ブラックホール磁気圏におけるPenrose Comton 散乱過程

2015 3.2 3.4 第8回BH磁気圏研究会@広島大学
ブラックホール磁気圏における
ペンローズ・コンプトン散乱過程
∼高エネルギー光子の生成∼
愛知教育大学 修士2年 浅野豪士
ガンマ線バースト(GRB) わずか数秒∼数10秒の間に突発的に大量のガンマ線が放出される高エネルギー天体現象
宇宙で最も明るい爆発現象
GRBのイメージ図
・典型的な超新星爆発のエネルギー: 1051 erg
・太陽が解放できるエネルギーの最大値:1054
(理論上、太陽の静止質量エネルギー)
・太陽光度:
erg
3.9 ⇥ 1033 erg/s
・ガンマ線バーストが放出するエネルギー:
(わずか数秒∼数十秒の間)
10
52
⇠ 10
54
erg
興味深い現象だが、、
・詳細な発生機構について未だにわかっていない。
・典型的な光子のエネルギーは 100KeV ⇠ 1MeV だが、
GeVを超えるような高エネルギー光子も発見されている。
GRBのエネルギースペクトル 特徴
エネルギースペクトルは2つのベキ関数をつないだ形をしている。
GRB 990123(距離:90億光年)
のエネルギースペクトル (Briggs et al 1999)
光
子
数
N(E)
N (E) ∝ Eα
N (E) ∝ E β
750KeV
0.01
1.0
100
光子のエネルギー(MeV)
GRB 130427A
・2013年4月27日に観測されたGRB。
・距離38億光年(宇宙年齢70億年以降に発生したGRB としては観測史上最大の明るさ)。
・GeV放射の光子は少ないのでこれまで満足な議論ができなかった(遠方だと届きにくい)。
GRB 130427Aは比較的近傍でとても明るいので注目されている。
エネルギースペクトル
(Tam et al. 2013より)
光
GRB 990123
子
数
N(E)
0.01
100
GRB 130427A
1000
10000 100000
光子のエネルギー(MeV)
ガンマ線バースト形成モデル シンクロトロン衝撃波モデル
衝撃波
シンクロトロン放射
GeVを超えるガンマ線光子を説明できない。
Piran&Shaham(1977)
Penrose Compton 散乱過程を利用し、
ガンマ線バースト形成モデルを提案
GeVを超えるガンマ線光子を説明できない。
本研究
磁気場中での散乱過程に拡張し、
GeVを超えるガンマ線光子の
エネルギースペクトルを説明。
ペンローズ過程
時空の引きずり効果に効果によって生じる負のエネルギーを利用
original Penrose process
分裂前
分裂後
Penrose Compton scattering process
(Piran&Shaham,1977) (Williams 1995)
光子
EA < 0 とすると
電子
エネルギー抽出可能!
逆コンプトン散乱
BH
電子
光子
分裂
光子と電子の衝突では、
相対速度の条件を満たしている。
エルゴ領域
① 磁場中の荷電粒子は、
エルゴ領域の外側でも負のエネルギー値をもてる。
しかし、分裂時の相対速度が光速の半分以上必要
② 磁場中の荷電粒子は、
負のエネルギーポテンシャルが深くなる。
本研究では、磁場中の散乱過程
ペンローズ過程の歴史
(本研究で参考にした論文)
1967年 R.Penrose
Penrose 過程の提案。(潮汐力による天体の分裂を思考実験)
J.M. Bardeen,
Penrose 過程の制限を示す。
1972年 W. Press ,
(分裂時の相対速度が光速度の半分以上)
S.A.Teukolsky
1974年 R.M.Wald
1977年
T. Piran ,
J. Shaham
磁場が存在すると、相対速度の制限が緩和される。
Penrose Compton 散乱過程を用いて、
ガンマ線バーストのスペクトルを説明。
エルゴ領域内では光学的厚みが小さいため衝突が起こりにくい。
そこで、降着円盤の不安定性を考えると衝突する可能性があがる。
A.R.Prasanna ,
BH Dipole 磁場における負のエネルギー領域の研究。
1978年 C.V.Vishveshw
(エルゴ領域の外側にも負のエネルギーが広がる。)
ara
M.Wagh,
1989年
N.Dadhich
Penrose 過程についてこれまでの研究のまとめ。
1995年 R.K.Williams
Penrose Compton 散乱過程。
2011年
T.Harada,
M.Kimura
地平線付近での高エネルギー粒子衝突
有効ポテンシャル
磁場が存在しない場合
E⌘
定常・軸対称の仮定から
保存することが示される。
L ⌘ p = const.
pt = const.
∼ハミルトンーヤコビ方程式∼
g µ⌫ pµ p⌫ = m2
E
Emin
ポロイダル方向の運動エネルギーを最小としたとき、 =
を有効ポテンシャル Ve↵
m
m
(p✓ = pr = 0)
2
g tt Emin
Ve↵
2g t Emin L + g L2 = m2
" ✓ ◆
✓
◆
2
Emin
gt
L
1
L
2
⌘
= tt
p
m
g
m
g tt w m
g tt
と定義する。
#1/2
磁場が存在する場合
E⌘
Ve↵ ⌘
(pt + qAt ) = const.
q
gt
At + tt
m
g
✓
L
m
q
A
m
L ⌘ p + qA = const.
◆
"
1
2
p
g tt w
✓
L
m
q
A
m
◆2
g tt
# 1/2
ブラックホールダイポール磁場
シュワルツシルト時空だと At = 0 となり、負のエネルギーは存在しない。
粒子の電荷
ダイポールモーメント
の積を
と定義する。
磁場を取り入れることの意義
エルゴ領域内では、光学的厚みが小さいので衝突は起こりにくい。 Piran&Shaham(1977)
有効ポテンシャル
(BHダイポール磁場中の荷電粒子)
有効ポテンシャル
(磁場が存在しない場合のテスト粒子)
BHの回転軸
Z
青線:負のエネルギー値
BHの回転軸
4
BH
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
青:負のエネルギー値
4
Z
3
3
2
2
1
1
0
BH
0
-1
-1
-2
-2
-3
-3
-4
-4
X
エルゴ領域内のみでエネルギー抽出が可能
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
X
エルゴ領域の外側でエネルギー抽出が可能
ブラックホールダイポール磁場における有効ポテンシャル
∼負のエネルギー領域( 依存性)∼
荷電粒子を
閉じ込める
カオス軌道?
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
赤道面を中心に
広がる。
ジェットの
形成に期待?
4
4
4
4
3
3
3
3
2
2
2
2
1
1
1
1
0
0
0
0
-1
-1
-1
-1
-2
-2
-2
-2
-3
-3
-3
-3
-4
-4
-4
-4
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
高緯度領域を中心に
広がる。
カー時空における磁場モデルと有効ポテンシャル
Dipole 磁場
磁力線
Koide s model
磁力線
Wald 解
磁力線
Z
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
有効ポテンシャル
有効ポテンシャル X
有効ポテンシャル
Z
4
3
2
1
0
-1
-2
-3
-4
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4
X
計算方法①
遠方の観測者
∼散乱前∼
①テトラード変換
Boyer-Lindquist 系
∼散乱後∼
②ローレンツ変換
Locally Non Rotating Frame
散乱の計算
特殊相対論で議論ができる。
電子静止系
(BHの回転と同じ角速度で運動する観測者)
特殊相対論で議論ができる。
④逆テトラード変換
③逆ローレンツ変換
モンテカルロ法(100万パターン)
・散乱角をKlein-Nishinaの微分散乱断面積の公式に従って発生させる。
光子のエネルギーを計算
仮定
① 衝突前の電子と光子の運動は赤道面で考える。衝突後は赤道面以外も考える。
② a=0.998M とする(特に記述がない場合)。
③ 磁場のモデルとして、BH diploe
④ 磁場が存在しても、Klein-Nishinaの微分散乱断面積の公式が適用できるとする。
計算方法②
・本来ならばブラックホール近傍では、
様々なエネルギーをもつ光子や電子が存在し、様々な場所で衝突が起こるはずである。
・しかし、一般にこれらの分布を全て求め、計算を行うことは困難である。
そこで本研究では衝突の位置は固定し、
①段階:初期電子と初期光子のエネルギーを一定にし、散乱角を乱数で決める。
②段階:初期光子のエネルギーを一定にし、
初期電子のエネルギー(ガウス分布やべき分布を仮定)と散乱角を乱数で決める。
Williams(1995)の再現
<衝突前>
電
1.11.1
・BHからの距離r=1.089M 、
電子
子
(marginally bound orbit)で衝突が起きたとする。 の
1.05
1.05
有
・電子のエネルギーは552 KeV。
100万回の衝突を計算 効
・光子のエネルギーは51.2 KeV。
1.0 1
ポ
テ
光子数: N(E) 散乱光子のエネルギースペクトル
ン
0.95
1x107
シ
10^8
ャ
1x106
10^7
0.9
0.9
1.1
1.2
1.3
ル
1.1
100000
10^6
<衝突後の一例>
10000
10^5
10^3100
初期光子のエネルギー
10^1 1
10^00.10.01
0.01
0.1
0.1
1
10
1.0
10
光子のエネルギー(MeV)
1.4
1.5
1.6
1
電
0.8
子 1.0
の
0.6
有
0.4
効
0.2
ポ
テ 0.00
1000
10^4
10^210
光子
100
100
ン -0.2
シ
-0.4
-0.4
ャ
1.1
1.2
ル
1.1
1.7
1.8
1.9
2
2.0
距離
光子
1.3
1.4
1.5
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2
2.0
距離
計算結果
ここからは、磁場あり(BH dipole磁場)
計算結果①
<衝突前>
電 12.0
12
・BHからの距離r=2.2M 、
子 10.0
10
(エルゴ領域外)で衝突が起きたとする。
の
8.08
有
・電子のエネルギーは102 KeV。
6.06
100万回の衝突を計算 効
・光子のエネルギーは51.2 KeV。
4.04
ポ
電子
テ 2.02
(dipole moment 電子の電荷) ン 0.00
光子数: N(E)
シ -2.0-2
散乱光子のエネルギースペクトル
7
1x10
10^8
ャ -4.0-4
1.5
2
2.5
地平線
1.5
2.0
2.5
1x106
ル
10^7
<衝突後の一例>
100000
電
10^6
12
12.0
子
10000
10
10^5
10.0
の
3
3.0
10^3100
初期光子のエネルギー
10^210
10^1 1
0.1
0.1
1
10
1.0
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
有
効 6.06
ポ 4.04
テ 2.02
ン 0.00
シ -2.0-2
ャ
-4
-4.0
ル 地平線
3.5
3.5
4
4.0
距離:r/M
光子
8.08
1000
10^4
10^00.10.01
0.01
光子
電子
1.5
1.5
2
2.0
2.5
2.5
3
3.0
3.5
3.5
4
4.0
距離:r/M
計算結果①­2
∼磁場ありと磁場なしの比較∼
光子数: N(E)
散乱光子のエネルギースペクトル
7
1x10
10^8
6
1x10
10^7
磁場あり
磁場なし
初期光子のエネルギー
磁場あり
・BHからの距離r=2.2M
100000
10^6
・電子のエネルギーは102 KeV。
10000
10^5
・光子のエネルギーは51.2 KeV。
10^41000
磁場なし
10^3100
・BHからの距離r=1.089M
10^2 10
10^1
・電子のエネルギーは552 KeV。
・光子のエネルギーは51.2 KeV。
1
10^0 0.1
0.01
0.01
0.1
0.1
1
1.0
10
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
計算結果①­3
∼スピンパラメータの依存性∼
光子数: N(E)
散乱光子のエネルギースペクトル
1x107
10^8
1x106
a=0.998M
a=0.1M
初期光子のエネルギー
10^7
100000
10^6
10000
10^5
1000
10^4
100
10^3
10^2 10
10^1
1
10^00.10.01
0.01
0.1
0.1
1
1.0
10
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
100
計算結果②­1
・BHからの距離 r=2.2M 、(エルゴ領域外)で衝突が起きたとする。
・光子のエネルギーは51.2 KeV(X線領域)。
・電子のエネルギー(ガウス分布):
ポテンシャルの底には
粒子が溜まりやすい。
<初期電子の分布>
f(Ee)
0.14
12
12.0
電
子
の
有
効
ポ
テ
ン
シ
ャ
ル
B点
10
10.0
0.12
8.08
0.1
ガ
ウ
ス
分
布
6.06
4.04
2.02
0
0.0
0.08
0.06
0.04
0.02
-2.0-2
-4.0-4
地平線
A点
1.5
1.5
2
2.0
0
2.5
2.5
3
3.0
3.5
3.5
4
4.0
距離:r/M
A点-2
-3.2
0
2
4
6
8
10
B点
Ee
10.0
計算結果②­2
∼ガウス分布∼
光子数: N(E)
散乱光子のエネルギースペクトル
1x10
10^8
7
1x10
6
10^7
初期光子のエネルギー
100000
10^6
10000
10^5
10^41000
10^3100
10^2 10
10^1
1
10^0 0.10.01
0.01
0.1
0.1
1
1.0
10
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
計算結果②­3
∼ガウス分布(距離依存性)∼
光子数: N(E)
散乱光子のエネルギースペクトル
1x107
10^8
1.2M
2.2M
3.2M
散乱の位置
6
10^71x10
100000
10^6
10000
10^5
10^41000
10^3 100
10^2
10
10^1
1
10^0
0.1
0.01
0.01
初期光子のエネルギー
0.1
0.1
1
1.0
10
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
計算結果③­1
・BHからの距離 r=2.2M 、(エルゴ領域外)で衝突が起きたとする。
・光子のエネルギーは51.2 KeV(X線領域)。
・電子のエネルギー(ベキ分布):
<初期電子の分布>
12
12.0
電
子
の
有
効
ポ
テ
ン
シ
ャ
ル
B点
光
子
数
N(E)
10
10.0
8.08
6.06
べ
き
分
布
4.04
2.02
0.00
-2.0-2
-4.0-4
地平線
A点
1.5
1.5
2
2.0
2.5
2.5
3
3.0
3.5
3.5
4
4.0
距離:r/M
A点
B点
-3.2
10
電子のエネルギー(m_e c^2)
計算結果③­2
∼ベキ指数の比較∼
光子数: N(E)
散乱光子のエネルギースペクトル
1x107
10^8
ベキ指数=-1
1x10
10^7
初期電子の分布
6
ベキ指数=-2
100000
10^6
10000
10^5
1000
10^4
10^3
100
10^2
10
10^1
1
10^0
0.1
0.01
0.01
初期光子のエネルギー
0.1
0.1
1
1.0
10
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
計算結果③­3
∼ガウス分布とべき分布の比較∼
光子数: N(E)
散乱光子のエネルギースペクトル
1x10
10^8
7
1x10
10^7
6
ガウス分布
初期電子の分布
ベキ指数=-2
100000
10^6
10000
10^5
10^41000
10^3100
10^2 10
10^1
初期光子のエネルギー
1
10^0 0.10.01
0.01
0.1
0.1
1
1.0
10
10
光子のエネルギー(MeV)
100
100
計算結果④­1
・BHからの距離 r=1.2M 、(エルゴ領域内)で衝突が起きたとする。
・光子のエネルギーは51.2 KeV(X線領域)。
・電子のエネルギー(ガウス分布):
<初期電子の分布>
500
電 500
子
0 0
の -500
-500
有
-1000
-1000
効
-1500
ポ -1500
-2000
テ -2000
ン -2500
-2500
シ
-3000
-3000
ャ
-3500
-3500
ル
-4000
-4000
f(Ee)
0.14
B点
0.12
ガ
ウ
ス
分
布
0.1
0.08
0.06
0.04
0.02
A点
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
地平線 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5
1.6
1.7
1.8
・・・・
1.9
2
2.0
距離:r/M
0
A点
-2
-3319
0
2
4
6
8
B点
10
10.0
Ee
計算結果④­2
光子数: N(E)
10
10^8
7
10
10^7
6
10
10^6
5
散乱光子のエネルギースペクトル
104
10^5
GeVを超える
ガンマ線
103
10^4
10
10^3
2
10
10^2
1
初期光子のエネルギー
100
10^1
-1
10
10^0
0.01
0.01
0.1
0.1
1
1.0
10
10
100
100
光子のエネルギー(MeV)
1000
1000
10000
10000
考察
∼Penrose Compton 散乱過程を用いたγ線バースト形成モデル∼ Piran&Shaham(1977)
BHと連星系をなしている
X線星からの放射
X線光子がガンマ線光子に変化
伴星のBHによって
Penrose 過程
ガンマ線バースト!?
シンクロトロン衝撃波モデル
GeVを超えないガンマ線バースト
本研究
磁場中のPenrose Compton 散乱過程
GeV を超えるガンマ線光子
まとめ
今回の計算からわかったこと
ペンローズ・コンプトン散乱過程のエネルギースペクトルは、
・スピンパラメータ ・・・ 大きい方が高エネルギーになる。
・散乱の場所 ・・・ BH近傍での衝突の方が高エネルギーになる。
・初期電子の分布 ・・・ 分布によってスペクトルの形が異なる。
・磁場の強さ
・・・ 強い方が高エネルギーになる。
ブラックホール近傍の時空構造を知る手がかり!?
ブラックホールの周りの電流ループが作る磁場のベクトルポテンシャル
次の条件を満たすベクトルポテンシャルを考える。
ここで、
なので、上の条件を満たすベクトルポテンシャルは以下のように書ける。