日本宇宙フォーラムの活動と今後の展望(PDF/1.59MB)

工業会活動
日本宇宙フォーラムの活動と今後の展望
一般財団法人 日本宇宙フォーラム
常務理事 植田 秀史
1.はじめに
して以下の2つを紹介します。
日 本 宇 宙 フ ォ ー ラ ム(JSF:Japan Space
Forum)は、1994年2月に設立されましたので、
(1)月の石・砂を中心としたJSFオリジナル
これまで20年以上にわたり活動を実施してき
巡回展
ました。事業目的は、宇宙に係る科学技術等
宇宙に対する子供たちの関心は高く、全国
の振興に関する事業を推進し、その水準の向
の科学館等では、定期的に宇宙に関する特別
上を図り、国民経済の発展に寄与することで
展等が開催されており、当財団もこれまで支
す。2013年からは、公益法人制度改革に伴い、
援を行ってきました。
一般財団法人として活動しています。
最近、当財団は、米国、ロシアの宇宙機関
当財団は、
「エンドユーザーとプロバイダー
の協力を得て、米国の月の石、ロシアの月の
を結ぶ「架け橋」になる」を経営理念の一つ
砂を長期間借りることが出来るようになりま
に 掲 げ て お り、宇 宙 航 空 研 究 開 発 機 構
した。また、当財団では、実物を含む各種の
(JAXA)、宇宙に関係する各府省、民間企業、
宇宙服等を保有しており、これらのアイテム
地方自治体等からの受注により事業を実施し
を中心としたJFSオリジナル巡回展を企画、
ています。
実施しています。
事業内容は、多岐にわたりますが、以下、
既に、昨年夏には、佐賀県立宇宙科学館で
事業の柱である、
最初の展示を行い、約7万人の入場者があり
・宇宙に関する広報普及、教育
好評を博し、また、今春の名古屋市科学館の
・スペースデブリ等の観測
・宇宙環境を利用した科学実験等のサポー
「夢と感動の宇宙展」にも参加させていただ
きました。今年の夏には、神戸市立青少年科
ト
さらに、今後、力を入れていきたいと考えて
いる、
・宇宙新興国との協力
以上の、4点について、最近の主要な活動例
と今後の展望を紹介します。
2.宇宙に関する広報普及、教育
JAXA殿はじめ、多くの機関からの受託に
より、ホームページの整備・運用、展示・イ
ベントの開催、各種広報教育ツールの企画・
製作等を行っています。最近のトピックスと
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米国の月の石
平成27年6月 第738号
学館での展示を予定しています。2019年は人
類が月に降り立ってから50周年になり、また、
3.スペースデブリ等の観測
(1)スペースデブリ観測施設の運用
JAXAも小型探査機による高精度月面着陸技
当財団は、我が国唯一のスペースデブリ観
術実証(SLIM)計画を進めていますので、今
測施設を岡山県に二つ保有しており、JAXA
後、月に関する関心も高まることが予想され
殿からの観測要求に基づき、観測を実施し
ます。全国各地の多くの科学館等と協力して
データを提供しています。上斎原スペース
素晴らしい展示を実施していきたいと考えて
ガードセンターでは、レーダによる観測を
います。
行っており、低軌道の衛星、デブリの観測を
行っています。美星スペースガードセンター
(2)準天頂衛星の利用拡大プロモーション
準天頂衛星システムの開発・運用は、我が
国の宇宙開発利用における極めて優先度の高
では、光学望遠鏡をもちいて主に静止軌道帯
の観測を行っています。
スペースデブリに関しては、ご承知の通り、
いプロジェクトであり、政府の宇宙基本計画
世界的に関心が高まっており、宇宙基本計画
においても大きく取り上げられています。準
においても、宇宙空間の安定的利用を図るた
天頂衛星システムの運用等を行うため、2013
め、我 が 国 の 宇 宙 状 況 認 識(SSA:Space
年3月には、準天頂衛星システムサービス株
Situational Awareness)能力の強化、関係国と
式会社(略称:QSS)が設立されました。
の情報共有を進めることが強調されていま
当財団は、QSS殿からの受託により、準天
頂衛星システムの利用の拡大をサポートして
す。当財団としても、このような政府の方針
に積極的に協力・貢献していきます。
おり、WEBサイトの運用、シンポジウムの開
催、各種展示会への出展等についてお手伝い
(2)「持続的宇宙開発と宇宙状況認識推進の
しています。準天頂衛星システムは、現在は
ための国際シンポジウム」の開催
初号機「みちびき」1機ですが、2018年度か
世界的な宇宙状況認識(SSA)への関心の
ら4機体制、2023年度から7機体制の運用が開
高まりを踏まえ、当財団では、2012年から4
始される計画であり、それに向けて、引き続
年連続で、SSAに関する国際シンポジウムを
き当財団としても努力していく所存です。
開催しています。
上斎原スペースガードセンター
美星スペースガードセンター
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工業会活動
今年は、東京工業大学大学院総合理工学研
を行っています。NASAとの調整や各種委員
究科と共催で、2月26日(木)∼2月27日(金)、
会・審査会への対応、地上での実験の支援、
「き
「持続的宇宙開発と宇宙状況認識推進のため
ぼう」への搭載品の調達・輸送・回収、軌道
の国際シンポジウム−過去を学び、共に今を
上実験の支援等の様々な局面で、経験豊かな
未来へ−」を開催しました。参加者は2日間
当財団職員が研究者等をサポートしていま
で延べ約400名でした。
す。このため、当財団の職員は、しばしば米
国内からは、内閣府宇宙戦略室、内閣官房
国ヒューストンのNASAジョンソンスペース
国家安全保障局、外務省、文部科学省、防衛省、
センターやカザフスタンのバイコヌール宇宙
JAXAはじめ非常に多くの機関から参加して
基地に出かけています。国際宇宙ステーショ
いただきました。また、海外からも、ローズ
ンの運用期間については、米国は2024年まで
米国務省次官補はじめ、米国、EU、カナダ、
延長する方針ですので、優れた研究成果が出
フランス、ドイツ、韓国、インド、ロシア、
るように、しっかりと研究のサポートを行っ
国連宇宙空間平和利用委員会など多くの方々
ていきたいと思います。
に参加いただきました。
4年連続で、ほぼ同じ時期にシンポジウム
を開催しましたので、国際的なSSAのコミュ
(2)航空機を利用した簡易無重力実験
宇宙に行かなくても無重力状態は経験でき
ニティの間で定着し、皆さん、2月∼3月は、
ます。SJAC会員の方々はよくご存じと思いま
日本でJSFのシンポジウムがあると認識して
すが、我が国では、ダイヤモンドエアサービ
い た だ い て い ま す。ま た、日 本 国 内 で は、
ス㈱が、小型航空機を用いた放物線飛行(パ
SSAの分野で民間の方と軍の方が一堂に会し
ラボリックフライト)による無重力状態を提
て議論する場は我々のシンポジウムしかあり
供しています。当財団は、このパラボリック
ません。この点も評価いただいていると思い
フライトの窓口業務を行っています。
ます。参加者からは来年も継続して欲しいと
の声を多くいただきました。
上記(1)の宇宙環境利用実験の予備実験
や大学による航空機実験が行われています。
また、一般の方でも簡易無重力実験に参加で
4.宇宙環境を利用した科学実験等のサポート
きます。一人当たり30∼40万円と少々値段は
(1)国際宇宙ステーション「きぼう」日本実
高くなりますが、企業がスポンサーのケース
験棟の利用の推進
国際宇宙ステーションに設置されている
「きぼう」日本実験棟においては、宇宙環境
を利用した様々な実験や観測が実施されてい
ます。生命科学、物質科学に関する科学研究、
宇宙飛行士が宇宙で生活するための宇宙医学
に関する研究、「きぼう」の船外実験プラッ
トフォームを利用した観測、監視、さらには、
病気の解明や新しい医薬品の開発を目指した
実験、研究などが行われています。
当財団では、このような実験、研究の支援
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簡易無重力実験の様子
平成27年6月 第738号
も あ り ま す。「宇 宙 バ イ ト」と い う こ と で、
宇宙・航空分野の協力に関する文書が締結さ
無重力状態でのバイト作業を撮影したCMを
れ、日本では文部科学省、JAXA、トルコ側
ごらんになった方もいらっしゃると思いま
では運輸海事通信省が中心となって協力が実
す。
施されています。本年3月には、この枠組み
海外では、宇宙観光がかなり具体化してき
のもとで、日本トルコ宇宙科学技術協力ワー
ており、リチャードブランソン氏のヴァージ
クショップが東京で開催され、当財団は、文
ンギャラクティック社が有名ですが、いくつ
部科学省殿からの受託により、ワークショッ
もの企業が手掛けています。今後、多くの方
プの運営支援や事前事後の調整を行いまし
が、宇宙に興味を持ち、無重力を体験して、
た。
さらに宇宙観光に参加されることを期待して
トルコからは、運輸海事通信省Kanligoz局
います。
長以下、産官学合計30人の大デレゲーション
5.宇宙新興国との協力
たが、ワークショップ、施設の視察等もうま
が来日され、ハラル料理の手配等は大変でし
当財団でも新しい業務の開拓に取り組んで
くいきました。
います。その一つが、宇宙新興国との協力で
今後、ワークショップの議論を踏まえ、小
す。今年に入り、日本トルコ宇宙科学技術協
型衛星の開発・運用、国際宇宙ステーション
力ワークショップが行われましたので、それ
を用いた実験、リモートセンシング技術研修
を紹介します。
について具体的な協力が進められるほか、天
文分野等についてもどのような協力が可能か
(1)日本トルコの宇宙分野における協力
日本政府とトルコ政府の間では、2010年に
検討することとなりました。
トルコにおいては、宇宙機関の設立が具体
日本トルコ宇宙科学技術協力ワークショップ
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工業会活動
化しており、年内にも設置される可能性があ
を推進していくためには、宇宙利用技術の
ります。宇宙機関が出来れば、新しいプロジェ
ユーザー、研究者、一般国民、さらには将来
クトも開始されると想定されますので、今後
を担う子供たちが宇宙開発利用に関心を持
も日本トルコの協力に貢献していきたいと思
ち、お互いに繋がっていくことが重要です。
います。
当財団は、今後もユーザーとプロバイダーを
結ぶ「架け橋」としての機能を果して行きた
6.おわりに
以上、最近のトピックスを中心に、我々の
業務を紹介しました。我が国の宇宙開発利用
40
いと考えています。皆様のご協力をお願いし
ます。