回転型出力安定化装置の数値計算による性能評価 電気工学専攻(修士課程) 102124 江崎 公太 指導教員 中野 孝良 担当教員 藤田 吾郎 エネルギー制御機器研究 1. 研究背景 1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議(京都会 議)で採択された京都議定書によってCO2の削減などが 注目されている。また,1995年の電気事業法の改正などに より発電事業の新規参入が拡大された。このような背景 から,風力発電,太陽光発電などの自然エネルギーが注目 されている。しかし,例えば風力発電は風況によって出力 が大きく変化してしまうので系統への大規模連系には出 力安定化装置が必須である。 現在主流のDCリンク方式と呼ばれるインバータを用 いた安定化装置は,電力用の半導体素子を使用するため 高コストである。そのため,風力発電施設のより大規模な 導入は非常に困難である。本研究は,新方式の出力安定化 装 置 で あ る 回 転 型 出 力 安 定 化 装 置 ( 以 下 RFC: Rotary Frequency Converter)を提案し,この装置の実用化を最終 目標としてシミュレーションによる基本性能の検証 [1]を 行うものである。 2. 回転型出力安定化装置 RFCは,図1のように大きく分けて制御装置(Power Controller),交流励磁装置(Excitation Controller),同期機 (SM: Synchronous Machine),可変速機(DFM: Doubly-fed Machine)の4つからなる。RFCの動作原理を以下に示す。 まず,風力発電施設で発電した電力によって同期機の 軸が回転する。この軸は可変速機の軸に接続されている ので,可変速機も回転する。しかし,このままでは可変速 機は発電しないので励磁する必要がある。可変速機は誘 導機の一種で,一次・二次側が共に多相の巻線となってお り,さらに二次巻線がブラシを介して外部に引き出され ている。可変速機の二次巻線を直流励磁する場合,励磁電 圧を変化させることで出力電圧を変化させることは出来 るが,出力周波数は回転数とすべりで決まってしまうの で制御は出来ない。しかし,可変速機は二次巻線が多相と なっているので交流で励磁することが出来る。このとき, 励磁周波数を変化させることですべりを変化させること ができ,結果として出力の周波数(と位相)も制御すること が出来る。 以上より出力の電圧と周波数を制御できることは示 したが,その制御には制限がある。出力するエネルギーが 風力発電機から入力されるエネルギーより多い場合,そ の不足分は軸の回転エネルギーより供給されるので軸の 回転数は減少し,最終的には回転が停止してしまう。逆の 場合は余剰エネルギーが回転エネルギーの形で貯蔵され, 軸の回転数が上昇し,最終的に回転機自体が破損してし まう。 そのため回転エネルギー(または回転数)が一定の範 囲内に収まるように制御する必要がある。また,出力が急 激に変化することもRFC自体に悪影響を及ぼすのでこれ も制御する必要がある。さらに,交流励磁装置の出力可能 図 1 回転型風力発電出力安定化装置 な周波数の範囲を広くしすぎると励磁装置の製作コスト が上昇してしまうため,系統周波数と軸の回転数の差も 一定の範囲内に収まるように制御する必要がある。制御 装置は以上の制限を満たすように入力電力・軸の回転 数・系統周波数を計測し,適切な励磁指令値を算出する。 なお,可変速機の実用化の例としては,可変速揚水発電[2] が挙げられ,RFCは,この可変速揚水発電の原理を発電出 力安定化に応用したものである。 RFCはDCリンク方式と比較して次の利点がある。 •製作コストが低い •大容量の装置の製作が容易 •複数の風力発電機の出力を一台で安定化できる •回転機を用いているため保守が容易 •電力用半導体をあまり使用しない 3. 研究の流れ シミュレーションをはじめるに当たって,最初は MATLAB/Simulinkを用いて電力に注目し,図2の簡易モデ ル(二地域がHVDCで連系した系統の片方の地域にRFC と風力発電機が接続された系統のモデル)を作成し,RFC のシミュレーションを行った。これによって電力系統へ の風力発電施設の導入可能容量の限界の見積もりを行っ た。しかし,このモデルでは細かな特性のシミュレーショ ンを行うのが困難である,MATLAB/Simulinkは汎用のソ フトウェアであるため,計算時間が長くなってしまう,風 力発電機は白色雑音と周波数フィルタを組み合わせて出 力電力を直接模擬しており,発電機の特性を考慮してい ない,などの問題があり,巨視的な検討に使用する場合は 問題は少ないが,過渡的な減少のシミュレーションには 適さなかった。また,モデル自体の妥当性の確認が十分に 成されていなかった。 1.0 0.9 0.8 0.7 0 2 4 6 [pmodel] MACHINE : SM 図 3 図 2 8 10 VARIABLE : WR 12 14 16 RFC 回転数 簡易モデル そこで,RFC無しで風力発電機を系統に導入したモデ ルを詳細に調査し,モデルの妥当性を調査するのと同時 に,MATLAB/Simulinkで風力発電機のモデルと風速模擬 のモデルを作成し,モデルの品質向上を図った。また,そ れと平行して電力系統シミュレーションソフトウェア EUROSTAG [3]を導入しEUROSTAG上でRFCの詳細モデル を作成し,詳細な解析・検討を行うための基礎を築いた。 しかし,EUROSTAGの操作の習得に手間取り十分な検討 を行うことは困難であった。 現段階では,研究は大きく3つに分けて進めている。1 つ 目 は , 上 で 示 し た 風 力 発 電 機 モ デ ル を MATLAB/Simulink簡易モデルに導入し,風力発電施設を 導入した際の系統への影響の検討を行うものである。2 つ目は,EUROSTAG詳細モデルのモデルを解析すると共 に,EUROSTAG詳細モデルを多機多母線の系統モデルを 接続し,RFCのシミュレーションを行うものである。最後 に,3つ目は,研究室の実験班の協力で小型の可変速機を 実際に作成しRFCを組立て,計測ソフトウェアLabVIEW を用いて計測・制御を行う研究である。 4. シミュレーション 例としてEUROSTAGを用いたRFCモデルを用いた結 果を示す。シミュレーションは,RFCの出力電力指令値を 初期値0.2[puW]として,開始4秒後に0.5[puW],12秒後に 2.0[puW]と変化させた。このシミュレーションの結果と して,軸の回転数(図3)と入出力有効電力(図4)を示す。 4秒後に出力電力指令値が増加したので出力電力が 増加し,わずかに遅れて入力電力が増加する。このとき, 一時的に供給不足となった分の電力は軸の回転エネルギ ーによって補うため,軸の回転数が一時的に減少するが, 制御装置によって回転数が一定になるように制御してい るため,しばらく回転数と入力電力が振動した後安定す る。 次に,12秒後に出力電力指令値が急増すると,先ほど と同様回転数が一時的に減少する。しかし,今度は入力電 図 4 RFC 有効電力 力が最大になっても必要な出力電力には足りないために 同期機が脱調し,入力電力が0となる。そのため,軸の回転 エネルギーが出力電力として消費していき回転数が急激 に低下していく。 5. まとめ 今後の研究の流れとしては,MATLAB/Simulink簡易モ デルを用いて,RFCを用いた場合の風力発電施設の最大 導入可能容量,長期的な系統の振る舞いなどの推定を行 う。また,RFCのEUROSTAG詳細モデルを電気学会の電力 系統の標準モデル [4]へ接続し,様々な事故が発生した場 合の数十ミリ秒∼数分オーダーの系統への影響などを調 べる。そして,実機による実験結果とシミュレーション結 果を比較してモデルの性能・精度の検討を行っていく予 定である。 参考文献 [1] [2] [3] [4] 江崎 公太・藤田 吾郎・中野 孝良・舟橋 俊久・横山 隆一・ 小柳 薫,「回転型風力発電出力安定化装置のシミュレーショ ンによる評価」,平成15年電気学会電力・エネルギー部門大 会,No.410,(2003-8,東京電機大学) 山 本 潤 ,「可 変 速 揚 水 システムの 制 御 応 答 性」電 気 評 論,Vol.80,No.7,(1995-7) Tractebeland Electricite de France, "EUROSTAG Package Documentation part I-III", (2003) 「電力系統の標準モデル」,電気学会技術報告第754号
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