大腸菌を使って目的の DNA・タンパク質を作らせよう

大腸菌を使って目的の DNA・タンパク質を作らせよう
~遺伝子工学の初歩~
なめき
分子生物科学研究室(担当:行木信一)
はじめに
遺伝子工学において,目的の遺伝子をとりだしそれを別の遺伝子につないで新しい組
み合わせを作り,別の生物(例えば細菌)に導入すること(遺伝子の組み換え)は,とて
も基本的な技術といえます。実際この技術を利用して,薬として利用されているヒトの
インスリン,成長ホルモン,インターフェロンなど貴重なタンパク質が細菌によって大
量に生産されています。では,なぜヒトのタンパク質を細菌で合成できるでしょか?そ
れは,「遺伝暗号が基本的にすべての生物種間で普遍である」という現代生物学が明ら
かにした重要な事実から導き出せるでしょう。その結果,一つの遺伝子の DNA 配列か
ら合成されるタンパク質のアミノ酸配列は,合成される場所がヒトの細胞であろうが,
細菌であろうがまったく同一となり,生産効率のみを考えれば,その遺伝子を増殖の速
い細菌に導入し,そこでタンパク質を作らせるのがうまい方法といえます。事実,遺伝
子の組み換えによるタンパク質の大量生産には,細菌の中でも遺伝子操作技術が最も進
んでおり約 30 分に一度で分裂・増殖する大腸菌(学名 Escherichia coli,略して E. coli
イーコーライ or イーコリ)を用いることが圧倒的に多いことが知られています。今回
の一日体験教室では,今まさに世界中の様々な研究室や企業で実際使われている大腸菌
を用いて,タンパク質を大量発現させる実験の一部を体験してみましょう。
少し詳しく
図1にあるように,タンパク質を大量発現させる実験には大きく分けて以下の3つの
過程があります:
(1)遺伝子組み換え用の大腸菌を利用して,タンパク質を発現させ
たい遺伝子(例えば,ヒトのインスリン遺伝子)をプラスミド(小型の環状 DNA)に
組み込む,(2)プラスミドをその大腸菌から抽出・精製してきて,タンパク質発現用
の別の大腸菌に導入する(形質転換といいます)
,
(3)その菌を大量培養し(通常リッ
ター単位で)
,集菌そして超音波破砕し発現している目的のタンパク質を精製する。
今回は,(2)の過程を行いますが,その過程をさらに実験①と②に分けます。すで
に目的の遺伝子のプラスミドへの組み込み過程が終了した状態から実験が始まります。
このプラスミドが導入されている大腸菌を一晩かけて増殖させ(こちらで準備してあり
ます),この大腸菌からプラスミド精製(ミニプレパレーション,通常「ミニプレ,ミ
ニプレップ」といわれます)を行います(実験①)。次にそれをタンパク質発現用の大
腸菌の中に導入する作業(形質転換,トランスフォーメーション)を行います(実験②)。
では,実際の遺伝子工学の技術を真剣にそして楽しんで体験してみてください。
やってみよう
(より詳細な資料を当日配布する予定)
1.プラスミド DNA の抽出・精製 ~ミニプレ~
前日に前もって培養しておいた大腸菌があります。この菌から,目的のタンパ
ク質の遺伝子が導入されているプラスミド DNA を抽出するためにミニプレッ
プという実験を行います。
プラスミド DNA をもった大腸菌の培養
(準備済み)
↓
集菌
↓
溶液Ⅰで大腸菌を懸濁
↓
溶液Ⅱで大腸菌を溶菌(アルカリ処理)
↓
溶液Ⅲでタンパク質を沈殿させる(中和)。
↓
遠心分離 12,000 rpm,10 分
↓
大腸菌
試験管
プラスミド DNA
一晩増殖させる
カラム(中に樹脂が入
っている)を使って精
上清をカラムに入れて,遠心
製
↓
カラムの中の樹脂には
プラスミド DNA のみが吸着する。
↓
溶出用溶液で吸着したプラスミドをカラムから溶出させる。
↓
カラム
プラスミドの精製完了!
2.蛍光を使ってプラスミド DNA を確認する
~アガロース電気泳動~
プラスミドが確かに精製されたか,蛍光を使って(つまり目で)確認します。
まずアガロース(寒天)電気泳動を行い分子量(長さ)によって分離し,次に DNA
と蛍光染色試薬が特異的に結合し発色することを利用して,濃度や精製度を知
ることができます。
DNA 蛍光染色試薬(Midori Green DNA Stain)を含んだアガロースゲルを用意
(準備済み)
チューブに移す
↓
プラスミド DNA と染色液(Loading dye)を混ぜ,ゲルの
穴(ウエル,Well)に入れる。
↓
電源をオンにして,約 30 分間泳動する。
↓
トランスイルミネーター(発光器)を使用し,染色試薬が結
合したプラスミド DNA を観察する。
3.プラスミド DNA を大腸菌に導入(形質転換)
抽出・精製されたプラスミド DNA を大腸菌に導入(形質転換)させます。形
質転換には,氷上で塩化カルシウム溶液に浸した大腸菌を使用します(特にコン
ピテントセル(competent cell)と呼びます)。Ca2+によって細胞膜の状態が変
化し,DNA に対する膜の透過性が増大しています。
コンピテントセルとプラスミド DNA 溶液を混ぜる。
コンピテントセル
↓
氷上 30 分(on ice)
↓
ヒートショック
プラスミド DNA
ヒートショックを 42℃で 45 秒行う。
↓
寒天培地プレートに大腸菌をまく。
↓
成功すれば,次の日,プラスミドが導入された大腸菌
(プラスミドによって薬剤耐性を持った細菌)のみが,
白いコロニーとなって生えてくる(増殖している)。
予習
生物の教科書の「遺伝情報の発現」の章の「バイ
寒天培地プレート
オテクノロジー」の節を読んでおくとよいでしょ
う。本を持っていなかったら,生物の先生に借り
てみてください。
コロニー
MEMO
実験の分類:分子生物学,遺伝子工学
実験の種類:DNA の抽出・精製,大腸菌の形質転換
結果は,次の日メールでお知らせ
募集人数:8 人(実験は二人一組で行います)。
します。お楽しみに!
所要時間:4 時間程度
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