耐レーザー性反射防止膜の開発 耐レーザー性反射防止膜の開発 Development of Highly Damage Resistant Anti-Reflection Coating 石 田 智 彦 *1 馬 場 俊 之 T. Ishida *1 葛 下 弘 和 T. Baba 波戸岡 和 也 *2 *1 H. Kuzushita 吉 田 國 雄 K. Hatooka *2 K. Yoshida 要 約 高出力レーザーは,今や産業用として重要な技術であり,三菱電線工業 ではその伝送用ファイバを製造販売し ている。そのファイバ端面にはレーザー光の低損失化のため反射防止膜が求められているが,高出力レーザーに耐 える反射防止膜がなく,ほとんど実用化されていない。 我々は,4 kW 以上の高出力 YAG レーザーにも適用可能な耐レーザー性に優れた反射防止膜の開発を行っている。 今回,石英基板上への成膜過程で,タグチメソッドを用いた検討やレーザーアニーリングの手法を用いて,反射率 0.2%以下,レーザー損傷しきい値 14.7 J/cm2 の反射防止膜が得られた。この膜は 10 kW の YAG レーザーにも耐え うるレベルである。 キーワード: 反射防止膜,YAGレーザーガイド,イオンアシスト(IAD) ,損傷しきい値,レーザーアニーリング Summary High power laser is an important tool for industry. MITSUBISHI CABLE INDUSTRIES, LTD. is supplying optical glass fibers for high power lasers. It is very important to supply for the edge face of the optical glass fiber with antireflection coating (AR) to reduce reflection loss. However, there is not AR coating for high power laser, further the AR coating is of no practical use. We have developed a highly resistant AR coating for high power YAG laser of more than 4 kW. In this paper, we studied an AR with a high damage resistance by Taguchi method and laser annealing. This AR coating has a reflectance of for ≦ 0.2% at 1064 nm (Nd:YAG laser) and a damage threshold of 14.7 J/cm2 at 1064 nm (τ=7 ns). It is possible for the AR coating to use YAG laser guide of the 10 kW class. Key words:Anti-reflection (AR), YAG laser guide, Ion-assisted deposition (IAD), Damage threshold, Laser annealing 1.まえがき アミド樹脂を被覆した構造となっている。 YAG レーザーのエネルギー伝送に用いられている光ファ 高出力レーザーは,今や産業用として重要な技術となっ イバは,当然のことながら主成分は,レーザー損傷しきい ており,宇宙・航空・エレクトロニクスをはじめ,あらゆる 値の高い石英(SiO2)ガラスである。また,石英(SiO2)ガ 産業界の生産加工に革新をもたらしている。近年,欧州を中 ラスの片面での反射率は約 3%程度であることは良く知られ 心として高出力レーザーによる加工が急激にその市場を拡 ている。つまり,エネルギー伝送を光ファイバにて行なう場 大しており,特に Nd:YAG レーザー(以下 YAG レーザー) 合,出射端部分で約3%の戻り光が存在し,出力低下が起こっ の高出力化と応用の広がりには目覚しいものがある , てしまう。 。 赤外波長を有する YAG レーザーは,溶接・切断・マーキ また,高出力レーザーシステムのエネルギーを制限する ングをはじめ,穴あけ・トリミング・リペアリング・パター 大きな要因の一つが,システムに用いられている多くの光学 ニング・はんだ付け・焼き入れなどといった非常に広い応用 部品のレーザー損傷である。中でも,光学薄膜のレーザー損 傷は他の光学部品に比べて,損傷しきい値が低く ,その高 加工範囲を持っている 。 ビームの伝送には,主に光ファイバが使用されている。例 耐力化は高出力レーザーの開発にとって,重要な課題となっ えば,エネルギー伝送として用いられている光ファイバは, ている。したがって,高出力化のためには,光学薄膜のレー 一次被覆材としてシリコーン樹脂を,二次被覆材としてポリ ザー損傷しきい値を高める必要がある 。 *1 技術本部 総合研究所 *2 大阪工業大学 − 89 − 2003年4月 三 菱 電 線 工 業 時 報 第100号 本研究では,YAG レーザー光の透過光量の向上,すなわ ンプルを作製し,成膜最適条件の決定を行った。18 種類の ち高出力化について検討を行った。本報では,高出力レー 成膜条件を Table 2 に示す。また次の 2.2 節でタグチメソッ ザーに耐えうる反射防止膜を石英基板上に製作し,耐レー ド について説明する。 ザー損傷性についての検討を行ったので記述する。 Table 2 List of experimental run conditions 実際に成膜した際の成膜条件表 2.実験方法 蒸着 ドーム APC 開始 クリーニング ガス 速度 回転数 圧力 圧力 時間 種類 低温 遅い 遅い 高い 高い 短い Ar ON 低温 普通 普通 普通 普通 普通 O2 3 ON 低温 速い 速い 低い 低い 長い O2/Ar 4 ON 中温 遅い 遅い 普通 普通 長い O2/Ar 5 ON 中温 普通 普通 低い 低い 短い Ar 6 ON 中温 速い 速い 高い 高い 普通 O2 屈折材料に Ta2O5 を,低屈折材料に SiO2 を選択し,装置の 7 ON 高温 遅い 普通 高い 低い 普通 O2/Ar 下部に挿入した。この蒸着材料を電子ビーム(EB)を用い 8 ON 高温 普通 速い 普通 高い 長い Ar て溶融・気化し,上部のドーム状基板ホルダーに装着した 9 ON 高温 速い 遅い 低い 普通 短い O2 10 OFF 低温 遅い 速い 低い 普通 普通 Ar 11 OFF 低温 普通 遅い 高い 低い 長い O2 モニターガラスで,蒸着レート制御は水晶モニターを用い 12 OFF 低温 速い 普通 普通 高い 短い O2/Ar て行った。 13 OFF 中温 遅い 普通 低い 高い 長い O2 14 OFF 中温 普通 速い 高い 普通 短い O2/Ar 15 OFF 中温 速い 遅い 普通 低い 普通 Ar 16 OFF 高温 遅い 速い 普通 低い 短い O2 17 OFF 高温 普通 遅い 低い 高い 普通 O2/Ar 18 OFF 高温 速い 普通 高い 普通 長い Ar 条件 IAD 温度 1 ON 高耐力レーザー性を有する膜を作製するため,さまざま 2 な成膜条件のもと,イオンアシスト電子ビーム蒸着装置を 用いて成膜を行った。 2.1 成膜条件 Fig. 1 に蒸着装置の概念図を示す。蒸着材料として,高 石英ガラスにコーティングを行った。その際,膜厚制御は 光源 検出器 水晶モニター モニターガラス ドーム上基板 2.2 タグチメソッド タグチメソッドとは,技術に求められる要件を効率的に 実現していくための技術的な方法論として研究開発され てきたもので,いわゆる「品質工学」であり,世界的に評 真空ポンプ 価されてきた。タグチメソッド適用の大きな利点は,( 先 e– イオン銃 行性,) 汎用性,* 再現性である 。 従来の設計法では,製品の機能設計において,データを 電子銃 O2 など O2 標準条件で目標値に調整した後に,いろいろなノイズに対 蒸着材料 Fig. 1 して試験を行い,目標値からずれたときには原因を追求し Schematic diagram of ion beam assisted deposition て,試行錯誤的に修正を繰り返すやり方を行っている。こ method のような「もぐら叩き」では問題が問題を生むだけで,本 イオンアシスト電子ビーム蒸着装置概念図 質的な問題解決にはならない。 しかしながら,タグチメソッドは,源流の技術開発にお 今回は,蒸着材料の一つである Ta2O5 の最適条件につい いて,商品の「目的機能」を満足する要素や技術や製造技 てまず検討を行った後,その最適条件を用いて2層AR膜の 術の「基本機能」を改善した後で,製品設計や工程設計に 成膜を行い,種々の評価を行った。Ta2O5 単層膜の成膜条 おいて標準条件で「目標値へ調整」して,開発の効率化を 件を Table 1 に示す。 図る手法である 。 Table 1 本実験においては,耐レーザー性の向上を目指すため, List of experimental conditions レーザー損傷しきい値が大きければ大きいほど良いとい 成膜条件表 う特性を生かし,望大特性として検討を行った。その際,特 蒸着 ドーム APC 開始 クリーニング ガス 速度 回転数 圧力 圧力 時間 種類 低温 遅い 遅い 低い 低い 短い Ar 性(機能のばらつきの程度)に対する評価尺度を用いた。 中温 普通 普通 普通 普通 普通 O2 SN 比を求めるための式を次に示す。 高温 速い 速い 高い 高い 長い O2/Ar IAD 温度 ON OFF 性をあらわす指標として,SN(Signal & Noise)比,機能 Table 1 に示した全種類の成膜を行なうためには,4374 SN 比:− 10 log(1 / y2)(dB) ・・・ 種類ものサンプルを作る必要性がある。そこで,統計的な 手法としてのタグチメソッドを用いることで,18種類のサ − 90 − 式の y は出力特性を示す。 耐レーザー性反射防止膜の開発 2.3 レーザー耐力測定 レーザー耐力の測定には,波長 1064 nm の Nd:YAG レー ザー装置を用いた。Fig. 2 に,そのダメージテスト装置の構 成図を示す。発振器には,シングルモード Q スイッチ Nd: YAG レーザー(パルス幅 7 ns)を用いた。発振器を出射し たレーザー光は,λ/2 板,ポラライザーを通り,ω 用高反射 ミラーで反射させた後,集光レンズでサンプル面上に集光 照射した。 一部分もしくは結晶全体へ 1ショットごと照射 一部分もしくは結晶全体へフルエンス を大きくしながらN回照射 1-on-1 法 N-on-1 法 Nd:YAGレーザー 波長:1064 nm Laser damage tests for optical coatings Fig. 3 λ/2板 光学薄膜用ダメージテストの種類 ポラライザー 損傷しきい値から,2.2節の バイプラナー 式で示した望大特性のSN比 を条件ごとに求めた。Fig. 4 に求めたグラフを示す。 Fig. 4より,各条件におけるSN比の値において耐レーザー 損傷性に関して大きく関与する条件,およびそれほど関与し てこない条件がわかる。たとえば,蒸着の際のレートは,速 サンプル 集光レンズ 度を遅くすれば特性に大きな影響があると考えられる。一方 ω用高反射ミラー ドーム回転数では,各条件においてSN比16.0付近であり,大 Fig. 2 Experimental arrangement for testing the laser きく影響しないと考えられる。 damage of optical coatings 以上の結果より,現段階での Ta2O5 単層膜の成膜最適条 光学薄膜用ダメージテスト装置図 件を決定した。成膜最適条件を Table 3 に示す。 19.0 レーザー光の強度は,出射ごとにバイプラナー光電管お 遅い よびオシロスコープを用いて電圧値を読み取り,最終的に 18.0 はカロリーメータを用いてエネルギー校正をしてレーザー レーザーによる損傷の有無は,照射レーザー光によって 低温 17.0 SN比 損傷しきい値を決定した。 サンプル表面に発生するプラズマ発光を目視で確認した。 遅い 速い OFF 14.0 Fig. 4 本研究では数種類ある測定法の中から,レーザー光の 短い O2 Ar 長い 高温 高い 基板 温度 13.0 イオンガン する必要がある。 低い ON その後,照射部分を実体顕微鏡とノマルスキー顕微鏡によ り,そのため,1 枚のサンプルに対して複数の個所を測定 高い 16.0 15.0 って観察した。レーザー光による損傷は確率的なものであ 低い ドーム 回転数 開始 圧力 速い レート Ar APC圧力 + O2 ガス 種類 クリーニング時間 Signal and noise ratio for each condition 各条件におけるSN(シグナル&ノイズ)比 照射位置を損傷の有無にかかわらず 1 ショットごとに移 動させて損傷しきい値を求める 1-on-1 法と,レーザー損 傷しきい値より低いレーザーフルエンスから少しずつ Table 3 レーザーフルエンスを高くしていき,同一の場所に多重 Optimum experimental coating condition 成膜最適条件 照射する N-on-1 法で実験した。損傷のしきい値は,損傷 条件 が起こった最小のフルエンスを最終的なしきい値と定 IAD 温度 A(最適条件) OFF 義した。また,レーザー損傷実験の種類,1-on-1 法およ B(IAD 有り) ON び N-on-1 法の模式図を Fig. 3 に示す。 3.結果と考察 蒸着 ドーム APC 開始 クリーニング ガス 速度 回転数 圧力 圧力 時間 種類 遅い 高い 低い 短い O2 低温 遅い 3.2 分光特性 イオンアシスト電子ビーム蒸着装置を用いて作製した 3.1 成膜条件別望大特性;SN 比 YAGレーザー用2層反射防止膜の分光特性をFig. 5に示す。 Table 2 で示した 18 種類の成膜条件で,Ta2O5 単層膜を 3.1節で求めた最適条件でTa2O5 層を成膜した2層反射防止 Fig. 1 の蒸着装置で成膜し,ダメージテストを Fig. 2 の装 膜の分光特性および,比較として Ta2O5 層の最適条件のう 置を用いて行った。その時の各成膜条件におけるレーザー ち,IAD(Ion-Assisted Deposition)を使用した場合の 2 層 − 91 − 2003年4月 三 菱 電 線 工 業 時 報 第100号 IAD を使用しているか,SiO2 層は IAD を使用しているが, 反射防止膜の分光特性を示す。 Fig. 5 より得られた反射防止膜は,YAG レーザー光の波 Ta2O5 の層は IAD を使用していないということである。 長 1064 nm で反射率 0.5%以下であり,非常に良好な特性 一般的に IAD を使用することで, が得られた。 ( ミネーションを極力少なくすることが可能であ 10.0 り,成膜中のプロセス雰囲気の変化が少なく,安定 した成膜プロセスを行なうことが可能である。 8.0 反射率 / % 薄膜形成時に,装置の構成物質などによるコンタ ) 6.0 基板に照射されるイオンのエネルギーとイオンの 電流密度を独立的に制御することが可能である。 IAD無しのAR膜 * 4.0 基板に照射するイオンの電流密度を高めることに より,成膜速度を早くすることが可能である。 IAD有りのAR膜 + 2.0 基板上のイオン電流密度分布の均一性は,イオンの 引き出し電極の形状設計により可能である(基板上 0.0 800 Fig. 5 900 1000 1100 波長 / nm 1200 で高精度な膜厚分布の制御が可能である) 。 1300 , Reflectance vs. wavelength of anti-reflection coating 成膜プロセスを比較的低圧力で行なうことが可能 であり,圧力の制御範囲が広い。 反射防止膜の分光特性(反射率と波長の関係) といった特長がある 。 最適条件での 2 層反射防止膜では,Ta2O5 層では IAD を 使用しなかったが,SiO2 層では IAD を使用した。そのため 3.3 レーザー損傷しきい値 3.1 節で得られた Ta2O5 膜の成膜最適条件を用いて,Ta2O5 IAD 有無の条件の違いにより,Ta2O5 層と SiO2 層の界面に 単層膜および2層反射防止膜を作製し,両サンプルのレーザー おける付着力や応力などに違いが生じ,レーザー耐力の低 損傷しきい値を Fig. 2 の装置を用いて求めた。また比較とし 下が生じたと考えられるが,詳細については今後検討を要 て,IADを使用した場合のTa2O5 単層および2層反射防止膜の する。 レーザー損傷しきい値も求めた。その結果を Table 4 に示す。 Table 4 Comparison of the laser-induced damage 3.4 レーザーアニーリングによる損傷しきい値 3.3 節で述べたように,層間での成膜条件;IAD の有無の threshold (LIDT) with and without IAD IAD 有りおよび無しの条件でのレーザー損傷しき 違いにより,界面での付着力や応力に違いが生じ,レーザー 耐力が低下したと考えると,条件(IAD の有無)の統一が求 い値の比較 められることになる。 条件 A Ta2O5 単層 13.0 ± 0.6 (IAD 無し) AR(反射防止膜) 7.5 ± 0.4 IAD を両層とも使用して成膜を行ったときの Ta 2O 5 単層 条件 B Ta2O5 単層 7.3 ± 0.4 膜と2層反射防止膜のレーザー損傷しきい値はそれぞれ,約 (IAD 有り) AR(反射防止膜) 6.4 ± 0.3 7.3 J/cm2,約 6.4 J/cm2 であり,低いレーザー損傷しきい値 (J/cm2) を示した。これは,IADを使用する際にはフィラメントとし Ta2O5 単層膜では,IAD を用いた場合のレーザー損傷し てタングステンフィラメントを用いるため,成膜時にタン きい値は約7.3 J/cm2 であったのに対し,最適条件で成膜を グステンが膜中に不純物として取り込まれ,局在的な不純 2 行った Ta2O5 単層膜では,13.0 J/cm と 1.8 倍程度しきい 物により,そこにレーザーが照射されると,レーザー光のエ 値が上昇し,レーザー耐損傷性の向上を確認できた。 ネルギーが吸収され,局在的に急激な加熱が起こり,材料の 一方,IADを用いて成膜を行なった2層反射防止膜におい 溶融や熱応力により損傷が生じたためである。 2 ては,約 6.4 J/cm の値であったのに対して,Ta2O5 を最適 そこで次に,IAD を使用して成膜を行った Ta2O5 単層膜 条件で成膜を行った 2 層反射防止膜では約 7.5 J/cm2 のレー と2層AR膜にレーザーアニーリングを行い,レーザー損傷 ザー損傷しきい値となり,レーザー耐損傷性は向上したも しきい値を検討した。この時の結果を Table 5 に示す。 のの,Ta2O5 単層膜に比べて大きな上昇はなかった。 基本的には,レーザー損傷の機構としては,主に五つ挙 げられる ∼ Table 5 Comparison of LIDTs with and without laser annealing 。 ( 吸収による損傷 レーザーアニーリング有りおよび無しでのレー ) 電子雪崩機構による損傷 ザー損傷しきい値の比較 * 多光子吸収による損傷 7.3 ± 0.4 1.0 × 107 6.4 ± 0.3 9.1 × 106 16.0 ± 0.8 2.3 × 107 (レーザーアニーリング有り) AR(反射防止膜) 14.7 ± 0.7 2.1 × 107 条件 B Ta2O5 単層 (レーザーアニーリング無し) AR(反射防止膜) + 基板表面の影響による損傷 条件 B , 内部定在波電界による損傷 両2層反射防止膜において,成膜条件の違いは,2層とも − 92 − Ta2O5 単層 2 (J/cm ) (W/mm2) 耐レーザー性反射防止膜の開発 この結果より,レーザーアニーリングすることで,Ta2O5 S. Motokoshi, K. Yoshida.核融合研究.第 68 巻別冊 単層膜は約 16.0 J/cm2,2 層反射防止膜では,約 14.7 J/cm2 November, 1992. とそれぞれ 2 倍以上レーザー耐力が向上した。これは,蒸 上田 太一郎.タグチメソッド完全理解実践マニュア 着過程で膜内に形成された“Nodule”欠陥や不純物が,最 ル.日本ビジネスレポート.1998, p.27-29. 初にレーザー損傷しきい値より低いレーザーフルエンス K. Yoshida, et al. Appl. Phys. Lett. 47(9), November で多重照射したことにより,噴出して除去されたり,ある 1985, p.911. いは吸収物質が膜内に拡散したりしたためであろうと考 J.H.Apfel et al. NBS special Publ. 462, 1976, p.301. えている。 D.Hgill et al. NBS special Publ. 509, 1976, p.301. また,Ta 2O5 単層膜と 2 層 AR 膜にレーザーアニーリン A.Vaidyanathan et al. IEEE J. Quantum Electron. QE- グを行った膜は,PW(パルス幅 1 msec 未満の 1 パルス当 16, 1980, p.89. たりのピーク値,W/mm2)に換算すると,それぞれ,2.3 小倉繁太郎監修.生産現場における光学薄膜の設計・ 7 2 7 2 × 10 W/ mm ,2.1 × 10 W/mm となり,10 kW の YAG 作製・評価技術.技術情報協会 , 2001, p.90. レーザーにも耐えうるレベルであることがわかった。 今後は,実際のYAGレーザー用光ファイバへの成膜を行 い,ファイバ端面との影響について検討していく予定であ る。 石田智彦(いしだ ともひこ) 技術本部 総合研究所 開発第二グループ 光学薄膜の研究・開発に従事 応用物理学会会員 4.む す び イオンアシスト電子ビーム蒸着装置を用いて,YAG レー ザー用反射防止膜を石英基板上に作製し,分光特性・耐レー ザー性について検討を行った。その結果を以下にまとめる。 ( イオンアシスト電子ビーム蒸着装置で作製した反 馬場俊之(ばば としゆき) 技術本部 総合研究所 開発第二グループ 光ファイバおよび光部品材料の研究に従事 応用物理学会会員 射防止膜は,YAGレーザー光の波長(1064 nm)で, 反射率 0.5%以下であり,また IAD で成膜を行った 2層反射防止膜においては,反射率が0.2%以下と非 ) 葛下弘和(くずした ひろかず) 常に良好な特性が得られた。 技術本部 総合研究所 タグチメソッドを用いて,Ta 2 O 5 単層の成膜最適条 材料を中心とした研究開発マネジメントに従事 件を決定した結果,レーザー損傷しきい値で約 13.0 電子情報通信学会会員 J/cm2 の膜が得られた。 * 両層ともにIADを用いて成膜を行ったTa2O5 単層膜 および 2 層反射防止膜のレーザー損傷しきい値は, 約 7.3 J/cm2,約 6.4 J/cm2 とそれぞれ低い値であっ + 波戸岡和也(はとおか かずや) 大阪工業大学大学院 工学研究科 博士前期過程 電 たが,レーザーアニーリングを行なうことで,約 気電子工学専攻 16.0 J/cm2,約 14.7 J/cm2 と,2 倍以上に向上した。 光学薄膜の研究に従事 2 今回パルス光で評価した約 14.7 J/cm を連続光に 応用物理学会,電気学会学生会員 換算すると2.1×107 W/mm 2 であり,これは10 kW の YAG レーザーをコア径 400 µmφ の光ファイバで 伝送した場合にも十分耐えうるレベルである。 吉田國雄(よしだ くにお) 大阪工業大学 工学部 電子情報通信工学科 教授, 工学博士 今後は,実際の Y A G レーザー用光ファイバに成膜を行 高機能固体レーザー,光学薄膜,超精密加工の研究に 従事 い,その実用性を確認していく予定である。 応用物理学会,レーザー学会,電気学会,日本物理学 会会員 参考文献 オプトロニクス社編集部編.実用レーザー加工応用ハ ンドブック.オプトロニクス社 , 2000, p.8-12. 黒澤 宏.レーザー基礎の基礎.オプトロニクス社 , 1999, p.4-8. W. H. Lowdermilk, D. milam. IEEE J. Quantum Electron. QE-17, 1981, p.1888. − 93 −
© Copyright 2024 ExpyDoc