JPEC レポート 平成 27 年 6 月 23 日 JJP PE EC C レ レポ ポー ートト 222000111555年 年 度 年度 度 第7回 第7回 北アフリカ主要国の石油と天然ガス動向(1) 本レポートでは、米国エネルギー省 (DOE)エネルギー情報局(EIA)レポー トを主なベースとし、2012年度第34回 JPECレポートの更新版として、最近の北 アフリカ地域の石油と天然ガス動向につ いて紹介する。なお、本編は、石油編(1) と天然ガス編(2)に分けて報告する。 1. 北アフリカ地域の石油産業の概要 1.1 1.2 1.3 1.4 3. アルジェリアの石油産業 リビアの石油産業 エジプトの石油産業 スーダンおよび南スーダンの石油産業 まとめ 1. 北アフリカ地域の石油産業の概要 北アフリカ地域に属する国々は、8 ヶ 国である。同地域に属する諸国につい て石油関連情報の概要を国土面積順に 示す(表 1 参照)。 1 アルジェリア モロッコ エジプト 2 5 8 12 17 チュニジア リビア エジプト エジプト 西サ ハラ スーダン エジプト 南スーダン 石油確認埋蔵量は、①リビア ②アル ジェリア ③スーダン&南スーダンの順 になっている。次に石油生産量は、①ア ルジェリア ②エジプト ③リビアの順とな る。最後に原油精製能力は、①エジプト ②アルジェリア ③リビアの順となる。 石油資源や石油産業の規模の小さい ( 西サハラ、モロッコ、チュニジアの 3 ヶ国 は主要国) 図 1 北アフリカ地域各国の位置 図 油産業の主要国(□表示)として、アルジェリア、リビア、 エジプト、スーダンおよび南スーダンの 5 については割愛し、北アフリカ地域の石 ヶ国を選定し、次項以降でより詳しく紹介する(図 1 参照)。 1 JPEC レポート 表1.北アフリカ諸国の石油関連情報一覧(2013 年) 2,382 1,861 1,760 1,001 644 447 266 164 石油確認 埋蔵量 (億 bbl) 122.0 50.0 483.6 44.0 (注) 0 0 4.3 石油 生産量 (万 BPD) 172.1 26.2 51.6 66.1 (注) 0.5 0 5.9 石油 消費量 (万 BPD) 39.0 10.7 24.2 75.2 (注) 20.9 0.2 8.6 石油 輸出量 (万 BPD) 133.1 15.5 27.4 ▲9.1 (注) ▲20.4 ▲0.2 ▲2.7 原油 精製能力 (万 BPD) 45.0 12.2 37.8 72.6 (注) 15.5 0 3.4 8,525 703.9 322.4 178.8 143.6 186.5 国名 (国土面積順) 国土面積 (千 km2) アルジェリア スーダン リビア エジプト 南スーダン モロッコ 西サハラ チュニジア 計 1 2 3 4 5 6 7 8 (注意:スーダンの項に[スーダン+南スーダン]の数値を記載▲は輸入量を表す) 1.1. アルジェリアの石油産業 1.1.1 概要 2014 年時点でアルジェリア(172 万 BPD)は、ナイジェリア(237 万 BPD)、アンゴラ(175 万 BPD)に次いでアフリカ第3 位の産油国である。しかし、近年は同国政府の各種承認作業が遅いこ とによるプロジェクトの遅延、インフラの欠落、技術的な問題、共同投資者を募る困難さなどにより、 石油生産量は徐々に減少している。過去の入札会おいて、同国政府が提示した条件では投資家 からの関心は限られたものであった。 これを受けて、同国政府は、外国企業がより多く興味を示すような新たな契約上の規定や財務 条件(特に非在来型資源:シェールオイル、シェールガス、タイトガス、重質油、炭層メタンに対し て)を制定し、2014 年 1 月に開催した探査鉱区入札会では 31 鉱区(北部 6、中部 7、東部 6、西 部 12)が提供され、全鉱区が落札される予定となっている。 1.1.2 石油の埋蔵量 Oil & Gas Journal によれば、2014 年 1 月時点 アルジェリアの石油確認埋蔵量は、122 億 bbl で、リビア(484 億 bbl)、ナイジェリア(371 億 bbl)に次いでアフリカ第 3 位である。同国では、 海洋の石油探査が限られていたため、上記埋蔵量の全て内陸に存在している。 2 JPEC レポート Skikda 製油所 アルジェリア国営炭化水素公社(Sonatrach)によれば、 同国全土の約 2/3 が探査中もしくは未探査地区である。 石油確認埋蔵量の大部分は、同国最大のハシメサウド (Hassi Messaoud)油田が位置する東部のリビア国境近 くに存在している。同油田は、確認埋蔵量と推定可採埋 ハシメサウド油田 蔵量を合わせて 39 億 bbl 保有している。次いで、 Hassi R'Mel 油田(37 億 bbl)、Ourhoud 油田(19 億 bbl)など の主な油田がある(図 2 参照)。 図 2 アルジェリアの概略地図 1.1.3 石油の生産と開発 2013 年 アルジェリアは、原油と他の液体燃料 (コンデンセート、天然ガス液、製油所ゲイン*) を合わせて約 180 万 BPD 生産した。このうち原油は約 120 万 BPD で、ハシメサウド油田がその 40%超(約 50 万 BPD)を生産している。同油田は既に成熟しており、安定した生産量を維持する ため石油増進回収(EOR、Enhanced Oil Recovery)技術を適用して生産している。しかしながら、 産油量は徐々に低下しており、中期的にはさらに落ちていくであろう(図 3 参照)。 (*注意)製油所処理ゲインとは、製油所の「In(入り)体積」に対し「Out(出)体積」が増えることをいう。同ゲインは、 流動接触分解装置(FCC)などで大きくて重い分子が、小さくて軽い分子に分解され体積が増加することで発生する。 (単位:百万 BPD) (年) 図 3 アルジェリアの原油と他の液体燃料の生産量と消費量 なお、注目すべき最近開発された油田として、ハシメサウド油田の南に位置する El Merk 油田 がある。同油田は、2013 年初頭に生産開始し、2014 年第 1 四半期には原油、コンデンセート、 LPG を合わせて約 16.5 万 BPD 生産している。しかし、同国は、今後開発が予定されている大型 3 JPEC レポート 石油プロジェクトはない。 1.1.4 石油精製 アルジェリアには 5 ケ所製油所があり、原油精製能力合計は約 65 万 BPD である。特に同国東部 の地中海沿岸にある Skikda 製油所は、アフリカ最大の製油所で「Sahara ブレンド原油」とコンデ ンセートを処理している(図 2、表 2 参照)。 表 2 アルジェリアの製油所概要 製油所名 設置場所 原油精製能力 (万 BPD) 処理油種 オーナー企業名 1 Skikda 地中海沿岸 35.27 原油&C* Sonatrach 2 東部内陸 16.35 原油 Sonatrach 3 Hassi Messaoud Algiers(El Harrach) 地中海沿岸 6.34 原油 Sonatrach 4 Arzew 地中海沿岸 5.85 原油 5 Adrar 計 南部内陸 1.44 原油 Sonatrach Sonatrach、CNPC* 65.25 注意:C はコンデンセート、CNPC は中国石油天然ガス集団公司 1.1.5 原油の輸出 アルジェリアは、1969 年に石油輸出国機構 (OPEC)に加盟した。同国の輸出原油の主な 油種は、ハシメサウド盆地地域の複数の原油を 混合した「Sahara ブレンド原油」で、硫黄分と 鉱物含有量が非常に少ない高品質な軽質原油 である。 2013 年 同国は、原油とコンデンセートを合わ せて約 75 万 BPD 輸出した。その輸出先は、欧 州諸国 72%、南北アメリカ 18%、アジア太平洋 図 4 アルジェリア原油(含むコンデンセ ート)の輸出先 (2013 年) 地域 10%であった。国別では、2012 年以前まで の 10 年間は米国向けが最大であったが、ここ近 年減少し 2013 年の米国の同国産原油輸入量は、2012 年に比べ 75%超減であった。この要因 は、米国のノースダコタ州 Bakken 油田およびテキサス州 Eagle Ford 油田からの軽質で低硫黄 4 JPEC レポート 分のシェールオイルの増産が、類似の品質をもつ同国産原油輸入量の大幅な減少を招いたこと による(図 4 参照)。 1.1.6 石油製品の消費と輸出入 2004〜2013 年の 10 年間、アルジェリアの国 内石油消費量は年率平均 5%で伸びている。 2013 年の同消費量(38 万 BPD)の大部分は 自国産の石油製品で充当され、余剰分は世界市 場に輸出されている。同年、アルジェリアは、約 20 万 BPD の石油製品を輸出した。その 43%は米国 向けで、以下ブラジル(14%)、スペイン(7%)とな っている(図 5 参照)。 一方、同国は、主に欧州諸国とロシアから 図 5 アルジェリア石油製品の輸出先(2013 年) 石油製品の輸入も行っており、2013 年には 約 7.5 万 BPD 輸入した。 1.1.7 石油パイプラインと輸出基地 アルジェリアの国内石油パイプライン網は、内陸の油田から地中海沿岸部の石油インフラ(複数 の製油所と輸出基地)へ石油を運んでいる。しかしながら、同国は石油を輸出するための国際石 油パイプラインを保有しておらず、石油輸出は全てタンカーによる海上輸送に依存している。その 為、同国は、原油や石油製品を輸出する地中海沿岸石油基地を保有している。それらの基地は、 国内(Arzew、Skikda、Algiers、Annaba、Oran、Bejaia)およびチュニジアの La Skhirra に位 置している。 1.2 リビアの石油産業 1.2.1 石油の埋蔵量 Oil & Gas Journal によれば、2014 年 1 月時点のリビアの石油確認埋蔵量は 480 億 bbl で、 アフリカ最大かつ世界第9 位である(図6 参照)。同国には6 つの大きな堆積盆地(Sirte、Murzuk、 Ghadames、Cyrenaica、Kufra、The offshore)がある。その中でも Sirte 盆地には、同国の石油 可採埋蔵量の約 80%が集積している。同国政府は、これらの盆地にはまだ未発見の石油資源が 5 JPEC レポート 存在する可能性を信じているが、2011 年のカダフィ政権崩壊により続いている社会不安が大規模 な石油探査計画を阻んでいる。 (単位:百万 bbl) 図 6 世界の石油確認埋蔵量のトップ 10 (2013 年) 1.2.2 石油の生産 リビアの原油生産量は、1960 年代後半にピークレベル(300 万 BPD 超)に達した。1970 年代か ら 2000 年代にかけて、石油産業 の一部国有化とその後の国連と 米国などから科された経済制裁 により、高レベルの石油生産を維 持するために必要な投資や機器 の設置が妨げられてきた。 リビアの産油量は 2000 年に 140 万 BPD、2008 年には 174 万 BPD と徐々に増加してきたが、 2013 年中頃~2014 年中頃の 図 7 リビアの製油所とエネルギーインフラの位置 6 JPEC レポート 間、同国中部および東部の主要石油積出港で暴動が発生し、港と接続している油田の完全停止ま たは一部停止を余儀なくさせられた。また、西部の油田においても暴動のため断続的に閉鎖され た。2014 年 1 月~11 月の間 平均原油生産量は、前年より約 50 万 BPD 少ない 45 万 BPD であ った。 また、リビアは、コンデンセートと天然ガス液(NGL、Natural Gas Liquids)を含む非原油液体 燃料を少量(5~10 万BPD)生産している。通常、これらの非原油液体燃料は、Mellitah のガス処 理施設と Marsa al-Brega の NGL プラントで処理されている(図 7 参照)。2011 年から始まった内 戦期間を含め、2010 年 1 月~2014 年 11 月までの同国の石油生産量は極端な変遷があった(図 8 参照)。 (単位:百万 BPD) (年) 図 8 リビアの石油生産量推移 1.2.3 石油の増産計画 リビア国営石油(NOC、National Oil Corporation)は、かつて石油埋蔵量の枯渇への対処お よび既設油田の生産量拡大のため、石油増進回収(EOR)技術への投資を重視してきた。2009年 NOC は、24 件の油ガス田開発と復興を伴う開発計画を発表した。同計画は、拡張が可能な Waha (Oasis)油田、Nafoura/Augila 石油コンプレックス、El Feel(Elephant)油田に対する大規模な 生産能力拡大を計画し、これらの既設油田から合計で 77.5 万 BPD の増産を目指している。しかし ながら、同国の政情不安と不安定な治安状況により、大きな資本を必要とする全ての EOR プロジ ェクト計画は遅延している。 7 JPEC レポート 1.2.4 石油の精製と消費 リビアには 5 ケ所の製油所があり、原油精製能力合計は 37.8 万 BPD である。Ras Lanuf 製油 所は、原油常圧蒸留装置能力(22 万 BPD)は大きいが、他に LPG 回収装置のみしかない単純な 装置構成である。NOC では、石油下流分野の拡大と既設製油所のアップグレード計画を定期的 に公表しているが、過去数年間に渡る継続的な紛争が新しい大型投資を阻んできている。2013 年 同国は、石油と他の液体燃料を合わせて 24.8 万 BPD 消費した。同国では、国内石油製品消費量 の大半は自国内の製油所から供給されている(表 3 参照)。 表 3 リビアの製油所概要 製油所名 設置場所 原油精製能力 (万 BPD) オーナー 企業名 1 Ras Lanuf 地中海沿岸 22.0 NOC 2 Zawiya 地中海沿岸 12.0 NOC 3 Tobruk 地中海沿岸 2.0 NOC 4 Sarir 東部内陸 1.0 NOC 5 Marsa al-Brega 合計 地中海沿岸 0.8 NOC 37.8 1.2.5 原油の輸出 リビアは、1962 年に石油輸出国機構(OPEC)に加盟した。2013 年 同国は、原油(含む コン デンセート)平均で 87.5 万 BPD 輸出した。前年の輸出量(130 万 BPD)より少なかったのは、石 油生産の混乱が 2013 年中頃に拡大し、2014 年に入っても継続したためである。 リビア原油の大半(70%〜80%)は、欧州諸国へ販売されている。一方、米国はリビアへの経済 制裁が解除された後、2004 年にリビア原油の輸入を再開した。米国は 2013 年に同原油を 4.3 万 BPD 輸入したが、米国の輸入原油合計の約 0.6%に過ぎない。 1.3 エジプトの石油産業 1.3.1 石油の埋蔵量 Oil & Gas Journal によれば、2015 年 1 月時点のエジプトの石油確認埋蔵量は 44 億 bbl で ある。一方、エジプト国営石油(EGPC)は、公式の石油推定埋蔵量は 40 億 bbl(原油 28 億 bbl、 コンデンセート 12 億 bbl)であるとしている。同国は、石油探査活動の持続的なレベルを維持し、 8 JPEC レポート 毎年数多くの油田を発見してきた。たとえば 2013 年には 86 件の油田を発見した。このような新し い油田の発見が同国の石油推定埋蔵量を押し上げてきている。 1.3.2 石油の生産 エジプトの石油生産は、成熟油田に対する石油増進回収(EOR)技術の活用により産油量の減少 を緩和している。また、天然ガスの生産量が増えるにつれ、天然ガス液(NGL)の生産量も増え、原 油生産量の減少を一部相殺している。2014 年 エジプトの石油と他液体燃料の生産量合計は、前 年とほぼ変わらず平均 70.8 万 BPD であった(図 9 参照)。同国の石油生産地域は、西部砂漠地域 (51%)、スエズ湾(20%)、東部砂漠地域(12%)、シナイ半島(10%)などで、ほとんどは比較的小規模 な油田から産出されている。 (単位:千 BPD) (年) 図 9 エジプトの石油(含む他液体燃料)の生産量と消費量 1.3.3 石油の精製と消費 エジプトの製油所能力は(出版物によって異なる)、アフリカ最大の石油精製能力を保持してい る。なお、製油所は全てエジプト国営石油(EGPC)の子会社である(表 4 参照)。 2015 年後半または 2016 年内には、新設製油所(8.5 万 BPD)が稼動開始する見込みである。 同製油所は、Qalaa Holdings(Formerly Citadel Capitol)と EGPC の官民協力による融資のも と、Egyptian Refining Co.(ERC)が 2012 年に着工している。また、2010 年 5 月 EGPC は、中 国の企業連合とも製油所(30 万 BPD)建設プロジェクトの覚書に署名した。しかし、同プロジェクト の進捗状況は遅々としている。 エジプトの製油所の実稼動能力は、公称能力に比べ相当低い。石油の国内消費量が増えてい るにもかかわらず、同国の石油製品生産量は 2009 年から 2013 年にかけて 28%も減少した。その 結果、同国は不足分を補うために石油製品を輸入しなければならなくなっている。石油輸出国機 9 JPEC レポート 構(OPEC)の年次統計速報によれば、2013 年の同国の石油製品生産量は 44.5 万 BPD で、製 油所稼動率が約 63%であったことを示している。 表 4 エジプトの製油所概要 製油所名 設置場所 原油精製能力 (万 BPD) 操業会社名 1 El Suez 紅海沿岸 10.0 El-Nasr Petroleum 2 Mostorod Mostorod 工業地帯 14.2 Cairo Petroleum Refining 3 Alexandria El-Mex 湾岸 11.5 Alexandria Petroleum 4 Alexandria 地中海沿岸 10.0 Middle East Oil Refinery 5 Alexandria 地中海沿岸 7.5 Ameriya Petroleum Refining 6 El Suez 紅海沿岸 6.8 Suez Petroleum Processing 7 Assiut 中部内陸 5.0 Assiut Petroleum Refining 8 Tanta 北部内陸 5.4 Cairo Petroleum Refining 合計 70.4 出典:Arab Oil and Gas Journal FACTS Global Energy は、この稼動率低下の原因はエジプト政府の政策に起因しているとし ている。即ち、同国政府は金融債務の返済手段として、外国の石油生産者に より多くの原油を輸 出することを許可している。その結果、原油生産量が減少しているにも拘らず、過去数年間に渡り エジプトの原油輸出量は実質的に横ばい状態で推移している。そのことにより、国内製油所で利 用できる国産原油量が少なくなり、同国はその差を埋めるため、石油製品と原油の両方またはい ずれか一方を輸入しなければならなくなっている。 1.3.4 原油とコンデンセートの輸出 エジプトは、OPEC 非加盟国である。2013 年 同国は、原油とコンデンセートを合わせて約 18.9 万 BPD 輸出した。主な輸出先は、欧州諸国 (56%)、インド(28%)および中国(13%)である (図 10 参照)。主なエジプト産原油名は、Suez Blend 原油、Belayim Blend 原油および Western Desert Blend 原油の 3 種類があげられ るである。 図 10 エジプト産原油(含むコンデン セート)の輸出先(2013 年) 10 JPEC レポート ただし、Suez Blend 原油および Belayim Blend 原油は、生産量は老朽化のため減少している。 さらに両海洋原油は比較的硫黄分が多いため、Brent 契約より割引価格で販売されている。また、 Western Desert Blend 原油は、西部砂漠の油田産の軽質で比較的硫黄分が少なくワックス分が 多い原油である。これら 3 原油とも多くは国内で精製され、残りは輸出されている。 1.3.4 スエズ運河と SUMED パイプライン エジプトは、スエズ運河と「Suez-Mediterranean(SUMED)パイプライン」を運営することにより、 国際エネルギー市場で重要な役割を果たしている。同運河は、ペルシア湾から北行きで欧州や北 米に向けて、また南行きで北アフリカや地中海沿いの諸国からアジアに向けて石油や LNG を出 荷するための重要な輸送ルートとなっている。SUMED パイプライン(全長約 322km、口径 42 イ ンチ配管 2 本並行敷設)は、タンカーが同運河を航行できなくなった場合に紅海から地中海へ原 油を運ぶ唯一の代替ルートである(図 11 参照)。 スエズ運河 これらの 2 つの通過ポイントの運営から得られ た料金収入は、エジプト政府にとって重要な歳入 SUMED パイプライン 源となっている。なお、スエズ運河の所有者は同 国政府直轄のスエズ運河庁であるが、SUMED パイプラインの所有者は Arab Petroleum Pipeline Co.(合弁会社)である。 2014 年 前年より 50 万 BPD 超多い約 370 万 BPD の石油(原油と石油製品)がスエズ運河 図 11 スエズ運河と SUMED パイプライン を通過した。北行きが増えた主な要因は、イラクか ら欧州諸国向けの原油輸出が増えたことによる。一方、南行きが増えた主な要因は、ロシアからア ジア諸国向けの原油と石油製品(特に重油)の輸出が増えたことによる。 また、2014 年 前年より 20 万 BPD 多い 150 万 BPD の原油が SUMED パイプラインを通っ て地中海側の Sidi Kerir 石油基地に運ばれ、そこからタンカーに積まれ出荷された。前年より増 えた主な要因は、ペルシア湾岸諸国から欧州諸国向けの原油の輸出が増えたことによる。 2014 年 スエズ運河と SUMED パイプラインを通過した石油の合計量は 520 万 BPD で、前年 より 70 万 BPD 増えた。この量は、世界の海上石油交易量合計の約 9%に相当する。なお、2015 年の JPEC レポート第 2 回「世界の海上石油輸送のチョークポイント」でより詳細に記載している。 11 JPEC レポート 1.4 スーダンおよび南スーダンの石油産業 1.4.1 石油の埋蔵量 Oil & Gas Journal によれば、2014 年 1 月時点 のスーダンの石油確認埋蔵量は、15 億 bbl、南スー ダンの石油確認埋蔵量は 35 億 bbl である。これら埋 蔵量の多くは、両国に跨る Muglad 盆地と Melut 盆 Muglad 盆地 地に存在している(図 12 参照)。 Melut 盆地 両国における石油・ガス探査は、未開発エリアに 炭化水素堆積層の存在根拠がないことおよび社会 不安のため依然として限られている。最近スーダン は、探査鉱区入札を実施し、いくつかの鉱区のライ センスを同地域での経験の少ない中小企業に授与 した。 図 12 スーダンと南スーダンの油田と製油所 1.4.2 石油の生産 旧スーダンから南スーダンが分離独立(2011 年 7 月独立)後の数年間(2011 年〜2014 年)、南 スーダンはしばしば石油生産の混乱を経験してきた。2012 年 1 月末 南スーダンは、石油生産を ほぼ全て停止したため、同年のスーダンと南スーダンを合わせた産油量は 11.5 万 BPD まで急落 した(図 13 参照)。 (単位:千 BPD) (年) 図 13 スーダンと南スーダンの石油生産量 12 JPEC レポート 両国で生産される全油田は、Muglad 盆地と Melut 盆地にある。過去数年間に渡り、スーダン と南スーダン間の石油収入分配に関する協議決裂と武力紛争が、両国における石油生産を縮小さ せている。また、既存油田が成熟してきており、産油量は徐々に減少している。 スーダンは、既存油田の減衰速度をいくらかでも鈍化するため、石油増進回収(EOR)技術を活 用している。また、石油生産量約 11 万 BPD を維持するため、2012 年末に 2 つの小規模油田の 生産を開始した。一方、南スーダンは、2014 年前半に平均で 15 万 BPD 生産した。この間の両国 の石油生産量は合わせて約 26 万 BPD で、分離独立前年の約 49 万 BPD に比べ半減している (表 5 参照)。 表 5 スーダンと南スーダンの主要油田 所属国 主要油田名 ブレンド 原油名 操業会社 スーダン スーダン スーダン スーダン 南スーダン 南スーダン Heglig、 Bamboo Diffra、 Neem Fula、 Hadida al-Barasaya Unity、 Toma、 Munga Palogue、 Adar-Yale Nile Nile Fula NA Nile Dar GNPOC GNPOC Petro Energy Star Oil GNPOC DPOC Nile SPOC 南スーダン Mala、 Thar Jath 1.4.3 石油精製 スーダンは、2 ケ所の製油所と 3 ケ所小規模なトッピングプラントを保有し、原油精製能力合計は 約 14 万 BPD である。同国最大の製油所は Khartoum 製油所(10 万 BPD)で、中部内陸部に位 置している。同製油所は 2000 年に操業開始、Nile Blend 原油を 5 万 BPD 処理していたが、 2006 年に 10 万 BPD まで増強し、酸性度の高い Fula Blend 原油も処理できるようになった。同 製油所は、カルシウム含有量の多い原油を処理できる世界初のディレードコーカー装置を備えた 先進的な製油所でもある。もう 1 ケ所の製油所は、Port Sudan 製油所(2.17 万 BPD)で、紅海沿 岸に位置している(図 12、表 6 参照)。 マレーシア国営石油公社(Petronas)は、同国 Port Sudan に 10 万 BPD の製油所を建設する ことを計画している。しかし、同計画は度々延期されてきており、何らの進展も報告されていない。 また、既設 Khartoum 製油所の拡張(10 万 BPD)も提案されているが、こちらも進展していない。 13 JPEC レポート 表 6 スーダンの製油所概要 製油所名 Khartoum (al-Jaili) Port Sudan El Obeid Shajirah Abu Gabra 合計 原油精製能力 (万 BPD) 10.00 2.17 1.00 1.00 0.20 14.37 操業会社 CNPC/Sudapet Sudapet Sudapet Concorp Sudapet 現在、南スーダンには稼動している製油所は 1 ヶ所もない。なお、同国 Bentiu に小規模な製油 所(当初 0.3 万 BPD、将来 0.5 万 BPD)が近く完成予定である。しかし、2013 年 12 月後半 武力 衝突により停止した近隣油田が生産再開するまでは、同製油所は稼動開始できないであろう。また、 同国 Upper Nile 州にある 2 番目の製油所建設(1.0 万 BPD)も紛争のため停止している。 1.4.4 石油の消費と燃料補助金 スーダンおよび南スーダンの石油国内需要は、自国産原油を精製した製品と輸入された石油製 品で充当されている。発電用や輸送用に使われるディーゼル燃料油が最も需要が多く、次いでガ ソリンと発電用の重油である。2000 年~2011 年の間、分離前のスーダン(スーダン+南スーダン) の石油消費量は年率平均約 10%で伸びており、2011 年には 13.2 万 BPD の最高レベルに達し た。その伸び要因は、工業化、自動車の所有者増、電力需要増によるもので、その大半は分離後 のスーダンでの消費であった。 分離独立後の 2012 年には、前年比約 30%減の 9.5 万 BPD まで落ち、2013 年も低迷したまま である。主な理由は、南スーダンの石油生産が停まったことにより、スーダンに石油移送通過料が 入らなくなったことによる同国が経済打撃を受けたためである(図 14 参照)。 そこで、スーダン政府は、歳出の約 15%を占めていた燃料補助金を削減した。これにより、ガソリ ン、ディーゼル燃料および LPG 価格が実質的に 65%〜75%値上がりした。これに抗議して、市民 がハルツーム(Khartoum、首都)で暴動を引き起こし、警備隊との衝突により数十人の市民が死 亡するという事態が発生した。 14 JPEC レポート (単位:千 BPD) (年) 図 14 スーダンおよび南スーダンの石油消費量 1.4.5 原油の輸出 スーダンおよび南スーダン両国とも OPEC に は加盟していない。両国は Nile blend 原油と Dar blend 原油をアジア市場へ輸出している。 2013 年 両国は、13.3 万 BPD の原油を輸出し た。この輸出量は前年の 6 万 BPD より多いが、 主要な油田が停止する前の 2011 年(33.7 万 BPD)に比べかなり少ない。最大の輸出先は中 国で、2013 年にスーダンが 4.9 万 BPD、南ス ーダンが 6.5 万 BPD を中国向けに輸出してい 図 15 スーダンおよび南スーダン産原油 る。この量は両国の輸出原油合計の 86%に当 の輸出先 (2013 年) たる(図 15 参照)。 輸出先 (2013 年) 1.4.6 原油輸出パイプライン スーダンは、南部から Port Sudan(紅海沿岸)の南約 24km に位置する Bashayer Marine Terminal に至る石油輸出パイプラインを 2 本保有している。 1 本は「Petrodar パイプライン」で、南スーダンから産出される Dar Blend 原油(重質で硫黄分 が多い)を運んでいる。全長は約 1,370km、設計輸送能力は 50 万 BPD で、ワックス分の多い同 原油の流動性を上げるため配管には加熱設備を備えている。 15 JPEC レポート もう 1 本は「GNPOC パイプライン」で、Heglig の処理設備から Bashayer Marine Terminal ま で Nile Blend 原油(中質で硫黄分は少ないがワックス分の多い)を運んでいる。全長は 1,610km 設計輸送能力は 45 万 BPD である。同原油は、スーダンの 4 油田(Heglig、Bamboo、Diffra、 Neem)および南スーダンの 3 油田(Unity、Mala、Thar Jath)から供給されている。2007 年以降 は、同パイプラインを通る全ての油田において産油量が自然減少している(図 13 参照)。 南スーダンは、輸出原油移送時のスーダンへの依存度を軽減するため、スーダン経由の現在の ルートを迂回する原油輸出パイプラインの建設を検討している。同国はケニア、エチオピア、ジブ チの当局と、エチオピアを経由してケニアの Lamu 港またはジブチの港へのいずれかのパイプラ イン建設の覚書を締結している。一方、豊田通商がケニアの Lamu 港までのパイプライン建設の FS(Feasibility Study)を完了し、資金調達やパイプライン建設が可能だとしている。しかし、同パ イプライン建設計画は内戦により行き詰っている。 1.4.7 石油を巡るスーダンと南スーダンの確執 南スーダンが 2011 年 7 月分離独立後、スーダンは石油収入の減収分を補おうとして、南スーダ ンに対し石油移送通過料(32〜36 米ドル/bbl)を要求した。それに対し、南スーダンは同 1 米ドル /bbl 未満を提示した。2011 年末に緊張が高まり、スーダンは未払いの石油移送通過料の支払い 分として、南スーダンの石油の一部を没収し始めた。2012 年 1 月、南スーダンは石油移送通過料 に関してスーダンとの論争の結果、全ての石油生産を自発的に停止した。 2012 年 9 月 アフリカ連合の仲介により、両国は分離独立後の諸問題についての協力協定に署 名した。石油についての協定は、南スーダンがスーダンの石油輸送施設と処理施設の使用できる とし、南スーダンの石油生産再開を求めている。南スーダンがスーダンに(11 米ドル/bbl)の石油処 理・輸送・通過料金を支払うことを規定している。その後の断続的な交渉を経て、南スーダンは 2013 年 4 月に限られた量で石油生産を再開した。その約 1 ヶ月後に、複数の南スーダン最大級 油田からの生産も開始された。2013 年 9 月、スーダンが「スーダンのパイプラインを経由して南ス ーダン産原油を輸出することを許可する」と発表し、南スーダンは石油生産量の削減を解除した。 しかしながら、2013 年 12 月 南スーダンでは政権内での武力衝突、暴動および外国労働者の撤 退により、複数の油田において生産が再び停止した。同国の石油生産の中断が継続的に続いて いるのが現状である。 16 JPEC レポート 3.まとめ* ・アルジェリアは、西アフリカ地域で最大の産油国(アフリカ全体では第3位)である。また、石油 埋蔵量においても、アフリカ全体では第3位である。しかしながら、石油生産量は、同国の国 内問題により新規油田開発の遅延および既存油田の老朽化の影響により低下傾向にある。 ・リビアは、アフリカ最大の石油確認埋蔵量を誇る石油大国である。しかしながら、同国への経済 制裁に続く、カダフィ政権の崩壊(2011年)による国内の混乱により、石油探査、石油生産お よび輸出は低迷している。 ・エジプトは、石油確認埋蔵量および石油生産量は大きくないが、原油精製能力はアフリカ最大 の能力(約70万BPD)を保持している。しかしながら、同国政策の影響により既存製油所は、 低稼働の状態が継続している。その結果、同国は内需を満たすため、石油製品の輸入を強 いられている。 ・南スーダンは、民族対立などからの南北内戦を経て、2011年にスーダンより分離独立した新し い国家である。両国は独立後も石油利権などから何度も対立し、その影響により石油生産な らびに輸出が低迷している。 (*注意) 次回の天然ガス編(2)にて目次番号2を使用しているため、まとめ番号は3としています。 ≪出典および参考資料≫ (1)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、Algeria Country Analysis Brief、 http://www.eia.gov/beta/international/analysis.cfm?iso=DZA 、 (2)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、Libya Country Analysis Brief、 http://www.eia.gov/beta/international/analysis.cfm?iso=LBY 、 (3)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、Egypt Country Analysis Brief、 http://www.eia.gov/beta/international/analysis.cfm?iso=EGY 、 (4)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、Sudan & South Sudan Country Analysis Brief、 http://www.eia.gov/beta/international/analysis.cfm?iso=SDN 、 (5)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、INTERNATIONAL 、 http://www.eia.gov/countries/ 、 (6)米国 DOE・エネルギー情報局(EIA)レポート 、INTERNATIONAL ENERGY STATISTICS http://www.eia.gov/beta/international/rankings/# 、 (7)A Barrel Full 、African refineries 、 http://abarrelfull.wikidot.com/african-refineries 、 17 JPEC レポート (8)Wikipedia 、North Africa 、 http://en.wikipedia.org/wiki/North_Africa 、 (9)Wikipedia 、Sahele 、 http://en.wikipedia.org/wiki/Sahel 、 (10)Wikipedia、 Upper and Lower Egypt、 http://en.wikipedia.org/wiki/Upper_and_Lower_Egypt 、 (11)Wikipedia 、In Amenas hostage crisis 、 http://en.wikipedia.org/wiki/In_Amenas_hostage_crisis、 (12)Wikipedia 、Arab Gas Pipeline 、 http://en.wikipedia.org/wiki/Arab_Gas_Pipeline 、 本資料は、一般財団法人 石油エネルギー技術センターの情報探査で得られた情報を、整理、 分析したものです。無断転載、複製を禁止します。本資料に関するお問い合わせは [email protected]までお願いします。 Copyright 2015 Japan Petroleum Energy Center all rights reserved 次回の JPEC レポート(2015 年度 第 8 回)は、 「北アフリカ主要国の石油と天然ガス動向 (2) 」を予定しています。 18
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