2014年 11月 22日の長野県北部を震源とする地震

[09081]地すべり学会誌223号/52巻1号 2015年1月号/P40‐44 ニュース 古谷ら
2015.01.27 20.04.59
ニュース
JAPAN News
2
0
1
4年1
1月2
2日の長野県北部を震源とする地震で発生した斜面災害の概要
Outline of landslide disasters caused by destructive earthquake in the northern part of Nagano Prefecture on November2
2,2
0
1
4
古谷 元 Gen FURUYA/富山県立大学工学部 Toyama Prefectural University
畠 俊郎 Toshiro HATA/富山県立大学工学部 Toyama Prefectural University
渡部直喜 Naoki WATANABE/新潟大学災害・復興科学研究所 Niigata University
後藤 聡 Satoshi GOTO/山梨大学大学院総合研究部 Yamanashi University
土井一生 Issei DOI/京都大学防災研究所 Kyoto University
川崎一朗 Ichiro KAWASAKI/東濃地震科学研究所 Tono Research Institute of Earthquake Science
1.はじめに
(TEC―FORCE)が実施した土砂災害危
に多くの報道がなされている。筆者らも
平成2
6(2
0
1
4)年1
1月2
2日2
2時8分頃, 険箇所の緊急点検結果によると,
「緊急
1
1月2
3日の調査において,白馬村塩島地
長野県北部を震源とする地震が発生した。 的な対策が必要又は緊急避難体制の確保
区から大出地区に至る約2kmの区間で
気象庁によれば,震央は北緯3
6度4
1.
5分, が必要」とされるA判定の箇所数は,土
線上に並ぶ5箇所の道路面の段差を確認
東経1
3
7度5
3.
4分にあり(図−1)
,震源
し,地表地震断層として記載した(図−
の深さは5km,マグニチュードは6.
7と
される1)。この地震で長野県長野市,同
石流5箇所,地すべり8箇所,急傾斜0
5)
箇所である 。
2)
。道路面の段差はいずれも南東側が
筆者らは地震発生直後の1
1月2
3日,さ
隆起しており,これら5箇所を結ぶ地表
県北安曇郡小谷村,同県上水内郡小川村
ら に1
1月2
6日 と1
1月3
0日 の 計3回 に わ
地震断層の走向は,N2
8°
Eであった。国
では震度6弱,同県北安曇郡白馬村,同
たって緊急の現地調査を実施した。この
道の通行止めや鉄道の不通をもたらした
県上水内郡信濃町では震度5強を観測し
調査に基づき,ここでは主要な斜面災害
斜面崩壊箇所(国道1
4
8号線:白馬村北
た2)。余震分布より推定されたこの地震
のうち4箇所についてそれらの概要を報
城立の間地区付近,JR大糸線:小谷村
の発震機構は,北西−南東方向に圧縮軸
告する。
千国乙滝の平地区)はいずれも地表地震
をもつ東下がりの逆断層2),3),4)の運動であ
る。長野県,長野県砂防ボランティア協
会および国土交通省緊急災害対策派遣隊
図−1 気象庁1)による本震の震央位置
と余震分布
4
0
断層を北方へ延長した線の近傍に位置す
2.主要災害箇所の分布状況
る(図−3)
。さらに後述する小谷村の
地表地震断層の出現については,すで
中谷川流域の地すべり,土谷川流域の道
図−2 地表地震断層の確認箇所(1/2.
5万地形図「白馬町」に加筆)
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路および切土法面の変状も地表地震断層
3.主要箇所の調査報告
3.
1 小谷村中谷川右岸の中谷西地区
の延長線の近傍に分布する(図−3)
。
(八方岩)
(図−3の )
他方,斜面災害の多発地帯として知られ
は,少なくとも集落の上部斜面では尾根
付近まで存在し(写真−2)
,標高約6
5
0
m付近に亀裂や段差が数1
0m以上連続し
る姫川左岸において,支川の浦川から大
小谷村中土中谷西地区の八方岩地すべ
ていた(写真−3)
。当該斜面は,中谷
所川に至る範囲で目視による調査も実施
り防止区域(図−4)では,延長が最大
西地区の集落のほとんどが今回発生した
したが,今回の地震を起因とする斜面崩
で5
0
0m,幅5
0
0mの規模の地すべりが発
地すべりのブロックに含まれていること,
壊・地すべりは確認できなかった。斜面
生した(写真−1)
。中野ら7)によれば,
上述したように流れ盤型の斜面であるこ
災害のみならず,建物・構造物等の被害
この地区の基岩は後期中新世前沢層の塊
と,さらに末端部に水田と中谷川が存在
についても断層の南東側(上盤側)に集
状砂質泥岩を主体とし,一部に中粒∼粗
しているために,最悪の場合,融雪時に
中する傾向にあり,北西側(下盤側)で
粒砂岩層を伴う。地区の近傍で計測され
集落を巻き込みながら河道閉塞が生じる
の被害は小さい。この傾向は陸域観測技
た地層の走向及び傾斜は,N7
0∼8
5°
E,
4
4
可能性もある。したがって今後の変状の
推移について十分な警戒が必要な箇所で
」
術 衛 星2号「だ い ち2号(ALOS―2)
∼5
9°
Sである。地すべりは南南東の方
によるSAR干渉画像の分析結果にも現
向へ運動しているので,流れ盤型の地す
れている6)。このSAR干渉画像に見られ
べりである。
る地殻変動分布から,震源断層の長さは
中谷西地区の集落は西側の尾根周辺部
約2
0kmと推定されており,中谷川流域
に形成されており,
1
4戸中1戸は地すべ
の地すべりはほぼ北端に位置している。
りにより全壊した。地すべり土塊の頭部
図−4 八方岩地すべり防止区域の位置
5万地形図「雨中」に加筆)
(1/2.
写真−1 八方岩地すべり防止区域(中
谷東地区より撮影 )
写真−2 集 落 上 部(西 側 の 尾 根 の 頭
部)付近の滑落崖
写真−3 斜面中腹部における変状
図−3 主要地すべり・崩壊発生箇所(地理院地図(電子国土Web)に加筆)
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4
1
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ニ ュー ス
われる)を巻き込んだが,最終的にこの
は,N4
0∼6
0°
E,
1
9∼2
3°
Sで あ る。こ の
3.
2 小谷村中谷川左岸の中谷東地区
堰堤で停止した。このことより堰堤の効
変状が地すべりであるとすれば,斜面下
(市場1号)
(
(図−3の )
果が発揮され,県道川尻小谷糸魚川線や
方の土谷川へ向かって移動するので,運
上述の八方岩地すべり防止区域の対岸, 中谷川への土砂流入を防いだ。なお地震
動方向は南南東∼南となり,流れ盤型の
ある。
小谷村中土中谷東地区の市場1号地すべ
翌日(1
1月2
3日)の踏査時では,流動化
り 防 止 区 域(図−5)で は,延 長5
0
0m, した土塊より根茎や幹の破断音が認めら
地すべりと見なせる。
アンカーの飛び出し(破断?)は,目
幅2
0
0mの規模の地すべりが発生した。
れ,地すべり発生後もしばらくの間は土
視 で4基 認 め ら れ,そ の う ち1基 は
そのうち上部の1
5
0m程度がブロックと
塊の移動が継続していたものと推察され
キャップとともに完全に抜け出していた
して残存し,残りが流動化した。中野ら7)
。またアンカーの飛び出し
(破
る。砂防堰堤周辺に堆積している土砂は, (写真−7)
によれば,この地区の基岩は鮮新世雨中
比較的水分を多く含んでおり,残存して
断?)周辺では,斜面のはらみだしも認
層の塊状砂質泥岩および泥質砂岩を主体
いるブロックが載荷されることになると
められた。当該地区の西側は,時期は不
とし,一部に中粒砂岩を伴う。地区の近
崩壊土砂(地すべり土塊)が堰堤を越え
明ではあるがコンクリート杭と鋼管杭を
傍で計測された地層の走向及び傾斜は,
る恐れもある。融雪時期は当然であるが
用いた杭工と,最近施工されたと見られ
N4
5°
E,
6
2°
Sである。地すべりは北北西
今後の監視が重要である。
の方向へ運動しているので,受け盤型の
る布団籠工による対策が実施されていた
3.
3 小谷村土谷川右岸の中土中通地
区(図−3の )
地すべりである。
(写真−8)
。特にコンクリート杭は,杭
頭が地表面より露出しているうえに杭の
この地すべりの末端部付近には,鋼製
小谷村中土中通地区(図−6)では,
傾動も認められる。これは,今回の地震
枠砂防堰堤(中谷東砂防堰堤:長さ1
3
7.
0
上手村地すべり防止区域の東側境界部と
の前より斜面が不安定であったことを示
m,高 さ8.
0m)が 設 置(写 真−4)さ
なる箇所で幅1
2
0mの範囲にわたって道
すものである。このことより中土中通地
れており,流動化した土砂(写真−5)
路(県道奉納中土(停)線)の亀裂や切
区(上手村地すべり防止区域の東側境界
は流下時に鋼製の砂防施設(床固めと思
土法面のアンカー工の破損などの被害が
部)は,もともと不安定であった斜面に
確認された(写真−6)
。移動量こそ小
おいて地震がトリガーとなって土塊が再
さいが路面には段差も認められ,地すべ
滑動したものと推察される。
り運動にともなう変状が疑われる。中野
7)
ら によれば,この地区の基岩は鮮新世
3.
4 白馬村神城堀之内地区(集落・
城嶺神社)
(図−3の )
雨中層の塊状砂質泥岩および泥質砂岩を
構造物の被害が集中した白馬村神城堀
主体とし,粗粒∼中粒砂岩を挟む。地区
之内地区(図−7)において,擁壁の転
の近傍で計測された地層の走向及び傾斜
倒,開口亀裂,座屈変形といった地盤の
図−5 市場1号地すべり防止区域の位
5万 地 形 図「雨 中 」
置(1 / 2.
に加筆 )
図−6 土谷川右岸中土中通地区(上手
村地すべり防止区域の東縁)の
5万 地 形 図「 雨
位 置(1 / 2.
中 」に加筆 )
写真−7 アンカーの飛び出しと斜面の
はらみだし
写真−4 中谷東砂防堰堤の全景(地す
べり土塊捕捉状況 )
写真−5 地すべり土塊の流下状況(対
岸は中谷西地区 )
4
2
写真−6 県道奉納中土(停)線の路面
上における亀裂
写真−8 アンカー飛び出し箇所の西側
における杭工,布団籠工の施
工箇所
J. of the Jpn. Landslide Soc., Vol.52, No.1
42 (2015)
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2015.01.27 20.05.14
「すべり」に起因する変状を多数確認し
告されている8)。この露頭の直下では,
で座屈変形状の破壊が確認された(写真
た。この地区は,長野県により地すべり
高さ約2
0cm,幅約2
0cmの開口亀裂が連
−1
2)
。写真−1
1の変位が生じる前の状
危険箇所に指定されている。今回の地震
続していた(写真−1
0)
。写真中の家屋
況は,写真−1
3の通りであり,集落内で
では,比較的連続性のよい開口亀裂の走
の南側の石積みでは,地表面から高さ6
0
層厚が薄く,すべり面が低角度の地すべ
向は概ねN7
0∼8
5°
Wを示し,こ れ ら に
cm∼7
0cmの 深 度 で5cm程 度 の 明 瞭 な
りが発生したことは明白である。ただし,
直行する南西∼南方向へ移動したと推定
せん断変位が発生(写真−1
1)し,一部
詳細な発生機構については,今後の調査
できる。移動量は開口亀裂の幅を合計し
結果が待たれる。なお,石積みの変形が
ても5
0cm程度とみられるが,今後拡大
生じていた箇所の南西側に位置する長野
する可能性はある。
県道白馬美麻線では,各報道機関により
斜面の尾根部に位置する城嶺神社では,
すでに報道されている液状化の痕跡が確
本殿等が全壊したほか祠も飛ばされてお
認できた(図−7)
。地盤工学会(2
0
1
4)
り,参道や境内に多数の亀裂や段差が生
によると,この液状化の変状は下水管の
じていた。また鳥居脇の2本の幟竿が地
埋め戻し土砂によるものとされている9)。
表から約4
0cmのところで折れ曲がって
噴出した土砂は粒径がやや細かい砂質の
いた(写真−9)
。鳥居に変状が認めら
材料であった。
れなかったことより,城嶺神社付近では
比較的長い周期の地震波が卓越した可能
写真−1
0 堀之内集落北部の小露頭と開
口亀裂
4.おわりに
本報告は,
2
0
1
4年1
1月2
2日の長野県北
性が考えられる。
集落では多数の家屋が倒壊していた。
部を震源とした地震の発生直後に地すべ
集落北東側の小規模な露頭には,固結度
りの有無について姫川流域(新潟県糸魚
の低い細粒砂およびシルトからなる地層
川市,長野県小谷村,および長野県白馬
が観察され,数cm∼2
5cm程度の木片が
村)で調査を実施した結果について述べ
多数含まれていた。近隣で実施された断
たものである。得られた結果は以下の通
層調査によると,神城地区は表層部∼浅
りである。
層部に古神城湖の湖成堆積物の存在が報
・長野側(小谷村,白馬村)は,今回の
地表地震断層の東側(概ね姫川右岸側)
写真−1
1 堀之内集落北部のおける石積
みのせん断変形
に地すべりが発生していた。
・今回調査した地すべりは,地震が起因
となって再滑動したものと推察される。
・新潟県側,特に斜面災害多発地帯とさ
れる姫川左支川浦川流域と大所川流域
では,目視ではあるものの,今回の地
震を起因とした斜面崩壊,地すべりは
認められなかった。
最後に被災された皆様と関係者の皆様
図−7 神 城 堀 之 内 地 区 の 位 置(1 /
2.
5万地形図「神城」に加筆 )
に,お見舞いを申し上げますとともに,
写真−1
2 堀之内集落北部のおける石積
みの崩壊
一日も早い復旧を心からお祈り申し上げ
ます。
謝 辞
本報告では,地盤工学会・土木学会地
盤工学委員会 平成2
6年1
1月長野県北部
を震源とする地震合同調査団(梅崎健夫
教授(信州大学:団長),河村隆助教(信
州大学)
,荒木功平助教(山梨大学)
,赤
井静夫氏(北信ボーリング)
,宮澤洋介
氏(北陽建設)
,山浦直人博士(千代田
写真−9 城嶺神社における変状(尾根
部)
J. of the Jpn. Landslide Soc., Vol.52, No.1
写真−1
3 地震前におけ る 写 真−1
1の
石積み( Google map ,ス
トリートビ ュ ー よ り,2
0
1
4
年7月 )
43 (2015)
コンサルタント)
)にご便宜と現地でご
教示を賜った。また,日本工営株式会社,
国土防災技術株式会社に情報提供をいた
4
3
[09081]地すべり学会誌223号/52巻1号 2015年1月号/P40‐44 ニュース 古谷ら
2015.01.27 20.05.14
ニ ュー ス
だいた。紙面を借りて謝意を申し上げる。 4)気象庁(2014):平成26年11月22日22時
参考文献
1)気象庁(2
0
1
4)
:平成2
6年1
1月22日2
2時
08分頃の長野県北部の地震について(第
2報).http : //www.jma.go.jp/jma/
press/14
1
1/2
3b/kaisetsu2
0
1
41
1
2
3
0
8
0
0.
pdf(参照日平成2
6年1
2月8日)
2)気象庁(2
0
1
4)
:平成2
6年1
1月22日2
2時
0
8分頃の長野県北部の地震について.
http : //www.jma. go.jp/jma/press/
1
411/2
3a/kaisetsu20
1
4
1
12
3
0
0
00.pdf(参
照日平成26年1
2月8日)
3)(独)防災科学技術研究所(2
0
1
4)
:2
0
1
4
年11月22日長野県北部の地震.http : //
www.hinet.bosai.go.jp/topics/n-nagano
1
411
22/?LANG=ja(参 照 日 平 成2
6年
1
2月8日)
4
4
1地質図幅)白馬地域の地質,(独)産
08分頃の長野県北部の地震について(第
業技術総合研究 所 地 質 調 査 総 合 セ ン
ター,1
0
5p.
6報).http : //www.jma.go.jp/jma/
press/14
1
1/27a/kaisetsu201
4
11
27
1
50
0. 8)例えば今泉俊文・原口 強・中田 高・
奥村晃史・東郷正美・池田安隆・佐藤
pdf(参照日平成2
6年1
2月8日)
比呂志・島崎邦彦・宮内崇裕・柳 博
5)長野県(2
0
14)
:長野県,国土交通省緊
美・石丸恒在(1
99
7)
:地層抜き取り調
急災害派遣隊(TEC―FORCE)による
査とボーリング調査による糸静線活断
土砂災害危険箇所の緊急点検結果につ
層系・神代断層のスリッププレートも
い て.http : //www.pref.nagano.lg.jp/
検討,活断層研究,
3
5,pp.
35−43.
sabo/happyou/14
1
20
2happyou.html
9)公益社団法人地盤工学会(2
014):長野
6)国土地理院(2
0
14)
:長野県北部を震源
県神城断層地震災害 調査速報.https :
とする地震に関する情報,だいち2号
//www.jiban.or.jp/images/20141126na干渉SARによる変動の検出について.
ganokenjisinsaigai_chosahokoku_20141
http : //www.gsi.go.jp/BOUSAI/h261
30.pdf(参照日平成2
6年12月8日)
nagano-earthquake-index.html(参照日
(原稿受付2
014年12月1
5日,
平成2
6年1
2月8日)
原稿受理2
015年1月5日)
7)中野 俊・竹内 誠・吉川敏 之・長 森
英明・刈谷愛彦・奥村晃史・田口雄作
(2
0
0
2)
:地域地質研究報告(5万分の
J. of the Jpn. Landslide Soc., Vol.52, No.1
44 (2015)