特集 新技術の開発と活用・普及に向けて 神戸市垂水処理場「こうべWエコ発電プロジェクト」について さか べ けい すけ 坂 部 敬 祐* 「こうべWエコ発電プロジェクト」は、垂水処理場の施設上部空間と下水道固有の資源を活用した、大 規模太陽光発電と「こうべバイオガス」による発電事業である。再生可能エネルギーの固定価格買取制度 (FIT)※を活用した民間企業との共同事業であり、平成26年3月より発電を開始している。太陽光とバイ オガスによるダブル発電は日本初の取組みである。 1.はじめに 動車への供給・都市ガス導管への注入を実施してい 神戸市は、南は大阪湾に面し、市街地の背後には る。また、平成23年度からは、木質系(グリーン) 六甲連山が迫る面積553.37㎢、人口約154万人の自 と食品製造系(スイーツ)バイオマスのうち好適な 然豊かな都市である。本市では、昭和33年に下水処 地域バイオマスを下水汚泥と混合することでバイオ 理を開始し、平成25年度末では下水道人口普及率 ガス発生量を増加させることを目的とした「KOBE 98.7%に達しており、市内6ヵ所の処理場において、 グリーン・スイーツプロジェクト」を実施している 1日平均約55万㎥の下水を処理している。 (平成23年度 国土交通省 下水道革新的技術実証 下水処理施設には、さまざまな資源が集約されて 事業)。さらに垂水処理場では、平成23年度より「こ おり、その代表的なものとして処理水や消化ガスな うべバイオガス」を使用した660kWのガス発電を どがある。処理水を処理場内での機械用水や雑用水 実施しており、得られた電気と熱は場内で利用して に利用するほか、ポートアイランドや六甲アイラン いる。 ドでは、さらにオゾン処理した再生水を、島内の学 「こうべWエコ発電プロジェクト」は、大規模太 校や商業ビルなどのトイレ用水や植栽の散水に利用 陽光発電と「こうべバイオガス」による発電であり、 している。また、山の中腹に位置する鈴蘭台処理場 大阪ガス株式会社の子会社である「エナジーバンク からの高度処理水については、放流する際の有効落 ジャパン株式会社」 (以下、 「EBJ」という) との共同事 差約65mと日量16,000㎥の水量を活用して、85kW 業として、平成26年3月から供用開始している。太 の小水力発電を実施している。さらにその水は、阪 陽光発電は天候等により発電量が大きく変化するが、 神・淡路大震災で被災した松本地区のせせらぎに送 バイオガス発電は年中無休で継続して発電できるた られ、平常時には都市に潤いを与えることで快適性 め、両者を組み合わせることでより安定的な事業展 を向上させ、火災などの非常時には防火用水として 開が可能となった。下水道資源を活用した太陽光と 利用することにより安全性の向上を図っている。 バイオガスのダブル発電は日本初の取組みである。 一方、汚泥処理の過程で発生するメタンを主成分 とした消化ガスは、一般的に場内で消化槽を加温す る燃料や空調の熱源に活用されているが、本市東灘 処理場においては、全国に先駆けて、この消化ガス を高度に精製し「こうべバイオガス」の天然ガス自 *神戸市 建設局 下水道河川部 保全課 処理場係長 078-331-8181 月刊建設15−01 21 2.経緯 方式」を採用していること、③神戸市が資源と空間 再生可能エネルギー生産への取組みは、経済性の を提供し、民間資金を活用して再生可能エネルギー 観点からこれまではなかなか導入が進まなかった。 を創出すること、④国の再生可能エネルギーの固定 特に、大規模太陽光発電設備については、10億を超 価格買取制度を利用した20年間の事業であること。 える莫大な初期投資を要する反面、採算性が低いこ EBJは、発電設備の設置・運営や電力会社との売 とから事業実施に至らなかった。 電契約の調整などを担うとともに、発電した電力を、 このような状況のなか、再生可能エネルギーの普 及拡大を目的に、平成24年度7月より再生可能エネ 固定価格買取制度により電力会社に売却し、収入を 得る。 本市は、EBJに対し発電設備の設置場所及び「こ ルギーの固定価格買取制度が導入された。 「こうべバイオガス」を始め、再生可能エネルギー うべバイオガス」を提供する。なお、発電設備の設 の導入についてはこれまでも推進してきたところで 置に関して費用は負担せず、売電収入の一部をEBJ あり、固定価格買取制度を利用することで採算性も から受け取る。そのほか、本市はバイオガス発電に 見込めることから、本事業を進める運びとなった。 より発生する熱を受け取り、消化タンクの加温に利 用することができる。 3.概要 売電収入は本市とEBJそれぞれの役割に対して配 こうべWエコ発電プロジェクトには次の4つの特 分される。本プロジェクトでは、広大な敷地とバイ 長がある。①太陽光とバイオガスの安定したWエコ オガスを同時に提供できる本市の強みと、設備調達 発電事業であること、②公民連携による「共同事業 能力、事業運営ノウハウといった民間事業者の強み、 Kobe City 図−1 役割分担 22 月刊建設15−01 写真−1 太陽光発電設備 写真−2 バイオガス発電設備 これら双方の強みを生かすことで、市が直接、発電・ ついては、効率的かつ安定的な発電をするために、 売電するよりも事業性を高めている。 既存の消化ガス脱硫設備等の改築時期を勘案して検 太陽光発電は、平成23年度に供用を開始した水処 討していく。 理施設の上部、約2haのスペースに約2,000kWのパ こうべWエコ発電プロジェクトは、本市と民間事 ネルを設置した。バイオガス発電は、 「こうべバイ 業者、双方の強みを生かした取組みであり、再生可 オガス」を燃料とする25kWの小型発電機14台(合 能エネルギーの取組みをさらに拡大する第一歩と考 計350kW)を設置した。年間発電量は、太陽光発 えている。この度、先進的な取組みを評価いただき、 電が約200万kWh、バイオガス発電が約250万kWh、 本プロジェクトは平成26年度(第7回)国土交通大 合計で約450万kWhとなる見込みで、一般家庭約 臣賞「循環のみち下水道賞」を授与いただいた。「下 1,300世帯が使用する電力を発電することができる。 水道は資源の宝庫」であり、今後とも「こうべバイ 事業開始から約8ヵ月経過した現在まで、順調に オガス」を活用したさまざまな可能性を追求してい 運転している。 きたい。 表−1 設備概要 規模 年間発電量 太陽光発電 2,000kW (パネル約8,000枚) 約200万kWh バイオガス発電 350kW (25kW×14台) 約250万kWh 4.おわりに 神戸市内の他の処理場においても、活用できる施 設上部空間や消化ガスがあり、全処理場で推計する と、 太 陽 光 発 電 で5,300kW、 バ イ オ ガ ス 発 電 で 3,000kWの設備を設置できる可能性があり、年間発 電量は約2,900万kWh、一般家庭約8,000世帯分に相 当する。今後、垂水処理場の成果を踏まえて、他の 処理場への展開を検討する。特にバイオガス発電に 【用語解説】 ※再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT:Feed-in Tariff) ……再生可能エネルギーの固定価格買取制度は、再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて 発電された電気を、国が定める固定価格で一定の期間電気事業者に調達を義務づけるもので、2012年7月1日にスタート した。 月刊建設15−01 23
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