ロシア/イラン - JOGMEC 石油・天然ガス資源情報

ロシア/イラン:対イラン制裁解除が
ロシアに及ぼす影響
2015年4月23日
本村 真澄
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「枠組み合意」とイランの復帰
• 4月2日、イランと5P+1(米英露仏中独)がイランの核
開発制限と経済制裁緩和で「枠組み合意」
– 遠心分離機を1/3へ、濃縮度3.67%、核開発10~15年制限
– 6月30日を交渉期限、見返りに対イラン経済制裁緩和
• イランの石油生産は1970年代がピーク
– 投資低迷・技術不足。国内需要増、製品不足。
• イランのガス生産は漸増基調だが投資不足
– ガス輸出は露、カタールより遥かに低い水準、LNGなし
• ガスは2013年からネットで輸出国に
– トルクメニスタンから輸入:47億m3/年(能力80億m3/年)
– トルコへ輸出
: 87億m3/年(能力100億m3/年)
2
BP統計における国別ガス埋蔵量
別添カラー資料2あり
1800
1600
1400
1200
Russia
1000
Iran
800
Qatar
600
Turkmenistan
400
200
0
兆cf
2010
2011
2012
2013
3
イランのガス埋蔵量の存在感
• BP統計の2013年6月版でガスは大きな変化
• 2012年末からイランが最大のガス埋蔵量
• ロシア、トルクメニスタンのガス埋蔵量評価を
30%以上引き下げた結果
• イランの埋蔵量が大きく増加したのではない
• 2013年11月にイランとP5+1が、イランの核開
発停止と制裁緩和を織り込んだ「ジュネーブ
共同行動計画」に暫定合意
– 国際的にイラン資源への関心の高まり
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イランの主要な
ガス地帯は、
南部のAsaluyeh周
辺と
ペルシャ湾の
South Parsガス田
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イランの対トルコガス輸出の展望
• 2001年12月:トルコ向けガスPL完成(IGAT)
• 能力:100億m3/年、実績:87億m3/年(2013年)
• TANAP(Trans Anatolian Natural Gas Pipeline)
– 3月17日工事開始式典、2019年稼働開始
– 権益:Socar(アゼル);70%(→51%)、Botas(土);30%
• イランがTANAPに7%参加の可能性(他にBP;12%)
• TANAPの輸送能力:
– 2020年160億m3、2023年230億m3、2026年310億m3
• カスピ海、トルクメニスタンから追加のガスを期待
• カスピ海横断PLと競争状態(トルクメニスタン<イラン)
• トルコ・ストリームと競争状態(露<イラン)
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イラン・カスピ海周辺のガスパイプライン網
イランの対パキスタンガス輸出の展望
• 4月20日、習近平主席がパキスタン訪問
• 「中パ経済回廊」沿線開発に$450億投融資
• Peaceパイプライン建設で合意:
– イ・パ国境からNawabshahまでの780km
– 容量:87億m3/年→将来的に400億m3/年
– 当初予算:$15~18億、85%が中国側からの融資
– Asaluyehからのイラン区間900kmは既に完成
– ソースガス田はイラン南部ガス田群
• Iran-Pakistan-India(IPI)PLからは印が撤退
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TAPIパイプラインへの影響
• TAPI(Turkmenistan-Afghanistan-PakistanIndia)パイプライン計画:1,800km
• 1990年代にUnocalが発案
• 2013年:アフガニスタンが参加
• 2014年11月:コンソーシアム設立(各25%)
– Turkmengas(ト)、Afghan Gas Enterprise(ア)、
Interstate Gas System(パ)、Gail(印)
– 輸送量:330億m3/年
• Peace PLと競争状態(トルクメニスタン<イラン)
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米とイランの関係(1)
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•
1979年4月:イスラム革命、11月米大使館占拠事件
1980年4月:米イランと国交断絶、経済制裁
1984年:イランを「テロ支援国家」に指定
1995年:米企業のイランとの貿易・投資・金融禁止
1996年:「イラン・リビア制裁法(ILSA)」
2002年:イランを「悪の枢軸」
2010年:包括的イラン制裁責任資本引揚法
2012年:国際送金システム(SWIFT)からイラン排除
2012年:イラン脅威削減法(制裁発動要件を追加)
2013年:イラン自由反拡散法(イ経済支援の禁止)
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米とイランの関係(2)
法令
イラン制裁法
(ISA)
イラン自由支援
法
成立時期
1996.8.5
2006.9.30
包括的イラン制 2010.7.1
裁・説明責任・資
本引揚法
(CISADA)
大統領令13590 2011.11.21
FY2012国防授
権法
2011.12.31
大統領令13622
2012.7.30
制裁対象
イランのエネルギーセクターに対して年に$2,000万以上の投資を行った企
業または個人
イラン(又はイランへの再輸出されることを知っている者)に対して大量破壊
兵器(WMD)開発又は先進的在来型兵器の“数及び種類を不安定にする”
ことに有用な技術を販売する企業または個人
・$100万以上(又は1年間で$500万以上)のガソリン、航空燃料の販売
・イランがガソリンを製造又は輸入することを支援するような器機やサービス
の販売(金額基準は上記に同じ)
イランがそのエネルギーセクターにおいて用いることが可能な器機の販売
→2012年のイラン脅威削減・シリア人権法として法典化
イラン中央銀行を国際送金システム(SWIFT)から切り離す目的で、これと取
引する外国金融機関に対する制裁を適用。その金融機関の所属する国が著
しくイランからの原油の購入を減じた場合には制裁の適用免除を受けること
ができる
以下の者にISAと同様の制裁を課す。→2013年国防授権法として法典化
・イランから石油又は他の石油精製品を購入した主体
・NIOC又はナフティラン・インタートレード会社と取引を行った主体
・イランから石油化学製品を購入した主体
・NIOC、NICO、イラン中央銀行に対して資金的支援を行った個人,企業
・イランが米国銀行券又は貴金属を購入することを助けた個人又は企業
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米とイランの関係(3)
法令
成立時
制裁対象
期
イラン脅威削減・ 2012.9. ISAに以下の制裁発動要件を追加する。
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・石油・天然ガスセクターの維持又は向上に用いられる、100万ドル以上(又は1年間
シリア人権法
で500万ドル以上)となる商品やサービスの提供
・石油化学製品の生産の維持や拡大に用いられる、25万ドル以上(又は1年間で
100万ドル以上)の商品やサービスの提供
・イラン産原油を輸送するのに用いられる船舶の所有
・イランとの国外における石油・天然ガスJVへの参加
・イランとの、ウランの採掘、生産又は輸送に関連するJVへの参加
・石油化学製品を含むエネルギー産業関連器機の最低数量以上の販売
・NIOC及びNITCに対して保険又は再保険を提供する企業
・イラン政府ソブリン債の購入又は発効を促進する企業
・IRGC等との間の“著しい取引”に従事している企業
イラン自由反拡散 2013.1. イラン経済における主要セクターを支援する第三国の企業に対して米国の制裁権限
法(IFCA)
2
を拡大するもの
/FY2013国防授
・イランにおけるエネルギー、造船、海運及び港湾操業に対して財やサービスを提供
権法
する主体
・イランへ貴金属又は半製錬金属を提供する主体や、産業プロセスを統合するのに
必要なソフトウェアを提供する主体
・石油、ガソリンその他イランにおけるエネルギー、船舶輸送又は造船セクターに対
する財の輸送を含む、イランとの国際的な取引に対する保険引受サービス、保険、
又は再保険は提供する主体
・先進医療品を含む特定の輸入品の取引を、市場を迂回するなどの転売に従事して
いるイラン国民
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他機関による制裁
• 国連による制裁
– 2006年:イラン核濃縮活動の停止要求
– 2010年:第4次安保理追加制裁;武器禁輸、渡航
拒否、金融制裁、貨物検査強化
• EUによる制裁
– 2010年:核濃縮・核兵器開発協力禁止、エネル
ギー分野の資金/技術協力禁止
– 2012年:制裁措置の拡大、EU域内のイラン中央
銀行の資産凍結
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対イラン制裁緩和の流れ
• 2000年:オルブライトがイラン伝統産品の輸入解禁
• 2007年12月:米「国家情報評価(NIE)」
– 「イランは2003年以降核兵器開発を中止しており、現状
の核兵器疑惑は事実でない」→米情報機関で共有
• 2008年:イランとP5+1(米英露仏中独)協議
• 2013年11月:イラン・P5+1がGeneva共同行動計画
– EU:イランの原油・石油製品輸送と保険の禁止を解除
– 米:保険・輸送・金融サービス許可。中、日、韓、台、土の
現行レベルでのイラン産原油輸入の認可。
• 2015年4月2日:イラン・P5+1の「枠組み合意」
• 2015年4月:ロシアがイラン産原油のバーター輸入
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「枠組み合意」に関する各国の立場
• 専門家:「イランが核兵器開発を行っていたのなら
大きな妥協、核燃料サイクル目的なら合理的対応」
• イラン:保守強硬派から合意に対して一定の評価
– 濃縮装置は1/3となるが、関連基地はすべて存続
– 合意期間が10~15年
• 米政府(オバマ大統領):「イランと歴史的和解に」
• 米議会:議会に最終合意見直し権限(4/14)
• イスラエル:(ネタニエフ首相)「非常に悪い取引だ」
(ハレヴィ元Mossad長官)「極めて大幅な譲歩案だ」
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EU,米、日の対ロシア制裁の内容
EU
制裁
米
第1次
3月6日:3段階の対露制裁。まずは 3月6日:露政府高官・軍関係者等の
( ク リ ミ ア 併 露とのビザ交渉凍結
資産凍結・渡航禁止
合への対応) 3月17日:露、クリミア当局者ら21名 3月17日:7名の資産凍結・渡航禁止
追加、Yanukovichなど
の資産凍結・渡航禁止
3月21日:12名の資産凍結・渡航禁 3月20日:20名の資産凍結・渡航禁
止追加、Tymchenkoも
止
第2次
5月12日:13名、2社の資産凍結・渡 4月28日:Sechin社長を含む7名17
航禁止
社の資産凍結・渡航禁止
7月12日:追加資産凍結渡航禁止
第3次
7月16日:経済制裁。90日超の資金
( マ レ ー シ ア 7月16日:EIB, EBRDの融資禁止
調 達 禁 止 (Gazprombank, VEB,
航 空 機 撃 墜 7月31日:大水深・北極・シェールオイ Rosneft, Novatek)
で強化)
ル用機材の輸出は事前認可。ガスは 8月6日:大水深・北極海・シェール用
非対象、8月1日前の契約は不問。90 機材の米国から輸出禁止。3銀行と
日超の調達禁止(Sberbank, VTB)
統一造船の米市場調達禁止
第4次
(ウクライナ
東部の不安
定化)
9月12日:大水深・北極・シェールオイ
ル事業への掘削・テスト・検層等の
サ ー ビ ス の 禁 止 。
Rosneft,Transnft,Gazpromneft に
対する30日超の資金調達の禁止。
24名の資産凍結・渡航禁止。
日本
3月18日:査証
緩和凍結、投
資・宇宙・安全
保障での協定
交渉の凍結
4 月 29 日 : 23
名の査証停止
8月5日:クリミ
ア , 東部の不
安定化に関与
する企業の資
産凍結、輸入
制限
9 月 12 日 : 5 社 ( Gazprom, Lukoil, 9 月 24 日 、 露
GazpromNeft, Surgutneftegaz, の 大 手 5 行 の
Rosneft)に対する大水深・北極海・ 日本での資金
シェール事業を支援する機器,サービ 調 達 の 禁 止 。
ス,技術の提供禁止。5銀行の30日 武 器 輸 出 、 武
超 の 調 達 禁 止 。 Transneft, 器技術提供の
GazpromNeftの90日超の社債禁止。 制限。
9月26日までの猶予。
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米による対イラン、対ロシア制裁
制裁分野
対イラン
内容
対ロシア
経済的効果
人 ・ 組 織 へ の 制 ・要人、革命防衛隊他の 大きくない
裁
組織
技術移転の禁止 ・石油ガス、石油化学の 大きい。石油生産
生産維持向上に資する は長期減退。ガス
財・サービスの提供禁止 開発は低水準。
・造船・海運に関する財・
サービスの提供禁止
金融制裁
内容
経済的効果
・要人の渡航禁止・資産凍結 大きくない
・大水深・北極・シェール用機
材の輸出禁止
・上記に関する機器・サービ
ス・技術の提供禁止
ややあり。
北 極 海 、
シェールオ
イル開発不
可に
大きい。長期にわ ・主要銀行による30日超の
・ソブリン債の購入制限
調達制限。
・イランとの国際的取引 たる投資不足。
・企業の90日超の社債の発
に対する保険・再保険の 輸出の低迷。
行制限。
制限
・外銀の融資は実体なし
大きい。国
民福祉基金
又は中国か
らの融資頼
み。
極めて大。
国 際 送 金 シ ス テ イラン中央銀行と取引す 大きい。原油輸出 まだ行われておらず。
ム ( SWIFT) か ら る外国金融機関に対す を制限。
米共和党を中心に要請あり。 欧州全体に
波及
の排除
る制裁
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対ロシア、対イラン制裁への姿勢
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対ロシア制裁への考え方
• 経済制裁の目的:経済的な打撃を与えることではな
く、相手側に政策変更を促すこと→南アで成功例
• EU:ウクライナの主権尊重⇔露のクリミア返還なし
– 7月の期限で制裁延長の可能性(全会一致が必要)
– 露の政策変更が期待できず一部で制裁無用論(ギリシャ)
• 米議会:一部で露のSWIFTからの排除を主張
– EU側では経済的悪影響を強く懸念
• これまでの対イラン制裁はイランに経済的疲弊をも
たらしたが、イランの政策を変えるに至っていない
• 同様に、対露制裁強化についても、ロシアの対外政
策の変更を促すものとはならないと予測される
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