2D3 国産水上飛行機開発プロジェクト ○伊藤景一 (飛洋航空機製造開発株式会社)、千田泰弘 (飛洋航空機製造開発株式会社)、伊藤恵理 (東京大 学院) 、中川英毅 (飛洋航空機製造開発株式会社)、小舘民雄 (飛洋航空機製造開発株式会社)、櫻井達美 (飛 洋航空機製造開発株式会社) The Development of a New Japanese Seaplane Keiichi Ito (FOAMDC), Yasuhiro Senda (FOAMDC), Eri Itoh (University of Tokyo), Hideki Nakagawa (FOAMDC), Tamio Kodate (FOAMDC), Tatsumi Sakurai (FOAMDC) Key Words: Flying Boat, Seaplane, Floats, Water Transportation, Ultra Light Plane, General Aviation Abstract This paper describes the concepts of an ongoing project whose objective is to build Japanese made seaplanes to revitalize medium and small sized manufacturing companies in the Keihin industrial zone of Japan. Seaplanes became almost obsolete soon after the Word War II due to the higher operating cost compared to that of the land based aircraft and word wide availability of runways. However, recent advances in computational and material technologies have come to a point where it is now possible to mitigate many of the drawbacks once encountered. This paper describes the motivation and the plan of the project. 1. はじめに 日本のような海洋国においては、運用効率の良い 水上飛行機は、環境保護、旅客輸送、遠隔地医療、 救難、自家用、レジャーの面から極めて重要な可能 性を秘めるものであり大きな潜在市場がある。しか しその製造技術に関しては設計手法が未だ確立され ておらず、とりわけ中小企業が開発に参入できるよ うな技術基盤が整備されていない。したがって中小 企業にも利用できる設計システムを確立し、この成 果を広く我が国の中小製造業に公開しサポートすれ ば、世界に無いユニークな水上飛行機の製造が可能 図 1 1/8 スケールのコンセプトモデル例(本間 大氏 製作) となり中小企業による航空機製造への道が開かれ、 我が国の製造業の活性化を計ることができるととも に、利用の普及によって地域経済の活性化が大きく 期待できる。 本プロジェクトは未だ確立されていない水上飛行 プロジェクトの背景と意図 2. 本プロジェクトは様様な背景を背負って生まれて 来た。本節では、その主な物を列挙することにより、 本プロジェクトの社会的動機を示すことにする。 機の艇体形状の総合的設計手法を確立し、我が国の 中小製造業が競争力のあるユニークな水上飛行機の 製造に参入する技術を提供し産業と地域の活性化に 貢献することを目指す。 2.1. 航空産業の停滞と活性化 第二次世界大戦後の連合国からの強制的な航空機 の研究製造禁止によって、その製造の技術の空白と マインドの消沈が背景にあった。然しながら、YS −11の製造により復活があったが、依然としてア ンジン、複合材料、最適化設計システム等その応用 メリカの航空機のライセンスによる生産と、自衛隊 範囲は多岐にわたり、中小企業の活性化に与える波 用の採算を度外視した生産により辛うじて息が続い 及効果は大きい。 た。55年体制の崩壊はグローバル化に伴い経済性 が重要視され、また顧客の価値観の多様化により、 新しい市場変化を生じるようになってきた。 2.4. ITとコンピュータの発達 近年、コンピュータは低価格化し非常に性能が発 達してきた。CADや強度計算、シミュレーション 2.2. 中小企業の技術的継承と社会環境 等の模擬実験が容易に試行されるようになってきた。 バブル景気崩壊以降、社会環境は大きく変化し、 中小企業でも対応が必須となってきた。 2.5. 新素材の発達 1)少子化に伴い日本人の平均年齢は、急速な高齢 様様な複合材料や金属材料が開発され、軽量、高 化構造となり工業立国としての「神業的な職人の技 強度、且つ化学反応に強い素材の適応が広範囲に利 術継承」が困難になってきた。それを伝承し補完する 用できるようになってきた。 為に技術ベータベースの構築、IT技術の活用等の 利用が必須になってきた。 2.6. 水上飛行機の製作の意図 2)先進諸国から発展途上国に高度な技術移転が成 1)水上飛行機の発着場所は新たに巨大な空港を作 され、豊富な資金移入並びに低廉な労働力と連動し、 る必要がなく、巨大な設備資金が不要である。漁港 廉価で品質の安定した製品が中国を初めとする東ア 設備の利用も考えられる。 ジア諸国からの輸入によりわが国の産業はダメージ 2)滑走路を建設する場合と異なり、海の埋め立て を受けるようになった。特に中国は『世界の工場』 や山林の造成により自然破壊することが殆ど無い。 として工業製品の巨大な供給源の存在となってきた。 3)中小企業者に技術公開するため産業活性化に貢 3)多くの後継者の子弟が大手企業のサラリーマン 献できる。 として勤務するような社会現象になってきた。(3K 4)日本の大学や研究機関では、航空機の製造は行 に代表される回避傾向)その為に伝承的な技術は継 っておらず、本プロジェクトは産官学連携で作成す 続されなくなってきた。 る為に実学の教育の提供ができる。 4)大企業からの下請け供給受託関係の一方的な解 5)全国の大学工学部航空宇宙工学科卒業生を活用 消により自立しなければならなくなった。部品製造 する。長年航空宇宙工学の研究に携わってきても、 の供給の構造変化(中抜き取引現象傾向)が生じる 卒業後大多数の人は他分野の就職をして充分にその ようなって、中小企業が直取引するようになった。 専門能力を発揮できない状況であるので、同学科卒 (IT の普及と大企業の系列関係の解消) 業生の活用の場を提供したい。 5)昨今の構造的な景気変動は、ケインズ学説のよ 6)航空レジャー産業を創設することにより、今ま うな公共事業のインフラ事業によっては解決しない でにない分野の活路を開くことになる。 ことが証明された。設計や工業デザイン、ソフトウ ェア産業など知的創造物を伴う産業を起業する機運 2.6.1. ユニークな技術の一例 が高まってきた。 (中小企業でも設備投資の過小であ 1)耐波性のよいフロート・艇体の開発 るため起業が容易) 2)潮水に強い機体構造(新素材、複合材料) 3)軽量,低価格エンジンの開発 2.3. 産業のインテグレーション効果 航空機の製造開発は科学技術の集大成であり、エ 4)最新コンピュ−タ技術の CAD/CAM/CA Eを総合活用して中小企業開発者のデザインの要 求に対し満足性の高いものを製作 計指針は1にフィードバックし、基本及び詳細設計 5)最適化設計手法を開発し、中小企業の事業開 においては、近年の数値流体力学( CFD)の成果(市 発に利用 販のソフトを含む)を積極的に利用する。 2.6.2. 本プロジェクトの目的・特徴 1)最適化の設計思想を取り入れる。 3.2. 安定性(Stability) 機体は停泊中、走行中共に安定でなければならな 2)CFD 手法により解析を行う。 い。各フェーズの機体設計案に対してその安定性を 3) IT を利用してバーチャル・ファクトリーを行 予測するソフトを開発する 2。特にポーポイジング、 うことによい広く参加者を募集する。 チャイン・ウォーク、スキッピング、ヨーイング等、 4)プロジェクト進行は、東京大学工学部、都立 動的不安定性の要因になる運動を出来るだけ正確に 産業技術研究所、都立航空高専、横浜国立大学、 予測しなければならない。これは空力的な(航空機 東海大学等の産学公共同の連携によって行われる。 としての)安定性とも連成している。 技術的課題 3. 3.3. 抵抗の分解(Decomposition of Total Drag) 小型水上飛行機の実現には数多くの技術課題が存 離着水性能及び飛行性能を推定する上で、水力学 在するが、本節では当面取り組まなければならない 的な抵抗の推定が欠かせない。各フェーズの機体設 設計と設計システム(ソフト)に係わる問題を中心 計案に対して艇体の水力学的な抵抗を推定するソフ に述べる。 トを開発する 3。その際、航空機の急速な発展を支え 水力学的視点からは、飛行中には通常の航空機と た「Divide-and-Conquer」の思想を尊重して、排水抵 同等の性能をもち、なおかつ水上から安全に離着陸 抗、粘性抵抗、造波抵抗を分離して計算できるよう できる水上飛行機の艇体形状の同定が設計上の目標 にする。抵抗成分を分離してその各々に対して物理 である。航空機設計論の慣わしに従い、3つのフェ 的観点から適切な処置を設計に施せるようにする。 ーズで設計を行うためのシステムを考える。すなわ ある艇体形状はどの抵抗成分で問題を起こすか、艇 ち概念設計、基本設計、詳細設計の各フェーズに適 形状のパラメーター変化や速度等の状態量変化がど 合したシステムである。これらのシステム開発を実 のように各成分に影響を及ぼすか等解析できるよう 機開発を通して行う。以下大まかに7分野の技術項 にする。 目に分けてそのプロセスを説明する。ルビの数字は 具体的な作業項目を示す。 3.4. 数値流体力学(CFD) 基礎設計においては、様様な艇体パラメーターの 3.1. 艇体形状の設計(Hull Design) 設定において出来るだけ正確な水力(着水時の衝撃 以下の技術項目で行う作業は全て艇体形状の設計 を含む)の推定をする事とその物理的原因の解明が するためのものであるが、概念設計や、従来型の水 重要である。上で述べた1,2,3等のソフトは CFD 上飛行機を設計する際は、経験的に知られている設 で得られた知見やデータを基に構築する。詳細設計 計指針が大いに有効である。これらを体系的にまと においては最終的に絞られた艇体に対して、精度の 1 めて、概念設計ソフトに取り込む 。基本設計、詳細 高い予測値と水槽及び風洞試験のための指針を与え 設計において、新たな艇体形状を模索するためには る。CFD の利用方法はまず、自由表面が扱える市販 パラメトリックスタディーを行う必要があり、以下 の CFD ソフトウェアに対して、NACA-TN-2503 等の 6つの技術項目は、その際勘案されるべき内容のお 実験データの存在する水上飛行機の艇体パラメータ おまかな枠組みを示している。新たに解明された設 ーを使って、実験データの再現を試みる 4。これによ り、整合性が取れれば、そのままソフト開発に利用 し、そうでなければ必要な補正または数学モデリン グを行う(インハウスの CFD 開発を含む)5。ソフト 開発での利用の仕方は、数学モデリングの項目を参 照。 図 4 横浜国立大学の水槽:様様なスペクトルの波を含 む水面を模擬できる 3.6. 最適トリム角(Optimum Trim) 設計パラメーターと安定性及び抵抗の関係がある 図 2 CFD 計算結果例:水面を滑走する簡易水上飛行 機モデル(翼と五角柱)の航跡の様子 程度解明された段階で艇体のトリム角の制御問題を 扱う事が出来るようになる。離水時の抵抗最小のト リム角履歴を取ることが出来れば、滑走距離も短く て済むし、パイロット教習の面からも有益な情報で ある。また艇体設計においては、最適トリムで安定 な設計にすることが望ましい。自動制御の検討も含 めて、離着水時における最適トリム履歴を同定する 8。 3.7. 数学モデリング(Mathematical Modeling) パラメーターの変更毎に、CFD による計算や水 槽・風洞試験を行うのは現実的では無いので、設計 パラメーターや状態量・初期条件等を入力として、 図 3 CFD 計算格子の様子 所望の情報が得られるようにしなければならない。 そのために適切な実験計画に基づき CFD や水槽・風 3.5. 水槽及び風洞試験(Wind Tunnel and Towing 洞試験のデータを利用して、入力に対する応答曲面 Tank Tests ) を求める 9。また3の物理的洞察を得るのにも CFD 既存の水槽実験データが一度に扱うパラメーター を利用して数学モデリングを行う。また、開発初期 の数は限られており、基礎設計の段階で真にパラメ においては、それぞれの技術項目は分離して考える トリックに設計を行おうとすると、実験範囲外の設 が、段階的に空気力学・水力学・動力学・構造力学 計も出てくると予想される。そのような設計に対す との連成を考慮し、より洗練された設計が可能にな る CFD の信頼性を検証するためには、やはり水槽や るようにする。 風洞での実証を要所要所で行わなければならない 6。 詳細設計においては最終的な確認のために行う 7。 3.8. 安全性の確保 水上飛行機を製造開発し、社会に広く普及させる ために、安全に運用する技術が求められる。本プロ ジェクトは、老若男女が気軽に安全に操縦できる水 の機体の動特性は正常なものと異なるため、設計基 上飛行機の開発を目指す。 準自体を考え直す必要があり、発展が期待される。 水上飛行機は、水と空気の両方の影響を受けるた 飛行制御技術は公表されていないものが多く、水上 め、特有の不安定現象を生じる場合がある。特に、 旅客機を生産し世界市場に進出するためにも、日本 ポーポイジングと言う現象が難題の一つになってい 独自の技術開発が望まれる分野である。 る。ポーポイジングとは、水上飛行機が離水時に海 これらの技術を実現するために、産学が連携して研 面でピッチ安定性を欠き、イルカの泳ぐような上下 究を行う。 運動をして発散する不安定現象である。舵の効きが 他にも、水上飛行機が身近な輸送手段になることを 十分でない速度で空中に跳ね上がった機体は、前に 推定し、航空管制の在り方を考慮しなければならな のめるか、翼端失速で横に倒れるか、極めて危険な い、といった課題があげられる。 状態となる。ポーポイジングの発生は、フロートま たは艇体の浸水面積、形状やトリム角に依存すると 3.9. エンジンについて いわれている。しかし、それらの値を概念設計に利 本プロジェクトでは、新しい水上飛行機用エンジ 用し、安全性を確認するために離水時の運動特性を ンの製造開発を行う。エンジンに求められる性能は、 シミュレーションするのは難しい。そこで、本プロ 重量が軽く、かつカタログ通りの推力が得られるこ ジェクトでは、CFD 計算結果を利用して水上飛行機 と、高負荷運転での耐久性があること、防錆対策が の安定微係数を決定して安定性推算を試みる。そし 施されていること、コストが小さいことである。製 て、水槽実験で有効性を確実に評価する。 造したエンジンについては、十分にメンテナンス体 また、本プロジェクトでは、操縦の容易な水上飛 制を整え、市場を開拓しなければならない。 行機の開発を目指す。航空機がパイロットに困難な 馬力あたりの重量が小さいエンジンの実現は、特 操縦を強いると、人命に関わる事故を引き起こす原 に、エンジン重量比が大きい ULP の性能、安全性に 因となる。安全性を確保するため、パイロットの操 著しく貢献すると予想される。そこで、軽量で高性 縦負荷が小さくなるよう設計する必要がある。その 能なエンジンの製造開発を目指す。 ためには、まず、パイロットの操縦負担と機体の動 水上飛行機の海上での離着水を考慮し、万全の防 特性を関連付け、概念設計に生かすことができる操 錆対策を施すことも、必要不可欠である。製造した 縦性評価基準の提案を試みる。水上飛行機の操縦に エンジンの国内外での需要を見込み、整備および部 おいて、最も操縦が難しいのは、離着水時である。 品交換を行うために日本および海外でのメンテナン このときのパイロットの操縦負担を軽減するよう機 ス体制を確立する。そして、日本のみならず世界中 体を設計するだけでなく、より効率的な操縦方針を で安全に水上飛行機が運用できるよう、信頼性の高 提案することも必要となるだろう。陸用航空機の緊 いエンジンを供給する。 急時について、安全な離着水を保証する操縦法の提 また、エンジンの製造開発コストを抑える努力を 案にも発展できる知見を得るであろうことも予想さ する。このプロジェクトには、京浜地区を中心に多 れる。また、飛行中、機体に事故・故障が生じた時、 数の中小企業が連携しており、低コストで高性能な 無事に帰還できるよう、最善の耐故障技術を取り入 エンジンを製造するための技術はすでに集結してい れる。例えば、舵の効きが悪くなった場合や機体の る。運航費についても低コスト化を実現する。低コ 一部が破損した場合でも、安全性を確保する飛行制 スト化は、水上飛行機が身近な輸送機関として普及 御系の構築を目指す。事故・故障時でも安全な飛行 できる有効な対策である。 を継続させ得る事故修復飛行制御技術が、欧米や日 本でも重点的研究課題となっている。事故・故障時 3.10. タイムライン 当プロジェクトの当面の大雑把なスケジュールを 個人の自家用飛行機に対する需要は米国において 以下に示す。図にあるのは、ウルトラライトプレー 操縦免許取得が60万人といわれる一方,わが国は ン(ULP)までの開発だが、2006 年以降順次小型機 6000人とその1%程度である。人口比率のとお 開発に着手する。 りにはならないとは言え現在の10倍程度の潜在的 プロジェクト 2005 年 2004 年 7月 12 月 9月 1月 3 、4月 6 月 9月 1 2月 2006年 1月 ・・・ フロート CFD・ソフト開発 な飛行機操縦人口があるという想定は必ずしも間違 いではないと思われる。この種の課題として利用人 基本設計 水槽実験 口を拡大する仕組みの整備が急務である。 製造設計 製造 4.1.1. ULP に対する飛行制限の緩和 基本計画 エンジン ULP 基本設計 現在、ULP は国土交通省省令によって、発進した 風洞実験 製造設計 製造・試験 飛行場から一定の距離以内を飛行したあともとの飛 基本計画 行場に戻らなければならないとされている。自動車 生産設計 に例えれば、サーキット内だけしか走れない車であ 製造 試運転 図 5 ULP 開発までのタイムテーブル り、移動手段とならない。ULP を魅力的にするため には先進諸国のように、移動手段としても使えるよ うに安全性などの枠組みを整備した上で規制緩和を することが期待される。安全策としては例えば、無 商業的課題 4. 線の設置やフライトレコーダの設置の義務付けなど わが国のウルトラライトプレーン(ULP)や小型 が考えられる。わが国の ULP 機は3000機とも言 航空機など自家用航空機の利用市場は先進国に比べ われており,現状ではこれらの機体は特定の飛行場 著しく小規模であり未発達といえる。例えば、登録 に帰属したままであり、他地点での利用には陸上運 された自家用機の数は 送を行わなければならないなどの制約から利用が伸 全世界 22,576機、 米 国 15,569機、 欧 州 2,289機 にたいし、 日 本 びていない。 航空特区などの設定により安全対策を考慮して順 次緩和地域を増やす等の施策が活性化に大きく貢献 すると考えられる。 152機 日本の場合ほとんどが公用機で、純粋商用機は約 25機 (出典:NBAA Business Aviation Fact Book 2003) 4.1.2. ULP に対する重量規制の緩和 ULP は前記省令によって単座は自重180Kg以 と少ない。また、レジャー用の ULP や小型飛行機の 下,複座は225kg以下と定められている。この 利用者を見ても自作航空機 ため,機体構造には著しい制限を設けざるを得ない。 機 537(人)ULP 130(人)小型航空 2200(人)と先進北米 に比べて二桁以下の規模であるとされている。 わが国の個人用自家用機市場は、このように未発 達の段階にあるといえる。したがってこの市場を活 先進国にはもっと緩やかな規制によって、機体設計 の自由度を大きくし、快適性能の付加などができる ようになっており、この規制緩和は需要の喚起に非 常に有効である。 性化するための方策が今後の課題である。先ず,利 用の活性化の課題と供給 4.1.3. エクスペリメンタル航空機の概念の導入 体制の課題がある。 航空スポーツの盛んな先進諸国では,わが国に無い エクスペリメンタル航空機の概念が明確に定義され 4.1. 利用活性化の課題 ており、その枠内で自ら製作した航空機が多く飛ん でいる。諸外国においては、飛行実績に基づいて安 イツ,イギリス,ロシア,フランスなど全世界に1 全性が確認されれば、ある程度自由に飛行できると 4社以上が存在する。 する概念があるが、わが国の現状はこれを認めてい ない。 エクスペリメンタル機が認定されている国におい ては、小型航空機は自作キットとしても販売されて 個人の創意工夫によって、先進的な航空機やオン おり、ネットによる通信販売も盛んである。 リーワンのユニークな航空機を作り,飛行できると 航空機製造技術は非常に関連分野が大きく,技術 いう概念は,自家用機や個人愛好家の市場を真に活 波及効果が著しい為航空機製造体制の確立は中小製 性化することができる方策として,今後の導入が期 造業の活性化や地域産業の活性化に直結する期待が 待されている。 大きい。 4.2.2. 4.1.4. 水上飛行機発着場の整備 関連サービスの開発 水上飛行機の操縦免許取得や安全な利用の普及の わが国は嘗て水上飛行機の商業旅客用の利用が盛 為,操縦訓練学校や普及活動を行なう拠点を国内各 んであり、多くの発着場が存在した。福岡飛行場や 地に展開しサポートするサービスの提供が必要であ 小笠原の父島飛行場などは代表的である。今後のわ る。水上飛行機の利用に係る各種情報の提供たとえ が国の水上飛行機の利用は,嘗てのそれではなく、 ば、オンラインでの発着場の波浪予報サービス、安 個人が海洋レジャーやスカイスポーツ、あるいは、 全ガイドサービスなどが考えられる。 商業航空路の無い地点を結ぶ空のタクシーといった、 より個人向けの利用を目指すべきであり、わが国が 法的課題 5. ユニークな海洋国家として海と共存する道を大きく 既に前節でも述べられているように、法的課題を 開く手段として考えるべきである。したがって、こ 無視しては日本の航空機産業の活性化をすると言う れからの水上飛行機発着場は、ヨットハーバー、レ 目的は果たせない。現存の法制度が適切なものであ ジャー漁港、マリンレジャーセンター、マリンリゾ るか、或いは形骸化し、産業の発展を妨げているか ート、離島観光などと密に関連して設定されるべき 検討し、その改善に積極的に係わっていく。水上飛 であると考える。 行機の開発・製造・運用等について、我が国におけ る関係法令等の規制などについて調査検討するもの 4.2. 供給体制の課題 を以下にまとめる。 わが国の URL や小型水上飛行機の供給体制は、こ れまで市場が未発達であった為に、皆無に等しく、 これを整備することが今後の課題である。 5.1. 検討対象 ①当面は「ウルトラライトプレーン(ULP)」の製 造・運用に関する規制など 4.2.1. ベンチャー、中小企業による航空機製造体制 ・ 製造上の規制 の確立 ・ 運用上の規制:飛行区域、離着水海域、離 ULP や自家用小型機の製造は,先進国に見られる ようにベンチャーや中小企業の参加が可能な航空機 産業の一分野であり、あらゆる技術が国内で調達可 能なわが国において、今後、市場さえ活性化されれ ば当然、育つ可能性が大きい産業分野の一つである。 着陸場所、接舷岸壁 ・ その他の留意事項:飛行機・操縦士等乗組 員の安全対策、保険など ②近い将来は「小型水上飛行機」 ・ 水上飛行機の位置付け:飛行機であるが、 小型水上飛行機の市場は世界で20万機といわれて 船ではないか?離着水時の前後の水上航行 おり(Bombardier 社) 、米国,カナダ,イタリア,ド 距離・時間が長い ・ 製造上の規制 ・ 運用上の規制 6. おわりに 戦後、水上飛行機は航空業界の表舞台からしだい に姿を消した。しかし、今日の計算技術、制御技術、 材料科学をもってすれば、40年前のそれより遥か に優れた水上飛行機が実現できておかしくない。本 プロジェクトは、この「知の空洞」を埋めることに より、新たな次元で効率性を追求した水上及び水陸 両方で離着陸が可能な航空機の開発とそのための設 計用ソフトウェアツールの開発を実現しようとする ものである。 本プロジェクトはまだ動き出したばかりだが、最 終的にはかなり大掛かりになる事が想定される。中 小企業と航空機産業の活性化、人材活用、法政整備、 需要開拓の何れが欠けても成り立たない。我々は、 京浜工業地帯に留まらず日本を元気にし、世界に喜 ばれるような成果にしたいと思っている。 7. 1. 参考文献 W. C. Hugli, J. and W.C. Axt, Hydrodynamic Investigation of a Series of Hull Models Suitable for Small Flying Boats and Amphibians, TN2503. 1951, NACA: Washington. 2. Hamilton, J. and J.E. Allen, Seaplane Research the MAEE contribution. The Aeronautical Journal, 2003(March). 3. Raymer, D.P., Aircraft Design: A Conceptual Approach. Education Series. 1989, Washington D.C.: AIAA. 4. 日本航空宇宙学会:航空宇宙工学便覧, pp. 691-694 5. 菊原静雄:「新しい飛行艇の傾向」, 日本航 空宇宙学会誌,第 5 巻,第 37 号,pp. 46 – 52 6. 菊原静雄: 「飛行艇艇体の水力学的設計」 ,日 本航空宇宙学会誌,第 20 巻,第 223 号,pp. 426 - 433 7. NBAA Business Aviation Fact Book 2003 8. 航空法施行規則(昭和二十七年七月三十一日運 輸省令第五十六号)http://koukuu.hourei.info/
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