<システム編>

<システム編>
第1回
診療所におけるレセコンと電子カルテ
医療情報の電子化が叫ばれるなか、システムに絡んだ話題に対して苦手意識をお
持ちの方も多いかと思います。これから4回にわたり、医療機関におけるシステム
の基礎的な部分に的を絞り、キーワードを理解していただけるよう解説していき
ます。初回は、診療所におけるレセコンと電子カルテについてです。
レセプト
(診療報酬明細書)
を作成するためのシス
テムです。基本的な機能として患者さんの登録(保険
証の情報など)
、レセプトの作成とチェック機能、自治
従来はレセコンの情報を毎月印刷
し、決められた順に並べて審査支払
機関に提出していました(図の①)。
レセプト電算処理では(MO等の)メ
ディアで提出されます。これにより業
務作業量の軽減、書類の保管場所
の削減を図ることができるようにな
りました(図の②)
。平成19年4月か
らはオンライン請求システムが稼働
予定です。オンライン請求は②で利
用していたメディアをオンライン請求
用端末に読み込ませる形で実現され
ています(図の③)。
体の公費請求(小児医療費の助成など)に対応する
機能がありますが、それ以外にも経営分析ツールなど
が装備されている機種もあります。
診療所
審査支払機関
①
書類で提出
4
レセコン
②
メディアで提出
指定
フォーマット
③
オンライン
請求システム
オンライン
請求用端末
オンライン請求
システムを利用
“オルカ”は ORCA(Online Receipt Computer
Advantage)プロジェクトの略で、日本医師会によ
る医療現場 IT 化のためのプロジェクトのことです。
ORCA は「日医標準レセプト」というレセコンを開発
し、無償で提供しています(ユーザーが自分でシステ
ム構築できない場合は地元のIT企業による有償サポ
ートがあります)
。ORCAでは、日医標準レセプト以
外にも、主治医意見書作成ソフトウエアや電子決済
のシステムなども開発しています。
ORCA http://www.orca.med.or.jp/
電子カルテシステムは、単に紙カ
ルテをワープロ化したものではありま
せん。電子カルテシステムにはさま
ざまな便利な機能がついています。
データ入力を省力化させる機能、間
違いをチェックする機能、患者さんへ
の説明に使える機能、事務作業を軽
減させる機能などです。
ペン入力
セット入力
ユーザ辞書
do 機能
シェーマ
処方チェック
家族チェック
資料参照
Online 検査取込
グラフ
文書作成
音声入力
Repeat
do は“ditto”
(ラテン語で「前回と一
緒」という意味)
を省略化したものと
一般的には言われています。例えば、
処方が前回と一緒であれば処方を意
味する Rp. と組み合わせ、
“Rp. do”
とカルテに記述して、過去と同一内容
の転記の手間を省いていました。
平成11年4月22日に厚生労働省から“診療録等の
電子媒体による保存について”
という通知が出ました。
この通知は、保存義務のある医療ドキュメントを電子
的に保存するための条件が書かれたものです。その
条件とは、真正性、見読性、保存性の3つで、
「電子
カルテの3条件(あるいは3基準)
」と呼ばれています。
実際には、別の通知で個々の条件に対してガイドラ
インが細かく提示されており、それらについてシステム
で対応するのか、運用規定で対応するのか各施設で
定める必要があります。
真正性
故意過失による書き換え、消去、混同を
防止すること。
作成の責任の所在を明確にすること。
見読性
肉眼で読めること。
直ちに書面にできること。
保存性
財)医療情報システム開発センター
“診療情報の電子化関連情報”のサイト
http://www.medis.or.jp/2_kaihatu/denshi/index.html
電子カルテとレセコンは切っても切れない関係に
あります。電子カルテは、レセコンに登録された患者
情報(診察券番号や名前、生年月日など)
を受け取り
カルテに利用します。また、カルテで入力された処置
や検査、投薬内容はレセプト作成に自動的に利用さ
れ、入力の手間を省いています。
法令に定める期間、保存すること。
患者情報
診療の内容
レセコン
電子カルテ
次回は検査のファイリングについて解説します。
<システム編>
第2回
検査データのファイリング
今回は検査データのファイリングについて解説しま
す。検査データをファイリングする目的は、時間的な
変化の把握、患者さんへの経過説明、病診連携など
への利用のためです。データの種類には画像データ、
波形データ、文字データがあり、それぞれに特徴があ
ります(下図)
。今回は、画像データファイリングシス
テム(DICOM / non-DICOM)
、臨床検査データファ
イリングシステム(生理検査 / 検体検査)について、そ
の接続方法を中心にもう少し詳しくご説明しましょう。
[画像データ]
(DICOM 形式 / 汎用画像形式)
●放射線診断装置●内視鏡・超音波診断装置
●眼底カメラなど
[ 波形データ ](波形+数値の独自形式)
●心電図●スパイロメトリ●脳波/誘発電位など
[ 文字データ ](数値、
“+”等の記号、コメント)
●尿検査●便検査●血液検査など
検査データの特徴
DICOM(“ダイコム”
)は医用画像を扱うための共
通規格です。画像データのデータ構造だけでなく、
機器の通信方法についても規定しています(最終回
に解説予定)
。DICOM 形式のデータのやりとりはオ
ンラインかオフラインの 2 種類です。
オンライン(LAN ケーブル)
オフライン(メディア渡し)
DICOM 機器
DICOM サーバ
一方、non-DICOM と呼ばれる汎用画像フォーマッ
ト
(BMP、JPG、PNG、PDF 等)でのデータファイリ
ングを行うシステムも存在します。この場合、機器の
接続は次のようになります。
ビデオ
ケーブル
LAN
ケーブル
ビデオ
信号
画像診断装置
ビデオ
キャプチャ装置
(汎用画像形式に変換)
ファイリングサーバ
オフライン
(メディア渡し)
non-DICOM のファイリングシステムでは、ビデオ
信号をキャプチャし、その画像をファイリングする手法
が一般的ですが、検査機器が共有フォルダに画像を
出力し、それを取り込む手法もあります。
画像診断装置
共有
フォルダ
画像ファイル
ファイリングサーバ
自動または
手動登録
画像データと違い、生理検査データは波形情報と
数値情報の要素を含み、また、画像のようにデータ
フォーマットに汎用性がありません。波形データの表
示には臨床的な意義を理解した上で描画処理をする
必要があり、専用のソフトウエアを必要とするものが
多いです。
心電図
体性感覚誘発電位
呼吸
(MV カーブ)
生理検査データは描画が難しい
また、この分野の機器は通信仕様も独自に作られ
ているケースが多く、LAN ではなく RS-232C を利用
することもあります。一方、検体検査データは文字デ
ータが多く、
接続方法は RS-232C が主流です。なお、
最近では委託検体検査会社のデータをフロッピーディ
スクやオンライン通信でファイリングするシステムもあ
ります。
心電計
[テキスト形式]
RS-232C
ケーブル
LAN
ケーブル
[独自形式]
血球
計数器
委託検体
検査会社
オフライン
または
オンライン
[テキスト形式]
次回は診療所システムの全体像と
連携について解説します。
<システム編>
第3回
システムと機器の連携と全体像
前回は検査機器とファイリングシステムについて
接続方法を中心に解説しました。今回は、ファイリン
グシステムのメリットを中心にお話します。
まずは検査の流れに添ってシステム化のメリットを
ご説明しましょう。システム化されていない場合、
(心
電計などの)検査機器は患者属性情報(ID、
名前、
性別、
生年月日など)を入力した上で検査を実施し、検査結
果はフィルムや紙の状態で医師に伝えられました。こ
の時、心電図やエコー画像などの紙・フィルムは保管
用台紙に合わせ、切り貼りする作業が発生していまし
た。また、数年前のデータを参照したいときは、カル
テ庫から手作業で検査結果の用紙を探し出す場合も
ありました(図1の点線部分を含む流れ)。
グラフや表にしたり、過去の画像データと並べて比較
したり、波形(心電図など)の時間的変化を表示させた
りすることができます(下図参照) 。お気づきの通り、
これらは患者さんへの説明に使うことも多く、電子カル
テを導入していない施設でも、検査データのファイリ
ングだけを導入する施設が増加しています。
数値データのグラフ化
血液や尿、血圧等の検査
結果をグラフ化することで
投薬や食餌療法の効果を
わかりやすく表示します。
過去の画像との比較
初診来院時と今回の検査
の 比 較 や、手 術 前、手 術
後の画像を比較すること
で説得力のある経過説明
をすることができ、医師に
対する患者さんの信頼感
が向上します。
[ 検査の流れ ]
患者属性情報の入力
患者確認
患者属性の自動取込
検査の実施
波形データの比較
波形データを時間の経過
順に表示することで(心筋
梗塞等の)病態の変化を
示すことができます。
検査結果の切り貼り
データの搬送
切り貼り作業は不要
結果の参照
過去データの検索
過去との比較
データを探す人手は
不要
電子化による省力化
図1 電子化によるメリット
一方、システム化された場合、検査機器のバーコー
ドリーダより患者IDを読み込むだけで、患者属性情報
はサーバから自動的に取り込まれます。操作者は、検
査機器上に自動表示された名前や性別、生年月日か
ら同一患者であるか確認します。その後、検査を実施
します。検査終了後、検査結果は自動的にファイリン
グシステムに登録され、検査データの切り貼り作業や
運搬作業は必要ありません。検査後すぐに結果を説明
できるので患者さんは待たされることはありません。
電子化された検査データは時間の流れによる変化を
掴みやすくしてくれます。例えば数値データを自動的に
検査ファイリングシステムは、下図のようにレセコン
から「患者頭書き情報」を取得し、電子カルテに検査
データを提供する仕組みを持つものもあります。レセコ
ンで入力された患者属性情報はシステム間の連携を通
じて検査機器のディスプレイ上に表示することが可能
になります。各システムが連携することで1つの診療所
システムとして機能します。
検査
ファイリング
システム
検査結果の配信
電子カルテ
患者頭書き情報
レセコン
次回はシステム商談で知っておくべき
キーワードについて解説します。
<システム編>
第4回
(最終回)
知っておきたいキーワード
最終回の今回は、医療情報システムにおいてよく使われるキーワードをご紹介します。図と個々の
解説を照らし合わせながらご覧ください。紙面の関係上、個々の紹介は短くなってしまいますが、
より詳しく知りたい場合はインターネットで検索してみてはいかがでしょうか?
HIS【ヒス】
英:Hospital Information System
日:病院情報システム
病院における統合的な情報システムで、医事会計、検査
予約、薬の処方、食事の管理などさまざまな業務をこな
します。最近は電子カルテも含めた病院システムの総称で
使われるケースがほとんどです。
RIS【リス】
英:Radiology Information System
日:放射線情報システム
患者基 本情報(IDや名前、誕生日等)、オーダ情報(検
査部位、撮影方向、条件や使用材料等)、予約情報、実
施情報(医事会計、照射録)などを扱い、業務を効率化、
患者さんの待ち時間短縮を目的としたシステムです。単独
でRISとして構築されるケースとHISに含まれるケースがあ
ります。
PACS【パックス】
英:Picture Archive and Communication System
日:-
画像保存と読影・参照を行うシステムです。サーバに大量の
画像データを保管し、外来や病棟からの要求に対して該当
する画像ファイルを要求元に送信し、
画面上に表示させます。
LIS【リス】
英:Laboratory Information System
日:臨床検査情報システム
RISが放射線系であれば、LISは臨床検査室のシステムで、
オーダ情報の受取りや受付処理、試験管に貼付するバー
コードの印刷や、検査結果の報告、実施情報の送信など
を行います。また、検体検査機器における精度管理の仕
組みをもっている点が特徴です。臨床検査は尿や血液な
どの検体検査と心電図や脳波などの生理検査に分けられ
ます。生理検査データについては弊社をはじめとするモダ
リティメーカーにて構築するケースがほとんどです。
DICOM 【ダイコム】
http://medical.nema.org/
英:Digital Imaging and Communications in Medicine
日:-
医用画像のフォーマットや通信のプロトコル(ルール)に
ついて規定しています。 DICOMのデータフォーマットは
新患来院
HL7形式で
オーダ発行
LIS
患者さんや検査に関する情報を格納したヘッダ部分に画
像データを足し合わせた構造になっています。したがって、
画像を画面上に表示する時は、ヘッダ部分と画像部分に
分割し、画像部分を表示しています。一方、通信につい
てはStorage Service ClassのC-STORE Commandが最
もポピュラーで、C-Storeという単語を聞いた時は通信で
画像の受け渡しをするのだと解釈してください。医用画像
において最もポピュラーな規格ですので、DICOMの名前
と概要だけは理解しておきましょう。
MWM【エムダブルエム】
英: Modality Worklist Management
日: -
DICOM規格にて規定されているもので、検査機器側が患
者属性等の検査予約情報を取得することを目的に定義され
たものです。これにより、検査機器側で患者IDや名前、生
年月日等を手入力する必要がなくなります。
HL7【エイチエルセブン】
http://www.hl7.jp/
英: Health Level Seven
日: -
患者さんの入床退床をはじめとする患者情報や検査デー
タ、予約、オーダ等の情報をシステム間で受け渡す時に
使うプロトコルについて規定しています。いくつかのバー
ジョンがあり、最新版はVer.3ですが、よく使われるのは
Ver. 2.xです。
MFER 【エムファー】
http://ecg.heart.or.jp/Jp/Index.htm
英: Medical waveform Format Encoding Rules
日: 医用波形記述規約
心電図や脈波、脳波などの波形をシステム間で受け渡す
時に利用することを目的として規格化されています。規格
は日本の産学官で構成された非営利団体で作られ、ISO
規格へ向けての作業がすすめられています。
JLAC10 【ジェイラックテン】
http://www.jscp.org/JLAC10/index.htm
英:-
日:日本臨床病理学会臨床検査項目分類コード第10回改訂
臨床検査データのコードマスタ。17桁のコードで項目名
や材料(尿、血液、便等)
、分析方法等を表現します。
HIS
RIS
MWMで検査予約
情報送信
DICOM通信で
DICOMファイルの送信
X線撮影装置
検査予約情報送信
心電計
検体ラベル印刷
測定
DICOMビューワ
で表示
MFERビューワ
で表示
グラフ
表示
DICOM
ファイル
PACS
MFERファイル
HL7形式でデータ送信
(検査コードはJLAC10を利用)
検体検査機器
※連携イメージですので実際とは異なります。