11章 He 原子(変分法と摂動法) H He+

11章
He 原子(変分法と摂動法)
0.補
水素類似原子
He+, Li2+, Be3+, B4+, C+5, ... Hg79+, ... のように原子核と1個の電子からなる原子を水素類似原子(水
素様原子、hydrogen-like-atom)と呼ぶ。水素原子とは原子核の電荷 Z だけが異なるので、その方程
式は水素原子と同様に解ける。エネルギーは、
En = −
µ e4
Z2
⋅
32π 2ε 02h 2 n 2
(n = 1, 2, 3,...)
である。波動関数は前章の式のボーア半径の部分を rB → rB / Z と置き換えれば得られる。例えば、
Ψ100 =
3
2
 Zr 
1 Z 
  exp  −  。
π  rB 
 rB 
以下にZ=1(H)とZ=2(He+)を比較して示す。
Z=1、Z=2の図を表示する。(Bohr半径を1としている)。
図. 水素原子(Z=1:赤)とヘリウム原子イオン(Z=2:緑)
1s軌道の動径成分(長さ:原子単位)。Zが増加すると軌道
は概ね(Z-1)に収縮する。
He+
H
1.He 原子の波動関数の形
2電子系である He 原子の波動関数を考える。準備のために(0)(1)を。
(0)スピン関数: 電子は空間運動に由来する磁気モーメント以外にも磁気モーメントを持つ。
これは電子内部の角運動量に由来するものであると考える。これを電子の自転で
あると解釈して「スピン角運動量」と呼ぶ。本当に電子が自転(スピン)している
のではない。種々の理論的・実験的考察から、電子は alpha スピンと beta スピン
の2状態が存在し、それぞれの角運動量は(1/2) h と(-1/2) h である。それぞれの
関数を α (σ ), β (σ ) とする。 σ はスピン角運動量に関連して電子内部に存在する
形式的な座標であり、スピン座標と呼ぶ。
(1)電子座標 x = (r , σ ) :
電子座標は、電子の空間座標とスピン座標からなる。
ここで、空間座標 r = ( x, y , z ) 、スピン座標 σ
(2)波動関数を He+の 1s 軌道の積で記述してみる。これは正しい記述ではないが、波動関数を構築
する第一段階である。
ψ (x1 , x 2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 )
スピン関数も必要である。まず alpha スピンと beta スピンが1個づつあるものとする。
ψ (x1 , x 2 ) = φ100 (r1 )α (σ 1 ) ⋅ φ100 (r2 ) β (σ 2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 )α (σ 1 )β (σ 2 )
電子の同等性(相互作用する電子系ではどの電子も同等である)を考慮する。電子を入れ替えて
も(=電子座標を入れ替えても)波動関数の形は変化しない事が要求される。
+ψ (x 2 , x1 )
−ψ (x 2 , x1 )
ψ (x1 , x 2 ) = 
上式の ± は粒子の性質に応じてどちらかを採用する。電子の波動関数では − を採用する。電子の
波動関数は電子の交換に関して反対称である、と表現する。これは電子の重要な性質である。プ
ロトンもこの性質をもつ( h 単位で半整数 1/2, 3/2, ... のスピンを持つ粒子系の波動関数は電
子の交換に関して反対称である)。上式の2段目を採用すると、
ψ (x1 , x 2 ) = −ψ (x 2 , x1 ) 。
以上を考え合わせると、He 原子の波動関数は次式となる。 2 は規格化のために付けた。
ψ (x1 , x 2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 ) ⋅
1
[α (σ 1 ) β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
(1)
次に 1s 軌道と 2s 軌道に alpha スピンと beta スピンが1個づつ入る場合を考える。粒子の同等
性と反対称性を考慮すると、2つの可能性が存在する。
ψ (x1 , x 2 ) =
1
1
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) + φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ [α (σ 1 )β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
2
(2)
ψ (x1 , x 2 ) =
1
1
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ [α (σ 1 ) β (σ 2 ) + β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
2
(3)
その次に、1s 軌道と 2s 軌道に alpha スピン電子が2つ入る場合、beta スピン電子が2つ入る場
合をそれぞれ考える。
ψ (x1 , x 2 ) =
1
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ α (σ 1 )α (σ 2 )
2
(4)
ψ (x1 , x 2 ) =
1
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ β (σ 1 )β (σ 2 )
2
(5)
さて、電子はスピン角運動量を持つので磁石(磁気双極子を持つ)である。多電子系の場合、電子
は磁気的相互作用によって相互に結合して合成スピンを成す。2電子系の場合、
(a) 三重項
h h
sz = + = h,
2 2
S = 1,
 −1

ms =  0
 +1

(b) 一重項
sz =
h h
− = 0,
2 2
S = 0,
ms = 0
この3つを micro-state と呼ぶ。
磁場が作用せず、エネルギー項にスピン座標が入っていないなら、三重項の3つのマイクロステ
ートは同じエネルギーである(縮退している)。(3)(4)(5)が三重項。(2)が一重項。(1)も一重項
である。
再度、纏めて再掲しよう。
(a) 三重項(1s)1(2s)1
1

 −1 ⋅⋅⋅ψ (x1 , x 2 ) = 2 [φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 ) ] ⋅ β (σ 1 ) β (σ 2 )

1

ms =  0 ⋅⋅⋅ψ (x1 , x 2 ) = [φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ [α (σ 1 ) β (σ 2 ) + β (σ 1 )α (σ 2 )]
2

1

 +1⋅⋅⋅ψ (x1 , x2 ) = 2 [φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ α (σ 1 )α (σ 2 )

S = 1,
(b) 開殻系一重項(1s)1(2s)1
ms = 0 ⋅⋅⋅ψ (x1 , x 2 ) =
S = 0,
1
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) + φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ [α (σ 1 )β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
(c) 閉殻系一重項 (1s)2
ms = 0 ⋅⋅⋅ψ (x1 , x 2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 ) ⋅
S = 0,
1
[α (σ 1 ) β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
しばしば、上記の状態を以下のような図に対応させることがあるが、(a)(b)の区別は、図の場合は式
で表現するほどには厳密ではないことに注意。
2s
2s
2s
1s
1s
1s
(a) 三重項(1s)1(2s)1
(b) 開殻系一重項(1s)1(2s)1
(c) 閉殻系一重項 (1s)2
3電子系以上で電子の同等性と反対称性を考慮した波動関数を作るのは一般には難しい(特殊な
場合には容易である:後に出てくる)。
一重項と三重項のエネルギー差
He 原子において、1s 軌道と 2s 軌道を1個づつ電子が占有する場合、一重項と三重項が存在すること
を示した。一重項のエネルギー 1E と三重項のエネルギー 3 E を計算しておこう。スピン多重度は通常
記号の左上の添字で示すのが慣わしである。ハミルトニアン Hˆ は、電子の運動エネルギー、核−電
子クーロン引力ポテンシャル、電子−電子クーロン斥力ポテンシャルだけで構成され、スピン座標を
含まないものとする。 Hˆ を再掲する。 hˆ(r ) は He+(1電子系)のハミルトニアンである。
Hˆ (r1 , r2 ) = hˆ(r1 ) + hˆ(r2 ) +
エネルギーを計算する。
e2
4πε 0 r1 − r2
1
*
*
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ [α (σ 1 )α (σ 2 )] H (r1 , r2 )
2
1
×
[φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 )] ⋅ [α (σ 1 )α (σ 2 )] dr1dr2 dσ 1dσ 2
2
この式を展開し、部分的に積分し、 φ100 (r ) と φ200 (r ) の規格直交性を考慮すると、
3
3
E=∫
E=
1
e2
*
ˆ(r ) + hˆ(r ) +
φ
r
φ
r
−
φ
r
φ
r
(
)
(
)
(
)
(
)
(
)
h
[
]
100 1
200 2
200 1 100 2
1
2
2∫
4πε 0 r1 − r2
× [φ100 (r1 )φ200 (r2 ) − φ200 (r1 )φ100 (r2 ) ] dr1dr2
× ∫ α (σ 1 )* α (σ 1 )dσ 1 ⋅ ∫ α (σ 2 )*α (σ 2 )dσ 2
=
1
φ100 (r1 )*φ200 (r2 )* hˆ(r1 )φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
∫

2
− φ (r )*φ (r )* hˆ(r )φ (r )φ (r )dr dr
∫
− ∫φ
+ ∫φ
100
1
200
2
1
200
1
100
2
1
2
200
(r1 )*φ100 (r2 )* hˆ(r1 )φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
200
(r1 )*φ100 (r2 )* hˆ(r1 )φ200 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
+ ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r2 )* hˆ(r2 )φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
− ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r2 )* hˆ(r2 )φ200 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
− ∫ φ200 (r1 )* φ100 (r2 )* hˆ(r2 )φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
+ ∫ φ200 (r1 )*φ100 (r2 )* hˆ(r2 )φ200 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
=
+ ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r2 )*
e2
φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
− ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r2 )*
e2
φ200 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
− ∫ φ200 (r1 )* φ100 (r2 )*
e2
φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
+ ∫ φ200 (r1 )*φ100 (r2 )*

e2
φ200 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2 
4πε 0 r1 − r2

1
φ100 (r1 )* hˆ(r1 )φ100 (r1 )dr1 ⋅ ∫ φ200 (r2 )*φ200 (r2 )dr2
∫

2
− φ (r )* hˆ(r )φ (r )dr ⋅ φ (r )*φ (r )dr
∫
− ∫φ
+ ∫φ
100
1
1
200
200
(r1 )* hˆ(r1 )φ100
200
(r1 )* hˆ(r1 )φ200
∫
(r )dr ⋅ ∫ φ
(r )dr ⋅ ∫ φ
1
1
200
2
100
2
2
1
1
100
(r2 )*φ200 (r2 )dr2
1
1
100
(r2 )*φ100 (r2 )dr2
+ ∫ φ100 (r1 )*φ100 (r1 )dr1 ⋅ ∫ φ200 (r2 )* hˆ(r2 )φ200 (r2 )dr2
− ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r1 )dr1 ⋅ ∫ φ200 (r2 )* hˆ(r2 )φ100 (r2 )dr2
− ∫ φ200 (r1 )* φ100 (r1 )dr1 ⋅ ∫ φ100 (r2 )* hˆ(r2 )φ200 (r2 )dr2
+ ∫ φ200 (r1 )*φ200 (r1 )dr1 ⋅ ∫ φ100 (r2 )* hˆ(r2 )φ100 (r2 )dr2
+ 2 J12 − 2 K12 ] = ε1 + ε 2 + J12 − K12
となる。但し、
ε k ≡ ∫ φk 00 (r )* hˆ(r )φk 00 (r )dr
← He+原子の 1s、2s のエネルギー
J12 ≡ ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r2 )*
e2
φ100 (r1 )φ200 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
K12 ≡ ∫ φ100 (r1 )*φ200 (r2 )*
e2
φ200 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
J を2電子クーロン積分、K を2電子交換積分、と呼んでいる。J は普通の意味の2電子クーロン反
発ポテンシャルである。即ち、波動関数の2乗 ρ1 (r ) = φ100 (r ) φ100 (r ) と ρ 2 (r ) = φ200 (r ) φ200 (r ) を電
*
*
子密度分布(ホントは存在確率密度だが)であるとすると、
e2
J12 = ∫ ρ1 (r1 ) ρ 2 (r2 )
dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
であり、電子密度分布によって起こるクーロン反発である。K はこのような古典的な解釈ができな
い:J に比べて波動関数が入れ替わっているので交換積分と呼ばれる。
次に一重項のエネルギーを計算する。長い計算を省略して結果だけを示すと、
1
E = ε1 + ε 2 + J12 + K12
となる。従って、一重項と三重項のエネルギー差 ∆ = 1E − 3 E は次式となる。
∆ = 1E − 3 E = 2 K12 > 0
同じ軌道を占有している場合、例えば(1s)1(2s)1、三重項は一重項よりエネルギーが低いことが解る。
上式自体は、He なのに He+の波動関数を使っている、三重項と一重項の空間関数が同じと仮定してい
る、などの点に於いて近似である。しかし、三重項が一重項より低エネルギーであるという結論が逆
転することはまず無い。
2. 変分法
まず、変分原理を示す。
(
「補」で証明を与えます)
変分原理
Hˆ の最低固有値を E0 、それに対応する固有関数をψ 0 とする。
Hˆ ψ = E ψ
0
0
0
規格化された一価連続な関数 ϕ を考える。
∫ ϕ ϕ dx = 1
*
ϕ の Hˆ 期待値は E0 より必ず上方にある。
∫ ϕ Hˆ ϕ dx ≥ E
*
0
但し、等号はψ 0 = ϕ の場合に成立する。
この変分原理が教える所は、どのような「規格化された一価連続な関数 ϕ 」を考えても、そのエネル
ギー期待値は「真の解のエネルギー E0 」よりも高い、ということである。即ち、エネルギー期待値
が低い関数を探し出せば、その関数は「真の解ψ 0 」に近いことになる。
1電子系では変分原理と電子のシュレーディンガー方程式を解くことは単純に等価である。2電子系
以上では波動関数側に要求される制約(上述した波動関数の反対称性)を課した下で等価である。
変分原理自体は近似解法ではないが、変分原理は以下の変分法と呼ぶ近似解法を成立させる。
変分法 (パラメーターを含む場合)
適当なパラメーター λ を含む規格化された一価関数 ϕ (これを試行関数
と呼ぶ)を用意して ϕ ( x; λ ) とする。 λ を調節して、
E (λ ) = ∫ ϕ (x; λ )* Hˆ ϕ (x; λ )dx
を最小にする。このとき λ = λmin とする。 ϕ ( x; λmin ) と E (λmin ) が、与え
た ϕ ( x; λ ) の範囲で、 Hˆ に対する最善の近似固有関数、及び、近似エネル
ギーとなる。
He 原子への適用
前回の原子番号 Z を含んだ近似波動関数を試行関数としよう。1番目の電子も2番目の電子も 1s 軌
道であるとする。
Φ(r1 , r2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 )
3
1 Z 
=   e − Zr1 / rB e− Zr2 / rB
π  rB 
(1)
。
ここで、核電荷を変分パラメーターとして採用する(Z = 2 と考えない)
前項でスピン座標とスピン関数を導入し、正しい波動関数の形は
Φ(x1 , x2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 )
1
[α (σ 1 )β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
であることを知っているのだが、スピン関数がエネルギーに影響しないので(1)式を使うことにする。
変分法の実行
(a) 規格化:
規格化された φ100 (r ; Z ) の積 Φ (r1 , r2 ) = φ100 (r1 ; Z )φ100 (r2 ; Z ) は規格化されている。即ち、
∫ ∫ Φ (r , r )Φ(r , r )dr dr = ∫ φ
*
1
2
1
2
1
*
100
2
*
(r1 ; Z )φ100 (r1; Z )dr1 ⋅ ∫ φ100
(r2 ; Z )φ100 (r2 ; Z )dr2 = 1 (2)
後々に Z で微分するのだから、Z が変化しても規格化が保たれる波動関数でなくてはならない。
この波動関数はその条件を満たす。
(b) エネルギー表現
E ( Z ) = ∫ Φ (r1 , r2 )* Hˆ Φ (r1 , r2 )dr1dr2 = ∫ φ100 (r1 )*φ (r2 )* Hˆ φ100 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
(3)
ここで、 dr1dr2 は積分の体積素片である。


e2
E ( Z ) = ∫ ∫ φ100 (r1 )*φ100 (r2 )*  hˆ(r1 ) + hˆ(r2 ) +
 φ100 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2 

= ∫ φ100 (r1 )* h(r1 )φ100 (r1 )dr1 ∫ φ100 (r2 )*φ100 (r2 )dr2
+ ∫ φ100 (r1 )*φ100 (r1 )dr1 ∫ φ100 (r2 )* h(r2 )φ100 (r2 )dr2
e2
+ ∫ ∫ φ100 (r1 ) φ100 (r2 )
φ100 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
*
*
= ∫ φ100 (r1 )* h(r1 )φ100 (r1 )dr1 +
+ ∫ ∫ φ100 (r1 )*φ100 (r2 )*
∫φ
100
(r2 )* h(r2 )φ100 (r2 )dr2
e2
φ100 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2
4πε 0 r1 − r2
(4)
上式の積分は(補)に回して結果だけを示すと次式となる。
E(Z ) =
me 4
16π ε h
2
2
0
2
(Z 2 −
27
Z)
8
(5)
(c) 変分法の実施:Z で微分してエネルギーE の最小値を求める。
dE ( Z )
me 4
27
(2Z − ) = 0
=
2 2 2
dZ
16π ε 0 h
8
2
me 4
me 4
27
 27 
∴ Z = , Emin = −  
= −2.8477
2 2 2
16
16π 2ε 02 h 2
 16  16π ε 0 h
(6)
この値が(5)式の試行関数の範囲内で最良の近似エネルギーとなる。Z = 2 と考えたときの波動関
数を使った場合のエネルギー期待値は、
E ( Z = 2) =
me 4
16π 2ε 02 h 2
(22 −
me4
27
× 2) = −2.75 ×
8
16π 2ε 02 h 2
(7)
であるので、確かに(6)式のエネルギーはそれよりも低い。
(d) 有効核電荷
He 原子を、He 原子核と1個の電子が運動する系と考え、もう1個の電子によって He 原子核の
電荷の一部分が遮蔽されている(電子から見て He 原子核の電荷が小さくなっている)と考えると、
He 原子は、Z = 27/16 = 1.6875 の 1 電子系原子(水素類似原子)と見做せる。つまり、一方の電子
を考えているときは、他方の電子は He 原子核にへばりついて He 原子核の電荷(Z = 2)を減らす
役割をしていると考える。このとき、Z = 1.6875 を He の有効核電荷と呼ぶ。
試行関数
変分法の試行関数は様々に考えられる。He 原子の試行関数として適切だと思われる例をあげよう。
(A)
Φ(r1 , r2 ) =
1
c + c22
2
1
[ c1φ100 (r1 )φ100 (r2 ) + c2φ200 (r1 )φ200 (r2 )]
この試行関数では、電子間反発の影響による軌道の形の変化を、核電荷 Z が変わるの
ではなくて、1s 軌道と 2s 軌道が混合するのだと考える。1s と 2s を混合するための
変分パラメーター c1 , c2 を導入した。3s, 4s, …を入れてパラメーターを増やすことに
より、近似度を系統的に向上させる事ができる。
3
(B)
1 Z 
−α r − r
Φ(r1 , r2 ) =   e − Zr1 / rB e− Zr2 / rB (1 − e 1 2 )
π  rB 
電子と電子はお互いに避けあうはずであるから、2つの電子が完全に重なるときに
波動関数の値が小さくなるような項を掛けて、そこへパラメーター α を追加した。
Z と α という系統の異なる2つのパラメーターを使用している。この波動関数は
規格化されていないので、変分法を実行する前に規格化が必要である。
変分法の試行関数はパラメーターを含んで規格化されていれば、どんな関数でもよい。然し、計算精
度を向上させるためだけに、物理的に無意味なパラメーターをむやみに増やすことは避けるべきであ
る。
3.摂動法
摂動法の概要(導出は「補」で示す予定)
無摂動系の方程式が、励起状態を含めて、厳密に解けていること。
Hˆ 0Φ n = ε n Φ n ( n = 1, 2,3,... )
(1)
摂動系の方程式が無摂動系と摂動項に分けられること。即ち、
Hˆ Ψ n = ( Hˆ 0 + Wˆ )Ψ n = En Ψ n
このとき、Rayleigh-Schrödinger 摂動の表現では、
1次摂動法
Wkn
Φk 、
k ≠n ε n − ε k
(1)
Ψ n ≈ Ψ (0)
n + Ψn = Φn + ∑
En ≈ En(0) + En(1) = ε n + Wnn
2次摂動法
2
En ≈ E
(0)
n
+E +E
(1)
n
(2)
n
W
= ε n + Wnn + ∑ kn 。
k ≠n ε n − ε k
Wkm は次式で定義される積分。
Wkm ≡ ∫ Φ*kWˆ Φ m dv
摂動法は、解くべき Hˆ を、厳密に解ける部分 Hˆ 0 と摂動部分 Wˆ に分けて、 Hˆ 0 の固有関数と固有エネ
ルギーを使って、 Hˆ = Hˆ 0 + Wˆ の近似固有関数と近似固有値を求める方法である。(言い換えれば、
解けている関数やエネルギー値を
部品として、解けていない部分を
E2
ε1
近似する方法である。)
energy
無摂動系と摂動系を比較したエネ
ルギー準位図を示す。
ε1
ε0
E1
Φ0
Hˆ Φ n = ε n Φ n
無摂動系
Ψ0
E0
( Hˆ + Wˆ )Ψ n = En Ψ n
摂動系
図.無摂動系と摂動系のエネルギー準位の概念図
He 原子への適用
He 原子の場合は、水素類似原子 He+が厳密に解けているので、摂動法が旨く適用できる。水素類似
原子 He+の波動関数は次式であった。
3
1  2  2 −2 r / rB
; Z = 2) =
φ100 (r   e
π  rB 
(8)
Z = 2 はもはや変更しないので以下では省略する。2組の方程式が成立する。
hˆ(r1 )φnlm 0 (r1 ) = ε nφnlm (r1 )
hˆ(r2 )φn 'l ' m ' (r2 ) = ε n'φn 'l ' m ' (r2 )
(9)
2e2
h2 2
hˆ(r1 ) = −
∇1 −
2m
4πε 0 r1
及び
2e 2
h2 2
hˆ(r2 ) = −
∇2 −
2m
4πε 0 r2
(10)
(9)式左側の両辺に φ1s (r2 ) を、(10)式右側の両辺に φ100 (r1 ) を掛けて足し合わせると
{hˆ(r ) + hˆ(r )}φ
1
2
nlm
(r1 )φn 'l ' m ' (r2 ) = (ε n + ε n ' )φnlm (r1 )φn 'l ' m ' (r2 )
(11)
が成立する。従って、以下のように無摂動系ハミルトニアンと摂動項を決めて、摂動法が適用できる。
 h2 2
2e 2   h 2 2
2e 2 
Hˆ 0 = hˆ(r1 ) + hˆ(r2 ) =  −
∇1 −
+
−
∇
−
 
、
2
4πε 0 r1   2m
4πε 0 r2 
 2m
Wˆ =
e2
4πε 0 r1 − r2
無摂動系 Hˆ 0 Φ n = en Φ n の固有関数と固有値は n = 0,1, 2 の3個に限定し、以下のように番号を付す。
スピン関数も含めた表現を採用するが、エネルギー的にはスピン関数は無視できる。
1
e0 = ε1 + ε1
[α (σ 1 )β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
1
1
Φ1 (x1 , x 2 ) =
[φ200 (r1 )φ100 (r2 ) + φ100 (r1 )φ200 (r2 )]⋅ [α (σ 1 )β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
2
1
Φ 3 (x1 , x 2 ) = φ200 (r1 )φ200 (r2 ) ⋅
e3 = ε 2 + ε 2
[α (σ 1 ) β (σ 2 ) − β (σ 1 )α (σ 2 )]
2
最低エネルギー状態 ϕ 0 (r1 , r2 ) に対する0次の摂動エネルギーは
Φ 0 (x1 , x 2 ) = φ100 (r1 )φ100 (r2 ) ⋅
e1 = ε 2 + ε1
E (0) = e0 = ε1 + ε1
1次摂動エネルギーは、
E (1) = W00 = ∫ ϕ0 (r1 , r2 )*
e2
4πε 0 r12
ϕ0 (r1 , r2 )dv
2次摂動エネルギーは、
2
E
(2)
=∑
k ≠0
W0 k
2
e0 − ek
=
W01
2
e0 − e1
+
W02
2
e0 − e2
=
W01
2
ε1 − ε 2
+
W02
2
2(ε1 − ε 2 )
(a)0次の波動関数は2つの He+の波動関数の積である。つまり Φ 0 (x1 , x 2 ) そのもの。0次のエネルギ
ーは He+の 1s エネルギーの2倍である。電子間反発が完全に無視されているので、波動関数は現
実の He の波動関数より縮まっている。
(b)1次摂動エネルギー E (1) は、無摂動の波動関数(現実の He の波動関数より縮まっている)を使っ
てエネルギーを計算したので、電子間反発を大きく見積もり過ぎている。
(c)2次の摂動エネルギー E
(2)
は、 E
(1)
にエネルギー差を分母に持った補正項が足される。補正項
は全て負の値を持つことを確かめよう(Q ε1 < ε 2 )。また、 W0 N ( N = 1, 2) の値が凡そ同じで
あるなら、分母が小さい項の寄与が大きいと予想される。
(d) W00 は(補)で計算した積分そのものである。 W0 N ( N = 1, 2) も(補)の導出を利用すると求まる。
Energy of He at various levels of theory (Eh 単位: Hartree)
摂動論
0次摂動(He+エネルギーの2倍)
-4.00000000000
1次摂動(簡単な電子間反発項)
-2.75000000000
2次摂動
-2.9077
13次摂動
-2.90372433
変分法
有効核電荷Zを変分法で決定(1パラメーター)
-2.84770000000
(A)類似の3パラメータ+5パラメータ
-2.87641835
Experimental
-2.9033
変分法は真のエネルギーより低くなることはない(変分原理がそれを保障している)。摂動法は摂動の
次数によって真のエネルギーを上下する。どちらも次数やパラメーター数が増えれば真のエネルギー
に近くなっている。この表の場合、理論上の真のエネルギーは実験値とほぼ同じ。
(補1)2電子間クーロン反発積分の計算:これは He 原子へ変分法を適用した場合のエネルギー項
の一部、及び、He 原子に摂動法を適用した場合の1次摂動項、として現れる。本講義では、この式
の意味が解り、結果を使うことが出来さえすればよい。以下の積分が計算できる必要はない。導出が
無いとすっきりしない人のための「補」である。
e2
5Z me e 4
φ100 (r1 )φ100 (r2 )dr1dr2 =
V = ∫ ∫ φ100 (r1 ) φ100 (r2 )
4πε 0 r1 − r2
8 16π 2ε 02 h 2
*
*
但し、 φ100 (r ) は水素類似原子の 1s 波動関数である。
1 Z 
φ100 (r ) =
 
π  rB 
3/ 2
e − Zr / rB
ここで、 r1 と r2 を図示する。
r1
θ
z
r12
r2
余弦定理から次式を得る。
r12 ≡ r1 − r2 = (r12 + r22 − 2r1r2 cos θ )1/ 2
dr1dr2 で積分する場合に、 r1 を Z 軸とした極座標表示で r2 を表現しても差し支えない。
従って V は次式。
V=
e2 1 Z 6
4πε 0 π 2 rB6
∫
∞
r1 = 0
e −2 Zr1 / rB (4π r12 dr ) ∫
∞
r2 = 0
e −2 Zr2 / rB r22 ∫
2π
φ =0
dφ ∫
π
θ =0
dθ sin θ
(r + r − 2r1r2 cos θ )1/ 2
2
1
2
2
但し、dr = r 2 sin θ drdθ dφ であり、θ , φ に依存しない積分ならば dr = 4π r dr であることを使った。
2
x = cos θ とすると dx = sin θ dθ となり、 θ 部分の積分は次式となる。
π
1
dθ sin θ
dx
∫θ =0 (r12 + r22 − 2r1r2 cosθ )1/ 2 = ∫−1 (r12 + r22 − 2r1r2 x)1/ 2
2
 r ⋅⋅⋅ r1 > r2
(r1 + r2 ) − (r1 − r2 )
1
=
=
r1r2
 2 ⋅⋅⋅ r < r
1
2
 r2
2
2
この結果を使って以下の式を得る。
V=
=
e 2 16Z 6
4πε 0 rB6
e2 4Z 3
4πε 0 rB3
∞
 1 r1

dr1e −2 Zr1 / rB r12  ∫ dr2 e−2 Zr2 / rB r22 + ∫ dr2e −2 Zr2 / rB r2 
r1 = 0
r1
 r1 0

∫
∞

me e4
e2
1  5
5
−2 Zr1 / rB 2 1
−2 Zr1 / rB  Z
dr
e
r
e
Z
Z
−
+
=
=




1
2 2 2
∫r1 =0 1
 rB r1   8 4πε 0 rB 8 16π ε 0 h
 r1
∞
以前も示したかもしれないが、積分公式を示しておく。
∫
∞
0
x 2 e − ax dx =
2
、
a3
∫
∞
0
xe − ax dx =
2
a2
(a > 0)
(補2)Rayleigh-Schrödinger(RS)摂動の導出
無摂動系の方程式が、励起状態を含めて、厳密に解けているとする。
Hˆ 0Φ n = ε n Φ n ( n = 1, 2,3,... )
(補2−1)
摂動系の方程式が無摂動系と摂動項に分けられるものとする。
Hˆ Ψ n = En Ψ n
(補2−2)
Hˆ = Hˆ 0 + λWˆ
(補2−3)
ここで λ は摂動の大きさを示すパラメーターである。摂動の次数を表現するために形式的に導入する。
摂動項の次数は λ の1乗である。最後には λ = 1 として消してしまう。
では k 番目の波動関数を考えてみる。最も粗い近似として Ψ k は Φ k に対応するものとする。これが
成立しないと摂動法は使えない。エネルギーと波動関数は λ の冪乗に展開できるものとする。
Ek = ε k + λ Ek(1) + λ 2 Ek(2) + ⋅⋅⋅
(補2−4)
2
(2)
Ψ k = Φ k + λΨ (1)
k + λ Ψ k + ⋅⋅⋅
(補2−5)
上付添字である(1)(2)は摂動の次数を示す。3式∼5式を2式に代入する。
2
(2)
( Hˆ 0 + λW )(Φ k + λΨ (1)
k + λ Ψ k + ⋅⋅⋅)
2
(2)
= (ε k + λ Ek(1) + λ 2 Ek(2) + ⋅⋅⋅)(Φ k + λΨ (1)
k + λ Ψ k + ⋅⋅⋅)
(補2−6)
任意 λ で6式が成立するために、 λ の次数ごとに両辺が等しくなければならない。
λ の0次
Hˆ 0Φ k = ε k Φ k
(補2−7)
λ の1次
(1)
(1)
Wˆ Φ k + Hˆ 0 Ψ (1)
k = ε k Ψ k + Ek Φ k
(補2−8)
λ の2次
(2)
(1)
(1)
(2)
ˆ (2)
Wˆ Ψ (1)
k + H 0 Ψ k = ε k Ψ k + Ek Ψ k + Ek Φ k
(補2−9)
7式は元から成立している式である。8式の両辺に Φ k を掛けて積分すると次式を得る。
*
∫ Φ Wˆ Φ dx + ∫ Φ Hˆ Ψ
*
k
k
*
k
0
(1)
k
(1)
*
dx = ε k ∫ Φ*k Ψ (1)
k dx + Ek ∫ Φ k Φ k dx
ここで、 Ψ k は Hˆ 0 の固有関数系{ Φ k }で展開できるはずである。即ち、
(1)
(補2−10)
Ψ
∞
(1)
k
= ∑ am Φ m
(補2−11)
m =1
これを10式に代入する。
∞
∞


* ˆ
* ˆ 
* 
(1)
*
Φ
Φ
+
Φ
Φ
=
Φ
W
dx
H
a
dx
ε
m m
k∫
k  ∑ am Φ m dx + Ek ∫ Φ k Φ k dx
∫ k k ∫ k 0 ∑
m =1

 m=1

Hˆ 0Φ k = ε k Φ k であることを使うと、
∞
∞
m =1
m =1
*
*
*
(1)
*
∫ Φ kWˆ Φ k dx + ∑ amε m ∫ Φ k Φ m dx = ε k ∑ am ∫ Φ k Φ m dx + Ek ∫ Φ k Φ k dx
{ Φ k }の規格直交性
∫Φ Φ
*
k
m
dx = δ km
(補2−12)
を考慮すると、
∫ Φ Wˆ Φ dx + a ε
*
k
k
= ak ε k + Ek(1)
k k
→
Ek(1) = ∫ Φ*kWˆ Φ k dx ≡ Wkk
(補2−13)
8式に11式を代入し、 Φ j ( j ≠ k ) を掛けて積分すると、
*
∞
∞


* ˆ
* ˆ 
* 
(1)
*
Φ
Φ
+
Φ
Φ
=
Φ
W
dx
H
a
dx
ε
m m
k∫
j  ∑ am Φ m dx + Ek ∫ Φ j Φ k dx
∫ j k ∫ j 0 ∑
m =1

 m=1

Hˆ 0Φ k = ε k Φ k 及び12式を考慮して、
∫ Φ Wˆ Φ k dx + a jε j = a jε k
*
j
→
aj
∫ Φ Wˆ Φ dx =
=
*
j
W jk
k
εk − ε j
εk − ε j
( j ≠ k)
未だ ak が未定である。 ak は波動関数が λ の1次の範囲で規格化されていることを使って求める。
∫ (Φ
k
+ λΨ ) (Φ k + λΨ )dx = ∫ Φ Φ k dx + λ ak + λ
(1) *
k
(1)
k
*
k
∞
2
∑a
m =1
2
m
= 1 + λ ak + λ
∞
2
∑a
m =1
2
m
上式が λ の1次の範囲で( λ 項は無視する)1であるためには ak = 0 である。
2
これで、1次の摂動エネルギーと1次の摂動波動関数が導かれた。再掲すると次式となる。
Ek ≈ ε k + Ek(1) = ε k + Wkk
∞
Wmk
m≠k ε k − ε m
Ψ k ≈ Φ k + Ψ (1)
k = Φk + ∑
結果を示すときに λ = 1 にしたことに注意。高次の摂動エネルギーと波動関数は、低次の結果を使っ
て逐次近似の形で求めることができる。2次の摂動エネルギーを求める事はよい練習問題になる。
(補3)変分原理:
条件設定などは変分原理を説明している記述の通り。ϕ は、 Hˆ ψ n = Enψ n ( n = 0,1, 2, 3, ⋅⋅⋅ )の解が与
える関数系{ψ n }で展開することができるものとする(固有関数展開)。
∞
ϕ = ∑ ckψ k
k =0
{ψ n }の規格直交性
∫ψ ψ
*
n

m
dx = δ nm を考慮して、 ϕ が規格化されている式を書くと、

∞

∞
∞
∞
∞
*
*
*
∫ ϕ ϕ dx = ∫ ∑ (ckψ k )  ∑ clψ l dx = ∑∑ ck clδ kl = ∑ ck = 1
 k =0
  l =0

k =0 l =0
2
k =0
となる。 ϕ のエネルギー期待値を計算すると、

∞



∞

∞

∞

*
*
*
∫ ϕ Hˆ ϕ dx = ∫ ∑ (ckψ k )  Hˆ ∑ clψ l dx = ∫ ∑ (ckψ k )  ∑ cl Hˆψ l dx
 k =0
  l =0

 k =0
  l =0
∞
∞
∞ ∞



= ∫  ∑ (ckψ k )*   ∑ cl Elψ l dx = ∑∑ ck* cl El ∫ψ k*ψ l dx
k =0 l =0
 k =0
  l =0

∞
∞
∞
∞

= ∑∑ ck* cl Elδ kl = ∑ ck Ek ≥ ∑ ck E0 = E0
k =0 l =0
k =0
2
2
k =0
不等号部分は E0 < E1 < E2 < ⋅⋅⋅ を考慮した。等号は c0 = 1 、 ck = 0 ( k ≠ 0) のとき:つまり ϕ = ψ 0 の
ときである。
この「逆」も証明できる。つまり、
『シュレーディンガー方程式を解く』ことと、
『最低のエネルギー
期待値を与える関数を見つける』ことは等価である。但し、基底状態(最低エネルギー解)に限定。
シュレーディンガー方程式は、多電子原子・多原子分子へ適用した場合、『複雑すぎて解ける望みの
無い方程式』(*)である。変分原理はこのような方程式の解を見出すための強力な指導原理になってい
る。
(*)ディラック博士の言葉(訳:藤永茂)。P.A.M.Dirac Proc. Roy. Soc. (London), A123, 714 (1929).
課題 1
長さ L の1次元空間を粒子(質量 m )が自由に運動する「1次元箱型ポテンシャル」の問題を考える。
波動関数とエネルギーは次式である。
φn ( x) =
2
nπ
x,
sin
L
L
en =
π 2h2n2
2mL2
=
h2n2
8mL2
(n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅)
(a)
(注)問題を解く際には、 e1 , e2 の値は最後まで代入しない方が賢明である。
次に、ポテンシャルの関数形を次式のように変形した場合を考える。
( x < 0)
∞

ε (0 ≤ x ≤ L )

2
V ( x) = 
0 ( L ≤ x ≤ L )

2
 ∞ ( x > L)

V
ε
0
L/2
L
x
このポテンシャル V ( x ) でのシュレーディンガー方程式の解を En とψ n ( n = 1, 2,3, ⋅⋅⋅) とする。
φn ( x) とψ n を混同しないように。 ε の絶対値は小さく、{ En ,ψ n }は{ en , φn }と n = 1, 2, 3, ⋅⋅⋅ の順番
で1対1対応する解である。但し、 E1 < E2 < E3 < ⋅⋅⋅ とする。以下の誘導に従って、 E1 , ψ 1 を変分
法と摂動法で近似的に求めてみよう。
変分法による解法
(1) ポテンシャル V ( x ) 中を運動する粒子(質量 m )の Schrodinger 方程式を、 V ( x ) を使って以下の
形式で書け。
Hˆ ψ ( x) = Eψ ( x)
Hˆ ≡
(2) 試行関数を次式とする。このときのψ 1 が規格化されていることを示せ。
ψ 1 ( x; c1 , c2 ) =
[ c1φ1 ( x) + c2φ2 ( x)]
c12 + c22
(3) 次式からエネルギーを求めよ(積分公式は最終項にある)。
L
E1 (c1 , c2 ) = ∫ ψ 1* ( x; c1 , c2 ) Hˆ ψ 1 ( x; c1 , c2 )dx =
0
c12 + c22
上式を次のように変形しておく。
(c12 + c22 ) E1 (c1 , c2 ) =
(4) 直上の式を c1 , c2 でそれぞれ偏微分して、次式の条件を代入して c1 , c2 , E1 を決める。
∂E1 (c1 , c2 )
= 0、
∂c1
∂E1 (c1 , c2 )
=0
∂c2
そのときに、以下のような c1 , c2 の連立方程式を得るはずである。箱内の式と E1 の式を示せ。
(
− E1 )c1 +
c2 + (
c2 = 0
− E1 )c2 = 0
*斉次(定数項が全部ゼロ)の連立方程式が有意な解を持つためには係数行列の行列式がゼロ、
即ち、
− E1
− E1
=0
である。
ε であると仮定して、 1 + x ≈ 1 + x / 2 を使って E1 の近似式を示せ。
(6) 上の(1)∼(4)の手順で、2番目のエネルギーの解 E2 , ψ 2 を求めることができるか。可能ならそ
(5) e2 − e1 >>
の式を、困難ならその理由を示せ。
摂動法による解法
(7) 2次の摂動論により E1 を、1次の摂動論によりψ 1 を求め、それぞれ式で示せ。
(8) 上問(5)の式を、上問(7)の2次の摂動論のエネルギー式と比較せよ。励起状態として φ2 と e2 だ
けを使った場合には全く同じ式であることを示せ。
積分公式:
∫
L/2
0
1
2
φ1 ( x)φ1 ( x)dx = ,
∫
L/2
0
φ1 ( x)φ2 ( x)dx =
4
、
3π
課題2
本文中に『電子はスピン角運動量を持つので磁石(磁気双極子を持つ)である。多電子系の場合、電子
は磁気的相互作用によって相互に結合して合成スピンを成す。』と記述がある。プロトンも(1/2) h と
(-1/2) h のスピン角運動量を持つ。水素原子に於いて、プロトン−電子の磁気的相互作用は考慮しな
くてもよいのだろうか。プロトン−電子の磁気的相互作用が、電子−電子の磁気的相互作用より、格
段に小さいという根拠をこれまでの講義中の資料から探して示せ。