第 10 章 教材教具の紹介

第 10 章 教材教具の紹介
本校では,児童生徒の実態に応じて,さまざまな教材教具を日々の学習で活用しています。
近年,特に利用が進んできたのが,タブレット端末による指導です。この章では,タブレット端末
で活用しているソフトウェアの一部を紹介しています。
また,校内で開発したオリジナルの姿勢保持装置や,教材提示用の台(書見台)等を紹介して
います。その一部は補装具等業者の協力を得て実現したものです。夏季休業中には,職員の希
望研修として,実費にて教具を製作する機会を設けて,一定の数を製作し,広く活用を図ってい
ます。
1 タブレット端末の活用
2 タブレット端末を活用した指導方法,アプリの紹介
(1)【注視・追視を促す指導・アプリの紹介】
(2)【音への注意を促す指導・アプリの紹介】
(3)【自発の動きと環境変化の因果関係の気づきを育む指導・アプリの紹介】
(4)【概念形成を促す指導・アプリの紹介】
3 オリジナル教材教具について
えきか
(1) 座卓
(2) 三角マット
(6) SRC ウォーカー足置き台
(3)腋窩 支持型座位保持装置
(7)電動太鼓叩きユニット
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(4) 書見台
(8) リレースイッチ
(5)組み立て式シーツブランコ台
(9) 噛んで振り回そう
1 タブレット端末の活用
本校は肢体不自由児(者)を対象とした特別支援学校であり,「準ずる課程」,「自立活動を主とした教育」
等の複数の教育課程を編成し,また,実施の形態についても,児童生徒宅に教員が出向いて授業を行う「訪
問教育」にも取り組むなど,障害の状態に応じたきめ細かな指導に取り組んでいます。
ここ数年の情報機器類の発達には著しいものがありますが,本校においても校内や訪問教育で,これらの
タブレット端末を活用した指導が盛んになってきました。
ここでは発達の初期段階の重度・重複障害児(者)の指導において,タブレット端末を活用する上での意
義や指導方法,アプリの紹介をします。
重度・重複障害児(者)の指導においてタブレット端末を活用する意義
①操作がしやすく,携帯性が高い。…車いす上での座位姿勢をはじめ,様々な姿勢で活用できる。提示する際に位置
や距離の調節することも簡単に行うことができる。また,その携帯性から訪問教育でも教材として多用されている。
②応答性が高い。…応答性が高いため,肢体不自由により身体を動かすことが困難な子どもであっても,その子なりの
微細な動きで使用することができる。成功体験を得やすく,自発の動きを引き出す指導に有効である。。
③視認性が良い。…画面自体が発光しているため,視覚が光覚程度であっても注意を促しやすい。また,写真や印刷
物と比較して,色や質感をより正確に再現でき興味関心を高めやすい。あわせて,注意を引きやすい動画やアニメー
ションを手軽に提示できるなど,教材提示装置としての活用はとても有効である。
④再現性が高い。…端末からの音や光の情報は,極めて再現性が高く,繰り返しの指導に効果的である。
⑤認知発達・コミュニケーション能力の向上が期待できる。…子どもの働きかけに対して,すぐに決まった反応が返って
くるため,自身の動きによって何かが起こったと,いうことが分かりやすく,働きかけと結果の因果関係の理解を深めや
すい。そのためタブレット端末の操作に対して興味・関心が高まりやすく,操作するタブレット端末と自分との関係を
意識するなど,外界に対しての自発的な動きと外界へ向かう気持ちを促すことができる。また,何度繰り返しても,同
じ変化(視覚・聴覚・触覚等)が再現されるため,因果関係を記憶に留めやすく,コミュニケーション発達初期の期待反
応の表出や期待の分化などを狙うことができる。
2,タブレット端末を活用した指導方法,アプリの紹介
ここでは,タブレット端末での指導例や,外界への気付き,刺激への注意を促す指導,物との因果関
係の形成等を目標とする重度重複障害児(者)の指導において効果的なアプリを紹介します。
(1)【注視・追視を促す指導・アプリの紹介】
指導名
視覚・色覚について,指導方法
○視覚の発達について
視覚の最初期段階で子どもの注意を引くことが可能であるものとして白と黒のコントラストのはっ
きりした縞模様があります。【第 4 章 (5)視覚に記述がある視力検査でも同様の模様を示していま
注視
(白黒コントラス
ト)
す。】視覚が活用できているかどうかわからないような初期段階において,視覚の活用を促すため
の指導で以下のような指導を行います。
○指導方法
端末は子供が視認しやすい位置へ提示します。
(1)縞模様の幅は一つの画像ごとに黒と白の幅を一定にします。
①-1
①-2
②
③
④
(2)始めは一つの画面に①-1,2をゆっくり横方法にスライドさせながら提示します。一つの画面
にたくさんの縞模様があるのは捉えにくいため,初めは縞模様の幅が広い①,②で行い,徐々に
③→④と提示していきます。一つ一つの画像をフォルダに入れ,①と②,②と③という様につな
げ,流れるように提示することが可能です。
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○色覚について
提示する色として,緑,ピンク等の蛍光色が捉えやすいとされています。タブレット端末で提示
する画面は発光しているため,蛍光色の紙を提示するよりも子どもの反応を引き出しやすくなりま
す。多くの子どもは色を感じたとった時に何らかの快反応を示す傾向にあります。
注視
(色の変化)
○指導方法
(1) あらかじめ次のような単色の色の画像をパソコンまたは,端末のアプリで作ります。
(2)上記の画像をゆっくりスライドさせながら提示します。はじめは,提示する際には,色と色の間
に黒色の画面を挿入して提示します。またそれ以外にも次の2点に注意して提示します。
1,同系色で彩度の低い色を順番に提示しない。
2,同系色を用いる場合には,明度差をつけるよう心掛ける。
最初は反応が弱くても,色が変わった瞬間に気付くことが多いようです。反応の良い色を見つけ
て,その色を活用した指導に発展させていきます。
○視覚の発達について
白と黒のコントラストや色への注視が可能になると,注視できるものを拡げていきます。注意が向
注視
(動くもの,顔
等)
きやすい視覚刺激として,人の顔やコントラストのある図などがあります。また,動くものに対して注
意が向きやすいといわれています。それらのことに配慮して次のような指導を行います。
○指導方法
(1)あらかじめ以下のような図を作ります。作る際,基本の背景色は黒とし,コントラストをつけ,視
認しやすいようにします。渦巻き模様等は子どもの注意
を引きやすい色を使用し,回転するアニメーションにし
て注意を引きやすくします。
(2)注視していることが確認できたら,徐々に子どもから
距離を取ったり,動かしたりし,注意を向けることのでき
る距離を伸ばしたり,追視ができるようになるように促していくようにします。興味が途切れないよう
に常に子どもの見えやすい位置に提示するようにします。
アプリの名称
BabyCharmaer
内容
白黒の様々な図形や形の図(円,ハート,縞模様等)を提示することで注視を促すことができま
す。また,図形がゆっくり動かし,追視を促すことができます。動くスピードも 4 つの速さがあり,追
視のしやすいスピードに調整することができます。注意を促すことができるように触れると音を出す
ことも出来ます。
(2)【音への注意を促す指導・アプリの紹介】
アプリの名称
Sound FX
内容
煙のアラーム,泣き声,いびき,耳をつんざくような音等の様々の面白い効果音が入っており,
ボタンを押して音を出すことができます。そのため普段聞きなれないような音を使用して,音に対
する注意を向ける等の指導を行うことができます。
Funny Tones
上記の Sound FX と類似しており,面白い着信音や音の効果音が複数入っており,ボタンを押し
て音を鳴らします。一つ一つの音が短いため,音への注意できる時間が短い初期段階の指導に
活用することができます。
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Sound Sleeper
雨音,胎内温,掃除機等の自然や都会,日常の音を質の高い音で再生することができます。子
どもが聞いて,落ち着きリラックスできるような音が多くあります。子どもが興奮状態の時等に落ち
着くことを促したり,日常の音へ注意を向けたりする等の指導を行うことができます。
動物の鳴き声
犬,猫,牛,馬,オオカミ,ライオン,カエル,雄鶏,カモ,ゾウの写真が順番に画面をスライドさ
せると出てきて,鳴き声を出します。鳴き声以外の音声はなく,鳴き声だけが写真とともにすぐに
出てくるため,人の声が介入せず,音への注意を促す指導に使用できます。また,動物の概念形
成の指導にも活用できます。
(3)【自発の動きと環境変化の因果関係の気づきを育む指導・アプリの紹介】
アプリの名称
Arpie
内容
画面をタッチすることで,ボールが出てきます。そのボールは鍵盤の上を一定のリズムではね,
素敵な音を鳴らします。画面のどの部分に触れても,ボールを出すことができ,自発の動きと周囲
の環境の変化(音・画面の変化)の因果関係を育むことができます。一定のリズムで音が出るため,
発達初期の子どもでも注意が持続しやすくなっています。
Pocket Pond
鯉が泳ぐ池の画面にタッチすることで,水面に波を起こすことができます。またそれと同時に水
の音が鳴ります。画面全体が池であるため,どの部分に触れても音が出るようになり,自発の動き
と音との因果関係を育むために活用することができます。
ボールあそび
画面をタッチするとカラフルなボールが出てきて転がります。画面のどの部分を触れても,ボー
ルが効果音とともに出てきます。白の画面にはっきりとした色のボールが出てくるため,画面の変
化が分かりやすく示されます。また,タブレット端末を傾けると上下左右に重力の影響を受けて転
がります。
i♡Fireworks Lite
画面をタッチすると,その場に花火が打ち上げられます。同時に花火の打ちあがる音もなりま
す。画面を押している時間を長くすることで,大きな花火と大きな音が現れます。そのため,押す
時間を変化させながら,画面に注意を向けさせ指導を行っていきます。
たっちっち
画面をタッチすると,顔のイラストが音とアニメーションを伴い,提示されます。マルチタッチにも
対応し,たくさんの指で同時に押してもすべてに反応します。カラフルな色の人の顔が提示される
ため,注意を引きやすいイラストとなっています。
あそベビー
リモコンを押す,ぬいぐるみに食べ物を食べさせる等,生活の様々な場面の画面をタッチするこ
とで音を伴いながら画面が変化します。様々な場面があるため,子どもの興味関心のある好きな
場面を選択し,指導していきます。
Real Guitar
実際のギターの音が録音されており,画面の弦に触れるだけで,簡単に音が鳴ります。
音が出る場所が限られているため,初めに画面に触れると音が出ることに気づくことができるよう
に一緒に数度行ってから,自発の動きや触探索運動を促すように指導していきます。
太鼓魂
画面全体が太鼓となり,太鼓を軽くたたくと弱い音,強くたたくと強い音が鳴ります。画面のどの
部分に触れても音が出るようになっており,太鼓をたたくと同時に強弱に応じて花火も出ます。ま
た,本格的な和太鼓の音が複数入っています
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子供どうぶつ
3つゲームが入っています。発達の初期段階でも活用できるのは,「あなからどうぶつ」というゲ
ームで,画面を押した場所から穴が開いて動物が出てきます。動物が出てくると同時に,様々な
アニメーションや音が出ます
いないいないばあ!
画面をタッチすることと男の子や動物がイラストと音声を伴いながら「ばあ」と変化します。「いな
いいない」が「ばあ」に至る前触れの刺激となり,画面に注目させ,「ばあ」が楽しむことができるよう
に指導していきます。画面のどの部分に触れても反応します。
お絵かき
画面にタッチしたり,なぞったりすることで様々な絵を描くことができます。描くときにはいろいろ
な音が出るので,視覚と聴覚に対して同時に刺激が入ってきます。背景色は黒と白が選択でき,
対象の子供に合わせ,より視覚的に注意を促すことができる色を選択します。はっきりと画面の変
化が起こるため,視覚的な注意を促す指導にも活用できます。
○指導上の留意事項
「自発の動きと環境変化の因果関係の気づきを育む」ためには,画面に触れることで音・画面の変化が起こるという
ことを意識させ,自発的な動きを促すように指導していく必要があります。そのためにできるだけ刺激の少ない環境で
指導を行い,自分の体の動かすことで周囲の環境が変化するということの意識付けを行っていきます。また自発で身
体を動かすことのできる姿勢やポジショニングで指導を行うことも重要です。
(4)【概念形成を促す指導・アプリの紹介】
アプリの名称
Sound Tiuch Lite
内容
動物,乗り物,楽器,身近なもの等の絵をタッチすると実際の写真が出てきて,音が聞こえま
す。写真のどこかをタッチすると消えます。一つ一つの絵に対して5つのリアルな写真と音が用意
されています。絵をタッチしてそのリアルな写真を見ることで,子どもたちは遊びながら,実物と絵
を一致させていき,カテゴリー概念を育むことができます。
○指導上の留意事項
子どもがタッチした絵の名称を一緒に繰り返し言いながら,遊ぶようにします。また,子どもの興
味関心のあるものの名称から始めるようにします。
Soundly
上記の Sound Touch と同様に画面上のイラストにタッチして,音や画想を楽
しみながらカテゴリー概念形成を促すアプリです。Sound Touch とは異なる動
物や乗り物,楽器,身近なもの等が示されるため,一緒に併用すると効果的で
す。
※紹介しているアプリは順不同となっています。
【全体に関わる指導上の留意事項】
子どもと端末の距離と角度が最も大切な環境になります。
提示する画像は,写真(人物)→写真(身近な動物や乗り物等)→
イラストの順に注意が引きやすいとされていますそれを踏まえて
指導します。
静止画よりも動画の方がとらえやすいため,動画での反応がよく
なったら徐々に動画にしていくようにします。
指導する際,聴覚刺激に集中できるようにする場合は,イヤホン
やヘッドホンを使用し,ほかの聴覚刺激に影響されないようにし
ましょう。(シャント手術等を受け,バルブを入れている児童生徒
への指導は,静かな環境で集中できるようにします。
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3 オリジナル教材教具について
(1) 座卓
従来,車いす等を作り替える際に,不
要になった車いすは,付属品のテーブ
ルも含めて業者へ回収されていました。
そこで,PTA を通じて広く呼びかけて,
車いすや座位保持装置で使用されてい
たテーブルを収集し改造しました。
金具やベルト等の不要な部品を取り
去り,脚を差し込むための穴の開いた木
製ブロックを取り付け,そこへ脚を面ファ
スナーで固定します。脚が自在に交換で
きるため,高さや傾斜の調節が簡単にで
きます。
床上での姿勢保持装置や学習机,作
業台として広く活用されています。
~校内への呼びかけ~
テーブルと脚と脚台は,それぞ
れが面ファスナーで着脱可能とな
っており,適切なパーツを組み合
わせて,児童生徒の応じた座卓を
作ることが簡単にできます。
脚を交換,脚台を取り外す,ま
たは延長することで,ある程度の
角度調節が可能となります。
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(2) 三角マット
本校ではこれまで,伏臥位やパピーポジション(肘位)をとらせる場合には,クッションチェアの付属品の角度
調節用の三角マットを単体で転用することや,クッションや枕をバスタオルで巻いて簡易の三角マットとして活用
することで対処していました。使用中にずれて形状が変化したり,毎回同じようにセットすることが難しく,その結
果,子どもにとっても快適なものとは言い難い状況でした。
今回,補装具等業者を通じて,ウレタンスポンジの製造業者より,直接大型のスポンジブロックから,指定した
サイズに切り出して製作していただきました。
そのままではスポンジが劣化しやすく,衛生的な問題もあるので,本校職員の協力の下,カバーを手作りし,
番号をつけて各クラスに配付し活用しています。
費用は,幅 60 奥行 60 高さ 20(cm)のもので,2,000 円程度,高さ 25(cm)のものでも,2,500 円程度に抑えること
ができました。
25cm
高さ 25cm
60cm
60cm
高さ 20cm
60cm
20cm
60cm
カバーを外した状態
活用例
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え き か
(3) 腋窩支持型座位保持装置
え き か
あ ぐ ら
腋窩という言葉は耳慣れませんが,腋のくぼみのことです。これは正座,胡座,
とんび
または割り座(俗称: 鳶 座り,アヒル座り)で,胸と腋を預けて体を支えて座位姿
勢を保持するためのものです。胸部を預けることで,手軽に体幹前傾姿勢を
とることができ,目と手が共応しやすくなること,手の巧緻性が高まること,そ
れによって活動が高まり,主体性と意欲が育まれることなどが狙えます。
ポチロール写真
(有薗製作所 HP より)
「ポチロール」という名称で有薗製作所(株)より販売されていますが,平成 22 年度
本
校の連続講座で希望者を募り,類似のものを製作してみました。
材料は安価なコンクリートパネル合板(12mm 厚)をフレームとして,胸と腋を
預ける箇所は肌触りの良いシナベニヤ合板(9mm)を使用しました。
安価に大量に製作できるように,構造を簡素化し,材料も無駄の出ないよ
うに配慮した設計となっています。実費 2.500 円程度で製作可能です。
左右のフレームは同じ形
状 の 部 材 を対 称 に張 り
合わせ,中心に高さ調節
用に等間隔の穴を開け
ています。
2 台を向き合わせ
て,間に板をセット
することで,向かい
合って学習する環
境が簡単に提供で
きます。
活用例
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(4) 書見台
日々の指導の際には,様々なものを提示しながら学習をする場面が多くありますが,,肢体不自由者は,教材
などを提示された場合,自らの力で頭の角度を自由に調整することや,対象物と一定の距離を維持するために
同じ姿勢を保ち続けることが難しいものです。
児童生徒に見て欲しいものを適切に提示できる環境を整えていくことは,視覚支援を行う上でとても大切なこ
とで,支援のまず第一歩ではないでしょうか?
この書見台は教材を提示する台として,また学習活動では作業台としても活用することができます。特徴として
は角度の変更が,ピンの差し替えにより簡単で確実なこと,前方に倒れこむまでの角度をつけることもでき,側臥
位や仰臥位でも活用しやすくなっています。
これは,平成 23 年度に夏の研修会で希望者を募り,多数製作し校内で広く活用されています。
その裏面
大小並んだ書見台
角度調整機能
ピンを差し替える。
活用例・・・教材の提示
柔らかな木製のため,画
鋲やテープ類などで固定
することも可能です。
前方に倒れこむまでの角度をつけることで,
様々な場面で活用しやすくなる。
活用例・・・描く
目と手の共応への支援。
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活用例・・・絵本の鑑賞
本を支える必要が無くなり,指導
しやすくなる。
(5) 組み立て式シーツブランコ台
これまでシーツブランコは教員が二人一組になって,両端を持って児童生徒を乗せて揺らしていました。
しかし,これでは一人の児童生徒に 3 人程度の介助者が必要となり,また与える刺激においても,強く短時間
となってしまいがちで,ゆっくりとした優しい揺れを長時間一定のペースで続けることや,強弱の揺れを一定のリ
ズムで行うなど,児童生徒のニーズに応じた丁寧な活用は困難です。
そこで,折りたたみ式のフレームを製作し,既存のシーツブランコに足場パイプとロープ,金具類を取り付けて,
介助者一人でも無理なく感覚刺激を児童生徒に与えることができるようにしたものが,この遊具です。
現在はプレイルームに常設してあり,自立活動の時間に活用されています。ある生徒は,このブランコで 10 分
程度ゆっくり揺れ続けることで全身の緊張が緩み,呼吸までもが楽になりました。
折りたたみ式で可搬(約 20 キロ)なので,屋外に持ち出して,青空の下,外気浴もあわせて,楽しむことができ
るようになっています。
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(6) SRC ウォーカー足置き台
SRCウォーカーとは自発性や運動への意欲を高めるための移動補助具として,
開発されたもので,SRCとはSpontaneous(自発的) Reaction(反応,反作用)
Control(制御) の頭文字です。
特徴としてはサドルで体重を支え,体幹をベルトでしっかり固定し,大きなテ
ーブルで上肢を支持し,体幹前傾姿勢を保持できるように考えられており,下
肢を後方に蹴り出すことで,容易に移動できる重度障害者用歩行器です。
右の写真では,さらに長時間の安定した体幹前傾姿勢を維持するために,タ
オルケットを被せた胸部を支えるクッションを置き,活用している様子です。
本校でも多くの児童生徒が校内の移動用に活用していますが,その
一方で,教室内では体幹前傾姿勢の姿勢保持装置として使っているケ
ースが多く見られます。その際,僅かな力でも動き出すため,教室内で
は安全に配慮し,常にブレーキをかけています。しかし,予期せぬ緊張
で下肢が後方に伸展してしまい,大きく動いて周囲にぶつかったりする
危険な場面もあります。そこで,学習時に安全な姿勢保持装置として活
用するために,SRCウォーカー足元に下肢を置けるように,木製の足置き
台を製作してみました。
製作にあたっては,サドルの高さを変更する必要が無いように,足置
き面が地面より数センチの位置になるようにコの字型の構造にしました。
また取り外した際には,SRCウォーカーの前側にカバーのように装着できるように工夫することで,使用状況を問わず,
常に携えて移動することが可能となりました。
また,この足置き台を装着することで,下肢の動きが乏しい児童生徒であっても,移動式の姿勢保持装置として活
用することができます。
床面から数センチ
の位置に足置き面
がある。
前面に装着する
ための突起。
結束バンドで縦フレ
ームに固定する。
足置き台をウォー
カー前面に装着
し,自力移動用に
使う。
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(7) 電動太鼓叩きユニット
本校は多くの支援機器を保有し,様々な場面で活
用を図っています。その中には,電動ハサミや,ミキサ
ー,扇風機などの家電を動かすリレースイッチのようなも
電動バサミ
のなど,日常生活の中での身体の動きにくさを補う目的の機器類も多数あ
ります。
パワーリンク(リレースイッチ)
本校の児童生徒の多くは,音楽を聴くことや,楽器を鳴らして音を出した
りすることにとても興味を持っています。しかし,運動機能障害により,自在
に楽器を叩いたり,振ったり,あるいは演奏したりすることなどは,とても困
難な状況にあります。
そこで,スイッチ操作で打楽器を鳴らすことのできる機器を開発してみま
した。幸いに本校には右写真の“ドレミでビート”という,スイッチ操作で叩い
て音を出す電動木琴が導入されていました。これをヒントに,ソレノイドを利
用した電動太鼓叩きユニットを開発してみました。
ドレミでビート(スイッチ電動木琴)
ソレノイドとは?
電磁石を応用し鉄芯を磁力によっ
て動かす機構の略称。
中央部のシャフト(鉄芯)が電気を
通すことで上下に動きます。
スネアドラムに取り付けてみました。
単 3 電池 8 本,12V で駆動
ソレノイド上部の構造
和太鼓に取り付けてみました
スイッチはミニジャック仕様で,多
アクリルのアームが中心の鉄芯
電池駆動でコンパクトなので
様なスイッチが接続可能です。
で上下に動きます。
様々な楽器に応用可能です。
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(8) リレースイッチ(電化製品スイッチ操作用)
児童生徒にとって,わずかな動きのスイッチ操作で様々な玩具を動かすことや,光や音を出して楽しむこと,
大好きな音楽を聴くことなどは,とても楽しく興味関心の高い活動のひとつです。本校にもスイッチ操作で遊ぶこ
とのできる各種のおもちゃを取り揃えて,日々活用しています。また支援機器として,運動機能
障害の実態に応じた各種スイッチ類を取り揃えています。
そして,これらの支援機器の中でも,環境制御用の支援機器として,電化製品のスイッチ操
作を可能にするものがあります。玩具で遊ぶことの難しい重度・重複障害者にとって,身近な
電化製品から得られる様々な刺激(振動,風,音)などは興味・関心が高く,繰り返し
体験する中で体感的な遊びとして楽しむことができます。
電化製品用の代表的なものとしては「パワーリンク」(本校に8台保有),簡易なものとして「リモ
リモコンリレー
コンリレー」(本校は保有せず)がありますが,現在は入手しにくいこと,また高価なことがネックとなっています。
そこで,安価で入手しやすい部品を使い,電化製品用のリレースイッチを製作してみました。
使用する材料について
・コンセントタップ
・3.5 ㎜ミニジャック
・リレー本体
・AC アダプター
・配線少々
・台(木製)
いずれも価格は数
百円程度,ネット通
販等を利用するこ
とをお勧めします。
今回のモデルで材
料代は 1000 円程
度です。
簡単な回路図
AC アダプター
AC 100V
リレー
ミニジャック
温風や冷風の出る卓上ドライヤーや,振動マッ
サージ器等を接続してみました。
AC 100V
スイッチ操作の初期段階の学習では,個々の感
各種スイッチ
覚実態に応じて,提供する刺激を選択することが
大切です。一般的には視覚や聴覚刺激よりも体性
感覚(皮膚等)を楽しむ子どもが多く,風や振動の
オンオフが分かりやすく,因果関係の理解には有
電化製品
効なようです。
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(9) 噛んで,振り回して遊ぼう!教材シリーズ
本校の児童生徒の約 7 割は運動機能障害に併せて,何らかの視覚的な困難さを有しています。その制限のた
め,乳幼児期に自分の指を口に入れてみたり,何かを噛んでみたり,対象を視認し手を伸ばし,掴んで振り回し
たりするような発達初期段階の経験が充分ではありません。そのため,外界へ意識を向け,何かとかかわって遊
ぶことが難しくなっている児童生徒が少なくありません。遊び経験の未学習の状況にあるといってもよいでしょう。
そこで,児童生徒の運動機能障害の一つである,物を把持する力を補うため,丈夫な縄跳びの紐や,使用済
みの栄養用接続チューブを利用して,手の運動機能向上と,多くの児童生徒にとって敏感で,外界への情報を
取り込みやすい口腔周辺の感覚を活用することを狙って,噛んでも安全な教材を作成してみました。
製作にあたってのポイントは次の4点です。
物を把持する能力を支援するために,一定上の長さの紐状の構造にする。
しゃぶったり,噛んだり,咥えたりして興味関心を引くような素材を選ぶ。
噛んで遊ぶことを前提とするものは割れたり,口腔内を怪我しない素材を選ぶ。
なめる,噛むといった遊びから,握る,振り回すというように,遊びの段階的な発達をふまえたもの。
水洗いでき衛生的に管理ができるもの。
アヒルの玩具
鍵カバー
高弾性ゴムボール
洗濯ボール
プラスチック歯車
ゴルフ練習玉
金属製のナット,ワッシャー類
鈴
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