紙上講演会 喘息の病態と治療 フェノタイプに基づくアプローチ 筑波大学 医学医療系 呼吸器内科 教授 檜澤 伸之 ICS+LABA でも十分なコントロー 明確になってはいないが、喫煙や ルが得られない患者では、気流閉 大気汚染、胃食道逆流(GERD) 、 塞が持続している場合には次のス 潜在性の細菌感染や職業性喘息な テップとして LAMA が使用され どがその背景に存在する、極めて る。アレルギー性鼻炎が存在する 多様な病態と考えられる。中高年 場合には LTRA の使用が有用で 発症の喫煙者で COPD との鑑別 古典的には、喘息はアレルギー の構築が望まれる。しかしながら、 ある。さらに難治例では抗 IgE 抗 が難しいオーバラップ症候群もこの 素因を背景とし、Th2 細胞や好酸 喘息の分子病態の多様性を臨床の 体の使用も検討することになるが、 一群に含まれるが、LAMA の投与 球の浸潤で特徴づけられる気道炎 場で十分に評価できるバイオマー 近い将来 IL-5 や IL-13 を標的とし による効果が期待される。GERD 症を基本病態とする疾患として理 カーが存在しておらず、喘息ガイド た治療もアレルギー性好酸球性喘 が存在する場合にはプロトンポン 解されてきたが、いずれのアレルゲ ラインにおいても、どのような患者 息には良い適応となる。 プ阻害薬に一定の効果が報告され ンに対しても感作されておらず IgE にどのような薬剤を選択していくの 抗体の関与が明らかではない、い かといった個別化医療に向けた具 わゆる非アトピー型喘息の存在も古 体的なアプローチにまでは踏み込 くから認知されている。さらに、最 まれていないのが現状である。 ている。また、副鼻腔気管支症候 2. 非アレルギー性好酸球性喘息 群を合併し、喀痰が多く、気管支 拡張を伴うような症例ではマクロラ 成人発症の喘息にはアレルギー イドの少量持続投与が有効な症例 近では好酸球性炎症の存在が明ら 素因が明らかではないが、著明な も存在する。しかしながら、現時 かではない、非好酸球性喘息の存 好酸球性気道炎症を伴う一群が 点ではマクロライドの有効性と関連 1. アレルギー性好酸球性喘息 存在する。その背景には、アスピ するバイオマーカーは明らかではな きた。 ダニなどのアレルゲン感作を背 リン過敏、喫煙、肥満などを背景 く、またマクロライド耐性菌の出現 好酸球性気道炎症を認めない喘 景に発症する一群。小児期発症の にしたものや、多発血管炎合併好 や心筋梗塞や重症の不整脈などの 息患者では、好酸球性喘息に比 喘息の多くがこのタイプである。血 酸 球 性 肉 芽 腫 症(Eosinophilic 問題があり、副作用を考慮した注 べて吸入ステロイド(ICS)の有効 清 IgE 値や末梢血好酸球数の増 granulomatosis with polyangitis; 意深い適応が求められる。 性が低いことは古くから知られて 加を伴う。気道の好酸球性炎症に EGPA)のように血管炎を背景にし いる。気道の好酸球性炎症の有無 対して ICS 単独での治療によって、 た病態が存在する。治療は、気流 を確認するためには、喀痰を採取 多くの症例でその効果が期待でき 閉塞が明らかでない場合には ICS、 し好酸球の増加を確認する必要が る。一方、ICS 単独でコントロー 気流閉塞を伴う場合にはやはり 本稿で概説したように、アレル あるが、喘息患者においては呼気 ル不十分な喘息患者に LABA ま ICS に LABAを加える治療が基本 ギーや好酸球性気道炎症の有無に NO 値や末梢血好酸球数を測定す たは LTRA の反応性を規定する となる。アスピリン過敏や喫煙が背 加えて、気流閉塞の有無や発症年 ることで、ある程度、気道の好酸 因子を検討した我々の検討では、 景にある場合にはロイコトリエン受 齢の違いによって喘息をフェノタイ 球性炎症の有無を評価できる。実 LABA の有効性が末梢血好酸球 容体拮抗薬も有用である。一般的 プに分類することは、最適な治療 際の臨床現場ではこれらの指標に 数と有意に関連していた。LABA にアレルギーを背景にした喘息と比 を考えるうえで有用である。これま よって喘息患者さんのフェノタイプ は、少なくとも臨床的には抗炎症 べ ICS に対する反応性が悪く、特 での喘息の分類に加えて、最近で を決定することが有用である。 効果を有さず、あくまでも気管支 にアスピリン喘息や EPGA では重 は多くの臨床的なパラメーターを用 現在、喘息の治療には吸入ステ 拡張薬として使用される薬剤であ 症例が多く、経口ステロイドの使用 いて、一定の統計学的なアルゴリ ロイド(ICS) 、ICS と長時間作用 り、LABA 追加の有効性と末梢 を必要とすることが多い。これらの ズムのもとで喘息をクラスタリング 在も幅広く認識されるようになって 最後に 性β 2 刺 激 薬との配合 剤(ICS/ 血好酸球数との関連は、LABA 難治性の病態には将来的には IL-5 するアプローチが盛んに行われて LABA) 、ロイコトリエン受容体拮 を併用することで気流閉塞が軽減 を標的とした薬剤の適用となること いる。しかしながら、それらのク 抗薬(LTRA) 、長時間作用性抗 し、ICS がより有効に肺内に分布 が想定される。 ラスターと分子病態との関連は明ら コリン薬(LAMA) 、抗 IgE 抗体 し、結果として肺末梢側の好酸球 などの薬剤が使用される。さらに、 性炎症を抑制したものと考えられ 近い将来、アレルゲン特異的免疫 た。従ってアレルギー性好酸球性 療法、IL-5 や IL-13 を標的とした 喘息では、気流閉塞を伴う場合に 非好酸球性喘息は好酸球性喘息 ノタイプに基づいた分子レベルで 分子標的薬も使用可能となり、よ は、ICS に LABA を加えることが と比べ、ICS への反応性が低い。 の喘息病態の解明が重要な課題と り個々の病態に基づいた治療戦略 基本的なアプローチとなる。さらに 非好酸球性喘息の分子病態は未だ なっている。 かではなく、必ずしも治療効果の 3. 非好酸球性喘息 違いと関連するとは限らない。今 後、 個別化医療の実現に向けてフェ
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