2015年度 講義概要のダウンロード(PDF/1M)

2015
Kyoto University
Executive Leadership
Program
by SHISHU-KAN
京都大学エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム
by 思修 館
Contents
目次
総長よりご挨拶
人文・哲学
泉 拓良
藤田 正勝
宮野 公樹
山極 壽一
山口 栄一
経済・経営
金村 宗
櫻井 繁樹
惣脇 宏
原 千秋
ヤルナゾフ ディミター サボフ
法律・政治
宇佐美 誠
大石 眞
中西 寛
異文化コミュニケーション
河合 江理子
理工
池田 裕一
大嶌 幸一郎
時任 宣博
前 一廣
松本 紘
村瀬 雅俊
山本 尚
医薬・生命
稲垣 暢也
垣塚 彰
川井 秀一
川上 浩司
阪井 康能
光山 正雄
吉川 左紀子
務本之学、京八思
「務本の学」とは、即ち「本 ( もと ) を務むの学」。先の見え
ない複雑な世界だからこそ、枝葉末節ではなく、本質を理解する
学問、務本の学が必要になります。
「八思」とは、総合的な学術基盤となる、人文・哲学、経済・
経営、法律・政治、異文化コミュニケーション、理工、医薬生命、
情報・環境、芸術の 8 つを表しています。
情報・環境
田村 正行
趙亮
西田 豊明
山敷 庸亮
芸術 講師一覧
(各ページに掲載されている肩書きは 2015 年 3 月現在のものです)
未 来 を 創 る た め に、
も の ご と の 根 本 を 深 く 知 る。
未 来 の 源 泉 は、 こ こ に あ る。
八思
山極壽一 第 26 代京都大学総長
ELP に期待すること
この度、京都大学大学院思修館では、エグゼクティブ・リーダーシップ・プ
ログラム(ELP)という新たな社会連携の試みを始めます。このプログラ
ムでは、我々が「八思」と呼ぶ学術基盤となる知識と知恵を身につけ、それ
年間、急速な変化を遂げてきま
を世界に発信できるリーダーを育成します。
日本は、1960 年代から現在に至る約
る。その中に自分が居るわけであって、私という個人が、伝達者として語ら
がら、あの素晴らしい文化を築き上げてきたんですね。」と分かってもらえ
歴史があって、そこに様々な人が生活していて、独自の知恵や技術を使いな
都 か ら 来 ま し た。」 と 言 う と、「 あ あ、 京 都 は こ ん な 場 所 で、1200 年 の
人の厚みというものが非常に重要であり、大きな誇りになります。「私は京
自身を説明する時に、自分のことだけではなく、自分が繋がっている地域や
私も、ヨーロッパやアメリカ、アジア、アフリカを回ってきましたが、自分
ん重要です。
うエグゼクティブ・プログラムを行なうことは、実践的文明論としてたいへ
京都の地で、務本の学としての「八思」を教え、現場の知恵を語り合うとい
京(みやこ)
「八思」のもつ文明論的意味
とを願っています。
て、皆さんが未来の生き方を捉えなおし、各自の活動の場で活かして行くこ
一方通行ではなく、双方向に様々な知恵を交換し合うことを始めたい。そし
この社会連携プログラムを契機にして、プログラムに参加される皆さんが、
験をも伝えあう。
も、生身の経験を伝えあう大事さ。しかも成功の経験のみならず、失敗の経
て貴重な財産です。文字に書かれた、あるいは映像になった知識や技術より
づけられ、
経済や社会の発展に繋がったのです。その知恵や経験は我々にとっ
な経験です。それがあったからこそ、日本が、この世界の中できちんと位置
てきたプロセスは、現在に生きる我々が二度と繰り返すことのできない貴重
くの先輩たちがいました。彼らが現場で試行錯誤し、新しい世界を作り上げ
した。その背景には、徒手空拳で世界に旅立ち、日本の発展を支えてきた多
50
い、
交渉できることが、自然に備わります。人々の見る目も変わってきますし、
話の厚みも変わってくる。話題も豊富になり、まったく文化の異なる人たち
と一緒にいても、様々な点で話ができ、お互いに心からの交流ができる。だ
から、京都という地で、この新しいエグゼクティブ・プログラムが育ち、さ
まざまな可能性が開けることは嬉しいことです。
「八思」の中の「芸術」については、茶道や華道、書道など、京都にその中
心がある分野では、京都の中から一流の先生をお呼びして一緒にやっていき
たいと思っております。京都は、世界の中のどの都市よりも、自分が世界一
だと思っている人の密度が高い所です。それは、京都という歴史の厚みの中
で、
自分を見つめることができるからです。「日本の中で」というよりも、「世
界の中で」ということが直接繋がっている。この技術を持っている人間は世
界に私しかいないんだと。そんな誇りの中で暮らしていますから。それが一
つの教示になって、非常に高度で質の高いものが伝えられるのだろうと思い
ます。
社会を変革していく力は、人間の創造性にある
私は、異分野の方々と話をするのがとても好きです。そのことによって、世
界の見方が変わるからです。ただ、その見方をすぐ受け入れるのではなく、
自分の分野と相手の分野を突き合わし、相手からの提案を自分の分野から見
返してみて、新しい提案をする。そんな共同作業が必要です。それぞれが、
異なる意見を持っているから新しい発見ができるし、違う世界が重なり合う
からこそ、そこから新しい考えが育つ。私はそう思うのです。
これから社会を変革していく原動力は、「新しさ」つまり人間の創造性です。
この創造性とは、一つの学問領域の中では認められないものです。色々な学
問 を 合 わ せ た 中 に 新 し い 発 想 が 生 ま れ る。 新 し い 試 み が 提 案 で き る し、 自
分の学問とすることができる。それは、挑戦です。さまざまな学問領域を俯
瞰しながら、新しいことを考える。個別の学問を繋げることによって、どれ
だけ新しい創造的な物ができるのか。それを今の社会は必要としています。
ELP の今後の発展に心より期待しております。
平成二十七年二月 山極壽一談より
(左から山極総長と川井学館長)
人類はなぜ文明を持ったのか
・ サ ピ エ ン ス は ア フ リ カ を 出 て、 其 れ ま で
景には服や石器(武器)の発明がある。ホモ
戦いに勝つために犬歯を縮小させた。その背
寒冷気候に適応するのに体毛を退化させ、
似の原因であったと考えられるようになっ
る人類が非常に近似していることが文化的類
なり、新旧両大陸をまたいで地球上に現存す
よって歴史的事実を詳細に検討できるように
発想に基づいていた。先史学の新しい成果に
海時代まで接することはなかったと考えられ
と比べて飛び抜けて強く、相互に理解できる
地球上における人類の共通性は、他の生物
6
人文・哲学
比較考古学の観点から
講義概要
歴史に必然はあるのか。あるとすれば文化
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
生人類)の出現がいかに画期的であったか。
的な必然なのか、遺伝子的な必然なのか。こ
人類の歴史の中で、
ホモ ・ サピエンス(現
それは環境と、それに応じて形態を進化(変
れは
世紀の歴史主義的な歴史観からの問い
化)させた遺伝子の支配した世界からの決別
に一部の地域に広がっていた古い形質の人類
た。これにより、人類が背負っているとした
であり、新旧両大陸の文化比較はこのような
を駆逐し、数万年のうちに地球全体に広がっ
歴史的必然という呪縛から解放されることに
ているが、両大陸の人類は狩猟採集→農耕→
範囲は無限大といえる。あたかも「文明の対
なる。
文明(国家)というよく似た歴史をたどった。
立」が歴史的な必然のように言う向きもある
とがグローバル化への原点となる。
グローバルな存在としての人類を意識するこ
が、それは現代の創作に過ぎないことを知り、
その歴史に必然性があったのかを問いたい。
新旧両大陸に分かれた人類は、その後大航
た。
であった。
19
泉 拓良
Takura Izumi
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1976 ~ 1984 年京都大学文学部助手。1984 ~ 1985 年奈良大学文学部講師。1985 ~ 1993 年奈良大学文学部助教授。
1993 ~ 2004 年奈良大学文学部教授。2004 ~ 2013 年京都大学大学院文学研究科教授。2013 年から現職。
著 書
著書に『 縄文土器出現』( 編著 ) 講談社 1996 年、
『 縄文世界の一万年』( 共編著 ) 集英社 1999 年、
『 日本の時代史 倭国誕生』
( 共著 ) 吉川弘文館 2002 年、
『 考古学-その方法と現状-』( 共編著 ) 放送大学教育振興会 2009 年、
『 講座◎日本の考古学3・
4 縄文時代上・下』青木書店 2013・2014 年など。
哲学は直接的な効果や利益を生む学問では
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1978 年京都大学大学院文学研究科単位取得満期退学。1982 年ドイツ・ボーフム大学哲学部ドクター・コース修了(Dr.
Phil.)
。1983 年名城大学教職課程部講師。1988 年京都工芸繊維大学工芸学部助教授。1991 年京都大学文学部助教授。
1996 年京都大学大学院文学研究科教授。2013 年京都大学大学院総合生存学館教授( 現在に至る)。
著 書
主な業績に、Philosophie und Religion beim jungen Hegel. Unter besonderer Berücksichtigung seiner Auseinandersetzung
mit Schelling. Hegel-Studien, Beiheft 26. 1985 Bonn, Bovier、『 若きヘーゲル』創文社(1986 年)、『 現代思想としての西田
幾多郎』講談社(1998 年)、『 西田幾多郎――生きることと哲学』岩波書店( 岩波新書)(2007 年)、『 西田幾多郎の思索世
京都学派の哲学
の祖とする「京都学派」の哲学がある。それ
のために生きているのか、あるいは何をめざ
Masakatsu Fujita
その特徴と意義
講義概要
は近年、 kyoto school
や
と呼
Kyoto Schule
ばれ、諸外国でも大きな関心を集めている。
して生きればよいのか、そのようなもっとも
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
こ の 講 義 で は、
「京都学派」がどのような
根本的な問いに取り組もうとする学問であ
西田幾多郎や田辺元、九鬼周造、三木清ら、
界――純粋経験から世界認識へ』岩波書店(2011 年)、『 哲学のヒント』岩波書店( 岩波新書)(2013 年)。
京都大学の伝統の一つに、西田幾多郎をそ
集団であり、彼らが何をめざしたのか、現代
る。
か、 諸 外 国 の 研 究 者 か ら ど の よ う な 関 心 を
「京都学派」に属する哲学者たちは、そのよ
ない。しかし、人間とは何か、われわれは何
の視点から見たときその意義はどこにあるの
もって読まれているのか、等々について考え
うな問いをめぐって、自立した思索を行い、
西洋の哲学の物まねでない独自の哲学を作り
てみたい。
「京都学派」の哲学者たちが重視した考え
われわれが何か新しいものを、創造的なも
あげていった。
があり、また、その根底に「無」の思想があ
のを作りあげようとするとき、彼らのそのよ
方に「主体的な思索(ゼルプストデンケン)
」
る。 そ の よ う な 点 を 中 心 に、
「京都学派」の
うな格闘から多くのものを学ぶことができる
人文・哲学
7
哲学について、分かりやすくお話ししたい。
のではないだろうか。
藤田 正勝
本講義では、本プログラムを受講するにあ
わらない)
。
ある(これではテレビ番組のザッピングとか
といった表層的感覚でしか承認されないので
か」
、
「役に立ったか、役に立たなかったか」
た だ た だ「 お も し ろ い か、 お も し ろ く な い
己がなければ、個別知との距離感も測れず、
えに他ならない。そもそも参照軸としての自
る。結局のところ、教養とは知性を求める構
別値の統合、融合を求めてこそ身体化されう
間の間(ま)にこそ知性は存在し、それは個
い。様々な個別知が分散的に存在する知識空
ことそのもの。今こういった考え方が失われ
できる ・・・
すなわち、学ぶことは生きること。生きる
ち、限られた自分の生をより意義あるものに
世で一番貴重な「時間」というもの、すなわ
ながり自ずから感謝の念が湧く。結果、この
いといった「ものの哀れ」を感じることにつ
もって接するようになる。これが味わいや憂
であり、同じ事実でも二重三重の「想い」を
うに思えてくる。これが「理解を深めること」
を知る。そうするとその事実がまた違ったよ
ある事実について異なる視点での受けとめ方
問 い 学 ぶ こ と、 す な わ ち“ 学 問 ” に よ り、
8
人文・哲学
導入ワークショップとしての学問論
た っ て、 当 思 修 館 ELP の 思 想 を 踏 ま え て
つつあり、制度化した社会の中で有り体に言
Naoki Miyano
なぜ今ここにいるのか
講義概要
の“あるべき構え”について理解することを
うと学ぶことは「点数をとるためのもの」す
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
目的とし、対話型形式のワークを行うことで
なわち「食っていくためのもの」になってし
多分野の受講が直ちに教養獲得とはならな
今後数ヶ月間にわたる様々な講義や体験の価
まっている。
学問の意味と意義を問い直す価値はこのあ
値を最大化させるための思想的基盤を強化す
る。
たりにある。
宮野 公樹
京都大学学際融合教育研究推進センター 准教授
経 歴
1996 年立命館大学理工学部機械工学科卒業後、2001年同大学大学院博士後期課程を修了。大学院在籍中の 2000 年カナダ
McMaster 大学にて訪問研究生として滞在。後、立命館大学理工学部研究員、九州大学応用力学研究所助手、2005 年京都
大学ナノメディシン融合教育ユニット特任講師、2010 年京都大学産官学連携本部特定研究員、2011 年より現職。その間、
2011 年 4 月~ 2014 年 9 月まで総長学事補佐、加えて、2011 年 10 月~ 2014 年 9 月まで文部科学省研究振興局基礎基盤研
究課参事官付( ナノテクノロジー・材料担当)学術調査官を兼任。博士( 工学)。受賞歴:1997 年南部陽一郎研究奨励賞、
2000 年 カナダ金属物理学会ベストポスター賞、2001 年 日本金属学会論文賞、2008 年日本金属学会若手論文賞、他多数。
専門分野:大学にまつわる政策を軸とした学問論、大学論。異分野融合の理論と実践。( かつての専門:金属組織学、ナノ
テクノロジー、医工学)
趣味:カメラ
『 研究を深める5つの問い』(2015)、
『 研究発表のためのスライドデザイン』(2013)、いずれも講談社ブルーバックス、
『異
著 書
分野融合、実践と思想のあいだ』土山印刷 (2015)、
『 学生・研究者のための使える ! パワポスライドデザイン 伝わるプレ
ゼン 1 つの原理と 3 つの技術』化学同人 (2009 年 )、など。
Juichi Yamagiwa
京都大学 総長
経 歴
第 26 代京都大学総長(2014 年~)
。1952 年東京生まれ。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了。理学博
士。カリソケ研究センター客員研究員、( 財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、京
都大学大学院理学研究科教授などを経て 2014 年 10 月総長就任。日本霊長類学会会長、国際霊長類学会会長を歴任。日本
学術会議会員。1978 年よりアフリカ各地でゴリラの野外研究に従事。現在はゴリラとチンパンジーが熱帯林の同じ場所で
どのように共存しているか、他の生物といかに共進化してきたかを研究している。類人猿の行動や生態をもとに初期人類の
生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。また、ガボンでは JST/JICA の地球規模課題対応国際科学技術
協力「 野生生物と人間の共生を通じた熱帯林の生物多様性保全」事業、コンゴ民主共和国ではゴリラと人との共生を目指し
た NGO ポレポレ基金を推進している。
著 書
著書に『 ゴリラの森に暮らす』NTT 出版、
『 ジャングルで学んだこと』フレーベル館、
『 父という余分なもの』新書館、
『オ
トコの進化論』ちくま新書、
『 ゴリラ』東京大学出版会、
『 サルと歩いた屋久島』山と渓谷社、
『 人間性の起源と進化』( 編著)
昭和堂、
『 ヒトはどのようにしてつくられたか』
( 編著)岩波書店、『 暴力はどこからきたか』NHKブックス、『 いま食べ
人類進化論
山極 壽一
ゴリラを通じて人間の本性を探る
講義概要
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
人間とは何者か。人間社会はどこから来て、
現 代 の 人 間 は、 家 族 と そ れ が い く つ か 集
まった共同体という重層的な構造をもつ社会
ゴリラの社会には、勝ち負けがない。群れ
どこに向かうのか。これらのことを、人間以
合い、共同体は優劣や互酬性によって構造化
の 中 で 序 列 を 作 ら ず、 喧 嘩 を し て も 誰 か が
で暮らしている。この家族と共同体はその基
される性格をもつからである。この二つを両
勝って誰かが負けるという状態にならない。
外の霊長類とくにゴリラの社会を鏡にして捉
立させるのは人間の高い共感能力であり、そ
じっと見つめあって和解するのである。いっ
礎となる社会性が異なり、ときとして相反す
れを欠いているために人間以外の霊長類は家
ぽう、サルの社会は優劣が重要な序列社会だ。
え直してみたい。
族か集団のどちらかの社会性に依存して暮ら
争いが起きれば、大勢が強いものに加担して
霊長類の社会の本質をしっかりと見つめ、
ることを問う』
( 共著)農文協、『 人類進化論』裳華房、『 ゴリラ図鑑』文渓堂など。
ることがある。家族は利益を考えずに奉仕し
している。人間が高い共感力を発達させたの
ゴリラのように勝ち負けを付けず序列を付
弱いものをやっつけてしまう。
林から乾燥草原へと進出したことがきっかけ
けない人間社会の一側面は、効率化を重視す
は、類人猿が出ることができなかった熱帯雨
となり、4回にわたる食料革命を経て不思議
る現代の社会でいま弱体化し、加速的にサル
グローバル化によって危機に瀕している。私
彼らからのメッセージを紐解くことを通じ
化している。
な生活史戦略とコミュニケーション技術を生
技術と
たちが信頼できる豊かな社会を作るためにこ
て、人間社会の未来像を描き出したい。
み出したためである。それが近年の
れから何をしたらいいのか、家族の由来と未
来を見据えながら考えてみたい。
人文・哲学
9
IT
イノベーション創生論
ベーションの源泉は何か、そしてそれを如何
ベーションの方法論を考察する。特に、イノ
スを分析し、その構造を明らかにして、イノ
ら「イノベーターたちの開かれたネットワー
手が「大企業の閉じた系列ネットワーク」か
化の速い潮流の中で、イノベーションの担い
日本が沈みゆこうとしている。グローバル
世紀型イノベーショ
20
世紀イノベーション・モデルの次にやっ
世紀のイノベーション・モデルは何
これを探索するのが、本講義の目的である。
なのか。
てくる
う
はたして「大企業中央研究所モデル」とい
からである。
ン・モデルを見つけられずに、漂流している
21
10
人文・哲学
イノベーションの本質
講義概要
に生み出し価値創造につなげていくかについ
ク」に変容したにもかかわらず、日本社会は
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
て、体系的な理論を展開する。まず、クレイ
からだ。なぜ日本は、世界の潮流から周回遅
イノベーションを定義づけその生成プロセ
トン ク
・ リステンセンの破壊的イノベーショ
ンの誤謬の中から新しいイノベーションの構
れに遅れてしまったのか。
そ れ は、1990 年 代 後 半 に「 大 企 業 中
古い産業モデルをいまだに踏襲し続けている
造であるパラダイム破壊型イノベーションを
発見し、その表現手法としてのイノベーショ
イノベーション・モデルから脱した後、それ
世紀型の
ン ダ
・ イヤグラムを学ぶ。次に、パラダイム
破壊型イノベーションの例とりわけ青色発光
に取って代わるべき
を理解して、イノ
央研究所の時代の終焉」を迎えて
ダイオードを、イノベーション・ダイヤグラ
とタイプ
を 深 く 理 解 す る。 次 に、 ブ レ ー ク ス
ム を 描 き な が ら 学 び、 ブ レ ー ク ス ル ー の タ
イプ
ルーのタイプ
手法とそれを育む組織の在り方にかかわる研
にまとめあげたのち、イノベーションの創成
( abduction
) と「 回 遊 」
( transilience
)にあ
ることを理解する。最後に、これらを体系的
ベーションにとって最重要の次元が「創発」
3
究成果を、全員で討論する。
21
20
2
1
山口 栄一
Yamaguchi Eiichi
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1977 年東京大学理学部物理学科卒業。1979 年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修士課程修了、理学博士 ( 東京大学 )。
1979 年、日本電信電話公社に入社し武蔵野電気通信研究所基礎研究部に赴任。1984 年から 1985 年まで米国 University of
Notre Dame 客員研究員としてインディアナ州サウスベンド市在住。1986 年から 1998 年まで、NTT 基礎研究所主任研究
員・主幹研究員。この間 1993 年から 1998 年まで 5 年間仏国 IMRA Europe 招聘研究員として南仏コートダジュールに在
住。1999 年から 2003 年まで経団連 21 世紀政策研究所主席研究員・研究主幹。2003 年から 2014 年まで同志社大学大学
院教授、
この間 2008 年から 2009 年までケンブリッジ大学クレア ・ ホール客員フェローとして英国ケンブリッジ市に在住。
2014 年より現職。同志社大学大学院客員教授を兼務。4 社のハイテク・ベンチャー企業を創業。
著 書
近著として、
『 イノベーション政策の科学− SBIR の評価と未来産業の創造』東大出版会、『 死ぬまでに学びたい 5 つの物
理学』筑摩選書、共著『FUKUSHIMA レポート―原発事故の本質』日経 BP コンサルティング(2012 年)、『JR 福知山線
事故の本質―企業の社会的責任を科学から捉える』NTT 出版(2007 年)、共著 "Recovering from Success: Innovation and
Technology Management in Japan" Oxford University Press(2006 年 )、
『 イノベーション 破壊と共鳴』NTT 出版(2006 年)
など。
京都大学大学院総合生存学館(思修館)准教授
経 歴 1995 年京都大学農学部農業工学科卒業。1997 年京都大学大学院工学研究科環境地球工学専攻修士課程修了、2003 年一橋
大学大学院国際企業戦略研究科経営・金融専攻修士課程、2006 年一橋大学大学院国際企業戦略研究科経営・金融専攻 博士
後期課程修了、博士 ( 経営 )( 一橋大学 )。1997 年、電源開発株式会社に入社し建設部に配属、新規水力発電所計画策定業
務、水力発電所保守業務などに従事。2003 年より事業企画部にて火力・水力発電所の財務戦略業務・新規太陽光発電所プ
ロジェクトマネジメント業務に携わり、2007 年経営企画部にて地球温暖化問題にかかるカーボンリスクマネジメント戦略
業務に従事した。2010 年エネルギー業務部にて海外エネルギー企業・金融機関とのエネルギー取引にかかるリスクマネジ
メント業務に携わった。実務と並行してエナジーファイナンス・リスクマネジメントのエキスパートとして研究教育活動
に携わり、2007 年ドイツ Karlsruhe 大学 ( 現 Karlsruhe Institute of Technology) での PhD 向けセミナー、2014 年ドイツ
Zeppelin 大学でのエナジー・カーボンファイナス論にかかる集中講義では、ビジネスでの経験をアカデミアの視座から読
み解き直すプロセスを体現した。2014 年より現職。
著 書 主 要 著 作 は “A Supply and Demand Based Volatility Model for Energy Prices, ”Energy Economics、“Financial Turmoil in
Carbon Markets,”The Journal of Alternative Investments 等。
11
経済・経営
エナジーファイナンス、リスクマネジメント
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
ビジネスとアカデミアの融合を図ること
Takashi Kanamura
ビジネスとアカデミアの融合を目指して
講義概要
本講義では、エナジーファイナンスならび
にリスクマネジメントという学際分野を題材
として、ビジネスとアカデミアの融合を試み
アカデミアの知識をビジネスに展開するこ
で、現実社会の問題解決に向け新たな視座を
イナンスの理論的・実践的コンセプトを説明
とで実務上の問題に新たな解を得ることが可
る。
するとともに、エナジーファイナンスの実務
能となる。他方、ビジネスで起こっている事
得ることが期待される。
への応用について論じる。更にエナジーファ
象をアカデミアの脈絡で読み直しその内容を
文理融合の学際的領域であるエナジーファ
イナンスにおける実務上の最先端問題に焦点
凝縮することで実務上の問題に新たな視点を
得ることでき、学術的貢献が期待される。
イディアを拡大しながら作業をしていくのに
を当て、講義を Ph.D.
研究レベルにまで昇華
させていくことで、学術的貢献に至ったプロ
加えて、本講義ではビジネスの不確実性を
対し、逆の動きとなるのがアカデミアの作業
ビジネスは周りを巻き込むことで、あるア
マネージするリスク管理手法の基本的コンセ
で、自問自答しながら拡散された断片を纏め
セスを示す。
プトについて説明するとともに、リスクマネ
上げて凝縮していく。
どちらも物事の本質を見抜くに足る深さを
ジメントを戦略的アクションに繋げる実践的
方法と学術的な先端部分についても触れる。
備えており、車の両輪のように互いを補完す
る関係としながら、両者のプロセスの質を高
めるのが望ましいと考えている。
金村 宗
資源・エネルギーの問題
ルギー問題を取り巻く環境は、地球環境問題
おける「基盤としての資源確保」、「フローと
本授業を通じて、資源・エネルギー問題に
ネルギー消費の8割を占めるであろうといわ
12
経済・経営
資源・エネルギー問題の本質
講義概要
への関心の高まりとも相まって一段とその複
してのエネルギーづくり」、「サイクルとして
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
雑化の様相を呈している。またその一方で、
のものづくり」及び「インキュベーターとし
人類社会の進化発展とともに、資源・エネ
億人を突破し、こ
ての社会づくり」のコア・コンセプトのもと
現在地球の抱える人口は
のうち電気へのアクセスが出来ない人々はア
同問題の本質に迫ることにより、中長期的に
フリカの発展途上国において
このような中で、人類社会が如何に豊かな
れている新興国、発展途上国等の経済社会の
いるという現実がある。
生活を享受しサバイブしていくかを、そもそ
またこれにより、様々なビジネス、国際機
健全な発展にあたって、どのような成長パス
からこの問題に対する解のヒントを得る。ま
関、政府関連機関に係るキーパーソンの方々
も の 資 源・ エ ネ ル ギ ー の 生 い 立 ち・ 本 性 を
た、この解に向けての具体的なプロジェクト
に対して、ご自身が担うべき役割を改めて認
が全地球的なサバイバビリティの観点から望
提案も試み、
産学官連携、
先進 R&D の視点、
識して頂くとともに、日々の事業実施におい
ベースに、さらには先進国、新興国、途上国
技術協力・経済協力等国際的枠組みも踏まえ
にとらえる目を養って頂くものである。
議論に紛らわされることなく、これを本質的
能エネルギーの導入促進等に関わる表層的な
定確保問題、原子力エネルギー問題、再生可
て、その時々の地球環境問題、エネルギー安
言及する。
てグローバルベースでの協働スキームにつき
ましいのかとの思索に資するものとする。
6
の関連政策・戦略等にも言及し、中長期視点
人 類 社 会、 特 に 2100 年 に は 全 世 界 の エ
割弱を占めて
70
櫻井 繁樹
Shigeki Sakurai
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴 1978 年京都大学工学部資源工学科卒業。1980 年京都大学大学院工学研究科資源工学専攻修士課程修了( 工学修士)。同年、
通商産業省( 現経済産業省)入省。その後、資源エネルギー庁鉱業課、工業技術院ムーンライト計画推進室、外務省( 在
クウェイト日本国大使館)
、日本メタル経済研究所企画業務課長、金属鉱業事業団豪州事務所長、石炭・新エネルギー部産
(JOGMEC)石油・天然ガス開発プロジェクト企画部長、文部科学省大臣官房審議官( 研究開発局担当)等資源エネルギー
炭地域振興室長、経済産業省技術協力課長、資源エネルギー庁資源・燃料部石炭課長、石油天然ガス・金属鉱物資源機構
を中心とする政策立案・施策実施部署を経て 2008 年に退官。( 財)石炭エネルギーセンター専務理事の後、2013 年より現
職。この間、2009 年から九州大学炭素資源国際教育研究センター客員教授、2010 年から京都大学産官学連携本部フェロー、
2012 年から新エネルギー財団評議委員を務めるとともに、2002 年にはオーストラリア ニューサウスウェールズ大学(The
University of New South Wales)博士課程資源工学専攻(School of Mining Engineering)単位取得後修了、同時に Ph.D. 取
得( 資源工学)
。主な研究分野は、地球環境問題及び R&D も含めた包括的な資源エネルギー政策。
を増加させ、社会の分断や不安定化を招く恐
犯罪や不健康の問題などに伴う社会的コスト
対する幼児教育の充実が、犯罪の減少や所得
いる米国においては、たとえば、低所得層に
教育に関する実証的な研究が最も発展して
各国の政策に影響を及ぼしている。教育に関
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1980 年東京大学法学部卒業。同年、文部省に入省し、主として初等中等教育政策および高等教育政策の企画立案に従事。
1998 年から 2000 年まで文化庁文化財保護部記念物課長として、史跡名勝天然記念物および遺跡の保護ならびに世界遺産
の推薦などを担当。その後、文部科学省科学技術・学術政策局調査調整課長、同スポーツ・青少年局学校健康教育課長、香
川県教育委員会教育長、文部科学省高等教育局高等教育企画課長を歴任。2005 年から国立教育政策研究所において、全国
学力・学習状況調査などの実証的調査研究に従事。2010 年から大学入試センター理事。2012 年より現職。学力調査や大
学入試に関する政策とともに、エビデンスに基づく政策立案を中心として、途上国における教育開発政策や先進国におけ
る教育格差是正政策に注目している。論文に「 英国におけるエビデンスに基づく教育政策立案の展開」「 教育研究と政策-
RCT とメタアナリシスの発展」、共訳書に S.M. ナトリー他著『 研究活用の政策学:社会研究とエビデンス』がある。文化遺
貧困の問題と教育格差
れがある。このような問題を解決するために
の増大につながるなど、社会経済全体に及ぶ
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
は、福祉政策や労働政策などさまざまな政策
効果を有し、かつ費用対効果が高いことが明
教育は能力に応じて受けるものであるが、
する実証研究をめぐっては、さまざまな論争
Hiroshi Sowaki
貧困はなぜ問題か、教育格差の何が問題か
講義概要
貧困は、社会の活性化にとってマイナスで
を総合的に講じることが求められるが、教育
らかにされている。
あり、
人的資源のロスにつながるだけでなく、
も貧困問題の解決にとって有力な手段である
そのためには教育を受ける機会が、家庭の社
もあるが、実験的手法の導入など、方法論も
このような研究成果は、日本を含め、世界
会経済状況にかかわらず、均等に保障されて
発達してきている。
産を中心とする文化政策にも関心を持っている。
と考えられている。
いなければならない。また、教育水準の維持
証的なアプローチをすることは、貧困の問題
教育をめぐるさまざまな問題について、実
このような教育をめぐる基本的な問題につ
や教育格差ををはじめとする社会問題の解決
および向上が常に求められている。
いて検討しつつ、日本の教育課題や途上国の
に、少しでも近づく力を有していると考えて
経済・経営
13
教育開発について考える。
いる。
惣脇 宏
金融の経済学
資金の融通したりする場である。株価や金利
とはできないが、それをカジノのごとく捉え
金融市場を切り離して企業経営を考えるこ
た、値動きの側面のみが強調されるきらいが
大きいとか、金利上昇局面が続くなどといっ
戦略をとらないことが、経営者には求められ
回されず、かつ、それを悪用するような経営
この役割を正しく理解し、金融市場に振り
14
経済・経営
経済学者が見る金融市場
講義概要
は、すべて、価格という一般的概念の特殊形
るのは誤りである。その本来の役割は、生産
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
であり、金融商品の需給を決める経済環境の
活動に必要な資金を融通し、企業や家計が直
金融市場は、
効率的にリスクを配分したり、
指標である。
ある。本講義では、金融市場が実需を正しく
る。この研究のねらいは、経済学者が金融市
面するリスクを配分することにある。
反映するということの意味を明らかにし、経
場の本来の機能と問題点を明らかにすること
しかし、金融市場というと、株価の変動が
済全体の中で持つ役割を論ずる。
で、経営者がとるべき行動を提案し、健全な
金融市場の発展に貢献することである。
原 千秋
Chiaki Hara
京都大学経済研究所 教授
経 歴
1987 年一橋大学経済学部卒業。1993 年米国 Harvard University にて Ph.D.( 経済学)取得。同年英国 University College
London に て 専 任 講 師。1994 年 ベ ル ギ ー Universite Catholique de Louvain に て 研 究 員。1995 年 英 国 University of
Cambridge にて専任講師。神戸大学経済経営研究所助教授、一橋大学経済研究所助教授を経て、2004 年より京都大学経済
研究所助教授。2007 年より同教授。ミクロ経済理論の手法を証券市場の分析に応用して、投資家の異質性が資産価格に及
ぼす影響などを研究している。
ヤルナゾフ ディミター サボフ
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
Obtained his PhD from Kanazawa University (Japan) and his MSc (Econ.) from Moscow State University “M. V. Lomonosov”
(Russia). His PhD dissertation was about Japan’s postwar economic development strategy and the possibilities for its
application in the former communist countries. Prof. IALNAZOV started his career as a researcher at Sofia University
(Bulgaria) and worked briefly for a UNIDO-sponsored project on “green FDI”. After obtaining his PhD, he served as a
Research Associate at the Graduate School of Decision Science and Technology, Tokyo Institute of Technology, and as
Associate Professor at the Graduate School of Economics, Kyoto University. Since April 2013, Prof.IALNAZOV has been
at the Graduate School of Advanced Integrated Studies in Human Survivability (GSAIS), Kyoto University. His most recent
research topics are the “green transition” in emerging and developing countries, and the impact of EU membership on
South Eastern European economies (in particular, Bulgaria and Romania).
15
経済・経営
グリーン・エコノミー(GE)論
Dimiter-Savov Ialnazov
再生可能なエネルギー主導型経済への移行
講義概要
前述のように、GEという概念はグローバル課題の解
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
いったグローバル課題解決のために、
世界中、
決に応用されている。実際、うまく行くかどうかの保証
(1)
近年、気候変動、資源枯渇、貧困、格差と
グリーン・エコノミー(GE)が推進される
はないが、成功すれば地球規模のインパクトが期待でき
、 UNEP
、 World Bank
などの国際
OECD
る。また、国民国家のレベルやグローバルなレベルで強
力 な ア ク タ ー(
GEという概念
よ う に な っ た。 し か し、
GEへの移行(以下では、
「グ
は前述のグローバル課題解決には有効ではな
い、また、
などの温暖化効果ガスの排出量削減という目的を
CO2
機関を含む)が「グリーン転換」を押し進めているため、
つの議論が現在白熱している。単に、環境に
例 に と っ て み れ ば、 化 石 燃 料( 石 炭、 石 油、 天 然 ガ ス )
リーン転換」とも呼ぶ)は単純なものではな
易しい技術や商品を導入することにより「グ
主導型経済から再生可能なエネルギー主導型経済(GE)
こうした動きは無視できない。
リーン転換」
ができない。各国における生産・
へ の シ フ ト は そ の 目 的 達 成 に 効 果 的 で あ る と 言 え よ う。
く、多くの困難を伴うものである、という二
消費様式の転換を含む大規模なシステム転換
排出量削減に成功している
CO2
の年間排出量増
CO2
実際、北欧やドイツにおいては再生可能なエネルギーの
導入が進み、EU全体は
ようにみえる。しかし、中国による
が必要ではないかという考え方が強くなって
きている。
最初の一コマでは、GEや「グリーン転換」
はこういったEUの努力を上回っている。つまり、新興
国及び発展途上国における「グリーン転換」もグローバ
などについて学んでもらった後、第二コマに
おいて個別の国の事例(例えば、日本におけ
ル課題解決に不可欠であろう。しかし、新興国及び発展
途上国における「グリーン転換」は、先進国にける「グリー
ン転換」とはまた異なる固有の問題を抱えている。
る「グリーン転換」
)を交えたディスカッショ
ンを通じて受講生の理解が深まることを目的
としている。
(2)
正義論
近 年、「 格 差 社 会 」・「 ワ ー キ ン グ・ プ ア 」
16
法律・政治
正義のフロンティアを探る
講義概要
じるしく発展してきた。この講義では、分析
などの語が示すとおり、格差や貧困への問題
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
と論争の焦点となっている二つの論点を取り
意識が高まる一方で、「自己責任」の論調も
分配的正義の研究は、過去四十年間にいち
上げて、最先端の研究状況をやさしく概説す
上国には極度の貧困にあえぐ膨大な数の人々
広く見受けられる。海外に目を向ければ、途
第一は、運の平等主義の是非である。運の
がいる。わが国において、さらには地球全体
る。
平等主義とは、各人が左右できない状況にも
分配的正義の法哲学的研究は、努力も運も
で、どのような分配状態が望ましいのか、ま
補償・救済を行うべきでないという立場をさ
大きく異なった人々がともに生きてゆく上
とづく不遇に対しては社会的な補償・救済を
す。第二は、再分配の理念は何かという論点
で、決して避けることができない実践的問題
たどんな分配原理が求められるのか。
である。格差の最小化をめざす平等性、より
を学術的に解明する。その基本を習得し自由
行うべきだが、各人の選択に発した不遇には
不利な人に利益を与える優先性、万人に一定
に討論しあう経験は、大規模な経済成長がも
厳しさを増す日本社会において、あるべき社
の閾値までを保障する十分性が提案され、三
これらの論点について学ぶことにより、受
会の姿を自ら構想するための確かな一歩とな
はや望めず、限られたパイの分配がますます
講者が自ら正義について深く考えることをめ
るだろう。
つ巴の論争が続いている。
ざす。
宇佐美 誠
Makoto Usami
京都大学大学院地球環境学堂 教授
経 歴
1989 年名古屋大学法学部卒業、1991 年同大学大学院法学研究科博士課程( 前期)修了。1996 年博士( 法学)
( 名古屋大学)。
1991 年名古屋大学法学部助手、1993 年中京大学法学部専任講師、1996 年助教授、2002 年教授、2004 年東京工業大学大
学院社会理工学研究科助教授、2008 年教授を経て、2013 年より現職。1997 年から 1999 年までハーバード大学哲学部客
員研究員。日本公共政策学会元副会長。日本ユネスコ国内委員会委員、日本法哲学会理事、法と経済学会常務理事、日本公
共政策学会監事、日本学術会議連携会員。専門は法哲学・政治哲学・法政策学。
著 書
著書・編著書に、
『 公共的決定としての法』木鐸社(1993 年)
、
『 決定』東京大学出版会(2000 年)、『 公共哲学 20 世代間
関係から考える公共性』
( 共編著)東京大学出版会(2006 年)、
『 法学と経済学のあいだ』
( 編著)勁草書房(2010 年)、
『 ドゥ
オーキン』
( 共編著)勁草書房(2011 年)、
『 法思想史の新たな水脈』( 共編著)昭和堂(2013 年)、
『 グローバルな正義』( 編
著)勁草書房(2014 年)
、『 法哲学』( 共著)有斐閣(2014 年)など。
Makoto Ohishi
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1951 年宮崎県生まれ、1974 年東北大学法学部卒業後、同助手・國學院大学助教授・九州大学教授などを経て、1993 年に
京都大学大学院法学研究科教授、2006 年に同大学公共政策大学院教授、2008 年同大学公共政策大学院長を経て、2014 年
同大学総合生存学館( 思修館)教授となり、現在に至る。学会は、日本公法学会・比較憲法学会・宗教法学会に所属、理事
を務める。この間に、参議院の将来像を考える有識者懇談会委員(1999 年 4 月~ 2000 年 4 月)、首相公選制を考える懇談
会委員(2001 年 7 月~ 2002 年 8 月)、放送大学客員教授(2004 年 4 月~ 2012 年 3 月)のほか、宗教法人審議会委員・同
会長(2001 年 4 月~ 2012 年 3 月)、衆議院議員選挙区画定審議会委員(2004 年 4 月~ 2014 年 3 月)、京都市情報公開制度
運営審議会委員(2002 年 4 月~ 2010 年 3 月)、同市情報公開・個人情報保護審議会会長(2010 年 4 月~ 2014 年 3 月)な
どを歴任し、現在、京都府土地収用事業認定審議会会長(2002 年 12 月~現在)、衆議院選挙制度に関する調査会委員(2014
年 7 月~現在)を務めている。
著 書
主な著書に、
『 議会法』有斐閣(2001 年)、
『 日本憲法史〈 第 2 版〉』有斐閣(2005 年)、『 憲法史と憲法解釈』信山社(2000
年)
、
『 憲法秩序への展望』有斐閣(2008 年)、
『 憲法概観〈 第 7 版〉』( 共著)有斐閣(2011 年)、
『 憲法断章』信山社(2011
年)
、
『 憲法講義Ⅱ〈 第 2 版〉』有斐閣(2012 年)、
『 判例憲法〈 第 2 版〉』( 共編著)有斐閣(2012 年)、
『 憲法講義Ⅰ〈 第 3 版〉』
有斐閣(2014 年)
、
『 権利保障の諸相』三省堂(2014 年)などがある。
17
法律・政治
統治機構改革の展望
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
大石 眞
現代社会における憲法の意味と役割を考える
講義概要
憲法と聞いて条文化された憲法典を基にし
いる現在、ただ一度の改正をも経験していな
年を迎えようとして
本講義は、そうした憲法典の規定のみから想
い憲法典の条文解釈に終始した憲法論は、一
現行憲法の制定から
定されたあるべき憲法のイメージによること
種の飽和状態に達しているが、本来、憲法典
た理想的な規範を思い浮かべる人は多いが、
なく、国政の組織・内容・手続に関する原理
本講義と自由な討議を通じて、従来の固定
の改訂を標榜し、これまでの憲法解釈論と対
そのため、本講義では、現代の憲法制度を
的な解釈論や伝統的な枠組みに囚われること
や規範という視点に立って、国民と議会、議
支える共通原理である立憲民主制の諸要素を
なく、数多の比較憲法史的素材と最新の憲法
蹠的であるはずの憲法改正をめぐる論議も、
確認するとともに、比較憲法史的な素材と憲
論的知見を充分に活かした統治機構の構想を
会と政府、政治と司法、国家と財政などの統
法論的な知見を提供することを通して、半直
打ち出すことができるとともに、飽和状態に
所詮、その延長線上の議論に終始しているた
接民主制・議院内閣制・司法審査制・財政立
達した憲法解釈論と閉塞状況に陥った憲法改
治機構の全般に関する改革への展望を得るこ
憲主義・地方自治などをめぐる主要問題を再
正論を超えた、自由で開かれた未来志向の統
めに、閉塞状況に陥っている。
検討し、統治機構論議に必要な新たな視角を
治機構改革論の空間を確保することができ
とを目的とする。
提示することにしたい。
る。
70
本外交の歴史的分析を縦軸にして、日本の国
土を巡る中国、韓国、ロシアとの紛争や北朝
日本の外交や防衛については、たとえば領
本講義では、西洋世界を中心に構築されて
Hiroshi Nakanishi
18
法律・政治
国際政治と日本外交の歴史と現在
際政治の中での位置づけ、日本外交の課題お
鮮 に よ る 拉 致 問 題、 ま た 歴 史 認 識 を め ぐ る
を欠いたまま、個別事例についての部分的な
と帝国喪失に至る道を辿った軌跡、戦後日本
きた国際政治学の分析手法と日本外交に関す
中西 寛
日本外交の現在を歴史と国際政治を踏まえて考える
講義概要
よび国力について、巨視的で、国際的に共有
問題や日米の同盟や経済関係のあり方など、
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
できる視点から理解することを目標とする。
個々の問題についてメディアや世論によって
本講義では、国際政治の分析を横軸に、日
まず、国際政治の分析方法について概観した
大きく報じられることは少なくない。
しかし国際政治の構造や日本が置かれた国
上で、その方法を利用しながら、日本外交に
ついて、前近代の時代から現代まで時代順に
特に明治期以降の日本外交が、西洋国際秩
知識から全体像を論じようとする時、それは
際環境とその中での歴史について基本的素養
序への参加と東アジアでの国際秩序形成の二
国際常識からはずれた極論につながる危険性
分析を加えていく。
世紀前半の日本が
重の課題を抱えたこと、
が日米協調の枠組みの中で経済成長と平和外
る実証研究をできる限り組み合わせて、客観
が大きい。
交を実現したものの、その正負の遺産が現代
を志向する。
的で理性的な日本外交理解に結びつけること
に議論する予定である。
日本外交の課題となっていることなどを中心
国際秩序の世界化の中で適応に失敗し、敗戦
20
京都大学公共政策大学院 教授
経 歴
1985 年京都大学法学部卒業。1987 年同大学大学院修士課程修了。1988 年~ 1990 年シカゴ大学歴史学部博士課程在籍。
1991 年京都大学大学院博士後期課程退学。法学修士( 政治学)
1991 年 4 月京都大学法学部助教授。1994 年~ 1995 年文部省在外研究員。2002 年~ 2014 年京都大学大学院法学研究科
教授。2015 年から現職予定。
ODA 大綱見直しに関する有識者懇談会委員(2014)、安全保障の法的基盤に関する懇談会委員(2007 ~ 2008 年、2013 ~
2014 年)
、
安全保障と防衛力に関する懇談会委員(2009 年)、新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会委員(2010 年)。
著 書
『 国際政治学』
( 有斐閣、2013 年)
。共編著に『 歴史の桎梏を越えて ―20 世紀日中関係への新視点』( 千倉書房、2010 年)
主要著作に、
『 国際政治とは何か-地球社会における人間と秩序』( 中公新書、2003 年)( 読売・吉野作造賞受賞)、
( 共著)
( 大平正芳財団特別賞受賞)。
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
専門は英語教育、グローバルコミュニケーション、グローバル人材育成、資産運用。東京教育大学付属高校( 現在筑波大学
付属高校)を卒業後、1981 年にアメリカのハーバード大学で学士、1985 年にフランスの INSEAD( 欧州経営大学院)で
MBA( 経営学修士)を取得。その後マッキンゼーのパリオフィスで経営コンサルタント、イギリスロンドンの投資銀行 SG
Warburg でファンドマネージャー、パリでエコノミストと勤務した後、ポーランドで山一証券の合弁会社で民営化事業に
携わる。1998 年より国際公務員として BIS( 国際決済銀行)フランスの OECD( 経済開発協力機構)で職員年金基金の運
用を担当、IMF のテクニカルアドバイザーとして中央銀行の外貨準備金運用に対して助言を与えた。2012 年より京都大学
グローバルコミュニケーション
Eriko Kawai
グローバルコミュニケーションと異文化理解
講義概要
グローバルコミュニケーションを学ぶこと
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
しており、様々な場面で外国人とのコミュニ
は、専門知識と並んでグローバル人材として
社会のあらゆる場面でグローバル化が進展
ケーションの必要性が増大している。グロー
活躍していく必要条件の一つだと考えてい
近著に『 自分の小さな鳥かごから飛び出しなさい』ダイアモンド社 (2013 年 ) など。
バルコミュニケーションというと、外国語学
著 書
る。
教授。2014 年より現職。
習 と 考 え る 人 も 多 い が、 よ り よ い コ ミ ュ ニ
ケーションをはかるためには、外国語習得だ
けでなく、それと同時に異文化理解を深める
必要がある。グローバルコミュニケーション
を身に着けることは、ビジネス、政治、アカ
デミアというあらゆる分野で日本人が世界で
活躍する時に必要である。この授業では異文
化理解を助ける実践的概念の説明と、文化の
違いによるコミュニケーションスタイルの違
いについて講義する。その基本的な理論に基
づき、プレゼンテーションや交渉術を習得す
る。そのような概念や技術の習得をすること
異文化コミュニケーション
19
によって将来の国際業務の際に誤解を避け、
よりよい相互理解を深めることを目指す。
河合 江理子
社会・経済物理学、複雑系科学
複雑系を理解すれば世界が分かる
講義概要
ない金融・経済危機や、エネルギー・資源の
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
特に、複数の構成要素が相互作用を通じて
有限性や環境破壊など、地球規模の複合的問
経済や社会の様々な要因が絡み合うグロー
個別構成要素が持たない全体的な性質を発現
題が顕在化してきた。エネルギー、環境、人
新興国の台頭を伴う経済のグローバル化を
する系は,複雑系と呼ばれる。近年、複雑系
口、経済などに関するグローバル問題では、
バル問題に取り組むには、複雑な社会現象を
をネットワークの視点からとらえることが経
社会科学と自然科学の両方の要因が複雑に絡
背景に、活力ある経済発展の一方で、間断の
済や社会の科学的な研究における大きい潮流
み合っている。
読み解くことが必須である。
となっている。本講義では、複雑ネットワー
ために、人類が直面するグローバル問題に対
しかし、今日、複数の学問、特に社会科学
具体例として、企業間の株所有ネットワー
して解決策を見出すことができてない。この
クの静的構造および動的特性の基本を学ぶこ
ク、マクロ経済の産業ネットワーク、国際貿
一点にグローバル問題の難しさが集約されて
と自然科学を総合化する方法論が存在しない
易ネットワーク、電力網などを取り上げて、
いる。
とにより、複雑系について理解を深める。
基本的な概念から丁寧に説明する。
社会・経済物理学は、社会科学と自然科学
世紀の新しい知的フロンティ
を総合化する方法論の構築に向けた研究の最
前線にあり、
アである。
21
池田 裕一
Yuichi Ikeda
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1989 年九州大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。理学博士。1989 ~ 1990 年日本学術振興会特別研究員( 東京
大学原子核研究所)
。1990 ~ 2011 年株式会社日立製作所、2011 年東京大学生産技術研究所特任准教授を経て、2012 年
より現職。この間、1997 年カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、2009 ~ 2011 年国際エネルギー機関コンサル
タント。おもな研究分野は、物理学、計算科学、総合工学、エネルギー政策、電力システム解析。
著 書
近著として、
『 パレート・ファームズ-企業の興亡とつながりの科学-』( 共著)日本経済評論社(2007 年)、『 経済物理
学』
( 共著)共立出版(2008 年)、The 7th Applications of Physics in Financial Analysis, Journal of Economic Interaction
and Coordination, Volume 5, 2010( 共 編、2010 年 )、The 7th Applications of Physics in Financial Analysis, Journal of
Physics: Conference Series, Volume 221, 2010( 共編,2010 年)、Econophysics and companies -Statistical Life and Death
in Complex Business Networks-(Cambridge University Press,共著,2010 年)、『50 のキーワードで読み解く経済学教室』
( 分担執筆)東京図書(2011 年)など。この他、査読付学術論文 67 編、特許 36 件、雑誌論文 4 編。
理工
20
世の中に大きなインパクトを与え我々の生
Koichiro Oshima
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1970 年京都大学工学部工業化学科卒業。1972 年京都大学工学研究科工業化学専攻修士課程修了。1975 年京都大学工学研
究科工業化学専攻博士課程修了、工学博士( 京都大学)
。1975 年 4 月から 1977 年 8 月まで米国マサチューセッツ工科大学
博士研究員。1977 年 9 月京都大学工学部助手。1984 年 4 月同講師。1986 年 2 月同助教授。1993 年 10 月同教授。1996 年
4 月改組に伴い京都大学大学院工学研究科教授に配置換、京都大学工学部兼担。2003 年 4 月から 2005 年 3 月まで京都大学
教育研究評議会評議員。2005 年 4 月から 2008 年 3 月まで京都大学環境安全保健機構長、京都大学環境保全センター長併
任。2008 年 4 月京都大学大学院工学研究科長・工学部長。2010 年 4 月京都大学名誉教授。2010 年 5 月京都大学特任教授。
2013 年 4 月京都大学大学院総合生存学館特任教授( 現在に至る)。2014 年 2 月京都大学副学長( 現在に至る)。有機反応化
学を研究。2005 年有機合成化学協会賞受賞。2007 年日本化学会賞受賞。
21
理工
有機合成化学
まず一つ目は、これまでにノーベル化学賞
活を豊かにした研究がどのように誕生したの
大嶌 幸一郎
研究の進め方・醍醐味
を受賞した研究の中からいくつかを選び、発
かを知ってもらうことで有機化学の研究に対
講義概要
見の経緯を述べるとともに研究の面白さ、醍
する親近感を持って頂くと共に研究の面白さ
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
醐 味 に つ い て 解 説 す る。 具 体 的 に は チ ー グ
を知っていただきたい。
二つの話題を取りあげる。
ラー・ナッタのポリエチレンならびにポリプ
や化学兵器などといった化学に対する負のイ
また、一般の方々が持たれている化学汚染
ロビレンの合成、 Wittig
反応、
ハイドロボレー
ション反応、クロスカップリング反応など代
我々が化学によって受けている大きな恩恵
メージを払拭したい。
世紀に果たすべき役割に
について実例を挙げて示したい。
表的な有機合成反応を取りあげる。
二つ目は化学の
世紀の課題である環境問
そして、将来世の中のために化学にどうい
ついて論じたい。
題、エネルギー・資源の問題に化学がどのよ
う事を期待するかについて、質疑応答を通し
て受講生とともに考えたい。
うに関わればよいかについて受講生とともに
考えたい。
21 21
有機元素化学
元素化学の歴史と最前線
講義概要
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
の化学へと拡張すべく、その炭素や酸素、窒
典型元素の化学について、その基礎的な解
主に高周期典型元素に焦点を絞り、低配位
素などの構成元素を同族の高周期元素に置き
炭素を中心とする第二周期元素の化学とし
化 合 物 か ら 高 配 位 化 合 物 ま で そ の 合 成、 構
換えた世界を構築することで、周期および元
説から最新の研究成果まで有機元素化学およ
造、反応について、研究発展の歴史的背景と
素の特性の違いにより発現する構造や反応性
て発展を遂げてきた有機化学を典型元素全体
各典型元素の元素特性との関連を含めて紹介
の変化を研究しその未知なる性質を解明する
び物理有機化学的な視点から講義する。
する。
ことは、新たな機能・物性の開拓という点で
重要である。
典型元素から遷移金属元素までも視野に入
れた幅広い元素化学を展開し、有用な新物質
開発を目指す化学は、単に化学者の好奇心を
満たすのみならず、各元素の特徴を活用した
化学の応用を展開する上で非常に重要な基礎
的知見を与えるものと考えられる。
時任 宣博
Norihiro Tokitoh
京都大学化学研究所 教授
経 歴
1979 年東京大学理学部化学科卒業。1985 年東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了( 理学博士)。1985 年国際
基督教大学自然科学科非常勤助手、1986 年筑波大化学系助手、1989 年東京大学大学院理学系研究科化学専攻助手、1994
年東京大学大学院理学系研究科化学専攻助教授、1998 年九州大学有機化学基礎研究センター教授を経て、2000 年~現在、
京都大学化学研究所・物質創製化学研究系雪元素化学研究領域教授。2001 ~ 2003 年分子科学研究所錯体化学実験施設客
員教授( 併任)
、2004 ~ 2007 年 Visiting Professor, Technische Universität Braunschweig, Germany、2006 ~ 2008 年京
都大学次世代開拓研究ユニット長、2008 ~ 2012 年化学研究所長、2013 ~ 2014 年 Visiting Professor, Universität Bonn,
Germany、
2014 年より再度化学研究所長。主な受賞歴として、有機合成化学奨励賞(1993 年)、
ケイ素化学協会奨励賞(1996
年)
、日本 IBM 科学賞(1998 年)、日本化学会学術賞(2003 年)、Alexander von Humboldt 賞(2003 年、2013 年)など。
主な学会活動として、ケイ素化学協会常任理事(1998 ~ 2014 年)、ケイ素化学協会副会長(2014 年~現在)、近畿化学協
会ヘテロ原子部会長(2008 ~ 2013 年)
、日本化学会理事(2009 ~ 2011 年)、基礎有機化学会副会長(2011 ~ 2012 年)、
日本化学会欧文誌編集委員長(2013 年~現在)。
理工
22
に、現在の石油化学産業と対比させて、国内
オマスのエネルギー利用の限界を示すととも
次に、これらの基礎的な知見にたって、バイ
イオマス利用する際の課題を整理、
抽出する。
社会ベースとなる。現在の工業国では、1次
必然的に人口密度に上限をもった地域分散型
ルギーであるため、これを軸にした社会は、
再生可能資源は化石資源に比べ低密度エネ
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
Kazuhiro Mae
京都大学大学院工学研究所 教授
経 歴
1980 年京都大学工学部化学工学科卒業。1982 年京都大学大学院工学研究科修士課程化学工学専攻修了、博士( 工学)京都
大学。1982 年㈱神戸製鋼所化学研究所研究員。1986 年京都大学工学部助手。1994 年京都大学工学研究科助教授。2001
年京都大学工学研究科教授で現在に至る。この間、1997 年米国ペンシルバニア大にて文部科学省在外研究員、2006 ~
2011 年京都大学地球環境学堂教授( 両任)
、2008 ~ 2010 年に京都大学教育研究評議員、地球環境学堂副学堂長。所属学
会は、化学工学会、日本エネルギー学会、触媒学会、近畿化学協会、米国化学工学会、米国化学会で、2014、2015 年度は
化学工学会会長に着任。現在、資源・エネルギー・環境に係る新規高効率転換法、マイクロリアクターによる化学生産革新
に関する研究に従事。日本エネルギー学会論文賞 3 回(1992 年、2002 年、2006 年)、日本エネルギー学会進歩賞(1994 年)、
地域社会におけるバイオマス利用技術戦略
工業経営シェア成立要件、③廃熱化学技術な
どをポイントに地域分散型社会の有り様につ
生産の量的バランスと化学反応の合理性か
産業が地域に取り残され、化学産業は大型か
いて考える。
ら、化学製品やマテリアルへの変換の合理性
つ集約型で地域と乖離している。1次産業か
産業へのパラダイムシフトを誘発し、持続的
前 一廣
バイオマス資源ベースの新スマート化学産業像
講義概要
まず、バイオマスの利用技術を概観し、バ
を論ずる。最後に、現在、国家プロジェクト
ら排出されるバイオマスという地域資源を積
イオマスを化学変換するときのポイント、各
で推進している製紙業/化学産業連携でのバ
極的かつ合理的に変換して海外市場へ展開す
油依存から脱却、農作物のコスト低減、 CO2
削減、地域の経済活性化など、波及効果が大
として、①プロダクションシェア(=全国各
社会形成への大きな足掛かりとなる。
てる強さを有している)成立要件、②農業/
化学工学会研究賞(2008 年)、日本エネルギー学会学会賞(2014 年)受賞。
種変換技術の特徴と欠点を把握し、日本でバ
イオマス利用スキームの概要を紹介するとと
ると同時に、化学産業の未利用低レベル廃熱
次/
開するために必要な概念、新技術開発、制度
きいと考えられる。資源、エネルギー、環境
ス キ ー ム を 構 築 す る こ と は、 高 リ ス ク の 石
設計、コミュニティー、新公共の在り方に関
制約下の
世紀における地域/世界直結型新
して、文理両面から議論する。この際の観点
イオマス資源を軸にして地域社会活性化に展
を1次産業のエネルギーとして利用していく
次融合型地域産業の絵
もに、将来の
姿を示す。
2
講時目は、上述の講義内容に基づき、バ
1
地での生産を統合すると日本全体で世界に勝
21
理工
23
2
宇宙と人間
ベル医学・生理学賞を受賞された。これは山
何故自分自身が存在するかを遠い過去、遠い
人は生まれ、死にゆく運命にあるが、一度
24
理工
太陽系文明へ
講義概要
中先生がこれまでの常識から一歩踏み出し、
将来をみて考えるきっかけにしてもらう内容
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
いまだ科学として成立していなかった「未科
としたい。
山 中 伸 弥 教 授 が iPS 細 胞 の 研 究 で ノ ー
学」の分野を「科学」にしようと挑戦された
結果である。
二十世紀初頭「夢」と思われていた技術の
多くは現代社会において実現されている。し
かしその反面、科学技術が進歩した現在にお
いて、環境問題、資源・エネルギー問題をは
じめ、さまざまな問題が地球規模の課題とし
て我々の目前にせまり、地球文明の危機に直
面している。この二十一世紀の百年間を、現
代文明の維持発展、そして「人類の生存」の
ために科学技術をいかに使い発展させるの
か、国際社会の中で人間が果たすべき役割と
科学技術のあり方について考える。その一例
として、人間文明が宇宙空間に展開する礎と
して筆者自身が取り組んできた宇宙太陽発電
所構想についても紹介し、人間とは何かを考
案する。
松本 紘
Hiroshi Matsumoto
京都大学生存圏研究所(前京都大学総長)
経 歴
第 25 代京都大学総長(2008-2014)
1942 年生まれ。奈良県出身。1965 年京都大学電子工学科卒、工学博士。京都大学工学部助教授、宙空電波科学研究セン
ター長、生存圏研究所長、理事・副学長などを経て、2008 年 10 月総長就任。学外では、地球電磁気・地球惑星圏学会会長、
国際電波科学連合会長、内閣府関係の委員等を歴任。宇宙政策委員会委員。2013 年 6 月~ 2014 年 9 月国立大学協会会長。
教育再生実行会議第1分科会委員。専門分野・研究課題は宇宙プラズマ物理学、宇宙電波科学、宇宙エネルギー工学。ガガー
リンメダル( ロシア)
、紫綬褒章、Booker Gold Medal(USA) など国内外の賞を受賞。
著 書
主な著編書に「 宇宙開拓とコンピュータ」
( 共立出版)
、SPS 白書(URSI)、「 京の宇宙学」( ナノオプトメディア)、「 宇宙太
陽光発電所」
( ディスカヴァー・トゥエンティワン)、「 京都から大学を変える」( 祥伝社新書)。
しまい、あとになってはじめて突拍子もない
によって、一見無害な事象が大混乱を招いて
理解しがたい複雑さ・相互依存性・不安定性
た。社会全体としての「生きた」システムの
いという予期せぬ事態に直面することになっ
弱性が高まり、全体システムが破綻しかねな
を追究することによって、別のシステムの脆
の一方で、一部のシステムの最適化や効率化
奇跡的な出来事を可能にした。ところが、そ
私たちは、
もちろんさまざまな恩恵を享受し、
システムと化してしまった。
その結果として、
ムと人間が複雑に絡み合う巨大な「生きた」
も注目する必要がある。生物学、経済学、生態学という
ば、それよりも速く変化する過程と遅く変化する過程に
るとともに、一つの領域の変化過程に関心を向けるなら
ば、それよりも小さな領域と大きな領域を並行して捉え
行動するのではなく、ある部分領域に関心を向けるなら
して、一度に、一つの方法、一つの範囲、一つの尺度で
要とするシステムの基本原理を探求することである。そ
を試みることである。極論するならば、失敗や誤りを必
おかしてしまうことを「前提」とした上で、学問の創成
災害などの想定外の事態が起こること、人間が間違いを
目的とする。ここで、新たな「ものの見方」とは、自然
築し、身近な対象において実践的に検証していくことを
明るい未来を創成可能とする新しい「未来創成学」を構
京都大学基礎物理学研究所 物質構造研究部門 准教授
経 歴
1982 年東京大学薬学部卒業、1987 年東京大学大学院薬学系研究科薬学博士、1985 年東京都老人総合研究所助手に採
用、1987 年- 1988 年アメリカデューク大学医学部生理学教室博士研究員、1988 年 東京都老人総合研究所研究員に昇格
1990 年- 1991 年 カリフォルニア大学デービス校・数学科客員助教授、1991 年東京都老人総合研究所主任研究員に昇格、
1992 年京都大学基礎物理学研究所助教授に採用、現在同研究所准教授。2007 年湯川秀樹生誕百年記念事業国際シンポジ
ウム「 生命とは何か」主催、2009 年ダーウイン生誕 200 年記念国際シンポジウム「 進化とは何か」主催、2010 年京都大
学統合複雑系科学研究国際ユニット連携推進委員、2011 年京都大学国際フォーラム「 新たな知の統合に向けて」を主催。
物性研究・電子版編集長、国際教育学会 理事、国際複雑系研究所(International Institute for Complex Adaptive Matter)
科学委員、2013 年京都大学研究大学強化促進事業 学際・国際・人際融合事業「 知の越境」平成 25 年度 融合チーム研究
未来創成学への挑戦
隠された依存関係が明らかとなる。多くの場
異なるシステムにおいて、それぞれ異なる研究者が似た
Masatoshi Murase
想定外事態、人的失敗を前提とする学問創成
講義概要
合、切迫した問題は多様なシステムの境界領
ような問題にどのように対処するかを比較できる。こう
村瀬雅俊『 歴史としての生命-自己・非自己循環理論の構築』京都大学学術出版会 2000
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
域で発生する。そのために、個々のシステム
して普遍的な枠組みができれば、ある分野で成功した方
Masatoshi Murase “The Dynamics of Cellular Motility”Wiley 1992
グローバル化時代を迎え、現代社会は、技
を深く理解していても、問題自体が発生する
法を別の分野に応用することが可能となる。それは「臨
著 書
本講義では、「ものの見方」を根本からみなおした上で、
ことを予想することは不可能に近い。ここに
床経済学」
「臨床環境学」といった新たな学問の創成につ
プログラム- SPIRITS -、統合創造学創成プロジェクト採択、現在 プロジェクトリーダー。
術・環境・政治・経済といった多様なシステ
異分野交流による新たな学問創造を目指す意
ながる。こうした発展可能性が「未来創成学」の醍醐味
理工
25
義がある。
である。
村瀬 雅俊
分子技術
化学から育つ新ディシプリン
講義概要
従来の科学技術は必ずしも分子レベルにま
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
が進んでいる。既存の境界領域研究では不十
で遡って、オンリーワンの分子を見つけるこ
二十一世紀に入り、様々の研究領域の融合
分で、複数の分野間を貫通した全く新しい研
しかし、目標に向かって真にオンリーワン
とには十分な努力をしていなかった。
割 を 果 た し て い る の が、 化 学 で あ る。 従 来、
の分子を設計することで、長期寿命で、強い
究領域が必要とされている。その中心的な役
化学は新領域誕生に比較的無縁だったが、真
競争力のある産業が生まれる。
分子技術はこうした背景から我が国独自の
に競争力のある産業分野の創生には分子のレ
ベルでの開発が必須であることが認識されて
さらに、多岐に亘る分野の研究者が分子技
ディシプリンとして、誕生したもので、今後
従前の科学技術を質的に一変させる一連の技
術という共通の土台に立って、お互いの研究・
き た。 新 学 術 領 域、 分 子 技 術 と は、
「目的を
術 」 を 指 し て い る。 そ の 目 標 と す る、 分 子
技術を見つめ直し、新たな展開を生み出し、
世界に向けてその重要性を発信してゆくこと
レベルでの物性創出とは、一言で言えば、
「無
幅広い社会ニーズに応えて、物質・材料開発
持って分子を設計・合成し、分子レベルで物
限に存在する分子から、課題に向けて最善・
へのブレーク・スルーを成し遂げることを強
が期待されている。
最適の分子を合成と理論と計算科学との協働
く意識している。
質の物理的・化学的・生物学的機能を創出し、
により、自在に設計・合成する究極の物質合
成をすること」と言える。
山本 尚
Hisashi Yamamoto
中部大学分子性触媒センター長、中部大学総合工学研究所所長・教授
米国シカゴ大学名誉教授、名古屋大学名誉教授
経 歴
1967 年に京都大学工学部工業化学科卒業、1971 年米国ハーバード大学大学院博士課程修了 Ph. D. 東レ株式会社基礎研究
所研究員、1972 年より京都大学工学部助手、1976 年同大学講師、1977 年ハワイ大学淮教授、1980 年名古屋大学工学部
助教授、1983 年同大学教授、2002 年シカゴ大学化学教室教授、2012 年、中部大学教授。専門分野 : 有機化学、生物有機
化学、有機金属化学、天然物合成。研究テーマ : 酸触媒の開発、不斉酸化触媒の開発、新しいリガンド設計等。受賞歴:日
本化学会進歩賞(1977 年4月)IBM 科学賞(1988 年)服部報公賞(1991 年)中日文化賞(1992 年)スイス連邦工科大学
プレログメダル(1993 年)日本化学会賞(1995 年)東レ科学技術賞(1997 年)ハーバード大学ティシュラー賞(1998 年)
フランス化学賞(2002 年)、テトラへドロンチェアー賞(2002 年)、紫綬褒章(2002 年)、
モレキュラーキラリティー賞(2003
年)
、アメリカ科学会、AAS, フェロー(2003 年)、山田賞(2004 年)、テトラへドロン賞(2006 年)、チーグラー賞(2006 年)、
日本学士院賞(2007 年)
、フンボルト研究賞(2007 年)、日本化学会名誉会員(2008 年)、インド化学研究院フェロー(2008
年)
、
有機合成化学協会特別賞(2009 年)
、アメリカ化学会賞創造賞(2009 年)、アメリカ学士院会員(2011 年)、野依賞(2012
年)
、藤原賞(2012 年)
。
理工
26
超高齢化社会を迎えたわが国にとって、疾
京都大学大学院医学研究科 教授
経 歴
1984 年京都大学医学部医学科卒業。1992 年京都大学大学院医学研究科博士課程修了( 医学博士)後、千葉大学医学部附
属高次機能制御研究センター 助手。同 講師、助教授を経て 1997 年秋田大学医学部生理学第一講座 教授。2004 年秋田大
学バイオサイエンス教育・研究センター長。2005 年より京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学 教授(2013 年よ
り内科再編により、糖尿病・内分泌・栄養内科学と改称)現在に至る。2011 年より京都大学医学部附属病院 副病院長、
2013 年より京都大学大学院総合生存学館( 思修館)教授を兼務。2010 年より京都府立医科大学ならびに盛岡大学 客員教
授を兼務。2015 年 4 月より京都大学医学部附属病院長を兼務。現在、日米医学協力委員会 栄養・代謝部会長、日本糖尿病
学会 常務理事、日本病態栄養学会 理事、日本糖尿病協会 業務執行理事、Asian Association for the Study of Diabetes( ア
ジア糖尿病学会)Executive board などを務める。専門は臨床医学( 特に内科学、糖尿病学、代謝・内分泌学、病態栄養学)。
27
医薬・生命
臨床医学
化社会を迎え、単なる寿命の延長ではなく、
病構造は変化し、慢性疾患が増加している。
Nobuya Inagaki
高齢化社会と慢性疾患
健康寿命の延長が求められている。しかし一
このことは医療費や介護費用の増加につなが
講義概要
方で、糖尿病をはじめとする慢性疾患が激増
り、すでにわが国の経済を圧迫しつつあり、
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
し医療経済学的に深刻な問題となっている。
社会の構造が大きな転換期にさしかかってい
わが国は4人に1人が高齢者という超高齢
本講義では、糖尿病を例にあげ、なぜ今日本
る。
健康寿命の増加は、個々人の生活の質の向
で糖尿病が激増しているのか、日本人と欧米
人ではその病態にどのような違いがあるの
さらに、現在の医学の中心である治療医学
上につながるだけでなく、医療経済的負担の
何が求められるのかについて、概説する。ま
から予防医学、そして先制医療へと展開する
か、わが国の長寿を支えてきた生活が現在ど
た、慢性疾患に対するさまざまな治療薬が開
ことにより、真の健康長寿が実現できる可能
軽減にもつながる。
発されつつある中で、その問題点と、今後わ
性がある。
のように変化しているか、健康長寿の確保に
が国において求められる先制医療についても
触れてみたい。
稲垣 暢也
京都大学大学院生命科学研究科 教授
28
医薬・生命
難治性疾患に対する新規治療法の開発
本 研 究 に よ り、 そ れ ほ ど 遠 く な い 将 来 に、
Akira Kakizuka
未来の難治性疾患治療に向けた挑戦
講義概要
現在の医薬品では治すことができない多く
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
疾患独自のメカニズムを解明し、そのメカニ
の難治性疾患に対して、共通すると思われる
一般的な疾患の治療を目指した研究では、
ズムを標的とした治療薬を作り出すという方
さらにその発症機序をどうすれば抑制できる
極めてシンプルな発症機序を提示すること、
しかしながら、このような方法からは、画
かという治療戦略と実際にそのための候補薬
針で研究が行われている。
期的な薬剤は中々見つからないというのが現
になり得そうなリード化合物を提示すること
で、全く新しい難治性疾患に対する治療法の
状である。
本講義では、何故病気になるのかという視
視点から難病研究に取り組むことで、多くの
多くの難治性疾患の発症予防、進行の遅延が
開発が始まる。
難病に共通する治療法が開発できるという考
可能になるだろう。
点からでは無く、何故、治らないのかという
えを紹介し、
その可能性を議論したいと思う。
垣塚 彰
経 歴
1984 年金沢大学医学部卒業。1988 年京都大学大学院医学研究科博士課程修了( 京大医学博士)。1988 年京都大学医学部
助手( 免疫研究施設)
。1989 年米国ソーク生物学研究所博士研究員。1992 年京都大学医学部講師( 薬理学)。1995 年同助
教授。1995 年日本生化学会奨励賞受賞。1997 年( 財)大阪バイオサイエンス研究所研究部長( 第4研究部)。2001 年京都
大学院生命科学研究科教授。2001 年( 財)大阪バイオサイエンス研究所名誉所員。2003 年第 39 回ベルツ賞受賞。
京都大学大学院総合生存学館(思修館) 学館長
経 歴
1971 年京都大学農学部卒業、1979 年日本学術振興会特別研究員。1980 年京都大学大学院農学研究科林産工学専攻修了、
京都大学農学博士。1980 年京都大学木質科学研究所助手、1990 年同助教授、1995 年同教授、2004 年京都大学生存圏研
究所教授、2005 年(~ 2010 年)同研究所所長を兼任。2009 年(~ 2012 年)京都大学副理事を併任。2013 年京都大学定
年退職、京都大学名誉教授。2013 年より現職。
1996 年から国際木材科学アカデミー(IAWS) フェロー。第 22, 23 期(2011 ~ 2017 年)日本学術会議会員。2012 年第 82
回日本農学賞、第 49 回読売農学賞を受賞。日本木材学会会長、日本材料学会副会長等を歴任。専門は森林学、木質科学、
木質材料学、文化財保存学。社会活動では「 日本の森を育てる木づかい円卓会議」議長として、2004 年 11 月提言書「 木
づかいのススメ」を取りまとめた。認定「NPO 法人才の木」を設立して、木材利用の普及啓発活動に取り組んでいる。
著 書
編著書に、
『 地球温暖化問題への農学の挑戦』養賢堂(2009 年)、
『 地球圏・生命圏・人間圏-持続的な生存基盤を求めて-』
京都大学学術出版会(2010 年)、
『 熱帯バイオマス社会の再生-インドネシアの泥炭湿地から-』京都大学学術出版会(2012
年)
、
『 木材・木質材料小事典』東洋書店(2013 年)のほか、専門分野の木質材料学に関する編著書多数。
29
医薬・生命
総合生存学、森林学
Shuichi Kawai
人と自然の共生
現在繁栄を極めている人類や地球社会ある
講義概要
な自然の恵みを受けて生存してきた。本来自
いは国家もまた、近未来においてその存続を
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
然と共存し、自然の物質循環、生物間の食物
脅かすであろう様々な困難や危機に直面する
人類はその誕生から現在に至るまで、様々
連鎖の中で生を享受してきたのである。しか
ことが十分予想される。
本講義の主題は、人類の生存に必須である
し、人類繁栄の契機となった農業革命や産業
革命を通じて自然との対立がむしろ深まって
自然環境と生態環境の維持、未来に向けた環
自然と人間の対立関係から脱却し、共存関
きたと言える。たとえば、農牧地の開拓は森
物種を絶滅に追い込んできた。また産業革命
係を取り戻すための方策について、多元的な
境保全の実現策である。
による化石資源の大量使用は大気汚染や気候
視点から検討する。
林を消滅、劣化させ、地域に固有の多くの生
変動を招き、鉱物等の地下資源の採掘は土壌
や水の汚染を引き起こす結果となった。近年
の人口の爆発的増加は、食料と資源・エネル
ギーの確保を人類生存の最大の課題に引き上
げ、ますます自然との対立関係を助長してい
る。
本講義では「保護と開発」について議論し、
特に陸域の物質循環や生態ネットワークのハ
ブとなっている森林を対象にした事例を紹介
し、劣化した自然の回復と資源の確保を人間
の賢明な管理によりいかに調和あるものとし
ていくのかを考える。
川井 秀一
価値として検討することができつつある。こ
よって、医療や医薬品の費用対効果を新たな
いる。さらに、疫学と計量経済学の出会いに
今 後、IT の 進 歩 に よ っ て、 人 間 の 一 生 も
する疫学研究は何度も社会を救ってきたが、
トのように情報収集して横断研究として解析
このように、社会の現状をスナップショッ
Koji Kawakami
京都大学大学院医学研究科 教授
30
医薬・生命
医療系データベースを用いた疫学、経済研究
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
コレラによる国家存亡の危機から救われ、ま
のような変革は、医学研究のあり方を根本か
ふまえて時間軸を俯瞰する縦断研究としての
川上 浩司
社会における医療の意義と健康の価値
講義概要
疫 学 と は、 個 人 で は な く 集 団 を 対 象 と し
世紀にはイギリスは
と健康状態との因果関係を明らかにする学問
た 日 本 の 研 究 者 に よ っ て、 日 露 戦 争 当 時 数
疫学研究によって、
である。昨今の IT 技術と環境の進歩によっ
十万人の死亡者をだしていた脚気が栄養によ
て、主として健康状態にかかわる様々な要因
て、いままでは二次利用されてこなかった医
るものだということが突き止められて、世界
ら変えつつあり、健康や医療の評価、産業や
疫学研究もより身近なものとなり、健康や医
年
療や健康の情報のデータベースが構築される
後 者 は、 ビ タ ミ ン B1 の 発 見 の 実 に
の多くの人々を脚気による死亡から救った。
医療系のビッグデータあるいはリアルワール
政策への寄与といった様々な展開を見せつつ
療、社会福祉の向上に寄与するインパクトを
前のことである。
ある。本講義では、このような医療系データ
もつ。
ドデータを用いた新しいパラダイムを迎えて
をめぐる状況や研究事例を俯瞰する。
27
よ う に な っ た。 こ れ に よ っ て、 疫 学 研 究 は、
19
経 歴
1997 年筑波大学医学専門学群卒( 医師免許)、2001 年横浜市立大学大学院医学研究科頭頸部外科学卒( 医学博士)。米国
連邦政府食品医薬品庁(FDA)生物製剤評価研究センター(CBER)にて細胞遺伝子治療部 臨床試験(IND)審査官、研究官
を歴任し、米国内で大学、研究施設、企業から FDA に提出された遺伝子・細胞治療、癌ワクチン等に関する臨床試験の審
査業務および行政指導に従事。東京大学大学院医学系研究科 先端臨床医学開発講座 客員助教授を経て、2006 年に 33 歳で
京都大学教授( 大学院医学研究科・薬剤疫学)
。2010 ~ 2014 年に京都大学理事補( 研究担当)、2011 年より京都大学学際
融合教育研究推進センター・政策のための科学ユニット長。現在、慶應義塾大学医学部客員教授などを兼務。原著論文は
120 報以上。日本薬剤疫学会理事、日本臨床試験学会理事、臨床研究推進ネットワークジャパン理事長、医療データベース
協会理事。
きく関わる自然現象のメカニズムを明らかに
わかっている。このように我々の暮らしに大
も多様な微生物が大きく貢献していることも
らかにされ、地球温暖化に関わる物質循環に
病気の存在から特定の病原微生物の関与が明
達した発酵食品はその良い例であろう。また
してきた。世界各地で文化的背景とともに発
り、経験と伝統を頼りに我々は微生物を利用
して我々が微生物の存在を知るずっと以前よ
チから、諸問題の解決に取りくむと同時に、
機能の評価や創薬など、さまざまなアプロー
用することで、食糧増産・環境の改善・食品
の微生物や酵母がもつ高度で特有な機能を利
であろう。我々はC1微生物と呼ばれる一群
らの危機は総合生存学にとっても大きな課題
しうる問題として 食「 ・」 健「康 ・」 環「境 」が
挙げられる。地球規模で増大しつつあるこれ
現在、我々が直面し、将来、生物学が解決
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
リフォルニア州サンディエゴに在住。1999 年から 2001 年、奈良先端科学技術大学院大学助教授( バイオサイエンス研究科・
応用微生物学講座 ( 客員講座 ) )併任。2000 年から 2005 年自然科学研究機構( 旧岡崎国立共同研究機構)助教授、基礎生
(1982 ~ 1987 年)
、上原記念生命科学財団海外留学助成リサーチフェローシップ(1996 ~ 1997 年)、1998 年度農芸化
物学研究所併任。2005 年より現職。2013 年より京都大学大学院総合生存学館研究指導協力教員。帝人奨学会久村奨学生
学奨励賞。日本農芸化学会理事(2009 ~ 2013 年)、酵母研究会会長(2011 年~ 2015 年)、酵母遺伝学フォーラム会長(2015
年~)
『 遺伝子からみた応用微生物学』
( 共編著)
、
『 応用微生物学』
( 共著)、『 マッキー 生化学( 第 3 版)( 第 4 版)』( 共訳)、原
著 書
農芸化学 (応用微生物学・応用分子細胞生物学)
る諸問題と解決、それに付随する新たな学問
体系の成立について考え、総合生存学につい
する過程で、我々は数多くの微生物とその多
そのための基礎的な教育研究を行っている。
Yasuyoshi Sakai
京都大学大学院農学研究科 教授
経 歴
1982 年京都大学農学部農芸化学科卒業。1984 年京都大学大学院農学研究科修士課程修了、1988 年農学博士 ( 京都大学 )。
日本学術振興会特別研究員、京都大学助手( 農学部)
、1994 年京都大学助教授、2005 年より現職。この間、1996 年から
1997 年まで文部省在外研究員として University of California, SanDiego,(Department of Biology)に客員研究員としてカ
微生物の多様な潜在能力を利用する諸問題の解決と総合生存学
講義概要
様かつ高度な機能に出くわすことになった。
まだ道半ばであるが、微生物にはまだまだ利
て考えてみたい。
その一方、顕微鏡の発明を発端に多くの細胞
用されていない未知の秘めた機能が潜在して
我々をとりまく環境はもとより、我々の体
構造の詳細が明らかになり、ワイン生産にお
い る こ と、 今 後、 ど の よ う な 問 題 を 設 定 し、
著論文 155 報など。
内にも多種多様な微生物が生息している。そ
ける現場からの問題を明らかにする過程でパ
微生物をどのように利用していくか、さらに
性があるか、について論じてみたい。
にどのような新しい学問体系が生まれる可能
そのためにはどのような技術が必要か、さら
ス ツ ー ル は 酵 母 を 見 出 し、 発 酵 現 象 を 化 学
のレベルで解明することから 生
“ 化 学 、” 微
生物の遺伝メカニズムの解明から 分
“ 子生物
医薬・生命
31
学 な
” ど、現代生物学における大きな潮流を
生み出すことに微生物は大きな貢献をしてい
る。身近な暮らしに見られる自然現象の関わ
阪井 康能
チンや治療薬剤によって撲滅または封じ込め
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
32
医薬・生命
人類の脅威としての感染症︱医学と社会学
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
治療薬物が発達する前の近世に人類は如何
に成功した感染症は実は限られており、新興
Masao Mitsuyama
国境を越える感染症(伝染病)のグローバルな理解
講義概要
感染症(特に重症伝染病)の歴史的背景を
にして伝染病に対処したかを知る中から、本
未だに衰えが見えない西アフリカのエボラ
来的な感染症対策に、先端医学ではないプリ
再
• 興感染症は増加している。
感染症への対応は狭い医学領域の問題にと
俯瞰することにより、地球上の人間活動の進
ミティブな公衆衛生学的対処法のなかに、感
どまらず、グローバルな観点での対応が必要
出血熱にみられるように、伝染病は過去の病
染症に対応する上での重要な基盤があること
である。その意味で、専門領域は異なっても、
歩と自然環境の変化などが如何に感染症の流
を理解する。さらに、
近代医学の発展に伴い、
グローバルな対応に貢献できる可能性は大き
気ではなく、今でも世界の脅威である。ワク
感染症への対応がどのように変化し、そのこ
く、またその過程では、余地技術や検査診断
行や伝播に関わったかを理解する。
とが新たな感染症の問題を生じてきたことを
法の開発、治療に役立つ新規創薬、ワクチン
なく発生するので、広範な智と技術の集中が
国境を越える感染症は先進国、途上国の別
る。
開発などへの企業の関与が益々要請されてい
認識する。
それらを通して、今後の感染症の動向が極
めて重大なグローバルイッシューであること
の認識を新たにし、どう対処していくべきか
を考える機会を提供したい。
必要であり、それによる新規の対感染症戦略
の構築は人類に大きな福音をもたらす。
光山 正雄
経 歴
1973 年九州大学医学部卒業、医師免許取得。3 年間の内科臨床経験の後、九州大学医学部細菌学教室にて病原細菌学の研
究を開始し、1978 年同教室助手、医学博士号取得。1980 年同講師。1981 年から 1983 年まで米国政府給付国際奨励研究
員(Fogarty fellow)としてハーバード大学医学部に留学し感染免疫学の研究に従事。1983 年帰国後九州大学医学部細菌学
助教授。1987 年新潟大学医学部細菌学講座教授。1998 年京都大学大学院医学研究科感染・免疫学講座微生物感染症学分
野教授。2008 年~ 2010 年京都大学医学研究科長・医学部長。2013 年 3 月定年退職。京都大学名誉教授。2013 年 4 月よ
り現職。2014 年 3 月総合生存学館副学館長として現在に至る。2015 年 4 月より、京都大学白眉センター・センター長およ
び京都大学次世代研究創成ユニット・ユニット長を兼任。細胞内寄生性細菌の病原因子の分子微生物学、感染防御免疫学を
専門研究領域とし、思修館ではグローバル感染症学・生体防御学を担当。日本細菌学会、日本免疫学会、日本生体防御学会
各役員、日本感染症学会、日本結核病学会会員。米国微生物学会、欧州微生物学連盟正会員、日米医学研究協力計画パネル
メンバー、日本学術会議連携会員。1999 年小島三郎記念文化賞受賞。2009 年浅川賞( 日本細菌学会最高学術賞)受賞。
著 書
専門領域での著書・英文原著論文多数。
京都大学こころの未来研究センター教授 センター長
経 歴
1954 年北海道苫小牧市生まれ。1971 年、父の転勤に伴い、苫小牧東高等学校から成蹊高等学校( 東京都武蔵野市)に編入
学。1973 年京都大学文学部入学、1975 年教育学部に転入学。1977 年京都大学教育学部卒業。1979 年京都大学大学院教
育学研究科教育科学専攻修士課程修了、1982 年京都大学大学院教育学研究科教育科学専攻博士課程満期退学。博士( 教育学)
京都大学。1982 年追手門学院大学文学部心理学科助手、1985 年同講師、1989 年同助教授。1989 年~ 1990 年英国ノッティ
ンガム大学客員研究員。1997 年京都大学教育学部助教授。2002 年京都大学大学院教育学研究科教授。2007 年こころの未
来研究センター教授。センター設置時からセンター長を務め、現在 4 期め。国際心理学誌『Psychologia』Editor。文部科学
省科学技術・学術審議会臨時委員、研究計画・評価分科会委員、先端研究基盤部会委員、研究開発プラットフォーム委員会
委員、大学設置・学校法人審議会( 大学設置分科会)専門委員、研究成果展開事業「 センター・オブ・イノベーションプロ
グラム」構造化チーム委員、京都市社会教育委員。専門分野は認知心理学・認知科学で、顔や表情認識に関する研究を行っ
てきた。
著 書
共著『 こころの謎・Kokoro の未来』
(2009 年)共編著『 よく分かる認知科学』
(2010 年)分担執筆『 認知心理学ハンドブッ
こころの学際研究
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
Sakiko Yoshikawa
「つなぐ」価値と学際研究の未来に関する考察
講義概要
こころの研究といえば心理学や脳科学、と
そうした中で、人に関わり、人を育て、人
引きこもり、うつ、コミュニケーション障
2007 年 に 京 都 大 学 に 設 置 さ れ た こ こ ろ
を支える仕事に就いている人たち(教育関係
考 え が ち だ が、 宗 教 学、 精 神 医 学、 経 済 学、
の未来研究センターは、そうした広い学問領
者、医療専門職など)が必要としている「こ
害など、現代社会にはこころに関わる困難な
域に開かれた学際研究の場として設計され、
ころの知」は、心理学、脳科学などの先端の
人類学、そして情報学も、人間のこころのは
多くの研究プロジェクトを実施するとともに
科学的知見、人類学や宗教学などから得られ
問題が多い。
さまざまな形で社会発信を行ってきた。本講
る「人間観・こころ観」、さらに、それらを日々
ク』
(2013 年)分担執筆『 ゆとり京大生の大学論』(2013 年)など。
たらきと密接につながる研究を行っている。
義では、センターで行っているさまざまな学
こ こ ろ の 学 際 研 究 は、「 こ こ ろ の 知 を 身 に
の仕事に結び付ける実践の知である。
近 い も の を 取 り 上 げ、
( 1) 学 際 研 究 を 育 て
付け実践するための学び」として社会に提供
際研究の中から、私自身の専門領域や関心に
る 方 法、
( 2) 実 社 会 と つ な ぐ し く み、
( 3)
する必要がある。そうした試みの実例につい
ても授業の中で取り上げたい。
学際研究の「場」の重要性という観点から考
察したい。基礎研究(認知科学や脳科学)と
実践(発達障害児の作業療法、心理相談)を
医薬・生命
33
結びつけた研究例やそうした研究の意義につ
いても議論する。
吉川 左紀子
衛星リモートセンシング
災害監視や環境計測においては、地上での
必要がある。
シング技術の体系的な利用方法を考えておく
策を講じることができるよう、リモートセン
模災害に備えて、迅速に被害状況を把握し対
今後予想される南海トラフ地震などの大規
を計測することが可能である。
象(例えば地盤の液状化や微少な地殻変動)
より、写真判読では捉えることのできない現
磁波(赤外線やマイクロ波)を用いることに
また、人間の眼では知覚できない波長の電
されている。
56
34
情報・環境
地球観測衛星による災害監視と環境計測
講義概要
期的に観測したデータを用いて、環境変化や
観測に加えて上空からの観測を行うことによ
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
災害被害を迅速に把握することができるた
り、迅速に全体像を捉えることができる。例
衛星リモートセンシングは、広い範囲を定
め、災害監視、環境計測、地図製作などの分
には十数年間の測量作業が必要であったが、
えば、伊能忠敬の時代に日本地図を作製する
本講義では、衛星リモートセンシングの基
近年ではスペースシャトル搭載のレーダーに
野で広く利用されている。
本的な原理を説明した後、主として災害監視
度
よる
60
度の範囲のディジタル標高図が作成
10
~南緯
日間ほどの観測データから、北緯
と環境計測の分野における最近の利用例を紹
介する。
年間程度の間にどのよ
さらに、日本の地球観測計画を概説したう
えで、わが国が今後
うな地球観測を行うべきかを考える。
10
田村 正行
Masayuki Tamura
京都大学大学院工学研究科 教授
経 歴
1974 年東京大学工学部計数工学科卒業。1976 年同大学大学院工学系研究科計数工学科修士課程修了。同年国立公害研究
所( 現、国立環境研究所)入所。環境計測、環境モデリング、環境リモートセンシングなどの研究に従事。1990 年より 1
年間フランス Maine 大学客員研究員。1998 年より 2004 年まで筑波大学社会工学系教授併任。2004 年より京都大学大学
院工学研究科教授。2007 年より 2012 年まで京都大学大学院地球環境学堂教授併任。研究分野:画像処理・リモートセン
シング等を利用した環境変化・自然災害の観測解析手法の開発。工学博士。
『 資源・環境リモートセンシング実用シリーズ第 5 巻:地球環境データの利用』
( 共著)資源・環境観測解析センター(2005
著 書
年)
、
『 環境を守る技術』
( 共著)読売新聞社(1991 年)など。
Liang Zhao
京都大学大学院総合生存学館(思修館) 准教授
経 歴
1995 年中国清華大学応用数学系卒業。同年 9 月から 1996 年 7 月まで龍谷大学日本語別科で語学を勉強。1996 年 8 月か
ら 1997 年 3 月まで京都大学大学院工学研究科研究生。1997 年 4 月から 1999 年 3 月まで同研究科数理工学専攻修士課程。
1999 年 4 月から 2002 年 3 月まで京都大学大学院情報学研究科数理工学専攻博士課程、博士( 情報学)。2002 年 4 月から
2006 年 3 月まで宇都宮大学工学部情報工学科助教。2006 年 4 月から 2014 年 3 月まで京都大学大学院情報学研究科講師。
2014 年 4 月から現職着任。2013 年 3 月から 2014 年 2 月までドイツカールスルーエ工科大学(KIT)訪問。専門は情報学基
情報学基礎、組み合わせ最適化、アルゴリズム
趙亮
情報処理手法の最先端研究に迫る
変えようとしている。これは単にプロセッサ
礎、組み合わせ最適化、アルゴリズム。アカデミック研究のほか、フリーソフトウェアの作成や普及活動に参加。
講義概要
革命と言われる情報革命( ICT
革命とも言わ
れる)がこの世界を根本から変えようとして
が速くなったというようなハードウェア的な
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
い る。 成 功 の カ ギ は、
「ユビキタス」で代表
進歩のみからなるのではない。おもてに出て
農業革命、産業革命に続いて、いま第三の
する情報環境と「ビッグデータ」で代表する
いないが、様々な情報処理手法によるソフト
わ た し の 最 近 の 研 究 で は、 Amazon
や
行に大いに貢献できると考えている。
れば、現行ビジネスモデルのクラウドへの移
そのためのアルゴリズムをうまく確立でき
方法を考えている。
、 Microsoft
といったサービス提供会
Google
社が出しているクラウドサービスの効率利用
ウェア的な進歩も同様に重要である。
周知のとおり、情報革命は世界を根本から
情報処理手法の革新にあると考えられてい
る。この講義は、総務省がまとめた「平成
年度情報通信白書」
(参考文献1)を参考に
情 報 革 命 に つ い て 概 説 し、 さ ら に 主 題 に も
なっている基礎研究を中心に情報処理手法を
系統的に紹介し、最新の研究課題とその裏に
ある数理的手法に迫る。
講義の目的は、意思決定の際に役立つオペ
レーションズ・リサーチ(OR)の分野を理
解し、問題解決のための常用手段を把握する
ことである。
情報・環境
35
26
人工知能
で、現在結実している技術と近い将来実現さ
た情報通信技術と対照しながら俯瞰した上
工知能研究の発展の様子を、その土台となっ
す る。1956 年 の 本 格 研 究 開 始 以 来 の 人
会に組み入れるビジョンを培うことを目的と
て理解し、今後の進展を予測しつつ、人間社
通信技術のもつ力をその発展の歴史に基づい
い。本講義では、人工知能に代表される情報
はそれほど広く理解されているとは言えな
ているが、その歴史、本質、光と影について
を与える技術の源泉として社会の注目を集め
展し続ける情報通信プラットフォームに価値
代表される人工知能研究は、冪のオーダで発
の Self︱driving car な ど に
る。人工知能技術の進展で、 データ処理の法 則
のデザイン、評価、改良など の上位レベルに な
流れの一部を担うこと、あ るいは、業務フロ ー
の 生 成、 検 証、 配 信、 消 費 な ど、 デ ー タ 処 理 の
によって少しずつ自動
Internet of Things (IoT)
実行可能になっていく。人 間の役割は、デー タ
ン、高信頼化が必要な業務フローの基幹部分は
は次第にデータ化され、無 休運転、コストダ ウ
り、人間社会を支えるコーポレーションの業務
会の確立の段階では、情報通信技術の発展によ
社会への移行が進みつつある時代であ
す る AI
ると特徴づけることができる。テクノロジー社
技術によるサービスの複製と高度化を中心と
AI
し た テ ク ノ ロ ジ ー 社 会 が 確 立 さ れ る と と も に、
現在はデータに支えられたサービスを中心と
36
情報・環境
人工知能の歴史、本質、発展の方向
講義概要
れるであろう技術の本質およびそれが人間社
性が見出され、少しずつ自動化されていくにつ
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
会に与え得るインパクトについて講述し、こ
れ、これまで人間社会を支えてきた人間の仕事
Siri、 知 能 ロ ボ ッ ト、Google
れからの発展の方向について議論する。
は義務的なものではなくなり、そこに意義を見
出す人たちが自発的に行う活動に変わっていく。
他方、人間社会に新しい意味を作り出すことが
仕事の中心になり始める。
西田 豊明
Toyoaki Nishida
京都大学大学院情報学研究科 教授
経 歴
1980 年京都大学工学部助手、1988 年京都大学工学部助教授、1993 年奈良先端科学技術大学院大学教授、1999 年東京大
学大学院工学系研究科教授、2001 年東京大学大学院情報理工学系研究科教授を経て、2004 年 4 月京都大学大学院情報学研
究科教授、現在に至る。情報学、とくに人工知能の研究教育に従事。日本学術会議連携会員(2006 年~)、人工知能学会会
長(2010 ~ 2011 年度)
、情報処理学会フェロー、電子情報通信学会フェロー、日本学術振興会学術システム研究センター
主任研究員(2010 ~ 2012 年度)。JST CREST「 共生社会に向けた人間調和型情報技術の構築」研究領域総括(2014 年~)。
AI & Society 誌 Associate Editor, New Generation Computing 誌 Area Editor(Cognitive Computing)。
『 自然言語処理入門』オーム社(1988 年)、
『 定性推論の諸相』朝倉書店(1993 年)、
『 人工知能の基礎』丸善(1999 年)、
『イ
著 書
ンタラクションの理解とデザイン』岩波書店(2000 年)、“Dynamic Knowledge Interaction” CRC Press(2000 年 , 編著)、
『 エー
ジェント工学』
( 共著)オーム社(2002 年)、“Conversational Informatics” John Wiley( 編著 , 2007 年)、
『 社会知デザイン』
(共
著)オーム社(2009 年)
、
“Modelling Machine Emotions for Realizing Intelligence” Springer( 編著 , 2011 年)、
“Conversational
Informatics” Springer( 共著 , 2014 年)など。
京都大学大学院総合生存学館(思修館)教授
経 歴
1990 年京都大学工学部交通土木工学科卒業後、京都大学工学研究科環境地球工学専攻修士課程時に日本ブラジル交流協会
を通じてサンパウロ大学で研修(1991 年)
、サンパウロ大学工科大学院(EPUSP)修士課程修了(1994 年)。京都大学博士
( 工学)
(1999 年)
。財団法人国際湖沼環境委員会研究員(1997 ~ 1999 年)、国連環境計画(UNEP)協力企画官(1999 ~
2001 年)
、京都大学工学研究科助手(2001 ~ 2004 年)、日本大学理工学部講師・准教授(2004 ~ 2008 年)、東京大学理
学部講師( 非常勤、2007 年)
、海洋研究開発機構招聘主任研究員(2008 ~ 2013 年)、京都大学防災研究所准教授(2008
~ 2013 年)
、同大学院総合生存学館准教授(2013 ~ 2014 年)などを経て現職。国連環境計画(UNEP)、世界水アセスメ
ント計画(WWAP)
、国連教育文化機関国際水文プログラム(UNESCO-IHP)などとともにラプラタ川流域ワークショップ
を開催( 第 3 回~第 5 回)し、南米 MELCOSUL 地域を舞台に活動を行なうとともに、国連地球環境監視システム淡水部門
(GEMS/Water)
のアドバイザーなどを務める。JICA-JSPS 専門家派遣にてブラジル国立宇宙研究所気象気候予測研究センター
(INPE-CPTEC)に派遣、サンパウロ大学サンカルロス校客員教授となる(2010 年)
。地球規模課題対応国際科学技術協力
プログラム(SATREPS)を通じてクロアチア国の土砂災害防災計画に関わる。水環境学会技術賞(2001 年)、水文・水資源
学会論文賞(2014 年)などを受賞。現在、国連世界水質アセスメント(WWQA)タスクフォースメンバー。
37
情報・環境
地球水質源評価
Yosuke Yamashiki
水惑星地球の水資源評価
水の惑星地球と言われるが、地球上に存在
講義概要
的条件について焦点をあて、他の地球型惑星
する現実の水と、我々が求めている水、そし
世の中をどのように変えるのか、
どんなインパクトがあるのか
との比較を通じそれぞれの惑星の大気による
て我々の社会が理想とする水資源についての
地球が水惑星として誕生した地球惑星科学
温室効果の比較、また暴走温室効果や雪玉地
認識には大きなギャップがある。
我が国だけを見ていると、現在の世界の状況
球形成条件から水惑星として存在しうる条件
また地球史の学習を通じて海洋と大気の形
が理解しづらい。さらに我が国には水を介し
また、海洋に囲まれて年間降水量が大きい
成条件と,海洋循環や水文循環プロセスがも
た公害病である水俣病や、福島第一原発事故
について紹介する。
たらす気候安定効果について学び,そのシス
題点の理解を進めるとともに、 UN Water
に
おける世界水質アセスメント計画の議論や世
に関する汚染水問題もある。
同 時 に 国 連 持 続 可 能 な 開 発 目 標 (SDGs)
で
現在議論されている水に関する問題に焦点を
界各国の水資源の状況を踏まえて、水惑星地
テムが機能しなくなった際の極端事象につい
当て、現代文明を支える水と世界の人々から
球に生きる我々の将来を担うために必要な政
本内容を理解することにより、これらの問
求められる水について、様々な専門家の議論
策について学ぶ。
て紹介する。
と合意形成の過程を紹介する。
山敷 庸亮
伝統文化・伝統芸能
本プログラムでは、様式を学ぶだけの文化
を学びとっていただきます。
感性を育て、物事の本質を見極める意識と力
を行います。
五感を通して学びを得ることで、
伝統文化・伝統芸能の匠による講義・体験
とにも代表されるように、日本が蓄積してき
を生み出したスティーブジョブズが
iPhone
度々日本を訪れ、禅を取り入れようとしたこ
化や芸術との融合をはかろうとしています。
せ 始 め た 今、 経 済 界・ 産 業 界 が、 再 び、 文
そ し て、 産 業 資 本 主 義 が 次 第 に 綻 び を 見
(五十音順)
庭園 森本幸裕 京都大学名誉教授
関根秀治 裏千家事務総長
茶道 千玄室 裏千家大宗匠(前家元)
書道 杭迫柏樹 北斗会主宰 日展理事
仏教 北野大雲老師 長岡禅塾
華道 池坊由紀 華道池坊次期家元
講 師 京の地で日本の伝統文化・芸能の継承者たちからその神髄を学ぶ
およそ二千年もの間、熟成されて続けていま
教室に留まるものではありません。自然と人
た文化・伝統は、欧米を中心とした多くのイ
す。
工物とが交差する点。
伝統と革新をつなぐ線。
ノベーションの担い手たちを魅了し続けてい
講義概要
心と技術が出会う場。そこに直に身を置き、
ます。
日 本 の 伝 統 文 化・ 伝 統 芸 能 の 真 髄 に 触 れ、
日本文化・日本芸能に基づいた新たな世界観
について議論を交わします。
感性を育て、時代を読む力と時代を創る力を
世の中をどのように変えるのか、 育てるには、京都の地が最も適していると言
どんなインパクトがあるのか えるでしょう。
伝統とは、古の様式を守り続けるだけのも
のではなく、常に革新をつづけ、時に時代を
牽引し、時に警鐘を鳴らし、常に人の心の拠
り所として、
毅然として継承されてきました。
歴史を振り返ると、世界的には時の政権が
変わるたびに前時代の文化は排斥され、油絵
のように上から塗り替えられてきましたが、
日本においては継承・融合を成し遂げなら、
38
芸術
Learninng Environment
東の大通りから一本入った静かで閑静な学びの舎
橘会館(旧総長官舎)
講義の実施は、京都大学構内にある橘会館(旧帝国
大学総長官舎、1911 年竣工)で行います。
橘会館は、およそ 100 年の歴史の中で度々改修さ
れ、全て原型で残っているわけではありませんが、現
在の形に至っても、そこかしこに歴史の趣きを感じら
れます。
本プログラム(京都大学エグゼクティブ・リーダー
道路に面した歴史の趣き深い正門
シップ・プログラム)では、細分化された学問の根本、
根っこにさかのぼり、本質をつかむことを目的として
います。
そのことからも、100 年という歴史をさかのぼり、
現代の礎となった先人たちの息吹を感じられるこの学
館は、京都・日本の本質を感じ、学問の本質を掴み取
るにふさわしい場といえるでしょう。
正面正門は、鞠小路通に面し、往来は穏やかであり、
静かで集中できる環境となっています。
本施設は、本プログラムの専用学舎として改装を
明治大正のレトロを感じる廊下と内装
行っております。正面玄関は ID パスによりオートロッ
クシステムを導入し、内部施設は、冷暖房、WiFi イ
ンターネットの完備など学習に最適な状態になってお
ります。
講義室・談話室・お庭など、広くて自由度の高いス
ペースを利用できますので、講義後の熟議や討論など
にも最適な学舎となっております。
またプログラム受講生は、開講日以外にも本学舎に
て、学びの時間を過ごしていただけるよう、事務局に
て手配させていただきます。
天井スペースが大きく広がる講義室
庭を望み、心落ち着く畳敷きの講義室
庭を見渡せる、陽光明るい二階の講義室
Access Map
橘会館(旧総長官舎)までのアクセス方法について
出町柳駅
今出川通
百万遍
鴨川
第四錦林小学校
東一条館
(総合生存学館本館)
西部構内
本部構内
東一条通
川端通
京阪電鉄鴨東線
芝蘭会館別館
川通
旧白
京都大学 ELPs 事務局
鞠小路通
~
~
稲盛財団記念館
風の子
保育園
医学部構内
医学部図書館
近衛通
薬学部構内
~
~
神宮丸太町駅
丸太町通
熊野神社
京都駅より市バス 206 系統「京大正門前」下車
阪急河原町駅から市バス 201 系統,31 系統のいずれかで「京大正門前」下車
地下鉄東西線東山駅から 市バス 206 系統,201 系統,31 系統のいずれかで「京大正門前」下車
旧白川通りを南西へ徒歩 5 分
電車で橘会館へ来られる場合
京阪 出町柳駅から徒歩 10 分
専用駐車場はありません。周辺のパーキングをご利用いただきますよう宜しくお願いいたします。
住所
〒 606-8306 京都市左京区吉橘町1 橘会館内
お問合せ窓口:075-753-5158
近衛通
~
~
病院構内
バスで橘会館へ来られる場合
お車で橘会館へ来られる場合
吉田南構内
総合生存学館(思修館)
研修施設
京都ドイツ
文化センター
京都バス荒神橋
芝蘭会館
京大正門前
東大路通
橘会館
本屋
京都大学 E LPs 事務局
〒 606-8303 京都市左京区吉田橘町 1 橘会館内
TEL:075-753-5158 / FAX:075-753-5154
URL:http://www.gsais.kyoto-u.ac.jp/elp/
Email:[email protected]