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マヌカはちみつの格付け現状
以下のようなご質問をよく頂戴します。マヌカの花みつからできたはちみつなのに、なぜ抗菌力が異なる
のか? 5+,10+といった数値表示がないマヌカは本当にマヌカはちみつなのか? 格付けの意味は?
どうして何種類もの格付けシステムが使われるのか? といった質問です。
こうした質問は率直なのですが、回答の方はそれほど単純明快というわけには参りません。一つ一つ順
を追ってお答えいたします。ただしニュージーランドの養蜂業の現状という背景から始めなければならず、
長文になってしまいますが、どうぞ最後までおつきあいください。
マヌカの花みつからできたはちみつなのになぜ抗菌力が異なるのか。
どこで採れた花みつかという地理的な要因により抗菌力が異なると考えられていますが、これ以外の
要因については研究者にもはっきりと説明できません。
みつ採取地による抗菌力の差について言えば、北島の北部で産出されるマヌカが、他地域に比べ
抗菌活性が高い傾向にあります。
抗菌力はマヌカの定義とは無関係
マヌカはちみつの抗菌力の強さには大きなばらつきがあります。はちみつを製造している養蜂業者で
あっても、はちみつの検査結果が返ってくるまでは抗菌力の程度がわかりません。ですから表示される
抗菌力の強さと、マヌカはちみつの定義には関連がないのです。
過酸化水素は天然の殺菌成分で、ほぼすべての天然のはちみつに含まれていますが、この過酸化水素
は時間とともに、また光に当たることにより減少します。しかしマヌカはちみつには時間が経っても、また
光に当たっても抗菌力が落ちないという特性があり、この特性によってこそマヌカはちみつが高く評価
されるのです。
以下の三つの時期に分けてお答えするべきでしょう。すなわち 1987 年から 2006 年、2006 年から
2013 年、そして 2013 以降現在に至るまでの時期です。
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1987-2006
マヌカはちみつに特有の抗菌力を測るには、まずはちみつ中の過酸化水素を中和する必要がありました。
ワイカト大学の研究者は、過酸化水素の中和処理にカタラーゼという酵素を用いました。カタラーゼは
有機体中にごくふつうに見られる酵素です。過酸化水素を中和してから、マヌカはちみつの抗菌力が
測定されました。
ワイカト大学の研究チームはマヌカの抗菌力を、一般的に殺菌剤として用いられるフェノール(石炭酸)
の抗菌力との比較で測定しました。研究チームはこの検査結果をはちみつの「過酸化水素によらない
抗菌活性」(non-peroxide activity)と名付けました。マヌカはちみつの製造業者がこの「過酸化水素に
依らない抗菌活性」の略称として頭文字 NPA を利用しました。一方この過酸化水素によらない抗菌活性
を、ユニーク・マヌカ・ファクターはちみつ協会 Unique Manuka Factor Honey Association (UMFHA) で
は「ユニーク・マヌカ・ファクター」(Unique Manuka Factor 略称 UMF)と称しました。
「ユニーク」とは「解明できない」の意
フェノールに対応するマヌカの抗菌力が、5+とか 10+とか 15+といった数値で表示されるように
なりました。「ユニーク」(この語の本来の意味は「他に存在しない、唯一の」)という語を用いたのは、
マヌカはちみつに抗菌力をもたらす物質が何であるかを科学的に特定できなかったからです。
フェノールに対応するマヌカの抗菌力が、5+とか 10+とか 15+といった数値で表示されるように
なりました。この数字はパーセンテージを表示しており、たとえば 10+という表示の場合、そのマヌカはち
みつの抗菌力は 10 パーセントのフェノール希釈液(フェノール 10%、水分 90%)以上であることを
意味します。
*表示についてのまとめ NPA=UMF
UMFHA 加盟養蜂業者がこのようにフェノール液との比較でマヌカの抗菌力を表示したのに対し、
UMFHA 以外のはちみつ製造業者はマヌカ抗菌力を測るのに異なるアプローチを用いました。つまり
マヌカはちみつ中の過酸化水素を中和せず、はちみつそのものの抗菌力そのものを測定したのです。
このため「特別な」「ユニークな」という言葉を使用しませんでした。UMFHA 以外の業者はまた、マヌカは
ちみつの抗菌力をフェノール希釈液との比較対応に基づき数値で表示しました。この測定方法は NPA
ではなくトータル・アクティビティ(Total Activity, TA)と称されました。
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混乱の始まり
ここから混乱が始まります。TA が表示されたマヌカ、UMF が表示されたマヌカ、そして NPA が表示され
たマヌカが出現したわけです。NPA と UMFHA は本質的に同じ測定法方法によるものですが、UMF が
それまでに商標登録されていたため、UMFHA に加盟しない限り UMF 表示はできなかったのです。
TAA という表示を用いる製造者の登場により、ますます混乱の度が増しました。TAA とは Total
Antibacterial Activity の略称ですが、これは TA (Total Activity)と何ら変わることはありません。さらに、
PA という表示も出現しました。これは過酸化水素活性 peroxide activity の略語ですが、TA あるいは
TAA と同義でもありました。結果としてはちみつ市場には UMF, NPA, TA, TAA, PA という五つの表示
が登場します。
*表示についてのまとめ NPA=UMF, TA=TAA=PA
製造業者は表記について充分に説明しないまま、混乱を招く略称はさらに増え続けます。
2006-2013
2006 年、ドイツの研究チームが、マヌカはちみつの過酸化水素によらない抗菌活性は
メチルグリオキサールという物質によるところが大であることを突き止めました。この研究結果を格付け
システムに取り入れたのがマヌカ・ヘルス・ニュージーランド社 Manuka Health New Zealand Limited
(以下マヌカ・ヘルス社)です。この格付けが MGO です(MGO はメチルグリオキサール methylglyoxal
の略称)。マヌカ・ヘルス社は MGO を商標登録し、マヌカはちみつ 1 キログラムあたり 100 ミリグラムの
メチルグリオキサールを含む場合を MGO100+(あるいは 100 以上)としました。
MGO が商標であるため、マヌカ・ヘルス社以外の業者は MGO 表示ができません。しかしたとえば
株式会社山田養蜂場やワトソン&サン社のようにメチルグリオキサール含有量による測定方法を
利用したいと考える会社は、MG という格付け表示をしています。つまりはちみつのラベルは MGO と
数値、MG と数値という表示で飾り立てられることになったわけです。こうしてマヌカはちみつ市場には
7 種もの抗菌力表示があふれかえりました。しかし 7 種類にはとどまりません。
*格付け表示まとめ NPA=UMF, TA=TAA=PA, MGO=MG
エアボーン・ハニー社 Airborne Honey Limited(以下エアボーン社)は AAH という表示を用い
始めました。同社ウェブサイトには AAH とは Antibacterial Antioxidant Honey(抗菌・抗酸化はちみつ)
の略称であるとの記載がありますが、同社マネジャーの一人が「エアボーン・アクティブ・ハニー」
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Airborne Active Honey の略称だとも述べています。エアボーン社によれば商標は AAH のみであり、
これが何を指すかは消費者が自由に解釈してよいのだとのことでした。(弊社では AAH は Active
Antibacterial Honey(抗菌活性はちみつ)を指すと理解しています。これは今のところ、エアボーン社の
謳う「抗酸化」物質の存在を裏付ける科学的な根拠はないと考えられるからです)
*格付け表示まとめ NPA=UMF, TA=TAA=PA, MGO=MG, AAH
規制撤廃
9 つめの格付けシステムはピーター・モラン Peter Molan 博士です。モラン博士はもともとワイカト大で
マヌカはちみつの抗菌特性の研究を主導していました。博士は UMFHA の英雄的存在であり、UMF
商標の創始者でもあったのですが、のちにこの組織から距離を置くようになりました。そして独自の
格付けシステムを確立します。モラン博士は新たな格付けシステムをモラン・ゴールド・スタンダードと
名付けましたが、これはマヌカはちみつ中のメチルグリオキサールの割合を示すものでした。
*格付け表示まとめ NPA=UMF, TA=TAA=PA, MGO=MG=MGS, AAH
(近年エアボーン社は花粉含有量に基づく格付けシステムを導入しています。このシステムを
カウントにいれるならば 2015 年現在、10 種類もの格付けが数値表示されていることになります)
*格付け表示まとめ NPA=UMF, TA=TAA=PA, MGO=MG=MGS, AAH, Pollen Count
このように格付けシステムが乱立したのは、はちみつ取引機関(HMA, the Honey Marketing Authority)
が解散し、ニュージーランドのはちみつ製造業に対する規制が撤廃された 1985 年以後のことです。それ
までは HMA がはちみつ輸出を独占しており、コムハニー(巣みつ)を除くはちみつはすべて、HMA を通
じて輸出しなくてはなりませんでした。
不正な製造者
多種多様な格付けシステムが競合した結果、さまざまなはちみつに健康増進効果を謳い、また抗菌力を
示唆する数値を表示した、偽マヌカが流通するようになりました。このような偽マヌカがニュージーランド
内外で販売されていることは明らかで、ニュージーランドのはちみつ製造大手の中には、マヌカを称する
はちみつの流通量は、マヌカの実際の生産量を上回ると考えているところもあります。
マヌカはちみつの定義をめぐる議論は、現在もニュージーランドのはちみつ産業内で続いています。
UMFHA、マヌカ・ヘルス社、エアボーン社という大手が、適切なマヌカはちみつの定義や表示基準に
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ついて見解を異にしています。はちみつ業界は内紛の危機に瀕しています。これら三者は競合
相手の製品に関する問題点を見つけ次第、政府や規制団体に申し立てをしていますが、これは
「当事者の自作自演だ」という声もあります。
さらに生じる疑問
カヌカはちみつをマヌカとして販売することは許されるのか? マヌカと色合いや風味の似た、レワレワ
などのはちみつを混ぜることは? 単一の花みつであることは稀である以上、どの程度マヌカの花みつ
を含んでいればマヌカと表示できるのか? マヌカみつの割合が 51 パーセントならばマヌカはちみつと
表示してよいのか? はちみつを加熱し、あるいは長期保存することでメチルグリオキサール含有量が
増しうるというのは本当か? マヌカの抗菌力はメチルグリオキサールのみに由来するものなのか?
それともまだ発見されていない物質が存在するのか?
何がマヌカはちみつに抗菌力を与えているのかについて、科学的に正確な答えよりも疑問のほうが多い
ようです。みつばちが秘密を明かすのをいやがっているのでしょう。
ニュージーランド政府の介入
2013内外で広がる偽マヌカ疑惑の渦中で、ニュージーランド政府ははちみつの表示基準として「内容」の
記載のみを認めることにしました(この詳細については、情報デスク--マヌカの新たな規制の項目をご参
照ください)。しかしこれは非常に難しいでしょう。たとえて言えばマヌカはちみつの製造者は馬小屋から
出され、てんでばらばらな方向に駆けながら「こっちが食べたカラスムギはおまえの
食べたカラスムギよりピュアなのだ」「こちらの毛はほんものの馬の毛だがおまえのはカツラだ」と口々に
罵りあっている馬のようなものなのです。
ニュージーランド政府はそんな手に負えない暴れ馬を捕まえ、手綱をつけようとしているわけです。
この馬のなかにはうまく海を渡り、海外の市場(日本もその一つです)を好き勝手にうろついている
ものもいるというのが大きな問題です。
ピュアハニーダイレクト 2015 年 4 月 6 日
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