12.7mm無害化弾の開発 - 公益財団法人防衛基盤整備協会

12.7mm無害化弾の開発
日本工機株式会社
小林 典明
加藤 久敦
相馬 雅人
1.はじめに
現在、国内で製造している 12.7mm 弾薬には、普通弾、徹甲弾、えい光弾及び空包の4種類があ
り、主に 12.7mm 重機関銃にて隊員の直接操作により発射される弾薬である。
12.7mm 無害化弾(以下、無害化弾という)は、12.7mm 普通弾、徹甲弾及びえい光の弾丸構成
部品である鉛による環境汚染防止並びに雷管爆粉中に含まれる鉛成分及び重金属成分の吸入による
隊員の健康被害軽減を目的として開発した弾薬である。
平成19年度~平成21年度に社内(基礎)研究を行い、平成22年度に陸上幕僚監部殿からの
開発要求のもと、平成24年度の陸上自衛隊内自隊研究よる評価試験にて、弾薬の性能面及び安全面
の評価基準をクリアし、平成26年度に部隊承認を頂いた。
現在は平成28年度の装備化に向けて量産製造準備を進めている。
2.12.7mm 無害化弾の開発内容
現行の 12.7mm 普通弾、徹甲弾及びえい光弾には、弾丸構成部品に鉛を使用しており、弾着時に
被甲が破壊し、弾丸内部の鉛が表面に現れるため、土壌汚染が危惧される。また、雷管は、12.7mm
弾薬全てに共通して使用されており、雷管爆粉中に含まれる鉛成分及び重金属成分が発射時に燃焼
ガスとなり、吸入による隊員の健康被害の危険性が考えられる。
これらを防止するため、有害物質である鉛及び重金属成分を使用しない弾薬の開発を行った結果、
3弾種全てにおいて弾丸構成部品に鉛を含まない弾丸並びに鉛成分及び重金属成分を含まない雷管
の開発に成功した。
なお、無害化弾は、現行弾に要求されている弾薬としての性能(火力性能等)も満足するものであ
る。
開発のポイントを以下に示す。
(1)普通弾及び徹甲弾
現行の普通弾及び徹甲弾は、弾種により弾身の材質・硬度が異なるが、その他の構成部品
は同じであり、無害化弾においてもこれは同様である。
このため当初、貫徹性能を要求される徹甲弾の開発を行い、その結果を普通弾に反映した。
鉛の代替材として無鉛半田(錫合金)を候補としたが、現行弾と同じ弾身先端形状の場合、
貫徹性能は向上するが、跳弾し易くなることが判明した。
跳弾を抑制するためには、弾身先端に平坦部を設ける平頭形状にすることにより効果があ
るが、一方で弾身先端の平坦部が大きいと貫徹性能が劣る傾向にある。
コンピュータシミュレーション(AUTDYN)での検討と射撃試験での確認により、現行
弾とほぼ同等の貫徹性能及び跳弾の抑制を両立させられる弾身の先端形状を見つけ出した。
徹甲弾の特徴は、鉛を安価で流通性が良い無鉛半田(錫合金)に変更したこと及び、貫徹性
能と跳弾の抑制との相反する性能を両立させる先端形状を見つけ出したことである。
普通弾は、徹甲弾の開発結果を応用することで、開発工程を経ずに鉛を安価で流通性が良い
無鉛半田(錫合金)に置換することで実現した。
図1
普通弾及び徹甲弾の構造
(2)えい光弾
現行えい光弾の被甲には、えい光剤を圧填する際に発生する圧填荷重による変形を少なく
するため、丹銅の間に鉄を挟んで強度を高めた丹銅被覆鋼板という特殊な材料を使用してい
る。
新たに弾身(鋼)を構成部品として採用し、弾身後部にえい光室を設けることにより、えい
光剤の圧填荷重は弾身が受けることになり、高価な丹銅被覆鋼板を使用する必要がなくなっ
た。
これにより、被甲の材料を丹銅とし、普通弾・徹甲弾と共通化することが出来た。
他方、弾身にえい光室を設けた際、えい光剤が燃焼する表面積が小さなり、視認性が低下す
る恐れがあるため、曳光剤の組成を見直すなどの改良を重ね視認性の高いえい光剤の開発に
成功し、現行弾と同等の視認性を確保することが出来た。
図2
えい光弾の構造
(3)雷管
雷管を構成する部品のうち、雷管体、発火金及び紙箔は従来のままとし、爆粉成分のみを
変更した。
爆粉成分から有害な鉛成分及び重金属(バリウム及びアンチモン)を排除すると、感度及び着火性等
が変化するが、試行錯誤の結果、最適である配合比及び爆粉量を見出すことで現行の雷管と同
等の性能を実現することが出来た。
図3
雷管の構造
3.開発の手法
コンピュータを利用し、AUTODYNによる貫徹・跳弾シミュレーション及び弾道計算シミュレ
ーション(プロダス)により現行弾と同等の終末弾道(貫徹性能、跳弾性能)及び砲外弾道(飛翔性
能)を得られる弾丸の設計を行い、試作品による射撃試験及び高速カメラ(高速現象解析)により性
能を確認した。
これらを繰り返して、弾薬性能及び安全性の評価基準を満足する無害化弾を開発した。
なお、弊社は金物加工から火薬類のてん薬・組立まで社内で一貫製造でき、また、専有の射撃試
験場を有していることから、試作品の製造から性能確認まで、全て社内で実施することにより開
発期間の短縮及び開発コストの低減が図れた。
砲外弾道シミュレーション
(飛翔性能)
終末弾道シミュレーション
(貫徹性能・跳弾性能)
シミュレーション結果の
シミュレーション結果の
フィードバック
フィードバック
弾丸形状
試験結果の
フィードバック
試作品の製造
射撃試験
及び
その他の性能試験
図4
実射データ解析
高速現象解析
開発フロー模式図
4.おわりに
この度は、12.7mm 無害化弾の開発に対し、防衛基盤整備協会賞を受賞出来ましたことを大変光栄
に思っております。
最後に、本開発にあたり、ご指導・ご協力を頂きました陸上幕僚監部殿、陸上自衛隊殿はじめ、関
係者の皆様に対して深く感謝申し上げますとともに、今後とも一層のご指導を賜りますようお願い
申し上げます。