レポート

本栖湖チャンピオンシップ 2015
2015.05.23-24
2015.05.23-24
Lake
Lake Motosu
Motosu FunBeach
FunBeach
写真:対馬 有悟 / 霜山 厚 文:霜山 厚
ラウンドロビン方式は沢山のヒートを走れるから楽しい!
初夏を迎える本栖湖での恒例イベントとなった “ 本栖湖チャンピオンシップ ”。遂にエントリー数は 120 名を越えた。
ランダムに組み合わされるヒートによって進行されるラウンドロビン方式は、一度負けると終わりというトーナメ
ント方式と違って沢山のヒートに参加できるから楽しくレースに参加できるし、ゲレンデの特徴によって採用され
ているスタートの方法もまた参加しやすい要素のひとつ。不安定なコンディションを熟知した運営手腕も評価され
るべきだろう。ベテランもビギナーも全ての選手が楽しめるこの大会が、できる限り継続されることに期待したい。
風は初日の土曜日だけだったが、全クラスが成立
初夏の本栖湖に吹く風は真夏よりもズシッと重くパワーがある。時として
馴染み済み。何度も同じヒートを繰り返すことになる場合もあり、それぞれ
4.0㎡台のセイルをし使いたくなることもあるほどだ。とはいえそれが常でな
のヒートがキャンセルになる理由に対しての不満の声もなくはないが、ルー
いことも確かなこと。今年の「本栖湖チャンピオンシップ 2015」は初日の
ズにせず、厳しすぎず、皆で楽しく、しかしレースである以上シビアに闘っ
土曜日だけが風に恵まれ、日曜日はツルツルの湖面を見続けることになった。
ていくためには致し方ないことと各選手は理解しているのだと思う。そうし
吹き始めの風は不安定で、スタートからフィニッシュまでが必ずしも安定し
た状況の中、初日の土曜日にスペシャルクラス、レディースクラス、ジュニ
て吹いてくれるとは限らない。第 1 マークまではガッチリ走っても、次のレ
アクラス、ビギナークラスは 3 レース、ヒート数の多いメンズクラスは 2 レ
グはヒヨヒヨになってしまうこともしばしば。だから風が安定するまではス
ースを消化。続きは 2 日目の日曜日に期待されたのだが、天候自体は雨の予
タート練習会のような様相になることもある。そんな想定は、あらかじめス
報から回復したものの、残念ながらファンビーチに風は遂に届くことがなか
キッパーズミーティングでも伝えられるし、毎年参加している選手には既に
った。
ビーチで待機しながらの海上スタートは楽そうに見えるのだが、レース慣れしてい
る選手にとっては時間とポジションのコントロールがむしろ難しい。
湖面はツルツル。じっとしていられないジュニア、キッズ達は何かしらの遊び道具
を見つけて楽しんでいた。
ビギナークラスはコースを走りきることに全神経を費やす
風の弱い時間帯にビギナークラスが行われる。プレーニングできる選手も
さてスペシャルクラスのレースはスタートの白熱具合が見ていて面白い。
いれば、ハーネスすら経験のない選手もいる。今大会では特に、「始めてから
ところが選手達は第 1 マークに向かう最もシビアなシチュエーションに神経
3 日目」という驚きのキャリアの選手が参加してくれた。正確に言えば、シ
を尖らせる。何故なら、スタートから第 1 マークまでにどのポジションにい
ョップオーナーに「参加させられた」のかも知れないが。
られるかが成績のほとんどを占めてしまうからだ。ガスティになりやすく、
ビギナークラス以外は全て 3 ジャイブのコース。スタートからダウンウイ
しかもシフトも入る本栖湖では、必ずしも第 1 マークのトップがそのままフ
ンドのコースで下って行き、風下ビーチ付近のフィニッシュラインを通過す
るコース。それに対してビギナークラスはアウトサイドのマークを 1 個だけ
回航してフィニッシュに向かうコース。弱めの風であればなんということの
ない単純なコースだが、風速が上がってくるとこのシンプルなコースであっ
てもビギナーにはシビアになってくることもある。マークに到達する前に沈
ししていまい、セイルアップに時間が掛かった結果、マークまで上りきれな
くなってしまうという様子も見られた。しかししかし、それもとてもいい経
験と捉えるべき。特にビギナーにとっては、走っていく場所が限定されるこ
と自体がなかなか経験しないこと。だからこそとても練習になる。次へのス
テップになる。いつかプレーニングレースを楽しめるように、そんな期待を
込めてビギナークラスのレースを見ていたが、とにかく走りきることに精一
杯であり、緊張と不安に包まれている様子がいかにもビギナークラスらしく、
ほほえましくもあった。ビギナークラス優勝はスピードウォールの横井選手、
2 位には鎌倉ジュニアの小濱選手、3 位にファーイーストの新保選手となった。
通常のレースよりもスタートラインまでのアプローチが取れないため、このゲレン
デ独自のスタートテクが必要になる。このタイミングが最もシリアスな状況。
ィニッシュとならないケースがあるが、それでも有利なことは間違いない。
リコールに気を付け、最良のコース取りでマークに向かう。滅多なことでは
ジャイブで失敗しない選手達だが、それでも気まぐれなブローに翻弄された
り、前の選手のマニューバにはまってしまったりと、沈しないまでもストー
ルしてしまうことはある。第 1 マークのジャイブはとても混雑するのでとて
もシビアだ。高いトップスピート、キレのあるマーキングで見る者を楽しま
せてくれる。そんなスペシャルクラスを制したのは、セブンシーズ伊東大輝
選手。2 位には玉野選手、3 位はこのクラス紅一点、ミキハウスの須長選手
となった。
第 1 マークは混戦になりやすいが、ここのマークを最も前で立ち上がった選手が、
最もトップりフィニッシュに近くなる。
ビギナークラスは 1 ジャイブのシンプルなコース。プレーニングできる選手、ハー
ネスすらしていない選手など、技術レベルはバラバラがだが、皆、未来の選手達。
スペシャルクラスはとことん結果にこだわる
メンズはヒート数が多いために 2 レースの成立に留まった
メンズクラスはラウンドロビン方式によって 4 ヒートに分けられ、他のク
ラスよりもヒート数が多いことから 1 レースが成立するのに時間を要した。
風が不安定でスタートからフィニッシュまでがなかなか整わずにキャンセル
スペシャルクラス、メンズクラス、レディースクラスはかなりレース慣れ
が多くなったため、2 レースの成立に留まってしまった。ラウンドロビン方
した選手の集団。スタートのポジション取りからシビアな闘いが始まる。ジ
式の場合、レース数が少ないと成績がタイになってしまうケースが増えるし、
ュニアクラスの選手達も実力は驚くほどに高い。しかし、まだレースには不
もっともっと多くのレースを楽しんで貰うためにも、2 日目のコンディショ
慣れな選手も多く、本当に戦えているのは上位の選手達に絞られる。
ンに期待されたのだが、残念ながら初日だけで風が終わってしまったため、
成立したのは 2 レース。その 2 レースともトップでフィニッシュした選手が
前を走る選手達は本気のレーサーとして闘い、その選手達に何とか着いてい
2 人となり、石井選手と田口選手が同率の 1 位という結果になった。今大会
こうという後続の選手達。経験や技術は異なるが、同じクラスで闘うために
からメンズクラスの持ち回り用トロフィーが用意され、それは何と参加選手
は気持ちがとても重要。今年のクィーンは高崎選手。2 位には山本選手、3
でもある大館選手からの寄贈であり木製でとても重厚感のある手作りモノ。2
位は猪俣選手となった。来年は更に熱い女の闘いを見せて貰いたいものだ。
人に渡されたがひとまず石井選手が持ち帰ることとなった。3 位には望月選
手、4 位には池田選手、5 位桜井選手、6 位杉選手となった。
今後がとても楽しみなジュニアクラスの選手達
ジュニアクラスも 14 名のエントリーとなり、過去最大の人数となった。
そして驚かされるのはそのレベルの高さだ。上位を走る選手達はまだまだ身
体こそ小さいが、プレーニングする様子、ジャイブなどスタートからフィニ
ッシュまでしっかりとレースをしている。勿論まだ身体の小さい小学生もい
るし、キャリアの浅い子供もいるから全員が同じように走れるわけではない
が、遠くから見ていたら、ともて子供が走っているようには見えないだろう。
成長著しいジュニア選手達の未来に大きな期待が持てることを確信した。優
勝は金上選手、2 位に宮川選手、3 位は小山選手となった。
ジュニア選手の成長は著しい。1 年経つと人が変わったように身体も技術も成長し
ている。もっともっと彼らをバックアップし、未来に向けて応援していきたい。
大館選手の手作りトロフィーが寄贈された石井選手と田口選手。毎年持ち回りとな
るトロフィーだが、来年のこの大会メンズクラスは誰が獲るのだろうか。
レディースクラスは 3 レースの成立
レディースクラスのエントリーは 14 名。このクラスもまた年々増えてい
るし、レベルも上がってきている。使用ギアに大きな差があったり、本気度
の違いなどもあるだろうが、参加選手の気持ちはとても強く伝わってくる。
ジュニア選手勢揃い。
気軽に参加しやすいノーカムクラスが設置されたが・・
今回から「ノーカムクラス」というクラスが設置された。レーシング系の
道具でなくてもレースを楽しめるようにという目的であったが、レース公示
からの時間が短く、意図が浸透しきらなかったようで、エントリーした選手
は 1 名だった。クラスとして成り立たないのでメンズクラスに組み込まれて
いたが表彰の対象とはなっていた。気軽にレースに参加し、より多くの人達
レディースクラスの上位選手はプロツアーに参加するレベル。一方ではサンデーセ
イラーが多くいる。レースを楽しみ、闘いを共有する。そんな時間はとても大切だ。
で楽しもうというクラスの位置付けだから、来年はもっともっと多くのエン
トリーに期待し、大勢で楽しめる大会としたい。
表彰式の様子
スペシャルクラス
左から:伊東大輝選手、玉野正幹選手、須長由季選手。
メンズクラス
左から:田口広明選手、石井孝良選手、望月浩司選手、池田真也選手、桜井幸彦選手、
杉匠真選手。
レディースクラス
左から:高崎由子選手、山本俊江選手、猪俣由香選手。
ジュニアクラス
左から:金上颯大選手、宮川未来斗選手、小山大介選手。
ビギナークラス
左から:横井愼也選手、小濱丈靖選手、新保まさる選手。
ノーカムクラス 畔上昭仁選手。
本栖湖チャンピオンシップの歴史について
この大会のルーツはとても古い。本栖湖で初めての大きなスラロ
ーム競技の大会が開催されたのは 1986 年で、この時の大会にプロ
クラスが設置された。実に 29 年前になる。残念ながら風に恵まれず
キャンセルとなったこの大会名は「本栖湖スラローム」。この時期、
「スラローム」というカテゴリーが定着し、道具のクオリティも安定
してきていた。単にダガーボードを持たないボードが「ファンボード」
と呼ばれ、バンプ&ジャンプ的(ラフ海面を走って跳ねてなどの自
由な乗り方)に走っていたスタイルからスピードを求め、競技とし
て定着し、広くアマチュアにも浸透していった時代。時代のニーズが、
風の確率の高い本栖湖をスラロームゲレンデとして求め、多くのセ
イラーが訪れる日本でも有数のゲレンデとなった。
翌年の 1987 年に大会名が「本栖湖チャンピオンシップ」となった。
これが第 1 回の大会と言っていいだろう。そして、この大会のプロ
クラス優勝者、初代のチャンピオンは、今大会でも活躍している大
館弘選手。当時プロ選手として活動していた大館選手も今ではアマ
チュア選手としてレースを楽しんでいるが、これだけの長きに渡っ
1986 年の HI-WIND 誌に掲載された記事。この写真ではゲレンデに車を乗り付けて
いるが、この後すぐに乗り入れを禁止し、ゲレンデの保全に動いた。
てレースを続け、常に上位に絡み続けている選手は他にはいないだ
ろう。ましや今回、メンズクラスの持ち回りトロフィーを制作、寄
贈してくれるなど、この大会との繋がりの深さを感じさせる。
本栖湖チャンピオンシップは 1987 年から 16 回大会まで継続して
開催されていた。しかし、時代の流れはスラローム競技だけでなく、
アップウインドを含む「レーシング」というカテゴリーに変化し、
次第に「高価な道具の戦い」という様相に変わっていた。それに伴
ってスラローム競技がやりにくくなり、大会は中断された。そして
約 10 年の猶予の後、現代のニーズに合った大会として復活。カムバ
ックから 5 年。今また多くのセイラーによって楽しくも厳しくも戦
える大会となっている。
本栖湖に浩庵の赤池氏の存在は欠かせない。ここに掲載した古い
雑誌の記事でも、当時のゲレンデ事情や地域の活性化とトラブル防
止に努めているし、今でもそれは継続されている。本栖湖のような
ゲレンデを訪れるウインドサーファーの為に、ウインドサーフィン
自体の為に常に動いてくれる姿勢を賞賛せずにはいられない。これ
第一回「本栖湖チャンピオンシップ」の記事。使われている道具は古いが、それでも
競技用のギアの進化が加速していた頃。毎年のモデルチェンジによる進化は著しいも
のがあった。
からもゲレンデの質が変わることはないだろう。ウインドサーファ
ー一人一人がこうした地域の活動を理解し、協力していくことがと
ても大切なことは言うまでもない。
第一回「本栖湖チャンピオンシップ」のプロクラス優勝者はなんと、大館選手。江の
島をホームとするプロ選手として活躍していた。その他の選手名もとても懐かしいも
のがあるが、皆現在も何かしらの活動を元気に続けている面々だ。
浩庵、赤池氏。ゲレンデとウインドサーファーを守るために常に活動してくれている。
この方の存在なくして、本栖湖のウインドサーフィンを語ることはあり得ない。