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ISAGA 手記
筑波大学ビジネス科学研究科
越山
修
はじめに
37 回目を迎える 2006 年の ISAGA(国際シミュレーション&ゲーミング学会)が、ロシ
アのサンクトペテルブルグにて、7 月 3 日から 7 日まで開催された。本手記は ISAGA に初
めて参加した一社会人学生の滞在記としてまとめてみたい。
7 月初旬のロシアは、白夜(びゃくや)と言われる現象がみられる。午前 3 時には太陽が昇
り、暗くなるのは深夜 0 時頃、日中の時間が驚く程長く、沈まない太陽と活動時間の長さ
に旅行者は不思議な感覚に陥る。また、1 週間後に主要国首脳会議(サンクトペテルブルグ・
サミット)を控え、空港や交通、ホテルなどで徐々に警備を強めていくのであろう、市内
にはあちらこちらで警察官の姿が目に付いた。
サンクトペテルブルグは、日本に置き換えると京都のような“古都のイメージ”といえ
ばご理解いただけるであろうか。市内はいたる所に観光スポットが点在する。世界の 4 大
美術館に数え上げられるエミルタージュ美術館や、ロシア帝国を築いたピョートル大帝の
命により造園された夏の庭園、ロシア正教の聖堂で世界でも屈指の大きさを誇るイサク聖
堂など、歴史を物語る建造物や庭園が数多く残されている。また市内をフィンランド湾に
注ぐネヴァ川が取り囲み、その支流や大小数本の運河が流れ込む様は、“北のヴェニス”と
称されるように、水の恵みと歴史が一体になった街並を残している。
〔ネヴァ川からイサク聖堂(右)を望む〕
会場
サンクトペテルブルグの中心で、目抜き通りとなるネフスキー大通りから徒歩 5 分、
ENGECON (St.Petrsburg State University of Engineering and Economics)が会場であ
る。45 組を数える参加者が、月曜日から金曜日までのセッションで発表した。今回は立地
が影響し、地元ロシアやヨーロッパ諸国の参加が多く、アメリカからの参加は例年より少
ないとのことであった。
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〔会場の様子〕
ISAGA の特徴は、アットホームな雰囲気であろうか。
“シミュレーション&ゲーミング”
という共通のテーマを持った研究者が集まるため、言葉や人種、性別を越えて終始穏やか
な雰囲気でセッションは進む。反面、研究者のこだわりの一面も覗かせる。セッションの
質疑応答が白熱すると、コーヒーブレイクでもやりとりが続くこともしばしば。参加者が
一体となり、問題を共有する姿勢が随所で感じられた。また、スケジュールには、様々な
イベントが用意されている。アンケートをもとにしたグループワークでは、参加者の出身
国や、これまでの ISAGA の参加回数をグループ別に集計し、発表した。中には 20 回を越
える参加者もいて、和やかな中にも学会の歴史を感じた。
〔全員参加のグループワーク〕
研究紹介
全ての研究は紹介しきれないので、ここでは二つの発表について紹介する。他の発表や
タイトルは ISAGA ホームページ(http://www.isaga2006.com/program.htm)を参照いた
だきたい。
一つ目は、イギリスのウェールズにあるグラーモーガン大学の Martin Lynch と Richard
Tunstall による、
「高等教育のためのシミュレーションケーススタディの開発」である。グ
ラモーガン大学の e-learning を活用したビジネス教育の概要と 2 年間にわたる活用結果を
紹介した。141 名の学生に、プログラム説明の後、1 週間のゲーム演習を 2 回繰り返し、デ
ィブリーフィングやテストから教育効果を測定する。学生が期間内で何回サイトにアクセ
スしたか、経営知識やゲーム内容は理解できたかなど、多くのデータをもとに考察してい
る。シミュレーションを活用した経営教育の有用性を示唆するとともに、学生のアンケー
トのフィードバックにより、さらに深耕が期待できる内容であった。
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二つ目は、オーストリアの Willy C. Kriz による「シミュレーションゲーム“Start-up”を
用いた起業家トレーニングの評価」である。前回のアトランタ大会で発表された研究の追
跡調査として発表された。 “Start-up”というシミュレーションゲームは、新しい会社でマ
ネジメントタスクを成功させるために必要な技能を習得するビジネスシミュレーションゲ
ームで、ドイツやオーストリアの 30 以上の大学などで活用されている。参加チームは、情
報収集や経営計画、会社の立ち上げ、市場参入、ディブリーフィングなど 5 つのエピソー
ドを体験し、起業家の意思決定を体験する。前回の研究報告である 2004 年から 2005 年の
606 名の調査と、新たに 134 名の詳細な調査を紹介した。起業家を養成するために、ビジ
ネスシミュレーションゲームは有益であるとしながらも、起業家の能力と実際の起業は、
それほど単純な因果関係ではないと考察している。今後もビジネスシミュレーションを通
じて、起業家の精神を開発し続けたいと締めていた。
筆者の発表
筆者の発表は 3 日目の午前であった。今春の JASAG(日本シミュレーション&ゲーミン
グ学会)にて発表した、
「ビジネスゲームの開発フレームワーク」を発展させたものである。
前日に共同研究者の鈴木教授が、参加者のビジネスゲームへの理解度を察して、自分達の
先行研究についてもう少し補足説明をすべきとの助言があった。先行研究として活用した
筑波大学のビジネスゲーム開発環境 BMDS/BMDL(ビジネスモデル開発システム/言語)を
加えた方が、聴く側が理解しやすいとの判断だ。急遽プレゼンテーションを数枚追加し、
同じく共同研究者の寺野教授に冒頭で BMDS/L について説明していただいた。この助言の
甲斐あって、参加者は研究について一定の理解を示してくれたようである。発表後の休憩
時間にも、数名の方から質問をいただいて、ホッと胸を撫で下ろした。
おわりに
4 日目の夕方からは(とはいっても、17 時は昼のような日差しであるが)、観光船のツア
ーが組まれた。網の目のように広がる運河を観光船で市内の名所を巡った。1 時間ほどのツ
アーの後は、夕食会が Polovtsev 邸という旧貴族の立派な邸宅で行われた。40 名ほどの参
加者が、終始、和やかな雰囲気で懇親を深める場となった。
〔観光船ツアーは和やかな雰囲気〕
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瞬く間に過ぎた ISAGA の 5 日間であるが、世界中のいろいろな方々と接し、改めて研究
の奥深さを学ぶことができた。次回の 2007 年度の開催はオランダで、次々回はリトアニア
とのこと。これからも年一度の情報交換を楽しみに研究を進めていきたい。
最後に、日本から参加された、流通経済大学の市川教授、千葉工業大学の土谷教授、筑
波大学の鈴木教授、東京工業大学の寺野教授、小山助手、大学院生の市川さん、佐々木さ
んには大変お世話になりました。また、参加にあたって、筑波大学ビジネス科学研究科と
財団法人科学技術融合振興財団には多大なるご支援頂きましたことを、深く御礼申し上げ
ます。
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