数百W、60Vの入出力

数百 W、60V の入出力:並列接続が容易で
温度上昇を最小限に抑える同期整流式
4 スイッチ昇降圧コンバータ
Keith Szolusha
LT3790 は 4 スイッチの同期整流式昇降圧 DC/DC コンバータで、最
大効率 98.5% 時に定電圧および定電圧の両方を安定化し、使用す
るインダクタは 1 個だけです。このデバイスは数百 W の電力を供給
可能であり、入出力定格 60V が特長なので、昇圧と降圧の両方の変
換が必要な場合の DC/DC 電圧レギュレータやバッテリ・チャージャ
120W、24V、5A 出力の
昇降圧電圧レギュレータ
図 1 に示す昇降圧コンバータは、負荷 0A ∼
5A のとき最大効率 98.5% で 24V を安定化し
ます。また、8V ∼56V の入力電圧範囲で動作
します。この回路は、調整可能な低電圧および
に最適です。
過電圧ロックアウトによって保護されます。この
デバイスは短絡保護回路を内蔵しており、出
力に短絡が生じるとSHORT 出力フラグによっ
LT3790 コンバータは、その同期スイッチング
外付けのゲート・ドライバ、または強制空気流
回路構成により、単独で大電力を供給できま
あるいはその組み合わせによって軽減できま
すが、最終的には大電力時のスイッチング損
すが、 2 個以上のコンバータを単純に互いに
失または導通損失あるいはその両方によって
並列に接続して負荷を分散する方が良い場合
基板が過熱し、コンバータ 1 個に負担がかか
があります。これは LT3790 昇降圧レギュレー
る可能性があります。熱は大型のヒートシンク、
タを使うと簡単です。
て示します。軽負荷時の DCM 動作による最も
低い消費電力と、逆電流保護が特長です。検
出抵抗 ROUT は、短絡と過負荷の両方の状況
での出力電流制限値を設定して、堅牢なアプ
リケーションを実現します。
RIN
1.5mΩ
VIN
8V TO 56V
4.7µF
100V
×2
51Ω
INTVCC
VIN
1µF
D1 D2
TG1
499k
BG1
OVLO
INTVCC
100k
0.1µF
M4
M2
L1
10µH
M3
120W、24V、5A 出力の昇降圧電圧
レギュレータは、効率が最大で98.5%で、
0.1µF
200k
4.7µF
50V
×2
BG2
SW2
TG2
ISP
ISN
FB
CTRL
CSS
33nF
1000pF
RT
RC
15k
CC
10nF
SGND
147k
200kHz
VOUT
24V
5A (12A*)
71.5k
1.37k
SNSN
SS SYNC VC
28 | 2015年1月: LT Journal of Analog Innovation
ROUT
8mΩ
PGND
PWM
100k
COUT
220µF
35V
×2
RSENSE
2mΩ
LT3790
ISMON
CLKOUT
PWMOUT
VREF
並列接続が簡単です。
+
SNSP
SHORT
C/10
CCM
IVINMON
33nF
図 1.入力電圧範囲が 8V ∼56V で
M1
SWI
EN/UVLO
27.4k
CVCC
4.7µF
0.1µF
BST1
IVINP
88.7k
C1
47µF
80V
BST2
IVINN
470nF
499k
+
D1, D2: NXP BAT46WJ
L1: COILCRAFT SER2915L-103KL 10µH
M1, M2: INFINEON BSC100N06LS3 60Vds
M3, M4: INFINEON BSC032N04LS 40Vds
C1: NIPPON CHEMICON EMZA800ADA470MJAOG
COUT: SUNCON 35HVT220M ×2
*WITH VIN > 20V, CAN DELIVER 300W USING ROUT = 4mΩ, RC = 5k, CC = 22nF
3.83k
設計特集
図 3.2 つの LT3790 24V 電圧レギュレータは並列接続するのが
簡単で、ディスクリート部品の温度上昇が制限されている出力の
倍増に対応します。
VIN
8V TO
56V
図 2.図 1 に示す 24V、5A のコンバータが 1 個の場合、どの
部品でも温度上昇は 12V 入力(a)時が最大 20°
C であり、9V
1.5mΩ
499k
470nF
499k
51Ω
4.7µF
100V
×2
1µF
入力(b)時が 50°
C です。8V 入力(c)時でも、最も高温の部
品が到達する温度は、強制空冷もヒートシンクによる放熱も
行わずに、わずか 96.5°
C です。
IVINP
EN/UVLO
EN
IVINN VIN INTVCC
27.4k
0.1µF
C/10
TG1
M1
SWI
SHORT
VREF
0.1µF
BG1
LT3790
PWM
M2
0.1µF
L1
10µH
VOUT
24V
10A (25A*)
ROUT1
8mΩ
M4
51Ω
M3
+
COUT1
220µF
35V
×2
+
COUT2
220µF
35V
×2
0.47µF
SNSP
CTRL
2mΩ
100k
SNSN
PGND
SS
33nF
4.7µF
50V
×2
BST1
INTVCC1
VIN = 12V
VOUT = 24V
IOUT = 5A
単層 PCB
強制空冷なし
4.7µF
10V
D1 D2
BST2
200k
SHORT
C1
47µF
80V
INTVCC1
CCM
OVLO
88.7k
+
BG2
IVINMON
CLKOUT
ISMON
SYNC
(a)
SW2
VC
1.37k
3.83k
147k
200kHz
5k
1000pF
SGND
RT
71.5k
TG2
ISP
ISN
FB
47nF
VIN
VIN = 9V
VOUT = 24V
IOUT = 5A
単層 PCB
強制空冷なし
1.5mΩ
499k
470nF
499k
IVINP
EN/UVLO
EN
51Ω
1µF
IVINN VIN INTVCC
88.7k
27.4k
0.1µF
C/10
TG1
SHORT
VREF
BG1
LT3790
33nF
M6
0.1µF
L2
10µH
M8
M7
ROUT2
8mΩ
51Ω
0.47µF
SNSP
2mΩ
100k
VIN = 8V
VOUT = 24V
IOUT = 5A
単層 PCB
強制空冷なし
M5
SWI
PWM
4.7µF
50V
×2
BST1
200k
0.1µF
C2
47µF
80V
4.7µF
10V
D3 D4
BST2
INTVCC2
SHORT
+
INTVCC2
CCM
OVLO
(b)
4.7µF
100V
×2
SNSN
PGND
SS
BG2
1nF
(c)
CTRL
IVINMON
ISMON
CLKOUT
SYNC
VC
470Ω
22nF
RT
SW2
TG2
ISP
ISN
FB
SGND
147k
200kHz
71.5k
14.0k
D1–D4: NXP BAT46WJ
3.83k
L1, L2: COILCRAFT SER2915L-103KL 10µH
M1, M2, M5, M6: INFINEON BSC100N06LS3 60Vds
M3, M4, M7, M8: INFINEON BSC032N04LS 40Vds
COUT1, COUT2: SUNCON 35HVT220M ×2
C1, C2: NIPPON CHEMICON EMZA800ADA470MJAOG
*25A FOR VIN > 20V AND ROUT1,2 =4mΩ
2015年1月: LT Journal of Analog Innovation | 29
マスタの CLKOUT ピンをスレーブの SYNC 入力ピンに直接接続して、2 つの並列接続コンバータの
位相を 180°
交互に配置することができます。コンバータ間の位相差を 180°
にすると、コンバータの
全体的な出力リップルは低減され、2 倍にはなりません。3 つ以上のコンバータを並列に接続した場
合は、外部のクロック信号源を使用するか、または CLKOUT ピンをデイジーチェーン接続して、コ
ンバータを同期し、位相をずらして動作させるか、同相で動作させることができます。
0.5
IL1(MASTER)
5A/DIV
IL2(SLAVE)
5A/DIV
IL1(MASTER)
2A/DIV
IL2(SLAVE)
2A/DIV
0.4
0.3
0.2
ISMON1
500mV/DIV
ISMON2
500mV/DIV
∆I (A)
0.1
ISMON1
500mV/DIV
ISMON2
500mV/DIV
0.0
–0.1
–0.2
–0.3
–0.4
VIN = 12V
VOUT = 24V
ILOAD = 10A
2µs/DIV
VIN = 24V
VOUT = 24V
ILOAD = 10A
2µs/DIV
–0.5
0
2
6
4
LOAD CURRENT (A)
8
図 4.並列接続コンバータのインダクタ電流と出力電流の整合
この 120W 基板の 12V 入力時の温度上昇は、
並列接続コンバータ、
図 2a に示すように最も高温の部品(スイッチ
定電圧のマスタ、定電流のスレーブ
位相をずらして動作させるか、同相で動作させ
ング MOSFET)でもわずか 20 °
C です。部品
並列接続のスイッチング・コンバータは、出力
ることができます。
の温度を過剰に上昇させずに、12V 入力時の
電圧範囲全体を通じて負荷を均等に分担す
出力電力を大きくするか低めの VIN から同じ
るのが理想です。定電圧または定電流で動作
120W を得る場合でも、なお余裕があります。
する LT3790 の能力により、1 つのマスタ・コ
ただし、出力電力を大きくするには、それに
ンバータで出力電圧を制御できます。さらに、
応じて出力電流制限値を増やすことが必要な
その電流モニタ出力(ISMON)は、スレー
ので注意してください。入力を 8V まで下げて
ブ・コンバータ固有の出力レベルと一致させ
120W 出力で動作させた場合、この標準の 4
るためにどの程度の出力電流を安定化するか
層 LT3790 PCB の部品は、強制空冷もヒート
(CTRL 入力)を 1 つまたは複数のスレーブ・
シンクによる放熱も行わずに(室温で)97°
C未
コンバータに指示します。この方法を使用して
イジーチェーン接続して、コンバータを同期し、
LT3790 を並列に動作させることによって形成
される 24V、10A(特定の条件では 25A、図
を参照)の電圧レギュレータを図 3 に示します。
2 つの並列回路を使用することにより、温度
上昇の最大値は、どのディスクリート部品でも
12V 入力の M3 および M7 MOSFET でわず
か 20°
C であり、9V 入力では 50°
C です。
図 3 の上側のコンバータ(マスタ)は、24V の
満にとどまります。温度上昇と入力電圧範囲を
複数のコンバータ間で電流が一致すれば、ほ
出力電圧を安定化し、下側(スレーブ)
コンバー
同じ大きさだけ制限して、きわめて大きな電力
ぼ理想的です。
タによって安定化される電流レベルを指示し
を供給するため、2 つ以上の LT3790 コンバー
タを容易に並列接続することができます。
マスタの CLKOUT ピンをスレーブの SYNC
入力ピンに直接接続して、2 つの並列接続コン
バータの位相を 180°
交互に配置することがで
きます。コンバータ間の位相差を 180°
にする
と、コンバータの全体的な出力リップルは低減
され、2 倍にはなりません。3 つ以上のコンバー
タを並列に接続した場合は、外部のクロック信
号源を使用するか、または CLKOUT ピンをデ
30 | 2015年1月: LT Journal of Analog Innovation
ます。マスタの ISMON 出力は、マスタがどの
程度の電流を供給しているかを示します。ま
た、スレーブの CTRL 入力に ISMON を直接
接続することにより、スレーブはマスタに従うこ
とを強 制されます。LT3790 の ISMON 出 力
レベルと CTRL 入力レベルは、一方から他方
への直接接続が可能になるように、まったく同
じように対応付けられます。また、そうすること
により、図 4 に示すように、全出力電流を並列
10
設計特集
並列接続のスイッチング・コンバータは、出力電圧範囲全体を通じて負荷を均等に分担
するのが理想です。定電圧または定電流で動作する LT3790 の能力により、 1 つのマス
タ・コンバータで出力電圧を制御できます。さらに、その電流モニタ出力(ISMON)は、
スレーブ・コンバータ固有の出力レベルと一致させるためにどの程度の出力電流を安
定化するか(CTRL 入力)を 1 つまたは複数のスレーブ・コンバータに指示します。
摂動信号を注入してループの応答を測定する
VOUT
1V/DIV
(AC COUPLED)
VOUT
1V/DIV
(AC COUPLED)
ISMON1
(MASTER)
500mV/DIV
ISMON1
(MASTER)
500mV/DIV
ISMON2
(SLAVE)
500mV/DIV
ISMON2
(SLAVE)
500mV/DIV
VIN = 12V
500µs/DIV
VOUT = 24V
ILOAD = 5A TO 10A
ことで各ループを測定することができます。
定電流のスレーブでは、そのループを切断し、
従来の電圧帰還経路ではなく電流ループの帰
還経路で信号を注入する必要があります。並
列動作時に使用するのは帰還ループだからで
す。図 7 に示すマスタのボード線図は、システ
ムの安定性を実証しています。
まとめ
500µs/DIV
VIN = 24V
VOUT = 24V
ILOAD = 5A TO 10A
LT3790 同期整流式昇降圧コントローラは、さ
まざまな負荷に対して 100W 超の電力を最大
効率 98.5% で供給し、複数のコンバータを並
図 5.並列接続コンバータのトランジェント応答では電流が均等に分担される
列接続するのが簡単で、さらに大電力の出力
にも対応します。出力電圧または出力電流を
接続コンバータ間で均等に分担するよう強制し
ことができます。図 5 に示す電流が 50% から
制御する能力と、ISMON 出力アンプと CTRL
ます。スレーブの電圧帰還ループはレギュレー
100% に変化したときのトランジェント応答で
入力アンプのレベル整合機能を組み合わせる
ション状態になっておらず、スレーブがマスタ
は、適切に補償されたコンバータと均等に分担
ことにより、マスタの電圧レギュレータと 1 つま
に従うことができるように、スレーブの出力電
された負荷電流を実証しています。ネットワー
たは複数のスレーブ電流レギュレータの接続
圧をわずかに高く(28V)設定していることに
ク・アナライザを使用してさらに解析すること
が簡単になります。結果として、数百 W を高効
注意してください。
により、個々のコンバータの詳細が分かります。
率で供給できる大電力 60V 昇降圧レギュレー
制御ループのボード線図を生成するためのノ
ションを実現できます。n
イズ注入点および測定は、定電圧レギュレー
トランジェント応答とネットワーク・アナライザ
タのマスタと定電流レギュレータのスレーブで
のループ解析を使用して、安定性を測定する
は異なります。これとは別に、図 6 に示すように、
IOUT
ROUT1
+
+
100Ω
CH1
– +
CH2
–
CURRENT LOOP BODE PLOT
MEASUREMENT SETUP
FOR SLAVE
72.8k
IOUT
ROUT2
VOUT
+
COUT1
– CH1 +
NOISE
INJECT
ISP
– CH2 +
39Ω
VOUT
COUT2
NOISE
INJECT
60
180
50
150
40
120
30
90
PHASE
20
GAIN (dB)
VOLTAGE LOOP BODE PLOT
MEASUREMENT SETUP
FOR MASTER
30
0
3.83k
ISN
図 6.並列接続コンバータのループ応答測定
0
GAIN
–10
–30
–20
–60
–30
VIN = 18V
VOUT = 24V
ILOAD = 10A
–40
–50
FB
60
10
–60
PHASE (°)
安定性を得るためのループ解析
0.2
–90
–120
–150
PARALLEL
1
10
FREQUENCY (kHz)
50
–180
図 7.ボード線図が示すのは並列システムの測定結果です。
2015年1月: LT Journal of Analog Innovation | 31