ナノ・フォレンシック・ニュースvol.11(2015.1.9) - SPring-8

ナノ・フォレンシック・サイエンス・ニュース
Nano Forensic Science News
NFSN, vol.11
真実を照らすナノの光“放射光”で
安全・安心な社会を守る
巨大な顕微鏡:SPring-8
1 X線回折による構造解析
2 放射光による法規制物質のX線構造解析
⑴ 覚醒剤メタンフェタミン塩酸塩の粉末X線構造解析
⑵ 危険ドラッグ2種の単結晶X線構造解析
フォレンシック・サイエンス(Forensic Science):
“法科学”と訳され、一般的に警察の科学捜査よりも広い意味を持ち、裁判(法)に関係するあらゆる
サイエンス(科学)を扱う学問として欧米では定着しています。
NFSN, Vol.11 (2015)
January
2015.1.
1 X線回折による構造解析
およそ100年前、ラウエはX線を結晶に照射したとき、回折に
より結晶構造を反映したパターンが観察されることを発見しま
した(図1)。ブラッグ父子は、観察されるX線回折のパターン
から物質の構造解析を行うための理論的基盤を構築しました。
続いて、デバイとシェラーは、より一般的な粉末試料から構
造を解析する方法を発表し、X線回折による構造解析が広く
行われるようになりました。粉末のX線回折は、ランダムにさ
まざまな方向を向いた単結晶からの回折の総和になり、リン
グ状のパターンが得られます。
一方、単結晶を作製してX線回折を測定することを、単結晶
X線回折測定といいます。測定に適した単結晶を得ることが重要ですが、作製した結晶を強力なX線の
ビーム中に設置し、単一波長のX線を照射しながら結晶はゆっくりと回転させます。これによって、結晶
の全方向についての回折強度が記録され、何万ものデータが収集されます。
得られたデータと、化学的情報を組み合わせ、近年、計算機能力が進歩したコンピュータを用いるこ
とで、結晶中における原子の配列モデルを作成、精密化することが可能です。最終的に得られた結晶
構造は、右手・左手の関係のような不斉炭素の絶対配置をも決定することができます。
2 放射光による法規制物質のX線構造解析
法規制薬物の構造を僅かずつ変化させたものが、危険ドラッグ(脱法ドラッグ)として多く流通するよう
になってきました。これらの新規薬物は、成分特定に多くの時間を要し、取り締まりの障害となっていま
す。
SPring-8が発生するX線は、実験室のX線発生装置に比べ100万倍~10億倍も明るいうえ、実験条件
に応じてエネルギーを選択できるという優位性があるため、高輝度光科学研究センター(JASRI)のナノ・
フォレンシック・サイエンス・グループでは、放射光X線構造解析によるこれら薬物の迅速な構造決定、
成分特定を目的として研究を行ってきました。その成果について日本法科学技術学会第20回学術集会
で発表をしました。本稿では、発表内容の覚醒剤の粉末X線回折及び危険ドラッグの単結晶構造解析
について紹介いたします。
⑴ 覚醒剤メタンフェタミン塩酸塩の粉末X線構造解析
粉末X線回折測定は、単結晶が得られない粉末試料でもキャピラリーに詰めて測定できます。こ
こではSPring-8の粉末X線回折測定ビームラインであるBL02B2 (図2)で、内径0.3mmのキャピラ
リーに覚醒剤メタンフェタミン塩酸塩(図3)を詰め、測定しました。絶対構造(d-体、ℓ-体の識別など)は
決定できませんが、分子の3次元的な構造や結晶内での分子配列が分かります(図4-6) 。
⑵ 危険ドラッグ2種の単結晶X線構造解析
未知薬物の構造を決定するために、単結晶X線回折測定を実施します。通常は大きな単結晶(数
100µmオーダー)が必要ですが、放射光を用いることで10μmオーダーのもので測定が可能です。元素
分析情報を用いずに、結晶構造の決定が可能かを試みました。 ここでは、 SPring-8の BL40XUビー
ムラインに設置されているピンポイント構造計測装置を使用して、危険ドラッグに指定されているジフェ
ニジン塩酸塩、4-メトキシ-PCP塩酸塩の測定を実施しました(図7-11)。
キャピラリーの先端
に試料を保持し、2軸
で回転させ測定した
オートサンプラーを
配した蛍光X線分析装置
加速器診断用ビームライン
BL05SS
No.149
No.178
オートサンプラーを配した
放射光蛍光X線分析装置
以上のように、危険ドラッグであるジフェニジン塩酸塩及び4-メトキシ-PCP塩酸塩の放射光Ⅹ
線マイクロビームⅩ線回折測定を行ない、単結晶構造解析を行うことで、3次元構造を得ることが
できました。
今回は1次構造が判明している危険ドラッグを分析しましたが、未知の薬物についても適用でき
る手法であり、次々に現れる新規薬物の成分鑑定に非常に有用な手法であると考えられます。
今後は、関連する各研究機関と連携して、未知の薬物の単結晶構造解析を迅速に実施できるよ
うな体制作りを検討しておりますので、そのようなご要望がありましたら、下記までご連絡をいただ
けますようにお願いいたします。
犯罪捜査における証拠物の分析についての相談先:
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
利用研究促進部門 ナノ・フォレンシック・サイエンスグループ
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
4
Tel: 0791-58-0877
Fax: 0791-58-0830
[email protected]
http://www.spring8.or.jp/ja/facilities/research_utilization/research_utilization/nfsg/