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Title
楽しい理科授業への模索 (Ⅶ) ―小学校理科における人体の学習に関
する一考察―
Author(s)
橋本, 健夫; 内野, 成美
Citation
長崎大学教育学部教科教育学研究報告, 26, pp.47-60; 1996
Issue Date
1996-03
URL
http://hdl.handle.net/10069/30292
Right
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Bulletin of Faculty of E(iucatlon,Nagasaki University:Curricuium and Teaching1996,No.26,47−60
楽しい理科授業への模索(V皿)
一小学校理科における人体の学習に関する一考察一
橋本 健夫*・内野 成美**
(平成7年10月31日受理)
Experiments for the Pleasant Science Teaching(VII)
一AStudyontheLeamingofHumanBodyinElementaryScience一
Tateo HASHIMOTO and Narumi UCHINO
(Received October 31,1995)
はじめに
平成元年,小学校低学年の教科として「生活科」が新設された。それに伴って小学校理
科は,生活科の学習を受けた形で3年生から学習されることとなった。従って,戦後50年間
続けられてきた1年生から6年生までの小学校理科の教育は,大きな変更を余儀なくされ
た。
平成元年に改訂された小学校学習指導要領によれば, 「直接経験の重視」と「問題解決
能力の育成」,さらに, 「基礎的・基本的な内容の学習を通しての科学的な見方や考え方
の育成」を理科の目標改善の視点とし,それに従って理科の内容を精選,集約,そして改
善したことが述べられている(1)。
その結果,小学校の理科の内容は大きく変化した。その一つは, 「日常生活における科
学及び人の体のつくりと働きに関わる内容の充実」という内容改善の視点を実現した,A
区分における3年生から6年生まで通した人体の学習である。これは,従来の理科におけ
る人体についての学習が,6年生における「人の体のつくりと働き」だけであったことを
考えるとずいぶん思い切った内容の変更である。
ごの内容の変更については,賛否両論が述べられてきている(H)が,学習指導要領に記述
されたこともあって,多くの教員はともかく授業を構築してみようという前向きの姿勢で
臨んだきた。これは,「子どもたちが自分のこと(体も含めて)をよく知り,自分との関
わりの中で自然を理解することは理科学習の深まりを促すものである」との前提を認め,
自ら積極的にその実践に取り組んできたことを示している。
しかし,学習指導要領の完全実施から5年を経過した今,小学校の現場ではこの「人体
の学習」の実践について多くの悩みを持っている教員が多くなっている。その傾向は,現
職教員等を対象とした調査結果にも現れている(4)。
この悩みの大きな原因の一つは,この学習についての報告や小学校の研究発表会等での
*長崎大学教育学部理科教育学研究室,**長崎大学大学院教育学研究科
48
長崎大学教育学部教科教育学研究報告
第26号
意見交換から推測する限り,性教育との絡みである。そこで,人体に関する学習の歴史と
教員の性に関する教育に対する意見,さらには,子どもたちの性についての知識や意識を
明らかにすることによって,小学校の理科における人体に関する学習のあり方を追究した
いQ
表1 国定教科書までの教科書における人体に関する内容
教科書名
出版年)
感覚器系
旨:脳・神経系
l l : : 1
骨格・筋肉系: 呼吸器系 1 循環器系 1 消化器系 :その他l I l : :
・眼 i・神経 i・骨格 i・肺(気管支,i・心臓 i・消化器全体の1(角膜,瞳孔,・(働き,知覚と・(名称数) ・気管働き) 1(循環の順番) 1図 1水晶体,網i運動) i・関節 i・呼吸 i・動脈,静脈 1・口(働き,唾液〉1視神経察):・脊髄,脳髄 :・腕が曲げられ1・酸素と二酸化1(違い) :・歯 i るのはなぜか1炭素の交換 l l(構造,働き,虫I
明 治 20 年
小學理科書︵巻之二︶
・耳(構造):(大脳と小脳のl
l位置)
i i l l歯) l
;
l l i 卜食管 l
・皮膚
1
l l l l・胃(位置) l
l l l l・小腸、大腸 :
}
:
:
1
l l l :・肝臓(胆汁) l l l l l l ・消化の順番 1 匪 I l l
卜神経︵働き︶1:::1::1ξ1:旨︷
明 治
小學理科新書︵巻之二V
「 i l: 1・肺 i・心臓 ドロ、歯 ll I(気管支,気胞)・(構造,弁膜)1(種類,働き)ll l・呼吸の働き :・動脈,静脈 1・唾(働き) l
25
卜運動神経
知覚神経:・延髄(働き)
年
大脳,働き︶[11:1:1
︵巻之四︶
・脳
(形,構造,小脳,l
卜骨 卜鼻 :・血液 1・口,歯 卜尿1(名称,数) 1(断面図,働き):(赤血球,白血 1・唾液(働き) ll・筋肉 卜気管 1球,性質,働き)1・食道 l
卜大脳
神経1・小脳i・延髄:︵働き︶12:1:::
明 治 33 年
小學理科教科書︵巻四︶
・皮膚
:::;ξ旨::::1:1
明 治 26 年
新定理科書︵巻之三︶
・皮膚
1・骨 1・肺 卜血液 1・歯,唾液 :
(構成) :横隔膜 :(血漿,赤血球,1・胃,小腸 ll・筋肉 1(働き) 1白血球,働き):・胆汁,膵液 l
(働き,構成) i i・血管 i(働き) 1
.橋 本:楽しい理科授業への模索(皿)
49
小学校理科における人体の学習の歴史的変遷
明治以降の理科の教科書に記載されている人体に関する内容を,海後・仲両氏による「日
本教科書大系・近代編」と入手した戦後の教科書を使って調査,分析した(5吻。その結果を,
国定教科書までの時代,国定教科書時代,学習指導要領準拠教科書時代に分けて表示した
ものが表1∼3である。
表2 国定教科書における人体に関する内容
教科書名
出版年)
感覚器系
IIl脳・神経系 IIl骨格・筋肉系
i・骨格
L脳働き);1・脊髄
皮膚
・神経:::2;匪;1:
②
i・脳1(大脳の構造)1ド脊髄(構造)
・神経II(種類,構造)
1;lIlI:1
④
同
観察,明る:
化) ,
耳
心臓(働き)1・歯(働き,数)1・汗
動脈,静脈 1・唾液,舌(働き)1(体温調節) 1 0
(違い,働き)レ胃(胃液の働1
上
1・自分の呼吸
・胸,肩の動きl
・吐き出す空気l llの量 1卜吸う空気と吐llく空気の違い1:::1:1::1
による
1;3::::::旨5;B;:1
;1:﹃:::1:1II;811
・眼
⑤
匹 1
・肺 1 ; ︵小さな袋︶ 1・横隔膜 : 1・酸素と二酸化:1炭素の交換: :ド肺と心臓とのIl血の循環の碍1係:旨;︸旨
い舌・耳︵鼓膜の振動︶・眼
③
i・骨格 i
各部の骨の櫛 :1造︶ 1:・筋肉 1:1︵働き︶IIl:::::1
・皮膚
・呼吸の働き 1 :・酸素と二酸化I l 炭素の量 1:・肺:︸ξ1;::1
・感覚器
(酸素と二酸化1::炭素の交換)
L骨格 ll :1︵頭の骨,背骨,1 :1肋骨,手足のIl骨︶︵構造︶旨レ筋肉︵運動︶;:::;馨
1
:
:
:
1
循環器系 1 消化器系 1その他 『: I l
15:::i
I i 卿
①
I l I
:・肺
筋肉:::﹃;11;:1
き・皮膚
・五官の働卜脳(働き)
:
旨
:
IIl 呼吸器系
心臓) 1湯を混ぜてつi変化)
1ぶしたものの1・体を丈夫に
l比較) 1するには: : I
:・歯(自分の歯)i(国を強くす
:・肝臓,膵臓,1るため)I l小腸,大腸 :: I ll l(図〉 1
50
長崎大学教育学部教科教育学研究報告
学習指導要領に準拠した教科書における人体の内容
表3
出版年)
感覚器系
・目
18:
教科書名
第26号
l l l
l l
消化器系 ll l
l l l
卜頭蓋骨 :・肺(しくみ)1・つくり
卜脳
1・歯(虫歯) 1
脳・神経系1骨格・筋肉系1 呼吸器系 ! 循環器系
i・肋骨(働き)卜働き
レ運動後の呼吸レ循環
(大脳,小i関節1脳,延髄)1(保護)
瞳,網膜)・耳(かたつむり:・神経
口,胃,小腸:『 口
(食べ方と関l
連) 1
・筋肉 1の変化 1・赤血球
11Il
鼓膜︶・鼻︵働き︶・皮膚︵温点,冷点︶1
⑥
・構造
その他
(運動により発i i・白血球1達) l I(働き) ll l }: 1‘ I l
i歯(働き)i
皮膚
体温調節)
⑦
l レ動脈 l I
I 卜静脈 l lI I l l l
旨;::IlIIl;II
⑧
1・体温調整
・目
,レンズ,
レロ 1
(関節) i・肋骨 1・循環1(体を支える)1横隔膜 i・動脈1(内部の保健)1(しくみ,働き)1・静脈
・筋肉 卜吐く息と吸うi・働き1(付き方) :息の違い 1(酸素を配り、1(内蔵を構成)1 :二酸化炭素やlI l l不用物を持ち:l l l去る) ll : l l
1・骨 卜肺(働き) :・拍動
卜口 1
11:11II
瞳,こうさ
1・骨 1・肺(働き) トつくり
視︶・耳︵鼓膜,耳殻︶1・皮膚︵汗︶
膜,近視,:
⑨
l l
酵 1
1・歯(図) 1:田 :ド目・唾液 1・小腸,大腸(働:1き) l
関節 レ肺(つくり)1・循環
骨 1・運動前と後の1・つくり・腕の曲げ伸ば:呼吸の変化 l I 、 1しによる筋肉レ吐く息と吸っ1の動き 1息の違い 1
⑩
哨化器の図iI(消化液の働剖1の記述なし)ll :
:(石灰水) :
l l
l l
目,耳,皮1
1
の働き
lI
3年
旨レ体温
⑪
5年
6年
書12112監︸旨 旨2;1:1
4年
:・骨,筋肉の働1 :1き 1 :l l l
十 l l
l・呼吸 レ脈拍
十 1 1
{: }1I l
・男女の体
: 1聖 l ll I 濫
のちがい
・精子,卵
1 :
子・受精卵の
:
l
l
i唾汲消化液i:・口,胃,小腸,ロ ;1大腸の働き 1:1 :
成長
51
橋 本:楽しい理科授業への模索(V皿)
表2と表3において教科書名の項に示した丸数字は,次の教科書を指している。
①:第一期国定教科書「尋常小学理科書」 (明治44年)
②:第二期国定教科書「尋常小学理科書」 (大正7年)
③:第三期国定教科書「尋常小学理科書」 (大正11年)
④:第四期国定教科書「尋常小学理科書」 (昭和4年)
⑤:第五期国定教科書「初等科理科」 (昭和17年)
⑥:昭和22年学習指導要領準拠教科書「小学生の科学」 (昭和23年,文部省)
⑦:昭和26年学習指導要領準拠教科書∫たのしい理科」 (昭和28年,大日本図書)
⑧:昭和33年学習指導要領準拠教科書「たのしい理科」(昭和35年,大日本図書)
⑨:昭和43年学習指導要領準拠教科書「新理科」 (昭和48年,大日本図書)
⑩:昭和53年学習指導要領準拠教科書「たのしい理科」 (昭和57年,大日本図書)
⑪:平成元年学習指導要領準拠教科書「たのしい理科」 (平成3年,大日本図書)
さらに,国定教科書以降の教科書におけ為人体の事項についての説明の様子を一覧表に
したものが,表4になる。
表4 教科書における人体の各事項の取り扱い
⑪ ◎
◎ ◎
系器殖生
⑩
田目
O
受精の方法
受精
母体内
へその緒
子宮
精巣
卵巣
精子
卵子
消化液
大腸
小腸
◎
歯・口
◎
◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ △ ◎
⑨ ◎
食道
○ △ △
⑥ ◎
◎ ◎
◎ △ ○
◎
△ △
⑧ ◎
O O
◎ ○ ◎ △ ◎ ◎ ○
◎
O
△ △ △ △ ○
△
O△◎
O○○◎
△ O O ○ ◎
O△△◎
◎ ○ ◎ △ ◎ ◎ ○ ◎ ◎ △
⑤ ◎
⑦ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
血液
◎
◎
系器化消
系器環循
O
◎
・O
△
血管
△ △ ○
腎臓
心臓
肺
横隔膜
④ ◎ ○ ◎
吸系呼器
③ ◎ ○ ◎
OO
O◎O
O◎O
骨
筋肉
神経
皮膚
脳
① △ △ △ △ ○
② △ △ △
儲系
・経脳神
系器覚感
教 科書名
目 鼻 耳
O
○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
◎ ○ ◎
◎ ◎ ○ ◎ ◎
◎ ◎ ◎
O
◎ ◎ ◎ ○ ◎
O
O O
○
◎ ◎
◎
◎ ○
OO
O◎○◎
△ ◎ ◎ O
◎ ◎ ◎
○ △ ○ △ ○ △ ◎ ◎ ◎
◎ ◎ ◎
O
○ △
◎
△ △ ◎
O ◎ OO △△△◎◎○O
◎:詳しく記述(構造、図と働き、実験などの記述) O:働き △:名称
52
長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第26号
また,各教科書において人体の部分がどのような形態で説明されているかを表すために,
その部分の文章と図の割合を示したものが,表5である。
表5 教科書における人体の部分の文章と図の割合
教 科 書 名
A
13.3
昭和4 尋常小學理科書(第6学年) 31.6
0.0
④
0.0
③ 大正11 尋常小學理科書(第6学年) 21.6
⑤ 昭和17 初等科理科(第6学年)
14.1 60.4
昭和23 小学生の科学(第4学年)
44.2 40.8
.8
.0
50.0
5.0
⑨ 昭和48 新理科(第5学年)
13.2 57.6
⑩ 昭和57 たのしい理科(第6学年〉
24.3 68.1
平成3
12.0 79.2
.7
9.7
0.8
0.9
1.6
⑪
たのしい理科
(第3学年)
(第4学年)
(第5学年)
(第6学年)
3.3
A:教科書における人体の割合
1.9
B
12.1 39.6
7.8
(第6学年)
7.5
7.0
昭和26 たのしい理科(第4学年)
.3
6.5
⑦
(第5学年)
(第6学年)
4.1
⑥
昭和35 たのしい理科(第3学年)
(第4学年)
(第6学年)
A
7.1
大正7 尋常小學理科書(第6学年)
⑧
0.0
②
教 科 書 名
0.0
① 明治44 尋常小學理科書(第6学年) 13.3
B
(単位:%)
B:人体の記述における図の割合
明治時代から現代に至る小学校理科の教科書の内容の分析結果から,それらにおける人
体についての取り扱われ方に関して次のことが言える。
(1)人体に関する学習は,動物や植物に関する学習と同様に小学校理科の生物領域で一定
の位置を占めてきたこと。
(2)人体に関する記述は,学習指導要領時代に入ってから図や写真の占める割合が多くな
っていること。
(3)人体に関する学習内容は,次のように各時代の理科の対する考え方を示していること。
a.国定教科書までの時代:自然科学に沿った学習内容
b.国定教科書時代:生活に必要な知識を優先させた学習内容
c.学習指導要領時代:子どもが興昧・関心を起こす身近な事項の学習内容
しかし,いずれも人問を一つの個体として取り上げ,その仕組みを中心に学習が構
成されている。従って,国定教科書以降はその内容に増減は見られるものの取り扱わ
れる事項は,ほぼ一定である。
(4)平成元年の学習指導要領も大部分が同じ事項を扱いながら,人間自身の知識に止めず,
個人と家庭,或いは,個人と社会を考えさせる要素が取り入れられていること。
特に,(4)は従来の理科の学習では強調されなかったことである。また,社会との関わ
りを考えさせる環境教育などとも異なり,子どもたちの心理面を踏まえて学習を展開し
なければならないことは,理科のその他の学習と大きな隔たりがある。この側面が,人
体の学習を組み立てなければならない教員を悩ませる原因ともなっているのである。
53
橋 本:楽しい理科授業への模索(皿)
そこで,平成元年の学習指導要領による人体に関する学習の中で,最も議論が分か
れていると思われる性についての学習に対する小学校教員の意見を調査することにし
た。
小学校教員の性についての学習に対する意見調査
調査は,次に述べる内容のアンケート用紙を,平成6年10月に長崎市内を中心とした長崎
県下の教員に送付し,それを回収する方法を用いた。対象とした教員は,性の教員に直接
関連する教科(保健体育科,家庭科,理科)を大学時代に選修(専攻)した教員(以後,
それぞれを保健体育科教員,家庭科教員,理科教員と呼ぶ)と養護教員である。対象とし
た教員の数は,241名であり,そのうち127名から回答が寄せられた。回答の内訳は,保健体
育科:29名,家庭科:27名,理科:42名,養護教員:29名であった。
− ∩乙 3 4 5 6
問問問問問問
アンケートの内容は,次に示す通りである。
性の教育が必要な理由
性の教育を行うことへの意見
性の教育は,誰が行うべきか。
現時点での性の教育への取り組み方
性の教育を行うとすれば,いつ開始すべきか。また,その理由は。
性の教育を行うとすれば,どの教科か。
また,各問に対する意見については対物
線形分析を用いて,他の意見との有意差があ
るかどうかの検定を行った。
1.性の教育が必要な理由
図1に示すように,50%以上の教員が「性情
報の氾濫」,「エイズ問題」,「性非行の低年
100(%)
90
齢化」, 「二次性徴の発現の早期化」などの要
因から,性の教育の必要1生を認めている。特
80
に,前三者の意見は有意差(p.<0.Ol)が見
70
いだされている。これに対して学習指導要領の
60
改訂によるものであるとの認識は,約25%の教
員が持っているにすぎない。
185.&
66.1
噸一一81
llIII
81111
11馴ll
圏IllI
IllgI
閣IllI
IIIII
IIII馴
1110I
亀1“I
30
20
意見に有意差(p.<0。OI)が見られる。しか
し, 「行いたいけれども,どのようにしてよい
Ill−I
159.1’
1“”61■0■O■0
Oロ0■0■
畦1Il暉
■O■O■O o厘A8A匂
40
2。性の教育を行うことへの意見
図2に示すように,是非行う必要があるとの
一llllII
IIIII一
50
lll11
11111
嶺健炉
巳IIII
lIH
Il暉11
目“
1薗匹8匿I
瞳llII
10
1111”
IIIll
11111』
1”II
llII1』
IIIII
11191
16.5
IIl’馴1
か悩む」という教員も約20%存在する。
このように,ほとんどの小学校の教員は「性
についての教育を行わなくてはいけない」との
0
111’11
朧:学習指導要領の改訂剛:性非行の低年齢化
励:エイズの問題 國:二次1生徴の発現の早期
團:性情報の氾濫 懸:その他
強い意識を持っているようである。
図1 性についての教育が必要な理由
54
長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第26号
20
40
60
(%)
100
80 100(%)
90
80
麗:ぜひ行う必要がある 囲:できれば自分でした
務:機会があれば行いたい くない
70
□:行いたいけどその方 國:する必要はない
法に悩む 團:その他
60
図2 性の教育を行うことへの意見
50
77.2
駄量
3.性の教育を担当する者
40
図3に示されているように, 「担任・家庭・
30
撰鞠轡
20
雪
ぐ鴨麟
養護教諭などが連携プレーで行うべきである」
との意見に有意差(p.<0.Ol)が見られてい
る。注目すべきなのは,家庭科,理科の教員で
は, 「担任が担当すべき」との回答も約50%を
占めている。これは,学習内容に関連している
と考えることもできる。
46.5
28護
28.3
10
ゆ職礁
鵜1
0
薩覇:学校全体 踊:医者などの専門家
四:担任教師 園=家庭科の教員
國:看護教諭 圏:担任,家庭,養護教諭の連携
囲二女性の教員圏:その他
図3 性の教育をだれが担当すべきか
0
20
40
60
80 100(%)
0
20
40
60
80100(%)
..i:奥◎li:i麟i黙難
全
翻:学校全体で取り組んでいる。また自舶身も積極的に取り組んでいる。
陽:学校全体で取り組んでいるが,自分自身は消極的である,
□:学校全体でも取り組んでいないヵ§,自分自身は積極的である。
圃1学校全体でも取り組んでいないし,自分自身も取り組んでいない。
團:その他
選修の教諭重羅翻器継識爵難
園:無回答
理
図4 性の教育への取り組み
1ρ6闘 一
26・3 915・37.貫I
IIる冨
4.性の教育への取り組み
図4に示されているように,現状におい
ては学校全体での取り組みは約30%しかな
く,個人的に取り組んでいるとの意見のほ
うが多い。この中で保健体育科と養護の教
員は積極的に取り組んでいるとの回答を多
く寄せている。
購:小学校入学前圃二3年生から 殴:6年生から
彪:1年生から 麗:4年生から 目:中学生から
囲:2年生から園:5年生から皿:高校生から
□:その他
図5 性の教育の開始時間
5.性の教育の開始時
一般的には,小学校入学以前或いは入学時から開始すべきであるとの意見に有意差(p.
<0.Ol)が見られている。つまり,ほとんどの教員は先入観のない時代に教育を行った方が
1
,橋 本=楽しい理科授業への模索(皿)
55
よいと判断しているようである。これは,性の教育の必要性の原因として挙げられた「性
情報の氾濫」や「エイズ問題」などと無関係ではなさそうである。
6.性の教育を行う教科等とその内容
アンケートの結果,約70%以上の教員が指摘した教科とその内容は,次の通りである。
理科…人の体のつくり(4年生),人の発生や成長(6年生〉
保健体育科…思春期の体つきの変化(5−6年生),異性への関心(5−6年生)
道徳…男女仲良く(5−6年生〉,生命尊重(5−6年生)
学級会活動…大切な体(1−2年生),男の子女の子(1−2年生〉,男子と女子の体
の成長(3−4年生),エイズという病気(5−6年生)
このように,広範囲な学習内容で性についての教育がなされるべきであるとの回答がよ
せられている。この中で,理科の人体に関する学習が高い割合になっている点は注目した
い,つまり,具体的に人の体を扱う学習での性についての教育を行ったほうがよいとの教
員の判断を反映しているものと考えられる。
この調査によって,小学校における性に関する教育についての教員の意見分布を知るこ
とができた。しかし,その教育の対象ζなる子どもたちの意識はどうなのであろうか。
小学校の子どもたちの性に関する知識・意識調査
性に関する教育の対象となる子どもたちの性についての知識や意識を知るために,次の
方法で調査を行った。この結果も,対物・線形分析を用いて有意差の検定を行った。
・調査実施時期:平成6年10∼11月
・調査対象:長崎市内の小学校3∼6年生(356名)
3年生:58名〔男子:32名,女子:26名〕 4年生:90名〔男子:49名,女子:41名〕
5年生:102名〔男子:51名,女子:51名〕 6年生:106名〔男子:50名,女子:56名〕
・調査方法:次の内容を含む調査用紙を配布し,その回答を回収し分析する方法
問1 人体の名称についての知識 問2 問1の知識の獲得源
問3 二次性徴の知識と意識 間4 生命誕生についての知識と意識
問5 体の変化についての知識獲得の要望 問6 体のことを誰に教わりたいか
問1では,人体についての知識のうち,3年生になれば血液,呼吸,消化,体温という
体一般のことがらについて,また,5年生になれば月経や精通など性に関する言葉につい
て半数以上の子どもたちが知っている(p.<O.01)。そして,表6に示すように,体一般
のことについては,家族やテレビなどのマスメディア,及び理科の授業が情報源になって
いるようであるが,性についてのことは,その他に保健体育の授業や養護教員が情報源に
なっているようである。また,後で述尋るように,性についての知識を得たい人として友
人が約20%あがっているが,実際には,どの項目においても情報源とはなっていない。
表6の情報源として示したものは,次の通りである。
ア:テレビ・雑誌から イ:同じ学年の友人から ウ:年上の友人から
エ:家族から オ:理科の授業から カ:家庭科の授業から
キ:保健体育の授業から ク=保健室の先生から ケ:その他
また,成長に伴って起こる体の変化についてどのように感じているかを,学年別,男女
別に示したのが,図6である。
56
長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第26号
表6 人体に関する知識入手先
②呼 吸
①血 液
5年女子
6年男子
7.1
3.6
2.0
0.0
1.8
2.0
2.0
8.9
0.0
0.0
0.0
6.0
7.8
5.4
4.0
7.8
0.0
0.0
9.8
7.1
9.8
0.0
2.0
0.G
2.0
3.6
4.0
0.0
0.0
2.4
0.0
62.5
13.7
13.7
G.0
8.0
0.0
0.0
7.1
16.1
3.9
2.4
2.0
7.8
2.4
4.1
7.7
80
0.0
59
4.1
2.O
2.0
G.G
0.0
17.9
50.0
0.G
18.0
54.9
7.7
4年男子
4年女子
5.9
3.6
1.8
0.0
0.0
3.6
6.0
5.9
25.0
37.5
16.1
0.0
4.0
0.0
21.4
6.0
0.0
0.0
22.0
0.0
0.0
47.1
11.8
0.0
0.0
41.2
2.0
9.8
6年女子
2.0
0.0
7.8
2.4
2.0
7.3
0.0
11.8
0.0
6年男子
5.9
2.0
0.0
0.0
0.0
1.8
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
5年女子
7.8
2.4
0.0
0.0
0.0
5年男子
0.0
6.1
0.0
0.0
3.8
7.3
0.0
0.0
0.0
8.2
3.8
0.0
0.0
0.0
ク
5.9
2.4
0.O
21.6
54.9
通
0.0
キ
30.4
4.0
2.0
3.9
28.6
10.0
2.0
6.1
23.5
3年女子
0.0
18.0
ケ
12.2
0.0
0.0
43.1
19.6
カ
6年女子
14.0
68.3
3.1
オ
0.0
17.9
6年男子
10.2
0.0
5.4
24.0
5年女子
13.7
79.6
0.0
8.9
11.8
5年男子
49
11.5
0.0
3.6
11.8
0.0
工
0.0
28.6
2.0
0.0
5年男子
5年女子
6年男子
4.0
6年女子
7.1
7.8
0.0
0.0
0.0
0.0
2.0
0.0
5.4
6.0
5.9
29.4
260
42.9
13.7
10.0
14.3
0.0
20
1.8
21.6
2.0
0.0
35.7
0.0
0.0
38.0
0.0
0.0
23.5
5.9
0.0
37.3
0.0
0.0
13.7
5.9
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
34.1
15.7
0.0
0.0
2.0
0.0
15.4
5年男子
0.0
2.0
0.0
2.0
0.0
ケ
0.0
ク
0.0
キ
19.6
0.0
2.0
2.0
37.5
00
00
0.0
カ
0.O
オ
0.0
0.0
8.0
28.0
39.3
3.1
14.6
0.0
1.8
0.0
5.9
37.3
42.0
0.0
4年女子
2.0
⑩エイズ
4年男子
4年女子
3年男子
0.O
10.7
30.4
0.0
4.0
21.4
1.8
26.0
2.0
31.4
3.9
2.0
31.4
6.0
5.4
0.0
2.0
0.0
2.4
1.8
0.0
2.4
9.8
58.9
1.8
2.4
0.0
12.2
6年女子
24.0
0.0
0.0
0.0
77
600
2.0
0.0
176
6年男子
0.0
74.5
3.9
3.9
2.4
19.6
5年女子
5.9
78.4
2.0
2.4
0.0
17.1
5年男子
3.9
75.6
0.0
ク
ケ
0.0
3.1
1.8
4.0
0.0
8.0
7.8
19.6
カ
20.4
4年女子
0.0
キ
15.4
0.0
12.5
3.1
10.0
13.7
40.6
0.0
オ
0.0
26.8
0.0
28.0
0.0
17.6
9.8
4.9
31.4
3.9
2.4
6.1
工
2.0
0.0
2.0
0.0
0.0
0.0
0.O
42.9
81.6
2.4
ウ
34.0
4年男子
0.0
31
73.1
4.1
イ
3年女子
0.0
781
3.1
1.8
0.0
ア
0.0
14.3
0.O
0.0
20.0
6年女子
47.1
0.0
0.0
0.0
0.0
2.0
0.0
13.7
2.0
2.0
5年女子・ 6年男子
451
2.0
36.6
25.5
2.0
0.0
4.1
0.0
36.7
5年男子
2.0
14.6
4.9
24.5
2.0
0.O
53.8
ウ
4年男子
0.0
0.0
4.0
37.3
0.0
0.0
5.9
7.3
2.0
31.4
2.0
0.0
0.0
3.9
0.0
0.0
0.0
0.0
0.0
00
イ
7.7
1.8
0.0
ア
工
43.1
3年女子
3.1
0.0
5.4
6.0
3.9
7.8
7.3
0.0
0.0
19.2
3年男子
6年女子
2.0
2.0
6年男子
0.0
0.0
2.4
2.0
0.0
2.0
0.0
0.0
4.9
5年女子
3.9
9.8
4.1
0.0
3年女子
00
ウ
12.0
2.0
4年女子
42.3
G.0
3.6
0.0
0.0
4年女子
0.0
3.8
0.0
イ
41.2
35.3
精
3年男子
10.7
⑧子 宮
4年男子
0.0
0.0
ク
ケ
0.0
カ
キ
46.9
0.0
オ
3.1
ウ
工
3.1
イ
15.6
9.4
15.6
13.7
⑨へその緒
ア
ク
ア
3.8
3.6
6.0
216
9.8
2.4
0.0
0.0
ケ
6年女子
8.0
0.G
7.1
2.0
2.0
13.7
6年男子
7.8
4.9
43.9
2.0
0.0
0.0
5年女子
0.0
3年男子
キ
0.0
0.0
4.0
9.8
3.9
0.0
3.9
5.9
40
59
カ
3.8
1.8
8.0
オ
2.0
64.3
2.0
4年男子
19.2
0.0
1.8
0.0
2.0
60.0
精
3年女子
0.0
ケ
0.0
0.0
ク
24.4
0.0
キ
11.8
5年男子
14.6
0.0
カ
0.0
オ
19.6
0.0
3.8
0.0
工
0.0
7.7
0.0
00
0.0
0.0
0.0
0.0
ア
ウ
10.2
0.0
受
3年男子
イ
30.8
0.0
⑦
2.0
0.0
ケ
10.2
0.0
3.1
ク
0.0
キ
0.0
カ
0.0
オ
4年女子
0.0
9.4
工
53.1
⑥
4年男子
0.0
0.0
ウ
0.0
イ
3年女子
7.7
3.1
ア
3.1
工
11.5
⑤月経
3年男子
ウ
14.3
4.9
20
6.1
15.6
イ
78.6
温
3年女子
15.6
16.0
4.9
0.0
ケ
O.0
ア
39.2
0.0
0.0
10.7
39.2
3.9
0.0
0.O
10.0
2.0
24.4
10.2
0.0
2.0
24.5
0.0
34.6
17.6
2.0
0.0
2.0
0.0
3.1
ク
0.0
キ
0.0
0.0
カ
G.O
オ
31.3
0.0
工
29.4
34.1
2.4
GO
ウ
0.0
イ
38.8
23.1
O.0
34.4
0.0
ア
3.9
68.0
0.0
体
3年男子
14.0
52.9
0.0
6年女子
19.6
35.3
2.4
6年男子
27.5
157
6年女子
12.0
12.2
0.0
5年女子
9.8
5年男子
0.0
4年女子
4.9
④
4年男子
6年男子
15.7
70.7
2.0
ケ
5年女子
17.6
10.2
41
3.8
ク
6.3
0.0
0.0
3年女子
キ
5年男子
73.5
2.0
3.6
2.0
10.7
46.2
0.0
4.0
5.9
6.1
3.9
4.1
0.0
5.9
2.0
0.0
13.7
11.5
0.0
0.0
0.0
7.8
15.7
0.0
0.0
カ
46.9
2.0
オ
4年女子
0.0
71.4
3.8
58.0
0.0
43.1
0.0
45.1
0.0
42.9
0.0
42.9
6.3
11.5
0.0
工
0.0
10.7
0.0
22.0
0.0
23.5
3.9
31.4
2.0
18.4
0.0
ウ
18.4
4年男子
23.1
3.1
1.8
4.0
0.0
4.9
2.0
イ
3年女子
344
8.2
ア
0.0
2.0
3.9
2.0
16.1
③シ肖 イヒ
3年男子
3年男子
6年女子
14.0
17.6
0.0
23.5
57.7
0.0
18.8
5年男子
4.9
2.0
0.0
0.0
ク
6.3
キ
ケ
0.0
0.0
カ
0.0
オ
43.8
3.1
工
6.3
ウ
4年女子
14.3
26.9
0.0
イ
31.3
4年男子
0.0
ア
3年女子
9.8
3年男子
57
橋本:楽しい理科授業への模索(W)
0
20
40
20
40
60
80 100(%)
94 脳
3
2
8
4
2
2
■ ■2量 6
1”聾5陰”1
”1日4︷ー”
㌧ー2,㌔監
・ 9
.2,﹃98
. ・− ■.32,9
1
6
生
年
4
翻
、.
80 100(%)0
∴−“5∴雇
目1”・3“巴”
25
巴ー−87−㌦
3年 生
60
・年・
・年・
醗璽蟹蕪難露灘撚羅翻
男
騰=不安である
彪:いやである
□:楽しい
子
女
匝1:わくわくする
闘=悲しい
國二うれしい
子
,國:ゆううつである
目:その他
皿:無回答
図6 体の変化についての意識
図6に示されているように,男子と女子では体の変化についての受け止め方が異なって
いるようである。男子では,「不安だ」とか「いやだ」という意識は低い(p.<0.Ol)も
のの, 「わくわくする」という意識は高い(p.<0.01)。これは,からだの変化を前向き
に受け止めようという姿勢が整っていると考えられる。一方,女子では,「不安だ」や「い
やだ」,あるいは,「ゆううつ」との意識が高く(p.<0.01),「わくわくする」との感
覚は低い(p.<0.01)ことがわかる。これは,体の変化を,歓迎するものとは捉えていな
いことを示している。このように,男子と女子では自分の変化の受け止め方に大きな差が
存在している。
また,問5の結果からは,体の変化についての知識に関して,男子は知りたいという欲
求が約50%であるのに対して,女子は4年生以降それが約80%に達している。
これらは,同じ年齢にあったとしても性や体の変化を教育するときは,男女差を十分配
慮しなければならないことを示している。
図7は,性のことをだれに教わりたいかという質問の6年生の結果を示したものである
が,ここでも男女差が顕著に見られる。男子は,担任や父親をその教授者として挙げてい
るが,女子にはその傾向は見られず,母親や養護の先生を強く希望してることがわかる。
他の学年でも,担任は女子に敬遠されている様子が伺える。これは,性の教育を考える上
で一つの示唆となる。
また,専門家に教えてもらいたいとの希望も各学年ともにあり,養護の先生もその延長
上という理解もできる。さらに,テレビ視聴も約30%のこどもたちが希望している。これは,
他人の目を意識せずに様々な知識が獲得できるほうが,彼らは好都合であると判断してい
58
長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第26号
るのであろう。
(%)
(%)
10
10
9
9
8
8
7
7
6
6
5
58.9
58。
9
5
4444
4 _38、一
36
4
”36
3
33.9
3
、、一28
..23.2.
.一ゼii
2
1
2
..一並・
一12㎜
0
…ii14姦
10.7
一σ
4
”2}ら”
1
3.α、.
2
家︵医者など
年の友人
・姉妹
の友達
他の教科の先生
の先生
科の先生
家︵医者など
年の友人
・姉妹
の友達
女子(6年生)
他の教科の先生
男子(6年生)
の先生
担養家そ父母兄年同雑テ専そ無
任護庭の親1親弟上学誌レ門の回
ビ
他 答
科の先生
担養家そ父母兄年同雑テ専そ無
任護庭の親親弟上学誌レ門の回
ビ
他 答
図7 性に関する知識を教わりたい人
小学校理科における人体の学習
日本理科教育学会が次回の指導要領改訂に向けての問題点の抽出を行った調査では,「人
体の学習を削除したほうがよい」との意見を多くの小学校の教員等が述べたと報告されて
いる(4)。これには,様々な理由が考えられる.が,小学校における研究会のやりとりや実践報
告などからすれば, 「授業がしにくい」や「指導が徹底しない」,あるいは「理科にそぐ
わない」などという意見に集約される。しかし,何故そうなのかについては明確に述べら
れることは少なかった。
しかし,上述した理科における人体に関する内容の歴史的推移や小学校教員の性の教育
に関する意識調査,さらには,子どもたちの性についての知識や意識の調査によって,そ
の原因はある程度解明できたのではないかと考えている。
つまり,現在の人体に関する学習に影響を与える要因として次の三つが考えられる。
(1)人体に関する学習内容が,従来よりも巾広くなったこと。
橋本:楽しい理科授業への模索(皿)
59
(2)教員が,性についての教育を具体的に体を対象とする学習の中で十分に行わなければな
らないとの認識を強く持っていること。
(3)性に関する学習を行う子どもたちに,性や体の変化についての意識に関する男女差があ
り,教わりたい人が担任とは限らないという状況があること。
(1)については,「理科学習が自然科学の枠の中で行われるべきである」との指摘をする
人は少ないことであろう。また, 「子どもたちが自分のことをよく知り,自分との関わり
の中で学習を進めることは,それを深めることにつながる」との意見に異議を差し挟む人
もほとんどいないことであろう。しかし,その枠の広がりや自分との関わりが子どもたち
が自分自身で解決できない問題を含んでいるとすれば改善しなければならない。
生活科の学習や環境学習を例に挙げるまでもなく,自然科学分野の学習も,人間との関
係や社会との関係にまで踏み込んだ学習を行っている。その点についてのとまどいは少な
いものと考えられる。
しかし,従来の理科学習において人は他の動物や植物と同様, 「生き物」として扱われ,
その体の仕組みや理解は,動物の理解と相補関係をなしてきた。このような教育を教師自
身が受けてきたのである。従って,人体の理解に社会的な側面を入れることは教師にとっ
て,どのような学習方法を採用すべきか常に悩まなければならない問題なのである。
そして,「性を含めて人体の教育を行わなくてはならない」との教員の強い意識が,学
習指導要領に記載されている以上のことを理科学習の中に取り入れるように教員自身を駆
り立てているのではなかろうか。
一方,子どもたちは様々な意識を持って学習に臨んでいる。彼らには,毎日顔を合わせ
る先生にふれられたくない部分や別の方法で知りたい部分が存在しているのである。この
点を無視して教育を行ったとしても,彼らは教員が意図したものに興味を示そうとせず,
結果的に授業に参加しないということになる。
このように,学習内容の変化,教員の意識,そして子どもたちの思惑が少しずつずれを
起こして,現在の理科における人体に関する学習の問題に至っていると考えることができ
る。
このようなずれをどのように整理し,改善していけばよいのだろうか。まず最初にすべ
きことは,
「性に関する学習は,学校を挙げて取り組むことができるシステ.ムをつくること。」
次いで
「子どもたちの意識を考慮にいれて,その内容を学年別に決定し,担当者は,養護の先生
や専門家(医者など)にすること。」
である。
上の内容や方法を考慮に入れて,生物の一つとしての「ヒト」の学習を3年生から始め
るべきである。もちろん,それぞれの学習は,子どもたち自身との関わりを持って進めら
れるべきである。性に関する学習は,生物,特に動物に共通する営みを強調することによ
って,ヒト以外の他の動物の命を神秘さや尊さに気づかれる方法に進むべきであろう。
そして,心身ともに不安な時期を迎える前に,性についての学習や各教科での学習の成
果を総動員して,また,大人の助力が必要ならばそれも加えて,個人の生き方,社会への
貢献を彼ら自身考え為時問を設定していくべきであると考えている。
60
長崎大学教育学部教科教育学研究報告 第26号
おわりに
現在の理科学習の中で問題が多いとされる「人体に関する学習」の改善方法を探る目的
で,学習内容の変遷調査や教員と子どもたちの意識調査を行い,その基本的な構想を提言
した。しかし,具体的な学習展開にまで踏み込むことはできなかった。この点については,
授業の積み重ねの中で模索することが必要であると考えている。今後この点を追究してい
きたい。
この研究を進めるにあたっては,角知江美さんの協力を得ました。この場を借りてお礼申
し上げます。
引用文献
(1)文部省:小学校指導書一理科編一,!988年
(2)長洲南海夫:「ヒ’ト」そして「人の体」を理科の教材として位置づける基本的な考え方,
理科の教育,Vo1.40pp。8−11,東洋館出版,1991年
(3)山下良夫:「人」の学習一指導のポイントー,理科の教育,VoL40pp.16−19,東洋館出
版,1991年
(4)日本理科教育学会教育課程委員会:現行小学校学習指導要領「理科」の実施状況と問題
点について,日本理科教育学会紀要,VoL35Nα3,pp.43−50年,1995年
(5)海後宗臣・仲新:日本教科書大系,近代編,講談社,1961年
(6)大日本図書=たのしい理科(昭和28年)他
(7)文部省:小学生の科学,1947年