福智町図書館・歴史資料館プロポーザル審査講評 審査委員長 古谷誠章

福智町図書館・歴史資料館プロポーザル審査講評
審査委員長 古谷誠章
この度の設計者選定プロポーザルに際し、短期間の募集であったにもかかわらず、全国
から応募いただいた方々、また本事業に関心をお寄せくださったすべての皆様に、心か
ら感謝を申し上げます。あわせて、去る3月21日に催された第2次審査会の公開ヒヤ
リングに来場いただいた皆様、準備に当たられた町の関係者の皆様にも、心からお礼を
申し上げます。
ヒヤリングに先立つ3月7日の第1次審査では、応募のあった105の提案の中から全
審査員がそれぞれの評価に基づいた提案の選出を行い、1票以上の推薦のあった39作
品のすべてについて1作品ごとに提案内容の検討を行いました。その後第2次審査に残
したいという意見のあった21作品を対象に、審査員それぞれが5作品ずつを投票し、
まず過半数の支持を得た4作品を決定ました。次に3票以下の作品を再度検討した上で、
得票順どおりの上位5者の提案を第2次審査の対象とし、それに次ぐ1者を次点としま
した。さらに、上位5者以外で最終投票の対象とした9提案については、すべて選外佳
作とすることにしました。
結果を上位5者に通知するとともに、第2次審査へ向けての提案書の作成を依頼し、期
日までにすべての応募者から資料等を受領しました。あわせて赤池支所に全応募作品を
展示し、一般に公開しました。
3月21日に公開されたヒヤリングでは、候補者全員からの各15分ずつのプレゼンテ
ーション、ならびに合計約50分間の一括質疑応答を行いました。なお、5者のすべて
から模型の提出を受け、提案資料とともに審査会場に展示しました。公開プレゼンテー
ションに続いて、同会場にて審査員全員の出席のもとに第2次審査を行い、最優秀1点
および次点として優秀1点を選出しました。選考の経過は以下の通りです。
7名の審査員全員が、ひと通りプレンゼンテーションを聞いての感想を述べ、推したい
提案、疑問の残る提案などを自由に挙げた上で討議に入りました。その中で過半数の審
査員から重複して推薦のあった49番、77番、93番を審査対象に残し、積極的な推
薦の得られなかった4番、16番を選考の対象から外しました。残した3案について、
重ねて各案に期待される優れた点、実現が懸念される点などを詳細に検討した上で、各
審査員が最も推薦したい1点を投票した結果、計5票を獲得した77番(一級建築士事
務所
大西麻貴+百田有希
/o+h)を最優秀に、2票を獲得した49番(yHa
architects 一級建築士事務所)を優秀とすることとしました。あわせて、それ以外の
3点をすべて佳作としました。
今後は、選出された設計者とそのチームが町や町民の意向に耳を傾け、設計者・管理者・
ユーザーとの間に、相乗的でより良いパートナーシップを築き、町民の老若男女に親し
まれ、全国の人々がこの館を訪れるような施設が完成することを、心から祈念していま
す。
◎最優秀:77番(一級建築士事務所 大西麻貴+百田有希
/o+h)
「“自分たちの町”を自分たちでつくる」ことをテーマに掲げ、外部からの多彩な専門
家ネットワークの参画に加えて、徹底した住民協働によるみんなでつくる施設づくりを
目指しています。図書館・歴史資料館を、福智の「智」と「地」をつなぐ場所としてと
らえ、上野焼を生んだ福智の「土」を素材とし、土地の材料で建築をつくることを通し
て、地域の技術や文化を学び、世代を超えた人と人のつながりを創出しようとする点に、
提案者の壮大な意図と意欲を感じます。
この館を訪れる誰にとっても“自分の居場所”があり、地域の子育て拠点としても機能
する施設を目指しており、旧赤池支所の、どちらかと言えばがらんとした構成の内部空
間に対し、ヒューマンなスケール感を持つ様々な家具状の造作を提案していて、滞在す
る人々が心地よく時間を過ごすための配慮に溢れています。特に高く評価されたのが、
外部の広場や庭の空間と内部を結ぶ、様々な性格を持つ「窓辺」空間の愉しさ、親しみ
やすさであり、とても賑やかで魅力的なものになることが想像されます。日常的にここ
に人々が集い、自分たちの未来の町を自らつくろうとする原動力が生まれる場所として
の図書館の構想は、今後さらに人口減少や高齢化に悩まされる日本各地の地域の中で、
それを打開する大いなる手本となるだろうことが確信されます。
住民による福智の土を使った外壁づくりは、必ずしも容易なことではないと想像されま
すが、それをやり遂げるために人が力を合わせ、人智が尽くされることは、単に静かに
読書をするためのものだけではない、まさに次世代の図書館活動を象徴する取り組みに
なるでしょう。設計者やその協力者の方々が、設計、建設の期間のみならず、その後の
長い運営の過程を通じても、福智町のために親身に力になってくれることを期待してい
ます。
○優秀:49番(yHa architects一級建築士事務所)
福知山を間近に臨むこの立地を活かし、地域の歴史文化、風土の深い学びを通して「地
域づくりのベース」を構築しようとする提案や、九州を本拠に活動する設計者チームの
体制が評価され、なかでもこの町を訪れて、丹念に地域に学ぼうとする姿勢が大いに共
感されました。造形的にはデザインで地域を元気にする心意気のもと、玄関前に山型の
特徴的な大屋根空間を生み出し、館内ではホールの吹き抜け部分に「バザール」を設け
て、図書館に日常的な市場の賑わいを盛り込む、意欲的な提案でもあります。また、2
階床に開口を開けて躯体自体の荷重を減らし、その分を2階の書架の設置にまわすなど、
緻密な構造計画がなされ、デザインの要点を絞ってコストをコントロールする姿勢にも、
設計者の誠実さや堅実さが感じられました。計画全般がわかりやすく具体的で、施設改
修の実現性においても、とてもバランスがよく優れていたと思われます。
一方で、再配置された内部空間の雰囲気がやや素っ気なく、子供から高齢者までの日常
的な交流の舞台としての、明るい楽しさが感じ取りにくかった点が惜しまれます。家具
などのデザインに、もう一歩の親しみやすさが前面に出せれば効果的な印象が生まれた
のではないでしょうか。
●佳作:93番(NKSアーキテクツ+百枝優建築設計事務所)
吹き抜けを中心に館内全体に巡らされた、流れるような書架のデザインがとてもユニー
クで、一目見たら忘れられないようなインパクトのあるその流動感が、典型的なかつて
の庁舎建築のイメージを一新する、大きな効果を放っています。あわせて、吹き抜けを
介して分断されがちな既存建築の動線上の弱点を、大きく緩やかなスロープで結ぶとい
う大改造によって解決し、上下の空間の一体感だけでなく、図書館全体に一つながりの
一体感をもたらす手法は巧みなものです。
随所に多様な空間の仕掛けが提案されており、とても楽しそうな場所が生まれているの
ですが、惜しむらくは、その造形の勢いによって書架本来の機能にしわ寄せがいくきら
いがあり、デザインがやや過剰に振る舞われているようにも感じられました。
●佳作:16番(株式会社
古森弘一建築設計事務所)
「ながら図書館」と名付けられたコンセプトは、1次審査の段階から強く関心を抱かさ
れたもので、町民にとって本を読むため以外にも、この館を訪れるような日常的な居場
所を提供しようという、現代の図書館のニーズに応えるアイディアとしても注目されま
した。また、非常に密度高く提案された建物外部の広場空間、庭空間にも、この敷地全
体が住民にとっての憩いの場所となるのにふさわしいデザインが施されています。
その反面、内部空間そのもののデザインについてはやや一般的で、改修によって既存空
間を一新して魅力的なものに置換する発想に、もう少し積極性があって欲しいと思われ
ました。
●佳作:4番(有限会社マル・アーキテクチャ)
図書館の中に「みんなの“抽斗(ひきだし)”をつくる」という発想のもと、既存庁舎
の吹き抜け部分を活用して、そこに3層の積層書架の入った箱を組み入れるデザインに
特徴があります。一般的な空間に比して階の高さを必要としない書庫の特性に着目し、
それと一般階との高さのずれを利用して、上下に二分された吹き抜け周辺の階をつなげ
る効果を持たせています。それが同時に、福智の文化や知恵の詰まったギャラリーでも
あるという提案で、応募提案中唯一の独創的なものでした。さらにこの箱にスロープな
どが上手に組み込まれていれば、ユニバーサルデザインにも対応でき、とてもユニーク
な提案になったと思われます。