計測標準と計量管理 計測標準と計量管理 1 号 平成27年5月18日 印刷 平成27年5月20日 発行 計測標準 と ●特集 日本NCSLI技術フォーラム MEASUREMENT STANDARDS and METROLOGY MANAGEMENT 特集 ISSN 1880-1420 平成27年5月20日 計量管理 日本 NCSLI 技術フォーラム C O N T E N T S 流短時間大電流測定の国際比較試験と不確かさ評価 交 高周波減衰量巡回比較試験結果報告 真空計の校正と不確かさ ひずみ校正器(BN100A)及び指示装置(DMP40)のJCSS校正 三越伊勢丹の計量管理〜世界随一の小売サービス業を目指して〜 はかりの測定の不確かさの求め方考察 産業技術総合研究所計量標準総合センターの認証標準物質 第25回国際度量衡総会(CGPM)報告 圧力計専門商社のJCSS認定取得 NMIJ不確かさクラブの最近の取り組みと今後 IAJapanコーナー 第 雑誌 03317-05 巻 第1号 二〇一五年 1 65 〔定価3,240円(本体3,000円+税)〕 2015 Vol.65 No.1 一般社団法人 日本計量振興協会 Japan Association For Metrology Promotion http://www.nikkeishin.or.jp 2015 Vol. 65 No. 1 計測標準 と MEASUREMENT STANDARDS and METROLOGY MANAGEMENT 特集 計量管理 日本 NCSLI 技術フォーラム ❶ 交流短時間大電流測定の国際比較試験と不確かさ評価 株式会社 日立製作所 木田 順三 … ❷ 高周波減衰量巡回比較試験結果報告 株式会社 日立製作所 渡辺 英夫 … ❸ 真空計の校正と不確かさ 一般財団法人 日本品質保証機構 長谷川清孝 … 17 ❹ ひずみ校正器(BN 100A)及び指示装置(DMP 40)の JCSS 校正 日本電気計器検定所 堤 ■ 三越伊勢丹の計量管理 ∼ 世界随一の小売サービス業を目指して ∼ 株式会社 三越伊勢丹ホールディングス 奥村 和代 … 26 阿知波正之、粂 正光 … 34 ■ はかりの測定の不確かさの求め方考察 愛知県計量士会 晋太郎 … 21 ■ 産業技術総合研究所計量標準総合センターの認証標準物質 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 朝海 敏昭 … 39 ■ 第 25 回国際度量衡総会(CGPM)報告 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 加藤 英幸 … 42 ■ 圧力計専門商社の JCSS 認定取得 株式会社 センサスヤマモト 宮前 拓地 … 46 ■ NMIJ 不確かさクラブの最近の取り組みと今後 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 田中 秀幸 … 49 ■ IAJapan コーナー 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 … 53 ■ 編集後記 事 務 局 … 58 特集 日本 NCSLI 技術フォーラム 交流短時間大電流測定の国際比較試験と不確かさ評価 株式会社 日立製作所 電力システム社 木 高電圧大電力試験所 所長 1 はじめに 電力流通設備は、発電・送電・変電・配電の各種設 田 順 三 過電流に耐える必要が有り、その中でも遮断器は、電 力系統網の異常個所を切り離すために、短絡過電流を 遮断する機能を要求されている。この過電流の大きさ 備・機器を送電線・配電線網で相互に接続して構成さ は数 kA∼数十 kA、継続時間は長くて数秒程度になる。 れ、需要家に安定した電力を 24 時間 365 日、絶え間な この様な電力系統において短絡・地絡故障が発生して く供給している重要かつ不可欠な社会インフラシステ 流れる過電流などを ムである。そのため、高い信頼性が要求されており、 機器の製品規格では、大電力試験、短絡試験項目にお 様々な信頼性確保のための諸施策がなされている。し いて、電流値が数 kA 以上、周波数が商用周波∼数 kHz、 かしながら、高圧配電線路、送電線路、特別高圧配電 通電時間が 線路における 10 電力会社合計での 2012 年度の電気事 されており、この測定については IEC 62475 3) にて規 故件数は 11,999 件、お客様一件あたりの停電回数は 定されている。 0.22 回、停電時間は 79 分との報告があり(2010 年度 は各々 0.13 回、14 分であった)1)、落雷、風雨、飛来物 交流短時間大電流 と言う。各 秒程度までの電流を通電することが要求 3 交流短時間大電流測定の必要性 等の様々な要因で設備事故が発生するリスクがある。 交流短時間大電流を通電する機器、製品は、開閉器 電力流通設備に事故が発生すると、これらの設備・機 類(遮断器、断路器、接地開閉器、負荷開閉器、他)、 器に数十 kA の大きな故障電流が流れる場合がある。 開閉装置類(ガス絶縁開閉装置、メタルクラッドスイ この様な場合でも各設備・機器が致命的な損傷を受け ッチギア等各種配電盤、他)、母線、送電線、ケーブル、 ずに電力供給が継続できる様、各機器の耐久性や、設 碍子、ヒューズ、避雷器、抵抗体、変圧器、変成器(VT、 備の保護を担う遮断器等の電流遮断性能などの評価が CT)、リアクトル等々、多岐に亘る。また、試験項目も、 要求される。 電流遮断、開閉性能の検証、短絡通電時の熱的、機械 本報告では、これらの評価試験で重要な交流短時 的耐久性の検証、短絡アーク発生時の放圧、防爆性能 間 大 電 流 測 定 技 術 に つ い て、日 本 短 絡 試 験 委 員 会 の検証など、様々な種類がある。これらの製品につい 2) JSTC での取り組みを紹介する。 2 交流短時間大電流とは て形式試験、検証試験などを実施する際には、試験電 流を適切に測定する必要がある。 短絡試験における試験電流の例を図 に示す。試験 電流流通設備での事故発生リスクにも関わらず、日 時間は長くても数秒以下の短時間であり、大電流通電 常生活での実感として停電等の電力供給障害が少ない のために試験品に与えるストレスも大きく、繰り返し のは、電力系統における様々な保護制御システムや冗 通電が出来ない場合が多い。そのため、一回の試験で 長性、バックアップ機能に拠るものである。一方で、 大電流の瞬時値を精度良く測定する必要がある。測定 系統で事故が発生したときには、送電電圧の上昇や低 項目は、電流の実効値、ピーク値、通電時間などが、 下、回路短絡などによる過電流通電など、異常現象が 試験条件により規定されている。 発生している。各種送変配電機器はこの様な過電圧・ 2 計測標準と計量管理 特集 日本 NCSLI 技術フォーラム 高周波減衰量巡回比較試験結果報告 (株)日立製作所 通信ネットワーク事業部 品質保証本部 主任 JEITA 計測トレーサビリティ専門委員会 国内巡回比較試験 WG 主査 1 渡 辺 英 夫 ) 実施した JCSS 外部技能試験プログラム はじめに 2013 年から 2014 年にかけて実施した高周波減衰量 巡回比較試験の結果について報告する。 尚、当委員会の巡回比較試験の歴史は古く、委員会 識別番号 25 JEITA-IS 819 名 高周波減衰量巡回比較試験 称 区分の名称 電気(高周波) OB の故前田篤哉氏によると JEITA 以前は EIAJ のも 校正手法の 高周波測定器等 区分 (呼称) とで実施しており、更にさかのぼれば 1970 年の電気 種 学会での高周波減衰量巡回比較試験が最初である。そ 実施内容 類 減衰器 高周波減衰器を仲介器とした持ち回り試験 の後、JCSS 登録制度の発足とともに ISO/IEC 17025 の技能試験として NITE より認められ ISO/IEC 17043 ) 巡回用仲介器 に準拠、会員外にも参加を募った試験として現在に至 ① プログラマブル可変減衰器(減衰器本体、数量: っている。 2 概 台) 型名 要 8496H 周波数レンジ DC∼18 GHz 減衰量ステップ 0∼110 dB、10 dB ステップ 電力定格 1 W(平均)、100 W(ピーク) 校正機関、計 16 社に参加頂き、NMIJ のご協力で校正 コネクタ N 形(メス) 点は前回よりも範囲を拡大させた。校正点のいくつか 外形寸法・質量 43 × 73 × 130 mm、0.9 kg 試験は、企業・校正機関で使用されるプログラマブ ル可変減衰器を仲介器として実施した。今回は企業・ は E 数不満足となり技術アドバイザーからコメント 仕様 特徴 低 SWR、低挿入損失、高確度な減衰量設定 を頂いた。その他は概ね満足であった。試験結果は、 ② スイッチドライバー(数量: 後述の通りである。 3 型名 試験概要 台) 11713B 用途 プログラマブル可変減衰器 8496H の制御用ドライバ 試験の概要は、次の通りである。 ) 技能試験の形態 ) 巡回比較試験の実施機関 名 称:(一社)電子情報技術産業協会 計測トレ 参照試験所を計量標準総合センター(NMIJ)と ーサビリティ専門委員会巡回比較試験 し、ラウンドロビン方式で実施した。 WG ① 参照試験所により付与される値について 所在地:東京都千代田区大手町 1 - 1 - 3 大手センタービル 階 付与される値は、参照値とし参照試験所にて確 定される値を使用した。なお、参照試験所での校 正は、巡回期間中の仲介器保証を目的として巡回 前後に行い、本試験の付与値は巡回後の値を採用 Vol. 65, No. 1, 2015 9 日本 NCSLI 技術フォーラム 特集 真 空 計 の 校 正 と 不 確 か さ 一般財団法人 日本品質保証機構 中部試験センター 師勝試験所 主幹 1 長 谷 川 清 孝 幅が約 3 m、高さが約 1.8 m である。ほぼ同じ機器の はじめに 構成で左右 系列の装置を準備し、校正作業を効率的 真空計は、大気圧より低い絶対圧力(完全真空を基 に行えるようにした。省スペース化のため、電源や制 準とした圧力)を測定する計測器であり、半導体、化 御系を中心の一つのラックにまとめたが、左右独立し 学、製薬、薄膜などの真空関連産業における圧力計測 た機器の制御を行うことができる。 で利用されている。一般財団法人 日本品質保証機構 校正設備の機器の構成を図 中部試験センター 師勝試験所は、近年の真空計に対 ンプ する校正事業者登録制度に基づく認定校正(以下、 であり、数日間、排気し続けたときの校正容器内の到 JCSS 校正 年 という)の需要増に対応するため、2013 月より真空計の校正事業(校正範囲 0.001 Pa から 101 kPa)を開始し、2015 年 とスクロールポンプ に示す。ターボ分子ポ は、校正容器内の排気用 達圧力は 1 × 10 Pa 程度である。校正容器内の圧力 を調整するためのガス導入部は、 台のマスフローコ 月より同校正範囲で ントローラとキャピラリー及び圧力コントローラで構 JCSS 校正を開始した。ここでは、当所の校正設備の概 成される。キャピラリーとは、針のような毛細管で、 要、差圧計を使用した校正範囲の拡大方法、及び真空 配管経路内に設置し、上流側の圧力を高精度の圧力コ 計の校正手順と不確かさの評価方法の概要を紹介する。 ントローラで制御することにより、校正容器内に流れ なお、校正時に絶対圧力のゼロは実現できないが、本 るガスの流量を調整する。校正容器は内径 200 mm、 文中では真空計の測定限界に対して十分に低い圧力の 高さ 400 mm の円筒形であり、標準器である参照真空 ことを 計と校正対象となる被校正真空計を取り付け、校正容 2 ゼロ点 と記述する。 器内の圧力を比較測定する。各機器の仕様を表 校正設備 に示 す。 真空計の校正設備を図 図 に示す。全体の大きさは、 :真空計校正装置 図 :真空計校正装置の機器の構成 Vol. 65, No. 1, 2015 17 特集 日本 NCSLI 技術フォーラム ひずみ校正器(BN 100A)及び 指示装置(DMP 40)の JCSS 校正 日本電気計器検定所 標準部 標準研究グループ 専任係長 1 堤 晋 太 郎 を超えないことが望ましい と規定されている 4), 5)。し はじめに たがって、指示装置の校正でこの条件を満足させるた 国内の力標準は、質量、長さ及び時間標準を基に産 めには、高精度な指示装置用標準器が必要となる。 業技術総合研究所 計量標準総合センターの力標準機 これまで、指示装置または指示装置用標準器の交流 によって実現されている。力標準機は、力の校正範囲 分圧比の校正は、国内では対応可能な校正機関が無か によって実荷重式、油圧式及びこうかん式があり、こ ったため、海外の校正機関で実施されていた。しかし れらは海外の計量標準機関との国際比較によって国家 ながら、輸送による納期やコスト等の問題があること 計量標準の同等性が確認されている。国内では、2015 から、国内の校正機関による JCSS 校正の対応が力学 年 量の分野から強く要望されていた。 月現在、15 事業所が校正事業者登録制度(JCSS 制度)によって力計の校正事業者として登録されてお そこで、日本電気計器検定所(以下、JEMIC)では、 り、各校正事業者は、校正範囲に応じた力基準機を保 国内における交流分圧比の JCSS 校正を実現するため、 有しているが、これらの力基準機は大型であることか HBM 社製の指示装置(以下、DMP 40)及び指示装置 ら、力基準機を移動させて事業者間の技術能力を比較 用標準器(以下、BN 100)に関する校正方法の検討に することは難しい。そこで、力標準では高精度な力計 取り組んできた。その結果、2014 年 11 月より交流分 を仲介器とした力基準機の事業者間比較が実施されて 圧比の JCSS 校正への対応が可能となった。 1) 本 稿 で は、JEMIC に お い て 構 築 し た 校 正 シ ス いる 。 力計は、ロードセルとロードセル用指示装置(以下、 指示装置)を組合せたもので構成されている。具体的 には、ロードセルに電圧を印加した状態で引張力及び 圧縮力を与えるとその受感部(起歪部)が変形し、弾 性変位量に応じた電圧が指示装置へ出力される。つま り、指示装置は、ロードセルへ入力した電圧とロード セルから出力された電圧の比(以下、分圧比)を表示 する。一般的に指示装置に表示される分圧比は、数 テ ム を 概 説 す る と と も に、ド イ ツ 物 理 工 学 研 究 所 (Physikalisch Technische Bundesanstalt, PTB)との 比較結果及び JCSS 校正の校正範囲等について述べる。 2 校正システムの概要 2.1 原理 校正システムの原理を図 に示す。なお、校正原理 2) は、Ramm の報告 に基づいている。 mV/V 以下と非常に小さいことから、高精度な力計に BN 100 の校正では、交流分圧比の標準(STD)であ は熱起電力及びノイズ等の影響を最低限に抑える交流 る誘導分圧器(以下、IVD)と被測定器(DUT)であ 分圧比による測定 2), 3) が採用されている。ロードセル と指示装置は、多様な組み合わせが可能であるが、JIS B 7602 法 力計の校正方法及び力変換器の性能試験方 の付属書A及び JIS B 7728 使用する力計の校正方法 の る BN 100 に電圧を印加し、それぞれの出力電圧を比 較する。 ⋅ において、BN 100 の入力電圧を V 及び出力電 図 ⋅ ⋅ 一軸試験機の検証に 圧を V とし、SW を A 側に倒した時の電圧を V、SW 原則 において 代 を D 側に倒した時の電圧を V とすると BN 100 の分 替指示装置の不確かさは、力計全体の不確かさの 1/3 ⋅ ⋅ ⋅ 圧比(V /V )は (1) 式によって表される。 Vol. 65, No. 1, 2015 21 計量管理事例 三 越 伊 勢 丹 の 計 量 管 理 ∼ 世界随一の小売サービス業を目指して ∼ (株)三越伊勢丹ホールディングス 営業本部 営業推進部 奥 営業コンプライアンス担当 品質管理 一般計量士 1 1.1 はじめに 村 和 代 会社概要 2008 年 月 日に(株)三越と(株)伊勢丹は共同の 持株会社である(株)三越伊勢丹ホールディングスを設 立した。その傘下で首都圏事業会社として 2011 年 月に、(株)三越伊勢丹が発足した。 (株)三越の歴史は古く、江戸時代の 1673 年(延宝元 年)江戸本町 丁目に、呉服店の 越後屋 (ゑちごや) として創業。現在では当たり前になっている正札販売 を世界で初めて実現し、当時富裕層だけのものだった 呉服を、広く一般市民のものにした。 1904 年に 株式会社三越呉服店 を設立した際に行 った デパートメントストア宣言 で、日本初の百貨 店となり、1928 年には商号 株式会社三越 と改めた。 図 (株)伊勢丹は 1886 年(明治 19 年)、初代・小菅丹治 :三越伊勢丹グループ企業理念 が東京府神田区旅籠町に 三越伊勢丹グループ企業理念としてのグループスロ ーガンは、 向き合って、その先へ プ企業理念 であり、 グルー 全体を端的に表現している。向き合うこ とで、世界随一の小売サービス業であり続けようとす るグループとしての宣言となっている(図 参照)。 また、グループの姿勢としては、 お客さま、仲間た した。1930 年(昭和 し、1933 年(昭和 伊勢屋丹治呉服店 を創業 年)に 株式会社伊勢丹 を設立 年)には新宿本店がオープンした。 更に 1968 年(昭和 43 年) 男の新館(現メンズ館)がオ ープンし、紳士服の充実を図った。 歴史を次ページの図 に示す。 三越伊勢丹グループは、百貨店を中核とした小売サ ち、株主の皆さま、パートナーの皆さま、地域・社会・ ービス業であり、(株)三越伊勢丹ホールディングスは、 地球と、真摯に、しなやかに、力強く、向き合い、将 グループの持ち株会社であると共に本社機能を有して 来にわたり、かけがえのない信頼関係を築いていきま いる。国内百貨店としては、グループの主たる事業で す。 としている。私たちを取り巻く社会・環境が大き ある百貨店事業は、首都圏 11 店舗(図 く変化する今、お客さまの満足の最大化を実現するに する(株)三越伊勢丹が中核を担い、グループ百貨店子 は、さまざまな関係者の皆さまとのかけがいのない信 会社 10 社((株)札幌丸井三越、(株)函館丸井今井、(株) 頼関係を構築することが、重要であると考えている。 仙台三越、(株)新潟三越伊勢丹、(株)静岡伊勢丹、(株) 参照)を運営 千人全員が目指す方向につい 名古屋三越、(株)広島三越、(株)高松三越、(株)松山 ての目標とする企業(グループ)像を表現している。 三越、(株)岩田屋三越、持分法適用会社((株)ジェイ グループ従業員 万 アール西日本伊勢丹)の合計 12 社 28 店舗で構成され ている(図 26 計測標準と計量管理 参照)。 測定の不確かさ事例 はかりの測定の不確かさの求め方考察 愛知県計量士会 阿 知 波 正 之、粂 1 2.2 はじめに 難しいと言われる不確かさの求め方を容易にするため のいくつかの方法が示されている。これらの方法をは u (m) は (2) 式により求められる。 合成標準不確かさ “ 確かさはタイプBの情報で決まることになり疑問があ 一方、はかりの使用状態を見ると、設置状態(設置 台、水平、振動)、予熱時間、測定物の載せ方など、標 表 条件による測定の結果の変化ははかりの構造上、使用 による劣化などにより生じることがある。 今回は精度等級の異なる 種類のはかりについて現 実に見受けられる使用条件に設定したときの測定の不 確かさを 方法で求めた結果について考察する。 はかりの測定の不確かさのモデル式 測定のモデル式 (1) 質量を測定する場合のはかりの加えた荷重 L に対 するはかりの指示値 I と計量値 W との間の数学的関 係として (1) 式を想定した。ただし、Δ 及びΔ は計 量値 W における偏置誤差及び水平の傾き誤差を示す。 I = W ∙ (1 + α + ΔT ∙ TK) + Δ + Δ + Δ + Δ (1) (2) 確かさは次項に示す実験により求める。 さの繰り返し性、偏置誤差、はかりの設置の不確かさ を合成したものである。 表 記号 :不確かさの要因と不確かさの区分 不確かさの要因 u (m) u (t) I:指示値、W:計量値、α:器差、 ΔT ∙ TK:温度効果、Δ:偏置誤差、 不確かさの区分 校正の不確かさ タイプB 温度変化の効果 タイプB u (m) 偏置誤差 タイプA u (m) はかりの設置(水平) タイプA u (m) 丸め誤差 タイプB u (m) 繰り返し性 タイプA 計量作業の 不確かさ u 3 不確かさを求める実験 3.1 対象計量器 測定の目的により異なる精度等級のはかりの使用を 想定し、表 に示す 種類のはかりについて測定の不 確かさを求める実験を行った。 表 34 に示す不確かさの要因について、タイプAの不 準状態から外れた状態が多々見られる。これらの使用 2.1 また、計量作業の不確かさ u はタイプAの不確か る。 2 + u (m) + u (m) + u (m) が標準状態では ” (ゼロ)となることが多々あり、結果的に測定の不 u (m) = u (m) + u (t) + u (m) 測定の場合に比べ、測定技能による差異を生じにくく、 繰り返し性 に示す不確かさの要因が 考えられ、その要因の不確かさから合成標準不確かさ かりによる質量測定の不確かさに適用するとき、長さ タイプAの主な要因の 不確かさの要因 測定のモデル式から、表 測定の不確かさを測定の現場に広く展開するとき、 正 光 はかりの種類 (精度等級) :実験を行ったはかり 誘電式はかり 電気抵抗線式はかり 家庭用はかり 精度等級Ⅱ級 精度等級M級 調理用はかり Δ:はかり設置(水平)誤差、 ひょう量 4200 g 600 g 1000 g Δ:丸め誤差、Δ:繰り返し性 目 0.01 g 0.2 g 1g 計測標準と計量管理 量 標準物質紹介 産業技術総合研究所計量標準総合センターの認証標準物質 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 研究戦略部 計量標準調査室 総括主幹 1 はじめに 朝 海 敏 昭 CRM とは別に、校正サービス(依頼試験)も行ってい ます。現在、32 種類の校正サービスを実施しており、 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総 詳細は、 (https://www.nmij.jp/service/P/)をご覧頂け 合センター(National Metrology Institute of Japan、以 ればと思います。純度の校正サービスでは、主として 下、NMIJ ) で は、ISO Guide 34:2009 及 び ISO/IEC 核磁気共鳴法、凝固点降下法を用いた高純度有機標準 17025:2005 に適合するマネジメントシステムに基づ 物質の純度測定を行っています。 き、国家計量標準機関として国際的に認められる認証 標準物質(Certified Reference Material、CRM)の開 発・供給を行っています。このマネジメントシステム 2 NMIJ の新規認証標準物質の紹介 表 に、2015 年度から NMIJ CRM 又は NMIJ RM は、独立行政法人製品評価技術基盤機構の認定センタ として頒布が開始された新規標準物質を示します。陽 ー ( IAJapan ) の 製 品 評 価 技 術 基 盤 機 構 認 定 制 度 電子寿命による空孔欠陥測定用ステンレス鋼 及び ポ (ASNITE)による認定を受けています。 NMIJ で開発された CRM(NMIJ CRM)は、材料系 (EPMA 用、高分子材料等)、無機・有機、環境組成や グリーン調達対応、高圧ガス、熱物性等、多岐にわた リスチレン(光散乱用) (Reference Material、RM)であり、CRM ではありま せん。表 はおおよその分類に分けて掲載しています。 今回はこの中から、無機高純度標準物質である炭酸カ り、これまでに 200 以上の CRM が開発されてきました。 ルシウム(図 これら CRM の情報は、NMIJ の標準物質のホームペー については NMIJ 標準物質 液(図 )及び無機標準液である電気伝導率標準 )について紹介します。 ジ(https://www.nmij.jp/service/C/)から閲覧するこ とが可能です。このページには、NMIJ 認証標準物質 カタログ 2014-2015、NMIJ 標準物質・有効期限・供給 2.1 図 無機高純度標準物質・炭酸カルシウム に 示 す 無 機 高 純 度 CRM で あ る NMIJ CRM 状況一覧、取り扱い業者・標準物質分類一覧、CRM の 3013-a 炭酸カルシウムは、キレート滴定においてエチ 詳細が分かる認証書の見本等が掲載されています。ま レンジアミン四酢酸(EDTA)の標定及び定量分析に た、現在、国内外の標準物質を検索することができる おけるカルシウムの基準に用いることができます。カ つ の デ ー タ ベ ー ス、標 準 物 質 総 合 情 報 シ ス テ ム ルシウムの質量分率及びカルシウムの質量分率を元に ( Reference Materials Total Information Services of 算出した炭酸カルシウムとして表した値が認証値とし Japan、RMinfo)及び国際標準物質データベース(Code て付与されています。カルシウムの質量分率は 39.973 d' Indexation des MAtériaux de Référence、COMAR) % で、その拡張不確かさは 0.013 % です。カルシウム が、NMIJ のホームページから閲覧できるようになっ の質量分率を元に算出した炭酸カルシウムとして表し ています(https://www.nmij.jp/rminfo/)。NMIJ CRM た値はそれぞれ、99.824 %、0.030 % です。本標準物質 だけではなく、世界中の標準物質についての情報が の認証値は、EDTA とのキレート生成反応を用いた滴 NMIJ のホームページから得られるようになりました 定法によって求めたもので、カルシウムの原子量、炭 ので、是非ご利用頂ければと思います。また、NMIJ 酸カルシウムの式量、炭酸カルシウムの密度を計算に Vol. 65, No. 1, 2015 39 海外計量事情 第 25 回国際度量衡総会(CGPM)報告 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 計量研修センター長 1 加 藤 英 幸 D.2016 年から 2019 年までの BIPM の歳費につ はじめに いて E.CIPM 相互承認協定の重要性について 2014 年(平成 26 年)の秋に第 25 回国際度量衡総会 に参加する機会を得た。その報告としては少し遅めで 初日に議題を決定し、その後は 日目の午前中まで、 はあるが、2018 年に向けて基本単位の再定義と国際単 各議事に関連した報告、講演などを順不同で行いなが 位系(SI)改定の準備を進めるという重要な決議がな ら議論が進められた。 されており、長いスパンで深く計量標準に関わる本誌 議や投票による委員の選出がなされた。なお、議題 読者諸氏に対してその概要を紹介するには決して遅く A−Eに対して一つずつの決議がなされており、決議 はないであろう。なお既に関連する複数の報告 1 - 7) が あるので、適宜参照されたい。またメートル条約全般 − 日目の午後には採決による決 がこれに対応する。以下に順を追って各決議の 要点を記す。 に関する組織と活動については計量標準総合センター が発行する冊子 8)をご覧頂きたい。 2 第 25 回国際度量衡総会 国際度量衡総会(Conference Generale des Poids et Mesures,略称 CGPM)はメートル条約下の最高議決 機関である。第 25 回目の開催となる今回は、11 月 18 日∼20 日、パリ郊外のベルサイユで開催され、46 の加 盟国の代表、20 の準加盟国・経済圏の代表など総勢 185 名が一堂に会した。日本からは、産総研の三木理 事を団長に、経済産業省からは田代計量行政室長補佐、 写真 :第 25 回国際度量衡総会の会議風景 産総研から臼田計量標準管理センター長と筆者(当時 は国際計量室長) 、在仏日本大使館から池田一等書記 官の計 名が参加した。 CGPM の伝統に則り、フランス科学アカデミー会長 の Prof. P. Taquet が議長として挨拶を行い開会した。 先ず 日間に亘る会議の冒頭で今総会での つの議題 を下記の通り決定した。 A.国際単位系(SI)の今後の改定について B.国際度量衡委員会(CIPM)の選挙について C.国際度量衡局(BIPM)の年金及びその基金 について 42 計測標準と計量管理 写真 :総会議長と日本代表団 (左から田代計量行政室長補佐、Prof. P. Taquet 議長、三木 団長、臼田 CIPM 委員、筆者) 認定事業者紹介 圧力計専門商社の JCSS 認定取得 株式会社 センサスヤマモト 校正室 宮 1 前 拓 はじめに 株式会社センサスヤマモトは、圧力計在庫センター 機能を持つ長野計器の代理店である。 その為、在庫品に成績書を添えてお客様に納入する 依頼も多くあり、昭和 61 年に愛知県に計量器修理事 業登録した。それ以後、圧力標準器もレンジにあわせ て整備していき現在にいたる。 今回、平成 26 年 11 月 13 日に、JCSS 計量法校正事業 者 登 録 制 度 の 圧 力 に 校 正 事 業 者 と し て 登 録さ れ、 MRA とのサブライセンス契約を行い、国際 MRA 対 応認定事業者として認定された。JCSS 登録は今まで の校正技術の蓄積と考え、現場指示計の JCSS 校正普 及に努めていきたい。 図 図 46 計測標準と計量管理 :認定証 写真 :修理事業者登録証 :計量器登録店看板 地 産総研コーナー NMIJ 不確かさクラブの最近の取り組みと今後 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター 物質計測標準研究部門 計量標準基盤研究グループ 田 主任研究員(NMIJ 不確かさクラブ クラブ長) 1 中 秀 幸 不確かさについての講習会、午後に不確かさに関する はじめに 講演会と不確かさクラブの活動報告を行っている。 計量標準総合センター(NMIJ)では、これまで計測 この過去 年の総会では、午前中の不確かさに関す 標準の研究開発を進め、産業界に計量の基礎となる物 る講演会にて 初心者用不確かさセミナー と題して、 理及び化学の標準となる量の供給を行っている。この 全く不確かさについて知識がない方向けの講習を行い、 ような研究開発において蓄積された技術・ノウハウ等 不確かさ評価の普及に努めた。この午前中の講習会は を一般の方々と共有するために、NMIJ 計測クラブを できる限りクラブ員からの要望に応え、講習会の内容 立ち上げこれまで運営してきた。現在のところ 30 の を決定している。2014 年度の東京開催にて初心者用不 NMIJ 計測クラブが立ち上がり、各分野への情報共有、 確かさセミナーを開催したのも、2013 年度の大阪開催 コミュニケーションを図っているところである。 不確かさクラブはその NMIJ 計測クラブの一つであ にて初心者用不確かさセミナーを開催したことを知っ たクラブ員からの 東京でも初心者用不確かさセミナ るが、他の計測クラブと大きく異なるのは分野横断的 ーを開催してほしい との要望に応えたものである。 な性質を有していることである。トレーサビリティ体 このような講習を開催してほしい、との要望があれば 系を構築するためには量・分野を問わず不確かさ評価 是非不確かさクラブ事務局までお伝え願いたい。 は必須のものとなっており、不確かさについて興味を 総会午後に開催している講演会では、不確かさに関 持つ方々も年々増えつつある。現在不確かさクラブの わるトピックについて各分野の専門家にお願いし、お クラブ員は実数で 800 名を超え、NMIJ 計測クラブ内 話しいただいている。2013 年度の総会では、不確かさ でも最大のクラブとなっており、活発に活動している。 の利用を主題に、現在 IEC にて進められている家電安 クラブ員の所属は、これまでは校正機関に所属する 全試験における不確かさ評価について(一財)電気安全 方々が非常に多かったが、最近は計測器ユーザの方々 環境研究所の佐藤政博様から講演いただいた。またも が多くなっており、特にここ 年では化学系の試験機 う一件、最近非常に注目され始めている試験における 関、企業の方が増えつつあり、不確かさに関する興味 合否判定のリスク管理について(株)村田製作所の鶴輝 を持つ層が年々広がってきている印象がある。 久様に講演いただいた。2014 年度の総会では認定機関 本稿では現在不確かさクラブが行っている活動や今 後の予定について紹介する。 2 価技術基盤機構の大高広明様、(公財)日本適合性認定 協会において、試験における不確かさに関するガイド 不確かさクラブ総会 不確かさクラブは毎年 の不確かさに関する文書についての講演を(独)製品評 ラインを作成している機械・物理分科会にて主査をつ 回の総会を開催している。 とめる本稿著者が講演を行った。 2013 年度は大阪で総会を開催し約 100 名のクラブ員、 不確かさ評価は、GUM(Guide to the expression of 2014 年度は東京で開催し約 200 名のクラブ員が参加し Uncertainty in Measurement、日本語名:測定におけ た。総会は午前・午後と二つのセッションに分かれて る不確かさの表現のガイド)に基づき行うことになっ おり、通常午前中に当クラブ事務局が講師を担当する ているが、この GUM と計量関係の用語集である VIM Vol. 65, No. 1, 2015 49 IAJapan コーナー 独立行政法人 製品評価技術基盤機構 認定センター http: www.nite.go.jp iajapan 本コーナーは、MLAP、JCSS、JNLA、ASNITE を中心に IAJapan の各認定プログラムの認定実績等について お知らせしております。 ◆ 平成 27 年度 JLAC 技術情報セミナー 開催のご案内 IAJapan は、試験所認定機関である公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)と株式会社電磁環境試験所認定セ ンター(VLAC)とともに試験所認定機関連絡会(JLAC)として連携した活動を展開しています。 JLAC では毎年、技術情報セミナーを開催しており、今年は 認定が支える医療・福祉の現在(いま)と未来 を テーマとした JLAC 技術情報セミナー を 2015 年 7 月 29 日(水)13:00∼17:00 きゅりあん(品川)小ホールにて 開催いたします。今回は厚生労働省の渡辺 由美子氏と英国認定機関(UKAS)の Lal Ilan 氏による と他 つの基調講演 講演を予定しております。 詳細が確定次第、IAJapan 及び JAC(日本認定機関協議会)ホームページにてお知らせいたします。多数のご参 加を心よりお待ちしております。 IAJapan ホームページ:http: www.nite.go.jp iajapan JAC ホームページ:http: www.accreditation.jp Ⅰ 特定計量証明事業者認定制度(MLAP) 平成 27 年 認定番号 月から平成 27 年 認定又は更新日 月末までの間に新たに認定又は認定更新された事業所は、次のとおりです。 事 業 所 の 名 称 認 定 区 分 N-0038-02 2015年 月12日 中外テクノス株式会社 環境事業本部 本部環境技術センター 大気中のダイオキシン類 水又は土壌中のダイオキシン類 N-0052-01 2015年 月16日 株式会社 日本総合科学 大気中のダイオキシン類 水又は土壌中のダイオキシン類 N-0055-01 2015年 月16日 株式会社 エヌ・イーサポート 九州支社 九州技術研究室 大気中のダイオキシン類 水又は土壌中のダイオキシン類 N-0057-01 2015年 月16日 株式会社 イズミテック 大気中のダイオキシン類 水又は土壌中のダイオキシン類 N-0060-02 2015年 月 公益財団法人 ひょうご環境創造協会 大気中のダイオキシン類 水又は土壌中のダイオキシン類 日 Vol. 65, No. 1, 2015 53
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