救急外来で注意すること 〜社会的問題あれこれ〜 高松赤十字病院 救急科 伊藤辰哉 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 1 医師法 • 第二条 医師国家試験に合格し厚生労働大臣 の免許を受けなければならない • 第七条 厚生労働大臣は次に掲げる処分をす ることができる • 第三章(第九条〜一六条) 国家 試験・臨床研修 診療をする 許可をもらっている 2 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 医師法第四章 • 第一七条 医師でなければ医業をなしてはならない • 第一九条 診療に従事する医師は、診察治療の求 があつた場合には、正当な事由がなければ、これを 拒んではならない。 • 第二一条 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産 児を検案して異状があると認めたときは、二十四時 間以内に所轄警察署に届け出なければならない。 3 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 応召義務(第一九条) • 罰則規定はない • ‘医師の品位’(第七条) ・社会通念上道徳的に不健全と認められる場合 ・診療時間外であって,軽度な患者の診療拒否 ・地域で休日夜間診療体制が敷かれており,かつ軽 傷である患者の診療拒否 ・医師の不在・病気で事実上診療が不可能な場合 ・標榜診療科以外に属する疾患であり,患者が了承し た場合(但し出来る限りの事をする必要はある) モンスター?? 4 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 診療契約 • • • • • 診療の開始を持って契約成立 契約であるから、医師・患者双方に義務 患者の義務 診療報酬支払い義務 診療協力義務 受診義務・診療行為協力義 務・療養方針遵守義務・問診応答(症状報告) 義務 未払い金は診療拒否理由にはならない 5 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 診療を拒否する?? • 現場の裁量? • 病院の方針 病院の方針? • 誰が責任を持つの? 当事者に丸投げはトラブルの元!! 6 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 診療拒否患者 • 病院として方針を決定 • 病院として対応が必要 • “病院の方針”として毅然と対応 7 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital トラブル患者 いわゆるブラックリ スト Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 8 一つの考え方 • 応召義務はある • お金は払うと言っているが、未払い金が○○万円 • ‘正常’な道徳が通用しそうにない(今にも暴れ出し そう) • 診療契約を守ってくれそうにない • ほかに病院もあるし • ・・・・・・・・・。 9 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 病院の方針が大切 • “法律”は遵守する • “大人の対応”をして感情的にならない • “ダメなものはダメ”というラインで毅然と対応す る • それでもやはり不安・・・ • 病院は守ってくれる?? 自分の身を守るために 10 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 日経メディカルより、長岡赤十字病院資料 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 危険を感じたら・・・ • 一人で対処しようとしない 身体だけでなく診断も • カルテに記事を残す 看護カルテにも残してもらいましょう • 警察に期待する 味方につけましょう 12 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 日系メディカルより、川崎市立多摩病院資料 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 知ってますか? • 警察直通電話 • 警察直通ベル 14 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 死亡診断書作成の 問題点 異状死の問題 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 15 医師法第二十一条 • 医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児 を検案して異状があると認めたときは、二十 四時間以内に所轄警察署に届け出なけれ ばならない。 そもそも、異状死って何?? 16 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 法的には異状死であって 異常死ではない 状態 異常 “状態”が”異常”な死であること 異状死の対極に 病死・自然死がある 17 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 異状死とは? • 異状死は警察に届けなければならない • 診療行為に関連した予期しない死(1994年 法医学 会ガイドライン) →診療行為中の死亡もふくまれる? • 医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又 はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに 所轄警察署に届出を行う。 (2000年 厚生労働省 国立病院部政策医療課) • 重大な医療過誤が疑われるか、存在があきらかで、 それが原因で患者が死亡した場合(2002年 外科 学会ガイドライン) • 外表面の検案にて異状があるもの(2003年 東京 高等裁判所「広尾事件控訴審」) 18 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 医療事故 →医療の現場・過程で発生する全ての 人身事故、過失は問わない 医療過誤 →医療事故の中で医療機関あるいは 医療従事者に過失があるもの Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 19 検視(検死ではない!) • 警察による検案 • 体表面の異状の観察・検証 • 死体の状況捜査であり、解剖と異なる 20 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital • 異状死の場合は必要 • 外因死は体表面の異状が存在している(し ていた)ので、異状死となり届け出が必要 • 死因が不明の場合は”病死”や”自然死”と 断定できないので”異状死”となり、検視が 必要となる • 本来は司法解剖をすべき! • 日本全国の司法解剖率約10%!! (欧米では司法解剖が当たり前) 21 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital Ai • Autopsy imaging • そもそも監察医がいない地域が多い(東京23区、大 阪市、神戸市のみ) • 異状死の解剖率は(平均)約10%前後 • Aiでの死因判明はせいぜい20〜30% • 解剖でも100%死因が判明できるわけではない(感 染症はわからない) • それでも解剖されないことが本当は問題 (社会的背景の問題?→これ以上傷つけたくない) 22 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital Aiの注意点 • 当院の64列オーダー画面に”Ai”専用がある • “時間的制約”で自身が読影する必要がある • 放射線科医の”読影”結果と異なることもあり得 る • Aiで死因が確定できることはほとんど無い(除 外診断にしかならないことを理解しておく) 23 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital ところで・・・。 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 24 突然警察が来た・・・ • 交通事故の現場から・・・。 • 留置中の患者を連れて・・・。 • “○○日になくなった患者のことで”と電話 が・・・。 さあどうしよう? 25 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital きちんと対応する(ぞんざいな態度は やめましょう) 余計なことは話さない 余計な検査はしない 患者の診療を優先する 安易に血液・尿検査を引き受けない →治療に必要ではない 治癒見込み日数はあくまでも医学的に判断 覚醒剤の報告義務はない 26 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 採血・採尿を頼まれたら? 応じる義務はない 保険は効かない どうしてもと泣きつかれたら? →本来は検察庁の命令書が必要 もし無ければ、最低限本人の同意(書)が必要 そして、カルテにしっかり記載! →病状紹介も本来は捜査関係事項紹介書が必要 患者の不利益になることは言わなくてもよい 27 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 患者の身寄りがいなかった・・。 診察・検査・処置は通常通り行うつもりで 地域医療室へ連絡する 高齢者であれば、ヘルパーの利用等から血縁 を調べることが可能 生活保護患者であれば市役所へ問い合わせ 24時間MSWが待機してくれると ありがたいのですが・・・。 当直師長の仕事です 28 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 法律的には・・・。 • 行旅病人および行旅死亡人取扱法→発生地 の市町村がその責任を負う • 老人福祉法・介護保健法→ホームヘルパー の規定 • 生活保護法→都道府県知事・市町村長・福祉 事務所開設者が保護を行う。民生委員は、市 町村長・福祉事務所長の執行に協力する。 29 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 身元不明の患者・・・ 診察・検査・処置は通常通りで 所持品を検索する 地域医療室へ連絡する 警察へ捜索情報を問い合わせる 市役所の保護課へ連絡 →行路人(行路病人)発生の自治体に、その行 路人に対する保護義務があります。 当直師長の仕事です(MSWがいないので) 30 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 救急外来で何が求められるか? • 症状の改善→対処療法 (× 根本治療) • 帰宅可能かどうか判断→各種検査 • (患者が求める)確定診断→まず不可能 • 診察の証拠→カルテ記載 (特に新患患者で)入院希望が強い場合は注意が必要 31 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 救急診療指針 改訂第4版(2011)より ①意識障害 ②失神 ③めまい ④頭痛 ⑤痙攣 ⑥運動麻痺、感覚異常・消失⑦胸痛 ⑧動悸(不整脈含む) ⑨高 血圧緊急症 ⑩呼吸困難 ⑪咳・痰 ⑫喀血 ⑬吐血・下血 ⑭腹痛 ⑮悪心・嘔吐 ⑯下痢 ⑰腰痛・背部痛 ⑱乏尿・無尿 ⑲発熱・高体温 ⑳倦怠感・脱力感 ㉑皮疹 ㉒外傷 ㉓熱傷 ㉔急性中毒 ㉕環境障害(熱中症・低体温症)溺水 ㉖異物 刺咬症 ㉗アナフィラキシー ㉘精神症候 こんなにあります!! 全てのエキスパートにはなれない!!! 32 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 意識障害 “診療エッセンシャルズ”から • 失神等の意識レベルの低下のみではなく、興 奮錯乱等の異常亢進状態も考える • ショックあるいは心停止、低血糖、低酸素血 症、中枢神経感染症、脳血管障害、高体温症、 これらは見逃してはならない • AIOEO-TIPS Department of Critical Care Medicine,Takamatsu 33 Red Cross Hospital AIOEO-TIPS Alcohol 急性アルコール中毒 VitB1欠乏症(ウェルニッケ脳症) Insulin 低血糖 糖尿病性ケトアシドーシス 非ケトン性高浸透圧性昏 睡 Uremia 尿毒症 Encephalopthy Endcriopathy Electrolytes Opiate/Overdose Oxygen(O2 CO2) Trauma/Tumor Temperature Infection Psycogenic Porphiria Seizure/Stroke Senile/Shock Syncope 34 肝性脳症 高血圧性脳症 甲状腺機能亢進・低下症 副甲状腺機能亢進 リーゼ 急性副腎不全 電解質異常 副腎ク 麻薬 薬物中毒 低酸素血症 一酸化炭素中毒 CO2ナルコーシス 脳挫傷 急性硬膜下・外血腫 脳腫瘍 低体温 高体温 慢性硬膜下血腫 脳炎 髄膜炎 脳膿瘍 敗血症 精神疾患 ポルフィリア てんかん 脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 急性大動脈解離 老人の脳循環不全 脱水 感染 心不全 ショック 失神 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital ICU当直医のおよそ7割は 腰 椎穿刺が得意(可能) 髄膜炎を疑えば コンサルトしてください 35 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 薬を飲んだ・・ • • • • • 睡眠導入剤では死ねない 直接毒性は数万〜数十万錠 急性アルコール中毒と同じ 胃洗浄は3時間以内 するなら太いチューブで(N-Gチューブは細すぎ る) • 胃洗浄より腸洗浄(活性炭注入) 36 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 薬物中毒は・・ • 種類によって異なる • 解毒剤が必要なものもある • 農薬(有機リン・パラコートetc.) • 一酸化炭素→酸素 • シアン化水素・硫化水素→硝酸アミル • 血液浄化(HD・CHDF・DHP) 37 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 総合感冒薬は危ない • アセトアミノフェン • 3g(感冒薬30錠)以上で肝壊死の危険 • アセチルシステインを投与しなければならない • 元気でも3〜4日の入院は必要 38 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 薬物中毒は・・・。 ただし、 • 急性期を脱したあとが大変 • ベースに精神疾患や社会的トラブルを抱えてい ることが多い→当院に精神科はありません • 家族の理解・協力が得られるとは限らない • 地域医療室(MSW)と仲良くして、転院先を探して もらいましょう 39 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 高齢者でたまにあること • • • • • • 医学的には入院の必要がないけど 一人暮らしで、帰ると明日もっと悪くなりそう 家族はいるけど、旅行中ですぐに来ない 家族と同居しているけど、認知症の配偶者 明らかに認知症だけど、自覚は全くない 入院させるしかないか・・・。 MSWがいてくれたらなあ・・・ 40 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 何を注意して診るか? • 重症患者、また重症化する危険性の 有る患者を見分ける事。 • “専門外”で生命の危機を見逃しても 世間様は許してくれない・・・。 世間様は許してくれない・・・ • 病院が責任を持つと言ってくれていま すが・・・。 41 Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital 救急外来は・・・ • • • • • • 42 人道・博愛(どこかで聞いたことが・・) ストレスがかかります 勉強になります いろいろなものが見えます 社会の一端(良い面・悪い面)が見えます “自分の成長のため”と思って頑張りましょう Department of Critical Care Medicine,Takamatsu Red Cross Hospital
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