平成ー3年度厚生科学研究費補助金 - 日本子ども家庭総合研究所

平成13年度厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)
総括研究報告書
全出生児を対象とした新生児聴覚スクリーニグの有効な方法及びフォローアップ、家族支援に関する研究
主任研究者 三科 潤 東京女子医科大学母子総合医療センター助教授
研究要旨:聴覚障害児に早期療育を行えば、言語力や知能発達に著しい効果があることが示されている。
平成10年11月から13年3月までに、全国の17施設において、19,071例に対し、自動聴性脳幹反応
(Automated ABR)による新生児期聴覚検査を実施した。本年度は聴覚スクリーニング実施例の1歳6
か月時の予後調査、及び、スクリーニングによる要検査例の追跡調査を行った。また、聴覚スクリーニン
グ方法について、耳音響放射(OAE)スクリーナーの検討・OAEと自動ABRによる二段階スクリーニング・
地域における二段階スクリーニング実践状況についても検討した。さらに、スクリーニング実施時の保護
者への支援についての検討、早期療育の方法およびその効果についての検討、平成13年度から開始された
試行的事業の実施状況の調査を行った。また、新生児聴覚検査事業実施の手引きを作成した。
搬
搬
山口病院院長
伊勢原協同病院小児科医長
A研究目的
聴覚障害を早期に発見し、療育を早期に開始すれば、
健聴児に近い言語能力や知能発達が認められることが示さ
東邦大学医学部新生児科助手
れている。聴覚障害児の約半数は他には何等の疾病を有し
神戸大学医学部小児科助教授
ない児であり、スクリーニングを行わない限り、これらの
東京女子医大母子総合医療センター 講師
児の聴覚障害を早期発見することは不可能である。
姫路赤十字病院小児科部長
このため、我々は、平成10年度から3年間の厚生科学
埼玉県立小児医療センター耳鼻咽喉科医長
研究「「新生児期の効果的な聴覚スクリーニング方法と療
大阪府立母子保健総合医療センター
育体制に関する研究」において、わが国ではこれまで実施
新生児科医員
されていなかった全出生児に対する新生児期の聴覚スクリ
田中大介
昭和大学医学部小児科助手
ーニングを19,071例の新生児に対して出生後の入院中に、
田邊ひろみ
兵庫県立こばと聾学校校長
自動聴性脳幹反応(自動ABR:Natus社A鳳)II)を用い
中澤操
秋田県立リハビリテーションセンター
て実施し、中等度以上の両側徳覚障害28例(0.15%)お
針谷しげ子
帝京大学耳鼻啄喉科言語室
よび片側聴覚障害31例(0.16%)を検出し、このスクリ
福島邦博
岡山大学医学部耳鼻咽喉i科助手
ーニング方法が有効であることを示した。しかし、さらに
福田章一郎
岡山かなりや学園言語聴覚士
スクリーニングを広範囲に普及させるためには、耳音響放
本間洋子
自治医科大学小児科 助教授
射法(QAE〉も加えたスクリーニング方法を検討する必
御牧信義
倉敷成人病センター 小児科部長
要がある。また、スクリーニング後のフォローアップ、早
森田訓子
帝京大学耳鼻咽喉科非常勤講師
期療育・支援の方法、療育の評価に関しても検討力泌要で
柳田珠江
埼玉県立小児医療センター言語聴覚士
ある。従って、本年度は以下のように、研究を行った。
一254一
1。全出生児を対象とした聴覚スクリーニング方法の検討
再検査率が高い。新生児聴覚スクリーニングに用いる場合
(1)自動聴性脳幹反応(自動ABR)を用いた新生児聴
覚スクリーニングの有効性の検討
には、QAEで一次検査を行い、二次検査として自動ABR
を実施するなど、要再検率を低くするスクリーニング方法
(2)耳音響放射法(QAE)を用いた新生児聴覚スクリー
ニングの検討
を検討する必要がある。
東京女子医科大学母子総合医療センター、東邦大学新生児
(3)QAEおよび自動ABRを用いた二段階方式による聴
覚スクリーニングの検討
科、倉敷成人病センター小児科、山口病院において、
TE(⊇AE(㏄horscreerD又は、DPQAE(AuDX、GSI70)
④地域における二段階方式聴覚スクリーニングの実践
を用いて第一段階目の聴覚検査を行い、その要検査例に対
2.新生児聴覚スクリーニングにおける保護者への支援と
して自動ABRによる二段階目の聴覚検査を行う、二段階
対応に関する検討
方式による聴覚スクリーニングの検討を行った。
3.新生児聴覚スクリーニング実施例の1歳6か月の追跡
纐
(4)地域における二段階方式聴覚スクリーニングの検討
千葉県船橋・鎌ヶ谷地区において開始した、産科多施設
4.聴覚障害児の早期療育に関する検討
連携による二段階方式新生児聴覚スクリーニングの検討を
(1)ホームトレーニングによる難聴児早期療育支援とそ
囎
行った。
日本産婦人科医会会員を中心とした関連各科の参加によ
②難聴新生児・乳児への早期療育マニュアル作成
る協議会を結成し、一次スクリーニング実施機関ではQAE
5.新生児聴覚検査試行的事業の進行状況の調査
を用い、その要検査例を指定された二次検査機関へ紹介し、
6.新児聴覚検査事業実施の手引き作成
二次検査機関では自動ABRで再検査を実施し、ここでの
要検査例を協議会参加の精密診断機関へ紹介するシステム
B.研究方法
を作り、地域での新生児聴覚スクリーニングを開始した。
1.新生児期の効果的な聴覚スクリーニング方法の検討
(1)自動ABRを用いた新生児聴覚スクリーニングの有
効性の検討
2。新生児聴覚スクリーニングにおける保護者への支援と
対応に関する検討
前年度までの研究により、全国の17施設において、
院内出生のre侮r例および出生病院でのスクリーニン
19,071例に対し出生施設入院中或いはMCU退院前に自
グでre免rのため、紹介を受けた児の保護者への対応を検
動ABRを用いて聴覚検査を実施した瓜要検査例の追跡
討することにより、スクリーニング実施時の保護者への支
調査を行うことにより、新生児聴覚スクリーニングの有効
援について検討した。また、新生児聴覚スクリーニング実
性を検討した。
施例の保護者への郵送アンケート調査により、新生児聴覚
(2)耳音響放射法((}AE)を用いた新生児聴覚スクリー
スクリーニングの保護者側から見た間題点を検討した。
ニングの検討
聴覚障害例に対してDPQAE(GSI70)を実施し、ABR
と比較することにより、聴覚スクリーニングにおける
DPQAEの有用性の検討を行った。
3.新生児聴覚スクリーニング実施例の1歳6か月の追跡
縫
新生児聴覚スクリーニングの感度を求める目的で、偽
(3)QAEおよび自動ABRを用いた二段階方式による新
陰性例を発見するために、1歳6か月に至燵した被険児を
生児聴覚スクリーニングの検討
対象に、聴覚、言語、認知の発達に関する調査を郵送法に
QAEは、簡便では短時間で検査が出来、機器および
より行った。
消耗品の価格も自動ABRに比して、低価格であるが、要
一255一
4.聴覚障害児の早期療育に関する研究
やまびこルーム長
(1)ホームトレーニングによる難聴児早期療育支援とそ
囎
篠崎育子 東京都衛生局健康推進部母子保健課母子保
健担当係長
2歳前にホームトレーニングに参加した例の言語獲得の
時期を検討し、早期療育支援について検討した。
協力:
福田章一郎 岡山かなりや学園
②難聴新生児・乳児への早期療育マニュアル作成
立入哉 新生児聴覚スクリーニングで検出された難聴児への初期
田邊ひろみ 兵庫県立こばと聾学校
愛媛大学教育学部
介入とそれにつづく早期療育の保証は重要な問題である。
特に、生後すぐ難聴を宣告されるため、保護者へのカンセ
C.結果および考察
リングならびに乳児の療育は従来の方法では対応できない
1.新生児期の効果的な聴覚スクリーニング方法の検討
面が多く、療育内容とその実施施設の整備というソフト、
(1〉自動ABRを用いた新生児聴覚スクリーニングの検
ハード両面での早急な整備が求められている。今回、新生
討:
時期での難聴発見から療育へのスムーズな移行を促し、難
平成13年3月までに、19,071名のスクリーニングを
聴児の療育効果をあげる目的で難聴新生児・乳児への早期
行った。スクリーニング陽性(入院中2回両側re免r)例
療育マニュアルを作成した。
は73例、0.38%であり、片側re免r例は115例、0.6%で
あった。ABR、BQAやCORなどの聴覚検査により、中
5.新生児聴覚検査試行的事業の進行状況の調査
等度以上の両偵聴覚障害28例(0.15%)および片側徳覚
新生児聴覚検査試行的事業は平成13年度から岡山、秋
障害31例(0.16%)が診断された。両但聴覚障害の発生
田、神奈川、栃木の4県で開始されたが、各県の協議会
はハイリスク児で2.2%、ローリスク児では0.05%であり、
メンバーによる進行状況調査を行った。
米国における頻度と同様であった。両側隠覚障害児のうち
合併症のない例は、早期より療育が開始され、鱗
6.新生児聴覚検査実施の手引き作成
は生後4∼6か月頃に実施できた。片側聴覚障害例に対し
新生児聴覚検査事業の実施のために、実施基準検討委員
ては、症例により補聴器装用を実施し、耳鼻科的なフォロ
三科潤 東京女子医科大学母子総合医療センター助教授
な感音性難聴例は検出されておらず(後述)、両偵聴覚障
設
施
脳
る。1歳6か月に達した症例の追跡調査においては、新た
ヨ と
新生児聴覚検査事業実施基準検討委員会委員:
裕麹議尚㌃雅鋤
ーも含めて学童期以降も含む長期予後も追跡する必要があ
細酔幟罫酬澤蹴畑鋸杣塘
会を結成し、新生児聴覚検査実施の手引きを作成した。
害に対するスクリーニング検査の感度は100%、特異度は
99.8%、陽性予浸渡は39.7%であり、自動ABRを用いた
新生児聴覚スクリーニンク臓有効な方法と考えられる。
(2)耳音響放射法(QAE)を用いた新生児聴覚スクリー
ニングの検討:
GSI社のD。P.OAEのスクリーニング装置である
GSI70を用いてその有効性を調べた。難聴を疑われて紹
介された生後1ヶ月より7歳までの29例の乳幼児小児を
GSI70によりD.P.OAEを調べ、ABRと比較した。よ
り高いr脇の率がOAEよりABRで得られた[OAE
では13%であるのに対しABRでは25%(P〈0。01)]。ABR
一256一
検査では75%で、OAEでは87%がre蝕の比率である
科)および耳鼻咽喉科との密接な連携による親と子への支
ことになる。年齢が高くなると要再検率が高くなる傾向は
援が重要であった。
なかった。GSI70スクリーナはaudiめry neurq励yを
また、新生児聴覚スクリーニング実施例の保護者への郵送
見逃すことがありうる力叉乳幼児の聴覚スクリーニングに
アンケート調査の結果、新生児期にIe色rと告げられるこ
は適した装置であることを明らかとなった。
とは、精査の結果が正常でも精神的動揺が大きいことが推
(3)C吟Eおよび自動ABRを用いた二段階方式による新
生児聴覚スクリーニングの検討:
察された。フォロー体制やスクリーニングに関する様々な
情報提供や検査機関の充実が望まれており、新生児聴覚ス
第一段階でQAE(誘発耳音響放射TEQAE又は歪成
分耳音響放射DPQAE)を行い、要再検例に対して自動
クリーニングを実施する場合には関係諸団体間の協議1こよ
る密な連携と合意を計っていくことが重要と考えられた。
ABRを実施する、二段階方式のスクリーニングを試み、
費用を少なく要再検率を下げる方法を検討した。この結
果、二段階検査後のスクリーニングの要再検率は0.54%
3.新生児聴覚スクリーニングの1歳6か月の追跡調査
新生児聴覚スクリーニングを実施した症例のうち、平成
と低く、自動ABRによる検査費用1件あたり5,492円
14年1月までに1歳6か月に達した8,162例に対し、聴
に対し、二段階方式では2,522円と算出され、ローリス
覚、言語、認知発達に関する調査票を郵送し、4,203例
ク児に対しては、有効なスクリーニング方法であると考
(52.2%)から回答を得た。この中で、新生児聴覚スクリ
えられた。
ーニングが陰性の症例からの聴覚障害佛ま認めなかった。
④地域における二段階方式聴覚スクリーニングの検討
千葉県船橋・鎌ヶ谷地区において、多施設統一プロトコー
ルによる2段階スクリーニンク方式の有効性を検討した。パイロ
4.聴覚障害児の早期療育に関する研究
(1)ホームトレーニングによる難聴児早期療育支援とそ
ニングを施行し、精査施設紹介例は、6例(0.30%)。紹
囎
介6例中、精査終了例は、5例。5例中4例に聴力障害
得の時期を検討し、早期療育と支援について検討したが、
ット成績では、1988例の新生児に対して2段階スクリー
を認めた。出生後精査までの平均日数は、68.4日であっ
た。2段階スクリーニンク方式は、限られた医療資源のなか、効
率的なスクリーニング方式と推測された。
2歳前にホームトレーニングに参加した29例の言語獲
1歳6、7カ月までにHTに参加した子どもの多くは2歳
前後で言語獲得が始まった。
②難聴新生児・乳児への早期療育マニュアル作成
新生時期での難聴発見から療育へのスムーズな移行を促し、
2.新生児聴覚スクリーニングにおける保護者への支援と
難聴児の療育効果をあげる目的で難聴新生児・乳児への早
対応に関する検討
期療育マニュアルを作成した。
院内出生のre免r例および出生病院でのスクリーニン
グでre免rのために紹介された例も、出生病院で検査結果
5.新生児聴覚検査試行的事業の進行状況の調査
の説明と他の医療機関への紹介の理由について十分な知識
平成13年度に開始された新生児聴覚検査試行的事業の岡
が与えられたことと、定期的な新生児科外来通院時に児へ
山、秋田、神奈川、栃木県における進行状況を報告した。
の接し方、話しかけ方などの指導を受けたことにより、児
の受け入れは良好であった。検査で異常とされた場合の親
の心理的な不安への対応では、出生施設と小児科噺生児
一257一
6.新生児聴覚検査実施の手引き作成
別添