くの課題があり、
「在宅呼吸ケア白書」の報告では呼吸リ
ハを実施された患者は全対象者の 44%に留まっています。平成 24 年時点で呼吸リハビリテーション料の届出
医療機関(病院・診療所)は 4,150 施設まで拡大しているが、その中で呼吸リハを実践できる理学療法士が不
足しているのが現状であります。理学療法士を含めた多くの医療関係者への呼吸リハの教育や指導が喫緊の課
題となっています。そのような現状の中で、新人理学療法士の方へ発表できる機会を頂いたので、これまで実
践した呼吸リハの取り組みを紹介していきます。
また、新人へ呼吸リハに関する内容で聞き取りをしたところ、呼吸器疾患患者を担当する機会が少ないこと
が分かりました。病態や評価等の基礎知識や技術面の不足を気にしている面も伺えた。手技に対する期待も持
っており、
「呼吸介助」や「スクィージング」などの手技を習得する事が呼吸リハと思っている節も感じ取れま
した。実際には普段の理学療法の中でも ADL が改善する患者も多く存在し、手技以外にも実践できることを
伝えていきます。
最後に、呼吸リハに関わる全ての領域(急性期から在宅)の情報提供を行うことが望ましいものの、今回の
発表では私の経験してきた範疇での症例報告・研究活動・岡山県内の学習活動を中心に進めることをご容赦頂
きたい。発表を終えて、新人理学療法士が呼吸リハに興味が持て、明日からの臨床現場へ少しでも活用して頂
けると幸いです。
一般演題Ⅰ
座長
万代
正輝/岡山県理学療法士会
北支部 支部長
1.
強直性脊椎炎に対する椎体固定術施工後に呼吸機能改善がみられた1症例
野澤 康明/岡山大学病院 総合リハビリテーション部
2.
自助具を用いて義足装着が自立した下腿切断術術後強皮症患者の一症例
弘中 美帆/一般財団法人倉敷成人病センター リハビリテーション科
3.
地域包括ケア病床における自宅復帰要因の検討
光田 和正/瀬戸内市立瀬戸内市民病院
4.
社会人基礎力に視点を置いた臨床実習の一学生の経験
寺山 雅人/公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構
ョン部
倉敷中央病院リハビリテーシ
5.
膝蓋骨骨折後の Stiff knee gait を呈した患者に対して PNF を用いたアプローチ
妹尾 裕之/備前市立備前病院
6.
自宅生活における患者と家族の危険認識に着目した一症例
米田 早/岡山旭東病院 リハビリテーション課
会場
第1会場(2F 夢いっぱいホール)
強直性脊椎炎に対する椎体後方固定術施行後に呼吸機能改善がみられた1症例
野澤康明1) 太田晴之1) 築山尚司1)
1)岡山大学病院 総合リハビリテーション部
Key words:強直性脊椎炎 椎体後方固定術 呼吸機能
【はじめに】本症例は術前より呼吸機能低下が認められた強直性脊椎炎患者である。今回、2 期分割によ
る椎体後方固定術施行後に理学療法を実施し、呼吸機能の改善が認められた患者を経験したので報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】この報告においては、目的や実施内容等を口頭で説明し同意を得た。
【症例紹介】40 歳代前半、男性、1990 年頃から腰痛があったが、診断はつかなかった。2000 年頃より腰
椎変形が出現し、その後ぶどう膜炎を発症したため強直性脊椎炎との診断となった。2013 年 12 月頃より
腰椎変形の進行を自覚し当院受診。2014 年 3 月に 1 期目の T8-L3 後方固定術が施行され、局所後弯角は術
前 78°から 38°に矯正された。同年 5 月に 2 期目の L4-S2I、L4 骨切り矯正後方固定術が施行され、L4 上
下の終板は術前 5°の後弯が術後 34°の前弯に矯正された。術前、術後に運動麻痺は認められなかった。
【問題点】術前、術後に呼吸機能の低下が認められた。これは既往歴に肺疾患はないことから、脊柱後弯
姿勢による胸郭可動性の低下によるものと考えられた。
【アプローチ】理学療法実施期間は、入院中は週 5 回、2 期退院後は週 1 回実施した。胸肋関節、肋横突
関節に対して関節可動域運動、呼吸介助、腹式呼吸を実施した。
【結果】1 期術前時、1 期退院時、2 期退院時、2 期退院後 2 ヶ月の呼吸機能検査、胸郭拡張差を図-1 に示
す。呼吸機能検査は 1 期術前時と 1 期退院時の比較では全ての項目で低下が認められ、特に VC の低下が大
きかった。2 期退院時と 2 期退院後 2 ヶ月の比較では全ての項目で改善が認められた。また、1 期術前時と
2 期退院後 2 ヶ月の比較では全ての項目で改善が認められた。胸郭拡張差は両肩甲骨下角と剣状突起をラ
ンドマークとし測定した。1 期術前時と 1 期退院時に差は認められなかったが、2 期退院後 2 ヶ月には改善
が認められた。
【考察】特発性側弯症における後方固定術後の成人手術例の肺機能として、%VC は術前と比較し術後 6 ヶ
月で有意に低下し、術後 1 年で術前の水準に復し、術後%VC の改善は得られなかったと述べられている。
また、胸郭可動性の増加が VC 増加に寄与すると述べられている。本症例は成人男性であったが、呼吸機能
は 1 期術前時と比較し、2 期退院後 2 ヶ月には改善が認められた。椎体後方固定術後に理学療法を実施し
たことにより胸郭可動性の改善が認められ、それに伴い呼吸機能の改善が認められたと推察する。
1期術前時
1期退院時
2期退院時
2期退院後2ヶ月
VC(L)
FVC(L)
FEV1(L)
2.49
1.41
1.41
1.70
1.14
1.14
2.39
3.25
2.25
3.14
2.14
2.76
図-1 呼吸機能検査・胸郭拡張差
胸郭拡張差(cm)
3.0
3.0
3.0
6.0
自助具を用いて義足装着が自立した下腿切断術術後強皮症患者の一症例
弘中美帆 1),戸田巌雄 2),大輝由美 1),柘植孝浩 1),吉永泰彦 3)
1)一般財団法人倉敷成人病センター
リハビリテーション科
2) 同
整形外科
3)
同リウマチ膠原病セン
ター
Key words:強皮症,下腿切断,自助具
【はじめに】
強皮症と関節リウマチ(以下:RA)による手関節・手指の関節可動域制限、握力低下がみられたが、自助具を
使用して義足装着が自立した症例を経験したので報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては、
「岡山県理学療法士会 学会・学術誌等 倫理・個人情報規程」に従い、また対象者へ
の説明と同意を得た。
【症例紹介】
70 歳代女性。診断名は強皮症、RA(stageⅢ、class2)、抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎である。6 年
前に足趾血流障害にて左母趾、右 2 趾、4 趾断端形成術施行、その後は保存療法を行っていた。右足趾と足背
に広範な壊死が生じ、感染も併発したため、今回右下腿切断術施行となった。
術後翌日より病棟内 ADL の拡大と残存機能の維持向上を目的に理学療法を開始した。義足は TSB 式下腿義
足、シリコンライナーを使用。義足完成後、全介助で義足装着し立位・歩行練習は可能であった。義足の脱着
に関しては、ソケットの装着やシリコンライナーを脱ぐことは比較的容易に可能であったが、シリコンライナ
ーの装着は独力では困難であった。シリコンライナーを装着するには、シリコンのカップの部分を平らにし、
陰圧になるのを防ぐ必要があった。しかし、本症例は強皮症による影響で、手指の関節が十分に屈曲、伸展困
難であり、握力も右 5.6kg、左 7.2kg。そのため、シリコンのカップを平らにすることや平らに保持したまま装
着することが困難であった。そこで、シリコンライナーを装着する自助具を探すも、本症例に合う自助具が見
つからないため、作成した。関節への負担をできるだけ軽減できる軽量で、現在の手指機能で十分に把持でき
る大きさ、シリコンライナーの形状と合う物を検討した。その結果、円柱型の 500ml のペットボトルが適して
いると判断し、ペットボトルの下部 2/3 を使用した。ペットボトルのみでは、圧力をかけた際に変形してしま
うため、熱可塑性樹脂で加工し、耐久性を高めた自助具を作成した。自助具を使用して義足装着練習を開始し、
患者自身でシリコンライナーを平らにすることが可能となり、1 週間後義足装着が自立し、退院となった。
【考察】
本症例は長年の強皮症、RA によって関節可動域制限が著明であり、握力も低下していることが、義足装着
困難であることの一要因と考えた。短期間では手指機能の向上を望むことが難しいと考えられた。そこで、リ
スクを考慮し、安全に行えるもので、軽量で耐久性もある自助具を作成し、環境面へアプローチすることによ
り、現在の機能を生かして義足装着が自立となった。
地域包括ケア病床における自宅復帰要因の検討
光田和正,元家佳仁,正富晴美,荒内宏文,小林裕一郎
瀬戸内市立瀬戸内市民病院 リハビリテーション科
Key words:地域包括ケア病床,在宅復帰,FIM
【目的】
地域包括ケアシステムの枠組みの中で、地域包括ケア病棟の役割の一つに在宅・生活復帰支援が掲げられて
いる。今回、機能的自立度評価表(以下 FIM)を用いて、当院地域包括ケア病床に入院した患者の特徴を把握
し、自宅復帰を可能にする ADL 条件を検討した。
【倫理的配慮・説明と同意】
「岡山県理学療法士会学会・学術誌等倫理・個人情報規程」に従い、実施した。
【対象・方法】
対象は平成 26 年 10 月から平成 27 年 1 月までに当院地域包括ケア病床を退院した患者で、転帰先が自宅もし
くは施設・療養病床(以下施設)となった 32 名とした。
【方法】
転帰先で自宅群(19 名、平均年齢 82.5±7.5 歳)と施設群(13 名、平均年齢 87.1±4.1 歳)の 2 群に分類し
た。次に転帰先を目的変数とし、退床時 FIM 各合計点(運動項目合計点、認知項目合計点,総得点)と退床時
FIM 各 18 項目得点、FIM 利得を説明変数として 2 群間比較(独立した T 検定)を実施した。統計解析には、GNU
PSPP 0.8.4 を用い、統計学的有意水準は両側 5%とした。
【結果】
退床時 FIM 各合計点すべて自宅群が有意に高値であった。退床時各項目では、食事・整容・清拭・上半身更
衣・下半身更衣・トイレ動作・排尿コントロール・排便コントロール・車椅子移乗・トイレ移乗・浴槽シャワ
ー移乗・歩行の運動 12 項目、理解・表出・社会的交流・問題解決の認知 4 項目において自宅群が有意に高値で
あった。FIM 利得には有意差は認めなかった。
【考察】
先行研究ではトイレ移乗及び下半身更衣が自宅復帰の重要な因子と報告されている
1)。本研究において、自
宅群はトイレ移乗・下半身更衣が有意に高値となっているが、FIM 利得に有意差はなかった。当院地域包括ケ
ア病床では入床時からトイレ移乗および下半身更衣の点数が高く、転帰先検討の指標となることが示唆された。
しかしながら、本研究対象では退院時 FIM 合計点が 18 点でも自宅退院となっていた。これについては家族の希
望や介護力、介護保険サービスによる在宅生活支援が大きく影響していると考えられる。
今後、家族構成や介護力・介護保険サービス利用の有無・在宅復帰に向けた要望などの分析を加え、さらに
患者の特徴を明確化し、地域特性を踏まえた理学療法士としての関わりを行なっていきたい。
【参考文献】
1)
岡本伸弘, 他:回復期リハビリテーション病院における FIM を用いた自宅復帰因子の検討,理学療法科
学.2012;27(2):103-107.
社会人基礎力に視点を置いた臨床実習の一学生の経験
寺山雅人、継田晃平
公益財団法人 大原記念倉敷中央医療機構 倉敷中央病院 リハビリテーション部
Key words:臨床実習、社会人基礎力、診療参加型教育
【はじめに】
経済産業省が提唱している、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力(社会
人基礎力)に視点を置いて臨床実習を行った一学生の経験について報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては、
「岡山県理学療法士会 学会・学術誌等 倫理・個人情報規定」に従い、また対象者へ
の説明と同意を得ている。
【対象と方法】
対象は、8 週間の臨床実習を当院で行った理学療法学科の学生 1 名である。実習開始時に社会人基礎力に関
する質問紙調査を行い、3 分類 12 項目の能力要素について 5 段階で自己評価した(最低 1 点、最高 5 点)
。そ
の中で、特に低得点であった主体性、働きかけ力、創造力に対して、能力が向上するよう指導内容の工夫を行
った。指導内容として、
「診療参加型教育を行う中で、理学療法に興味が湧くように成功体験を多くさせる」、
「1 週間ごとに学生自身の目標設定を行い、達成するためには何が必要かを指導者と共有する」
、等を指導した。
【結果】
実習開始時から実習終了時にかけて、主体性、働きかけ力、創造力はそれぞれ 2 点から 4 点、2 点から 3 点、
2 点から 4 点へと改善を認めた。
【考察】
「診療参加型教育を行う中で、理学療法に興味が湧くように成功体験を多くさせる」の具体的な方法として、
バックワードチェイニングという方法を用い、まずは患者の退院時の目標を考え、次にそのために必要な治療
法を考え、最後にそのために必要な評価を考えさせた。これにより、
「分からない、できない」という体験を少
なくし、自信と理学療法への興味・関心が湧くように工夫した。さらに、毎回の理学療法終了直後には、バイ
タルチェックのタイミングや評価・治療の流れ、次回介入時のポイント等について、コーチング技術を用いて
意見交換を行った。
「1 週間ごとに学生自身の目標設定を行い、達成するためには何が必要かを指導者と共有す
る」の具体的な方法として、集団リハビリテーションの経験をさせたことや指導者と共に主治医や看護師と今
後の方針についての意見交換を行ったこと、心肺運動負荷試験を行い生活スタイルに合わせた運動処方を作成
したこと、同患者の担当言語聴覚士の見学等、指導内容の目的を共有しながら行った。ケラーの ARCS モデル
1)によると、学習意欲には、好奇心と興味を持続させること、学習体験が個人的に意義のあることだと信じられ
るようにすること、成功への期待感が適当であること、学習体験のプロセスあるいは結果に満足させることが
重要としている。本学生に対して、上記指導内容の工夫を行ったことで、結果的に学習意欲が向上し、社会人
基礎力における主体性や働きかけ力、創造力の改善に繋がったと考える。
【参考文献】
1)J.M.ケラー 著:学習意欲をデザインする ARCS モデルによるインストラクショナルデザイン 北大路書
房
2012 pp47-48
膝蓋骨骨折後の Stiff knee
gait を呈した患者に対して PNF を用いたアプローチ
妹尾裕之 1)
1)備前市立備前病院 理学療法士
Key words:Stiff knee
gait、固有受容感覚の低下、PNF アプローチ
【はじめに】
Stiff knee gait (以下 SKG)は、歩行遊脚期に膝関節が固定した状態、屈曲角度が減少する歩行パター
ンである。主に原因としては足関節底屈筋群あるいは膝関節伸筋群の過緊張、股関節屈筋群の筋力低下、膝関
節の疼痛、膝 ROM 制限、固有受容感覚の低下などが挙げられる。今回、右膝蓋骨骨折を受傷し約 1 か月間の
ギプス固定後、著しい筋力低下、疼痛、ROM 制限がないにも関わらず SKG を認めた症例に対し、固有受容性
神経筋促通法(以下 PNF)を用いて固有受容感覚へのアプローチを実施した結果、良好な結果が得られたので
報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては、
「岡山県理学療法士会 学会・学術誌等 倫理・個人情報規程」に従い、また対象者へ
の説明と同意を得ております。
【症例紹介】
70 代女性、右膝蓋骨骨折を受傷し約 1 か月間のギプス固定後、理学療法開始となった。介入時の活動制限(以
下 FAL)は、歩行時にプレスイング(以下 PSw)からイニシャルスイング(以下 ISw)にかけて膝関節屈曲角
度が減少し SKG を認める。障害因子の仮説(以下 CI)を立て、理学療法評価及びアプローチを実施した。
【理学療法評価(CI-Test)
】
疼痛検査(VAS)では、膝関節において安静時痛 0/10、運動時痛 2/10、荷重時痛 2/10 である。ROM 検査で
は、膝屈曲(右/左)90°/120°である。MMT では、股関節屈筋群(右/左)4/4、膝関節伸筋群(右/左)4/5、
膝関節屈筋群(右/左)4/4、足関節底屈筋群(右/左)4/5 である。感覚検査では表在・深部感覚ともに正常であ
る。SKG の評価として、タンデム肢位で患側を後脚にし、前後交互にステップ動作を実施した。患側は荷重時
及び床から足底が離れる際に、膝関節屈伸運動の欠如、足関節は背屈位で固定された状態であり、各筋群に適
切な筋収縮の協調性が認められず、荷重感覚が低下している事が考えられた。
【アプローチ】
背臥位にて健側下肢伸展パターンを行い患側膝関節屈筋群に筋収縮を起こし、拮抗筋である伸筋群の筋緊張
抑制及び膝 ROM の改善を間接的方法にて実施した後、Half Sitting にて患側下肢に対し、動筋群の 3 つの収
縮形態を組み合わせた Combination of Isotonics(以下 COI)を用い、機能的活動における運動コントロー
ルの改善を図った。さらに、歩行時を想定しターミナルスタンス(以下 TSt)から ISw の移行状態で患側下肢
に対し、繰り返し運動である Rhythmic Initiation(以下 RI)及び COI を用いながら固有受容感覚を刺激し、
適切なタイミングで膝関節の屈曲運動が行えるよう、好ましくない動作パターンの改善を図った。
【考察】
PSw から ISw にかけて膝関節屈曲運動が生じるには、膝関節伸筋群が過緊張でない状態で、TSt から PSw
において足関節底屈筋群の 3 つの収縮形態の働きが重要であり、PSw においては求心性収縮と受動的な緊張が
足関節を底屈して下腿を前方へ運び膝関節を屈曲する。TSt から ISw の移行状態で患側下肢に対し、RI 及び
COI を用いた事で、異常な過緊張や協調性が改善された結果、FAL の改善に繋がったと考えられる。
『自宅生活における患者と家族の危険認識に着目した一症例』
岡山旭東病院 リハビリテーション課 理学療法士
米田 早
Key word:患者と家族、危険認識、自宅生活
【はじめに】
進行性疾患患者と家族は実際の症状とその認識が乖離し、危険性の高い環境で生活されている症例を時に経
験する。今回パーキンソン病患者と家族の起立性低血圧(orthostatic hypotension;以下 OH)に対する危険認識
に着目して患者と家族指導を行った経過を報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては「岡山県理学療法士会 学会・学術誌等 倫理・個人情報規程」に従い、また対象者へ
の説明と同意を得ている。
【症例紹介】
診断名パーキンソン病(Yahr III)現病歴自宅で頻回に OH による意識消失が出現し、血圧コントロール目的で
入院。理学所見動作能力は全て自立だが、意識消失の危険性が高いため見守りを要した。血圧低下時の自覚症
状は浮遊感と開眼困難、他覚的徴候は瞬目回数増加であった。OH に対する下腿への弾性包帯装着の効果は乏
しく、運動療法の効果も一時的だった。入院前情報屋内は歩行か下肢拳上型車椅子で移動していたが、歩行中
や座位時にも意識消失が認められ OH の出現に一貫性がなかった。主介護者の妻は患者の意識消失後に下肢挙
上型車椅子から床に臥位をとらせ下肢挙上を行う対応をしていた。以前ティルトリクライニング型車椅子も提
案されたが、屋内での使いにくさのため受け入れ困難で下肢挙上型車椅子を選択された。
【自宅退院における問題点】
本症例と妻の OH への危険認識の低下と本症例の状態把握が不十分のため、脳梗塞や外傷の危険性が高い環
境で生活されていた。
【指導】
OH に対する危険認識の向上と意識消失予防の自己管理を目的として、今回は危険認識と状態把握に着目し
て本症例と妻へ指導を繰り返し行った。
危険認識⇒妻に理学療法に参加していただき、OH の危険性や現状の対応における危険性の説明をその都度行
う。
状態把握⇒本症例と妻に血圧の測定値を提示し、OH の自覚症状と他覚的徴候の確認をする。
また妻には当日の本症例の状態を聴取する。
【家族の反応】
初期介入時には本症例と妻は OH に対して楽観的な発言が多く、入院後も妻と移動され意識消失されることが
あった。また意識消失時に焦燥感はほとんどみられなかった。
最終本症例と妻の慎重な発言や行動が増加し、ティルトリクライニング型車椅子の受け入れが可能となった。
妻は意識消失時の対応の指導時に真剣さがみられるようになり、妻の介助下での意識消失はなくなった。
【考察】
患者と家族指導により OH に対する意識や行動の変化がみられたが、その要因は現在の状態における危険性
の自覚と理解が得られたためだと考える。危険認識や状態把握への指導を中心に行ったことにより、本症例と
妻が現状を実際に目で見て確認することで、現在の環境における危険認識の向上や、それに伴って妻が本症例
の反応変化に気付きやすくなったと思われる。今回の症例を通して、家族の理学療法への参加は現状を十分に
理解した上での話合いを容易にさせ、より安全な生活を送るために重要であると実感した。
一般演題Ⅱ
座長
中島
均/岡山県理学療法士会
西支部
支部長
1.
マッケンジー法により改善が得られ、通院不要となった術後慢性腰痛の1症例
柘植 孝浩/一般社団法人倉敷成人病センター リハビリテーション科
2.
恥骨原発性骨腫瘍により恥骨切除を施工された症例の機能回復経過
吉田 由江/岡山大学病院 総合リハビリテーション部
3.
回復期リハビリテーション病棟入院患者における Mini-BESTest の妥当性の検討
斎 雅夫/岡山リハビリテーション病院
4.
脳出血後遺症で両片麻痺を呈した患者に対し、装具再作成を実施した症例
井川 学/岡山旭東病院 リハビリテーション課
5.
高位脛骨骨切り術前後の JOAscore と膝関節可動域・膝伸展筋力との関係
枡平 綾/岡山旭東病院 リハビリテーション課
会場
第2会場(2F リフレッシュスタジオ)
マッケンジー法により改善が得られ、通院不要となった術後慢性腰痛の一症例
柘植孝浩 1)、戸田巌雄 2)
1)一般財団法人倉敷成人病センター リハビリテーション科 2)一般財団法人倉敷成人病センター 整形外科
key words:マッケンジー法、慢性腰痛、運動療法
【はじめに】
腰部手術後に生じた慢性腰痛は難治性疼痛となり、治療に難渋する場合がある。今回われわれはマッケンジ
ー法により改善が得られ、通院が不要となった術後慢性腰痛症例を経験したので報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては、
「岡山県理学療法士会 学会・学術誌等 倫理・個人情報規定」に従い、また対象者へ
の説明と同意を得た。
【症例紹介】
60 歳代男性。主訴は左下腿後面、足底に痛みとしびれ。2007 年 12 月に他院にて L5/S 左傍正中型ヘルニア
摘出術、L2/3 開窓術を施行。術後は症状が軽減していたが、約 1 年半後に再び左下腿にしびれが出現、前医で
整形外科的には術後の経過や、画像所見に異常はないとのことで、前医医療機関のペインクリニックを紹介さ
れた。ペインクリニックでは抗うつ薬、オピオイドなどによる薬物療法やブロック療法などを行うが、効果は
乏しく、2010 年 3 月に当院のペインクリニックへ紹介となった。当院のペインクリニックにおいても同様に薬
物療法、ブロック療法等を継続して行い、約 5 年間外来治療を続けた。当院のペインクリニックの閉鎖に伴い、
2013 年に当院整形外科紹介となり、マッケンジー法による理学療法の指示が出された。
マッケンジー法に準じた評価では姿勢や動作で疼痛が変化するようなメカニカルな腰痛だと考えられた。治
療の運動としてマッケンジー法における臥位での伸展運動を行い、症状の改善が見られた。治療回数は 5 回、
治療期間は 135 日で、患者より「病院を卒業したい」との申し出があり、マッケンジー法終了、通院不要とな
った。治療前後の日本整形外科学会腰痛評価質問票(JOABPEQ)では疼痛関連障害、腰椎機能障害、歩行機能障
害で効果ありと判定した。VAS では腰痛は 18 から 0、臀部・下肢痛は 36 から 20、臀部・下肢のしびれは 80
から 22 と減少が見られていた。
【考察】
慢性腰痛は生物・心理・社会的疼痛症候群として捉えられ、病態が複雑となり、治療が長期化する場合があ
る。しかし、このような場合でも姿勢や動作で疼痛が変化するメカニカルな腰痛があり、マッケンジー法によ
り改善が得られることを経験する。
今回の症例においても、治療が長期化し、一見、病態が複雑なように見えたが、メカニカルな腰痛があり、
これらに対してマッケンジー法が有効だったと思われる。また、メカニカルな腰痛が改善するとともに、自身
で能動的に運動を行うことが可能となったため、5 年間の通院を終了することが出来たと思われる。
術後慢性腰痛患者においてもメカニカル腰痛があると考えられ、こられに対してマッケンジー法は有用だと
思われる。
恥骨原発性骨腫瘍により恥骨切除を施行された症例の機能回復経過
吉田由江,築山尚司,太田晴之,堅山佳美(MD)
,千田益生(MD)
岡山大学病院 総合リハビリテーション部
Key words:恥骨切除,術後経過,機能回復
【はじめに】骨盤の原発性骨腫瘍において手術で腫瘍ごと骨や筋を切除することは多く見られ、その後の機能
的な予後に関しては切除した部位や範囲によって大きく異なる。今回、恥骨原発性骨腫瘍のために恥骨を切除
した症例を担当し、急性期から術後2年にわたって経過を追う機会を得たためここに報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】今回の報告に際しては「岡山県理学療法士会 学会・学術誌等 倫理・個人情報
規定」に従い、対象者への説明と同意を得ている。
【症例】30 代男性、恥骨原発性骨腫瘍により広範切除術にて右恥坐骨、左恥骨近傍切除されている。
【方法】術前と術後 6 ヶ月、術後 1 年、術後 1 年半、術後 2 年において筋力と Timed up and go テスト(以下
TUG)の結果を比較した。なお、筋力は体幹屈曲、肩関節外転、下肢伸展挙上の 3 項目総和筋力を測定した。
【結果と理学療法経過】
術前
術後 6 ヶ月
術後 1 年
術後 1 年半
術後 2 年
3 項目
右 23.8kg
右 11.1kg
右 18.7kg
右 17.8kg
右 24.7kg
総和筋力
左 21.5kg
左 18.4kg
左 23.0kg
左 20.3kg
左 29.1kg
7.06sec
10.05sec
7.93sec
8.03sec
7.28sec
TUG
術後の理学療法開始時は右下肢免荷の指示があり、右大腿前面にてしびれと感覚低下が生じていた。筋力低
下あり右大腿四頭筋は徒手筋力テスト(以下 MMT)にて 1 であった。術後 6 週にて全荷重許可あり、松葉杖
歩行が可能となっていた。感覚低下は変わらず、筋力低下は MMT にて腸腰筋右 2 左 4、中殿筋右 2 左 4、大
腿四頭筋右 2 左 5、右は下肢伸展挙上が不可であった。その後一度他院へ転院し自宅へ退院され、術後 6 ヶ月
に外来受診の際に理学療法も実施した。その際筋力低下は残存するも片脚立位、杖なしでの歩行、職場への復
帰まで可能となっていた。術後 1 年半にて筋力、TUG の低下が見られるが、本人は足に突っ張るような感覚が
残るものの特に痛みなどが生じることもなく日常生活を送ることができるようになり、その後には駆け足も可
能となった。
【考察】今回の症例では手術により広範囲に骨、筋を切除しているが、術後半年から 1 年で筋力、TUG ともに
大きく向上し、1 年半から 2 年で駆け足やゴルフ程度の運動ができるまでに回復した。このように恥坐骨を切
除した症例であっても、年齢が若く元々の身体能力が高かったこと、職場復帰などへのモチベーションが高く、
感覚低下は残存するも痛みが少なかったことなどが早期の社会生活復帰や機能回復につながったと考える。ま
た筋力を数値化し記録しておいたことで患者へもどう変化しているか具体的に伝えることができ、術前の状態
との比較や回復経過がよりわかりやすく明らかとなった。
【おわりに】今回、恥骨原発性骨腫瘍のため恥骨を切除した症例の経過を見ることができ、術後 2 年の間に日
常生活を支障なく過ごせ、駆け足が可能となるまでに徐々に回復していくことがわかった。術後の機能回復に
おいて代償的な筋の機能向上と動作の獲得が必要であり、術後早期から退院後も含めて継続的な理学療法の実
施が重要と考えられる。
回復期リハビリテーション病棟入院患者における Mini-BESTest の妥当性の検討
斎雅夫 1) 羽山修平 2) 兼田すみれ 3) 森嶋忠司 4) 丹原早也佳 5) 中塚智子 6)
1)岡山リハビリテーション病院
Key words:Mini-BESTest,BBS,回復期リハビリテーション病棟
【はじめに】
バランス能力の評価法として従来用いられているものは Berg Balance Scale(以下 BBS)が代表的である。
現在多くの臨床現場で使用され、自立度の判定として有用性が認められている。しかし BBS は天井効果を認め
やすく、システムのどこに異常があるかということの解釈が困難な場合があり、その後の治療につなげること
が難しいという見解がある。近年システム理論に基づくバランス評価として、Horak らにより Balance
Evaluation Systems Test(BESTest)が開発され、さらに簡易版として Mini Balance Evaluation Systems Test
(以下、Mini-BESTest)も開発されている。これらの評価法は個人のバランス能力をシステム別に多面的に評
価することが可能であり、天井効果を認めにくいものとされている。そこで本研究では BBS と Mini-BESTest
との相関を算出し、回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ)入院患者において Mini-BESTest の
妥当性を検討することにした。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては「岡山理学療法士会
学会・学術誌等 倫理・個人情報規程」に従い、また対象者への
説明と同意を得ている。
【対象と方法】
当院に入院している患者で、年齢、性別、疾患問わず、BBS の評価結果が 46 点前後の者 28 名を対象に
Mini-BESTest による評価を行い、それぞれの合計点数を pearson の相関係数を用いて検証した。本統計解析
には R コマンダーを用い、有意水準を 1%とした。その後、検査者に対してグループインタビューを実施し BBS
と Mini-BESTest の比較を行った。
【結果】
BBS の点数が高いほど、Mini-BESTest の点数も高くなるという結果が出ており、有意な正の相関を認めた
(r=0.871 P≦0.01)。
検査者のインタビューでは Mini-BESTest は運動制御理論に基づいた検査が多く、バランスを崩した際、対
象者のバランス機能に関わるどの要素に異常があるかを発見しやすい、天井効果がなくこれまで捉えられなか
った軽微なバランス障害を検出できるという意見があった。その反面、検査自体の難易度が高いため転倒リス
クを伴うという意見があった。
【考察】
本研究の結果、Mini-BESTest は回復期リハ入院患者に対するバランス評価法として有用性があることが示
唆された。インタビューの結果からは BBS は日常生活に即したバランス評価であることや、過去の研究でも満
点者を多く認める傾向があり、Mini-BESTest は軽微なバランス障害を鋭敏に評価できることや、天井効果が
少ないため、対象者への多様性があることが考えられた。
本研究では検査難易度の高さから対象者を限定したため、今後は対象者の数・幅を広げ、さらに妥当性を高
める必要性がある。
脳出血後遺症で両片麻痺を呈した患者に対し、装具再作成を実施した症例
岡山旭東病院リハビリテーション課 理学療法士 井川 学
Key words:短下肢装具、両片麻痺、装具選択の乖離
【はじめに】装具作成過程において、セラピストと患者の意向に乖離があった症例について報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】この報告は、
「岡山県理学療法士 学会・学術誌等 倫理・個人情報規程」に従い、
対象者への説明と同意を得ている。
【症例紹介】60 歳代男性
疾患名
脳卒中後遺症
現病歴 自動車から下車時、左足部内反が強まり歩行困難
となり入院。脳に器質的な障害はなく、特に治療は実施されず。既往歴 40 歳代半ば右被殻出血、50 歳代前半
左被殻出血
社会的背景 独居
入院前生活
左軟性短下肢装具(以下リーストラップ)を使用し ADL・APDL 自
立。自動車使用し、ジムや買い物などの外出もされていた。介護保険 要支援 1
理学所見 運動麻痺 BRS(左):上肢 II/手指 III /下肢 III
深部腱反射:左足クローヌス(+)
感覚:(表在)左上肢中等度鈍麻、左下肢重度鈍麻 (深部)左下肢重度鈍麻
基本動作:修正自立
歩行:右 T-cane 使用
リーストラップ
左立脚期:足関節底屈・足部内反で外側接地し足部外側に疼痛出現。反
張膝が出現。
左遊脚期:toe clearance 不良で分回し歩行。
レディメイド短下肢装具
左立脚期:足底接地、反張膝は抑制困難。
(以下オルトップ)
左遊脚期:toe clearance は軽度改善、分回し歩行は継続。
継手付きプラスチック製短下肢装具
左立脚期:踵接地、反張膝は軽減。
(以下タマラック)
左遊脚期:toe clearance は改善され、分回し歩行は軽減。
【問題点】
医療者:タマラックを提案
患者:オルトップを希望
・外観より機能性や安全性を重視
・外観が良く装着がしやすい
反張膝抑制により膝の負担軽減
・タマラックでは足部の固定が強く、歩きにくい
皮膚へのあたり軽減
医療者と患者で装具選択の乖離が生じた。
【アプローチ】
・両装具の長所、短所・リスクを説明し、装具に対する理解を深めた。
・両装具を装着した歩行の違いを video feedback し可視化した。
結果:オルトップの意向が強いため、練習用装具のオルトップを病棟生活に導入して経過観察した。膝痛など
の問題はなくオルトップを選択となった。
【考察】
患者は、発症原因が不明のまま歩行困難となり、歩行獲得に向け長年使用してきた装具を再作成することで
今後の生活や社会復帰に対する大きな不安があったと思われる。タマラックは、患者の中で大がかりな装具と
認識しているため、再作成することで自ら機能が低下したことを認めることになり、戸惑いがあったと考える。
さらに、タマラックの外観にこだわったのは、入院前生活から、外出頻度が多く、活動範囲が広いことから、
装具を着けている自分を周囲から重症だと思われることに強い抵抗があったからではないかと考えた。そのた
め、本症例では機能性を重視しても、受け入れられず、返って活動範囲を狭め、社会参加を妨げてしまう可能
性が考えられた。症例を通して機能性や安全性を評価し、装具を提案する事は必要であるが、加えて患者の心
情や生活様式を理解し、ADL や社会参加を妨げないよう考慮して装具選択をしていくことも大切だと学んだ。
高位脛骨骨切り術前後の JOAscore と膝関節可動域・膝伸展筋力との関係
岡山旭東病院 リハビリテーション課 理学療法士
桝平綾
Key words:JOAscore、膝 ROM、筋力
【はじめに】
高位脛骨骨切り術(以下、HTO)は、内側型変形性膝関節症(以下、内側型 OA)に対し除痛を主目的とし
て行われる術式である。一般に、HTO 術後早期において疼痛軽減を図り基本的動作能力を獲得するため、リハ
ビリテーションアプローチとして関節可動域運動や筋力強化運動が主に実施される。宮本らは、筋力と歩行動
作能力との関係について歩行障害が重度であるほど筋力低下の程度も重度であり、両者には重要な関係がある
と報告している。本研究では、HTO 術後早期において筋力に加え膝関節可動域(以下、膝 ROM)と歩行動作
能力及び階段昇降動作能力との関係を明らかにすることを目的として比較検討し以下に報告する。
【倫理的配慮・説明と同意】
この報告においては、
「岡山県理学療法士協会 学会・学術誌等 倫理・個人情報規程」に従い、また対象者
への説明と同意を得ている。
【対象と方法】
対象は当院において内側型 OA に対し HTO が施行され、かつ身体に影響を及ぼす合併症を持たない男性 8
例、女性 19 例の計 27 症例 27 膝(年齢 61.8±7.3 歳、平均在院日数 39.6±18.7 日)とした。術後の対象期間
は 3 週とした。筋力評価として歩行・階段昇降動作の主要筋となる膝関節伸展筋の筋力を用い、日本メディッ
クス社製ハンドヘルドダイナモメーターを使用して測定し体重比を求めた。また、動作能力評価として日本整
形外科学会変形性膝関節症治療成績判定基準(以下、JOAscore)の項目 I(歩行能)
、II(階段昇降能)を用い
た。術後 3 週目の膝 ROM・筋力と JOAscore の関係と、術前と術後 3 週の膝 ROM、筋力、JOAscore それぞ
れの改善率の関係を Spearman の順位相関係数を用いて表した。
【結果】
術後 3 週目の膝 ROM は伸展-4.3±4.1°、屈曲 134.4±9.9°、筋力は 2.1±0.6N/kg、JOAscore 項目 I は
17.4±4.2 点、II は 12.4±4.8 点であった。術前と比較した術後の膝 ROM の改善率は伸展 0.7±3.6%、屈曲 5.5
±9.9%、筋力の改善率は-6.1±63.1%、JOAscore の改善率において項目 I は-8.0±19.8%、項目 II は 0.7±
25.7%であった。
術後 3 週での膝 ROM・筋力と JOAscore、また術前後の改善率について膝 ROM と JOAscore、
筋力と JOAscore 項目 II の間に有意な相関は認めなかったが、術前後の改善率について筋力と JOAscore 項目
I との間に有意な正の相関を認めた(r=0.36、p<0.05)。
【考察】
結果より、筋力の程度に関わらず、術前後の筋力の改善幅が拡大するほど歩行動作能力に与える影響が増大
することが示唆された。筋力と歩行動作能力に影響する因子について、沼田らによると HTO 術後 1 ヶ月未満
の症例においては疼痛が筋力及び歩行距離に影響を与えると報告している。本研究で本来の筋力発揮や歩行距
離の拡大が困難であった要因として、沼田らの報告のように HTO 術後早期に生じた疼痛が関与することが可
能性として考えられた。本研究では、HTO 術後早期の歩行動作能力には筋力が関係する傾向が示唆されたが、
その背景には疼痛の程度が関与することが考えられた。今後は疼痛評価を行い、筋力及び歩行動作能力との関
係を明らかにする必要があると考える。
第21回
大会長
準備委員長
理学療法士学会
運営スタッフ
宮口 昭一
和気 武史
準備委員
川淵 正明
近藤 秀樹
岡田 健次郎
野面 泰之
長谷川
花房 勲
文人
金谷 佳和
会場運営スタッフ
西川 雅也
井上 裕貴
宮本 洋輔
藤長 武士
藤原 千咲
清瀬 直子
久山 祥弘
小村 友香
羽原 史恭
荻野 智博
佐々木 康伸
元家 佳仁
宇野 伸哉
山本 真敬
春木 早織
荻野 整
澤田 恵里
中田 陽子
中田 康裕
吉村 洋輔
田原 愛
中野 愛美
福本 将大
岡田 竜磨
小野 晋也