よりクリーンなエネルギー - Nickel Institute

マンハイムにおける排出量の
削減とエネルギーの増加
高温岩体:ニッケル利用の地熱
発電所
ニッ ケ ルとそ の 用 途 の 情 報 誌
よりクリーンなエネルギー
ニッケルがそれを可能にする
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
Boundaryダムでの炭素回収貯留
MECH-TOOL ENGINEERING
ケーススタディ04
r Armadaプラットフォーム
w 宿泊設備モジュールの取り付け
w 階段モジュール
ARMADAプラットフォームの
宿泊設備モジュール
BGグループが運用するArmadaプラットフォームは、北海中央部、スコットランド・アバ
ディーンの東250kmの位置にあり、3カ所のコンデンセート・ガス田を開発していま
す。2009年、プラットフォーム上の宿泊設備を拡張し、さらに59名の人員が生活でき
るようにしました。宿泊設備モジュールの構造被覆材に用いられたのが波形のニッケ
ル含有ステンレス鋼です。選ばれたのは、EN10088-2技術規格に準拠した2B標準ミル
仕上げのオーステナイト系ステンレス鋼、等級1.4401(UNSS31600)です。
炭素鋼の場合、沖合の苛酷な環境では定期的な再塗装と保守が必要になるのに対
し、ステンレス鋼は保守の手間が通常はほとんどいりません。北海の厳しい条件下での
保守は容易ではなく、しかも宿泊設備モジュールが片持ち梁設計であるため、なおさら
保守作業は困難です。30年の設計寿命中、多額の費用を要する保守を避けるため、外
部条件にさらされるすべての鉄鋼をステンレス鋼にすることが決定されました。
ステンレス鋼パネルを絶縁材と共にプレハブ方式で組み立て、炭素鋼の構造フレーム
に溶接します。溶接後、鋼板を酸洗浄し残存鉄粒子を除去します。鉄粒子が残ってい
ると、海洋環境にさらされて錆を生じるからです。
完成したモジュールを陸路で海岸に運び、そこから船でArmadaプラットフォームに輸
送しました。持ち上げ用のパッドアイを、被覆材越しの形で各モジュールの4カ所のコー
ナーで炭素鋼フレームに取り付けました。さらに第二層にモジュールを配置する際のガ
イドとしてパッドアイを二重にしています。下層のモジュールは、スチール等級A4-80の
ボルト(引張強度800MPaのS31600)を使用してモジュール支持フレーム(MSF)に固定
しています。
モジュールは2対2の形で互いに接続し、将来の第三層設置を可能にしてあります。階
段モジュールは両端を互いに接続し、固有の支持フレーム上に取り付けています。
2 ケーススタディ
宿 泊 設 備 モ ジュー ル はそ れ ぞ れ 長 さ
11.93m、幅4.50m、高さ3.20mあり、重量
およそ23トンです。フレームと補強平板の
床 および 屋 根 は 炭 素 鋼 で、そ の上に幅
250mm、高さ80mm、厚み2.0mmの波形
ステンレス鋼壁板を重ねています。
モジュールの耐火性等級はH60です。これ
は、温度1100度に達する炭化水素火災に
さらされても60分間は耐荷重機能を維持
できなければならないことを意味します。
選択した等級1.4401(S31600)のステンレス
鋼は、60分間の火災曝露後も適切な強度
と剛性を維持すると同時に、非常に優れた
延性と強靭性を備え、最大爆発圧力110ミ
リバールで立ち上がり時間と減衰時間が10
ミリ秒と互いに等しい爆発事故に際して
も、変形を最小限に抑えることができま
す。ステンレス鋼は、高強度、優れたエネル
ギー吸収特性、高延性を持つため、耐爆発
用の構造物にとって理想的な材料です。つ
まりステンレス鋼は、破壊されることなく大
きな衝撃を吸収できるのです。
モジュールの構造性能を、深刻な負荷のあ
らゆる組み合わせについて分析しました。
検討した負荷は風、雪、氷です。
本記事はTeamStainlessに代わってSCIが
作成した「構造用ステンレス鋼」ケースス
タディ・シリーズに手を加えたものであり、
以下からダウンロードすることができま
す。
www.nickelinstitute.org
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
プラットホーム写真:TERRY CAVNER
ISTOCKPHOTO.COM © EGAL
安全のための設計
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
ISTOCKPHOTO.COM © ROBAS
ニッケルとその用途の情報誌
発行:ニッケル協会
www.nickelinstitute.org
プレジデント:Tim Aiken
編集発行人:Clare Richardson
[email protected]
投稿者:Richard Avery, Nicole de Boer, Les Boulton, Gary
Coates, Jutta Klöwer, Bruce McKean, Klaus Metzger,
Frank Smith
住所:
Nickel Institute
Eighth Floor
Avenue des Arts 13-14
Brussels 1210, Belgium
Tel. 32 2 290 3200
[email protected]
本誌は読者への一般情報提供を目的としており、
しかるべき
助言を確保せずして、いかなる特定の目的あるいは用途の
ために使用もしくは依拠されるべきではない。本誌は専門的
に見て正確であると信じられるものではあるが、ニッケル協
会とその会員、スタッフ及びコンサルタントはあらゆる一般
的な、
もしくは特定の目的のための適合性について、何ら表
明もしくは保証するものではなく、
また本書に示されている情
報に関して、いかなる種類の義務もしくは責任を負うもので
はない。
エネルギーについて語る
すべての人(とすべての国の政府)がエネルギーについて語りますが、アイスランドにいて地熱源
による熱の恩恵を享受している時はおそらく例外でしょう。
エネルギーの話は時として経済、政治、環境についての深刻な対立にまで行き過ぎることがあ
ります。世界はある種のエネルギー源に依存し過ぎていると考える人もいれば、エネルギーの
不足や過剰、またはそれに起因する経済の乱高下を心配する人もいます。エネルギー価格をあ
まりに高いと考える人もいれば、安すぎる、危険すぎると考える人もいます。石油と天然ガス、
原子力、風力、太陽光、水力、どれについても批判があります。
世界のエネルギー生産、すべてのエネルギー源別、2012年
5% 4%
| |
ISSN 0829-8351
印刷:カナダ 再生紙使用
表紙:Constructive Communications
表紙写真:Boundary Dam CCS facility
© Kristopher Grunert
11%
|
40%—
—17%
目次
焦点
編集者記 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3
ケーススタディ
宿泊設備モジュール . . . . . . . . . . . . . 2
特集
原子力発電所 . . . . . . . . . . . . . . . . .4-5
地熱エネルギー . . . . . . . . . . . . . . .6-7
炭素の回収と固定 . . . . . . . . . . . . .8-9
高温の石炭火力発電所 . . . . . . .10-11
注目される用途
ワイヤー・ライン. . . . . . . . . . . . . . . 12
オゾン水処理 . . . . . . . . . . . . . . . . . 13
Maria Pergay . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
簡略に
UNS details. . . . . . . . . . . . . . . . . . . 14
ニッケルによるナノ構造 . . . . . . . . . 15
|
23%
その他
石油
原子力
水力
天然ガス
石炭
出典:WWW.TSP-DATA-PORTAL.ORG
デザイン:Constructive Communications
1042
879
2344
3619
4744
8390
合計=21,016TWh
とはいえほとんどの人は、エネルギーをどのように生産、輸送、保存するかにかかわりなく、エネ
ルギーを妥当な価格で信頼して利用できるからこそ現代社会が存続できる、という点には同意
するはずです。
Nickel誌の本号は、エネルギーをどのように生産するか、エネルギー生産の影響をどのように緩
和するかに関して、ニッケルがその特徴を発揮している用途をいくつか取り上げます。
中でも重要なのは石炭です。グラフからわかるように、少なくとも中期的には石炭が中心的なエ
ネルギーであり続けることは確実だからです。本号では、石炭による温室効果ガスの排出問題
に取り組む革新的な二つの取り組みを取り上げます。ドイツのマンハイム発電所とカナダ・サス
カチュワン州におけるBoundaryダム炭素回収貯留施設です。どちらの取り組みも、人類が持つ
最も豊かな炭素燃料である石炭を、どうすればもっと害の少ない方法で利用できるかを示して
います。そしてどちらの取り組みも、ニッケル含有合金の特殊な品質なしには実行が不可能だっ
たはずです。
石炭だけが賛否両論のある燃料というわけではありません。P.4~5の記事は、将来の原子力に
ついて驚くべき数字を明らかにしています。このグラフで原子力による電力が全体の11%を占め
ていますが、このシェアがすぐに消滅することはおそらくないでしょう。
エネルギーに関する議論は今後もやむことはないでしょうし、そうすべきではありません。世界
が未来のエネルギーをどのように確保するかは今後も変化を続けるでしょうが、エネルギー生
産に関してどのような選択をするにせよ、さらにどの部分で技術革新が発生するにせよ、その実
現には必ずニッケルが寄与するはずです。
ニッケルガリウム触媒 . . . . . . . . . . 15
Web links . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
Clare Richardson
ニッケル誌編集長
焦点 3
永続する原子力
ニッケルによって二酸化酸素排出ゼロが可能に
r Yangjiang発電所のポスター:2018年に建設が完了すれば6基の原子炉が生まれる。
Jingyu
s 中国の原子力発電所(2008年のデータ)
Liaoning Donggang
Xudabao
Rongcheng
Hongyanhe
証拠が示すところに
よれば、原子力由来
の電力量は今後も同
一水準を維持します
Ganshu Baiyin
Rushan
Haiyang
Luoyang
Tianwan II, Jiangshu II
Xianning Dafan
Tianwan
Jiyang
Anhui Wuhu
Qinshan II
Qinshan I
Qinshan I,II,III
Sanmen, Sanmen II
Pengze
Ningde
しかしニュースの見出しではなく、証拠が
示すところによれば、原子力由来の電力
量は今後もパーセンテージとして同一水
準を維持し、場合によっては大きく増加
する可能性があります。二つの例として
中国とサウジアラビアがあります。
Nanping
計画中
建設中
操業中
出典:Tepia 調査研究所
(2008年11月時点)
中国
中国は二つの課題に直面しています。急
成長する経済に必要なエネルギーをどのように供給するかと、
深刻な温室効果ガスの排出をどのように抑制するかです。中国
は石炭の埋蔵量が非常に多く、開発が容易であることを考える
と、状況はなおさら難しいものになります。
中国は太陽光を中心とする再生可能エネルギーの導入でも目立
っていますが、電力のベースロード(中断不能な)供給のかなり多
く部分を原子力でまかなう明確な決断を下しています。2013年
時点で中国には21カ所の原子力発電所があり、それが中国の
電力需要のわずか2.1%だけを満たしていました。しかし現在、
新たに26の原子力発電所が建設中であり、64が計画段階にあ
り、さらに123の提案があります。
そのすべてが実現することはほぼあり得ませんが、原子力を導
入しようとする決意の大きさは、その理由と共に明白です。その
4 特集
Sanming
Peng’an
Fuqing I
Fuling
Chongqing Shizhu
Changde
Taohuajiang
Xiaomoshan
Guangxi Fangchenggang
Putian
Zhangzhou
Lufeng
Ling’ao II
Taishan
Yangjiang Daya Bay, Ling’ao
Hainag Changjiang
ISTOCKPHOTO.COM © FOREST_STRIDER
原子力発電に要する資本費用は莫大で
すが、運転費用と人および環境に及ぼす
影響は、炭素燃料より優れています。ま
た原子力に対する態度が国によって大き
く異なるのも事実です。
WIKIMEDIA COMMONS
原子力エネルギーによる電力はこれまで
つねに別物として扱われており、それが
変わることはないはずです。世界の関心
は再生可能エネルギーやその大きな発
展に集まっているものの、原子力エネル
ギーはベースロード発電の中で依然とし
て大きな部分を占めています。今後も議
論は続くでしょうが、原子力を電力源の
一つとして認める選択と決定が下される
ことは、様々な理由から明白に思われま
す。
理由とはすなわち、中国国民に呼吸できる空気を提供し、温室
効果ガスを大きく減らすことです。
サウジアラビア
サウジアラビアが2030年までに(決定時点の0から)新たに16基
の原子炉を建設しようとする理由は中国と異なります。工業を推
進しようとする政府の意向に加え、炭化水素燃焼による電力の
生産は、そうした資源に恵まれた国にとって安価で論理的ではあ
るものの、付加価値を持つ多数の製品を生み出すことが可能で
あるにもかかわらず、有限の資源を非効率的に利用することだと
いう認識があります。
結論は明白です。
「原子力時代」は終わっておらず、原子力産業
においてもその他すべての電気エネルギー源と同様、ニッケル
含有材料が今後も不可欠だということです。
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
w Sanmen原子力発電所が完成すれば6基の原子炉が生まれる。写真
は2014年2月時点で建設中の1基。中国では現在26カ所で原子力発
電所が建設中。
s 蒸気利用の発電所に関係するすべての部品が大規模なものであり、
原子力におけるニッケル
原子力発電所もそれ以外の発電所と似ています。熱源によ
って水(原子力の場合は加圧式の軽水または重水)をボイラ
ーで蒸気に変換し、それをタービンに供給して発電機を回し
ます。ただし燃料の性質上、熱源の取扱いは大きく異なりま
す。
ただし、どのような発電所にも存在が想像されるすべてのニ
ッケルは、原子力発電所にも存在します。ボイラーのニッケ
ル合金、ボイラー管、ポンプ、配管、タービン、発電機などで
す。冷却のために塩水を利用する発電所では、そのほか配管
設備、フィルター、熱交換器の材料にもニッケルが使われて
います。
原子力発電所では使用済み燃料の保管および輸送を含め、
耐用年数に特別に慎重な関心を払います。原子力産業で広
く用いられているニッケル含有製品にはそのほか以下があり
ます。
• 機構モジュール:モジュールユニット内にある機械類、ポ
ンプ、バルブなど、炭素鋼、コンクリート、リーン二相系ス
テンレス鋼2101(UNSS32101)のサンドイッチ構造になっ
ているすべての製品。Westinghouse社が設計した原子力
発電所AP1000の機構モジュールはおよそ500トンの二相
系ステンレス鋼を使用しています。
このページの写真: ©2015 WESTINGHOUSE ELECTRIC COMPANY LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
あらゆるところにニッケル含有材料が使用されています。
• 汽水分離器:汽水分離器は乾燥(脱水)蒸気をタービンに
供給します。こうした特殊な圧力容器は、コバルト成分を
非 常に低く抑えた(<0 . 0 6 % C o )厚さ3 5 ~ 5 0 m m の
316L(S31603)ステンレス鋼製であるのが一般的です。注
意すべきは、乾燥蒸気はタービンブレードの腐食を低減
および抑制する上で重要であり、こうしたユニットは原子
力産業に独自なものではないことです。
• アキュムレータタンク:原子力では安全性が最優先であ
り、緊急停止に関係する手続きは特に要求が厳しくなりま
す。原子炉容器の直近に位置し、冷却液リザーバをともな
うアキュムレータタンクは、やはりコバルト成分の少ない
304L(S30403)製が一般的です。
• 使用済み核燃料の短期/中期の保管:放射性は時間と共
に減少しますが、近年に最も厳しい状況が発生しまし
た。容器(CASTOR:放射性物質の保管および輸送容器)の
サイズと構造は様々ですが、ボロンを含んだ304Lという
特殊ステンレス鋼を用いることが多いようです。たとえば
S30467は、放射線を緩和/吸収する能力で知られるボロ
ンを2%含んでいます。
• 使用済み核燃料の長期保管:様々なバージョンがありま
すが、ほとんどはニッケル含有ステンレス鋼を利用してい
ます。
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
特集 5
高温岩体
地熱エネルギーと
ニッケルの役割
発電での地熱エネルギー利用はあまり目立っていませんが、
いくつかの国では現在の、または将来のエネルギーミックス
に重要な意味を持っています。また、気候に影響を受ける風
力、太陽光、水力などをしのぐ最も信頼できる再生可能エネ
ルギー源と表現されることもあります。ただし地熱の生産環
境は厳しい場合が多く、工学的な見地からは、地熱エネルギ
ーを利用可能にするにはニッケル合金とニッケルステンレス鋼
が必要です。地熱発電所の建設には膨大な費用がかかりま
すが、一度完成して運転を開始すれば運転費用は比較的安
価です。
WIKIMEDIA COMMONS
地熱エネルギーは、地球のサーマルコアから出る熱を回収し
て得ます。
地熱流体は、地下で200~325℃に加熱された、加圧水およ
び蒸気から成る自然発生の鉱化混合物です。そして地熱地帯
r アイスランドのNesjavellir地熱発電所
で、深さ最大3kmの生産井から蒸気と熱水を汲み上げます。
s ニュージーランド・カウェラウにあるMighty River 100MW発電
地熱地帯の高圧な熱水を地熱発電所で蒸気と水に分離し、
所の分離器は、地熱地帯の熱水を蒸気と水に分離します
乾燥蒸気を利用して発電機のタービンを回して電気を生産し
ます。
WIKIMEDIA COMMONS
ISTOCKPHOTO.COM © ALEXEYS
地熱エネルギーに至る道
また地下にある高温の乾燥岩石から地熱エネルギーを生成
することもできます。その場合、熱は得ますが流体が流出する
ことはありません。
強化地熱システム(EGS)は成熟した技術であり、深度3kmの
ボアホールをきわめて高温な地下の花崗岩まで掘削します。
このボアホールに水を注ぎこむとそれが岩石によって加熱さ
れるので、それを回収井から汲み上げて地上で利用します。
地熱エネルギーが持つ大きな利点の一つは、地熱エネルギ
ー生産によって発生する廃流体を地熱地帯に戻すことができ
る点です。このプロセスは地熱流体の補充に役立ち、補充し
た流体が再び地下で加熱されます。また廃流体を地下に戻す
ことで、地熱塩水による地表水の汚染を防ぐことにもつなが
ります。
地熱塩水は腐食性です。酸性であり、金属イオン、腐食性の
塩化物および珪質化合物、さらには二酸化炭素、酸化硫黄、
硫化水素などの腐食性気体を含むことが多くあります。高温
で腐食性の化合物と気体は、地熱発電所の処理設備および
配管の多くの部分に接触することになり、つまりニッケル含有
材料が大きな役割を果たします。
6 注目される用途
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
1. リザーバ
2. ポンプ室
3. 熱交換器
4. タービン室
5. 生産井
6. 圧入井
7. 地域暖房のための熱水
8. 多孔質の堆積物
9. 観測井
10. 結晶質の岩盤
ニッケルがそれを可能にする
配管や処 理 設備に炭 素 鋼を利用した古い地 熱 発電 所で
は、腐食による損傷が大きな問題でした。操業経験が増え
るにともない、型式304L(UNSS30403) 、316L(S31603) 、
310S(S31008)、321(S32100)といったニッケルステンレス鋼
の使用が増え、現在ではそれが地熱発電所の大半で用いら
れる主流の合金となっています。
…ニッケル成分が多い耐腐食
性の合金の利用が増加してい
ます
ISTOCK.COM © 1TOMM
WIKIMEDIA COMMONS
強化地熱システム
しかしステンレス鋼の中には、地熱塩水による孔食や塩化物
または硫化物に起因する応力腐食のひび割れが発生しやす
いものもあります。そのためニッケル成分が多い耐腐食性の
合金の利用が増加しています。
地熱ホットスポット
腐食防止剤を用いても腐食性環境を緩和できない場合、型
式2205(S32205)、2507(S32750)、2707(S32707)の二相系
ステンレス鋼や、904L(N08904)およびMo6%含有の合金(た
とえばS31254やN08367)といった高ニッケルのステンレス鋼
が優れた性能を発揮することが多くありました。
・米国、フィリピン、イタリア、メキシコ、インドネシア、
日本、アイスランド、ニュージーランドは世界でも主
要な地熱エネルギーの生産国であり利用国です。
しかし地熱 塩 水には様々な種 類があるため、単一の万能
薬 があるわけではありません。プロセス流体に対し最も
優れた性能を発揮する材料を見つけるには研究が必要で
す。運 転 上のニーズにもよっては、合 金625( N06625)、
C-276(N10276)といったニッケル合金や、それよりもさらに
高ニッケルの合金が必要になります。合金600(N06600)、
601(N06601)、825(N08825)といったその他のニッケル合
金も、高腐食性で特殊な地熱環境での操業に対応する場合
に選択されることがあります。
地熱は環境に優しく利用しやすい成長性のあるエネルギーで
あり、それを利用できるのもニッケル合金を使用するおかげ
です。
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
・世界で地熱発電可能な地域と地質活動の活発な
地域は密接な相関関係があります。
・ほとんどの国で地熱発電量が着実に増加しつつあ
ります。
・2013年に220兆BTUの地熱エネルギーが生産さ
れました。
・初期投資費用は高額であり熱効率は低いものの、
いったん確保できれば地熱は無料、クリーン、一定
(ベースロード電力にとって理想的)であり、人類に
とって事実上無限です。
・コンパクトな地熱発電所は、化石燃料の輸送費の
負担や送電網への接続が不可能な孤立集落でも、
生活水準を向上させることができます。
注目される用途 7
完全に一周する炭素
ニッケルによって石炭火力発電所は炭素排出量を90%削減できます
数値と必要性については議論があるものの、社会は排出する炭素の量を抑制する方向に着実に進んでいます。利用可能なあらゆる
手段について試行と実験が行われており、たとえば炭素排出量の少ない代替燃料への移行(石油から天然ガスへ)を促す経済的イン
センティブ(「炭素税」)に始まり、操業上のゼロ炭素の実現(水力その他の気候に影響を受ける再生可能エネルギーや地熱)に至る試
みがあります。
プロセス
微粉褐炭を燃焼して熱を生成し、その熱
を利用して蒸気を作り出し、排煙はCCS施
設に流出させます。最初に、専用のアミン
化合物による吸収カラムとストリッパー回
路で二酸化硫黄(SO 2 )を100%回収しま
す。次に排煙を、アミン化合物を用いる高
さ52mの吸収カラムに流し、そこで二酸化
CCS施設は毎年100
万トンの二酸化炭素
の排出を防ぎます
炭素(CO2)を90%回収し、その上で処理済
みの排煙をシステムから排出します。
炭素を大量に含んだアミン溶液をCO2ス
トリッパーに送り、そこで分離、濃縮、圧
縮を行います。それによって希薄(低炭素)
となったアミン溶液は、清浄化した上で吸
収カラムに戻します。CO2とSO2のどちら
のアミン回路も閉じた回路です。
以上が化学反応、温度、そして配管系、ラ
イニング、ポンプ、熱交換器、圧縮機、補
助機械類などに用いる要求の厳しい材料
仕様が関係する非常に複雑な相互作用を
単純化した説明であり(図参照)、こうした
部品のほとんどすべてが、長期耐用年数
に及ぶ信頼性のために必ずニッケル成分
を利用しています。
生成物
CCS施設の目的は排出物質を減少させる
ことであり、毎年100万トンの二酸化炭素
排出を防ぎます。この施設にとって必要
なのは収益を上げることです。市場価格
で売却する電力や石油増進回収のための
CO 2の販売に加え、燃焼によって発生す
るフライアッシュはコンクリートの添加物
として、安価ではあるものの実質の価値
があります。さらにSO 2は、多くの産業プ
ロセスで原料となる硫 酸に変 換できま
す。
Boundaryダム発電所のCO 2には行き先
が2カ所あります。大部分はパイプを通じ
て65km先の油田に送り、そこで油田に圧
入して圧力を高め、採収可能な石油量を
増加させます。残りは地下3.4kmの安定
した塩水帯水層に圧入します。
sSO2 の回収と硫酸への変換、そしてCO2の回収、利用、貯留:ニッケル含有材料に依存する
複雑なプロセス
炭素回収プロセス
熱回収へ
既存の煙突
CO2
吸収装置
CO2
回収装置
ボイラー
CO2
ガス
石油増進
回収施設
粉砕された亜炭石炭
飛散灰を売却
SO2
吸収装置
CO2
注入井
SO2
回収装置
タービンか
らの蒸気
凝縮水
冷却塔
タービンか
らの蒸気
凝縮水
集塵
8 特集
硫酸を売却
原油採収
地下1.5km
の油を含む
地層
Aquistore
(CO2貯蔵実証
プロジェクト)
炭素貯蔵
インフォグラフィック:CONSTRUCTIVE COMMUNICATIONS, SOURCE INFORMATION:SASKPOWER
それとちがう方法として、全世界に豊富に
存在する石炭資源から気候に影響を与え
る二酸化炭素が発生しても、それが大気中
に放出されないようにしつつエネルギーを
得る方法があります。この方法には炭素の
回収貯留(CCS)が必要であり、カナダ・サス
カチュワン州のBoundaryダム石炭火力発
電所において、産業規模で初めてその可能
性を試しています。そしてそこでは、ニッケ
ル含有材料が至るところに用いられていま
す。
地下3.4kmの塩性砂岩地層
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
KRISTOPHER GRUNERT
v ダムのCCS施設
チャレンジの規模
BoundaryダムのCCS施設は約11億米ドルの費用によって、
褐炭を用いる139MWの発電機1基(同施設を構成する4基の
発電機のうちの1基)から1,000,000トンの二酸化炭素を除去
します。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)により、地球温暖化
傾向を2℃以下に保つのであれば、現存または未完成の石炭
火力発電所7,000カ所のすべてに、Boundaryダムまたはそ
れに類似した技術を2050年までに設置することが必要にな
ります。
PHOTOS: SASKPOWER
事業者であるSaskPowerは、ここで学んだ教訓によって類似
のプラントを今後建設し操業する費用を大幅に削減できる
と考えています。とはいえ、予想される収益に比した資本費
用の額や将来の炭素コスト(したがって非排出炭素がもたら
す利益)に関する不確実性から、現在のCCSは成熟した技術
ではあるもののまだ経済性は獲得していません。
rr (上と右)プラントのあらゆるところにニッケル含有ステンレス
鋼が多用されているのが明らかです
r (左)設置前のCO2ストリッパー。操業の心臓部であるニッケル含
有のこの装置が、二酸化炭素を毎日3,000トン回収
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
特集 9
r Grosskraftwerk Mannheim GKM発電所
もっと高温に、もっと高く、もっとクリーンに
ニッケル合金で石炭火力発電所の効率を改善する
化石燃料を用いる発電所では、蒸気温度を700℃に上げ蒸気圧力を350barに上げれば、効率を高めることができます。しかも同
時にCO2その他の排出物を減らすことができます。そうした高温高圧の環境では、ニッケル含有材料がきわめて重要な役割を果た
します。
可変の高温
国際エネルギー機関発行の「World Energy Outlook 2014」
は、一次エネルギーに対する需要が2040年までに37%増加す
ると予測しています。そして再生可能エネルギー源によるエネ
ルギーは急激に増加しつつあるものの、高効率の石炭火力発
電所を含めた従来型の技術も引き続き重要な貢献を続ける見
通しだとしています。
現在、石炭火力発電所の平均的な効率は、全世界で約33%、欧
州連合で約38%です。どのような発電所であれ、効率は蒸気温
度によって決まるため、運転温度を現在の最高温である620℃
から700℃ないしそれ以上に引き上げると同時に、蒸気圧力を
250barから350barに上げる試みが行われています。これに成
功すれば、運転効率を50%にまで高めることができます。これ
は現在の最高性能を30%上回る水準です。
高温を維持することは、困難な課題というだけではありませ
ん。再生可能エネルギーの利用が増加することは、石炭火力発
電所にとって風力や太陽エネルギーの変動する供給量とバラ
ンスを取る柔軟性が求められることを意味します。ボイラーの
運転サイクル(始動と冷却)も材料と運転に対してさらに課題を
突きつけます。運転時間4,500時間で年間200サイクルを実現
するには、薄壁の部品を急激に加熱および冷却することが必要
になります。柔軟性がほとんどまたはまったく求められないベ
ースロード領域の運転(運転時間約7,500時間)は、ボイラーに
厚壁部品を使用しても実現できますし、最大圧力での運転が
可能です。
10 特集
r HWTⅡマンハイムの厚壁部品
必要とされる高ニッケル合金
これまでは運転温度に応じて、石炭火力発電所のボイラーを
P91(UNS K90901)やP92(K92460)といった構造用のフェライ
ト鋼、ベイナイト鋼、
マルテンサイト系鋼や、型式314(S31400)
のステンレス鋼、ニッケル合金で製造してきました。
10年ほど前、欧州の超々臨界700℃ボイラープロジェクトが、
最初のボイラー製造にニッケルが~50%の合金617(N06617)
を選びました。このニッケル合金は優れた耐クリープ性に加え
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
て高い加工性と溶接性を持つため、工業用のガスタービンや工
業用炉に広く用いられています。そこでの運転経験をもとに、
合金元素の誤差を小さくし、ボロンに関する制限を低下させた
改良型の合金が生まれました。VDM®合金617 Bと呼ばれるこ
の改良型の合金は、700℃におけるクリープ破断強度を約25%
向上させています。
写真提供: GKM — GROSSKRAFTWERK MANNHEIM
HWTⅡ試験軌道の一部は
725℃~400℃という温度サイ
クルで運転しています
マンハイム発電所の実地試験
材料や完成した部品が発電所の実際の条件下でどのような挙動
を示すかを調べる上で、実地試験は重要です。2011年、HWTⅡ
と呼 ばれるプロジェクト( H o c h t e m p e r a t u r -We r k s t o f f Teststrecke/高温材料試験軌道)が、高効率発電所用である厚
壁部品の運転性能および故障率を調べるためにスタートしまし
た。調査のためドイツのGrosskraftwerk Mannheim GKM発電
所に厚壁の配管および配管取付具を備えた725℃の試験軌道を
設置し、2012年に運転開始に成功しました。
現在進んでいる高温ベース負荷実験に加え、HWTⅡ試験軌道の
一部は725℃~400℃の温度サイクルで運転しています。これは
たとえば、風力や太陽エネルギーがまったく利用できない場合
のボイラーの始動と、十分な風力または太陽エネルギーが利用
できた場合のボイラーの停止をシミュレートしています。
試験軌道に至る蒸気の流れは、メインボイラーから個別の過
熱 管、このプロジェクトで は合 金 617 B および V D M ® 合 金
C-263(UNS N07263)製の薄壁管を介して、ボイラーの最高温
度部に至ります。ボイラー内で蒸気は、過熱管によって530℃か
ら所要の725℃まで加熱します。その上で蒸気をHWTⅡ試験軌
道に供給します。低温の蒸気および水を試験軌道内に導入する
ことで蒸気を400℃まで冷却することもでき、それによって熱サイ
クルの反復が材料に及ぼす影響を観察することができます。
材料の準備と性能
VDMはHWTⅡ試験軌道のために合金617Bと沈殿硬化し
た合金C-263を合計で20トン近くも提供しました。どちら
の材料も、選ばれた理由は指定の運転条件下で優れた耐
性(100,000時間のクリープ破断強度)を示すことです。純
度に関する要件が厳しいため、どちらの合金も真空誘導
溶解(VIM)によって真空下で溶融および成形し、その上で
可能な限り不純物を減らすため、それぞれエレクトロスラ
グ再溶解(ESR)と真空アーク再溶解(VAR)によって再溶解
しました 。様々な寸 法 の 部 品を製 造し、たとえば 直径
6 0 m m のバ ルブ 部 品 は合 金 617 B で、直 径 が 最 大 で
220mmまでの厚壁管は合金C-263で製造しています。
その結果、725℃で9,900時間以上の運転時間と、725℃
~520℃~400℃~725℃の温度サイクルを2,600回以上
達成しました。検査の結果、材料に関する問題や部品のひ
び割れの兆候は一切見つかりませんでした。
プロジェクトのパートナー
HWTⅡプロジェクトの資金はドイツ連邦経済技術省(BMWi)が提供しており、
プロジェクトの運営にはGrosskraftwerk Mannheim GKM
を含め29のパートナーが協力しています:Salzgitter Mannesmann Stainless Tubes SMST(薄壁ボイラー管)、Vallourec(厚壁管)、
Bilfinger-Piping-Technology、KAM、Bopp & Reuther、Welland & Tuxhorn、KSB(試験軌道の製造)、TÜV SÜD および SLV(材料技術
に関する団体)、AlstomとBBS(ボイラーメーカー)、E.ONとVGB(発電機)。試験軌道の計器類(管における温度測定および高温ひずみゲ
ージ)と科学的研究はシュトゥットガルト大学材料試験研究所、
フライブルク材料力学研究所、
ダルムシュタット材料科学研究所が行い
ました。
Nickel誌は以下の方々に謝意を表します:VDM MetalsのJ. Klower氏とN. de Boer氏、
Grosskraftwerk Mannheim GKMのK. Metzger氏
写真 © SIEMENS AG
中国の先進超々臨界蒸気
中国は長年、石炭火力発電所の効率向上に取り組んできました。たとえば浙江省玉環県にある4基の1000MW超々臨界(USC)ボイ
ラーは、605℃の蒸気を使用して約45%の運転効率を実現しています。このボイラーのうち最初の製品が運転を開始したのは2006
年、最新のものは2007年です。しかし目標はもっと高温の、すなわち700℃ないしそれ以上の蒸気温度であり、それができれば50%
を超える効率が実現できます。これを先進USC技術と呼びます。
こうした温度ではクリープ強度の点でニッケル含有のオーステナ
イト系ステンレス鋼が必要ですが、費用対効果のため現存の合
金を改良する必要があります。現在試験しているのは3種類の合
金ですが、最も有望なのはSuper 304Hです。3%の銅を加えるこ
とで沈殿物を成形し、700℃で優れた強度を可能にすると共に、
過熱器や再加熱器の管として用いる上で適切な延性を維持して
います。さらにこの合金は少量のニオブ、窒素、ボロンを含むと共
に炭素を多く含んでいます。分類上、この合金は沈殿硬化可能合
金です。この合金は、商業規模で効率50%を達成するための鍵の
一つだと考えられています。
r 玉環県発電所の型式SST5-6000の蒸気タービン
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
特集 11
炭素を求めて
新しい油田とガス田の探査が続いた結果、坑井の深度は増
し、掘削孔の環境がより苛酷になることが増えています。新
しい油田ガス田の探査と生産において、ニッケル含有合金は
小さいながら不可欠の役割を担っています。そうした役割の
一つが、鋼線でのニッケルを多く含む合金の使用です。
近年、世界の化石燃料(石油、天然ガス、石炭)依存を緩和す
るため、代替エネルギー源の開発に多くの努力と投資が費や
されてきました。再生可能で汚染物質を出さないエネルギー
源、特に太陽光と風力に対する研究、投資、応用が盛んで
す。それ以外のエネルギー源、たとえば潮汐、河川の流れ、バ
イオマスなどは開発段階であり、将来は今より大きな役割を
果たすかもしれません。
苛酷な運転環境のため、優れた
耐腐食性を持つニッケル含有
合金製の鋼線が必要です
しかしこうした代替エネルギー源の開発が完了し、大規模な
利用が始まるまでは、世界が化石燃料に依存する状況は続く
でしょう。
もっと深く潜る
油井やガス井を掘削する際、地質学者とドリルリグのオペレ
ータは、掘削孔を掘る地層の性質と特性を知る必要がありま
す。こうした重要な情報を得る一助として、掘削作業を定期的
に中止し、先進的で非常に高価な分析機器を装備した検層
ツールを坑井内に下します。このツールが掘削孔の多様な地
層に対して化学的物理的測定を行い、評価のためのデータを
取得します。
ツールは鋼線に取り付けて坑井内に下します。鋼線の基本形
式は二つ、すなわち「平滑な」鋼線と「送電用」の鋼線です。
平滑な鋼線は丈夫で負荷に耐えられる金属線であり、直径
1.83~4.06mmが普通です。送電用の鋼線は、絶縁した電気
信号用の線を保護用に金属の編み線で被覆したものであ
り、測定ツールの重量に耐えられる基本的な耐荷重ケーブル
です。
強度、耐腐食性、柔軟性
どちらの形式の鋼線も、当然ながらツールの重量を支えるの
と同時に、ツールを必要な深度まで下すのに必要とされる長
い鋼線自体の重さに耐える優れた強度が必要です。現在は坑
井 を 数 キ ロの 深 さま で 掘 削 する の が 普 通 で あり、
2205(UNS S32205)などの高強度の合金を低強度の型式
316(S31600)に代えて用いることがあります。
さらに当然ながら鋼線は非常に優れた引張強度(破壊荷重)を
持つ必要がありますが、荷重がかかった際、過剰に伸びる(伸
長)ことがあってはなりません。坑井を深い深度まで掘れば掘
るほど、掘削孔内の温度と圧力は高くなります。しかも掘削孔
内の化学的環境は鋼線材料にとって非常に敵対的な場合が
多くあります。水性塩化物環境に遭遇することも頻繁であ
り、そこに高レベルの二酸化炭素と硫化水素の気体をともな
うことも多く、その結果、水相が酸性になります。こうした苛
酷な運転環境のため、一般的な腐食、孔食、応力腐食のひび
割れなどに対して非常に優れた耐性を持つニッケル含有合
金、たとえば合金926
(N08926)、合金28(N08028)、合金
31(N08031)、合金936(N08936)、合金27-7Mo(S31277)、合
金MP35N(R30035)などで製造した鋼線が必要です。
高ニッケル含有合金はこうした課題を克服することができ、
炭化水素を求める掘削が続く限り鋼線に利用される合金は
高ニッケル含有合金になるはずです。しかも炭化水素を求め
る掘削はなお当分続く見通しです。
鋼線のニッケル合金
ニッケルの添加によって、ステンレス鋼および高合金は必要
とされる非常に優れた物理的特性と耐食性を得ることがで
きます。型式316のステンレス鋼(ニッケル10~14%)は、穏健
な環境の坑井における基本的な鋼線等級として一般に利用
rされています。
Several reelsそれよりも苛酷な環境では、
of wireline
ニッケル成分が
もっと多い合金が必要になります。
CENTRAL WIRE
ISTOCKPHOTO.COM © AHOPUEO
平滑な鋼線は測定ツールの吊り下げのほか、基本的な生産設
備、たとえばパッカーやバルブを掘削孔内に配置するのにも
用います。生産量が多い地層で生産を開始する際、平滑鋼線
を利用して「爆弾ハンガー」を吊り下げ、これを爆発させて発
射物を坑井のケーシング管に向けて飛び散らせます。すると
それによってできた穴から炭化水素が流出し、油井にあふれ
ます。平滑鋼線は、もう不要になった掘削孔から設備を回収
するためや、油井の口径をふさぐ可能性がある破損部品を除
去するための「吊り上げ」作業にも使用します。
12 注目される用途
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
PORTLAND WATER DISTRICT
セバゴ湖のLower Bay区画および水処理プラントの空
撮写真。
この水処理プラントは、
オゾンだけで殺菌要件
を満たした米国で初めての独立式オゾン処理プラント
です
水:都市とレクリエー
ションのバランス
ニッケル含有ステンレス鋼
がそれを可能にします
安全な飲料水とそれを可能にする注意と処理は、都市にとって
の重大な責任です。と同時にそれは、市民の目には触れないも
のの、多くのニッケル含有ステンレス鋼が利用される現場でもあ
ります。
飲料水とレクリエーション
北米東海岸のメイン州ポートランドは人口66,000人の都市であ
り、ステンレス鋼が生活の重要な一面、すなわち飲料水を確保す
ると同時に、生活の質にかかわるもう一つの重要な側面、すな
わち水のレクリエーション利用を継続している好例です。
ポートランドから内陸におよそ30kmの位置に複数の淡水湖が
る2台のオゾン生成器Ozoniaがオゾンを生成し、それを利用し
あり、最大のものがセバゴ湖です。セバゴ湖は深い湖で、表面
てオゾン8~10%の気体を生成し、それをプロセス水に溶解さ
積はおよそ115k㎡(45平方マイル)、貯水量約は37億8,000万㎥
せて反応タンクに添加すると説明します。オゾン生成器のシェ
弱(およそ1兆米ガロン)です。1869年にこの湖につながる水路が
ルと関係する配管はすべてステンレスであり、ほとんどが型式
建設され、ポートランドに初めて水道が引かれました。現在もこ
の湖の水はポートランド市にとって不可欠のものですが、湖のお
よそ90%は一般市民のボート遊びや水泳のために開放されてお
り、しかもポートランド市の飲料水が各家庭に清浄で健康的な
状態で届くことが周知の事実となっています。
材料に対する需要の増大
連邦の飲料水安全法は1986年に改正され、地表水を濾過する
ことを義務づけると共に新しい殺菌基準を制定しました。セバ
ゴ湖の水は例外的な品質を持つため濾過は不要でしたが、ポ
ートランド市水道局(PWD)は一次殺菌をクロラミン(塩素よりも
問題の少ない代替策)からオゾンに切り替えることを決定しまし
ISTOCKPHOTO.COM © DA-KUK
r 処理水が流れる大口径のステンレス鋼アウターシェルとUVランプ
316(UNS S31600)です。処理が完了すれば、残存するオゾンは
オゾン破壊装置で酸素に戻します。できた酸素を大気中に放出
します。
最近の連邦環境保護局規制は病原体クリプトスポリジウム(下痢
を誘発する原生動物)に対する懸念を取り上げています。ポート
ランド市水道局は2年間の監視プログラムで一度もクリプトスポ
リジウムを検出したことがありませんが、汚染の可能性を防ぐた
め、防護レベルを一段上げるUV処理を導入しました。Wedeco
の2台のUV装置を設置しており、やはり1台は予備として、一度に
1台だけを運転しています。
た。ポートランド市の水処理施設は、オゾンだけで殺菌要件を
水が水処理プラントを離れるまでの配管は基本的にはすべてス
満たす米国で初めての独立式オゾン処理プラントです。
テンレス鋼です。ステンレス鋼を使用しない飲料水分配システム
オゾン殺菌プロセスを最新化すると共にUV水処理システムを
では、腐食の抑制と汚染の可能性を排除するため、化学的な抑
新たに設置するプロジェクトが、2014年に完了しました。現在、
制剤とクロラミンを添加します。しかしニッケル含有ステンレス
オゾン生成のための酸素は、プラント外に貯蔵した液体酸素を
鋼が適切な水処理を可能にしているおかげで、配管系に流れる
ステンレス鋼のシステムを介して供給しています。水処理プラン
水はセバゴ湖が提供し得る最高の安全性と高品質を保ってい
トの最高責任者であるJoel
ます。
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
Anderson氏は、1台がスペアであ
注目される用途 13
UNSの詳細 本誌で示されているニッケル含有合金及びステンレス鋼の化学的組成(重量パーセント)
UNS No.
Al
B
C
Co
Cr
Cu
Fe
Mn
Mo
N
Nb
Ni
P
S
Si
Ti
V
W
-
0.002
0.1
-
18.0
3.0
bal.
0.8
-
0.2
0.4
9.0
-
-
0.2
-
-
-
617 B
p. 11
0.80-1.3
0.0010.005
0.050.08
11.013.0
21.023.0
-
1.5
max.
1.00
max
8.0010.00
-
0.6
max.
bal.
0.012
max.
0.008
max.
0.03
0.250.50
0.6
max.
-
K90901
p. 10
0.04
max.
-
0.080.12
-
8.09.5
-
bal.
0.300.60
0.851.05
0.0300.070
0.61.0
0.40
max.
0.020
max.
0.010
max.
0.200.50
-
0.180.25
-
K92460
p. 10
0.04
max.
0.006
max.
0.060.13
-
8.09.5
-
bal.
0.300.60
0.300.60
0.0300.070
0.030.10
0.40
max.
0.020
max.
0.010
max.
0.50
max.
-
0.150.25
1.502.20
N06600
p. 7
-
-
0.15
max.
-
14.0017.00
0.50
max.
6.0010.00
1.00
max.
-
-
-
72.0
min.
-
0.015
max.
0.50
max.
-
-
-
N06601
p. 7
1.01.7
-
0.1
max.
-
21.025.0
1.0
max.
bal.
1.0
max.
-
-
-
58.063.0
-
0.015
max.
0.50
max.
-
-
-
N06617
p. 10
0.801.50
0.006
max.
0.050.15
10.015.0
20.024.0
0.50
max.
3.00
max.
1.00
max.
8.0010.00
-
-
44.5
min.
-
0.015
max.
1.00
max.
0.60
max.
-
-
N06625
p. 7
0.40
max.
-
0.10
max.
-
20.023.0
-
5.0
max.
0.50
max.
8.010.0
-
3.154.15
bal.
0.015
max.
0.015
max.
0.50
max.
0.40
max.
-
-
N07263
p. 11
0.30.6
-
0.040.08
19.021.0
19.021.0
0.20
max.
0.7
max.
0.60
max.
5.66.1
-
-
bal.
0.015
max.
0.007
max.
0.40
max.
1.92.4
-
-
N08028
p. 12
-
-
0.03
max.
-
26.028.0
0.61.4
bal.
2.50
max.
3.04.0
-
-
30.034.0
0.030
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
-
-
N08031
p. 12
-
-
0.015
max.
-
26.028.0
1.01.4
bal.
2.0
max.
6.07.0
0.150.25
-
30.032.0
0.020
max.
0.010
max.
0.3
max.
-
-
-
N08367
p. 7
-
-
0.030
max.
-
20.022.0
-
bal.
2.00
max.
6.007.00
0.180.25
-
23.525.5
0.040
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
-
-
N08825
p. 7
0.2
max.
-
0.05
max.
-
19.523.5
1.53.0
bal.
1.0
max.
2.53.5
-
-
38.046.0
0.03
max.
0.03
max.
0.5
max.
0.61.2
-
-
N08904
p. 7
-
-
0.020
max.
-
19.023.0
1.002.00
bal.
2.00
max.
4.005.00
-
-
23.028.0
0.045
max.
0.035
max.
1.00
max.
-
-
-
N08926
p. 12
-
-
0.020
max.
-
19.021.0
0.51.5
bal.
2.00
max.
6.007.00
0.150.25
-
24.026.0
0.030
max.
0.010
max.
0.50
max.
-
-
N08936
p. 12
-
-
0.020
max.
-
26.0028.00
0.50
max.
bal.
4.006.00
5.006.00
0.300.50
-
33.0035.00
0.025
max.
0.010
max.
0.50
max.
-
-
-
N10276
p. 7
-
-
0.02
max.
2.5
max.
14.516.5
-
4.07.0
1.0
max.
15.017.0
-
-
bal.
0.030
max.
0.030
max.
0.08
max.
-
0.35
max.
3.04.5
R30035
p. 12
-
-
0.025
max.
bal.
19.0021.00
-
1.00
max.
0.15
max.
9.0010.50
-
-
33.0037.00
0.015
max.
0.010
max.
0.15
max.
1.00
max.
-
-
S30403
p. 5, 7, 16
-
-
0.03
max.
-
18.0020.00
-
bal.
2.00
max.
-
-
-
8.0012.00
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
-
-
S30467
p. 5
-
1.752.25
0.08
max.
-
18.020.0
-
bal.
2.00
max.
-
0.10
max.
-
12.015.0
0.045
max.
0.030
max.
0.75
max.
-
-
-
S31008
p. 7
-
-
0.08
max.
-
24.0026.00
-
bal.
2.00
max.
-
-
-
19.022.0
0.045
max.
0.030
max.
1.50
max.
-
-
-
S31254
p. 7
-
-
0.020
max.
-
19.5020.50
0.501.00
bal.
1.00
max.
6.006.50
0.1800.220
-
17.5018.50
0.030
max.
0.010
max.
0.80
max.
-
-
-
S31277
p. 12
-
-
0.020
max.
-
20.523.0
0.501.50
bal.
3.00
max.
6.58.0
0.300.40
-
26.028.0
0.030
max.
0.010
max.
0.50
max.
-
-
-
S31400
p. 10
-
-
0.25
max.
-
18.019.0
-
bal.
2.00
max.
-
-
-
19.0022.00
0.045
max.
0.030
max.
1.503.00
-
-
-
S31600
p. 2, 12, 13
-
-
0.08
max.
-
16.0018.00
-
bal.
2.00
max.
2.003.00
-
-
10.0014.00
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
-
-
S31603
p. 5, 7
-
-
0.030
max.
-
16.0018.00
-
bal.
2.00
max.
2.003.00
-
-
10.0014.00
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
-
-
S32100
p. 7
-
-
0.08
max.
-
17.0019.00
-
bal.
2.00
max.
-
-
-
9.0012.00
0.045
max.
0.030
max.
1.00
max.
5xC
min.
-
-
S32101
p. 5
-
-
0.040
max.
-
21.022.0
0.100.80
bal.
4.0-6.0
0.100.80
0.200.25
-
1.351.75
0.40
max.
0.030
max.
1.00
max.
-
-
-
S32205
p. 7,12
-
-
0.030
max.
-
22.023.0
-
bal.
2.00
max.
3.003.50
0.140.20
-
4.506.50
0.030
max.
0.020
max.
1.00
max.
-
-
-
S32707
p. 7
-
-
0.030
max.
0.52.0
26.029.0
1.0
max.
bal.
1.50
max.
4.05.0
0.300.50
-
5.59.5
0.035
max.
0.010
max.
0.50
max.
-
-
-
S32750
p. 7
-
-
0.030
max.
-
24.026.0
-
bal.
1.20
max.
3.05.0
0.240.32
-
6.08.0
0.035
max.
0.020
max.
0.80
max.
-
-
-
Super304H
typical
p. 11
14 簡略に
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
ナノ結晶ニッケルによるナノ構造
どうすれば感染を予防できるかの理解を助ける
細菌である黄色ブドウ球菌(S.aureus)はStaphとも呼ばれ、人
ブドウ球菌の細胞は、手術室内に持ち込まれる何らかの表面に
工関節や人工心臓弁などの外科手術後の感染症の主要原因で
まず付着します。そのためバークレー研究所(ローレンス・バー
す。黄色ブドウ球菌は医療器具に付着し、人体内に入れば生命
クレー国立研究所)を中心とする研究者チームは、どのような
の危険をもたらすほどの深刻な感染症を引き起こすことがあり
表面特徴が細菌の付着を可能にするかを研究しています。
ます。黄色ブドウ球菌に薬剤耐性株が登場したことも事態をさ
らに深刻にしています。
研究者は電子ビームリソグラフィー法および電気めっきを利用
して、様々な形状およびサイズのナノ結晶ニッケルによるナノ構
MOFRAD LAB AND THE NANOMECHANICS RESEARCH INSTITUTE
造を製造しました。これは黄色ブドウ球菌の細胞そのものに比
べても若干大きい程度の大きさです。その上でまず、個々の黄
色ブドウ球菌細胞がどのように付着するかを調べ、付着と生存
率がナノ構造の形状に依存することを発見しました。黄色ブド
ウ球菌は表面のナノトポグラフィを感知するようで、特定のナノ
構造に対して強力に付着します。
「付着時の細菌の選好を理解することで、化学的な変更を行
う必要なく、細菌が付着しにくい表面特徴を持つように医療
用の埋め込み器具を製造することが可能になります」とバー
クレー研究所の物理生命科学部門の教授科学者であり、UC
バークレ ー校 で 生体 工学 および 機 械 工学 の 教 授を 務 める
Mohammad Mofrad氏は述べています。
JENS HUMMELSHOJ/SLAC
r マッシュルーム形状をしたナノ構造の突出部分にぶら下がる細菌細胞
(青色)の走査型電子顕微鏡写真
この研究は最近、ジャーナルBiomaterilasでオンラインに発表さ
れたものです
クリーンな技術革新
ニッケルを利用してもっと多く
もっと良質なメタノール
スタンフォード大学とデンマーク工科大学
の研究者が、ニッケル-ガリウム(Ni5Ga3)
触媒によって、風力または太陽光によって
生産した水素と発電所のCO2排出物質を
利用してメタノールを合成できることを発
見しました。1
「メタノールは、天然ガスから水素、二酸
化炭素、一酸化炭素を用いて非常な高圧
により膨大な数の工場で生成しています」
と論文の主著者であるSLACのFelix Studt
氏は言います。
「私たちは一酸化炭素の生
成量を低く抑えながら、低圧条件でクリー
ン原料からメタノールを生成できる材料
を探していました」
「そして多くの時間をかけてメタノールの
合成と産業プロセスを研究しました。ほぼ
3年をかけてプロセスがどのように機能す
るかを解明し、銅-亜鉛-アルミ触媒の活性
部位がメタノールを合成することを突き止
めたのです」
Studt氏と共同研究者らはメタノールの合
成を分子レベルで理解したのち、
メタノー
ルを低圧で合成し得る新しい触媒を探し
ニッケル誌第30号第1巻(2015年4月号)
始めました。その際、研究所内で様々な化
合物を実験するのではなく、膨大なコンピ
ュータデータベースで検索を行いました2
(計算材料設計と呼ばれる技法)。そして、
ニッケル-ガリウムというあまり知られてい
ない化合物が最も有望な候補物質とわか
りました。
デンマークの研究チームはニッケルとガリ
ウムを合成して個体の触媒を作る研究に
取り組みました。その結果、データベース
は正しい方向を示していたことがわかり
ました。高温であれば、ニッケル-ガリウム
は従来の銅-亜鉛-アルミ触媒よりも、副産
物の一酸化炭素の量はかなり少なくしな
がらより多くのメタノールを生成しました。
不要の副産物を生み出さない真にカーボ
ンニュートラルなプロセス、
という目標を
達成するにはなお研究が必要ですが、
ここ
でもやはりニッケルが技術革新と環境改
善の両方を支えています。
1.
2.
結果はジャーナルNatural Chemistryのオンライン版で発表
Studt氏と共著者のFrank Abild-Pedersen氏がSLAC国立加
速器研究所で開発したデータベース
v ニッケル-ガリウムの活性部位の想像図。この
活性部位が水素と二酸化炭素を合成してメ
タノールを形成します。a原子は明灰色、ガ
リウム原子が暗灰色、酸素原子が赤色。
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簡略に 15
マリア・ペルゲイ
r ドレープ・キャビネット、2005年、
ステンレス鋼製 縞黒檀、ヤシの木
夢を現実化する
Lit Tapis Volant / 空飛ぶ絨毯の寝椅子、1968年 r
1970年代と80年代、Maria Pergay氏は
サウジアラビアの王族、ファッションデザ
イナーのピエール・カルダン氏、サルバド
ール・ダリなどの人々から依頼を受けて多
くの成功を収めました。2004年、ニューヨ
ークの美術商Suzanne Demisch氏に説得
されてふたたび展示会を始めます。そして
30年間で初めてのニューヨークでの展示
会として、2006年にDemisch Danantギャ
ラリーで展示会を開き、新しいステンレス
鋼作品を15点発表しました。それ以降、毎
年7~10点の作品を制作し、定期的に発表
写真提供:COURTESY OF DEMISCH DANANT
モルドバでロシア人を両親として生まれた
Maria Pergay氏は、子供時代の1937年に
移民としてパリに移りました。そして1950
年代にはウィンドウディスプレイの製作を
始め、フランスの宝飾品メーカーHermés
で小さな銀のオブジェクトのデザインを担
当しました。その仕事に感銘を受けたステ
ンレス鋼生産者のUgine Gueugnon氏は、
「inox(ステンレス鋼)」の魅力を広め、そ
れが「毎日使うなべやフライパン」の材料
に過ぎないわけではないことを消費者に
証明しようと、彼女に接触しました。当初
は疑問視されたものの、Pergay氏はステン
レス鋼で家具を制作できると周囲を確信
させ、翌年、彼女にとって初めての個展を
開催し、たちまち賞賛を集めました。
「空
飛ぶ絨毯」と名づけた寝椅子(ブリジット・
バルドーが寄りかかっている1970年の写
真で不滅の作品となりました)や「リングチ
ェア」などの作品は、それ以来、デザイン
界の偶像と見なされています。
著作権:PHILIPPE PONS
パリのデザイナー、Maria Pergay氏は50年近くもステンレス鋼に関する先駆者として活
動し、まったく想像もつかない、しかしそれでいて機能的な家具を制作してきました。空
想のような品質を持ち時代を超越した作品のデザイナーである彼女は現在80歳代です
が、なお絶頂期の創造力を発揮しています。Pergay氏は1960年代からニッケル含有の
304L(UNS S30403)ステンレス鋼を気に入り、その強度、耐久性、成形性を評価してきま
した。
「私たちは互いに魔法をかけ合っています。私はステンレス鋼が与えてくれるもの
にうっとりします。その代りにステンレス鋼は、ステンレス鋼自体にも想像できなかったよ
うな何かに変身することができます」
しています。
Maria Pergay氏の作品は1点限りである
か、わずか数点に限定されているため、
オークションに出されることはめったにな
く、収集家垂涎の逸品です。自分の作品を
形容するように求められた彼女は端的に
答えました。
「「空飛ぶ絨毯」や「見えない
テーブル」といった私の作品は夢を現実化
するものです」
rr マリア・ペルゲイ氏
r Chaise Anneaux / リングチェア、
1968年 ステンレス鋼