越生町 山吹の里歴史公園にて 撮影N・A 巻頭言 けるあらゆる情報を統合的に管理・分析することによっ 教学IR(Institutional Research) て、客観的な根拠に基づいて成果を評価し、意思決定 行う国内の認証組織として、日本医学教育認証評議 していく活動を指します。IR のうち、大学における教育 会(JACME)が立ち上がります。国際的には世界医学 教育連盟(WFME)があり、世界各国の認証組織の認 定を行っています。JACMEがWFMEから国際基準に 基づく医学部の分野別認証ができる組織であることを 認められると、わが国においてもいわゆる「医学部の 国際認証」が本格的に始まるのです。 そこではアウトカム基盤型教育と並んで、医学教育 の自律的な改善のプロセス、つまり医学教育の質保 証のためのPDCAサイクルが機能していることを「根拠 に基づいて示す」ことが重要なポイントになっていま 「 医学部の国際認証」受審に向け まもなく、国際基準に基づく医学部の分野別認証を す。 活動版が「教学 IR」と呼ばれています。教学 IR は教育 機関における入学から卒業、さらには卒業後のデータ までを対象とし、それを根拠に教育活動を評価し改善 に役立てようとするものです。 本学においても、2014 年度から学長を委員長とする IR委員会が立ち上がり、教学IRの活動を開始しました。 医学部のデータの管理・分析は医学教育センター教 育情報部門が担当しています。各方面のご協力をいた だきながら、来るべき「医学部の国際認証」の受審に向 けた準備を進めてまいります。 しいばし みちお 医学教育センター教育情報部門長 椎橋 実智男 (医学部教授 情報技術支援推進センター) 近年、IR(Institutional Research)という言葉が注目さ れています。直訳すれば「機関研究」であり、機関にお -1- CONTENTS ◆巻頭言 ········································································································ 医学教育センター教育情報部門長 椎橋 実智男 ··········1 ◆医学部 医師国家試験結果報告 ········································· 医学教育センター卒前医学教育部門長 持田 智 ··········2 ◆保健医療学部 国家試験結果報告···················································································· 保健医療学部長 加藤木 利行 ··········3 ·······························································································································医学部 1 年臨床入門 UD 補佐 柴﨑 智美 ··········4 ◆卒業生からのメッセージ ··············································································· 国際医療センター初期研修医 滝本 磨理香 ··········5 ······································································································ 埼玉県立小児医療センター臨床工学技士 本田 杏子 ··········5 ◆医学部 1 年臨床入門 小中学校教育体験実習(2014 年度) ◆私はなぜこの道を選んだか 「我が母校 埼玉医大万歳!」 ··································································································································· 医療法人相木病院 理事長 相木七良右ェ門 ········6 ◆書籍紹介『A Spy in Their Midst』 ·················································· 医学部教授基礎医学部門微生物学 赤塚 俊隆 ··········7 ◆コラム「時代の眼」·········································································································埼玉医科大学名誉教授 宮路 太 ··········7 ◆ 2014 年度 第 9 回臨床医学生認定式 ················································································································ ····· ······························ ··········8 ◆内外動向ウォッチ·································································································· 医学教育センター客員教授 大西 正夫 ··········8 医学部 医師国家試験結果報告 も ち だ さとし 医学教育センター卒前医学教育部門長 持田 智 (医学部教授 大学病院消化器内科・肝臓内科) 第109回医師国家試験は2015年2月7日から9日にか 影響したものと推定される。不合格になった10人は、卒 け実施され、出願者9,356人のうち9,057人(96.8%)が受 業試験の成績が全員67点以下であり、最下位での卒業 験した。その結果は3月18日に発表され、8,256人が合 生であった。また、1月に受けた予備校の模試成績を見 格した。合格率は80校全体では91.2%、新卒者に限ると ると、これら学生は卒業内定後に十分な勉強をしていな 94.5%、私大29校ではそれぞれ90.6%と94.0%であった。 かったと考えられる。医師国家試験前に旅行に行く卒 今回の合格率は過去10年間で最高、合格者数も最多 業内定者もいるとの噂を聞く。本学の合格率が良好な であった。 ための慢心によって、他学との競争に敗北してしまった のであろう。 2011年並みに戻った新卒合格率 卒業試験合格後も定期試験で引き締め 埼玉医科大学は新卒109人が出願し、全員が受験し て、99人が合格し、新卒合格率は90.8%であった。既卒 2015度は卒業試験後に6年生が受講する「総合学習 は6人が受験し、4人が合格したが、いずれも前年(第 ユニット-B」で定期試験を実施することにした。医師国 108回)の不合格者であった。この結果、新卒と既卒の 家試験の過去問を試験管理室で監修し、1月中旬に試 総計115人が受験して103人が合格、全体での合格率 験を実施する。これで65点をとらないと卒業試験に合格 は89.6%であった。本学の新卒合格率は第106~108回 しても、内定は取り消しになる。このシステムの採用で、 は98.9%、100%.97.1%と良好であったが、今回は第105 6年生は卒業試験後も勉学を続け、受験者全員の合格 回の88.5%並みの不本意な成績になってしまった(図 達成を期待する。 1)。 今回の試験の特徴は、出願したが受験しなかった学 生が多かったことである。私学29校で新卒の出願者に 対する受験者の比率を見ると、第109回は93.9%で第108 回の95.7%、第107回の95.5%より低率であった。今回、 新卒合格率が100%の某私立大学は出願者に対する合 格者の比率が75.2%で、全国80大学で最低である。 一般問題と臨床実地問題は [平均-1.5×標準偏差] が合格基準であり、相対評価の競争試験であることか ら、他学における受験生の絞り込みが本学の合格率に -2- 保健医療学部 国家試験結果報告 か と う ぎ としゆき 保健医療学部長 加藤木 利行 各種資格の国家試験合格率で、昨年は看護師、臨 を維持しております。 床検査技師の新卒合格率が100%を達成し、とりわけ看 常に合格率100%目指し優秀な学生確保 護師では既卒も全員合格という快挙を成し遂げました。 いずれの学科においても合格率は常に100%を目指 各種国試で合格率に明暗 し、好成績を維持することが、本学への受験生増加、ひ 残念ながら今年は、看護師(新卒のみ)では88人中2 いては成績優秀な学生の入学につながると思います。 人が不合格となり、97.7%の合格率でした。保健師は93 人の受験者全員が合格しました。臨床検査技師は新卒 64人中12人が不合格という、一昨年以来の不振でした (81.2%)。健康医療科学科既卒者の合格率が悪いことは 積年の問題ですが、本年も18人が受験して3人のみ合 格でした。このため新卒・既卒全体の合格率は67%と、 全国平均の82%に遠く及ばない結果となりました。 国試の出題傾向と授業内容の比較検討や、国試対 策授業などで教員は毎年工夫を凝らすなど努力をして おりますが、学年による差異というものは1年生から卒業 まで付いて回るように感じます。本年度の問題点をいち 早く検討して次年度に向けた対策が必要です。既卒者 は卒業から時間が経つにつれ対応がますます困難に 図1 国家試験合格率の推移(新卒) なりますから、本年度の新卒不合格者に対する手当が 新卒 重要と考えます。 理学療法士は新卒53人のうち4人が不合格で、合格 率92.5%でした。全国平均は89.1%なので例年どおり全 国平均を上回っております。既卒は3人中1人の合格で したが既卒を含めた全体の合格率も良好です。臨床工 学士は34人受験し、3人が不合格でした。既卒は4人の 受験が把握されていますが、合格は1人でした。既卒を 含めた合格率は84.2%で、全国平均の83.2%をかろうじて 上回りました。 各資格の新卒合格率の推移を図1に示しました。臨 床検査技師の合格率は不安定で浮き沈みが激しい傾 既卒 受験者数 合格者数 受験者数 合格者数 看護師国家 試験 87 85 0 0 保健師国家 試験 88 88 5 5 臨床検査技 師国家試験 64 52 18 3 臨床工学技 士国家試験 34 31 6 2 理学療法士 国家試験 53 49 3 1 向にありますが、ほかの3部門では安定した高い合格率 図2 2015年各種国試結果 医学教育センター新任教員の紹介 2015年4月1日付けで、医学教育センター 資 格 氏 名 資 格 氏 名 センター長※ 荒木 信夫 講 師 荒関 かやの 副センター長※ 土田 哲也 助 教 鈴木 智 医療学部看護学科教授として異動されまし 教 授 森 茂久 助 手 大西 京子 たので専任教員は9人(センター長、副セン 教 授 山田 泰子 助 手 佐藤 義文 准教授 加藤 仁 助 手 高橋 美穂 准教授 有田 和恵 助 手 齋藤 恵 准教授に加藤仁先生が就任されました。 2015年4月1付けで辻美隆准教授が保健 ター長は兼任)となります。 -3- 医学部 1 年臨床入門 小中学校教育体験実習(2014 年度) しばざき さとみ 医学部1年臨床入門UD補佐 柴﨑 智美 (医学部准教授 地域医学・医療センター) 医学部1年生の臨床入門実習の一環として、小中学 校教育体験実習を2014年10月から15年1月まで、毛呂 山町の毛呂山小、光山小、毛呂山中、川角中の4つの 小中学校で実施(表を参照)した。 7項目の実習目標掲げ 実習目標は①児童生徒との良好なコミュニケーション を図る、②教育技法や教育者の姿勢・思いを知る、③青 少年の発達過程、頻度の高い疾患、課題を知る、④保 健指導を実践する、⑤地域を知る、⑥社会の期待に気 小学校での保健指導の様子 づき、医学生とし ての自覚を持つ、 ん、スポーツとけが、虫歯予防など、中学校では禁煙と ⑦小中学生の がん、かけがえのない命、といった発達段階や各学校 キャリア教育に貢 の行事に合わせたものとした。学生たちは、1週目と2週 献する―の7つ。 目の間に指導案をつくり、実習担当教員のチェックを受 上記期間の金曜 けた上で実習に臨んだ。 学生と子どもたち共に双方向の体験 日午後の約2時 保健指導「喫煙とがん」の説明資料 間、2 週 に わ た り 実習終了後に学生が提出した自己評価によると、保 各クラスの授業に 健指導の準備で、「相手に伝わるよう意識した」が73%、 指導の場面では「相手の反応を意識」「相手の反応に 参加し、子どもたちの学習支援に取り組んだ。 応じて指導した」が89%と、聴く側の立場に立って指導 小学校では休み時間に一緒に遊び、中学校では合 を行った様子がうかがえる。 唱の練習を一緒に行うなど、小中学生の日常に触れ 指導を受けた中学生からは、喫煙とがんの話に、「将 た。この中であらかじめ指定されたテーマについて、2~ 来たばこは吸わないようにしたい」「家に帰って親に話し 4人のグループに分かれ、保健指導を行った。 たら、すごいねといって感謝していた」「親の喫煙をやめ テーマは表のように小学校では、早寝早起き朝ごは てもらうように頑張る」など、話をよく聴き、自分に置きか 2014年度 1年臨床入門実習 日程・テーマ一覧 日 程 実習 グループ 中学校 中学校では、医大生が医学部を志した動機などを生 徒に伝える時間を設け、学生と生徒のコミュニケーショ 小学校 ンの場面を増やすなどの配慮をしてくださった。 10月3日 4/5限 早寝早起き 朝ごはん Eグループ 10月17日 4/5限 学生たちには、就学時健康診断の見学や実際の保 健指導の準備を通して予防医学的な取り組みが地域で 10月31日 4/5限 Aグループ 11月28日 4/5限 12月5日 4/5限 Bグループ 喫煙とがん (2年生) スポーツとけが (1年生) 12月12日 4/5限 12月19日 4/5限 Cグループ 喫煙とがん (2年生) Dグループ 生命の誕生・か けがえのない命 (1年生) 1月12日 4/5限 1月19日 4/5限 1月26日 4/5限 えて考えることができていたようだ。 保健指導テーマ 必要であると実感する様子も見られた。 スポーツとけが このような触れ合いとも言うべき実習体験で、医学生 早寝早起き 朝ごはん と地域の小中学生が双方向に作用して学び合う体験の 感染症予防 教育について考え、将来医師となるために欠かせない 重要性、子どもとの接し方、良いところをのばすための 沢山の糧を得たことが実感としても伝わってきた。 感染症予防 毛呂山町教育委員会並びに小中学校の先生方、児 童生徒の協力に感謝申し上げたい。 虫歯予防 -4- 卒業生からのメッセージ たきもと まりか 国際医療センター初期研修医 滝本 磨理香 (2014年医学部卒) 当院は、「研修先にする 研修も早いもので2年目を迎えました。「国際」を冠する には専門性が偏りすぎて ことからも医療水準の質をさらに向上すべく、今年2月 いるのではないか」とよく言 国際病院評価機構(JCI)の認証を受けました。 われます。確かにがん、心 このような高い医療水準を保つ当院は、各診療科に おいて日本トップレベルの手術件数を誇り、外科志望 の私にとっては魅力的でないはずがありませんでした。 内科、外科共に日本最大級の症例数、世界に引けを取 らない最先端医療を行っていることが一番のアピールポ イントでしょう。 ハイレベルの病院で学べる得難い充足感 2014年3月に本学を卒業し、国際医療センターでの 臓 病、脳 卒 中、救 命 救 急 の4つで構成されており、 専門性に特化しています。 しかし、日本人の3大死因 に対する専門的治療を しっかり学べることは、仮に それらの診療科に将来行かなかったとしても大きな糧に なると思いました。 当院にない診療科に関しては他の2病院を研修で き、研修への偏りは全くありません。逆に他の2病院に所 属する研修医が当院に研修しに来ることもよくあり、そう いった意味ではお互いの病院のいいとこ取りができるの もこのプログラムの特色です。 今後、卒業後の研修を通じて、皆さんが学生時代に 思い描いていた理想の医師像に一歩ずつ日々近づけ るよう、心より応援しています。 麻酔科研修の様子(筆者中央) ほんだ きょうこ 埼玉県立小児医療センター臨床工学技士 本田 杏子 (2015年保健医療学部医用生体工学科卒) 3年次の病院実習を体験して小児の分野で働きたい した。新しい環境と憶えなければいけない業務量の多さ に戸惑いつつも、先輩方に指導していただきながら、充 実した毎日を送っています。 臨床では大学で学んだ知識だけでは通用せず、もっ と幅広く深い、そして実践的な知識を身につけなければ ならないと強く実感しています。でも、そのベースは、や はり大学で学んだ内容だと思います。なので、学生のう ちから1つでも多くの知識を身につけていけるように、講 義や実習に意欲的 に取り組んでみてく ださい。 そ し て 何 よ り、今 弓道部顧問の北村邦男先生と一緒に (後列右端が筆者) 同じ目標に向かう仲間との時間を大切に と思い、埼玉県立小児医療センターへの就職を決めま 身、就 活 や 国 家 試験など、不安で 心が折れそうにな る局面が何度もあ りました。それでも 最後まで諦めず に頑張ることがで 卒業式の日、医用生体工学科の皆と(前 き た の は、同 じ 目 列左から3番目が筆者) 標に向かう仲間が いたからだと思います。同じ目標に向かって4年間を共 に過ごした仲間は、卒業してからも自分に刺激を与えて くれる大切な存在だと思うので、一緒に過ごせる時間を 大切にしてください。 努力したことは絶対に無駄にはならないと思います。 一緒に過ごしてい 自分の夢や理想を実現するためにも、その時にできるこ る人たちとの時間 とを精一杯力を尽くしてください。皆さんの学生生活が を大切にしてほし 楽しく充実したものになることをお祈りしています。 いと思います。私自 -5- 私はなぜこの道を選んだか あいき しちりょうえもん 医療法人 相木病院 理事長 相木 七良右ェ門 (初代同窓会長) 「私はなぜこの道を選んだか」と問われると、えっ! ここからが一からの出発です。 ドキっとして、戸惑いと同時に選ばせていただいたという 入学後、泰然自若として風格に のが正直なところであります。私はいわゆる団塊の世代 満ちた丸木清美先生(理事長)の で、生まれは、幸福度日本一で知られる福井県でありま 「良き医師になるには、まず社会 す。風光明媚、人心穏やかな所ではありますが、それで 人としての教養と常識を学べ」と も小中高時代は1学級50~60人の詰め込み教室、先生 のお言葉、さらに、哲学者のよう 方とのバトルはもとより、校内暴力、いじめなど当たり前 に威巌に満ちた学長・落合京一 の中、妙にたくましく育ちました。 郎先生の「医学とは不確実な情 報しかない状況の中で、時には目の前の患者さんの生 早稲田で学園紛争を体験 昭和40年代前半当時は、「戦後は終わった」との掛け 死を分ける決断をしなければならないことがある。日々 越えの下、期待と不安の混沌とした、しかしなぜか、ワク 真剣に生き、君たちは一生勉強することが勤めだ」との ワクする希望に満ちた時代でもありました。その中で私 お言葉が、今でも心の中に鮮明に残っています。 は、性格的なものだとは思いますが、大学進路を学部 こういった先生方から受けた薫陶を時々思い出しな で決めず、政治、経済、文化の中心地である“花のお江 がら、郷里の越前市で臨床医としての仕事を通じ、少し 戸”へ行きたいとの強い思いで、何が何でも東京の大学 でも社会に貢献できれば、と奮闘しております。 伸び伸びと医学生時代を謳歌 を目指し、少しは真面目に勉強し、あこがれの伝統校で 何といっても上級生がいない1期生ですから、苦労な ある早稲田大学理工学部に合格しました。 これで東京遊学ができるぞ、と大いに楽しむべく上 どありません。むしろ特権です。まじめな現役生、元教 京。ところが学園紛争真っただ中で、入学許可が4月 師、元大学院生、元サラリーマン、野武士のような30過 に、学長訓辞の文書が9月に郵送されてくるというありさ ぎのおじさんたちなど多士済々、興味津々の連中ばか までした。 りでした。 我々の世代は、あまり学生運動に関わらなかった人も 学業もさることながら一番打ち込んだのは剣道でし 含め、「オレは全共闘世代だ」と口ぐせのように言いたが た。昭和58年から平成19年まで初代同窓会長として動 るようです。その頃には私も「いちご白書」ではありませ き回りましたが、たかが同窓会、されど我らが日々、男の んが、ノンセクト・ラジカルのリーダー気取りで、学生集 本懐でしたね。 “今、井戸水を飲む者は、時にその井戸を掘ってくれ 会にも出かけ、デモにも参加し、日米安保条約の中身、 た人に思いを致せ”の言葉を贈ります。 単独講和と全面講和の違いもわからないくせに、革命 だ、社会主義だ、資本主義だ、などと深夜まで口角泡を 飛ばし、議論していたものです。 しかし気がつけば、革命家気取りだった友人のほとん どは、私の背中に足跡を1つ2つ残し、長い髪を切ってヒ ゲを剃り落とし、背広に着替え、階段でも昇るかのように 企業戦士として巣立ってしまいました。5年在籍して3年 生というていたらくであった私は、途方に暮れておりまし た。 1972年に転機 本学1期生に しかし、世の中には奇特な方がおられるようで、ゼミの 先生から「君は基礎的な研究には向いていないが、臨 1976年東日本医科学生総合体育大会・剣道の部で優勝した私 にとって大切な1枚。最前列左から、顧問の平塚照夫保健体育助 教授、丸木理事長、落合学長、松下良司第一外科教授(肩書き はいずれも当時)。剣道着姿だけの後列左から3番目が筆者。 床医として現場に出るならば、がんばれるかもしれない」 との温かいお言葉と共に、推薦状をいただいて、本学の 1年生になっておりました。1972年5月の頃です。 -6- 書籍紹介コーナー あかつか としたか 医学部教授 赤塚 俊隆 (基礎医学部門 微生物学) 『A Spy in Their Midst 』 日本兵と戦った日系二世の太平洋戦争秘話 Richard Sakakida & Wayne S. Kiyosaki, Madison Books $22.95 1995年初版 米国FDA(食品医薬品局)で 8年近く研究生活を送るうち、同 じアパートに住むロシア系ユダ ヤ人Billと知り合いになった。あ る 時 彼 か ら こ の 本 を 紹 介さ れ た。ハワイ生まれの日系二世R. Sakakida氏の実話である。 一般市民として会社で働いて いた彼が、米軍の情報機関で 働くことになり、日米開戦直後日本軍に占領されたフィリ ピンで捕えられ、厳しい拷問を受けながらも生き延び、 数々のスパイ活動を行い、生還を果たす話である。しか いの複雑な感情であふれている。戦後46年を経過して ようやく重い口を開いて語られたことをW. Kiyosakiが本 にまとめている。英語の本で分からない単語も多いが、 構わず読み飛ばすことをお勧めする。 これを紹介したBillもまた、日本語通訳として米軍に 従軍し、沖縄戦で上陸後、多くの日本兵や避難した住 民と接したらしい。日本語を思い出したいと言って私た ちに接してきたのに、実際には私たちに英語を教えるこ とに熱心だったのは、異国人同士が言葉を交わす重要 性を人一倍感じ、伝えたかったのかも知れない。彼がア パートを去る時、遺品のように当時の沖縄の写真を沢山 残していった。 しこれは単なる武勇伝ではない。同じ日本人の血と言 語を共にする者同士が、敵として向かい合った時の互 障害児に光を コ ラ ム『時代の眼』 みやじ とおる 埼玉医科大学名誉教授 宮路 太 ンターに勤務している。入院患者 は重症心身障害児・者で、患者 数は日本でも3本の指に入る。第 2光の家は、患者のほとんどが成 人で強度行動障害を持つ人が 多い。 私がこの施設のレベルの高さを実感した出来事があ る。自分の便で遊んでいる患者を目の前で見てびっくり した時に、看護師、介護士たちが直ちに体を洗い、何 事もなかったかのように新しい衣服を着せたのだった。 一見すると当然のようだが、これほど統率がとれた行動 を素早くできるには非常に高い介護レベルが必要とさ れると思われた。神は細部に宿るというが、ひとつひとつ の小事をきちんと行うには、大きな裏付けが必要であ る。患者に対する思いやり、介護の技術の結晶を見た 思いがし、この施設で働けることの幸せを感じた。 光の家のもう一つの大きな役割は発達障害支援セン 光の家療育センターに高い介護技術の結晶を見る思い 2014年4月から光の家療育セ 病に対処することは小児科・精神科にとり大切になって いる。この疾患の一番の問題は、親が子どもを育てにく いと感じ、非常なストレスを抱えることである。一方、子ど もたちも自分たちの事を理解されないと感じてストレスを 抱えている。光の家では、医師が診断し、作業療法士、 心理士、指導員らがチームとなって治療にあたってい る。このことにより、親子が明るくなり、今後の見通しを持 てることは社会にとって大きな貢献である。 私たち小児科医は、乳幼児健診の場で発達障害の 疑いのある子どもを診ることがあり、発達障害支援セン ターに依頼できることは幸せなことであると実感してい る。今後も光の家療育センターの発展を願うとともに、一 小児科医として入院患者と外来患者のために役立てる ように努力を重ねていきたいと考えている。 1972年千葉大学医学部卒業。同大小児科研修医、埼玉医 科大学小児科研修医を経て、トロント小児病院周産期科留 ターである。発達障害は自閉症、注意欠陥多動性障害 学。帰国後、埼玉医大小児科助手、講師、准教授、教授。 などを含んだ疾病である。対人関係の障害、反復行動 一貫して新生児医学を専門とする。2014年より、光の家療 などを特徴とするが、最近患者数の増加があり、この疾 -7- 育センター勤務、埼玉医科大学名誉教授。68歳。 2014年度 第9回臨床医学生認定式 2015年3月28日(土)、創立30周年記念講堂(日高 キャンパス)にて第9回臨床医学生認定式が挙行されま した。式典には認定される学生120人の他、教職員36 人(毛呂山キャンパス:25人、川越キャンパス5人、日高 キャンパス6人)、保護者83人、SP会13人、在学生1人 が出席しました。 内外動向ウォッチ 『卒後教育委員会主催・後援学術集会の直近講演から 』 おおにし 医学教育センター客員教授 白衣を手渡される学生たち(左側の列) 特別講演の様子 別所学長と共に まさお 大西 正夫 範な医療職や教職員を対象に、国内外の識者・専門家 による講演を主体にした学術集会をかなりの頻度で開催 している。同じ学術集会でも主催と後援の区別があり、一 般性がある全学的なテーマの場合が前者、専門領域の 比重が高い場合には後者という基準があると聞く。 主催講演は年に10回以上、後援はそれ以上、2001年 度には合計45回を数えた(創立30周年記念誌・資料編よ り)。本学で医学教育などの手伝いをするようになって 時々聴講するが、新たな知見や刺激が得られる貴重な 場になっている。 その中でも3月27日、医学研究センター知財戦略研究 推進部門が企画した後援型の「シリコンバレー発バイオ デザイン的思考:ニーズ発(課題解決型)医療機器開発」 は、“五足ぐらいの草鞋を履く”講師の経歴からしてユ ニークで、中身も極めてチャレンジングなものだった。 講演した池野文昭スタンフォード大学主任研究員(循 環器科)は1992年に自治医科大を卒業後、静岡県内で 循環器科医として臨床に励み、2001年にスタンフォード 大に移った後、スタンフォード・バイオデザイン・プログラ 米スタンフォード発 課題解決型バイオデザイン的思考の勧め 本学の卒後教育委員会は1991年から、医師を含む広 なく、課題そのものを見つけるところから始めてビジネス につなげる。その医療機器版がバイオデザイン的思考な のだそうだ。 自分で興したベンチャー企業の東京オフィスや、阪大 医学部招聘准教授として日米間を月に2回は往き来し、 「医師から医療産業に舵を切った」池野さんの講演の眼 目の1つは、イノベーション(技術革新)は多種多様なメン バーによるチームスポーツに例えられる。臨床で困って いることを見つけ、解決するアイデアの創出が重要で、そ れにはバックグラウンドの異なる仲間同士の効率的なブ レーンストーミングが欠かせないという。 生まれたアイデアを具現化・商品化していくのが、抱 卵・哺育を意味する「インキュベーション」企業。スタン フォードから全米に広がったメディカルデバイス人財育 成教育はグローバル化し始めているともいう。 数多い卒後教育委員会主催・後援学術集会の中に は、知的好奇心を醸成し、アイデアをひらめかせる宝の 山が他にもあるに違いない。医学部・保健医療学部や近 隣大学の若者たちの聴講参加も促したい。 埼玉医科大学 医学教育センターニュース ムの推進に携わってきた。すでに在る課題を解くのでは ● 編集後記 ● 第 55 発行年月日 平成 27 年 5 月 1 日 発 埼玉医科大学 医学教育センター 行 桜が散り、新緑の季節になりました。4月、医学部では128人、保健 発 行 人 センター長 荒木 信夫 医療学部では260人の新入生が入学しました。本学が期待する「すぐ 連 絡 先 医学教育センター本部 れた医療人」となるための一歩を踏み出した学生たちの様子について も今後掲載して行きたいと思います。(新井) 内線(毛呂山)3172 印 -8- 号 刷 医学教育センター教育情報部門 第55号-2
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