プレスリリース 2015 年 6 月 19 日 報道関係者各位 慶應義塾大学 CMOS プロセスで作製 プロセスで作製したナノ 作製したナノ光共振器 したナノ光共振器の 光共振器の世界最高性能を 世界最高性能を達成 ~光回路実用化に 光回路実用化に向け基本構成素子の 基本構成素子の大量生産に 大量生産に道筋~ 道筋~ 慶應義塾大学大学院理工学研究科の大岡勇太(修士課程1年)と同理工学部電子工学科田邉孝純准教 授らの研究グループは、CMOS互換プロセスを用いて世界最高性能をもつナノ光共振器を作製するこ とに成功しました。 フォトニック結晶はシリコン薄膜にナノスケールの穴を周期的に空けた構造であり、この構造を利 用するとナノ空間に光を閉じ込めることが可能となります。今回、フォトニック結晶による光ナノ共 振器を、集積回路と同じCMOSプロセスを用いて作製し、同手法を用いた物としては世界最高の光の 閉じ込め性能(Q値)を達成しました。作製が安価で量産化を実現できるため、光集積回路の実用化に 向けた大きな進歩となります。本研究では光回路で信号処理を行うことを念頭に、光で光のオンオフ を制御する超高速なスイッチングの実現も示しています。 この研究成果は2015年6月18日に、英国Nature Publishing Groupが出版するScientific Reports誌 に掲載されました。 1.本研究のポイント 本研究のポイント ・フォトリソグラフィを用いて世界最高 Q 値を達成 ・電子集積回路やシリコンフォトニクス素子と構造互換性のあるフォトニック結晶共振器を開発 2.研究背景 パソコンやスマートフォンなどユーザ端末の多様化に伴い、インターネット上を流れる通信量は急 増しています。今日の大容量なインターネットの通信は光技術によって支えられており、一般家庭に まで光回線が届くようになりました。しかし、現在は、光で届けられた信号を各端末で電気に変換し てから処理を行っているため、電子回路の配線抵抗が問題となっています。配線抵抗が存在する限り、 電流を流せば熱が発生してエネルギーの無駄遣いにつながります。このような問題を解決するために、 シリコンでできた集積回路内の伝送を光配線で置き換えようとするシリコンフォトニクスと呼ばれ る技術が注目されています。いずれは、配線だけでなく、コアとなる信号処理部分も、部分的に光回 路で置き換わる可能性が高いとされており、その際には光を小さな領域に閉じ込めることができるフ ォトニック結晶技術が有力な候補とされています。 フォトニック結晶はシリコン薄膜にナノスケールの穴を周期的に空けた構造で、ナノ空間に光を閉 じ込めることができます。光を閉じ込めると、微小な入力光でも非線形光学効果(※1)を引き起こすこ とができるため、信号処理応用ができることが既に示されてきました。しかし、これまでのフォトニ ック結晶は電子線描画という高価で時間がかかる技術を用いて作製されてきました。電子線描画は高 精度ですが、言わば一筆書きであり大量生産には不向きです。一方で、現在の電子信号処理の中核を なす CMOS 素子(※2)はフォトリソグラフィを中心としたシリコン加工プロセスで作製されます。し かしフォトリソグラフィは精度が足りないとされ、フォトニック結晶共振器の作製は試みられてきま せんでした。 1/3 3.研究内容・ 研究内容・成果 フォトリソグラフィは一般に電子線描画よりも作製精度が低いため、光をナノ空間に閉じ込めるた めの構造設計を誤差に強いものにする必要があります。本研究では幅変化型という構造を用いること でその目的を達成しました。図 1 には幅変化型と L3 と呼ばれる 2 種類のフォトニック結晶共振器の 構造を示しています。幅変化型はシリコン薄膜に空けた周期的な穴が作製されているのに対し、L3 では穴が一部つながってしまっていることが確認できます。 図 1.幅変化型(a)と L3(b)の電子顕微鏡写真 黒く見えるのが空気穴(実際の素子では SiO2 で満たされている) 詳細な構造設計を図 2(左)に示します。今回の素子が持つもう 1 つの特徴は、フォトニック結晶の 上下面を SiO2 膜によって保護することで、素子の寿命を格段に向上させている点です。シリコンフ ォトニクス素子や電子集積回路では SiO2 による保護は一般的ですが、フォトニック結晶共振器では 性能が低下するとされ、これまで共振器の上下面は空気にむき出しになっていました。 この構造の光学特性を測定すると図 2(右)のようになり、透過スペクトルの幅から Q 値は 2.2×105 であることがわかりました。Q 値は光の閉じ込め性能を表す指標であり、この値はフォトリソグラフ ィで作製したフォトニック結晶としては世界最高 Q 値です。 また、LSI の試作ではシャトルサービス(※3)の利用が標準的となっています。この素子の作製にも シリコンフォトニクス向けのシャトルサービスを利用しており、高精度なフォトニック結晶共振器が 誰でも簡単に手に入るようになり、研究開発が大幅に促進することが期待されます。 図 2.(左)今回作製した幅変化型の模式図、(右)測定された光共振スペクトル 作製したフォトニック結晶を用いて全光スイッチの実験を行いました。図 3 ではフォトニック結晶 共振器素子を透過していた(透過していなかった)光が、制御光が入射した瞬間だけ透過しなくなる(透 過するようになる)動作が示されています。この素子を用いても全光信号処理を容易に実現できるこ とが示されたことで、配線の光化を目指したシリコンフォトニクスと組み合わせることにより、全光 信号処理技術の進展に大きく寄与することができます。 2/3 注) 1ピコ秒=1兆分の1秒 1.0 透過光強度 0.9 0.8 130ピコ秒 120ピコ秒 0.7 0.6 0.5 -200 -100 0 100 200 300 400 500 時間 (ピコ秒) 図 3.全光信号処理の実験結果 4.本研究成果の 本研究成果の意味 電子による集積回路の作製に使われるのと同じ、フォトリソグラフィを用いたシャトルプロセスで 作製したフォトニック結晶共振器でも、適切に設計することで光信号処理に必要な高い性能が得られ ることを示しました。またシリコンフォトニクスや CMOS 素子と互換性のある SiO2 による保護膜が ある素子構造でも世界最高の光閉じ込め性能が得られることも示しました。安価で大量生産に向く作 製手法や、汚染や機械的強度に強い素子構造を実現したことによって、全光信号処理回路の実現に大 きく近づきました。 5.今後の 今後の展開 一度に大面積の素子を作製できる点、他の電子デバイスと同じ工程で作製できるので、今後は他の シリコンフォトニクス素子や電子デバイスと集積した光回路を設計・評価することを検討しています。 <原論文情報> “CMOS compatible high-Q photonic crystal nanocavity fabricated with photolithography on silicon photonic platform” Yuta Ooka, Tomohiro Tetsumoto, Akihiro Fushimi, Wataru Yoshiki and Takasumi Tanabe Scientific Reports Vol. 5, 11312 (2015). <用語説明> (※1) 光を強く閉じ込めたときに起きる、誘電体内に生じる分極が電界に比例しない効果。 (※2) 現在の電子技術に基づくデジタル信号処理回路の基本構成素子として使われている。 (※3) 複数の研究機関でウェハを乗合して開発費を下げる方法 ※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。 ※本リリースは文部科学記者会、科学記者会、各社科学部等に送信させていただいております。 ・研究内容についてのお問い合わせ先 慶應義塾大学 理工学部 電子工学科 准教授 田邉孝純 (たなべ たかすみ) TEL:045-566-1730 FAX:045-566-1529 E-mail:[email protected] ・本リリースの配信元 慶應義塾広報室(竹内) TEL:03-5427-1541 FAX:03-5441-7640 Email:[email protected] http://www.keio.ac.jp/ 3/3
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