報告書

生活困窮者を放置しない
地域づくりのために
食料支援と
中間的就労支援を
独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業
目次
....................................................................................
WAM助成による「食のセーフティネットによる困窮者支援事業」の概要 ............... - 3 フードバンク事業について ........................................................ - 4 生活困窮者支援制度の課題 ....................................................... - 10 食べ物を作り出しながら助け合う「共生経済」の社会を.............................. - 11 -
一般社団法人
SAVE
〒020-0866
岩手県盛岡市中野 1-10-31
TEL
IWATE
019-654-3523
※このページ、あるいは「フードファーム事業」や「生活困
窮者支援フォーラム」
「支援員スキルアップ勉強会」につ
いてのお問い合わせは、阿部知幸・伊勢志穂まで
【巻頭言】
「幸せ感」の向上を目指した生活支援を
NPO法人くらしのサポーターズ
副理事長
吉 田
直
美
■ 幸せを構成する3要素
「人は何のために生きているのか」と問われれば、当然の如くそれに統一した答えはなく、人
によって様々であろう。このように生きる目的意識は千種万様ではあるが「幸せを希求すること」
は、生きる目的として多くの人が望むものではないだろうか。
しからば幸せとは何か。この答えも人それぞれであろうが、当法人が生活に困窮する方の支援
をする中では、多くの方に共通していると思われる「幸せを構成する要素」として次の 3 つがあ
るのではと意識している。
① くらしの基盤が安定している・・・衣食住の安定的確保
② 自己肯定感・有用感があるくらし・・・社会や家族の中に居場所と役割がある
③ 信頼感、連帯感、
”愛”に囲まれたくらし・・・家族(のような人)や仲間が身近にいる
これらの 3 つの要素がそろった時に多くの方が「幸せ」のスタート地点に立つと仮定し、生活困
窮者に対する個別支援では、これらの要素をその人なりにどのように実現するか、オーダーメイ
ドの支援計画を立て、その実現を当事者とともに二人三脚で目指していく。そして、結果として
当事者の「幸せ感」が向上することを大きな目標と据えて支援をしているところだ。
3 つの要素を充足させ、幸福感を向上させていくことは、当事者だけの努力では到底なしえない。
当事者が住む地域社会との協調・連携が必要不可欠である。このように、生活困窮者に対する支
援は個別支援に留まっていては不十分で、当事者の幸せの要素を充足するために地域を巻き込ん
で、創造的かつダイナミックな地域づくりも同時に展開していくことだと考えている。
■ 「食のセーフティネットによる困窮者支援事業」における幸せ感を向上させる仕組み
このような支援上のニーズ感に対応するため、当法人では本事業に参画している。本事業には、
当事者の幸せ感を向上する要素があちらこちらにちりばめられ、地域を巻き込んで展開されてお
り、当法人が目指す、生活困窮者の個別支援と地域づくりを実践しているからだ。
幸せの要素①であるくらしの基盤を安定させるためには一般的には日々現金が必要となるが、
例えばひきこもり気味で他者との関係構築が難しい当事者にとっては、一般就労によってそれを
得ることは相当ハードルが高い。まずは本事業で実施しているフードファームに参加し、役割と
居場所と仲間を得て、要素の②と③を充足してから①のための就労に挑戦する、といった活用が
出来る。フードファームは行政を始め、支援者のみならず、地域の人々の協力があってこそ成り
立つ。そして、当事者のみならず、支援者や地域の人々もフードファーム事業を通じて社会参加
し、自己肯定感・有用感を得たり、仲間との信頼感・連帯感を得ているのだ。また、遊休農地の
活用、緊急的な食料が必要な方への供給等地域社会の困り感も当事者の困り感とともに解決しう
る、Win-Win の関係性で成り立っているところにも大きな意義がある。
-1-
■ 生活困窮者自立支援制度実施には連携・協働が不可欠
2015 年 4 月から始まる「生活困窮者自立支援制度」も、個別支援に留まらず、このような地域
づくりも同時に実施していくといったこれまでの「制度」とは一線を画す創造性が求められてい
るところに特徴がある。食のセーフティネットによる困窮者支援事業はこの制度を先取りして取
り組んできたと言ってもよい。そして、これまでの活動から新制度における留意点や課題も見え
てきている。特筆すべきものとして次の二点を指摘したい。
① 新制度を円滑に実施するには、地域の多様な関係者がつながる必要があること
② 新制度の実効性を高めるためには、地域において社会的包摂理念を広める必要があること
①については、複合多問題を抱えた当事者に対する支援として言わずもがなであるが、これま
でも各種制度で同様のことが言われながらも、その広がりは限定的であった。この反省に立ち、
新制度においては実施機関が責任と役割を持ち、連携・協働のコーディネートをしていくことで、
当事者を困らせている様々な問題・課題に対し、横断的・包括的な支援が実現できると期待され
る。私たちの活動においても、新制度の実施体制構築にあたって行政や他の関係団体との協議の
場に参画してきたが、ラウンドテーブルにつき、それぞれの立場を理解しながら共通の問題意識
を共有し、困っている当事者のためにどのような体制にすべきか議論を進める中で関係団体間の
連帯感の向上を感じることができた。特に行政との間で、フラットでフランクな意見交換ができ
たことは有意義であった。新制度の実施にあたっても、このような関係性を維持しながら、行政・
関係団体とも役割分担をし、円滑な支援を実施できれば望外の喜びである。
②については、前述のとおり、新制度が射程に入れているのは個別支援のみならず、個別支援
を通じた地域づくりであり、双方を実効的に進めるためには、関係者のみならず、地域住民の社
会的包摂理念の広がりが不可欠であると考えている。つまり、
「困っている人が地域に多くいれば、
困っていない人も困るような事態に陥る。だから困っている人をほっとかないで支援の手を差し
伸べよう。それが困っている人のためでもあり、手を差し伸べた人のためにもなる。
」という意識
を関係者のみならず、広く地域の人々に広げ、その意識を源泉にすることは新制度の円滑な実施
と実効性の向上に資するのではと考える。食のセーフティネットによる困窮者支援事業において
は、フードファームやフードドライブ活動、シンポジウム開催等を通じて、それらを先行実践し
ており、このノウハウと達成感を地域の関係者や人々に伝えていく役割を担っていると理解して
いる。来年度も、このような意識啓発活動を意識的に実施し、社会的包摂の理念が地域に広がり、
新制度が実効性あるものになることに協力を惜しまない姿勢が必要だ。
■ 包摂とは「世界がぜんたい幸福に」なること
これまで述べてきたことを郷土の人、宮澤賢治の言葉を借りて総括するならば、
「世界がぜんた
い幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ない」ということかもしれない。普段は目の前の
個々の幸せにばかり目がいってしまうが、そもそも地域社会全体が幸せでない中で、個々人それ
ぞれが全員幸せになることはできないだろう。であるならば、個人の幸せとともに、個々が暮ら
す基盤である地域社会の幸せも併せて考えていこうということだと考える。現に困っている人の
みならず、地域の人々の幸福感の向上を目指すことを私たちの活動の軸とし、個人も地域も幸せ
な地域づくり実現のために、これからもできること、気がついたことから、他の関係者と協調し
ながら取り組んで行きたいものだ。
-2-
WAM助成による「食のセーフティネットによる困窮者支援事業」の概要
■ 目的
生活困窮者支援団体の連携強化と、市民や企業の協力を拡大し、支援の輪を広げる。
■ 事業
① 市民や企業から提供された食品を生活困窮者への食料支援とする「フードバンク」を実施する。
② 被災者食料支援を目的とした「フードファーム」の仕組みを定着させる。
③ 支援者のスキルアップと、市民の理解を深め協力を得るためにフォーラムを開催する。
④ 知識や技能の学習と県内団体の連携強化のための「支援員スキルアップ勉強会」を実施する。
■ 事業の実行委員会構成
委員長
小島進(農産物小売店「ちいさな野菜畑」経営者)
委員
くらしのサポーターズ、いわてパノラマ福祉館、岩手県青少年自立支援センター「ポラン
の広場」
、盛岡ユースポート(以上、NPO法人)、これからのくらし仕事支援室(NPO
法人が運営するパーソナルサポートサービス事業所)からそれぞれ1名。
■ 結果
① フードバンクへの協力(2014 年 10 月 24 日~2015 年 1 月 31 日)
事
柄
団体
企業
個人
量
食料品の寄付に協力
3 団体 830.0kg
5 社 5326.0kg
45 人 683.9kg
6839.9kg
食料品の配布に協力
11 団体 5270.8kg
0社
1 人 23.2kg
5294.0kg
6 団体
3社
-
-
パンフレット配布・ポストの設置
※「特定非営利活動法人フードバンク岩手」の登記は 2015 年 1 月 19 日。
ボランティア登録者は 15 名。
② フードファームの参加者人数とその後の社会参加状況(2015 年 2 月 28 日現在)
5 月~11 月は週に 1 回、12 月~3 月は 2 週に 1 回程度の農作業を行っている。
実施回数 31 回、参加者 39 名(延べ 450 名)。うち 11 名が就労等により、今年度で卒業。
③ 生活困窮者支援フォーラムについて
2014 年 11 月 15 日 盛岡市勤労福祉会館にて開催。
佐藤博さん(厚生労働省生活困窮者自立支援室)
、相原真樹さん(釧路社会的企業創造協議会)、
菊地孝子さん(藤里町社会福祉協議会)、吉田直美さん(くらしのサポーターズ)
、宮寺良光さ
ん(岩手県立大学)によるパネルディスカッションと参加者を含めた意見交換を行った。
行政、生活支援団体関係者など 85 名が参加。
④ 支援員スキルアップ勉強会について
H26 年 7 月 29 日
中間就労支援・
新坂正章さん
就労準備支援
新田真紀さん
9 月 30 日
一時生活支援
11 月 16 日
H27 年 1 月 27 日
いわてパノラマ福祉館
参加 16 名
鈴木和樹さん
POPOLO
参加 14 名
釧路での実践
相原真樹さん
釧路社会的企業創造協議会
参加 11 名
藤里での実践
田中麻留子さん
藤里町社会福祉協議会
参加 11 名
家計管理支援
藤澤俊樹さん
いわて生活者サポートセンター
参加 11 名
-3-
フードバンク事業について
■ なぜ食料支援が必要か~生活保護ではカバーしきれていない経済的困窮
2014 年版「国民生活基礎調査」によると、相対的貧困率が 16.1%となり、約 6 世帯に 1 世
帯が相対的貧困層に属しています(「貧困線」は 2012 年の時点で 122 万円)。相対的貧困率の
上昇の理由として、非正規雇用の拡大やひとり親家庭の増加などが考えられます。
厚生労働省の試算では、世帯所得が生活保護基準以下
の世帯に対する被保護世帯の割合である保護世帯比が、
相談に来るのはどんな方ですか
フロー所得のみの場合 23.8%または 29.6%(2007 年全国
(生活支援員座談会-1)
消費実態調査より試算)です。単純に計算すると 6 軒の
貧困世帯中 4 軒が「生活保護を受給せず、何とかやりく
りしながら」生活をしていることになります。
収入のあてもないまま時間だけが経てば「心の問題」
が生まれたり、悪化する可能性が高いと言わざるを得ま
せん。生活困窮に陥ってしまった方々が生活再建を実現
するためには、支援者との信頼関係を築き、今後どうし
ていきたいのかを考える時間が必要です。
フードバンク(食料支援)は、その時間をつなぐため
---相談に来る方の何%位が食糧支援の対
象ですか?
吉田:
「あすくら」に来る人の 5%くらい
だと思います。
阿部:今時点で 13%を切っている位で
す。明らかに生活が苦しいのに、食糧
支援を断っている人もいて、そういう
人も含めれば 15~16%になるんじゃ
ないかな?
山口:今は 27~8%。高いのには理由が
あって、先月にホームレスの人が 5~6
人、相談に来たので。
---相談に来るのはどんな方ですか?
のツールだと私たちは考えています。
■ フードバンクの仕組み~フードバンク岩手の実践
1. フードバンクとは何か
いただきものや買いすぎてしまったもの、何らかの理
由で流通にのらないものなど保管されたままの食品を寄
付してもらい、地域の生活困窮者や児童・障がい者施設
などに届ける活動、またはその活動を行う組織を「フー
ドバンク」と言います。1960 年代に合衆国で始まった運
動で、日本では 2002 年に初のフードバンクが結成されて
います。
フードバンクは下記等の理由から日本各地で広がって
います。
① 現在の制度の枠からこぼれてしまう生活困窮者に
食料を渡せる。
吉田:現金を稼ぐのが苦手な人たち。あ
と、金銭管理も苦手な人が多いです。
もともとそういうのが苦手な人たちに
対して「すべては自己責任」とは言え
ないですよね。
阿部:震災で働けなくなった人は少ない
と思います。聞いてみると「震災前か
ら十何年、働いていない」とか、手帳
は持っていないけれど、障がいの疑い
があるとか。以前のように「仕事のミ
スマッチ」で働けないという方はもの
すごく減りました。性格はおっとりし
ていて、競争が苦手な人が多いように
思います。
山口:最近は「介護破産」の高齢者が多
いです。盛岡の施設の標準月額は 13
万 7 千円なんですけど、それくらいの
年金をもらっていないと蓄えがあって
も底をついてしまうんです。若い人は
減りましたね。壮年層以上の方々が多
いです。
吉田直美(あすからのくらし支援室)
山口貴伸(これからのくらし仕事支援室)
阿部知幸(SAVE IWATE)※以下も同様
② 食品ロスの低減。
③ 廃棄コストの削減。
-4-
2. フードバンク岩手の取組み
WAM(独立行政法人福祉医療機構)から助成を受けた「食のセーフティネットによる困窮
者支援事業」の実行委員会が主体となり「NPO法人フードバンク岩手」を設立(2015 年 1 月
19 日登記)しました。
(〒020-0887 盛岡市上ノ橋町 1-50 岩繊ビル 3-7 電話 019-654-3545 [email protected])
【フードバンク岩手の仕組み】
農 家
個 人・団 体
企 業
食品の寄付、ボランティア
フードファーム
他地域の
フードバンク等
フードバンク岩手
野菜の提供
食品のやりとり
情報交換
食品提供
行 政
生活困窮者支援団体
児童支援施設
シェルター、更正施設
生活困窮者、その支援者
【寄付の募集をしている食品】
未開封で賞味期限が1ヶ月以上あるものを常時受け付けています。
① 穀類(米、麺類、小麦粉等)
② 調味料(みそ、醤油、マヨネーズ等)
③ 保存食品(缶詰、瓶詰、インスタントやレトルト食品等)
④ お菓子類、海苔やふりかけ等ご飯にかけるもの
⑤ 粉ミルクや離乳食
※アルコール類と漬け物など自宅で作ったものは受け付けていません。
現在は保管設備がないため、冷凍・冷蔵品や野菜(主に根菜類)等の寄付は事前にご相談が
必要です。また、寄付をいただく際にこちらから取りにうかがうことはしていません。よほど
大量でない限り、事務所までお持ちいただくか宅配便等で送っていただいています。
【食品提供をうけるためには】
フードバンク岩手は下記の団体、個人に食品提供を行っています。
① 生活困窮者支援団体
② 児童支援施設、シェルター、更正施設 等
③ 生活困窮者、その支援者
-5-
万が一、寄付をした食品が転売されたり賞味・消費期
限切れになってから渡されてしまえば、寄付をしていた
だいた企業等と消費者との信頼関係を壊してしまうこと
につながります。そこで、食品提供を受ける団体・個人
には右の確約書を書いていただき、寄付をしていただい
た方々に迷惑がかからないようにルールの厳守をお約束
いただいています。
【フードドライブ】
フードドライブとは、期間を決めて食料品の募集キャ
ンペーンを行うことです。企業や市民に広く食品の提供
を呼びかけると共にフードバンクの活動を知っていただ
くため 2014 年 11 月 17 日~12 月 20 日に行いました。
食品を寄付するための箱(ポスト)
やパンフレットを店舗や会館などに置いていただき、フードバンクへの協
力を呼びかけました。
また、企業や団体内で一旦食品を集めてから、フードバンク岩手まで持
ってきていただくやり方もお願いしました。
食品寄付の受付は 10 月 24 日から開始していたのですが 11 月頃から私た
ちの活動が新聞に報道されたこと、フードドライブの呼びかけが少しずつ
浸透していったこと等から、食品の寄付が徐々に増えていきました。フー
ドドライブ終了後も「新聞を見た」と事務所を尋ねてくださる方も多く爆
発的に広がったというよりは、息の長い活動になりつつあります。
フードドライブポスト
【入出庫実績
2014 年 10 月 24 日~2015 年 2 月 8 日】
月別入庫量
年月
14 年 10 月
14 年 11 月
14 年 12 月
15 年 01 月
15 年 02 月
1
1.2
8
352.6
24
813.1
25
5672.96
2
1699.3
件数
量(kg)
計
60
8539.16
入庫内容
分類
米
ミルク等
菓子類
生活品
20
6
10
2
5
4
2
1
2
2
1
5
4020.5
31.2
4338.7
1.9
14.8
2.8
12.1
3.16
46.7
5.0
10.0
52.3
件数
量(kg)
麺類
おかず ふりかけ等 調味料
お茶類
飲料
青果等
混合
月別出庫量
年月
件数
量(kg)
14 年 11 月
8
384
14 年 12 月
10
394.3
15 年 01 月
15
4515.7
出庫先
団体
件数
量(kg)
15 年 02 月
1
1677
計
34
6971
※その他は養護施設、被災児童支援団体等
もりおか あすからの
ふうどばん
セカンド
これからの
共生地域
盛岡市
復興支援
くらし
く東北
ハーベスト その他
くらし仕事支援室 創造財団
社協
センター
支援室
AGAIN
ジャパン
8
7
5
3
3
2
2
4
235.1
239.1
776.0
5169.0
25.0
135.0
100.4
291.4
-6-
フードドライブパンフレット
-7-
【フードバンク開設に必要なもの】
来年度から始まる「生活困窮者自立支援事業」に
は住居確保給付金しか給付制度がありません。しか
し「今日食べるものすらない」と相談窓口にやって
来る人もいます。このような人たちに対応するため
には、少なくとも各都道府県に 1 つはフードバンク
が必要です。倉庫などは遊休施設等の活用もあるか
と考え、金額ではなく用意すべきものを以下に記し
ます。
① 倉庫、事務所(光熱費・通信費含)
。
ボランティアによる仕分け作業
② パンフレット(私たちは 5 ヶ月で約 6,000 枚使用)。
専従職員を置かず、食品を事務所まで持っていただく形式にすれば、以上で開設は可能です。
しかし、長期的に活動を続けていくためには、専従職員やその他の活動費がいります。
また、物ではありませんが必ず確保しておかなければならない事があります。
① (食料支援は一時的な措置なので)その人達の生活を立て直すために奔走する生活相
談支援員。
② 必要としている人たちに食品を届けるルート。
食料支援を受けた方の反応は
(生活支援員座談会-2)
③ ボランティア、協力者。
④ 若干の資金。
---食料支援の効果って何ですか?
※岩手県内のみなさまには私たちが用意したのぼりやポストの
貸し出しをいたします。
■ 食料支援の効果
~金銭支給では得られない「人と人とのつながり」
1. 食料支援は生活相談の「ツール」
生活相談支援の現場にいる人たちが挙げる食料支援の
効果は下記のものです。
① 所持金がない相談者に、すぐに食料を提供できる。
② 信頼関係ができる。
③ 相談に定期性を持たせることができる。
④ 食料支援を行っていることを知ってもらえれば、新
山口:信頼関係ができますよね。
吉田:食べ物がないっていうのは相当困
っている状態。食料支援って「オアシ
ス」みたいなものですよ。
山口:もう絶望してね、何言われてもふ
てくされて誰とも接触したくないっ
ていう人がね、うちはおにぎりにして
持っていくんですけれど、もう大概は
「ぽろぽろ」来ちゃう。
吉田:身の回りにそういうことをしてく
れる人がいない人が多いかも。
阿部:お金って色々な形で使えるから、
便利は便利なんですけど、でも「借金
払わないと」とかってなっちゃうでし
ょ?食べ物は「今、自分のためだけに
来た」って感じが強いと思う。
---「大事にされてる感」がある?
しい相談者が来訪する。
⑤ 手土産として持参すると、場が和む。
食料支援の第一義は「現金給付が受けられない人たちの
生活を支えるもの」です。しかし、食べ物を介することに
よって、生活困窮者は相談員との関係を「支援する側とさ
れる側」というよりももっと親密なもの、例えば親しい友
人関係に近いものと感じるようです。これは良いことです
が、一歩間違えると甘えにつながる可能性もあります。
-8-
吉田:特に、米のまま渡すよりおにぎり
を渡した方がそう思うよね。人の温か
さと思いが入っている。
山口:生活保護費が入るのとはちょっと
違うと思いますよ。お金が入っても
「孤独な生活」には変わりがないだろ
うし。大切なのは「関係性」
。
吉田:「これは誰かが支援してくれた食
べ物だ」っていうのも大きいかも。
食料支援はあくまでも一時的なものです。根本的な解決
食料支援で注意すべきこと
のためには、生活困窮者が現状を直視し、課題を把握し、
(生活支援員座談会-3)
生活再建に取り組む計画を立て、その実現のために一歩足
を踏み出すことです。食料支援はそれを自覚する時間を作
り出すものとして支援計画に組み込み、期間を区切って行
うことが大切です。
2. 寄付する側の「もったいない」と「ありがとう」
食品を寄付してくださる方々は、大きく分けて「困って
いる人に届けたい」と「余っているからもったいない」の
2 つです。
食品の寄付に参加してくださる方々のキャパシティは
私たちが想像しているよりも大きいかもしれません。広報
を充実させ、フードバンクが行っていることや、生活困窮
者の置かれている状況を更に多くの方々に伝えることが
できれば、もっとたくさんの方が食品の寄付にご協力いた
だける可能性があります。寄付にご協力いただいたみなさ
まと継続的な関係を築くために、フードバンク岩手の活動
や生活困窮者の状況、声などを伝えていく予定です。
■ 今後の課題~システムの維持のために
ここまでに述べてきたように、フードバンク活動は生活
困窮者のセーフティネットとなり、生活相談にも役立つば
---食料支援を行うのはどのくらいの期
間ですか?
山口:一週間単位で渡します。相談とあ
わせて。生活を立て直すために「次ど
うするか」決まるまでですね。
吉田:うちは原則一回限り。食料支援が
問題の解決を遅らせることになって
はいけない。
阿部:うちは 3 ヶ月単位で更新する。た
だ「被災者支援の物資はもうすぐなく
なりますよ。だから、今のうちに考え
ましょうね」という話をして、覚悟は
促していっている。
吉田:いずれ一時的ですよね。
山口:食料だけあっても現金がなければ
ライフラインがとまってしまうので、
食料支援は問題解決までのチャンス
の時間を作ることだと思っています。
現物で渡しているので流用はされな
いから、そういう意味ではお金を渡す
より良いかな、と。
阿部:まず「生活をどういう風にしたい
のか」という目標設定があって、それ
までの間に食料支援をすると言うこ
とです。
吉田:「おめぐみ」とか「施し」ではな
くて「生活を立て直すきっかけ」なん
だよね。そして支援員にとっては「関
わるチャンス」なんだと思う。
かりではなく、市民や企業が参加しやすい形態の活動です。
しかし、活動の存続のためにはいくつかの課題があります。
① 財政基盤が弱く、専従職員や事務所の維持が困難である。
→フードバンク自体はあまりお金をかけずに行える活動で、地方自治体単位でも地域福祉の
課題として取り組めるものです。市民行政の協働としての財政基盤の確立が必要です。
② 寄付をしていただく食品に偏りがある。
→集まる食品は地域の特性がでます。農業県である
岩手では、農産物は集まりやすいのですが、工場生
産品は常に不足気味です。これは全国のフードバン
ク団体との連携を強め、食品のやりとりをすること
で解決していけます。
③ 岩手県の広さゆえ県内数カ所に拠点が欲しい。
→急な要請にも対応するため、フードバンク活動を
より多くのみなさんに知っていただくために必要
です。
小口の寄付食糧品
-9-
生活困窮者支援制度の課題
■ 生活困窮者自立支援制度の問題点
新年度から始まる生活困窮者自立支援制度は「生活保護に至る前のセーフティネット」として
作られました。私たちはこの制度が生活保護制度を補完するものになることを願っていますが、
すでにいくつかの問題点があると感じています。
1. 給付が住居確保給金のみであるため「今日食べるものがない」人たちに対応できない
生活困窮者の中には、本当にぎりぎりの状態になるまで何とか自分で頑張ってしまう人がい
ます。こういう方が自立相談支援の窓口を訪れる時には、所持金がほとんどありません。
少なくとも食事は保障するために、食料品の現物給付等を国の制度として行うべきです。
2. 必須事業(自立相談支援、住居確保給金)と任意事業(就労支援準備事業、一時生活支援
事業、家計相談支援事業、学習支援事業)に分けられ、任意事業は実施義務がない
自立相談だけで生活困窮者の抱える問題を解決するのは困難です。相談を行うことで課題が
明確になっても、その課題を解決するためには就労前の訓練をしたり家計の管理について学ぶ
必要があります。緊急的に住む場所を必要としている人もいます。
「必須事業」「任意事業」と分け、補助率も変えてしまったがために、相談に来た方へ必要
な支援が準備できない可能性が高くなっています。
3. 国庫補助事業のため、自治体予算の持ち出しが生じ、補助率が低い事業ほど実施されない
可能性が高い
財政が苦しくない自治体はありません。任意事業の必要性を理解していても財政的な理由で
二の足を踏む自治体は多いだろうと推測されます。
■ 生活困窮者自立支援制度の不足分を補い、より良い制度にするために
1. 経験交流や連携によって制度の不足分を補い、3 年後の制度改正でより良い制度に
制度に懸念があるからこそ、不足する部分を官民協働で補う必要があります。また、民間団
体間でも、現時点で実施出来る最良の支援を用意するために連携、協力を強めなければなりま
せん。
生活困窮者自立支援制度は 3 年後に見直しをする予定です。この 3 年間の経験を通じて制度
の改革案を出せるように準備をしていきましょう。
2. フードバンク、フードファームはわずかな資金で実施可能
この冊子で紹介した「フードバンク」や「フードファーム」は、多額を要せず実践でき、か
つ、生活困窮者自立支援制度の不備を埋めることができます。また、「フードドライブ」は、
多くの市民に生活困窮者の実情を知ってもらい、自分のできるところで気軽に支援に参加がで
きるものです。
このような取組みは「助け合って暮らす地域をつくる」という地域福祉の観点を根付かせる
ことにつながります。
できるだけ多くの方が、自分の住む地域でこれらの取組みを行って下さるよう、期待をして
います。
- 10 -
【巻末によせて】
食べ物を作り出しながら助け合う「共生経済」の社会を
食のセーフティネットによる困窮者支援事業
実行委員長
小島 進
(ちいさな野菜畑)
9.11 のビルに衝突する飛行機、1.17 の横倒しになる高速道路やビル。3.11 の大津波と原発。現
代の人々は、目に見える形で、衝撃的な事象を目にしてきた。
その映像は、強烈なインパクトで「世の中の虚しさと物質文明の脆さ」を多くの人にトラウマ
のように植え付けた。高度な情報技術は、人々の目をグローバルな世界にのみ向けさせた。しか
し、ふと気づくと地域社会がないがしろにされてしまっていて、将来の不安を増大させた。
「成長の先にある確実なものが何か?」が見えない不安の時代。
そんな時代のような気がする。
足元を見なおして一歩一歩確実に足を進めることが必要だとわかっていても、では、その「足
元」とはなにか?
今、
「足元」とは、時間を金に変えていることだ。だから人は仕事の効率ばかりを気にする。
人間は、食べ物を食べて生きている。食べ物を入手するには「育てるか、カネを払うか、奪い
取るしか無い」と言う人が居た。
奪い取るというのは言語道断であるが、カネを払うにしても地方においては、働いて金を入手
する場所や手段がない。また育てるにしても、その栽培技術と農作業機械設備がない。
昭和 30 年代、多くの中学生が就職列車に乗せられて農村をあとにして都会に向かった。機械化
により農作業に人が要らなくなり、ますます地方に人がいなくなった。そして科学技術の発達と
化石燃料の増大によって、農業の効率化と合理化が促進された。そこには、都会から地方へのお
金の還流システムがあった。
ところが、その世代がリタイアする頃、社会は世界を目指すグローバルな方向へ向かった。そ
して今、都会には人が溢れ、地方には人がいなくなった。
そしてピークオイルにより、農業の将来も見えなくなってきた
石油漬けの現代農業は、種も肥料も農薬も、機械も燃料も、輸送手段も、すべて枯渇する化石
燃料が主役であった。そこには技術はあっても、技がない。
本来の農業は地域の技である。地域独自の土作りや、地域の自然と共にある作業の体系、伝統
野菜の継承、そして地域の道具を使う技の集大成である。
食べ物を購入して生きてゆく貨幣経済よりも、地域は食べ物を作り出しながら助けあう共生経
済を目指すべきではないか?
それは個人個人が技を身につけ、助けあいながら分け合うという働く喜びを感じることができ
る、新しき地域社会の創造である。私たちの小さな実践が、その第一歩となることを願っている。
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