証券化商品のオペレーショナル・リスク に関するグローバル

STRUCTURED FINANCE
MAY 27, 2015
CROSS-SECTOR RATING
METHODOLOGY
証券化商品のオペレーショナル・リスク
に関するグローバル・ガイドライン
Global Structured Finance
Operational Risk Guidelines
概要 1
目次:
1
概要
第一部:長期証券化商品における
業務中断のリスクを分析するための
2
アプローチ
第二部:短期証券化商品における
オペレーショナル・リスクに関する
33
ガイドライン
第三部:オーストラリアにおける
サービシング業務の移管リスクの緩和 44
ムーディーズの関連リサーチ
49
このクロス・セクター格付手法は、証券化商品におけるオペレーショナル・リスク
に対するムーディーズのグローバルなアプローチを提示するものである。証券化
商品の強度は、裏付けとなる資産プールの信用力(担保資産リスク)のみならず、
サービサー、キャッシュ・マネージャー、受託者などの案件当事者のパフォーマ
ンスにも影響を受ける(オペレーショナル・リスク)。これらの当事者が当初の想定
の通りに業務を遂行していれば、その後の案件の信用分析は担保とストラクチャ
ーに焦点を絞ることが可能となる。しかし、このような案件当事者のいずれかの
業務の中断が、その案件に悪影響を与えてしまうこともある。サービサー業務の
中断は回収業務の弱体化を招き、延滞の増加、回収率の低下へとつながり、延
いては証券化プールに大きな損失を発生させることにもなりうる。一方、キャッシ
ュ・マネージャーや受託者の業務が中断してしまった場合には、回収があるにも
関わらず支払不履行を招く可能性がある。
コンタクト:
東京
本格付手法は、証券化商品の、銀行グループ傘下の主体に対するエクスポージャーに関連す
03.5408.4100
るデフォルト・リスクの測定方法の変更を反映するため、2015 年 3 月 16 日に再発行され
た。ムーディーズは今後、シニア無担保債務格付ではなく、金融機関のカウンターパーテ
ィ・リスク評価を用いて、業務中断によって当該金融機関が証券化案件におけるその役割を
果たせなくなる確率を測定することとする。
This Moody’s Japan rating methodology is based on Moody’s Investors Service’s rating methodology titled
“Global Structured Finance Operational Risk Guidelines (March 16, 2015).” The rating approach described
in the Moody’s Investors Service report was adopted by Moody’s Japan on May 27, 2015.
1
本格付手法は、適用前に特定の規制要件が充足される必要がある一部の法管轄域を除き、グローバ
ルに適用される。
ムーディーズ・ジャパン株式会社
STRUCTURED FINANCE
本レポートでは、業務の中断に焦点を当ててオペレーショナル・リスクを分析する。ここでは、
(1) バックアップ・サービサー、マスター・サービサー、第三者サービサー等のサービシングの
態勢、(2)サービサーからは独立した第三者をキャッシュ・マネージャーもしくは計算代理人と
して用いる場合(欧州・中東・アフリカ(EMEA)の案件においては一般的)、(3)Aaa 格付におけ
る標準的な流動性補完の基準、(4)アドミニストレーターを原因とするアセット・バック・コマーシ
ャル・ペーパー・プログラムの業務中断リスク、を分析する際の基本的な考え方を示した。
第一部では、長期証券化商品におけるオペレーショナル・リスクに焦点を当てている。第二部
はアセット・バック・コマーシャル・ペーパー(ABCP)プログラムに関するオペレーショナル・リス
クのガイドラインを提示する。第三部では、特にオーストラリアの ABS と RMBS に関して、サー
ビサーの交代の結果キャッシュフローの中断が起きるリスクを緩和するための流動性補完の
使用に関する枠組みを提示する。
本格付手法において、証券化案件の当事者となる金融機関の格付 2への言及は、カウンター
パーティ・リスク評価(CR 評価)を指すものとする 3,4。例外として、当該主体が CR 評価を
持たない場合、ムーディーズは最適と考える代わりの指標を用いる。それは例えば、
当該主体のシニア無担保債務格付(あるいはそれと同等のもの)、あるいは銀行預金
格付(あるいはそれと同等のもの)から導かれる。ムーディーズは、証券化案件のド
キュメンテーションに記載された、当事者のシニア無担保債務格付に基づくトリガー
の価値と、CR 評価に基づくトリガーの価値は同等と考える。
本件は信用格付付与の公表で
はありません。文中にて言及され
ている信用格付については、
ムーディーズのウェブサイト
(www.moodys.com)の発行体の
ページの Ratings タブで、最新の
格付付与に関する情報および
格付推移をご参照ください。
2
MAY 27, 2015
2
本格付手法では特定の主体の信用の質を示唆する投入値が用いられる。参照の便宜のため、本格付手法においては
それらの投入値を「格付」と総称する。ただし、投入値の範囲は信用格付にとどまらず、ムーディーズのカウンターパーテ
ィー・リスク評価など他の指標を含める場合もある。
3
「格付記号と定義」を参照のこと。
4
CR 評価は、銀行グループ傘下の法的主体の他に、同様の銀行類似のシニア債務を持つ規制を受けるその他の機関に
も付与されることある。
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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第一部:長期証券化商品における業務中断のリスクを分析
するためのアプローチ
I. はじめに
証券化商品の強度は、裏付けとなる資産プールの信用力(担保資産リスク)のみならず、サー
ビサー、キャッシュ・マネージャー、受託者などの案件当事者のパフォーマンスにも影響を受
ける(オペレーショナル・リスク)。これらの当事者が当初の想定の通りに業務を遂行していれ
ば、その後の案件の信用分析は担保とストラクチャーに焦点を絞ることが可能となる。しかし、
このような案件当事者のいずれかの業務の中断が、その案件に悪影響を与えてしまうこともあ
る。サービサー業務の中断は回収業務の弱体化を招き、延滞の増加、回収率の低下へとつ
ながり、延いては証券化プールに大きな損失を発生させることにもなりうる。一方、キャッシュ・
マネージャーや受託者の業務が中断してしまった場合には、回収があるにも関わらず支払不
履行を招く可能性がある。
本レポートでは、業務の中断に焦点を当ててオペレーショナル・リスクを分析し、Aaa に格付さ
れた証券化案件におけるこうしたリスクの分析手法を提示する。ここでは、(1) バックアップ・サ
ービサー、マスター・サービサー、第三者サービサー等のサービシングの態勢、(2)サービサ
ーからは独立した第三者をキャッシュ・マネージャーもしくは計算代理人として用いる場合(欧
州・中東・アフリカ(EMEA)の案件においては一般的)、および(3)Aaa 格付における標準的な
流動性補完の基準を分析する際の基本的な考え方を示した。
提示したアプローチは、不変というわけではなく、案件の個々の特徴に応じて調整され得るも
のである。案件によっては、オペレーショナル・リスクの軽減措置を全て備えていなくても、Aaa
格付を達成することも可能である。しかし、そうした証券化取引の格付は、案件当事者の格付
により強く連動し、格下げされるリスクがより高くなる可能性がある。
また、本レポートで示した措置がすべて施されている案件であっても、Aaa 格付に相応するレ
ベルまで業務が中断するリスクが軽減されない場合もあり得る。例えば、システミックなカントリ
ー・リスクによって業務が中断するリスクが増幅される場合、影響を受ける案件については個
別の検討が必要となる 5。またムーディーズは、追加的な信用補完が施されていても、あらゆ
るオペレーショナル・リスクを軽減するわけではない点に留意している。
このグローバル基準は、重要な案件当事者について地域毎の違いを認めている。RMBS や
プライム・オートローン等の米国の標準的なアセットに関しては、サービサー移管の過去の実
例、速やかにサービシングを引き継ぐことが出来る多数の第三者サービサーの存在、サービ
サー解任時に後任サービサーの選任やサービシングの責務を負う受託者がいること、などが
あげられる。アジア・太平洋地域では、ほとんどのアセット・タイプにおいて多数の後任サービ
サー候補が存在するものの、サービサー移管の過去の実例は限られている。EMEA の
CMBS 案件では、プライマリー・サービサーの移管は一般的であり、多数のプライマリー・サー
ビサー候補が存在する。
これらとは対照的に、EMEA の ABS/RMBS 案件では、いくつかの司法管轄において、後任サ
ービサー・リスクにさらされている度合が大きいと言えるだろう。なぜなら、サービシング市場が
5
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本レポートに記載されているオペレーショナル・リスクに関する基準の使用に関して懸念が生じうるのは、以下のような状
況の組み合わせが見られる場合である。すなわち、(i) その国の銀行格付の過半数が投機的等級である場合、(ⅱ) 銀行
が国際的な資金調達市場にアクセスできない場合またはアクセスが制約されている場合、(ⅲ) 政府が銀行システムをサ
ポートする意志並びに能力が不透明な場合、および(ⅳ) 信用危機へのエクスポージャーが増し、預金取付につながりう
る場合。銀行システムが危機にさらされている場合には、適切なバックアップ・サービサーを見つけることが困難となる。こ
うした例外的な状況においては、新たなサービサーが指名されるまでの間、流動性を引き出し、ノート保有者への支払を
行うことができる国外のキャッシュ・マネージャーに頼れるストラクチャーとなっていれば、高い投資適格格付を達成するこ
とが可能となるかもしれない。こうした手当に加えて、国外のバックアップ・ファシリテイターが事前に任命されていること、
さらにより当事者の信用力へのリンクを少なくするためには、国内のシステミック・リスクから遮断されたバックアップ・サー
ビサーが任命されていることによって、Aaa や Aa といった高格付を達成する可能性がより高まる。
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より分断されており、サービシング業務を引き継ごうという意志を持った第三者サービサーが
少なく、またサービサー移管の過去の実例も少ない上、受託者にサービシングやサービシン
グ業務の移管の手配を行う責務がないからである。
長期証券化案件におけるオペレーショナル・リスクに関する第一部においては、第Ⅱ節でオ
ペレーショナル・リスク並びに業務中断リスクに関わる全般的な説明を行い、第Ⅲ節で過去に
発生した証券化案件におけるオペレーション上の問題を取り上げ、第Ⅳ節でオペレーショナ
ル・リスクに関する基準を提示する。第三部では、オーストラリアの ABS と RMBS に関して、
サービシング業務の移管に伴ってキャッシュフローの中断が起きるリスクを緩和する
ための流動性補完の使用に関してより詳細な解説を加える。
ムーディーズは 2011 年 3 月に最初のオペレーショナル・リスクに関する格付手法を発行し、
2011 年 4 月 12 日に米国の学生ローンを新たなアセットクラスとして追加して再発行した。
長期証券化案件の当事者となる金融機関の格付への言及は、カウンターパーティ・リスク評
価(CR 評価)を指すものとする 6。例外として、当該主体が CR 評価を持たない場合、ム
ーディーズは最適と考える代わりの指標を用いる。例えば、当該主体のシニア無担保
債格付(あるいはそれと同等のもの)、あるいは銀行預金格付(あるいはそれと同等
のもの)から導かれる。ムーディーズは、証券化案件のドキュメンテーションに記載
された、証券化案件の当事者のシニア無担保債務格付に基づくトリガーの価値と、CR
評価に基づくトリガーの価値は同等と考える。
II. オペレーショナル・リスクの定義
証券化商品のパフォーマンスは、裏付けとなる資産の信用力(担保資産のリスク)のみならず、
サービサー、受託者、キャッシュ・マネージャーなどの様々な案件当事者のパフォーマンスか
らも影響を受ける。
オペレーション上の問題は、(1)案件当事者の重要な業務を遂行する能力の不足、および(2)
破綻による業務の終了または中断を原因とする案件当事者の業務の不履行から発生する。
オペレーショナル・リスクとは、こうした問題が生じるリスクのことである。(1) に相当する事例とし
て、サービサーが延滞債務者に対して取り立てをタイムリーに行わない、あるいはキャッシュ・
マネージャーが債券投資家に支払う金額の計算を誤った、などがある。
本節は、(2) の懸念、すなわちサービサー、キャッシュ・マネージャー、あるいは受託者が行う
べき業務の中断による不履行を原因としてノートの支払が中断するリスクに焦点を絞っている。
特に、債務者プールから投資家への継続的な支払を確実にするための要件のガイドラインを
設定している。本レポートは、案件当事者が行う業務の質を検討するものではないが、証券化
案件当事者の能力の評価は、格付プロセスの重要な一環であり、「サービサー・クオリティ・レ
ーティング」、「トラスティー・クオリティ・レーティング」、「オリジネーター・アセスメント」評価 7に
よって別途検討される 8。
本節が対象とする証券化案件当事者とは、サービサー、キャッシュ・マネージャー、計算代理
人、ならびに受託者である。これらの当事者の役割と責任は、アセットクラスや地域によって異
なる。図表 1 は、各当事者の役割を要約したものであり7、同時に案件をサポートする流動性
の源泉についても述べている。スワップ契約、保証契約、流動性契約に基づいて資金を提供
する当事者については、本レポートでは取り上げていない。
6
「格付記号と定義」を参照のこと。
7
図表1には記載されていないが、カバード・ボンドでは「タイムリー・ペイメント・インディケーター」を用いてオペレーショナ
ル・リスクを考慮する。
8
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サービサー・クオリティ・レーティング、トラスティー・クオリティ・レーティングならびにオリジネーター・アセスメント評価は、
ムーディーズ・ジャパンにおいては取り扱っていない。
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図表1
地域・アセット別にみたサービサー、キャッシュ・マネージャー、受託者、流動性補完の典型的な特徴
5
サービサー
キャッシュ・マネージャー/計算代理人
受託者が、「最終的に頼りにする(ラスト・リ
ゾート)サービサー」であるか、後任サービ
サーを選任する責務を負う
米国の ABS
通常スポンサーがサービサーである。大規模・多
角的で高格付のスポンサーから、小規模で投機
的等級の貸付専門会社まで様々である。
スポンサー
該当する
通常は現金準備金口座
EMEA の ABS
米国の ABS と同様
スポンサーや第三者(例えば、スペイ
ンの Gestoras、フランスのManagement
Company、その他の国の銀行)
通常は該当しない。ただし、スペイン、
フランスの Gestoras/Management
companies は一般的に後任を選任する
義務を負う
通常は現金準備金口座か流動性ファシ
リティー
アジア・太平洋
地域の ABS と
RMBS
通常スポンサーがサービサーである。高格付の
金融機関から、小規模で投機的等級の貸付専門
会社まで様々である。
オーストラリアではスポンサー。日本以
外のアジアでは第三者(高格付の銀行
かその関係会社)。日本では通常は受
託者。
オーストラリアと日本では該当する
現金準備金口座か流動性ファシリティー
米国の RMBS
米国の ABS と同様。マスター・サービサーが管理
監督を行う場合もある。
スポンサー
該当する
サービサーによるアドバンシング義務
EMEA の RMBS
通常スポンサーがサービサーであるが、独立の
第三者がサービシングを行う市場もある。大規
模・多角的で信用力の高いスポンサーから、小規
模で投機的等級の貸付専門会社まで様々であ
る。
EMEA の ABS と同様
EMEA の ABS と同様
通常は現金準備金口座か流動性ファシ
リティー
米国の CMBS
マスター・サービサー、通常は高格付の銀行(ある
いは銀行や他の高格付事業体が親会社)。問題
債権のためにスペシャル・サービサーが設置され
る。
マスター・サービサー
該当する
高格付の受託者によるバックアップを伴
う、マスター・サービサーによるアドバン
シング義務
EMEA の CMBS
プライマリー・サービサー、通常は大規模な事業
体かサービシング専門会社で、銀行が親会社の
場合もある。無格付の場合もある。問題債権のた
めにスペシャル・サービサーが設置される。
第三者。通常は高格付の銀行。
該当しない
ムーディーズの流動性ファシリティーに
関するフレームワークに準拠した第三
者。ムーディーズの流動性ファシリティー
に関するフレームワークに準拠したバッ
クアップ第三者アドバンス提供者による
サービサー・アドバンスの場合もある
アジア・太平洋
地域の CMBS
マスター・サービサー、通常はサービシング専門
会社。問題債権のためにスペシャル・サービサー
が設置される。
第三者。通常は高格付の銀行。
オーストラリアと日本では該当する
マスター・サービサーからのアドバンシン
グ(ムーディーズの流動性補完フレーム
ワークに準拠したもの)あるいは現金準
備金口座
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流動性補完
日本以外のアジアでは該当しない
日本以外のアジアでは該当しない
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サービサー
サービサーの重要性は高いため、サービシングの中断はサービシングの質、延いてはポート
フォリオの信用力を著しく悪化させる結果となる。借り手のデフォルト防止と治癒のためのサー
ビサーの努力と、借り手のデフォルト時の損失を最小化するためにサービサーが取る措置は、
大半の証券化案件の最終的なパフォーマンスにとって極めて重要である。
サービサーの特徴は、広義のアセットクラスや地域によって異なる。
ABS/RMBS
ABS と RMBS の大半の案件で、サービサーは案件のスポンサーと、発行体に担保資産を売
却するセラーの役割を兼ねる。ABS/RMBS 取引のサービサーの特徴は、信用力、規模、ロー
ン商品の多様性という点で、サービサーにより大きく異なる。サービサーの中には、大規模な
ポートフォリオのサービス業務を行い、多様な貸付を行う高格付の会社もあれば、限定的な事
業資源しか持たず、信用プロファイルも弱い特化型の金融会社もある。米国 RMBS 案件の一
部では、サービサーからのキャッシュフローをまとめ、後任サービサーの役割を担うマスター・
サービサーが設置されている。
米国の学生ローンを裏付けとする案件では、マスター・サービサーまたは場合によりアドミニス
トレーターが設置され、サービシング・レポートの作成や受託者に対するキャッシュフローの分
配の指示など一部の管理業務を履行する。第三者プライマリー・サービサーは通常、ローン
に対する請求・回収サービスを提供する。
米国の CMBS
米国の CMBS 案件では、マスター・サービサーとスペシャル・サービサーがローンのサービシ
ングに関与する。マスター・サービサー(一般に高格付の銀行の子会社)は、コベナンツの遵
守を含むローンのパフォーマンスのモニタリング、条件変更、権利放棄、ローン契約の修正、
物件のデューデリジェンス、スペシャル・サービサーへのサービシング業務移管前の債務者
の延滞の管理、案件の全般的な監視を行う。マスター・サービサーは問題債権を、債務整理
や損失軽減の為の戦略を担当するスペシャル・サービサーに移管する。
EMEA の CMBS
EMEA の CMBS 案件では、米国の CMBS 案件のようなマスター・サービサーは設置されず、
プライマリー・サービサーが裏付ローンのサービシングを行い、上述したような米国の案件で
マスター・サービサーが行う業務に責任を持つ。一部の案件では、発行体が複数のスペシャ
ル・サービサーと契約を結び、各スペシャル・サービサーが特定のローンを担当する。米国と
同様、スペシャル・サービサーは問題債権のサービシングを担当し、スペシャル・サービサー
へのサービシング業務の移管のトリガーとなる事由は、案件の契約書で規定されている 9。
EMEA/日本の中小企業 CLO とバランス・シート型キャッシュフローCLO
EMEA/日本の中小企業 CLO とバランス・シート型キャッシュフローCLO のサービサーの責任
は、ABS や RMBS 案件のそれと類似している。したがって、付表の ABS や RMBS のサービ
サー基準(流動性補完の節も含む)が適用される。
キャッシュ・マネージャー/計算代理人
キャッシュ・マネージャー/計算代理人は、発行体に帰属する現金を発行体のために管理する
責務を負う。具体的には、債権のパフォーマンスを追跡し、案件キャッシュフローの分配を計
算する責務を負う。例えば、オートローン証券化案件では、キャッシュ・マネージャー/計算代
理人が、信託から発行された各トランシェの保有者に分配する元利金を計算し、ヘッジ契約
が締結されている場合は、スワップ・カウンターパーティへの支払いも計算する。また、投資家
9
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大半のケースでは、プロパティ・マネージャーが賃料の回収に責任を負う。プロパティ・マネージャーが案件で重要な役
割を担う場合、ムーディーズはプロパティ・マネージャーに関するリスクを分析する。例えば、分散した住宅ローン・プール
では、プロパティ・マネージャーのリスク・プロファイルは、ABS/RMBS のサービサーのリスク・プロファイルと類似している。
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のための信用補完として受託者が保有する準備金口座に案件からのキャッシュフローを入金
する。回収資産の分配の計算の複雑度には大きな差がある。モーゲージ・パススルー証券の
ような長期案件は多数のトランシェから構成され、その一部は IO 債や PO 債といった特殊な
債券を含んでいる。
米国の ABS/RMBS 案件の大半で、サービサーがキャッシュ・マネージャー/計算代理人の役
割を兼ねるのに対し、日本では通常、受託者がこの役割を果たす。欧州の証券化案件の多
数では、サービサーから独立した第三者サービサーがキャッシュ・マネージャー/計算代理人
の責務を果たす。その責務には、発行体口座と支払代理人口座との間の送金手続きや、必
要な場合に流動性コミットメントラインから借入を行うことなどが含まれる。
米国とアジア太平洋地域の CMBS 案件では、マスター・サービサーがキャッシュ・マネージャ
ー/計算代理人の役割を担う。EMEA の CMBS 案件では大半の場合、キャッシュ・マネージャ
ー(高格付の銀行が多い)はプライマリー・サービサー/スペシャル・サービサーから独立して
いる。プライマリーサービサーが借り手からの支払を管理する案件もあれば、テナントが借り手
の口座に現金を直接払い込んだ後、サービサーが発行体口座に直接送金する案件もある。
キャッシュ型 CLO/CDO 案件では、担保資産のアドミニストレーターが発行体口座から支払
代理人口座への送金の指示、案件テストの遵守に関してのモニタリング、キャッシュフローとウ
ォーターフォールの計算、担保資産の担保権の確実な維持、等の責務を負うのが一般的で
ある。米国の CLO 案件では、受託者がこれらの責務の一部またはすべてを、監督または遂
行する場合がある。
シンセティック CDO 案件では、資産からキャッシュフローが発生しない。そのかわり、参照ポ
ートフォリオのパフォーマンスに基づいて、投資家に支払うべき現金の金額が決定される。計
算代理人は参照ポートフォリオから発生する損失の計算、損失の分配、投資家レポートの提
供という責務を負う。一部の案件では、受託者がこれらの責務を監督し、債券保有者への利
払いの責務を負う。債券保有者への支払が、計算代理人による計算または同意に基づいて
行われる場合、案件のオペレーショナル・リスクへのエクスポージャーをレビューし、付表に記
載した関連する基準を計算代理人にも適用する。
受託者
米国の証券化案件では、受託者が案件からのキャッシュフローを分離口座に保管し、コベナ
ンツ違反とデフォルト事由を投資家と格付会社に通知し、当初のサービサーがサービサーと
しての責務を果たせなくなった場合に後任サービサーとなるかサービシングの移管を手配す
る 10。日本とオーストラリアでは、受託者が債権の保有者であり、通常はセラー/スポンサーも
兼ねるサービサーにサービシング業務を委任する。
EMEA の案件では、受託者の主要な責務としては、受身的なモニタリング、投資家の代理人
としてデフォルト事由を判断すること、案件契約書に基づく発行体からの修正、免除、許可の
要請の受理と承認、強制執行または他の是正措置のトリガーとなる事由の有無の判断、強制
執行事由発生後の回収金や他の資産の回収と分配、などがある。また、受託者はノート保有
者や他の当事者に代わって担保権を有し、これを実行する。
米国/アジア・太平洋地域と EMEA の受託者の役割における重要な違いは、大半の EMEA
の証券化案件では、バックアップを務めることをコミットする者を別に置く必要性が高いが、受
託者を原因とするオペレーショナル・リスクへのエクスポージャーは低いという点である。米国/
アジア・太平洋地域では一般に、当初のサービサーが解任された場合、受託者が担保資産
のサービシングを行うか、後任サービサーを選任する責務を負う。EMEA では、受託者がこの
10
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米国の大半の ABS 案件(学生ローン案件は例外)では、サービサーが解任された場合、受託者が後任サービサーに指
名される。しかし、受託者が後任サービサーに就任する意思を持たない場合、あるいは、サービシング業務が不可能な
場合、受託者は後任サービサーを選任するか、後任サービサーの選任を裁判所に申し立てることができる。
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ような責務を務めることはない(ただしスペインでは Gestoras、フランスでは Management
Company が、後任サービサーを選任する責務を負う)。
流動性補完
案件の流動性補完は、サービサー破綻時のサービシング業務の中断や、裁判所による送金
停止命令(オートマティック・ステイ)の結果、一時的にキャッシュフローが中断した場合に、ノ
ートの利払いに利用できなくてはならない。流動性補完の水準は、サービサーの財務力、バ
ックアップ・サービサーの有無、証券化プールの分散度、アセット・タイプ、ポートフォリオの質、
担保権の構造、裏付資産が所在する司法所轄などの多数の要因によって左右される。
流動性補完の形式は、アセットクラスにより異なる。グローバル ABS 案件と EMEA/アジア・太
平洋地域の RMBS 案件では、現金準備金口座や流動性ファシリティーによって流動性補完
を行う。米国の CMBS と RMBS 案件では一般に、回収可能な範囲において、サービサーが
アドバンシングを行う。EMEA の CMBS 案件では、借り手または発行体のレベルで流動性フ
ァシリティーが設けられている。
III. オペレーショナル・リスク:過去の教訓
証券化案件はこれまで証券化当事者の業務不履行によって重大な信用悪化を経験しており、
最近の事例は 2009 年 11 月に発行されたムーディーズのオペレーション・リスクに関するスペ
シャル・コメントで紹介されている。過去にオペレーショナル・リスクが発現した事例を検証する
なかで、第Ⅳ節で紹介する基準のもととなった課題が明らかになってきた。本節では過去の
証券化案件から得られた教訓をまとめる。
スポンサーの規模が小さい ABS は特に脆弱
オペレーション上の問題によって業務が中断されたことで、案件の信用力が大きく低下した事
例は多々ある。それらの案件に共通する特徴は、スポンサーの規模が小さく投機的等級であ
ることである。オペレーション上の問題によって劇的に信用力が低下した案件には次のような
ものがある。
» Autobond Acceptance Corporation
» Chapel/Monastery EMEA ABS/RMBS, respectively
» Commercial Financial Services
» DVI Financial
» Eurokommerz Holding Limited
» Heilig-Meyers
» MfP Logistics Limited
» National Century Financial Enterprise
» Taylor, Bean & Whitaker Mortgage Corp.
» T&W Leasing
» Vanguard Acceptance Corporation
これらの案件の信用力悪化の要因は、急激に拡大したポートフォリオの管理の失敗、不適切
なサービシング慣行をまねく不十分なコーポレート・ガバナンス、サービサーの破綻あるいは
詐欺行為など多岐にわたる。これらの案件の一部には、スポンサーが苦境に陥った際に迅速
にサービシング業務の移管を行なうためのバックアップ・サービシング契約を有しているものも
あり、証券化案件の契約関連書類の遵守状況を第三者が定期的に点検を行うものもあった。
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これらの特徴にも関わらず、結果的にこれらの案件のほとんどで、信用力が劇的に悪化し、そ
れに伴い投資家は損失を被ることとなった。
規模の大きいサービサーが急激に業務中断のリスクに見舞われる可能性は低い
一方、格付は高くなくとも、サービシング業務の確固たる基盤を有するサービサーであれば、
突然の業務の中止・中断のリスクは低くなるとムーディーズはみている。これらの企業は、永続
的なフランチャイズ価値とサービシング手数料による大きな収入を生み出す規模を有する。こ
れらのサービサーは、会社が清算されるシナリオでも、業務を縮小しつつ実質的には長期間
にわたって業務を継続する可能性が高い。これらのサービサーは、業務基盤が生み出すサ
ービシング手数料によって、ローン・ポートフォリオが縮小する中でも質の高いガバナンス態勢
を維持できるとみられる。
米国ではサービシング業務の移管が数多く実施されている
米国では、RMBS、オートローン、設備リースなどを始め、多くのアセット・タイプでサービサー
の交代が行なわれてきたが、これまで重大なサービシングの中断は発生していない。RMBS
セクターでは、ムーディーズのサービサー・クオリティ(SQ)レーティングが付与されたサービサ
ーの間で 16 件のサービシング業務の移管が発生しており、それらは全てサービサーの破綻
または財務的な危機を契機とするものだった(図表 2 のサマリーを参照)。いずれも重大な業
務の中断を伴わずにサービシングは実施された。ただし、コールセンターが機能停止に陥っ
たり、従業員が離職したり(任意的、あるいは強制的に)、移管時期に延滞が増加したりする事
例はいくつかみられた。
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MAY 27, 2015
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図表 2
ムーディーズが SQ レーティングを付与するサービサーによる RMBS 案件におけるサービシング業務の移管の例
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MAY 27, 2015
経営難に陥った
サービサー
破産
破産申請日
業務中断の有無
Fremont
該当
2008 年 6 月 18 日
Litton への移行はスムーズ
だったが、モーゲージ・サー
ビス提供権(MSR:Mortgage
Servicing Rights)売却の前年
に悪化
破産前に Litton に MSR を
売却、事業基盤は解体
New Century
該当
2007 年 4 月 2 日
該当-離職、コールセンター
基準
Carrington Capital
Management にサービシン
グ基盤を売却
Aurora
(Lehman Brothers
Bank の子会社)
該当
2008 年 9 月 15 日
無し
2012 年に Nationstar
Mortgage LLC が MSR と他
のアセットを取得
Indymac
該当、ただし
FDIC が 破産
前に引き継ぎ
破産申請: 2008.年
8月1日
散発的なコールセンター業
務の中断と離職者の増加。
FDIC による差し押さえ後、大
幅に改善
FDIC が引き継ぎ。Indymac
は 2009 年 3 月 19 日に投
資家コンソーシアムに売却
された
Loancare /
Landamerica
該当
2008 年 11 月 26 日
無し
2009 年 5 月 29 日、Fidelity
National Financial がサービ
シング基盤を買収
Litton
(C-BASS)
該当せず(た
だし C-Bass
に財務上の
問題があっ
た)
無し
Litton の事業基盤は 2007
年 12 月に Goldman Sachs
により、その後 2011 年 9 月
に Ocwen によって買収さ
れた。
SLS
該当せず (た
だし、親会社
の Terwin が
事業再編)
2007 年後半に
Terwin の問題が発
生し、同社は 2008
年 7 月に事業再編
を発表
無し
SLS は 2008 年 9 月に新生
に買収された。
Novastar
該当
2008 年 9 月 12 日
無し
MSR を Saxon に売却
Aames
該当せず
2006 年 10 月に
Accredited と合併
Accredited
該当
2009 年 5 月 1 日
離職者の増加(任意的、あ
るいは強制的に)
SPS が MSR を取得
Ameriquest
該当せず、た
だし財務的な
危機に陥った
2007 年前半
無し
Citigroup が 2007 年 9 月に
AMC Mortgage Services の
事業基盤を買収
GMAC
該当
2012 年
無し
2013 年に Ocwen と Walter
Investment Management が
資産を取得
EMC
該当せず、た
だし財務的な
危機に陥った
無し
2008 年末に Chase が買収
Option One
該当せず、た
だし親会社の
コミットメント
が縮小
2007 年半ばから
2008 年の年央・後
半にかけて
延滞が幾分増加
American Home が買収
Irwin Home
Equity
該当せず、た
だし親会社の
サポートが縮
小し、財務的
な危機に陥っ
た
2008 年半ば
無し
Green Tree Servicing, LLC に
事業基盤と MSR を売却
Taylor, Bean &
Whitaker
該当
2009 年 8 月 24 日
行き詰まった段階での交代
であったため、通常の交代
に比べて業務中断がより深
刻だった
破産申請後、TBW の取締
役会と同社の役員が辞任。
2009 年 10 月 26 日時点で
事実上、全サービシング・
ポートフォリオが他のサー
ビサーに移管されている
FDIC による
差し押さえ: 2008 年
7 月 11 日
解決策(サービシング業務の
移管、破産後の買収など)
Accredited が 2006 年 10
月に吸収合併
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STRUCTURED FINANCE
米国の ABS セクターでは、サービシング業務の移管に関して、信頼できる情報源はない。と
はいえ、第三者サービサーとの議論の中で、サービサー交代は一般的に行なわれており、タ
ーム ABS 市場とホールセール ABS 市場の両方でサービサーの財務的な危機を理由とした
数多くの交代が行なわれていることが判明している。利払いの中断は報告されていない。
これまで EMEA とアジア太平洋地域では経営難によるサービシング業務の移管はまれ
米国に比べ、EMEA の ABS/RMBS 市場では、経営難を背景としてサービシング業務の移管
が行なわれる事例は大幅に少なく、迅速にポートフォリオの移管を受ける後任サービサーの
能力に関する情報もそれだけ少ない。しかし、バックアップ・サービサーが存在しないか有効
ではないと考えるのが妥当な場合、第三者サービサーの数が限られることを考慮すると、
EMEA ではサービシング業務の移管により時間がかかり業務中断に至る可能性がより高いと
想定するのが妥当であると考える。
現在までのところ、日本で格付が付与された案件でサービシング業務の移管が行なわれた事
例は限られる 11。格付が付与された案件のサービサーの倒産事例はいくつかあるが、いずれ
の場合も、倒産したサービサーは会社更生法や民事再生法の手続きに従ってサービシング
業務を継続した。オーストラリアではいくつかの案件がサービシング業務の移管を経験してい
る。その内、ムーディーズが格付を付与したものが 1 件(Mobius ELR-01 Trust ABS)あるが受
託者がサービシング業務の移管先となる第三者を見つけた。当初サービサーの社員の雇用、
およびそのサービシング・システムの利用により、第三者サービサーへの移管が迅速に行な
われた。当該案件は、サービシング業務の質ではなく、裏付資産のパフォーマンスを理由とし
て格下げされている。
米国ではサービシング業務の移管は迅速に実施されることが多い
米国では、当初サービサーが解任された後の、サービシング業務の移管は迅速に行なわれ
てきた。いくつかの第三者サービサーから入手したデータによると、サービシング業務の移管
が完了するまでの期間は平均で 4-6 週間、最長で 3 カ月だった。
一般に、後任サービサーがまず着手するのは、解任したサービサーの所在地に赴き、システ
ムや進行中の作業について既存社員と連携することである。サービシング業務の移管過程で、
後任サービサーは通常、データ移管とオペレーションを並行して行う。
データ移管には、後任サービサーが「コールド」待機か「ウォーム」待機かによって異なり、通
常 2-4 週間の期間を要する。データ移管のプロセスは、データ・フィールドの決定、マッピング、
実行テストの 3 段階からなる。マッピング・プロセスに数週間が見込まれる場合、後任サービ
サーは、借り手の住所と支払債務の情報で構成される簡易なデータベースを用いて債務者
に交代の通知状と月次の請求明細書を送付できる。
オペレーション面での第一ステップは現金と預金口座の掌握であり、通常、サービシング業務
の移管を受けてから 48 時間以内に完了する。使途制限口座(lockbox)がない限り、新たに口
座が開設され、請求明細書にはこの新しい口座のバーコードが設定される。現金は自動クリ
アリング・ハウス取引(ACH)を通じて当該新規口座に移転される。また後任サービサーは、米
国統一商事法典(UCC)関連の届け出、権原問題、資産の担保権実行や差し押さえなど、解
約されたサービサーの進行中の作業を引き継ぐ。
米国の第三者サービサーによると、サービシング業務の移管の完了までに要した期間は、通
常の資産クラスあるいはウォーム待機のケースでは 30 日以内、特殊なアセットの場合ではより
長期間を要した。完全な移管までには最大で 3 カ月を要するとはいえ、後任サービサーは、
当面、借り手の返済の処理、債券償還額の計算、投資家への現金の分配を実施して支払い
の中断を回避する。
11
日本でサービシング業務の移管が行なわれたケースは 1 件のみである。その案件は中小企業向けローンを裏付資産とし
たもので、1 社がオリジネーター、セラー、当初サービサーを兼ねていた。案件のアセットはユニークなパォーマンスを示
し、債務者のほとんどが既にデフォルトを起こしており、担保不動産が主な回収源となった。
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クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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CMBS におけるサービシング業務の移管
上述の通り、米国の CMBS のサービサーは規模が大きい高格付のマスター・サービサーの
子会社となっており、現在までのところ、マスター・サービシング業務の移管は稀にしか起きて
いない。ローン・レベルのスペシャル・サービサーの交代はより一般的で、コントロール・パー
ティー(通常、最劣後ノート保有者)の要求によるケースが普通である。
EMEA の CMBS では多くのサービシング業務の移管が行なわれている。移管は主にスペシ
ャル・サービサー業務に関連するものであり、米国と同様に、ローン・レベルで当該ローンある
いは案件のコントロール・パーティーの要請によって行なわれてきた。どのケースでもサービ
サーは迅速に業務を移管している。いずれも、少数のローンに関わるもので、解任されるスペ
シャル・サービサーのデフォルトなどストレスの加わった状況で行なわれたものではない。とは
いえ、集中度が高い EMEA の CMBS ポートフォリオにおけるサービサー交代は、分散度が
高いローン・ポートフォリオや複数の司法管轄が関わるポートフォリオの移管よりも簡単である
というのがムーディーズの見方である。
EMEA の ABS でバックアップ・サービサーを見つけるのは困難な場合がある
ドイツとベルギーでノンプライムの消費者ローンをオリジネートする CEB(Credit Europe Bank
N.V.)は、EMEA でバックアップ・サービサーを任命する際に生じる問題を説明する良い事例
となる。CEB は消費者ローンを裏付けとする格付 A2 の ABS のオリジネーター兼サービサー
である。ムーディーズは 2008 年 12 月のクロージングの時点で Baa3 だった CEB の格付を
2009 年 3 月に Ba2 に引き下げた。この格下げによって CEB は 90 日以内にバックアップ・サ
ービサーを特定・任命する義務を負い、それができない場合はノートの償還を余儀なくされる。
90 日の期間に CEB はいくつかの候補にアプローチしたが当初見込んでいた手数料ではバ
ックアップ・サービサーと契約を締結できず、2009 年 6 月にノートの償還が開始された。その
後、パフォーマンス・トリガーにも抵触することになり、現在、ノートは加速償還に入っている。
ムーディーズは、2009 年 12 月にノートを A3 に格下げした。
EMEA では第三者サービシング市場が小規模に分断されており、米国に比べても、またアジ
ア太平洋の主要アセットクラスに比べても、サービシングを引き受けるバックアップ・サービサ
ーの数は限られているようにみえる。これまで米国では、サービシング業務を引き継ぐサービ
サーを見つけるのが問題になることはごく稀で、最大の問題は、以下で述べるように、後任者
のサービシング手数料が不十分なことであった。従って、EMEA の法管轄域では後任サービ
サーの採用にはより時間がかかり、サービサーの確保は必ずしも保証されないと想定すべき
である。ムーディーズは、この地域におけるサービサーに関するバックアップ・サービシングと
流動性の基準を決定する上でこの点を考慮する。
経営難に陥ったサービサーの解任は大幅に遅れる可能性がある
米国では通常、短期間で新たなサービサーを導入できるとはいえ、サービサーの解任には時
間がかかる場合がある。特に、パフォーマンスに基づくトリガーが組み込まれていない場合や、
サービサーが破産手続きに入った場合にその傾向が高まる。証券化案件の投資家にとって、
サービサーの交代が認められるのは、サービサーの破綻、コベナンツ違反、適切な契約当事
者への送金の不履行など、サービサーがデフォルト事由に該当する場合のみである。一部の
司法管轄では、サービサーの破綻はサービシング契約の解約事由に当たるものの、サービサ
ー交代の決定が投資家ではなく裁判所の決定に委ねられる。破綻したサービサーにとって、
サービシング業務からのキャッシュフローが主な収入源である場合、当該サービサーは、サー
ビシング業務の移管に抵抗し、裁判所にサービシング業務の継続を認めるよう働きかける可
能性が高い。プールのパフォーマンス(延滞や損失など)や企業の財務指標に基づくトリガー
は、投資家の観点からは、サービサーの破綻前に業績悪化を捕捉しサービシング業務を移
管するのを可能にするものである。とはいえ、トリガーに近づいたサービサーはサービシング
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クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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業務の移管を回避するために破産を申請することもあり、トリガーは完全なものとはいえな
い 12。
DVI Financial Services はサービシング業務の移管の難しさを示す一例である。DVI は診断・
画像機器やその他医療機器のためのファイナンスに従事し、1990 年代半ばから 2003 年まで
ABS を発行していた。問題の最初の兆候は、独立した公認会計士による監査が完了していな
いことで、同社の財務内容の開示が不十分であるという SEC の決定が下された 2003 年 3 月
に現れた。最終的に DVI は 2003 年 8 月に再生型破産手続きの適用を申請した。サービシ
ング業務の移管は、問題が発覚してから 11 カ月、申請から 6 カ月経った 2004 年 2 月に行な
われた 13(次のコラムを参照のこと)。
時系列で追った DVI のサービシング業務移管までの経緯
2003 年 3 月 31 日-独立した公認会計士による監査が完了していないことから同社の
2003 年 3 月 31 日付け四半期報告書は不十分であるとの SEC による決定が下された結
果、DVI は債務契約のコベナンツに違反することになった。
2003 年 7 月-DVI は資金難に陥り、従来からのローンとリースのオリジネーションを継続
できなくなったと発表。
2003 年 8 月 25 日-流動性不足のため、DVI はチャプター・イレブンに基づく再生型破
産手続きの適用を申請した。申請後、同社は担保権が設定されていないアセットの売却を
提案し、従業員の約 3 分の1を解雇した。
2003 年 10 月 8 日-再生型破産法申請後、DVI は担保権が設定されていないアセットの
売却を試みたが、2003 年 10 月 8 日、同社はいずれのビッドも受諾しなかったと発表した。
DVI はまた、アセットを個別に売却しポートフォリオ内の残存アセットを縮小していくと発表
した。
2003 年 10 月 17 日-DVI は、サービシング基盤を最高入札者に売却する意図があり、落
札者を 11 月 19 日に発表し、12 月 15 日に移管を開始すると発表した。
2003 年 11 月-2003 年 11 月の分配日時点の DVI の案件の 30 日以上延滞率は 25%
から 38%の範囲で、2003 年 1 月から 7 月の期間の平均延滞率の約 4 倍から 7 倍に上昇
していた。DVI の財務的な危機は深刻化しており、サービシングの基盤を売却する意図を
発表していたことから、スタッフは減少し、ローンのサービシング、回収、不良債権の回収
活動が低下した。U.S. Bank によると、同社のサービシング部門の従業員は大幅に縮小し、
以前は 8 人以上いた回収要員は 4 人にまで減っていた。
2003 年 11 月 20 日-DVI は証券化案件のサービシングを受託者である U.S. Bank
National Association の関連会社、U.S. Bancorp Portfolio Services(USBPS)に移管するため
の予備契約を締結したと発表した。
2004 年 2 月 24 日-DVI から USBPS へのサービシング業務の移管が完了した。
13
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12
日本では、サービサーの破綻前あるいは破綻時のサービシング業務の移管が、必ずしも最善の策とはならない場合があ
る。サービサーが再生型の倒産手続を申請した場合には、申請後もサービシング業務を継続した方が債務者の混乱を
避けることができるため、交替させるよりもプールのパフォーマンスが良くなることがある。
13
2004 年 4 月、破産裁判所が任命した検査官が DVI の不適切な行為を報告した。それらは、(i)貸し手への不適格担保あ
るいは二重担保の提供、(ii)一見、法的妥当性があり、ビジネス上の根拠があるようにみえる様々な手段を用いて、故意
に低く抑えた延滞率と損失率の維持、(iii)著しく過少評価され持続不可能な貸倒引当金の維持、(iv)いくつかの疑わしい
会計慣行を用いた不適切な収益認識、である。パフォーマンスの悪化より、主として 2003 年 9 月から 2004 年 4 月にか
けてとられた 3 回の格付アクションによって DVI の証券は大幅に格下げされ、Aaa クラスの証券が全て損失を被った。
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オートローン・設備リースのモノラインの損失率は低い
1990 年代初めから 2008 年にかけて、モノライン保険会社は活発に米国のオートローン・設備
リース案件の保証業務行っていた。これら「ラップ」案件のスポンサーは通常、小規模で無格
付の貸し手であり、追加でローンを貸し出す際の資金調達手段を、出口戦略として証券化に
依存していたため、オペレーショナル・リスクが相応に高かった。更にリスクが増幅したのは、
パフォーマンス・トリガーに抵触しない限り、継続的なオリジネーションのための資金調達がで
きるリボルビングやウェアハウジングタイプの案件であった。
小規模なスポンサーの案件に対する保証案件によるオペレーショナル・リスクは、相当程度高
かったにも関わらず、1990 年代後半に市場が大きく混乱した時期においても、これらの案件
への保証業務がモノラインにもたらした損失は小さかった。1998 年には、世界的な流動性危
機がもたらした市場環境によって、サブプライムのオートローン ABS の発行は減少した。年間
を通じて株価や PER が下落し、上場会社の時価総額は急落した。それにより、オートローン
市場では大規模な統合が進展し、結果的に少数の企業に収斂されることとなった。同様に設
備リース・セクターでも業界再編が進展して、小口機器を扱う設備リース会社の数は、1990 年
代半ばから後半にかけて増加した後、2000 年代前半に大幅に減少した。
モノラインは、コントロール・パーティーとして監視を強化することによって、小規模のスポンサ
ーで占められるこれらのセクターにおけるオペレーショナル・リスクを大幅に軽減することがで
きた。モノラインは、保証を行うことで相応の「スキン・イン・ザ・ゲーム(利害共有関係)」を有し
ており、スポンサーのパフォーマンスをモニターし必要に応じ積極的に対策を講じる動機があ
った。
モノラインは頻繁に企業動向をモニターし、第三者の監査人を雇って明文上の方針・手続の
遵守状況に加え、スポンサーの与信審査、サービシング、キャッシュ・マネジメントのオペレー
ションをランダムに抽出し確認させた。通常、第三者の監査人はデータの整合性やローンの
ファイルの整備状況を点検した。
モノラインは、スポンサーのパフォーマンスを確認し、財務指標や流動性資産の状況に加え、
与信審査方針の変更案をレビューした。モノラインは、状況が許す限り、迅速にパフォーマン
スや財務状況の悪化への対策を講じた。例えば、モノラインは案件のトリガー違反を活用する
ことで、担保要件の強化、健全な案件で超過した現金の捕捉、サービシング業務の移管など、
保証対象案件に有利に働く譲歩を引き出すことができた。
モノラインの経験が示しているのは、強い立場にあるコントロール・パーティーは、サービサー
の脆弱な財務基盤に起因するオペレーショナル・リスクを緩和できるということである。これに
対し、モノラインによる保証が無い多くの案件では、受託者がコントロール・パーティー(一般
的には過半数投資家)の指示を待つが、財務状況が悪化した案件の解決策に投資家が同意
し、決定事項(サービサー破綻前のサービシング業務の移管など)を受託者に伝えるまでに
時間がかかることがあり、迅速なアクションを取り難い場合がある。
後任サービサーへのサービシング手数料は不足することがある
サービサーの解任の原因となる条件は各案件で定義される。米国のほとんどの案件では、サ
ービサーが解任された場合には、受託者が適切な後任サービサーを探し出すこととされてい
る。受託者がサービサーを見つけられない場合、裁判所にサービサーの任命を申請できるも
のの、最終的にはラスト・リゾートの後任サービサーとして、受託者自らがサービシングを行な
うこととされている。後任サービサーが当初サービサーよりも高い手数料を受領できることを定
めた案件もあるが、ほとんどの案件では当初サービサーと同額の手数料しか認められない。
サービシング手数料はサービシング業務の移管に伴う厄介な問題の一つとなる。ほとんどの
案件で、後任サービサーは当初サービサーと同額の手数料を受領する権利を付与される。し
かし、アセットを証券化する企業の多くは、とりわけ「債券売却益」会計が重視される場合など、
最小限に抑えたサービシング手数料を規定したいと考える。ムーディーズの格付分析の観点
からは、事前に定められた手数料で移管後もサービシング業務が行われるかどうかが、サー
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クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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ビシング対象アセットからどの程度のキャッシュフローが、格付対象債券の元利払いに充当で
きるかを判断する上で重要である。
ほとんどの案件では、予め定められた手数料でサービシングを行なうことが、後任サービサー
や後任サービサーとなる受託者に義務づけられている。そのため、受託者は、契約に定めた
手数料が、質の良いサービシングの提供に必要となる額に不足するリスクに晒される。受託者
はこれまで、補償されることのないサービシング・コストを自ら負担することに消極的だった。結
果として、サービシング・コストの増加は本来元利返済に充当されるべきだった案件のキャッシ
ュフローで賄われてきた。
サービシング業務の移管は、事前に案件の契約関係書類に通常は記載されていない費用を
発生させる。受託者が補償を受けられる案件費用の上限額を規定した案件もある。しかし、多
くの契約は案件費用について言及していない。ほとんどの場合、サービシング業務の移管に
伴う費用が多額に上ることはない。しかしその費用が極めて高くなる案件も一部にある。問題
とされた Heilig-Meyers のワークアウトのケース(分散型サービシングに関する後段の節を参照
されたい)では、受託者はサービシング業務の移管費用を賄うために、約 35 百万ドルをエス
クロー口座に寄託したが、一部投資家はこの金額を過大と考えた。過去、いくつかの案件で
は、サービシング業務の移管に伴う費用が低く見積もられてきたとムーディーズは考えている。
米国で送金停止命令が案件を中断させた事例はないが、一時的なものであっても依然、
考慮すべきリスクである
サービサー破綻時の破産裁判所の送金停止命令によって、証券化案件への支払いが中断
する可能性が生まれる。送金停止命令(オートマティック・ステイ)は、破産を宣告した債務者
から債務弁済を受けるために債権者が何らかの行為(訴訟、担保権執行、債権差押通告、債
務者に対する全ての回収行動)を起こすのを中止させる禁止命令である。送金停止命令は破
産申請が行なわれた時点から開始する。証券化ローンはサービサーの資産ではないが、裁
判所が債務者の資産を把握する過程で送金停止命令の対象とすることがある。
米国ではこれまで、サービサーの破綻に伴う送金停止命令によって証券化案件のキャッシュ
フローが影響を受けた事例はなかった。裁判所は迅速に、証券化案件を支える信託財産は
債務者には帰属しないとする結論を示してきた。現在のところ、送金停止命令が証券化案件
のキャッシュフローに影響を与えた例はないが、格付が高い案件では、定義上、極めて発生
確率の低いイベントからも投資家が隔離されていなければならないため、そういったシナリオ
も考慮する必要がある。
日本ではサービサーが倒産手続の申請をした場合、当該サービサーが証券化案件のビーク
ルの口座に送金するのを管財人が認めることは通常ない。一般には、証券化案件の受託者
が管財人と交渉して送金が再開される(通常、倒産手続の申請から1、2 カ月以内に再開され
る)。中断期間は流動性準備から現金を引き出してノートの利払いを行なう。
支払い中断による利払いのデフォルトの例はほとんどない
証券化案件において利払いのデフォルトを発生させうるオペレーション上の問題は多岐に渡
る。それらは(1)サービサーの破綻に伴う送金停止命令、(2)債券の計算を行なうキャッシュ・マ
ネージャーの契約不履行、(3)債券保有者への支払いのため回収金口座に送金する担保マ
ネージャー(collateral manager)の契約不履行、(4)サービサーから借り手への支払請求の送付
が行われなかったことによる回収額不足、(5)案件当事者による利用可能な流動性補完(準備
勘定または流動性ファシリティー)からの引出しが行われないことなどである。
現在までのところ、オペレーション上の問題により利払いのデフォルトが発生した事例はほと
んどないが、直近の例として信託口座の凍結に起因する Taylor, Bean & Whitaker Mortgage
Corp.(TBW)関連の証券が挙げられる。Ocala Funding は延長可能ノートを発行する ABCP コ
ンディットで、TBW がオリジネートする住宅ローンのためのウエアハウス形式のファンディング
を提供している。担保代理人(collateral agent)兼カストディアンの Bank of America(BoA)は、
Colonial Bank(Colonial)に全信託財産を寄託した。その後、(i)Colonial は BoA に対する担保
15
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クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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提供(約 16 億ドル相当の現金と担保付き社債)を怠り、(ii)BoA は Colonial を提訴し、
(iii)Colonial は FDIC の管理下に入るという経緯を辿った。
その結果、現金とその他の担保を Ocala の残存 ABCP および劣後債の返済に利用できなく
なった。Ocala のノートはデフォルトに陥り、P-1 から NP に格下げされた。さらに FDIC が案件
口座を凍結したことから、TBW がサービサーとなっている RMBS の 2009 年の 8 月分と 9 月
分の支払いも履行されなかった。
一元管理されていないサービシング・モデルはリスクを増大させる
ほとんどのサービシング業務は統合、集中化されており、債務者の支払金は一箇所に送金さ
れ、回収業務は単一の事務所で行なわれる。しかし、一部のサービシング基盤では、一元管
理されておらず、複数のオフィスで請求、回収、資産分配を行なっているケースがある。複数
のオフィスで行なわれる回収業務やアセットの売却処分を調整する必要が生じるため、業務
が分散しているサービサーからのサービシング業務の移管は、業務が一元管理されているサ
ービシング基盤の移管よりも難しい。
スポンサーが信用力の低い顧客を対象とする「バイ・ヒア・ペイ・ヒア」モデルを用いる場合、一
元管理されていないサービシング基盤に起因するリスクは増幅される。そのような事業基盤で
は、販売店が消費者に取扱品を売るだけではなく、その顧客から代金を回収し、必要に応じ
てアセットの売却処分にも関与する。多くの場合、借り手は現金、小切手、送金為替を用いて
その販売店で支払いを行なう。
Heilig-Meyer の事例は、スポンサーの破綻に伴って店舗が閉鎖した時に、回収が一元管理さ
れていない販売店で行なわれた場合の留意点を示している。Heilig-Meyer は約 1,240 店舗を
抱える米国最大の上場家具小売店であった。消費者は同社の支店で家具を買い、融資を受
け、多くの場合、同じ支店で月次の支払いを行なっていた。
2000 年 8 月、Heilig-Meyer は米国破産法第 11 章に基づく会社更生を申請し、10 月にサー
ビシング業務の継続を断念した。証券化プログラムの受託者である First Union は OSI
Portfolio Services,Inc.と NCO へのサービシング業務の移管を取りまとめた。サービシング・レ
ポートによると、会社更生の申請時までの Heilig-Meyer のパフォーマンスは、ムーディーズの
格付付与時の想定の範囲内にあった。Heilig-Meyer の破綻後、サービシング業務を一元管
理しようとする取組みが、債権のパフォーマンスを悪化させる原因となった。Heilig-Meyer は各
支店で個別口座のサービシングと回収を行なっていたため、業務が一元管理されていた場合
よりもサービシング業務の移管が困難となった。店舗閉鎖とともに債務者の返済意志は大きく
低下した。後任サービサーは債務者とコンタクトをとり、店舗で支払うのではなく、送金で支払
うよう要請する予定だった。
ムーディーズは、会社更生申請後数カ月間、2001 年 2 月までサービサー・レポートを全く受
領していなかった。会社更生後のレポートが入手できるようになった時、債権のパフォーマン
スに関するワーストシナリオと考えられる事態が発生していたことが判明した。2000 年 10 月か
ら 2001 年 1 月までの 4 カ月の信託債権の延滞率は 60%から 70%に達した(因みに 2000
年 7 月の延滞率は 7.5%)。シニア投資家が損失を被ったため、当初 Aaa の格付が付与され
ていた Heilig-Meyer のシニア債券は最終的に Caa2 まで格下げされた。
Ⅳ. ムーディーズが考慮するオペレーショナル・リスクの基準
第Ⅲ節では、過去に発生し、本節で提示する基準を設定する基礎となったオペレーション上
の問題を概観した。付表 1 と 2 に示すアプローチは、サービサー、キャッシュ・マネージャー/
計算代理人、流動性補完に関連するものであり、Aaa 格付を有する証券化取引を評価する際
のものである。
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クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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個別案件の格付委員会は、オペレーショナル・リスクの要因を検討する。そして、追加信用補
完や流動性補完が十分かどうかを、案件のオペレーショナル・リスク、スポンサー、国、ストラク
チャー、アセットクラスを考慮した上で決める。またムーディーズは、オペレーショナル・リスク
の基準として提示した要件を軽減し得る要因がないかも検討する。例えば、関連する規制体
制によるリスクからの保護 14、複数のサービサーが設置されている場合、バックアップ・サービ
サー・ファシリテイター(特定の状況下でバックアップ・サービサーまたは後任サービサーの選
任に責務を負う者)が設置されている場合、潤沢な流動性と信用補完がある場合、またプー
ル内の債務者の格付が高く受託者の口座に直接入金する場合等が考えられる。
本アプローチは、サービシング業務が一元管理されていない場合は適用されない。第Ⅲ節で
述べた通り、一元管理されていない場合は、サービシング業務が混乱・中断するリスクがかな
り高く、そのような案件は慎重に評価されるべきである。こうした案件については、本レポート
で示したオペレーショナル・リスクに関しての基準を個別に検討する。
セクション A では、サービサーを投資適格等級と投機的等級に分けて説明し、セクション B で
は、キャッシュ・マネージャーについて説明する。セクション C では、流動性補完について説
明する。
A.サービサー
このセクションでは、サービシングの態勢を分析する際の、ムーディーズの基本的な考え方を
説明する。この基準は、以下に対して適用される:
» マスター・サービサー(もしあれば)
» プライマリー・サービサー(マスター・サービサーがいない場合)
» アセット・プールに対して 10%以上(閾値はアセットクラスによって異なり得る)のサービシン
グに関わるプライマリー・サービサーまたはサブ・サービサー、あるいは場合によりスペシャ
ル・サービサー
» サービサーと分離している場合の、債務者の返済を回収する役割を担うアドミニストレータ
ー(学生ローンなど)
投資適格等級のスポンサー
まず初めに、付表 1 では以下のような場合に適用するガイドラインを示す。
1. 案件のスポンサー/サービサー(またはその過半数株式を所有する親会社)が投資適格
等級である。このカテゴリーには、州機関あるいは州の公的系列機関である、政府保証民
間ローン(FFELP)の信託のスポンサー/サービサーが含まれる。
2. 案件のスポンサー/サービサーに格付は付与されていないが、クレジット・エスティメートが
投資適格等級相当である。または、
3. サービサーは独立の第三者であり、投資適格等級の格付か、SQ3 以上のサービサー・ク
オリティ(SQ)・レーティング 15(か同等のもの)を有する。完全に独立した第三者である場
合、格付よりも、サービシング基盤の質、専門的能力、規模が重視される。
付表 1 のセルは、サービシングの移管の難易度に応じて 3 つに分類される。すなわち、1-A
は、多数の第三者サービサーに移管が可能なアセットであり、1-B は、第三者サービサーが
限られているため、サービシング業務の移管により不確実性を伴うアセットであり、1-C は、第
三者によるサービシングや移管が不可能もしくはかなり困難なアセットを指している。付表 1
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14
例えば日本の銀行がサービサーである場合、ムーディーズはバックアップ・サービサーが必ずしも必要であるとは考えて
いない。預金保険法のもとでは、日本の銀行のサービシング業務は国の決済システム保護の観点から中断されることは
ないと考えられる。ただし、例えばサービサーによる回収金の送金が一時的に遅延する等、予期せぬテクニカルなイベン
トが同時に起こる可能性に備えて、格付対象証券の少なくとも 1 回分の利払いに相当する現金が維持されるべきである
と考えている。詳細は、本稿末尾の「ムーディーズの関連リサーチ」を参照されたい。
15
ムーディーズ・ジャパンにおいては、サービサー・クオリティー(SQ)・レーティングは取り扱っていない。
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の基本的なパターンとして、第三者サービサーが多数存在し過去の移管実績が充分にあるよ
うな標準的なアセット・タイプほど、サービサーの格付要件が緩くなっている。
1-A の場合は、サービサーが解任された際に後任サービサーを手配する義務を負う関係者が
いる限り、バックアップ・サービサーの設置がなくとも、信用力に大きな悪影響を及ぼさないと
考えている(詳細は付表 1 を参照)。サービサーが解任される可能性は低く、仮に解任された
としても、第Ⅲ節で述べた過去の実績を見る限り、移管が上手くいく可能性が高いため、バッ
クアップ・サービサーの設置は必須ではない。
1-A に該当するアセットとして、例えばオートローン、CMBS、RMBS など、米国の標準的なア
セットが多くあげられる。欧州・中東・アフリカ(EMEA)では、CMBS、英国の RMBS、オランダの
RMBS など一部の大規模で確立されたアセット・タイプがあげられる(EMEA CMBS はいくつか
特有の性質を有しているが詳細は付表 3 で述べる)。また、アジア・太平洋地域の多数の案
件がこのカテゴリーに属する。
後任サービサーへのタイムリーな移管に関する不確実性は、1-B の方が 1-A より高い。1-B の
場合、第三者による証券化アセットのサービシングは可能ではあるが、サービシング業務の移
管の阻害要因となる以下の条件が一つ以上該当する。
» 第三者がサービシングを行う市場が確立していない
» 代替のサービサー数が比較的限られている
» サービシングの移管が困難であり、時間を要する
» 過去の移管実績が乏しい
» 手数料相場が明確ではない
高い不確実性を補うため、リンクを遮断するための要件は 1-A よりも厳しくなる。具体的には、
案件クロージング時点でバックアップ・サービサーの設置が、以下の場合を除き、必要となる。
» サービサーの格付が A1 から A3 以上であること。さらに、(a)A3 が失われた時点でバックア
ップサービサー・ファシリテイター(案件クロージング後、トリガーに抵触した場合にはバック
アップ・サービサーを選任、またはサービサーが解任された場合には後任サービサーを選
任する義務を負う)を設置するトリガーがあること、あるいは (b)付表1の脚注 5 に記載され
ている米国の受託者に関する標準的な規定があること。もしくは、
» サービサーは Baa3 以上の公表モニタリング格付(モニタリング対象となる公表格付)を有し
ており、投資適格等級が失われた時点でバックアップ・サービサーを設置するトリガーがあ
ること。さらに、上記オプションよりも多くの流動性補完や信用補完が案件に備わっている
こと。加えて、(a)案件クロージング時よりバックアップ・サービサー・ファシリテイターが設置
されていること、または(b)米国の受託者に関する標準的な規定が契約書上明記されてい
ること。
1-B に記載されている状況は、米国では稀であるが、EMEA では特に小規模市場の多数の
案件が該当する。第Ⅲ節で述べたように、EMEA のサービシング市場は、米国に比べて分断
されている。
1-C は、対象アセットを第三者がサービシングできないもしくは第三者に移管できないか、可
能であっても相当の困難を伴う場合である。
第三者によるサービシングができない場合、あるいは第三者へのサービシングの移管ができ
ない場合は、サービサーは通常 Aa3 以上の公表モニタリング格付を有している必要がある。
サービシングの移管が可能だとしても相当の困難を伴う場合は、サービサーは A3 以上の格
付を有すること、またサービサーが Aa3 以上の公表モニタリング格付を有さない場合は、案件
クロージング時よりウォーム・バックアップ・サービサーが設置されていることが必要となる。
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1-D は、90%以上が政府が保証する FFELP ローンで構成される米国の学生ローンを裏付け
とする証券化商品のマスター・サービサーまたはアドミニストレーターにのみ適用される。マス
ター・サービサーまたはアドミニストレーターが担う義務は、通常、管理的機能に限定される。
また、政府保証を失うことなく多数のサービシング業務の移管が行なわれてきた実績、標準化
されたサービシング基盤によるローンの移管の容易さに鑑みて、FFELP ローンのサービシン
グ業務の移管のリスクは低い。
投機的等級のスポンサー
第Ⅲ節で述べた過去の経験は、投機的等級、なかでもシングル B 水準の小規模な会社に関
して、特にオペレーション上の問題が発生しやすいことを示唆している。サービサーが経営難
に陥った場合に発生しうる問題としては、サービシング人員の削減、資金移動プロセスの監視
の低下、取引管理の低下、詐欺を含む不適切なサービシング実務などが考えられる。
バックアップ・サービシングや第三者によるレビューなどの案件上の仕組みは、オペレーション
上の問題を軽減する上では有用であるが、絶対確実なものではない。第Ⅲ節で列挙した案件
の中には、このような仕組みがありながら損失が発生した事例がある。オペレーション上の問
題が発生したケースは多くの場合、小規模な投機的等級のスポンサーが係わっていることを
鑑みると、そのような証券化取引に対して Aaa を付与できるのかが重要な問題となる。
相当程度の軽減策を施せば付与できることもある、というのがこれに対しての答えである。基
準では、スポンサーの格付が Ba3-B1(アウトルックは安定的)以上(付表 2 の 2-A)の場合、案
件クロージング時より「ウォーム」バックアップ・サービサーが設置されていれば、より高い格付
の付与は可能である(バックアップ・サービサーのウォーム待機については、「付表全般に対
する注記」を参照)。バックアップ・サービサーは、案件クロージング時に付表 1 にあるサービ
サーの格付要件を満たしている必要がある。また、基本的なアセット・タイプの場合、追加的な
流動性補完および信用補完が十分にあれば、案件クロージング時点ではコールド待機も許
容可能となる。待機状態がウォームの場合でもコールドの場合でも、受託者が後任サービサ
ー手配の義務を負わず、バックアップ・サービサー・ファシリテイターも案件クロージング時に
設置されていない場合は、バックアップ・サービサーは投資適格等級である必要がある。
留意点が 2 つある。まず、提示した手法はあらゆるシナリオに対応し得るものではなく、スポン
サーが Ba3/B1 であっても、特に信用力の変動が大きいような場合には、Aaa を付与できない
場合がある。次に、Aaa が付与可能な案件のスポンサーであっても、信用力がより高いスポン
サーの類似プールに比べ、より高い信用補完や流動性補完が要求される場合がある。
格付が B2 か B3 16の小規模なスポンサーの場合、オペレーショナル・リスクは相当高いとムー
ディーズは考えており、リスクを軽減するためにはより厳しい基準を設ける必要があることから、
以下のうちいずれか一つを満たしている必要がある。
» 付表 1 のサービサー格付要件を充足するマスター・サービサーが案件クロージング時より
従事しており、サービサーのパフォーマンス・リスクを負っていること。マスター・サービサー
は、スポンサー等の他社に業務を再委託できるが、パフォーマンスに対する責務や関連す
る義務はマスター・サービサーが負う。第Ⅲ節で述べたように、モノラインは、小規模でニッ
チなスポンサーの取引を管理することによって、オートローンや設備リース案件のオペレー
ショナル・リスクを軽減することができた。サービサーのパフォーマンス・リスクを負う強力な
マスター・サービサーであれば、同様の役割を果たし得るとムーディーズは考えている。
» 既に確立されたアセット・タイプであり、サービシングの代替可能性が高い場合、追加的な
流動性補完および信用補完が十分にあれば、ウォームまたはコールド待機のバックアッ
プ・サービサーが設置されていること。ただし、(a)米国の受託者に関する標準的な規定が
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小規模なスポンサーについての基準は、 ガバナンス上の懸念がなく、キャッシュフローと利益は黒字であり、流動性やリ
ファイナンスに起因する突発的な破綻の懸念がなく、大手会計事務所による会計監査を受けており、純資産が 100 百万
米ドル相当以上あり、所有形態が公開または非公開であるが個人所有ではなく、 最低 5 年以上の業歴があることである。
この基準は、業種やセクターにより異なる場合がある。
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契約書上明記されている、(b)バックアップ・サービサー・ファシリテイターが案件クロージン
グ時より設置されている、のいずれでもない場合は、バックアップ・サービサーは投資適格
等級であること。
2-A および 2-B に示すバックアップ・サービシングの基準は、標準的なアセットを取り扱うサー
ビシング業務の基盤が大きく、サービシングの基盤が十分な規模にあったり、そのフランチャ
イズに価値があるため、破綻してもサービシング業務が継続されると見込まれるだけの規模の
大きさや価値あるフランチャイズを有する場合には適用しない(付表 2 の 2-C)。また、サービ
サーが中央政府の強力かつ広範なサポートが十分に期待できる国に所在する十分な規模の
預金取扱金融機関であり、そのような規模であればサービシングのような業務のサポートが期
待できる場合についても同様である。この点は、1-A、1-B および 1-C に分類される投資適格
等級のサービサーについても適用できる。サービシングの基盤が大規模であれば、一般的に
は相当なサービシング収入があり、大規模な人員基盤を有し、フランチャイズに価値があり、
知名度も高い。こうした特性から、経営難に陥った場合でも、サービシングのオペレーションを
止める可能性は低いと考えられる。むしろ、貸し出し業務は停止したとしても、ポートフォリオ
は縮減の方向となるため、サービシングのオペレーションはそのままの状態で継続される可能
性が高い。なお、標準的でないアセットの場合は、個別に検討される。
巨大な基盤を有する投機的等級のスポンサーの一部に対して、米国の受託者に関する標準
的な規定が契約書上明記されている場合は、バックアップ・サービサーの設置がなくとも Aaa
格付を付与している。このカテゴリーの発行体に対し、状況によっては短期格付 P-1 の付与も
可能である。
サービシング基盤は巨大ではないが規模の大きな一部の発行体に関しては、バックアップ・
サービシングの態勢が適切であれば証券に Aaa 格付が付与できることもある。このような発行
体に対する P-1 の付与は、個別に検討される。
米国の FFELP ローンを裏付けとする証券化商品には、担保の性格とサービシング業務の標
準化の度合いに鑑みて、より緩い要件(2-D)が適用される。
B. キャッシュ・マネージャー
第Ⅱ節で述べたように、キャッシュ・マネージャー(CM)は、発行体に帰属する現金を発行体
のために管理し、債権のパフォーマンスを追跡し、案件キャッシュフローからの分配を計算す
る責務がある。米国では、通常はサービサーが CM を務め、アジアでは通常は受託者が CM
を務める。EMEA の ABS および RMBS では、CM は通常サービサー自身であるか、十分に
専門性を有し、時には規 制下にある第三者(例えば、スペインの Gestoras、フランスの
Management Company、あるいは信託受託/証券化サービス提供会社)であることもある。一方、
EMEA の CMBS では、CM は通常、プライマリー・サービサー/スペシャル・サービサーとは関
係のない高格付の銀行である。「計算代理人」も、「キャッシュ・マネージャー/計算代理人」の
セクションで述べたような重要な役割を果たす場合、CM と同様の要件を満たしている必要が
ある。
以下に述べる CM の基準は、第三者が CM の役割を担っている場合に適用される。
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信用力
CM(あるいは CM の過半の株式を保有する親会社)の格付が Baa3-Baa1 である場合は、投
資適格等級が失われた場合にバックアップ・キャッシュ・マネージャー(BUCM)を設置するトリ
ガーが必要である 17。
CM の格付が投機的等級の場合、
(i) BUCM の設置が必要となる。
(ii) CM は次の基準を満たしている必要がある。
–
格付あるいは信用評価が Ba3/B1 以上
–
そうでない場合は、セル 2-B にある「推定基準」(ただし、純資産基準は個々の案件
に応じて 25 百万米ドル相当以上と読み替える)を満たす必要がある。
スペインの Gestoras およびフランスの Management Company、その他同様の SPV などの無格
付の第三者の単一目的会社が CM の場合、こうした会社は管轄法に基づき設立された単一
目的会社であるということであれば、「推定基準」を満たしているとみなす。この場合、主にこう
した会社がその役割を遂行する能力に着目し、BUCM は必要ないと考える。また、これらの
主体は BUS ファシリテイターとしても機能すると考えている。格付のない第三者の限定目的
会社に関しては、BUCM の必要性について個別に分析を行う。
CM と BUCM との契約
CM と BUCM 間の契約には、次の規定が含まれていなくてはならない。
» CM 契約には、CM に債務不履行事由(例えば、支払期日までに必要な計算が完了して
いない)が起きた際に自動的に解任となる規定が必要である。
» BUCM は、上記 CM の基準のうちの一つ(すなわち、最低でも修正後の推定基準)を満た
している必要がある。
» BUCM 契約には、約定の支払(通常は利息やスワップの支払)が期日通りに行われるよう
に手当する規定が必要である。
» CM が解任となった場合に BUCM が自動的に任命される
» BUCM は、案件上のデフォルト事由が発生した場合に、所定の日数以内に業務に取り掛
かる責務を負っていること。
ムーディーズは BUCM の責務をレビューする。多数の案件において、BUCM は次のような
責務を負っている。
» 調達スキームに関する重要なデータを受領し保管すること
» 発行体/アドミニストレーターにより作成されたレポートを受領およびレビューすること
» 全ての主要銀行、受託者、サービシング口座に関するリストをあげ、適用される方針および
手順に関する全てのマニュアルの写しを保持すること
» 案件の主要当事者と定期的なデューディリジェンス・ミーティングを持つこと
17
21
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CM の格付は A3 を上回っているが、指名するトリガーは備えていない案件が最高格付を達成することは可能ではあるが、
ノートの格付は CM の格付にリンクすることになる.。CM の格付が Baa1/Baa2(もしくは過半株主である親会社の格付がこ
の水準にある子会社)で、Baa3 を失った時点で BUCM を任命する義務がない案件に対し、Aaa もしくは Aa の格付を付
与できるかどうかは、個別に分析した上で判断する。こうした分析においては、CM の役割がサービサーから独立した第
三者によって担われているか、CM ファシリテイターの存在、CM が業務を履行しなかった場合のスワップ終了費用の影
響、およびこの役割を担っている者の質、等を検討する。例えば CM(もしくはその親会社)が預金取扱機関で、銀行財務
レーティングが投資適格か、などである。CM が Baa3 で、Baa3 を失った時点で BUCM を任命するトリガーを備えていな
い案件は、通常 Aaa や Aa に達しないと考えている。
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» 銀行/受託者/サービサーの口座情報への直接かつ独立したアクセスを持つこと
» 調達スキームの運営に必要なソフトウェア、ハードウェアおよびライセンスのリストを維持す
ること
BUCM の責務は実行可能なものでなければならない。すなわち、BUCM の準備の度合やオ
ペレーション能力を見たときに、とても容易には遂行できないと思われるレベルの計算や不足
している情報の提供まで求めるべきではない。
C. 流動性補完
適切な流動性補完の水準は、以下のような要因に左右される。
» スポンサーの格付
» 証券化されるアセットのタイプ(標準的なものか特殊なものか)
» 当該セクターにおける、サービサー移管の実例および移管に要した期間
» バックアップ・サービサーが設置されているか、当該市場に多数のバックアップ・サービサ
ー候補が存在するか
» 当該市場での、サービサー破綻時の裁判所による送金停止命令(オートマティック・ステイ)
に伴う遅延の実例
» EMEA の CMBS では、借り手やポートフォリオに含まれるローンの裏付担保物件の管轄法
全ての取引において、流動性補完は、適切な額が堅実な原資により確保されている必要があ
る。原資には、現金、信用状(L/C)、P-1 格付を有する金融機関からのアドバンシング、あるい
は分散プールにおいて受託者により担保設定され管理されている SPV の口座に債務者が直
接入金を行う回収金、が該当する。キャッシュ・リザーブも流動性に使えるとみなしうる。ただし、
キャッシュ・リザーブを元本損失の補填にも使えるのであれば、リザーブが、サービシング中断
時における金利支払の不足分をカバーできる可能性を評価することになる。
証券化取引の流動性補完は、通常少なくとも 3 カ月から 6 カ月分の利払いをカバーする。
EMEA の CMBS では、デフォルトしたローンのワークアウト期間中の金利の不払いリスクを軽
減するため、通常、これよりもかなり長い期間をカバーするための流動性補完を備えている。
どの国で執行されるかにもよるが、一般的には 18 カ月から 36 カ月の期間がカバーされる。
また、サービシングが滞った場合、サービサーのレポートに依らず、流動性を引き出すことが
可能か、 さらに優先的な支払が滞ることを回避できるよう、ノートへの支払(スワップ、その他
優先する支払も含む)について、(「推定文言」 18の使用などによって)サービサー・レポートの
受領に依らず計算することが可能か、を確認する。
さらに、サービシングのアドバンスがある場合、バックアップ・アドバンスを提供する際に、アド
バンス提供の条件として、サービサーに何らかの情報や指示を求めるようになっていないか、
という点を考慮する。
18
推定文言とは、シニアに位置する手数料・費用や、スワップ、シニア債の金利の支払が、推定支払金額を用いることによ
って、サービサー・レポートが無い場合でも継続するようなストラクチャー上の特徴を指す。推定文言が使われるケースに
おいては、以下のようなストラクチャー上の手当て等がなされているかどうかを考慮する。
(i)
(ii)
(iii)
(iv)
(v)
(vi)
(vii)
(viii)
22
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ノート保有者への支払を推定金額を用いて行うことができることがノートの条件として認められているか
スワップ・カウンターパーティが、推定文言の使用を認めているか
名目上の残高についての推定が、前回金利支払を行えなかった時点での残高に等しくなるように設定されているか
エクセス・スプレッドが推定期間中はトラップされるようになっているか
推定期間中、元本がトラップされるようになっているか
推定期間中、繰延べ可能な金利ならびにステップ・アップ・クーポンがトラップされるようになっているか
ウォーターフォールならびにスワップ契約において、照合する仕組みになっているか
推定文言を使用するのは、代わりとなるサービサーがフルに機能するまでの間のみとなっているか
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付表 1.投資適格等級のスポンサーまたは第三者サービサー
サービサーの格付
Aaa/P-1 付与の要件(以下のうちどれか 1 つに該当すること)
下記のいずれかの場合:
1-A
基準
1-B
基準
1-C
基準
サービサーがスポンサー
であり、かつサービサー
自身もしくはその親会社1
が投資適格等級 2 である
(公表格付、非公表格付
もしくはクレジット・エステ
ィメート 3)
対象アセットの第三者によるサービシン
グが可能であり、サービサー候補が多
数存在する。サービシング業務の移管
が容易であり、移管の実績が過去十分
にあり、手数料相場が把握されており、
織り込み済みである。
対象アセットの第三者によるサービシングは
可能であるが、以下のうち 1 つ以上に該当
する場合:①第三者がサービシングを行う市
場が確立していない、②代替サービサーが
限られている、③サービシングの移管が困
難を伴う、④過去の移管実績が乏しい、⑤
手数料相場が明確ではない。
対象アセットの第三者によるサービシン 裏付担保は主に FFELP 学生ローンで構成
グもしくは移管が、文言上または実質上 されている第三者に移管が容易なコモディ
できないか、可能であっても相当の困難 ティ・アセット。
を伴う。
あるいは
ガイドライン
1-D
基準
ガイドライン
» 案件クロージング時に BUS を必要とし
ない。
ガイドライン
サービサーが独立した第
三者であり、かつ上記格
付要件を満たすか、サー
ビサー・クオリティ・レーテ
ィングが 3 または同程度
以上に評価される場合
» 案件クロージング時での BUS4 設置は
不要。ただし、以下のいずれかを条
件とする。
(1)米国の受託者に関する標準的な規定
が契約書上明記されていること。
5
あるいは
(2)サービサーの格付が Baa3 から Baa1
である場合は、案件クロージング時に
BUS ファシリテイター6 が設置されている
こと。サービサーの格付が A3 以上の場
合は、A3 が失われた時点で BUS ファシ
リテイターを設置するトリガーが規定さ
れていること。
» 一定の状況下においては、投資適格
等級が失われた場合に BUS を手配
させるトリガーの規定が望ましい場
合もある。例えば、サービサーの格
付が Baa2/Baa37 で、特にサービサー
の格付が 1-2 ノッチ引き下げとなった
場合に、証券化取引が格下げ方向で
見直しとなる可能性があると格付委
員会が判断した場合や、サービサー
の格付の方向性がネガティブである
場合。
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» 米国の受託者に関する標準的な規定
が契約書上明記されていることが望ま
» サービシングの移管ができない場合
» 案件クロージング時にウォーム 8BUS を必要と
しいが必須ではない。
は、サービサーは通常 Aa3 以上の
する。ただし、以下のいずれかの場合は
公表モニタリング格付を有しているこ
例外とする。
と(格付水準は、アセットクラス、証券 適用対象
(1)(a)サービサーの格付が A1 から A3 以上
化取引の期間、オリジネーターのタイ
米国ではトラストの担保は 90%以上が
であること(格付水準は、上記の条件の不確
プ、例えば預金取扱金融機関やシス
FFELP ローンで構成されていること。
実性の程度、アセットクラス、証券化取引の
テミック・リスク上重要である等、によ
期間、オリジネーターのタイプ、例えば預金
って異なる)。また、サービサーと証
取扱金融機関やシステミック・リスク上重要
券化取引の格付との連動性につい
である等、によって異なる)。かつ、(b)A3 が
ては、格付とともにディスクローズさ
失われた時点で BUS ファシリテイターを設置
れる。
するトリガーがあること、あるいは、(c)米国
» サービシングの移管が可能だとしても
の受託者に関する標準的な規定が契約書
相当の困難を伴う場合は、サービサ
上明記されていること。
ーは A3 以上の格付を有すること、ま
ガイドライン
あるいは
(2)(a)サービサーは少なくとも Baa1-Baa3 の
公表モニタリング格付を有しており、かつ
(b)投資適格等級が失われた時点で BUS を
設置するトリガーがあること。さらに、上記(1)
を上回る流動性補完を備えていること。加え
て、 (c)案件クロージング時より BUS ファシリ
テイターが設置されているか、もしくは(d)米
国の受託者に関する標準的な規定が契約
書上明記されていること。
たサービサーが Aa3 以上の公表モ
ニタリング格付を有さない場合は、案
件クロージング時よりウォーム BUS
が設置されていること(サービサーや
BUS の格付の組み合わせが上記以
外の場合は、個別に検討される)。
クロスセクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
STRUCTURED FINANCE
サービサーの格付
Aaa/P-1 付与の要件(以下のうちどれか 1 つに該当すること)
適用対象
適用対象
» 米国:多くの ABS、CMBS、RMBS
» EMEA: CMBS、英国およびオランダの
RMBS など大規模で確立されたアセ
ットクラス
» 米国: 一般的ではないが可能性があるケ » 米国:まれであるが可能性あり
ースとして、Baa2/3 のスポンサーの、ノン » EMEA:小規模なマーケットおよび標準
キャプティブ・ノンバンクによるディーラー
的でないアセット
向けフロアプラン案件
適用対象
» アジア:多くの ABS、RMBS
» EMEA: ABS と RMBS の多数案件
» アジア: 日本の消費者金融 ABS
の一部
1. 親会社の格付を参照するためには、親会社はサービサーの株式の過半を所有し、決算報告時は連結扱いであり、親子関係を示す証拠が必要である。
2. 1-D の FFELP 信託によくみられる明示的な格付を有しない州政府や州機関にも適用される。
3. 各セルで示される格付要件のうちの一部は、優先無担保(またはそれ相当)の公表モニタリング格付(公表されかつモニタリング対象となっている格付)によって満たされる必要がある。
4. BUS=バックアップ・サービサー
5. 米国の受託者に関する標準的な規定:米国の多くの案件では、受託者は、サービサーの解任に際し、a) 後任サービサーを選任するか、b) 自ら引き継ぐか、c) a)、b)が不可能もしくは行う意志がない場合には、管轄の裁判所に後任サービサーを選
任するよう申し立てる旨の規定が信託証書もしくは信託契約に記されている。米国でサービサーが解任された際には、受託者は通常、後任サービサーを選任している。受託者が裁判所にサービサーを選任するよう申し立てた事例についてムーデ
ィーズは認識していない。この規定は、サービサー解任事由が発生した際に、案件がなすすべもなく放置される状況とはならないことを十分に保証しうる。
6. BUS ファシリテイターは案件クロージング後において、トリガーが抵触した場合に BUS を選任し、あるいはサービサーが解任された場合に後任サービサーを選任する義務を負う。欧州・中東・アフリカ(EMEA)の CMBS などの一部のアセットクラスで
は、投資家が後任サービサーや BUS を選任する権限がある旨、契約に記されていることがある。
7. 期間の長い案件については、トリガーとなる格付水準がより高いことが望ましい。
8. 十分な「ウォーム BUS」を構成する規定について詳述した後段のノートを参照のこと。
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MAY 27, 2015
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付表 2.投機的等級のスポンサー
サービサーの格付
サービサーがスポンサー
であり、かつサービサー
自身あるいはその親会
社 1 が投機的等級である
(公表格付、非公表格
付、クレジット・エスティメ
ート 2)
注記:第三者サービサー
は、投資適格等級である
か、サービサー・クオリテ
ィ・レーティングが 3 また
は同程度以上に評価さ
れていることを前提とし
ている。この基準を満た
さない案件は個別に検
討され、スポンサーの格
付および第三者サービ
サーへのバックアップ・サ
ービシング契約も考慮さ
れる。
Aaa/P-1 付与の要件(以下のうちどれか 1 つに該当すること)
2-A
基準
2-B
基準
2-C
基準
2-D
基準
対象アセットの第三者によるサービ
シングが可能である。
対象アセットの第三者によるサービシ
ングが可能である。
第三者によるサービシングが可能な標準的な
アセットであり、以下のいずれかに該当する。
裏付担保は主に FFELP 学生ローンで構成され
る。第三者に移管が容易なコモディティ・アセット
1)サービシングの基盤が十分な規模を有し、あ
るいは / また そのフランチャイズに価値があ ガイドライン
るため、破綻に際しても業務の継続が見込ま » サービサーが推定基準*を満たす場合、推定
れる。またサービシング手数料は妥当な水準
基準*を満たす指名されたバックアップ・サー
である。
ビサーの設置、または米国の受託者に関する
ガイドライン
ガイドライン
もしくは
標準的な規定があること。
» 以下のいずれかを満たすこと。
» 以下のいずれかを満たすこと。
2)サービサーは、中央政府の強力かつ広範な » サービサー/アドミニストレーターが推定基準*
(1)案件クロージング時よりウォーム (1)付表 1 のサービサー格付要件を充
サポートが十分に期待できる国に所在する十
を満たさない場合、2-C の基準を満たす指名
足するマスター・サービサーが案件クロ
BUS が設置されている。もしくは、
分な規模の預金取扱金融機関であり、そのよ
バックアップ・マスター・サービサー/アドミニス
ージング時より従事しており、サービサ
(2)基本的なアセット・タイプの場合、
うな規模であればサービシングのような業務を
トレーター、およびバックアップ・プライマリー・
追加的な流動性補完および信用補 ーのパフォーマンス・リスクを負ってい サポートされることが期待できる。
サービサーなどが指名されていることを追加
完が十分にあれば、案件クロージン ること(スポンサー等の他社に再委託
の条件を付して
Aaa の格付が付与される可
できるが、パフォーマンスに対する責務
グ時点ではコールド待機も許容可
能性がある。
ガイドライン
や関連する義務はマスター・サービサ
能。
いずれの場合も、(a)米国の受託者 ーが負う)非営利のマスター・サービサ » 巨大な基盤を有するサービサーの場合、(a)
米国の受託者に関する標準的な規定が契 *推定基準
に関する標準的な規定が契約書上 ー(またはアドミニストレーター)の格付
が
B2-B3(安定的)で、ウォーム・待機な
約書上明記されているか、(b)BUS ファシリ =ガバナンスに関する懸念がない。
明記されている、(b)BUS ファシリテイ
テイターが案件クロージング時より設置され =流動性補完/リファイナンスが急激に低下する
ターが案件クロージング時より設置 どのリスク緩和要因を備えた民間学生
ローン
ABS
案件は例外扱いとなること
ている場合は、案件クロージング時に BUS
危険はない。
されている、のいずれでもない場合
がある。
の設置は必須ではない。
は、BUS は投資適格等級であるこ
= =大手会計事務所による会計監査を受けてい
(2)既に確立されたアセット・タイプであ » 基盤は巨大ではないが規模の大きなサービ
と。
る
り、サービシングの代替可能性が高い
サーの場合は、案件クロージング時より
=ローンの回収を担う場合、純資産が最低$20
場合、追加的な流動性補完および信用
BUS が設置されていること。
百万以上(か相当額)、管理的業務を履行す
» 米国では、適切な補完措置がな
補完が十分にあれば、ウォームまたは » 標準的でないアセットの場合は、個別に検
るだけの場合、純資産が最低$5 百万以上
されていれば P-1 の付与は可
コールド待機の BUS が設置されている
討される。
(か相当額)。
能。
こと。ただし、(a)米国の受託者に関する » P-1 の付与は個別に検討される(巨大な基盤
=所有形態は、株式が上場または未公開である
標準的な規定が契約書上明記されて
を有するサービサーなど)。
が、私人による所有ではない
いる、(b)BUS ファシリテイターが案件ク
=最低 5 年以上の業歴がある
ロージング時より設置されている、のい
かつ
かつ
サービサーの格付が Ba3-B1(安定
的)以上である。
サービサーが B2-B3(安定的)、かつ、
以下の推定基準*を満たす。
ずれでもない場合は、BUS は投資適格
等級であること。
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サービサーの格付
Aaa/P-1 付与の要件(以下のうちどれか 1 つに該当すること)
» いずれの地域においても P-1 は付与 適用対象
適用対象
できない。
» 米国: 多くの案件
» 米国:一部のオートローン案件は、基盤が巨 » 米国では信託の担保は 90%以上が FFELP ロ
大な部類に入る。
ーンで構成されている。
» EMEA:大陸諸国の小規模市場に
*推定基準
おける少数の ABS/RMBS
» EMEA:一部の ABS と RMBS
適用対象
» アジア:クレジットカード ABS の一 = ガバナンス上の懸念がない
部
= ビジネスモデルが破綻しておらず、
キャッシュフローと利益は黒字であ
り、流動性やリファイナンスに起因
する突発的な破綻の懸念がない
» 日本:ほとんどの預金取扱金融機関
注: サービサーが上記の 1)、2)に該当する場
合、付表 1 の 1-A、1-B および 1-C のガイドライ
ンは変更され得る。
= 大手会計事務所による会計監査を
受けている
= 純資産が 100 百万米ドル相当以上
ある(案件ごとに検討される)
= 所有形態は、公開または非公開で
あるが、個人所有ではない
= 最低 5 年以上の業歴がある
適用対象
» 米国:小規模な発行体
» EMEA: 英国のノン・コンフォーミング
RMBS、大陸諸国の一部 ABS と
RMBS
1. 親会社の格付を参照するためには、親会社はサービサーの株式の過半を所有し、決算報告時は連結扱いであり、親子関係を示す証拠が必要である
2. 上記に示す通り、公表モニタリング格付以外の格付の使用は一定の場合に制限される。サービサーに関する情報が不十分な場合(クレジット・エスティメートの付与が難しいなどの例外的な場合)は、2-B が適用される。
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付表 3.集中度の高い EMEA の CMBS ポートフォリオ(ローン 100 件未満)
付表 1 と 2 は一般的にローン件数が 100 件以上のポートフォリオに適用される。
ローン件数 100 件未満の CMBS 案件で、第三者プライマリー・サービサーに格付が付与されておらず、BUS が設置されていない場合、(i)当事者がムーディーズの
CMBS のサービシング基準を満たし、且つ(ii)サービシングの移管を円滑に進める権限を持ち、且つ円滑に進められる可能性が高い第三者が存在する場合、次の基
準が適用される。
借り手による発行体口座への入金
流動性ファシリティーの特徴
格付推移クライテリア
取得しうる最高格付
1. 借り手が発行体の口座に直接
入金する。
A. 発行体レベルで流動性ファシリティを利用す
ることができ、投資適格のキャッシュ・マネージャ
ーがサービサーの計算を必要とせずにファシリ
ティを利用できる。
B. 流動性ファシリティが(i)発行体レベルで利用
できるが、キャッシュ・マネージャーはサービサ
ーの計算なしにファシリティを利用することがで
きない、または(ii)ローン・レベルで流動性ファシ
リティを利用できる。
Aaa 格付を取得できる。
Aaa を取得できるかどうかは、ケース・バイ・ケースで判
断。その際に考慮するのは、BUS ファシリテイターの有
無およびその者がサービサーの交代を促すインセンティ
ブ、アセットの譲渡性、ローン件数と司法所轄、アセット
が標準的なアセットにどれだけ近いか、発行体レベルで
流動性ファシリティーを利用できるか、融資実行のため
に必要なサービサーの計算の金額/複雑度などの要因
によって支払中断が起きる可能性である。
1.いかなる形であれ、支払の中断が起こる可能性は極
めて低いと考えられる場合、Aaa は達成可能
2.予想される支払の中断が 2 IPD (Interest Payment
Dates) 以下の場合、最高で Aa が達成可能
3.予想される中断が 2IPD を超える場合、最高で A が達
成可能
4.BUS ファシリテイターが存在しない、もしくは支払いを
積極的にマネージする投資適格の CM が存在しない場
合、最高で Baa が達成可能
2. 借り手が発行体口座に直接入
金しない。
A. 流動性ファシリティが発行体レベルで利用で
き、(i)ローン件数が 100 以下、且つ(ii)司法所
轄数が 2-4 以下の場合(数は司法所轄によっ
て異なる)、キャッシュ・マネージャーはサービサ
ーの計算を必要とせずにファシリティを利用でき
る。
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MAY 27, 2015
Aaa 格付を取得できる。
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借り手による発行体口座への入金
流動性ファシリティーの特徴
格付推移クライテリア
取得しうる最高格付
B. 流動性ファシリティが(i)発行体レベルで利用
できるが、キャッシュ・マネージャーはサービサ
ーの計算なしにファシリティを利用することがで
きない、または(ii)司法所轄数が 1-3 以下の場
合(数は司法所轄によって異なる)、ローン・レベ
ルで流動性ファシリティを利用できる。
Aaa を取得できるかどうかは、ケース・バイ・ケースで判
断。その際に考慮するのは、BUS ファシリテイターの有
無およびその者がサービサーの交代を促すインセンティ
ブ、アセットの譲渡性、ローン件数と司法所轄、アセット
が標準的なアセットにどれだけ近いか、発行体レベルで
流動性ファシリティーを利用できるか、融資実行のため
に必要なサービサーの計算の金額/複雑度などの要因
によって支払中断が起きる可能性である。
1.いかなる形であれ、支払の中断が起こる可能性は極
めて低いと考えられる場合、Aaa は達成可能
2.予想される支払の中断が 2 IPD 以下の場合、最高で
Aa が達成可能
3.予想される中断が 2IPD を超える場合、最高で A が達
成可能
4.BUS ファシリテイターが存在しない、もしくは支払いを
積極的にマネージする投資適格の CM が存在しない場
合、最高で Baa が達成可能
注
‐上記のいずれのケースでも、流動性ファシリティーの水準は、ストレス下で予想されるサービサー交代に要する期間と金利水準を考慮に入れて決定されたものでなくてはならない。
‐標準的な資産の解釈は、1-A の基準に従う。
‐ローン・レベルで流動性ファシリティーを利用可能ということは、サービサー業務の中断時ではなく、ローン返済の中断時のみに、ファシリティーからの融資が実行されることを意味する。EMEA の CMBS では、デフォルト・ローンのワークアウト期間中
の金利の不払いリスクを軽減するために、かなり長い期間をカバーできる流動性補完を備えているのが一般的である。どの国で執行されるかにもよるが、一般的には 18 カ月から 36 カ月の期間がカバーされる。
-EMEA の CMBS においては、BUS ファシリテイターがコントローリング・パーティとなる。
‐Aaa より低い水準の格付を決定する要因には、平均的なポートフォリオの質(物件のグレード、リースのプロファイル、デフォルト確率のプロファイルなど)、ポートフォリオからの収入の分散性、ローンが占める割合、収入カバレッジ比率の分布、ロー
ン返済に対する借り手/スポンサーのインセンティブ、などがある。
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付表 4 ノート保有者への支払継続の可能性に関するガイドライン
支払継続の可能性に基づき考えられる、既存案件の格付遷移に関する補完的な格付ガイダ
ンスを、次ページに樹形図で示す。オペレーショナル・リスクから保護する措置がない案件に
関しては、より高い格付の証券がより影響を受けやすい。
ノート保有者への支払いが継続する可能性が高いのは、サービシングの移管期間に第三者
が利用できる準備金口座がある(EMEA およびアジア太平洋地域では一般的)、あるいは迅
速にサービシングを引き継げるサービサーが多数存在し、後任サービサーを選任する責務を
負う BUS ファシリテイターや受託者が設置されている案件では、当該アセットクラス(米国の多
くのアセットクラスがこれに該当する)でサービサーの移管が円滑かつタイムリーに行われた実
績があるものである。
Baa 格付のサービサーとファシリテイターが設置されているが、米国の受託者に関する標準的
な規定が案件契約書に明記されていない場合、Aaa 格付を付与できるかどうかは、支払い中
断中に利用可能な現金や流動性ファシリティーを用いて支払いを行うことのできる独立したキ
ャッシュ・マネージャーに依拠する。ファシリテイターが設置されていない、あるいは米国の受
託者に関する標準的な規定が案件契約書に明記されていないが、サービサーが投資適格等
級格付を失った場合に BUS を選任するトリガーが設定されている案件は、1-A に基づき、独
立したキャッシュ・マネージャーとノート保有者に利払いを行うために十分な現金または流動
性が確保されていれば、Aaa 格付を取得できる可能性がある。
付表 2 で解説したカテゴリー2-D に含まれる FFELP 学生ローンを裏付けとする信託では、バ
ックアップ・サービサーの設置、または米国の受託者に関する標準的な規定が存在すれば、
a)案件に第三者プライマリー・サービサーが設置されており、b)マスター・サービサーまたはア
ドミニストレーターが推定基準を満たしていることを条件に、Aaa 格付を取得できる可能性があ
る。ただし、バックアップ態勢や米国の標準的な受託者規定がない場合でも、支払中断の可
能性が極めて低ければ、依然 Aaa 格付を取得できる可能性がある。また、マスター・サービサ
ーが推定基準を満たさない場合でも、バックアップ・マスター・サービサーが設置されていれ
ば、Aaa 格付を取得できる可能性がある。バックアップ態勢がない場合には、ガイドラインが示
唆する最高格付は Aa となる。
マスター・サービサーがローンの回収を担うプライマリー・サービサーを兼ねる FFELP 学生ロ
ーン信託では、バックアップ・サービサーあるいは米国の標準的な受託者規定があれば Aaa
格付を取得できる可能性がある。いずれもない場合は、マスター・サービサーがプライマリー・
サービサーの推定基準を満たす場合は Aa 格付が付与可能となり、マスター・サービサーが
その推定基準を満たさない場合は A 格付が付与可能となる。
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オペレーショナル・リスク ガイドライン
シニア・ノートの格付ガイドライン
A3以上
Baa
Aaa
(A3/P-2のサービサーの場合、支払の継続可能性
が高くなくてはならない)
(1)BUS もしくは
(2)(米国の受託者に関する標準的な規定
もしくはBUSファシリテーター)かつBUSトリ
ガー もしくは
(3) 独立したCMならびに(i) BUSファシリ
テーター もしくは (ii)投資適格等級を失った
時点でのBUSトリガー
Yes
No
BUS
サービサーもしくは過半株主の格付、もし
くはサービサーのクレジット・エスティメー
ト*
2A, 2B**
BUSファシリテーターのみ か
つ独立したCM
yes
Aaa
no
Aa
yes
Aa
no
A
支払の継続性
支払の継続性
支払の継続性
支払中断の可能性はほとんどなし、あったとしても
最大で30日
支払中断 最大で2 IPD****
2回以上のIPDにおいて一時的に支払中断
支払の継続性
支払中断の可能性はほとんどなし、あったとしても
最大で30日
支払中断 最大で2 IPD****
2回以上のIPDにおいて一時的に支払中断
支払中断の可能性はほとんどなし、あったとしても
最大で30日
支払の継続性
支払中断 最大で2 IPD****
2回以上のIPDにおいて一時的に支払中断
支払の継続性
支払中断 最大で2 IPD****
2回以上のIPDにおいて一時的に支払中断
2 C**
支払中断の可能性はほとんどなし、あったとしても
最大で30日
BUSなし
ファシリテーターなし
Aaa***
Aa
A
Baa
BUSなし
ファシリテーターなし
投機的等級もしくは無格付の
サービサー
BUSまたはファシリテー
ター
Aaa
Aa
A
Aaa
Aa
A
Aaa***
Aa
A
*レポート付表1及び2に記載のサービサーの格付基準に関するガイドラインを参照。
**レポート付表1及び2に記載の1A、2A、2B及び2Cにおける記載を参照。
***非常に稀なケースであり、ケース・バイ・ケースで判断。
**** IPDは月毎もしくは四半期毎。
ここで示した格付のレンジは、証券化案件のシニア・ノートに関しての一般的なガイドラインにすぎない。レンジ内の低い方の格付になることもあれば、中断によって追加的な損失(スワップの終了による損失や、担保資産の損失等)が生じる可能性があるのなら大きく下回る格付水準となることもある。
レポートに示したCMや流動性に関しての基準のみ達成できない案件については、証券化案件のシニア・ノートは通常高いAa格付となると思われる。サービサーのよりも通常早く容易に代替できると思われるからである。
BUS(Back-up Servicer):バック・アップサービサー
PD (Payment Disruption): 支払中断
IPD (Interest Payment Date): 金利支払日
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クロスセクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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付表全般に対する注記
証券化取引の案件上の仕組みが、提示された要件を満たさない場合でも、Aaa 格付や Aa 格
付は付与できる場合がある。しかしながら、そのような案件上の仕組みやトリガーがない場合
は、サービサーやキャッシュ・マネージャーの格付と証券化取引の格付との連動性について、
格付とともに公表される場合がある。
本ガイドライン上の「サービサー」とは、以下を指す。
» マスター・サービサー(もしあれば)
» プライマリー・サービサー(マスター・サービサーがいない場合)
» アセット・プールに対して 10%以上(閾値はアセットクラスによって異なり得る)のサービシン
グに関わるプライマリー・サービサーあるいはサブサービサー
» 債務者による支払いを回収するサービサーとは別のアドミニストレーター(例:学生ローン)
本格付手法は、基本的にスペシャル・サービサーには適用されない。ただし、スペシャル・サ
ービサーが通常サービサーが行う業務に関与し、主要なオペレーショナル・リスクの要因とな
る場合は、その限りではない。
付表に記されていることは、ムーディーズが案件の分析を行う過程で考慮するガイドラインに
過ぎない。格付委員会は、当該案件のスポンサー、国、ストラクチャー、アセットクラスを考慮し
た上でオペレーショナル・リスクをレビューし、追加的な信用補完や流動性補完が必要である
かどうかを検討する。また、格付委員会は、オペレーショナル・リスクの基準として提示した要
件を軽減し得る客観的要因がないか検討する(例えば、規制下にある預金取扱金融機関が
サービサーである場合、複数のサービサーが設置されている場合、BUS ファシリテイターが設
置されている場合、潤沢な流動性補完と信用補完がある場合、またプール内の債務者の格
付が高く受託者の口座(lockbox)に直接入金する場合、などの軽減し得る要因があれば、混
乱・中断のリスクは低下する)。サービシング業務が一元管理されていない場合は、サービシ
ング業務が混乱・中断するリスクがかなり高く、そのような案件は慎重に評価される。こうした案
件については、本レポートで示したオペレーショナル・リスクに関しての基準を個別に検討す
る。
ムーディーズは、格付手法”Updated Approach to the Usage of Credit Estimates in Rated
Transactions” (Moody’s Investors Service, October 2009) (ムーディーズ・ジャパン版 「格付対象
案件におけるクレジット・エスティメートの使用に対するアプローチのアップデート」 2010 年 9
月 30 日発行)において、単一主体へのエクスポージャーを有する案件におけるクレジット・エ
スティメートの使用に関する手法を説明している。ムーディーズの格付がない主体については、
このオペレーショナル・リスクのガイドラインに準拠していることで、クレジット・エスティメートに
関するムーディーズの手法におけるテストを満たす可能性が高い。
通常、クレジット・エスティメートが投資適格等級の場合には付表 1 を適用し、投機的等級の
場合には付表 2 を適用する。クレジット・エスティメートが使用できないような例外的なケース
においては、付表 2 の 2-B を適用する。またサービサーの格付が Caa 以下の場合、案件ごと
にオペレーショナル・リスクについて検討する。
「ウォーム」BUS であると十分にみなすことができる条件は以下の通り(ただし、アセットクラス、
管轄法、案件固有の要素を考慮して格付委員会で個別に検討する)。
» 30-60 日以内にサービシング業務の移管が可能な BUS が、案件クロージング時に指名さ
れている。仮に移管に要する期間がもっと長い場合は、移管期間をカバーする流動性補
完と、プール・パフォーマンスの悪化をカバーする追加的信用補完が備わっている。
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MAY 27, 2015
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
STRUCTURED FINANCE
» BUS が、必要に応じて、サービシング業務の移管のための準備手順を定めている。
» US が、当初および定期的にサービサーのオペレーション・レビューを、オンサイトで行う。
» US が、サービサーのデータシステムについて、当初マッピング(理想的には案件開始後 1
カ月以内に)および定期的なアップデートを行う。
» BUS が、サービサー・レポートを作成するために必要なデータを取得する。当該データは、
BUS が作成したサービシング・レポート上の主要なデータについて、サービサーが作成し
たサービサー・レポートと差異がないか、正確性を検証するために使用される。
» 準備金勘定内に、サービシングの移管費用に用途を特定した現金を別途準備しておくこと。
費用が超過した場合は、案件のウォーターフォールから格付対象証券の支払いを行った
後に、後任サービサーに支払われる。
» BUS の辞任は、後任 BUS が設置されるまでは効力が発生しない旨、BUS 契約に明記さ
れている。
経済的にみて妥当な水準のサービシング費用が、BUS 契約に明記されている。
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MAY 27, 2015
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
STRUCTURED FINANCE
第二部:短期証券化商品におけるオペレーショナル・リスクに
関するガイドライン
I. はじめに
第二部においては、ムーディーズは、アセット・バック・コマーシャル・ペーパー(ABCP)プログ
ラム(「コンディット」と称される場合がある)に関連するオペレーショナル・リスクの新たなガイド
ラインを示す。具体的には、アドミニストレーターによる、ABCP プログラムの業務中断リスクの
分析についての明確なガイドラインを示す。
第二部では、第Ⅱ節で ABCP プログラムのオペレーショナル・リスクを定義し、第Ⅲ
節ではムーディーズがアドミニストレーターなどのサービス提供者の能力を評価する
ためにどのようにオペレーションをレビューするかについて説明する。また第Ⅳ節で
は、アドミニストレーターやその他の主要案件当事者に影響を与える、破綻その他の
類似事象に伴う業務中断による、ABCP プログラムのオペレーショナル・リスクの評
価における基準を示す。
ABCP プログラムに対するサービス提供者(後段参照)である銀行の格付への言及は、
当該機関の CR 評価を指すものとする 19。例外として、当該機関が CR 評価を持たな
い場合、最も適切と考えられる他の指標を用いる。例えば当該銀行のシニア無担保債
務格付(またはそれと同等のもの)あるいは場合により銀行預金格付(またはそれと
同等のもの)から導かれる場合がある。
II.ABCP プログラムのオペレーショナル・リスクの定義
ムーディーズは、ABCP プログラムにおけるオペレーショナル・リスクを、ABCP の投資家に支
払遅延あるいは損失をもたらすような、契約当事者によるプログラムの契約関係書類に基づく
義務の不履行と定義する。この意味でのオペレーショナル・リスクには、流動性補完あるいは
信用補完提供者の破産に伴う支払不履行は含めない。オペレーショナル・リスクは、ABCP プ
ログラムの各契約関連文書に定められたサービス提供における履行ミスや履行能力の欠如に
よって発生しうる。契約当事者に影響を与える破綻あるいは同様の事態に起因するサービス
の終了あるいはオペレーションの中断も履行不能の原因となる。
ムーディーズは、オペレーショナル・リスクを、支払期限を迎える ABCP の返済に用いる資金
を提供する義務を負ったサポート提供者や口座銀行など契約当事者の純粋な信用リスクから
区分して分析する。ABCP プログラムの格付では、それらの資金の利用可能性が引き続き重
要な決定要因となる。
ABCP プログラムは、ストラクチャー、目的、関与する当事者、投資対象アセットのタイプによっ
て異なる。ムーディーズは、(ⅰ)プログラムのストラクチャー、 (ⅱ) ABCP プログラムのタイムリ
ー・ペイメントを確実に行う上で重要な事項に係る当事者 、および(ⅲ)当事者、特にプログラ
ムのスポンサーのインセンティブと利害の一致度合いに応じてオペレーショナル・リスクを分析
する。
標準的な ABCP プログラムのオペレーションに関与する当事者
アドミニストレーターの役割と、アドミニストレーターの業務を規定する契約書の内容は、ABCP
プログラムの核心である。アドミニストレーターの役割は広く(ⅰ)アセットの選択、管理、モニタ
19
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MAY 27, 2015
「格付記号と定義」を参照のこと。
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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ー、 (ⅱ)トリガーのモニター、通知の発行、全ての報告義務の履行を含むプログラムの監視、
(ⅲ)コマーシャル・ペーパー(CP)の発行と返済、市場リスクのヘッジ、サポート提供者との連
携(流動性ファシリティーの引出しや信用補完の利用など)を含むプログラムの調達活動、(ⅳ)
ABCP プログラムに関わる手数料や経費の支払い、および(ⅴ)当事者間の調整、と多岐に渡
る。プログラムによっては、これらの役割はキャッシュ・マネージャー、インベストメント・マネー
ジャー、計算代理人などの役割を担う各サービス提供者との契約で分担される。
大部分のプログラムでは、アドミニストレーターとなるスポンサーが主要な任務を担う。銀行が
スポンサーとなるプログラムでは、銀行がプログラムのアドミニストレーターの役割を担い、
ABCP プログラムのオペレーションに関わるほとんどの責務を負うのが普通である。しかし、銀
行がスポンサーでないプログラムなどでは、スポンサーはアドミニストレーターの義務の一部ま
たは全部を履行するために、必要とされる能力を有する専門の第三者にアウトソースする。
アドミニストレーターの他にも、オペレーショナル・リスクの分析において重要になるオペレー
ション上の役割を果たす当事者がいる。アセットまたは現金を保有する受託者または担保代
理人、発行・支払い代理人または財務代理人、および特にシングル・セラーABCP プログラム
におけるアセット・サービサーなどが該当する。CP の発行では販売代理人が重要な役割を果
たすが、Tier-1 ABCP 市場では販売代理人の役割が ABCP プログラムにオペレーショナル・リ
スクを発生させるとはムーディーズは考えていない 20。
オペレーショナル・リスクの評価において、コーポレート・サービス・プロバイダーの役割は大き
な関心事にはならない。法律上、発行体の出資者になることが多いコーポレート・サービス・プ
ロバイダーは、コンディットに対し取締役や役員を派遣し、コンディットの日常業務を遂行する。
その役割は(ⅰ)重要書類の作成、(ⅱ)納税、登録・ライセンスの維持など準拠する会社法の
遵守、(ⅲ)会計帳簿やその他の記録の維持、(iv)当該コンディットを確実に存続させる責任、
などにわたり、重要なものとなる。市場には、これらのサービスを提供する専門事業者がいくつ
か存在する。コーポレート・サービス・プロバイダーは通常、CP やアセットに関連する日常の
業務には関わらない。ムーディーズがオペレーショナル・リスクの観点からこれらの業者を重要
な当事者とはみなさないのはそのためである。
図表1は、ABCP プログラムの当事者の役割と、当事者間の相互関係を示したものである。同
表では最も一般的な名称と役割を用いているが、案件によっては異なる名称を用い、異なる
役割が付与されることがある。
20
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MAY 27, 2015
大部分の ABCP プログラムでは複数の経験ある販売代理人を使ってプログラム・ノートの投資家をみつけて適格性を判
断する。ABCP の募集に失敗しただけで流動性準備の引き出しが必要になり、そのリスクは流動性提供者によって吸収
される。流動性準備が引き出される日までに資金を引き渡されないことで、投資家が取り決め通りに購入しないリスクも小
さいながらある。しかしマネーセンターである Tier-1CP 市場に関するムーディーズの知見では、このリスクが最小限にと
どまると考えられる。ほとんどのプログラムは、互いに激しく競合し、投資家となる顧客の適格性判定と管理に経験のある
複数の販売代理人を擁している。このリスクは、新しいマーケットにおけるレビューあるいは、知名度の高い経験ある販売
代理人無しで運営されているプログラムについての問題と考えて良い。ECP 市場のような 2 日後決済の市場では、販売
代理人によって資金が引き渡されるべき日に流動性が利用できない場合に考慮すべき追加の信用リスクがある。
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図表1
名称
役割
関係する他の当事者
アドミニストレーター
コンディットの運営とオペレーションに関わる全般的な
責任を負う。
全ての当事者
サブアドミニストレーター(いる
場合)
アドミニストレーターから委任を受けた全部あるいは一
部の業務の遂行
全ての当事者
プログラム・アドバイザー/イン
ベストメント・アドバイザー/紹介
代理人(Referral Agent)
プログラム運営に関するアドミニストレーターや発行体
への助言、アセットの調達とモニタリング。アドバイザー
には通常、プログラムのスポンサーや案件のアレン
ジャーとなる当事者がなる。アドバイザーがサブアド
ミニストレーターの役割も果たし、重要な任務を担うプロ
グラムもある。
アドバイザリー契約の範囲、アセットのセラー/
サービサーに応じて、アドミニストレーター、
コーポレート・サービス・プロバイダー、その他の当
事者
キャッシュ・マネージャー/口座
管理人
プログラム口座の管理。ウォーターフォールに基づき、
(通常は)指示に従って現金を分配する。
責任範囲に応じて、アドミニストレーター、発行・支払
代理人(IPA:issuing and paying agent)、口座銀行、お
よびその他の当事者
発行・支払代理人(IPA)/預託
機関
コマーシャル・ペーパーの発行と返済、CP の口座管理
アドミニストレーター、キャッシュ・マネージャー、
流動性エージェント/サポート提供者(該当する場合)
計算代理人
案件またはコンディットにおける、調達、金利・手数料、
ウォーターフォールの様々な項目に関わる全ての計算
を行なう
主としてアドミニストレーターおよびキャッシュ・
マネージャー
サービサー
シングル・セラー・コンディットの場合はプログラムのア
セットのサービシング。マルチセラー・コンディットの場
合、案件ごとに複数の異なるサービサーがいる場合が
ある。
アドミニストレーターとキャッシュ・マネージャー
担保代理人/セキュリティ・トラ
スティー
通常、銀行の信託部門あるいは専門信託会社がなる。
投資家のためにコンディットの全アセットの担保権を保
持
全ての当事者(特に担保権実行の場面において)
カストディアン
通常、商業銀行のカストディ部門がなる。プログラムの
アセットを物理的あるいは電子的に管理する
アドミニストレーターとセキュリティ・トラスティー
マネージャー/コーポレート・サ
ービス・プロバイダー/コーポレ
ート・アドミニストレーター
SPV の運営、取締役および役員の派遣、税務書類・規
制当局に宛てた報告書の作成、および各種書類の作
成
アドミニストレーター、セキュリティ・トラスティー、
その他(規制当局を含む)
販売代理人/ディーラー
投資家へのコマーシャル・ペーパーの売却
アドミニストレーターと IPA
流動性代理人
流動性を提供する銀行団の管理。コンディットから資金
提供の要請を受け、当該要請を流動性を提供する銀行
に繋ぎ、資金をそれらの銀行からコンディットに送金す
る。通常、銀行スポンサーがなる。
アドミニストレーター、キャッシュ・マネージャー、
流動性提供者および IPA
流動性提供者
コンディットへの流動性バックアップ・ラインの提供
流動性エージェント、アドミニストレーター、
キャッシュ・マネージャーおよび IPA
ヘッジング・エージェント
コンディットのために金利・為替リスクをカバーするヘッ
ジ契約の取りまとめ
アドミニストレーター、キャッシュ・マネージャーおよび
ヘッジ・カウンターパーティ
ヘッジ・カウンターパーティ
スポット・フォワード、ベーシス金利スワップなど、コンデ
ィットが締結したヘッジ契約のカウンターパーティ
アドミニストレーター、キャッシュ・マネージャーおよび
ヘッジング・エージェント
信用補完提供者
ABCP プログラムに対するプログラム全体にまたがる信
用サポートの提供。通常は銀行スポンサーがなる
アドミニストレーターおよびキャッシュ・マネージャー
口座銀行
プログラムの口座を維持する銀行
キャッシュ・マネージャー
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期日通りの ABCP の返済における重要な事項の決定
ABCP プログラムに対する Prime-1 (sf)の格付の付与は、そのプログラムから発行された ABCP
が遅滞なく全額返済されることについてのムーディーズの意見を反映するものである。短期格
付はデフォルト確率のみを測定するもので潜在的な回収額を考慮していない。ムーディーズ
はコンディットごとに、ABCP の利用可能な返済原資、およびストラクチャー上利用可能な資金
がどのように投資家へ流れるかを分析する。また各段階で関与する当事者と、ABCP への遅
滞ない全額返済を確保するために各当事者が取るべき行動を特定する。
ABCP の返済原資には、(ⅰ)新発 ABCP の発行代わり金、(ⅱ)アセットの回収金または売却
金、(ⅲ)流動性ファシリティー、そして(ⅳ)案件とプログラムの両レベルでの様々な形態の信用
補完がある。
ABCP の決済の電子決済か、コンディットのために行動する財務代理人または発行・支払エ
ージェント(IPA)の決済システムを用いて行なわれる。ABCP 保有者へ分配するための決済シ
ステムへの支払は、IPA によって管理される ABCP 専用の CP 支払口座から行われる。IPA
は信頼性の高い経験ある支払代理人でなければならない。IPA は多くの場合、自らの裁量で
同日営業日内に限りコンディットに資金を前払いできる。IPA が前払いするのは、その日の業
務終了までにキャッシュフローの入出金が釣り合うのが確実な場合である。しかし、そのような
前払いは IPA の義務ではないため、ムーディーズの分析ではこの点に関するファシリティー
の有無を考慮しない。
コンディットは新規に ABCP を発行し、当該発行代わり金をプログラムが購入した裏付アセット
から受領する資金と合わせて、支払期限を迎える ABCP の返済と新たなアセットの購入に充
当する。新規発行の代わり金は、CP 口座レベルで支払期限を迎える ABCP に対する支払い
と相殺される。アドミニストレーターとキャッシュ・マネージャー(通常両者は同じ)はこれらの業
務を監視する。
理由を問わずコンディットが新規に ABCP を発行できなくなった場合、コンディットは、流動性
ファシリティーによる繋ぎ資金を用いて、ABCP の支払期限と裏付アセットやその他の返済原
資からの資金受領日の差異を解消する。ほとんどの場合、流動性ファシリティーは、金利ある
いはイールド部分を含めた ABCP の残高(「額面金額」と呼ぶ)をカバーするよう設定する。流
動性ファシリティーは、アセット・サービサーやプログラムレベルにも充当され、資金が不足し
た場合、支払い順位が上位のコストの支払いに使用することもできる。フルサポート・タイプの
プログラムでは、流動性ファシリティーからの引出しは CP 返済の最後の防衛線となる。パー
シャルサポート・タイプのプログラムでは、ファシリティーの利用可能額を決める際にグッド・ア
セット・テスト(good asset test)を用いており、流動性の供給は通常、デフォルトしていない健全
なアセットに対するものとなるため、支払期限が到来する ABCP の額面を下回る場合がある。
このように流動性ファシリティーの利用可能額が制限されている場合、アセットあるいはプログ
ラムにおける信用補完ファシリティーを引き出して不足をカバーすることができる。いずれの状
況においても、必要金額を決定し、引出し通知を発行する当事者が ABCP の返済において
重要な役割を果たす。通常、アドミニストレーター、キャッシュ・マネージャー、および/または
IPA が流動性ファシリティーと信用補完ファシリティーを引き出す権利を付与された当事者と
なる。流動性ファシリティーがシンジケートの形をとる場合、流動性エージェントが各ファシリテ
ィーからの引出額を計算し、引出通知書を発行して流動性貸出金をコンディットに仕向ける仲
介役を果たす。
コンディットによっては、流動性プロバイダーが直接、CP の支払口座に支払いを行なう。また、
サポート・ファシリティーからの資金がプログラムのウォーターフォールを通じて流れるため、結
果として、ウォーターフォールを管理する主体に返済を依存するコンディットもある。流動性の
引き出し基準にグッド・アセット・テストを用いる場合、支払期限を迎える ABCP の返済にとっ
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てモニタリングと報告を担う主体の役割も重要になる 21。コンディットのアセットの所有権よって
利用可能な流動性ファシリティーの額が決まる場合、あるいは ABCP の返済が担保実行され
るシナリオ以外のアセット売却や譲渡に依存する場合は、オペレーショナル・リスクの分析に
おいてアセットのカストディアンが重要な当事者となる。
案件当事者が自らの義務を、他の主体に請け負わせまたは委任する場合、どの当事者が決
定的な役割を担い、その責任を負うかは、当事者間の取り決めによって決まる。
「インセンティブ・ストラクチャー」について
スポンサーは、スポンサー自身あるいはその顧客の資産をもとにファンディングを行うため、
ABCP を市場で定期的に発行する恒久的なビークルとして、ABCP プログラムを設定する。
ABCP プログラムの多くはマルチセラー・プログラムで、銀行が主たる流動性・信用補完提供
者となる形で設定される。投資家および市場参加者はしばしば、プログラム名とスポンサーお
よび信用補完提供者を関連付けるため、プログラム・レベルで問題が生じた場合、スポンサー
がレピュテーションリスクにさらされることになる。信用補完提供者として、スポンサーは通常、
ABCP の投資家と同等またはそれ以上のリスクを負う。したがって、スポンサーの利害は、
ABCP の投資家と一致しており、出来る限り良好な資産のパフォーマンスおよび ABCP プログ
ラムの運営の確保に努める。こうした利害の一致は、オペレーショナル・リスクが顕在化する可
能性を低減する「インセンティブ・ストラクチャー」を構成する。
ノンバンクがスポンサーとなるプログラムでは、ムーディーズは、(i)スポンサーまたはオリジネ
ーターにとっての当該プログラムの重要性、および(ii)流動性・信用補完提供者またはその他
の当事者におけるインセンティブおよび利害の一致をもとに、個別に検討する。
Ⅲ.オペレーション能力の評価
この節では、ABCP のタイムリー・ペイメントを確実にするためのコンディットのアドミニストレー
ターやその他の案件当事者のプログラム管理能力をムーディーズがどのように評価するかを
解説する。
アドミニストレーターが担う標準的な責務や業務
アドミニストレーション契約に規定されるアドミニストレーターの業務の複雑度は当該プログラ
ムが持つ特徴によって変わってくる。複雑さの度合いには、(ⅰ)プログラムがシングル・セラー
かマルチ・セラーか、アービトラージ型プログラムかレポ・プログラムか、(ⅱ)フルサポートかパ
ーシャルサポートか、(ⅲ)アセットを購入する SPV および共同発行体の数、(ⅳ)複雑性を増幅
する特別なストラクチャー上の特徴、などの要因が関わってくる。パーシャルサポートのマル
チ・セラーABCP プログラムでは、他のストラクチャーよりもアドミニストレーターに業務が集中
するのが普通である。
典型的なマルチセラー・プログラムでは、通常スポンサーが担う(他の主体が担うこともある)主
要なアドミニストレーション機能は以下のようなものである。
1.案件の引き受けとストラクチャリング
アドミニストレーター(プログラムのアドバイザー、インベストメント・マネージャー、あるいは紹介
代理人としての役割を果たす)は、コンディットのためにアセットに関する評価、レビュー、スト
ラクチャリング、推奨を行う。また、全ての必要なサポート契約を含め適切なドキュメンテーショ
ンがなされ、各案件のストラクチャーが案件およびプログラムの契約関係書類に記載された基
21
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シングル・セラーABCP について、アセットのサービシングの継続性が、ABCP の期日通りの支払いを確保する決定要因
になる場合、サービサーに関わるオペレーショナル・リスクは本レポートの第一部で説明した一般的ガイドラインを用いて
分析する。またオーストラリアについては第三部で説明する方法で分析する。
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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準に整合している事を確認する。事前にレビューされるプログラムの場合、新規案件はムーデ
ィーズのレビューと格付の確認のため調達前にムーディーズに提示される。事後的にレビュー
されるプログラムの場合、プログラムの格付に整合するようムーディーズが設定する信用力と
運用方針の基準に合致するよう案件を仕組む。
2.アセット購入と CP 発行の停止条件の確認
ABCP プログラムを用いた資金調達案件はリボルビング・ファシリティーとして仕組まれることが
多い。コンディットは、特定のテストの充足を条件に、一定の購入限度額の範囲内で、要求さ
れた金額を提供することを約束する。それらの発行テストまたは調達テストは案件レベル(パフ
ォーマンス・テストなど)またはプログラム・レベルでなされる。アドミニストレーターは、支払期
限を迎える ABCP の返済のため、あるいはアセットの追加購入のためにコンディットが ABCP
を発行する度に、発行あるいは購入に対する停止条件(発行後、利用可能な流動性補完が
プログラムの負債額を相応に上回っているかどうかなど)を満たしているかを確認する義務を
負う。これらのテストを満足しているかどうかは、コンディットが発行した ABCP の格付と、その
投資家が負うリスクが整合的かどうかを確認する上で重要となる。
3.キャッシュフローの管理およびコンディットの支払優先順位の適用
アセットのセラーあるいはオリジネーターはサービサーを兼ねることが多く、アドミニストレータ
ーは回収業務を監視する役を担う。アドミニストレーターは通常(ⅰ)アセットや他の返済原資
からの資金受領のモニタリング、(ⅱ)コンディットの支払優先順位に従った現金の分配を担当
する。この役割はキャッシュ・マネージャーの業務に含まれることがある。
4.CP の発行と返済
アドミニストレーターはプログラムの関連契約またはアセット固有の流動性契約に基づいて発
行される ABCP の金額、期間の計算と決定に責任を持つ。アドミニストレーターは発行予定の
ABCP プログラムに関して販売代理人に助言を行ない、協議のうえ発行する ABCP の金額、
期間、利回りを決定する。次にアドミニストレーターは、販売代理人の指示に基づいて ABCP
を発行し、引き渡すよう発行・支払代理人に指示する。
アドミニストレーターはさらに、支払期限を迎える ABCP に返済を行なうために十分な資金が
あるかどうかを確認し、流動性代理人または流動性提供者および信用補完提供者に引き出し
の通知を発行するか、資金不足に対処するためプログラムが利用可能な他の全ての措置をと
る責任を負う。
5.モニタリングと報告
アドミニストレーターはコンディットのポートフォリオに含まれるアセットまたは証券のパフォーマ
ンスをモニターする。アドミニストレーターはまた、ABCP の新規発行に制限を加えたり、アセッ
ト・レベルおよびプログラム・レベルのトリガーをモニターし、コンディットに流動性補完と信用
補完を引き出させるなどの対応策を取らせるようにする。アドミニストレーターはムーディーズと
コンディットの投資家のために月次モニタリング・レポートを作成し、その中でプールのパフォ
ーマンスと様々なプログラム・レベルの情報(残高、利用可能なサポートの金額、信用補完の
十分性など)をまとめる。アドミニストレーターはさらに、表明、保証、パフォーマンス基準への
抵触があった場合、それを関係当事者に通知する義務を負っている。さらにアドミニストレータ
ーはサポート提供者の格付と、流動性補完や信用補完のファシリティーの有効期限をモニタ
ーし、それらの更新や置換が確実に行なわれるための必要な措置をとる。
6.コンディットの倒産隔離性を維持する
ABCP プログラムは、単一または複数の倒産隔離された SPV が発行体およびアセット購入会
社となる形で組成される。コンディットが破綻すると通常、流動性補完は利用できなくなり、現
金とアセットに対するコンディットの権利が凍結される可能性もある。通常、SPV を存続させる
ことはプログラムにコーポレート・サービスを提供する専門事業者の業務となる。それらのサー
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ビス提供者は、他の案件当事者の破綻が SPV に何らかの影響を及ぼすリスク(実質的な連結
や債務や担保権の性質が変化した場合など)を緩和するため、SPV が他の主体から確実に
分離され区分されるよう必要な措置をとる。アドミニストレーターはまた、コンディットの費用が
確実にカバーされようにし、コンディットが調印した全ての契約にリミテッド・リコース条項と倒産
申立制限条項を盛り込ませ、当該格付対象債務プログラムの下で SPV が何らかの債務を負う
のを制限する不作為約款を SPV に遵守させる義務を負い、支払不能の状態に陥らないよう
にする責任を負う。
7.補償条項
通常、プログラムの関連契約には注意義務・補償に関する条項が盛り込まれ、アドミニストレ
ーターや関連当事者は業務遂行上の過失あるいは故意の違法行為から生じる損失あるいは
損害に対してプログラムに対し補償し問題が無いように保つ義務を負う。プログラムによって
は、金利リスクや為替リスクの適切なヘッジが行われないことによる損失を、アドミニストレータ
ーあるいはヘッジング・エージェントが補償することが、ムーディーズの Prime-1 (sf) 22の格付付
与とモニタリングの条件となる。
オペレーショナル・レビュー
ABCP プログラムの当初の格付および継続的モニタリングのプロセスの一環として、ムーディ
ーズは「オペレーショナル・レビュー」を実施する。このレビュー・プロセスの一環として、ムーデ
ィーズのアナリストは、アドミニストレーターや場合によっては他の案件当事者を訪問し、それ
らのインフラやスタッフをレビューすることで、プログラムのオペレーションに投じられるキャパ
シティとリソースが当該タイプの ABCP コンディットに求められる格付に見合うものかどうかにつ
いての見解をまとめる。プログラムの運営に複数の当事者が関与している場合には、プログラ
ム・オペレーションの評価の一環として、個々の当事者と面談し、それらの協調態勢をレビュ
ーする。
経験と実績
ムーディーズとしては、アドミニストレーターやその他の主要当事者は、アセットのオリジネーシ
ョン、ストラクチャリング、債務管理などを含む ABCP コンディットの運営や類似オペレーション
の遂行に関する経験について実証できることが望ましい。格付プロセスの一環として、アドミニ
ストレーターやその他の主要当事者に対し、経験と実績、管理プログラム数、企業として関連
事業に従事してきた年数、主要スタッフの当該分野における経験などの説明を求める。
コンディットのスポンサーはそのほとんどが ABCP 市場や、他の証券市場での関連業務で長
年経験を積んだ商業銀行である。コンディットのオペレーションはそれらの銀行の事業に統合
されており、スポンサーとなるその銀行の通常の貸出業務、モニタリング業務、資金調達業務
と同様のオペレーションの基準とリソースを用いるのが普通である。
ムーディーズは格付対象の ABCP プログラムについて長期間にわたりその運営状況をモニタ
ーする。また(ⅰ) コンディットの新規アセット、(ⅱ)ストラクチャーの修正、(ⅲ)月次のプログラ
ム・モニタリング・レポートのレビューなどの機会を利用し、定期的にスポンサーや他の重要な
当事者との意見交換を行う。評価の一環として、信用上の問題が発生した際のアドミニストレ
ーターや他の重要な当事者の対応を考慮する(スポンサーの追加サポート提供意欲など)。
銀行がスポンサーでない案件の場合、経験と実績が決定的な要素となる場合がある。コンデ
ィットのスポンサーが小規模あるいは歴史の浅い組織である場合、必要なサービスの全部ある
いは一部を直接あるいはバックアップとして担わせるため、経験のある第三者と契約を結ぶこ
とが多い。ムーディーズは、それらの当事者の能力を総合した専門性、当事者間の役割分担、
22
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ムーディーズ・ジャパンが格付を付与しているフルサポートの ABCP プログラムには、データベース上、(sf)インディケータ
ーが追加されているが、日本の資産証券化商品には該当しない。
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オペレーションおよびシステムの統合度によって、必要とされるレベルのコンディットの運営が
確保されるかどうかを分析する。
組織
ムーディーズは、コンディットが行なう事業の形式と規模に照らして、アドミニストレーター、お
よびその他の重要な役割を担う関連チームの組織を評価する。銀行がスポンサーとなるコン
ディットの場合、単一または複数のオリジネーション・チームあるいはストラクチャリング・チーム
が、プログラムを使って資金調達する新規案件のストラクチャリングを行なうのが普通である。
コンディットの運営チームはコンディットのポートフォリオを監視し、支障のない証券発行とパフ
ォーマンス・テストの実行が確保されるよう必要な措置を取り、また ABCP による資金調達とコ
ンディットの債務を管理する。スポンサーがコンディットの管理業務を外部に委託する場合は
(銀行がスポンサーでないコンディットでは普通にみられるケース)、個別の当事者の業務と当
事者間の協調体制の有効性を分析する。いくつかの当事者が ABCP の支払スケジュールや
アセットのパフォーマンスなどの重要な情報を継続的に入手できるかどうかは、オペレーショ
ナル・リスクの分析における実務上の重要な評価項目である。
プログラムを管理する経験あるスタッフの数は重要な考慮事項となる。格付対象の ABCP プロ
グラムの場合、重要なスタッフの不在時にも事業を継続させ、事業の運営の質を確保するた
め、スタッフそれぞれが複数の業務をこなせるか、バックアップ・スタッフが常に待機する態勢
にある必要がある。
手続きは理解しやすい言葉で詳細に記録される必要がある。電話番号、電子メール・アドレス
などプログラムの運営に携わる主要な当事者のコンタクト先の情報が記載された書類も備わっ
ていなければならない。またムーディーズとしては、コンディットが契約関連書類だけではなく、
書式、プロセス、手順・手続き、そして業務遂行に必要なシステムの利用に関する指示事項を
含む運営マニュアルを備えていることが望ましい。
ABCP 発行、新規取引や権利放棄の承認など、アドミニストレーターが主要な業務を遂行する
過程で、何らかの過失が発生するリスクを最小化するための内部統制のプロセスを設定しな
ければならない。ムーディーズとしては、プログラムの運営に用いるシステムやソフト、報告・通
知ツールは、コンディットの規模と複雑さに相応するものが望ましい。
格付を付与する上で、ABCP の格付における期日通りの支払の重要度と ABCP の支払頻度
に鑑みて、アドミニストレーターと他の主要な当事者が堅実な事業継続プランを策定している
ことが望ましい。商業銀行の場合、監督当局が銀行経営全般に義務づける事業継続プランが
格付対象 ABCP プログラムにも適用できる。銀行がスポンサーでない場合は、そのスポンサ
ーが作ったリスク対応計画を評価する。それらのスポンサーは、事業中断のリスクを最小化す
るための書面化され効果が実証されているリスク対応計画を有していることが望ましい。
オペレーションに携わるその他の当事者の業務と評価
カストディアン、IPA など、オペレーションに携わる他の当事者は、関連契約書に規定された
義務を遂行する。それらの義務は通常、決済システムへの接続など、一定のインフラを必要と
する技術的なサービスに関わるものである。第Ⅱ節で述べたように、ムーディーズは、割り当
てられた業務に照らして経験、評判、実績を検討することでそれらの当事者の能力を測定す
る。
Ⅳ.業務中断リスクの評価
この節では、案件当事者が、倒産手続きや、その他財務状況による問題から、その役割を果
たせなくなることにより生じるオペレーショナル・リスクを評価するにあたって、ムーディーズが
用いる原則を説明する。ムーディーズは、この分析の枠組みを、第Ⅱ節で述べた ABCP の返
済において重要なオペレーション上の役割を担うと判断される全ての当事者に適用する。
40
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信用力に関連した案件当事者の不履行の可能性
信用力とそれに関連する要因は、主要な案件当事者が引き続き役割を果たし、必要なオペレ
ーション上のサポートを提供できる可能性の指標である。これらは、業務遂行上の過失または
不履行によって発生する ABCP プログラムの損失を補償する能力の指標(特に ABCP の格付
がそうした補償に依拠している場合)としても重要である。
ムーディーズの格付が付与されている当事者
サービス提供者としての役割を果たす当事者に明示的な格付が付与されていない場合があ
る。そうした場合、サービス提供者が、(ⅰ)格付が付与されている当事者の子会社で、(ⅱ)
親会社との同一視が容易であり、(ⅲ)その業務にある程度組み込まれている場合、業務上の
サポートが想定できる可能性もあり、その場合は親会社が高格付である限り子会社が業務不
履行に陥るとは考えにくい。サービス提供者が、格付が付与されているスポンサーの子会社
である場合には、業務を遂行する追加的なインセンティブが働く。関係性がない当事者は、契
約書類により求められる事項を厳密に解釈することにより、行動を制限する傾向があると考え
られる。このアプローチは、ムーディーズがそうした子会社に対する格付意見を示唆している
ものではなく、その役割を継続して果たす可能性の評価を示しているものに過ぎない。
アドミニストレーターやキャッシュ・マネージャーといった主要なサービス提供者が、次のいず
れかの条件を満たせば、それ以上の手当てがなかったとしても、通常、Prime-1 (sf)の格付が
適切な ABCP プログラムであると判断される。
»
サービス提供者の格付が Prime-1、あるいは短期格付がなければ少なくとも A2
»
サービス提供者が、Prime-1 の格付の親会社により過半数を所有されている子会社で、
財務報告上、親会社に連結されており、親子間で十分なレベルの統合がなされているこ
とが確認できる。それが確認できる例としては、(i)同一名称を含んでいる、(ii)同一ブラン
ドで取引を行っている、(iii)親会社の事業に完全に組み込まれている、あるいは(iv)キー
プウェル・アグリーメント、保証、またはその他の形での親会社からのサポート提供がある、
などである。
格付のある当事者と、格付のないサービス提供者の関係、例えばジョイントベンチャー、パー
トナーシップの形態をとる場合は、格付がない当事者が、格付のある当事者のサポートに依
拠できるかどうか検討し、事例ごとに基準を満たすか分析する必要がある。
サービス提供者またはその親会社の格付が Prime-2 以下に引き下げられた場合、ムーディー
ズは、サービス提供者の業務遂行能力がどう影響を受けるかを検討する。ムーディーズは、プ
ログラムにおける具体的な役割、他の当事者の関与、その他規定されている追加的なオペレ
ーション上の手当てを考慮する。格付委員会は、サービス提供者の格付引き下げが ABCP プ
ログラムの格付に影響を与えるかどうかを個別に検討する。サービス提供者が投資適格等級
であることは、ポジティブな要因と考えられる。
ムーディーズの格付が付与されていない当事者
ムーディーズの格付が付与されておらず、格付が付与された親会社との関連性がない場合、
ムーディーズは、(i)当該企業が責務を果たせるかどうかを示す要因、(ii)バックアップ・アレン
ジメントの存在、および(iii)当事者の ABCP プログラムに対するインセンティブ・ストラクチャー
を考慮する。
要因の重要性は、プログラムの種類と提供されるサービスによって異なる。業務が中断される
リスクを評価する際に用いる一般的な要因は次の通りである。
»
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MAY 27, 2015
サービス提供者のビジネスモデルが、ABCP プログラムにおけるそのサービス提供者の役
割と合致している。例えば、当該企業が、ABCP プログラムおよびその他のストラクチャー
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
STRUCTURED FINANCE
ド・ファイナンス・ビークルへのサービス提供に特化している専門の事業会社である場合
など。その事業は、業務の継続が可能な黒字のキャッシュフローおよび利益を創出してい
なければならない。また、その事業会社は、流動性・リファイナンスリスクにさらされていて
はならない。
»
事業会社の財務諸表は国際的な大手会計事務所により監査されており、ムーディーズが
入手可能である。
»
責務を果たすために必要な人員およびシステム等の十分なリソースを保有している。
»
ガバナンス(内部統治プロセスおよび監督機能等)における懸念がなく、事業が一個人に
依存していない。事業会社が規制対象下にある場合はその点も考慮に入れる。
»
サービス提供者に実績があり、その実績を示すに十分な期間にわたって事業を行ってい
る。
格付が A3 および Prime-1 未満、あるいは格付が付与されていない場合、追加的なオペレー
ション上の手当てが必要となることがある。そうした場合については個別に分析を行い、格付
委員会が、ABCP プログラムへのサービス提供を行う当該当事者の適切性を検討する。
バックアップまたは委任契約の存在
ABCP プログラムがサービス提供者によってさらされるオペレーショナル・リスクを緩和しうる多
数の契約が存在する。典型的なのが、サービス提供者が適用される基準を満たさない場合の
移管手当て、移管するにあたってのプロセスや移管先の基準がプログラムの契約書類に規定
されているといったものである。その役割を辞退したいと考えるサービス提供者は、移管を選
定し、秩序ある移行ができるよう、十分な猶予期間を伴って通知することが求められる。サービ
スに開きがあってはならず、ABCP プログラムにコストが発生してはならない。責務を果たせな
かった場合には他の当事者への移管が行われ、その移管期間は役割の重要性によって決ま
ってくる。
サービス提供者が規定された基準を満たさない場合、ABCP のタイムリー・ペイメントが当該当
事者の不履行によって中断されないよう、契約上の手当て(以下に詳述)が必要とされる。一
定の限定的な状況では、軽減要因があっても Prime-1 (sf)の格付に不十分と判断する場合が
ある。そうした場合、格付委員会が適切な格付を決定する。
契約上の手当て
次のいずれかの契約上の手当てがあれば、サービス提供者(または前述の場合の親会社)の
格付が A2 以上または Prime-1 でない場合でも、十分な緩和要因とみなされる。
» サービス提供者が、重要な機能を、A2 以上または Prime-1 の格付を有する当事者に委任
する。最終的な責任は委任先に移り、委任先が当初のサービス提供者の機能を監視する。
» 重要な機能は、A2 以上または Prime-1 の当事者によって監視される。当該当事者は、第
三者であるアドミニストレーターに業務の遂行を委任したとしても、引き続き責務を負う。
» A2 以上または Prime-1 の適切な当事者による業務履行保証が、信用力の代替に関する
ムーディーズの基準に従って規定されている。
» 正式なバックアップ契約または書面化された緊急時のバックアップ・プランが存在する。こ
れには、未償還の ABCP のタイムリー・ペイメントを確保するために即座に介入することが
可能であり、それをコミットしている一社以上の当事者が必要となる。バックアップ・サービ
ス提供者は、(ⅰ)高格付を付与されているか、(ⅱ)当初のサービス提供者とは関連のな
い専門の会社で、ムーディーズが格付を付与してない当事者に対する一般的な評価要因
(前述)に合致していなければならない。
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バックアップ・サービス提供者の適切性、および日常業務へのバックアップ当事者の関与度
は、その役割、ABCP プログラムの種類、および仕組みによって違いがある。しかし、流動性
補完の資金引き出しを求める通知の送付といった重要な機能については、バックアップ・サー
ビス提供者は、当初のサービス提供者が業務を行わなかった場合、即座に介入するための、
全ての権限と情報をもつ「ホット」バックアップとして機能することをムーディーズは期待してい
る。
ABCP プログラムの格付の通常の継続的なモニタリングの一環として、ムーディーズは具体的
に、i)バックアップのアレンジメントの有効性に関する年次アップデートの入手、ii)ABCP プログ
ラムの業務に関する定期的なオペレーショナル・レビューの実施、および iii)ムーディーズの
格付が付与されていないサービス提供者の、ムーディーズが評価に用いる要因への適合状
況をモニターするために必要な全ての情報の入手する。
案件ごとの分析にはインセンティブ・ストラクチャーを織り込む
ABCP のタイムリー・ペイメントにおいて重要と判断される一社以上のサービス提供者が、基準
を満たさず、契約上の手当てがない場合、格付委員会は、オペレーショナル・リスク要因をレ
ビューし、スポンサー、仕組み、ABCP プログラム種類に応じたオペレーショナル・リスクに照ら
して追加的な手当てが必要かを検討する。
サービシング業務が中断した場合に、スポンサーまたはその他の当事者が、タイムリー・ペイメ
ントを確保するために介入するインセンティブおよび能力は重要な要因となる。ムーディーズ
は、スポンサーが日常の業務にどの程度関与しているか、サービス提供者の業務に関してど
の程度の監督を行っているかを分析する。
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MAY 27, 2015
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第三部:オーストラリアにおけるサービシング業務の移管
リスクの緩和
証券化/オーストラリア
はじめに
第三部では、サービシング業務の移管により、債券保有者へのキャッシュフローが中断するリ
スクを緩和するための流動性の利用に関する枠組みを、グローバルな枠組みに沿って提案
する。この枠組みは、標準的なオーストラリアの ABS と RMBS に適用可能で、主として Aaa 格
付の証券のシナリオに対応するものである。
この枠組みを考えるにあたって、ほぼ全てのオーストラリアの案件で当初から受託者が事実上
のバックアップ・サービサーの役割を果たす事実など 23、ムーディーズはオーストラリア市場に
みられるいくつかの有利な特徴を考慮に入れている。またムーディーズは、証券化案件の大
多数に関与したこれらの事実上のバックアップ・サービサーの評価を行い、いずれも投資適
格等級相当のクレジット・エスティメート(信用力)を持ち合わせていると判断している。
サービシング業務の移管に伴い、キャッシュフローの不足が一時的に発生するリスクがある案
件では、1 カ月から 1 年間の金利に相当する流動性補完が提供される必要がある。必要な流
動性補完が 1 年間の金利に相当するのは、バックアップ・サービシング・プランがない案件で
のストレス・シナリオに対応するものである。そのようなケースでは、サービサー交代後、1 年後
までサービシングが通常の状態に戻らないとムーディーズは考えている。バックアップ・サービ
シング・プランを有する ADI(後述)以外の当事者による案件では、必要な流動性補完の額は
最大でも 6 カ月間の金利相当となる場合がある。
前述した通り、本レポートで説明する枠組みは、格付が投資適格等級の事実上のバックアッ
プ・サービサーを有する、標準的な ABS と RMBS のアセット・タイプを想定している 24。特殊な
アセット・タイプを裏付けとする案件では必要とされる流動性補完はさらに大きくなる可能性が
あり、バックアップ・サービサーが存在していない場合、あるいは存在したとしても投資適格等
級でない場合は他の緩和策を導入することが必要になる可能性がある。
オーストラリアの証券化案件の当事者となる銀行の格付に対する言及は、当該主体の CR 評
価を指すものとする 25。例外として、当該主体が CR 評価を持たない場合、最も適切な代理指
標として、例えば、当該主体のシニア無担保債務格付(またはそれと同等のもの)あるいは場
合により銀行預金格付(あるいはそれと同等のもの)から導いた指標を用いることがある。
バックアップ・サービシングは全ての不払いリスクを消滅させるものではない
バックアップ・サービサーへのサービサーの交代は、高格付の証券が、期日が到来しても利
払いを受けられないというタイミングに関するリスク(タイミング・リスク)の発生要因となる。本レ
ポートが対象とするほとんどのオーストラリアの証券化案件では、期日通りの利払いと法定償
還期日までの元本返済を投資家に約束している。利息の入金遅延はデフォルト事由やスワッ
プ契約の解約に結びつく可能性がある。
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MAY 27, 2015
23
事実上のバックアップ・サービサーは、i)サービシング業務を引き継ぎ、および/または ii)サービサー業務を行なう主体を
見つけるバックアップ・サービサー・ファシリティーとしての責務を担うために必要とされる。受託者は、事実上のキャッシ
ュ・マネージャーでもある。
24
グローバル・メソドロジーで説明したように、ムーディーズは、これらのサービサーは投資適格等級であるか、サービサー・
クォリティ・アセスメントが 3 以上であるか、あるいはそれと同等のレベルに評価されることが望ましい。
25
「格付記号と定義」を参照のこと。
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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受託者は、サービシング業務の移管が起こった場合にそれが円滑になされるよう、事前に十
分な準備をするようになってきている。予め銀行口座、主要な人員、手順、ファイル設置場所
を特定するなど、受託者が詳細なバックアップ・サービシング・プランを講じているケースもある。
過去には、迅速なサービシング業務の移管に対する受託者の準備は十分とはいえない場合
もあった。
バックアップ・サービシング・プランは、サービシング業務の移管に要する時間を短縮する効
果があるが、それだけで高格付の証券が確実に期日通りに支払いを受けることが完全に保証
されるものではない。このリスクをカバーするために流動性補完が必要になる。
バックアップ・サービシング・プランへの質問例
ムーディーズがレビューしたバックアップ・サービシング・プランは想定されるシナリオをカバー
している。全てのバックアップ・サービシング・プランで、当初サービサーの所在地で案件を引
き継ぐためのプランと手続きは十分だった。当初サービサーの所在地とは別の場所や、遠隔
地で引き継ぎを行なわざるを得ない可能性について認識されてはいるものの、サービシング
の中断に関して、可能性は低いが発生した場合の影響が大きい当該シナリオに対応するた
めの、詳細なプランが策定されている例はなかった。また、一部の法管轄域でみられるような
サービシング業務の移管が完了するまでの厳格な時間枠を定めているケースもなかった。
一般にバックアップ・プランは、サービシング業務の移管事由が発生した際の移行期間を短
縮するのに有効である。業務がどの程度迅速に軌道に乗るかは、バックアップ・サービシン
グ・プランの詳細とバックアップ・サービサーの準備の量に依拠する。
プランのレビューと、事実上のバックアップ・サービサーとのミーティングの結果、以下にある質
問の大半に対して満足な回答が得られた。しかし、サービシングの中断に関して、可能性は
低いが発生した場合の影響が大きいシナリオに対して、更なる準備が有益となると考えられる。
» バックアップ・サービサーは、当初のサービサーのサービシング・システムのソフトとハード
を利用する技能と法的権利を有しているか?システムへのログオンに必要なパスワードを
有しているか?
» バックアップ・サービサーは、当初のサービサーの拠点において十分な業務を行なう法的
権利を有しているか?サービサーのオフィスに入る鍵を所有しているか?
» バックアップ・サービサーは、サービシングのためのコンピュータ・ファイルの所在場所を知
っているか?当初のサービサーとバックアップ・サービサーはどのくらいの頻度でデータ・
テープを交換しているか?テープはバックアップ・サービサーのサービシング・システムへ
の統合可能性と互換性はテストされているか?
» バックアップ・サービサーは、どのくらいの頻度でサービシング業務の移管の「防火訓練」
に参加しているか?
» バックアップ・サービサーは、業務における主要な人員を知っているか、彼らとの間で緊急
時の臨時雇用契約を結んでいるか?
» バックアップ・サービサーは、債券保有者に支払う資金を引き出す口座を知っているか?
» バックアップ・サービサーは、threshold rate mechanism(訳注:サービサーがエクセス・スプレ
ッドを保証するもの)による金利調整など、契約に定められたサービサーの義務を知ってい
るか?
» 回収が発行体の口座に直接なされる場合、バックアップ・サービサーは回収に関する情報
を入手できるか?
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クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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タイミング・リスクを緩和する流動性補完
サービサー交替事由が発生すると、取引明細書の印刷、債務者からの入金、延滞債務者と
のコンタクトの遅れなど、様々な理由から、長期間にわたるキャッシュフローの中断が起こりうる。
これらの中断の影響と債券への支払いが延滞するリスクを軽減するために、臨時の返済原資
として適切な金額の流動性ファシリティーが必要となる。それらのファシリティーは、ストレス・シ
ナリオにおいても、通常通りサービシングが再開されるまでの期間の利払いをカバーできるこ
とが望ましい。
例えば、ストレス・シナリオにおいてサービシング業務が通常の状態に戻るまでに 3 カ月を要
すると見込まれる場合は、流動性ファシリティーを 3 カ月分に設定する必要がある。
認可された預金受入銀行
銀行、住宅金融組合(Building Society)、信用組合(Credit Union)など、「認可された預金受
入銀行」(ADI:Authorized Deposit-taking Institutions)は、オーストラリアの APRA(オーストラリ
ア健全性規制庁)の規制を受けている。銀行法に基づき APRA は預金者保護に携わってい
る。同庁は、この責務を履行する一つの方法として、規制上の自己資本比率の遵守状況をモ
ニターすることで ADI がデフォルトに陥る可能性を最小限に抑える。ADI がデフォルトに陥る
可能性が最小化されることで、サービシングが中断する可能性も最小化される。
オーストラリアの規制環境は、銀行の信用力を支える上で強力な役割を果たしているとムーデ
ィーズはみている 26。APRA は金融システムの安定を確保するため、システム管理において意
欲的に監督指導を行なっているが、個別案件のパフォーマンスを監督する立場にはなく、サ
ービサーからバックアップ・サービサーへ円滑に業務を移管する役割は受託者にかかってい
る。そのため、デフォルト確率が高い一部の ADI についてはキャッシュフロー中断のリスクが
一定程度ある。
オーストラリアにおける流動性の評価の枠組み
ムーディーズは、サービサーのデフォルト確率と、円滑なサービシング業務の移管を確保する
ためサービサーが取る手続に基づいて、サービサー交替事由に起因するキャッシュフローの
中断を避けるため、高格付の案件には、以下に述べる流動性補完の金額が必要になると考
える。以下の流動性補完の金額はストレスを加えたバンクビル・スワップ(BBSW)とマージンを
考慮した金利を用いて計算したものとなる。
バックアップ・サービシング・プランがある場合でも、特殊なアセットを裏付けとしている場合で、
バックアップ・サービサーの候補がいない場合などは、6 カ月分以上の流動性補完が適切な
水準とされる場合がある。サービシング業務の移管が非常に困難なアセット・タイプの場合、
利用可能な流動性補完が潤沢であっても、案件の格付は現在のサービサーの格付に連動す
る。
ADI
» 格付 P-1:デフォルト確率の低さと APRA の監督を受けることを理由として一時的な資金不
足を賄う流動性補完は約 1 カ月分で十分とする。
» P-1 未満または無格付:APRA の監督を受けるとはいえ、タイミング・リスクを緩和するのに 1
カ月という最低水準の金額に加えて、追加的な流動性補完があるのが適当な場合がある。
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2010 年 4 月発行の “Banking System Outlook”を参照のこと。
クロス・セクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン
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状況に応じて流動性補完の金額は 1 カ月分から 3 カ月分となる。ただし、投資適格等級
でない ADI については、他のリスク緩和手段が備わっていない限り、流動性補完の額はこ
の範囲の上限に貼りつく可能性が高い。ADI がサービサーとなる案件が最高格付を取得
するために必要とする流動性補完の金額は、同程度の格付(公表格付、非公表格付また
は同等のクレジット・エスティメート)を持つ ADI 以外の主体がサービサーとなる案件のそ
れよりも少なくなる。
ADI 以外のサービサーの流動性補完を減じるバックアップ・サービシング・プランなどの要因
は ADI にも適用される(次セクション参照)。ただし 1 カ月から 3 カ月の流動性補完の範囲の
下限にあたる場合は、当該 ADI 内での事業の質に焦点が当てられる。
ADI の格付が P-1 を下回る場合、本セクションに従い、追加の流動性補完があることが適当
な場合がある。P-1 の格付が失われた場合、案件の格付と ADI サービサーの格付をより確実
に切り離すため、流動性補完の増額、適切な格付のサービサーの就任、十分なバックアップ・
サービシング・プランの存在が適切であるとムーディーズは考えている。
ADI 以外
»
格付 P-1:デフォルト確率の低さを理由として、一時的な資金不足を賄うの流動性の量は
約 1 カ月分で十分とする。
格付 P-1 未満または無格付:バックアップ・サービシング・プランがない案件については、サー
ビシング業務の移管リスクを緩和するための追加の流動性補完は、約 2 カ月から 6 カ月とな
る。2 カ月となるのは、バックアップ・サービシング・プランがサービシング業務の移管リスクを
緩和する場合である。この金額は、バックアップ・サービシング・プランの詳細、円滑な移行を
確実にするためのバックアップ・サービサーが行なう準備によって決まる。バックアップ・サービ
サーによる準備もバックアップ・サービシング・プランもない場合は、6 カ月から 12 カ月の流動
性補完がなければ最高格付を取得できない。
ADI ではないサービサーの格付が P-1 から格下げされた場合は、1 カ月分の最低流動性補
完では不十分と考えられる。P-1 の格付が失われた場合には、案件の格付と ADI の格付
をより確実に切り離すために、流動性補完の増額、適切な格付のサービサーの就任、
十分なバックアップ・サービシング・プランが設けられることが適切であるとムーデ
ィーズはみなす。
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図表1
サービシング業務の移管リスクを緩和するための流動性補完の枠組み1
いいえ
ADI かどうか
P-1 かどうか
投資適格等級の
バックアップ・サービサーによ
るプランがあるかどうか
いいえ
はい
P-1 かどうか
いいえ
はい
いいえ
はい
はい
約1ヵ月の流動性補完
2
約1-3ヵ月の流動性補完
約1ヵ月の流動性補完
約6-12ヵ月の流動性補完
約2-6ヵ月の流動性補完
1.
標準的なオーストラリアの ABS および RMBS のアセット・タイプにのみ適用される。事実上のバックアップ・サービサー(受託者)の格付
は投資適格等級かそれと同等と想定。
2.
格付またはクレジット・エスティメートが投資適格等級未満の ADI は、他のリスク緩和要因が存在しない限り、この範囲の上限になる。
サマリー
証券化市場に依拠したるオリジネーターは、金融危機に直面するとビジネスモデル自体がス
トレスに晒される。デフォルト確率が高まるにつれて(それらのオリジネーターはサービサーも
務めることから)サービサー業務の移管の可能性も高まる。
サービサー交替事由の発生に備えて事前に準備を行なっているバックアップ・サービサーや
オリジネーターもあるが、ほとんどのプランや手続が念頭においているのは平均的なシナリオ
であり、高格付のノートには不十分な場合がある。
上述のように、オーストラリアの証券化案件はサービサー交替事由の発生確率を低下させる
上で有利な特徴を持っており、それが格付に反映されている。受託者が事実上のバックアッ
プ・サービサーとなる点も案件に有利に働いている。それは、少なくともバックアップ・サービサ
ー・ファシリティターとなる当事者が常に存在することを意味する。
サービサーが ADI でない場合、十分な事前準備やシステムの存在、ストレスでない状況が想
定できれば、数日の期間で移管が完了すると想定されるものの、ムーディーズは、デフォルト
前の準備は行なわれず、サービサーの交代後に業務が通常の状態に回復するのに1年近い
期間を要するケースもありうると想定している。
ムーディーズの格付の枠組みでは、適切に見積もられた流動性ファシリティーは、投資家へ
の期日通りの支払いに影響を与えるタイミング・リスクを緩和する要因になるとみなす。必要な
流動性補完の大きさは、ストレス・シナリオにおいてサービシング業務が通常の状態に回復す
るのに必要となる期間にほぼ比例する。
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ムーディーズの関連リサーチ
他の補助的格付手法やクロス・セクター格付手法に記載されている、幅広い格付上の考慮事
項が、本クロス・セクター格付手法の適用において関連することもある。関連しうる補助的格付
手法ならびにクロス・セクター格付手法については、ムーディーズのウェブサイトを参照された
い。
さらなる情報については「格付記号と定義」を参照されたい。
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いリスク及びデフォルト事由が発生した場合に見込まれるあらゆる種類の財産的損失と定義しています。信用格付は、流動性リスク、市場価値リスク、価格変動性及びその他のリスクにつ
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また、定量的モデルに基づく信用リスクの評価及び Moody’s Analytics, Inc.が公表する関連意見又は解説を含むことがあります。信用格付及びムーディーズの刊行物は、投資又は財務に関
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の刊行物はいずれも、特定の投資家にとっての投資の適切性について論評するものではありません。ムーディーズは、投資家が、相当の注意をもって、購入、保有又は売却を検討する各
証券について投資家自身で研究・評価するという期待及び理解の下で、信用格付を付与し、ムーディーズの刊行物を発行します。
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ーズの事前の書面による同意なく、複製その他の方法により再製、リパッケージ、転送、譲渡、頒布、配布又は転売することはできず、また、これらの目的で再使用するために保管すること
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ディーズはこれらの情報をいかなる種類の保証も付すことなく「現状有姿」で提供しています。ムーディーズは、信用格付を付与する際に用いる情報が十分な品質を有し、またその情報源が
ムーディーズにとって信頼できると考えられるものであること(独立した第三者がこの情報源に該当する場合もあります)を確保するため、すべての必要な措置を講じています。しかし、ムー
ディーズは監査を行う者ではなく、格付の過程で又はムーディーズの刊行物の作成に際して受領した情報の正確性及び有効性について常に独自に確認することはできません。
法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー及びサプライヤーは、いかなる者又は法人に対しても、ここに記載する情報
又は当該情報の使用若しくは使用が不可能であることに起因又は関連するあらゆる間接的、特別、二次的又は付随的な損失又は損害に対して、ムーディーズ又はその取締役、役職員、
従業員、代理人、代表者、ライセンサー又はサプライヤーのいずれかが事前に当該損失又は損害((a)現在若しくは将来の利益の喪失、又は(b)関連する金融商品が、ムーディーズが付与
する特定の信用格付の対象ではない場合に生じるあらゆる損失若しくは損害を含むがこれに限定されない)の可能性について助言を受けていた場合においても、責任を負いません。
法律が許容する範囲において、ムーディーズ及びその取締役、役職員、従業員、代理人、代表者、ライセンサー及びサプライヤーは、ここに記載する情報又は当該情報の使用若しくは使用
が不可能であることに起因又は関連していかなる者又は法人に生じたいかなる直接的又は補償的損失又は損害に対しても、それらがムーディーズ又はその取締役、役職員、従業員、代理
人、代表者、ライセンサー若しくはサプライヤーのうちいずれかの側の過失によるもの(但し、詐欺、故意による違反行為、又は、疑義を避けるために付言すると法により排除し得ない、その
他の種類の責任を除く)、あるいはそれらの者の支配力の範囲内外における偶発事象によるものである場合を含め、責任を負いません。
ここに記載される情報の一部を構成する格付、財務報告分析、予測及びその他の見解(もしあれば)は意見の表明であり、またそのようなものとしてのみ解釈されるべきものであり、これに
よって事実を表明し、又は証券の購入、売却若しくは保有を推奨するものではありません。ここに記載する情報の各利用者は、購入、保有又は売却を検討する各証券について、自ら研究・
評価しなければなりません。
ムーディーズは、いかなる形式又は方法によっても、これらの格付若しくはその他の意見又は情報の正確性、適時性、完全性、商品性及び特定の目的への適合性について、(明示的、黙
示的を問わず)いかなる保証も行っていません。
Moody's Corporation (以下「MCO」といいます)が全額出資する信用格付会社である Moody's Investors Service, Inc.は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を
含みます)及び優先株式の発行者の大部分が、Moody's Investors Service, Inc.が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、1500 ドルから約 250 万ドルの手数料を Moody's
Investors Service, Inc.に支払うことに同意していることを、ここに開示します。また、MCO 及び MIS は、MIS の格付及び格付過程の独立性を確保するための方針と手続を整備しています。MCO
の取締役と格付対象会社との間、及び、MIS から格付を付与され、かつ MCO の株式の 5%以上を保有していることを SEC に公式に報告している会社間に存在し得る特定の利害関係に関す
る情報は、ムーディーズのウェブサイト www.moodys.com 上に"Investor Relations-Corporate Governance-Director and Shareholder Affiliation Policy"という表題で毎年、掲載されます。
オーストラリアについてのみ:この文書のオーストラリアでの発行は、ムーディーズの関連会社である Moody's Investors Service Pty Limited ABN 61 003 399 657(オーストラリア金融サービス認可
番号 336969)及び(又は)Moody's Analytics Australia Pty Ltd ABN 94 105 136 972(オーストラリア金融サービス認可番号 383569)(該当する者)のオーストラリア金融サービス認可に基づき行わ
れます。この文書は 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「ホールセール顧客」のみへの提供を意図したものです。オーストラリア国内からこの文書に継続的にアクセスした場合、
貴殿は、ムーディーズに対して、貴殿が「ホールセール顧客」であるか又は「ホールセール顧客」の代表者としてこの文書にアクセスしていること、及び、貴殿又は貴殿が代表する法人が、直
接又は間接に、この文書又はその内容を 2001 年会社法 761G 条の定める意味における「リテール顧客」に配布しないことを表明したことになります。ムーディーズの信用格付は、発行者の
債務の信用力についての意見であり、発行者のエクイティ証券又はリテール顧客が取得可能なその他の形式の証券について意見を述べるものではありません。リテール顧客が、ムーディ
ーズの信用格付に基づいて投資判断をするのは危険です。もし、疑問がある場合には、ご自身のフィナンシャル・アドバイザーその他の専門家に相談することを推奨します。
日本についてのみ:ムーディーズ・ジャパン株式会社(以下、「MJKK」といいます。)は、ムーディーズ・グループ・ジャパン合同会社(MCO の完全子会社である Moody’s Overseas Holdings Inc.の
完全子会社)の完全子会社である信用格付会社です。また、ムーディーズ SF ジャパン株式会社(以下、「MSFJ」といいます。)は、MJKK の完全子会社である信用格付会社です。MSFJ は、全
米で認知された統計的格付機関(以下、「NRSRO」といいます。)ではありません。したがって、MSFJ の信用格付は、NRSRO ではない者により付与された「NRSRO ではない信用格付」であり、
それゆえ、MSFJ の信用格付の対象となる債務は、米国法の下で一定の取扱を受けるための要件を満たしていません。MJKK 及び MSFJ は日本の金融庁に登録された信用格付業者であり、
登録番号はそれぞれ金融庁長官(格付)第 2 号及び第 3 号です。
MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)は、同社が格付を行っている負債証券(社債、地方債、債券、手形及び CP を含みます。)及び優先株式の発行者の大部分が、MJKK 又は MSFJ(のうち該
当する方)が行う評価・格付サービスに対して、格付の付与に先立ち、20 万円から約 3 億 5,000 万円の手数料を MJKK 又は MSFJ(のうち該当する方)に支払うことに同意していることを、ここ
に開示します。
MJKK 及び MSFJ は、日本の規制上の要請を満たすための方針と手続も整備しています。
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MAY 27, 2015
クロスセクター格付手法:証券化商品のオペレーショナル・リスクに関するグローバル・ガイドライン