1047 日本建築学会大会学術講演梗概集 (東北) 2009年 8 月 建築用ガスケットの耐久寿命推定手法に関する研究 その 13 PVC 製グレイジングチャンネルの経年変化調査事例 グレイジングチャンネル 実建屋 樹脂系ガスケット 経年変化 正会員 同 同 同 同 同 PVC 1.はじめに 実建屋使用の PVC 製グレイジングチャンネルの経年変 試験体 化を調査する機会を得たのでその結果を報告する。使用 されている製品のオリジナルは残念ながら現存しないが 窓枠1 A社製 当時の代表的な組成配合を参考にして経年変化を検討し た。調査建物は住宅 1 棟で、過去特に漏水事故などの問 題が起きることなく使用されていた。調査建物の施工時 窓枠2 A社製 期・場所などを表 1 に示す。 製品種類 材質・色 施工時期 施工場所 清掃状況 漏水事故 採取時期 表1 調査製品の概要 A社製 B社製 開口9mm・ガラス厚3mm用 グレイジングチャンネル PVC・グレー PVC・黒 1971年 1989年 東京都台東区 1回/年 洗剤と水 無し 2004年12月 窓枠3 A社製 窓枠4 B社製 亀裂数 O:無し 2.調査結果 (1)外観観察結果 A:少数 採取したガスケットの外観観察結果を表 2 示す。なお、 B:多数 表 2 の亀裂グレードは JIS K 6259(加硫ゴム及び熱可塑性 ○大橋 賢司*1 朝日 治雄*2 *3 齋藤 伸三 *4 棚原 守 寺内 伸*5 *5 冨田 国男 表2 外観観察結果 ※ 採取 取付 亀裂グレード 部位 位置 室外側 室内側 上部 O O 下部 B-3 B-2 2階 北 仏間 縦東側 B-2 B-1 縦西側 A-1 O 上部 O O 下部 B-1 O 2階 東 廊下 縦北側 B-3 B-1 縦南側 B-1 O 上部 O O 下部 A-1 O 1階 西 便所 縦南側 O O 縦北側 A-1 O 上部 O O 1階 北 縦 O O 台所 下部 O O ※亀裂グレード 大きさ・深さ 1:顕微鏡(5倍)で確認可。肉眼では不可 2:肉眼でようやく確認できる大きさ 3:肉眼で容易に確認可能。深くて比較 的大きい(<0.2mm) 4:非常に深い(≧0.2mm) 方 位 表3 断面形状、抜け力・嵌合力測定結果 ゴム-耐オゾン性の求め方)の亀裂状態観察方法を参考に して新たに作成した。表面を 5 倍に拡大した結果を写真 1 断 面 形 状 に示す。亀裂が確認された部位の断面を 20 倍に拡大し写 真 2 に示す。 (2)断面形状・嵌合力・抜け力の測定結果 A 社製グレイジングチャンネルの断面形状を 5 倍投影 機により観察するとともに嵌合力・抜け力を測定した。 測定結果を表 3 に示す。なお、初期の断面形状は前報(そ の 12)図 1 とほぼ同じである。 (3)各物性値の測定結果 枠 2(A 社製)と窓枠 4(B 社製)のサンプルを採取し亀裂深さ 2階仏間(北面) 2階廊下(東面) 採取部位 亀裂O,やや硬化,黄変 表面状態 亀裂B-2,硬化,黄変 24.5 11.3 嵌合力※ ※ 10.8 3.1 抜け力 ※ 嵌合力・抜け力の単位はN/100mm PVC 樹脂の分子量測定のほか可塑剤の定量を行った。そ を測定した。またサッシより外部に露出する部分を採取 れらの結果を表 4、表 5 に示した。なお、ブランクは最も しミキシングロールにて加熱溶融させた後、熱プレスに 劣化の少ないと思われる上部の非暴露部とした。 より物性測定用の試験片を作成した。その試験片につい (a)窓枠 2(A 社製)の経年変化測定結果 調査建物より亀裂の状態別に代表的な試験体として窓 てゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、 Study on Estimate Methods of Durability for Building Gaskets Part 13:Case Study of Aged Deterioration of Glazing Channels Made of PVC この試料は表面亀裂が比較的多く、ランク B-3 と判定 OOHASHI Kenji , ASAHI Haruo , SAITO Shinzo TANAHARA Mamoru , TERAUCHI Shin , TOMITA Kunio ―93― した縦北側(室外)の物性値は TS・Eb がわずかに低下して いる。その他の評価項目には変化が認められない。目視 観察では亀裂などが確認できない下部室外の試料は可塑 剤の減少が大きく、この影響で硬度が増加していること が分かる。分子量については大きな変化は認められなか った。 (b)窓枠 4(B 社製)の経年変化測定結果 2 階仏間 下部(室外) 2 階仏間 下部(室内) 10 年間使用された黒色のグレイジングチャンネルは設 置方位が北面であること、製品がカーボン添加の黒色で あること、設置後 10 年であることなどから、外観変化や 各種物性値の経年変化は認められなかった。 表4 物性測定結果(窓枠2 A社製) ※1 ブラ 初期値 ンク 縦北 (内) 縦南 (外) 下部 (外) 下部 (内) - O B-3 B-1 B-1 B-1 O 11.0 375 78 - 11.5 6.0 335 78 1.45 0.06 9.5 6.0 307 79 1.44 0 10.0 5.4 324 77 1.43 0.03 10.7 6.2 299 78 1.44 0.11 13.6 9.9 249 91 1.48 0 10.6 7.0 293 81 1.45 10~11 10.3 -4 量(×10 )※2 可塑剤量(%) 30~35 33.1 9.8 10.1 9.9 10.1 9.9 31.4 28.8 31.4 27.5 28.8 亀裂 グレード 縦北 (外) 深さ(mm) TS (MPa) M 100 (MPa) E b (%) H A(度) 比重 重量平均分子 2 階廊下 縦北側(室外) 2 階廊下 縦北側(室内) 1 階便所 縦北側(室外) 1 階便所 縦北側(室内) 写真 1 試験体表面の 5 倍拡大写真 表5 物性測定結果(窓枠4 B社製) ※1 初期値 亀裂 グレード 深さ(mm) TS (MPa) M 100 (MPa) E b (%) H A(度) 比重 重量平均分子量 -4 (×10 )※2 可塑剤量(%) ブランク 上部 (室外) 下部 (室外) - - O O 12.4 370 72 - 11.5 4.5 370 71 1.35 0 11.5 6.2 283 71 1.35 0 11.4 5.1 349 70 1.36 の試験体の断面形状は同様に変化しているが嵌合力・抜 11~12 11.7 11.7 11.7 け力は 2 階廊下の試験体の方が小さい。これは、2 階廊下 35 34.7 35.5 35.2 2 階仏間 下部(室外) 写真 2 試験体表面の 20 倍拡大写真 の試験体は 2 階仏間に比べ硬度の経年変化が少なかった ことによる。嵌合力・抜け力と硬度には相関があり、前 ※1 初期値はカタログ値を示す 報(その 12)の報告と酷似している。 ※2 重量平均分子量、可塑剤量の初期値は推定値 (表4、表5共通) 3.考察 物性値については HA が上昇傾向にあるものの TS など は大きな変化は見られない。2 階仏間(北面)の試験体は露 出部表面で亀裂・変色などが認められた。嵌合力・抜け 力はヒレ部の復元力の低下により変形しているにもかか わらず高い値となっている。その理由は製品の硬度が増 加しているためである。2 階廊下(東面)と 2 階仏間(北面) *1 *2 *3 *4 *5 ㈱三ツ星 明光化成㈱ リケンテクノス㈱ イワキ化成㈱ 建築ガスケット工業会 2 階廊下 縦北側(室外) 4.まとめ 33 年間の実建屋における使用により、PVC 製グレイジ ングガスケットは露出部表面で亀裂、変色などが認めら れ、HA が若干上昇しているものの TS などは大きな変化は 見られなかった。採取した試験体はいずれも実際に使用 中のもので特に水密性に不具合が発生しているものでは ない。以上により性能上問題が生ずるまでの劣化はさら に長い年数を要するものと推察される。 MITSUBOSHI Co. ,Ltd. MEIKO KASEI Co. ,Ltd. RIKEN TECHNOS Corp. IWAKI KASEI Co. ,Ltd. MANUFACTURERS ASSOCIATION OF BUILDING GASKET ―94―
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