高橋 博樹 鉄ニクタイド系化合物の高圧下における物性測定 §1.研究

平成 21 年度 実績報告
「新規材料による高温超伝導基盤技術」
研究代表者
高橋 博樹
日本大学文理学部・教授
鉄ニクタイド系化合物の高圧下における物性測定
§1.研究実施の概要
平成20年度までに、我々のグループでは LaFeAsO1-xFx、LaFePO1)、LaNiXO1-xFx (X=P, As),
SmFeAsO1-xFx,CaFe1-xCoxAsF などの Tc の圧力効果および LaFeAsO, SrFe2As2,CaFeAsF の圧
力誘起超伝導、11 型 FeTe0.92 の圧力効果について報告を行ってきた。平成 21 年度は、これらの
成果を踏まえ、新高温超伝導物質合成の指針を得ること、および大きな Tc の圧力効果の解明を
ねらいとして高圧下での結晶構造の圧力効果を調べた。平成21年度に対象とした物質は、1111
型 LaFeAsO1-xFx 及び 11 型 FeTe0.92 である。
LaFeAsO は約 160K で tetragonal 構造から orthorhombic 構造へ構造相転移を示し、低温では
反強磁性である。この物質について、2GPa 以上での圧力誘起超伝導と構造相転移の関連を調べ
るために、相転移温度の圧力効果を低温高圧 X 線回折で調べた。構造相転移温度は圧力ととも
に減少し、圧力で誘起された超伝導転移温度 Tc が最大値になるところで消滅するという結果を得
た。CaFeAsF など、他の物質と同様に、構造相転移が消滅するところでバルクの超伝導が出現す
るというスキームが自然であると考えられた。
11 型超伝導体 FeSe1-xTex は FeSe に Te をドープすることで、Tc が上昇し、約 50%のドープで最
大値を取り、FeTe は超伝導を示さない。FeTe は約 70K で tetragonal 構造から monoclinic 構造へ
構造相転移を示し、低温では反強磁性である。1 気圧で観測される構造相転移は圧力で抑制され
るが、高圧下では新たな相転移と思われる抵抗異常が観測された。低温高圧での結晶構造を決
定するために、SPring-8 の BL-10XU で高圧 X 線回折実験を行った。格子定数の圧力効果は、
層状物質では層間方向に大きく圧縮される場合が多いが、FeTe では、低温で等方的に圧縮され、
他の FeAs 系超伝導体に比べ、3 次元的な性質を持つことが示唆された。超伝導は 19GPa の高圧
1
まで観測されていないが、最近、FeTe については薄膜での超伝導が報告されている。我々のグ
ループでは一軸性の圧力を加えることにより、薄膜化と同様の異方的変形を物質に加え、さらに
詳しく調べる予定である。
§2.研究実施内容
平成 20 年度までに研究を行った、1111 型物質の LaFeAsO1-xFx、LaFePO、LaNiXO1-xFx (X=P,
As)、CaFe1-xCoxAsF の Tc の圧力効果および LaFeAsO, SrFe2As2, CaFeAsF の圧力誘起超伝導の
結果を踏まえ、Tc の圧力効果のメカニズムを調べ、新しい高温超伝導体の合成指針を得ることを
目的として、1111 型物質の LaFeAsO1-xFx および 11 型物質の FeTe0.92 の低温高圧 X 線測定と高
圧下電気抵抗測定を行った。特に、LaFeAsO1-xFx は最初に 25K を超える高温超伝導体として発
見された物質であり、圧力により 43K まで Tc が上昇する。このような非常に大きな圧力効果の理解
がメカニズムの理解につながると考えている。
1111 型物質の LaFeAsO1-xFx は東工大細野グループの神原らによりにより焼結法で合成された。
11 型物質の FeTe0.92 は物材機構の高野グループにより溶融法で合成された単結晶を用いた。圧
力は 2.5GPa まではピストントンシリンダーセルを、30GPa まではダイヤモンドアンビルセル(DAC)を
用いた。DAC では圧力媒体として NaCl(固体)を用いるのに対し、ピストントンシリンダーセルでは
圧力媒体として液体(Daphne7474)を用いるため、室温では 3.7GPa まで液体を保っている。低温
高圧 X 線回折実験は、SPring-8 のビームライン 10XU でダイヤモンドアンビルセルを用いて行い、
低圧の場合は Daphne7373 を、3GPa を超える圧力では最も静水圧性の高いヘリウムガスを圧力媒
体として用いた。
140
CaFeAsF の高圧実験では図 1 に示すような、
120
P-T 相図が得られている 4)。1 気圧で 110K に見
100
る と 思 わ れ る圧力で超伝導が出現している。
80
LaFeAsO に対し低温高圧実験を行ったとところ、
構造相転移温度は、超伝導転移温度が最大値
を示す約 12GPa で消滅することが示された。圧
力誘起超伝導は 2GPa 以上の圧力で観測されて
いるが、本研究により、バルクの超伝導は構造
相転移が抑制された後に出現していることが示
唆された。
T (K)
られる構造相転移が圧力で抑制され、抑制され
60
40
20
0
0
5
10
15
20
25
P (GPa)
図 1 CaFeAsF の P-T 相図
11 型超伝導体 Fe(Se1-xTex)は基本的に FeSe 面だけを持つ単純な結晶構造をもつ。また、12K
の Tc を持つ FeSe は、6GPa で 37K に達する非常に大きな Tc の圧力効果を示す。それ以上の圧
力では Tc は減少を続けるが、この原因として、結晶構造が 9GPa を超える圧力で、非超伝導の
2
hexagonal 構造に相転移することが指摘されている。我々が平成 20 年度より継続して研究を行っ
ている FeTe は約 70K で tetragonal 構造から monoclinic 構造へ構造相転移を示し、低温では反
強磁性を示す。
図 2 に示す高圧下での電気抵抗測定 1)から、この相転移は圧力によりわずかに抑制されるものの、
高圧下ではさらにいくつかの異常が観測されている。図 3 にまとめた相図 1)に示す HPI 相は低温
低圧相と同じ monoclinic 構造であることが X 線回折実験から明らかになった。さらに、HPII 相では
X 線回折パターンに新たなピークが現れることが観測されたが、構造決定にまでは至っていない。
HPII 相がより高圧下で安定化していくことから、この相の存在によって、高圧下で超伝導の出現が
抑えられていることが予想される。一方、Fe(Se0.5Te0.5)の Tc は、FeSe と同様に約 14K から約 2GPa
で 28K まで大きく上昇する。さらに高圧で Tc は減少するが、hexagonal 構造への相転移は報告さ
れていない。Gresty らによる Fe(Se0.57Te0.43)における低温高圧 X 線回折実験から Tc が最大値を取
る 2-3GPa 付近で orthorhombic 構造から monoclinic 構造へ相転移することが報告されている。
Fe(Se1-xTex)では、Te 濃度が高いほうが、高圧下で monoclinic 構造が安定になると考えられること
から、高圧下における Tc の上昇は抑えられていると考えられる。最近、FeTe については薄膜での
超伝導が報告されている。 c 軸が圧縮され、a 軸が広がる方向の変形に対応しており、monoclinic
構造が抑えられている。我々のグループでは一軸性の圧力を加えることにより、薄膜化と同様の異
方的変形を物質に加え、さらに詳しく調べる予定である。
図 3 FeTe0.92 の温度圧力相図
図 2 FeTe0.92 の各圧力における電気抵抗
3
§3.研究実施体制
(1)「高橋」グループ
① 研究分担グループ長: 高橋 博樹 (日本大学、教授)
② 研究項目
CaFe1-xCoxAsF の圧力効果
FeTe0.92 の圧力効果
実験手法は高圧下の電気抵抗、帯磁率、X線回折
§4.成果発表等
原著論文発表
① 発表総数(発行済:国内(和文) 0 件、国際(欧文) 4 件):
② 未発行論文数(“accepted”、“in press”等)(国内(和文) 0 件、国際 (欧文)0 件)
③ 論文詳細情報
1) Successive phase transitions under high pressure in FeTe0.92, Hironari OKADA, Hiroyuki
TAKAHASHI, Yoshikazu MIZUGUCHI, Yoshihiko TAKANO, Hiroki TAKAHASHI, J.
Phys. Soc. Jpn. 78 (2009) 083709.
2) High-Pressure
DOI:10.1143/JPSJ.78.083709
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Fe Mossbauer Spectroscopy of LaFeAsO, Takateru KAWAKAMI,
Takanori KAMATANI, Hironari OKADA, Hiroki TAKAHASHI, Saburo NASU, Yoichi
KAMIHARA, Masahiro HIRANO, Hideo HOSONO, J. Phys. Soc. Jpn. 78 (2009) 123703.
DOI:10.1143/JPSJ.78.123703
3) Anomalous He-gas high-pressure studies on superconducting LaO1−xFxFeAs, W Bi, H B
Banks, J S Schilling, H Takahashi, H Okada, Y Kamihara, M Hirano and H Hosono, New
Journal of Physics 12 (2010) 023005.
DOI:10.1088/1367-2630/12/2/023005
4) Pressure dependence of the superconductor transition temperature of Ca(Fe1−xCox)AsF
compounds: A comparison with the effect of pressure on LaFeAsO1−xFx, Hironari Okada,
Hiroyuki Takahashi, Satoru Matsuishi, Masahiro Hirano, Hideo Hosono, Kazuyuki
Matsubayashi, Yoshiya Uwatoko, Hiroki Takahashi, Phys.Rev. B 81 (2010) 054507.
DOI:10.1103/PhysRevB.81.054507
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