スペクトル項からわかること スペクトル項の記号から、その電子状態のスピン量子数 S, 軌道角運動量量子数 L, 全角運動量量子数 J を読み取ることができる。 ■ L について アルファベットは、その準位(電子状態)の L を示す。 L=0, 1, 2, 3, 4, 5,...の各々に、アルファベットの S, P, D, F, G, H,...が対応する。 ■ S について アルファベットの左上の数字は、その準位のスピン多重度を示しています。原子のスピン多重度は 2S+1 で与えられ (なぜなら Ms = S,-S+1,...,S-1,S となる 2S+1 個の状態が縮重しているから)、 S は S=(左上の数字-1)÷2 ■ J について L と S がどちらもゼロではないとき、L と S で指定される準位は、スピンと軌道の相互作用(LS カッ プリング)によって、J で区別される準位に分裂します。角運動量の合成規則をつかうと、J のとりう る値は J=L+S,L+S-1,...,|L-S| となる。L=0 のときには J=S,S=0 のときには J=L となって、J のとりうる値はどちらの場合でもた だ一つしかないので、L と S で指定される準位は分裂しない。アルファベットの右下には、LS カップ リングで分裂した準位の J を(ふつうはひとつだけ)書く。 1 [例] カリウムのスペクトル項について カリウムのスペクトル項は 2 S1/2 S=1/2, L=0, J=1/2 2 P3/2 S=1/2, L=1, J=3/2 2 P1/2 S=1/2, L=1, J=1/2 2 S は L=0 なので、LS カップリングによる準位の分裂はない。2P が、LS カップリングによって、2P3/2 と 2P1/2 の二つの準位に分裂。 2 P と同じように、2D は 2D5/2 と 2D3/2 に分裂します。 まとめると、 Kの基底状態電子配置 (1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4s)1 の項記号 K の励起状態の項記号は (1s)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(4p)1 2 2 6 2 6 2 2 6 2 6 2 2 6 2 6 (1s) (2s) (2p) (3s) (3p) (4d) 1 1 (1s) (2s) (2p) (3s) (3p) (4f) (1s) (2s) (2p) (3s) (3p) (3d) 1 2 P3/2,1/2 2 D5/2,3/2 2 F7/2,5/2 2 D5/2,3/2 2 2 S1/2 基底状態にある原子の、全軌道方位量子数(L)、全方位量子数(J)、全スピン方位量子数(S)は、電子配置 の表とフントの規則を使って求める。 カリウム原子から亜鉛原子までの電子配置は以下のとおり。 K : [Ar] (3d)0 (4s)1 Ca: [Ar] (3d)0 (4s)2 Sc: [Ar] (3d)1 (4s)2 Ti: [Ar] (3d)2 (4s)2 V : [Ar] (3d)3 (4s)2 Cr: [Ar] (3d)5 (4s)1 Mn: [Ar] (3d)5 (4s)2 Fe: [Ar] (3d)6 (4s)2 Co: [Ar] (3d)7 (4s)2 Ni: [Ar] (3d)8 (4s)2 Cu: [Ar] (3d)10 (4s)1 Zn: [Ar] (3d)10 (4s)2 この表で、[Ar]はアルゴン原子の電子配置で Ar:(1s)2 (2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 この表から鉄原子の基底状態の電子配置が Fe:(1s)2 (2s)2 (2p)6 (3s)2 (3p)6 (3d)6 (4s)2 (2) 不完全に満たされた副殻に注目する。 (1s),(2s),(3s),(4s)にはそれぞれ、2 個まで電子を入れることができる。 (2p),(3p),(4p)にはそれぞれ、6 個まで電子を入れることができる。 (3d),(4d)にはそれぞれ、10 個まで電子を入れることができる。 鉄原子の基底状態の電子配置では、10 個まで電子が入る(3d)に 6 個しか電子が入っていないので、(3d) が不完全に満たされた副殻になる。他の電子が入った副殻は、完全に満たされているから、鉄原子の基 底状態では、不完全に満たされた副殻は(3d)だけ(クロムの場合は、(3d)と(4s)の二つが不完全に満たさ れた副殻になる) 。 3 (3) フントの規則に従って、不完全に満たされた副殻に電子を入れる。 フントの規則1:α 軌道()から電子を入れて、α 軌道()が満たされた後に、β 軌道()に電子を入れる。 フントの規則2:磁気量子数 Ml が大きい軌道から順に電子を入れる。 s殻の場合 Ml,spin Ms 1番目の電子: 0 α 2番目の電子: 0 β p殻の場合 Ml, spin Ms 1番目の電子:+1 α 2番目の電子: 0 α 3番目の電子:-1 α 4番目の電子:+1 β 5番目の電子: 0 β 6番目の電子:-1 β d殻の場合 Ml, spin Ms 1番目の電子:+2 α 2番目の電子:+1 α 3番目の電子: 0 α 4番目の電子:-1 α 5番目の電子:-2 α 6番目の電子:+2 β 7番目の電子:+1 β 8番目の電子: 0 β 9番目の電子:-1 β 10 番目の電子:-2 β 鉄原子の基底状態の電子配置では、(3d)に6個電子が入るので 鉄原子の場合 Ml, spin Ms 1番目の電子:+2 α 2番目の電子:+1 α 3番目の電子: 0 α 4 4番目の電子:-1 α 5番目の電子:-2 α 6番目の電子:+2 β (3) L と S を求める。 L は Ml の総和から求める。 鉄原子の基底状態では、 L=(+2)+(+1)+(0)+(-1)+(-2)+(+2)=2 になります。 S は Ms の総和から求めることができるが、Ms =1/2(α 軌道)または Ms =-1/2(β 軌道)の関係から、 S=(α 軌道に入った電子の数-β 軌道に入った電子の数)÷2 の関係式を使う。 鉄原子の基底状態では、 S=(5-1)÷2=2 になる。 (4) フントの規則を使って J を求める。 フントの規則3:β 軌道に電子が入っていないときは、J=|L-S|。β 軌道に電子が入っているときは、J =L+S。 鉄原子の基底状態では、3d の β 軌道に電子が入っているから、 J=2+2=4 になる。 (5) スペクトル項を求める。 スペクトル項は、一般に (2S+1) (L を表す記号) J 5 とかける。L を表す記号は L= 0, 1, 2, 3, 4, 5,...に対して S, P, D, F, G, H,...が対応。 (2S+1)は L を表す記号の左上に、J は L を表す記号の右下に書く。 鉄原子の基底状態のスペクトル項は 2S+1=2×2+1=5、 L を表す記号は D、J=4 だから 5 D4 ---------カリウム原子から亜鉛原子までの基底状態のスペクトル項は、以下の通り。 K: 2 S1/2 Ca: 1 Sc: 2 Ti: 3 V: 4 Cr: 7 Mn: 6 S0 D3/2 F2 F3/2 S3 S5/2 Fe: 5 Co: 4 Ni: 3 Cu: 2 Zn: 1 D4 F9/2 F4 S1/2 S0 6
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