平成 27年 6月8日カレント・トピックス独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構～Annual Coal Conference of the Americas 概要～ <ワシントン事務所村松秀浩> 3 月 18 日～ 19 日、 Annual Coal Conference of the Americas （ IHS Energy 主催）がコロンビア・カルタヘナで開催されたところ、興味ある点は概要以下のとおりである。１．トルコ（ ISKEN-Iskenderun 社 Sirri Uyanik CEO）トルコの電力市場は、① 欧州で第 4 位であり、② 中東・北アフリカ地域で最大である。トルコは、ロシア・カスピ海諸国から欧州に至る天然ガス輸送の中継点にあるため、2014 年のトルコの電源構成に占める天然ガス比率は現在 48%と極めて高い。2023 年までには、① 石炭火力及び ② 原子力発電の導入促進により、天然ガス依存度を 33%まで低下させる事が目標である。トルコの原油・天然ガス輸入能力は、以下のとおり。輸入能力原油天然ガス 1 億 2100 万トン 58bcm 目下のところ、イスラム国の勢力伸長によるイラク北部のクルド自治区及びイラク南部の産油地帯への悪影響を懸念している。トルコの石炭の品質はさほど良くないが、国内褐炭の 40%～ 45%は首都アンカラから南東部に埋蔵されている。2023 年の電源構成では、① 輸入炭 17%で、② 国内炭 17%で、 ③ 石炭依存度 34%まで引き上げる事を目標としている。輸入炭の主要供給国は、① コロンビア、② ロシア、③ ウクライナ、④ 南アフリカ、⑤ 米国である。２．セレホン Cerrejon 社（ Roberto Junguito Pombo CEO）セレホンは、ベネズエラ国境に近いコロンビア・グアヒラ（ Guajira）県の石炭開発プロジェクトである。セレホン炭は、 ① コロンビアの石炭輸出量の 44%、 ② 世界の海運石炭量の 4%を占めている。セレホンの石炭生産量の推移は、以下のとおり。石炭生産量 2002 年 2014 年 1,850 万トン 3,420 万トン（対前年＋ 2%） 1 ３．ドラモント Drummond 社（ Jose Miguel Linares Martinez 社長）ドラモント炭鉱は、コロンビア北部セザール県（ Cesar Department）に所在しており、ドラモントの石炭生産量は、以下のとおり。石炭生産量 1995 年～ 2014 年累積 2014 年 3 億 2280 万メトリック・トン 2,680 万メトリック・トン４． IHS Energy（ Jackie Cantillo 上級石炭アナリスト）コロンビアのカリブ海沿岸の積出港は、合計 9 箇所ある。うち一般炭の積出港は、① Puerto Bolivar（セレホン）、② Puerto Drummond（ドラモント）、③ Puerto Brisa（ 2014 年 12 月：新規開港）、 ④ Santa Marta、 ⑤ Puerto de Mamonal などであり、若干遅々とした歩みではあるが、インフラ整備が進められている。コロンビアの石炭輸出量の推移は、以下のとおり。欧州向け輸出が 71%、米国向け輸出が 29%を占めており、アジア向け輸出は極僅かである。石炭輸出量 2013 年 2014 年 2015 年（推計） 7,360 万トン 7,500 万トン 8,400～ 8,500 万トン５． Bright Consulting（ Paul Bright 部長）コロンビアの石炭埋蔵量は、世界の 2%弱を占める 64 億トンであり、褐炭から瀝青炭・無煙炭まで、一般炭から原料炭まで幅広い品質の石炭を産出する。輸出用一般炭は、低灰分・低硫黄であり、熱量は豪州炭に次いでいる。2005 年～ 2012 年のコロンビアの石炭生産量は、以下のとおり。総石炭生産量一般炭原料炭無煙炭 5 億 7000 万トン 5 億 4000 万トン 3,000 万トン 20 万トン（ 94.7%）（ 5.3%）（ 0.03%）６． T Parker Host 社（ Cees van de Mortel COO）米バージニア州からの石炭輸出量は、1990 年にピークの 6,000 万トンであったものが、 2014 年には 4,000 万トンまで減少してきた。米国中央アパラチア（ Central Appalachian）産炭の輸出採算ラインは、 85 ドル～ 90 ドル／トンであろう。米国炭の輸出が価格安にも関わらず比較的堅調である理由は、① 鉄道及び港湾のテイク・オア・ペイ契約、② 価格ヘッジ、③ 現金収入等による。米国内の石炭輸出ターミナルの積出能力には余力がある。ボルチモア（メリーランド州）石炭輸出ターミナルの稼働状況は、以下のとおり。石炭積出量 2013 年 2014 年積出能力 1,360 万トン 1,290 万トン 2,850 万トン Hampton Roads（バージニア州）石炭輸出ターミナルの稼働状況は、以下のとおり。 2 石炭積出量 2013 年 2014 年積出能力 4,520 万トン 3,660 万トン 7,780 万トン Mobile（アラバマ州）石炭輸出ターミナルの稼働状況は、以下のとおり。石炭積出量 2013 年 2014 年積出能力 1,130 万トン 1,170 万トン 1,640 万トンニューオーリンズ（ルイジアナ州）石炭輸出ターミナルの稼働状況は、以下のとおり。石炭積出量 2013 年 2014 年積出能力 1,880 万トン 930 万トン 6,200 万トンヒューストン（テキサス州）石炭輸出ターミナルの稼働状況は、以下のとおり。石炭積出量 2013 年 2014 年積出能力 280 万トン 200 万トン 870 万トン西海岸（合計）石炭輸出ターミナルの稼働状況は、以下のとおり。石炭積出量 2013 年 2014 年積出能力 930 万トン 1,820 万トン 6,000 万トン米パウダーリバー（ Powder River Basin ）炭は、低コスト生産の実現により、インドネシア炭と競争する事が可能となる。米パウダーリバー炭田から西海岸までの石炭輸送鉄道ルートは、以下のとおり。バンクーバー港 Prince Rupert Prince Rupert （ｴﾄﾞﾓﾝﾄﾝ経由）（ﾊﾞﾝｸｰﾊﾞｰ経由） BNSF→ Canadian Pacific（ CP） BNSF 鉄道 → Canadian National（ CN） BNSF→ Canadian National（CN）米国西海岸で計画中の石炭輸出ターミナルの輸出能力は、以下のとおり。 Gateway Pacific Millennium Bulk Morrow Pacific 4,500 万トン 4,400 万トン 350 万～ 800 万トン米国西海岸合計 9,250 万～ 9,700 万ﾄﾝ Morrow Pacific 石炭輸出ターミナル・プロジェクト（ Ambre Energy）に関しては、① パウダーリバー炭の産炭州であるワイオミング州及びモンタナ州が積極的に支持しているものの、②オレゴン州が住民の意向を受けて拒否している。７． IHS Energy（ James Stevenson 石炭部長）米国の石炭需給は過剰供給にあるが、過剰供給は 2016 年まで継続するであろう。長期的にはイリノイ（ Illinois Basin）炭に分があるが、2020 年以降は輸出減少局面に入るであろう。 3 IHS Energy による 2015 年の米国産天然ガス価格予想は、 2.79 ドル／ MMBtu である。米国内炭の供給過剰は、① 石炭火力発電所の閉鎖、及び ② 貯炭場の閉鎖により、一層悪化していく環境にある。８．電力会社 Southern Company（ Tris Swindle 燃料部長） Southern Company の電源構成は、以下のとおり。 2014 年ガス・石油石炭原子力水力その他電源構成 40% 40% 16% 3% 1% 電力会社としては、一般炭では、低コスト炭が魅力的であり、パウダーリバー炭及びイリノイ炭の使用比率が増加してきている。石炭と競合する天然ガスの平均ヘンリーハブ（ HH）価格の推移は、以下のとおり。天然ガス価格が低下すれば低下するほど、国内炭の市場は産炭地域から近距離に押し込められる格好になる。 HH 価格 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 3.99 ドル 2.75 ドル 3.72 ドル 4.32 ドル 2.92$/MMBtu ９．メキシコ（連邦電力委員会 CFE： Veronica Vazquez 燃料副部長）メキシコ連邦電力委員会（ CFE）は、国家生産企業（ State Productive Company）へと変貌する。 CFE の発電コストの 70%を燃料価格が占めているので、経済性及び環境負荷を同時に考慮しながら、燃料コストの低減に努力する。具体的には、 ① 天然ガスを増やし、② 燃料油を転換し、③ 軽油を補助燃料として位置付け、④ 石炭を減らすが、クリーン・コール技術導入の範囲で使用していく。メキシコのエネルギー・ミックス目標は、以下のとおり。天然ガス再生可能燃料油石炭原子力新ｸﾘｰﾝ 2014 年 43% 24% 19% 10% 3% 0% 2028 年 47% 27% 2% 4% 1% 12% 2000 年～ 2014 年のメキシコ CFE に対する主要な石炭供給国は、以下のとおり。豪州米国南アフリカコロンビア中国カナダ 61% 19% 6% 5% 4% 3% CFE の新たな石炭調達方式はオークションであり、次期オークションは、 2016 年下半期に実施する予定である。１０．グアテマラ（グアテマラ・エネルギー公社 CEG： Rafael Navajas）中米諸国の中で一般炭を産出する国は、① グアテマラ及び ② 極少量を生産するパナマのみである。グアテマラだけが事実上、石炭を生産し得る国であると言える。グアテマラは、1999 年に中米諸国で最初に San Jose 石炭火力発電所（ 132MW） 4 を操業開始した。パナマでは、 2011 年に GDF Suez が Bahia Las Minas 石炭火力発電所（ 120MW）を操業開始した。グアテマラは、 2016 年までに設備容量 900MW ～ 1,300MW の石炭火力発電を設置・稼働させる計画である。１１．ブラジル（ Eneva 社 Ruediger Schils 取引部長） 2015 年 2 月時点のブラジルの電源構成は、以下のとおり。総設備能力水力火力 143GW 89.4GW 37.9GW （ 63%）（ 26%）輸入電力風力原子力（ 6%）（ 4%）（ 1%）ブラジルの石炭火力の発電量は、① 国内炭が 2.0GW で、② 輸入炭が 1.6GW である。ブラジルは現在、2001 年以降最悪の水不足に陥っており、水力発電の不足分を火力発電により補っている。火力発電は、ブラジルにとって保険証書である。来 2016 年に向けて、火力発電は一層必要とされるであろう。 2017 年以降の予測は難しいが、最安価な化石燃料である石炭が有力な電源であることは疑い得ない。１２． IHS Energy（ David Price 上級石炭部長）アジア市場予測に関しては、 ① ベトナムが 2030 年までに世界第 6 位の石炭輸入国となる。② 韓国の石炭輸入量は 2020 年～ 2021 年に 1 億 3000 万トンまで増加する。 ③ 日本の石炭輸入量は 2020 年～ 2021 年に 1 億 4000 万トンまで増加する。 ④ マレーシア、フィリピン、タイ、台湾の石炭輸入量が顕著に増加する。⑤ アジアの石炭輸入量は 2020 年に 8 億 4700 万トンまで増加する。⑥ 世界の石炭需要量は 2020 年までに 10 億 7000 万トンまで増加する。１３． Clarksons 社（ Henriette Van Niekerk ドライバルク分析部長）コロンビア・蘭ロッテルダム間の Capesize 海運貨物料の推移は、以下のとおり。ドライバルクの海運貨物料は歴史的な低水準にある。 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年 2015 年 10.40 ドル /トン 9.11 ドル /トン 8.71 ドル /トン 12.62 ドル /トン 5.11 ドル /トン１４． Xcoal Energy & Resources（ Jack Porco CCO）米国産原料炭にとっては、 2014 年はもはや思い出したくない一年であったが、 2015 年も逆風の中を突き進む感じである。過去 3 年間の世界の海運原料炭需要は 3,500MT 増加したが、豪州原料炭が更に上を行く 5,000MT の供給増となった。 2014 年の世界の海運石炭貿易（一般炭＋原料炭）は、▲ 1,200MT 減少した。2014 年の海運原料炭需要は、＋ 800 万 MT 増加（＋ 3%）増加したものの、過去 10 年間の平均＋ 5.5%と比較すれば、低い伸び率に留まった。かかる状況で、豪州は市場シェアを 1,500 万 MT 拡大している。世界的な石炭供給のダブつきを背景として、2014 年の一般炭スポット価格及び原料炭スポット価格は急落した。海運原料炭のマージンは著しく低下しており、 1/3 が赤字輸出の状況にある。米国の石炭事業者は、極めて厳しい競争を強いられており、販路喪失の危機に晒されている。 5 2014 年の海運石炭取引の推移は、以下のとおり。 2013 年 2014 年対前年比原料炭 2 億 9000 万 MT 2 億 9800 万 MT ＋ 800 万 MT（＋ 3%）一般炭 9 億 2500 万 MT 9 億 500 万 MT ▲ 2,000 万 MT（ ▲ 2%） 12 億 1500 万 MT 12 億 300 万 MT ▲ 1,200 万 MT（ ▲ 1%）石炭合計世界の海運原料炭市場における原料炭生産国シェアの推移は、以下のとおり。 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 2014 年豪州 63% 53% 55% 57% 61% 米国 19% 24% 23% 19% 17% カナダ 10% 11% 11% 11% 10% その他 9% 12% 11% 13% 12% 世界の原料炭市場はゆっくりとしたペースで拡大を続ける。世界の原料炭生産者にとっては厳しいマーケット環境が今後数年間は続くであろう。豪州のような低コスト生産者だけが海運原料炭市場の競争に参加する資格がある。米ドル高により、商品市場の勝者と敗者が決定されている。米国の原料炭生産者にとっては、原料炭市況が死活問題であるが、暫く先の話であろう。１５．ArcelorMittal ブラジル（ Marcelo Tardin Alves 固形燃料購買担当取締役） ArcelorMittal 社全体では、年間 2,800 万 MT のコークスを消費している。2013 年の固形燃料調達量は、 4,500 万 MT であり、世界で 80 以上の生産者から調達している。 ArcelorMittal の固形燃料調達の見通しは、以下のとおり。 2015 年原料炭 2016 年 2017 年 2018 年 1,800 万トン 1,940 万トン 1,980 万トン 1,990 万トン PCI 670 万トン 730 万トン 770 万トン 800 万トン Sinter Fuel 150 万トン 130 万トン 140 万トン 140 万トン 2,620 万トン 2,800 万トン 2,880 万トン 2,930 万トン総固形燃料ブラジルの粗鋼生産量及び高炉稼働率の推移は、以下のとおり。 2013 年 2014 年 2015 年粗鋼生産量 2,291 万トン 2,326 万トン 2,640 万トン高炉稼働率 73% 75% 84% 2014 年の ArcelorMittal に対する強粘結炭＋ PCI の供給国は、以下のとおり。米国豪州カナダロシアコロンビアベネズエラ 44% 30% 13% 8% 4% 1% 以上 6 おことわり：本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結につき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 7