標識放流したシチヨウシンカイヒバリガイの生残と成長 ○大越健嗣・山内束・早坂久子(石巻専修大理工) ・加戸隆介(北里大水産) 目的:深海性二枚貝の成長、寿命などに関しては不明な点が多い。演者らは蛍光色素や塩化ストロン チウムなどによる二枚貝の貝殻への標識法を開発し、これまでにマガキやアコヤガイ、アサリなどの 水産有用貝類、極域(南極)に生息する二枚貝などの成長解析への応用をはかってきた。今回は、貝 殻への簡易標識および塩化ストロンチウムによる標識を併用し、熱水噴出域に生息する二枚貝類への 標識と放流を試み、約1年後に生貝を回収することに成功したので報告する。 方法:2004年6月23日のなつしま・ハイパードルフィン#311にて明神海丘で採集したシチ ヨウシンカイヒバリガイを12時間塩化ストロンチウム溶液に浸漬し、貝殻へのマーキングを試みた。 標識した20個体は殻長、殻高、殻幅を測定した後、貝殻表面にラベルを貼り付けネットに収容、6 月25日の#312で再訪流した。放流地点はアクテイブチムニーの側で、32−06.285N : 139 −52.182E、水深は1287mであった。放流した個体は、約1年後の2005年5月23日の#415 で回収し、観察を行うとともに、その生残率、各個体の成長率を調べた。 結果・考察:演者らは、これまでヘイトウシンカイヒバリガイ等で同様の標識放流を行ったが、回収 時にほとんどの個体が死亡しており、成長解析には至らなかった。ヘイトウシンカイヒバリガイには ウロコムシ科の多毛類が外套腔に生息しており、それが採集・標識までの間に死亡することが、ホス トであるヘイトウシンカイヒバリガイの生残に影響するものと考えられた。そこで、今回は、これま でウロコムシ科の多毛類の外套腔への生息が確認されていない、シチヨウシンカイヒバリガイを用い て標識を試みた。 放流した20個体は全て回収できた。そのうち2個体は軟体部がなく、途中で死亡したものと考え られた。また、他に1個体、貝殻が破損して死亡しているものが認められたが、他の17個体は回収 時も生存しており、生残率は85%と高い値を示した。殻長は最大成長を示した個体では、放流時に 104.0mm であったものが回収時に 115.7mm となり、約1年間で 11.7mm の成長を示した。殻高も同個 体が放流時 47.2mm、回収時 53.2mm となり、6.0mm の成長を示した。殻幅は 9.7mm (殻長 27.5mm) の個体が回収時には 12.9mm となったのが最大であった。一方、殻長・殻高・殻幅ともほとんど成長が 見られない個体もあった。また、殻長の大小と成長率との関連も見られなかった。 2005年5月に再び別個体を明神海丘に放流した。それらは2006年12月(約1年半後)に 回収予定である。それらの個体を含め、さらに成長解析を進めたい。
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