Khulna地区:菊地

バングラデシュ選挙監視報告
菊地
綾乃
派遣地:Khulna 地方、Khulna 地区
バングラデシュのツィア国際空港には予定より一時間遅れて 12 月 20 日の午後 11 時過ぎ
に到着し、無事に ANFREL の方と合流できた。一日おいて 22、23 日とブリーフィングが
行われたが、事前に配られた資料だけではうかがい知れないバングラデシュ選挙管理委員
会や地元選挙監視 NGO などの選挙への態度を垣間見ることができて興味深かった。翌日か
ら 30 日までの約一週間、私はクルナ(Khulna)という地域へ派遣されることになり、パ
ートナーはこれまで何度も若いオブザーバーの指導をしているエキスパートの方になった。
Khulna はバングラデシュでダッカ、チッタゴンに次ぐ第三番目に大きな都市で、政治的に
は比較的安定しているということだった。バングラデシュの方に聞くと、声をそろえてい
いところだと言う。
24 日、私たちは地方へ向けて出発した。Khulna までは車で 5~6 時間と聞いていたが、
朝 9 時前に出たにも関わらず途中車の故障で立ち往生し、結局 KhulnaCity に着いたのは
夜 7 時を回っていた。この日は移動時間がほとんどだったが、道中フェリーに乗る必要が
あったのでその時間を利用して何人かにインタビューすることができた。今回の選挙監視
ではそれまでとは違い、口頭形式も含めて計 4 回のレポートを提出しなければならず、そ
の中には住民に対するインタビューの統計も含まれており、私はそれを担当することにな
ったのだった。地方派遣期間を通して男性 23 人、女性 21 人にインタビューをしたが、全
体としてバングラデシュの人々は今回の選挙に関心を持ち期待していることが伺えた。特
に 2001 年の選挙と比べて選挙の方法や質を評価する声が多く、多くの人は選挙委員会
(BEC)や選挙管理内閣の評価も高かった。しかし、選挙には行くが新しい政府には期待
できないと答える店の経営者が何人かいたし、やはり若者は政治に関心を示さない人も多
く、そこは日本と同じ傾向が見られると思った。女性の政治参加について女性住民に意見
を聞くと、皆一様に女性の参加の自由を評価していた。しかし、私たちが見た選挙キャン
ペーンでデモンストレーションを行っていたのはほとんど男性であった。その上、バング
ラデシュでは女性が一人で外に出ることは稀であり、大抵は夫が近くにいる場合が多く、
また、男性でもそうだが女性にインタビューするとき
にも多くの人が興味を持って集まってきたので、この
インタビューで本音を引き出せるのかということに
ついては疑問が残った。ある村でお年寄りの方にイン
タビューした際、票買いは不正行為かどうかと聞くと、
その老人は「悪いことではない」と答えた。理由を聞
くと、貧しい人々が政治家からお金を得る唯一の方法
がそれであり、少なくとも選挙の時には生活のためのお金を得られるのだと言う。確かに、
物乞いの多さが物語るようにバングラデシュが後発開発途上国の一つに数えられることは
忘れてはならない事実であり、政治は貧困にも影響を与えているのだと実感できた。
住民へのインタビューの他に、28 日までは地方の役所や地方選挙管理事務所、各政党の
地方事務所、地元 NGO、そして警察や軍隊関係を訪ねて選挙準備の全体像を把握するべく
インタビューをした。全体的には 2001 年の選挙と比べると治安面では格段に良くなってい
るという印象を持っているところが多かった。ANFREL の長期監視員の方にも会えたが、
Khulna では特に選挙に関する衝突で目立ったものはなく、至って平穏にキャンペーンが行
われているということだった。制度面については評価しているところが多かった。しかし、
ドゥムリア(Dumuria)という地区での投票所スタッフの研修場を訪ねた際、彼らは投票
時に国民 ID カードを見せる必要があるのかどうかについて困惑しているようであり、市民
も同様であったことから、ID カードの必要性ついての認識が共有されていないと言うこと
が分かった。また、一つ興味深かったのは、同じく Dumuria の BNP の選挙事務所を訪ね
たとき、代表者は選挙管理内閣の態度がアワミ連盟のために動いていて中立ではないと考
えていたことだった。そのような意見を聞いたのはそこの事務所だけだったが、そのよう
な傾向を窺わせる要素があったということは頭の片隅に留めておかなければならないと思
った。
選挙当日、私たちはホテルから近い Khulna 都市部の投票所でオープニングプロセスを見
守り、その後 3 選挙区、計 11 の投票所を回った。いくつかの投票所ではオープニングの時
間が遅れたり、投票所近くで子供たちを使ったキャンペーンが行われていたり、開票プロ
セスが粗雑であるなどの問題もあった。特に、投票所管理官が投票用紙にスタンプを押す
場所を間違えて、ある政党のロゴマークの上に押してしまったために有権者が困惑し、200
人の票が無効になる恐れがあるとして 30 分ほど投票が中止となって言い争いが起こった。
開票してみると実際に無効になったのは一票だけだっ
たということが判明して事無きを得たが、管理官が意
図的にスタンプを押したと疑う人もいた。その他の投
票所では概して投票プロセスはスムーズ、平和裏に進
んだと評することができるだろう。
今回は自分にとって初めての選挙監視であったため
他の選挙と比較することはできないが、印象としてはバングラデシュ
の国民は政治に関して非常に関心を持ち、自らが政治に参加している
という意識が強いと感じた。Khulna で見た選挙キャンペーンのエネ
ルギッシュな様子や人々の情熱のこもった主張にそれがよく表れて
いた。また、男性よりも多くの女性有権者が投票所の前に長い列をな
していたのが印象的であった。普段は街中で見つけるのが難しい女性
がこのときばかりとこぞって投票所に出かける姿
によって、彼女たちの政治への期待がわかる。もち
ろん、衝突が起こった地域もあり選挙後の混乱は避
けられない状況ではあるが、過去に類を見ない
90%近くの投票率を得たバングラデシュの今回の
選挙は日本の混迷した政治状況と人々の失望に比
べると望ましいものに思えた。